説明

排水の処理方法

【課題】 畜産農場から流出する畜舎・機械器具洗浄水、放牧場及びパドック排水に含まれる病原性大腸菌やサルモネラやクリプトスポリジウムなどの人畜共通感染症病原菌を削減する方法を提供する。
【解決手段】 畜産農場から流出する畜舎・機械器具洗浄水、放牧場及びパドック排水を一般的な沈殿分離槽やスクリーンに通してきょう雑物を除去したのち、その排水を原水ポンプで炭酸カルシウム混合槽に送り、炭酸カルシウム混合槽おいて2.5〜5.0質量%の粒子状炭酸カルシウムと4〜8分間混合して排水中の微生物を吸着させ、吸着した微生物と炭酸カルシウム双方とも10〜20分沈殿分離の後、上澄みを放流する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産農場から流出する畜舎・機械器具の洗浄水、放牧場及びパドック排水に含まれる病原性大腸菌やサルモネラやクリプトスポリジウムなどの人畜共通感染症病原菌を削減するための排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産農場の畜舎舎内で飼育されている家畜のふん尿は、貯留して農地に散布されるか、または活性汚泥法などの方法で処理されるが、畜舎・機械器具の洗浄水、放牧場及びパドック排水は、処理されずに排水路に流されている。しかしこれらの排水にも家畜のふん尿は含まれており、病原性大腸菌やサルモネラ、クリプトスポリジウム等の人畜共通感染症病原菌が含まれる可能性があるため対策が求められている(例えば非特許文献1)。この排水は発生が不定期で、しかも一時的に多量に発生する特徴を有しているため、水道原水の浄水処理や汚水処理分野で提案されているような砂ろ過による方法(例えば特許文献1参照)、膜によるろ過(例えば特許文献2参照)、薬剤で消毒使用する方法(例えば特許文献3参照)、排水を加熱する方法(例えば特許文献4参照)などいずれの方法も適用できない。
【非特許文献1】水環境学会誌第26巻1号2003年、P2〜7
【特許文献1】特開2001−269669
【特許文献2】特開2003−334551
【特許文献3】特開2003−147844
【特許文献4】特開2001−340844
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、畜産農場から流出する畜舎・機械器具洗浄水、放牧場及びパドック排水に含まれる病原性大腸菌やサルモネラやクリプトスポリジウムなどの人畜共通感染症病原菌を削減するための排水の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水に懸濁した濃度2.5%〜5.0%の粒子状炭酸カルシウムが一般細菌、大腸菌、サルモネラ及びクリプトスポリジウムを4分の接触時間のうちに、98%以上吸着することを発見し、本発明を完成した。
【0005】
さらに、本発明者等は、水に懸濁した濃度5%以下の粒子状炭酸カルシウムが魚類などの生存に悪影響を及ぼさないことを確認し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、感染症病原菌を含む排水と炭酸カルシウムとを接触させ、炭酸カルシウムに感染症病原菌を吸着させた後、炭酸カルシウムを分離することにより排水中の感染症病原菌を削減することを特徴とする排水の処理方法を要旨とするものであり、好ましくは、炭酸カルシウムが、粒状の軽質炭酸カルシウムである前記した排水の処理方法であり、また好ましくは、粒状の軽質炭酸カルシウムの平均粒度が0.7〜2.0μmである前記した排水の処理方法であり、また好ましくは、感染症病原菌を含む排水と炭酸カルシウムとを接触させる時間が、4〜8分間である前記した排水の処理方法であり、さらに好ましくは、感染症病原菌を含む排水に対して、炭酸カルシウムを2.5〜5.0質量%の割合で接触させる前記した排水の処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、畜産農場から流出する畜舎・機械器具洗浄水、放牧場及びパドック排水に含まれる病原性大腸菌やサルモネラやクリプトスポリジウムなどの人畜共通感染症病原菌を簡便な方法で削減することを可能とする。さらに本発明によれば、処理に要する時間が短時間で、放流水も下流の魚類等に安全な処理方法を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の排水の処理方法が適用できる排水は、感染症病原菌を含む排水であり、そのような排水としては、畜産農場から流出する畜舎・機械器具洗浄水、放牧場及びパドック排水などが挙げられる。このような排水に含まれる感染症病原菌としては、病原性大腸菌やサルモネラやクリプトスポリジウムなどが挙げられ、これらは人畜共通の感染症病原菌として知られている。
【0009】
このような排水を本発明の処理方法に供する際には、あらかじめ、一般的な沈殿分離槽やスクリーンに通してきょう雑物を除去しておくことが望ましい。
【0010】
本発明において用いられる炭酸カルシウムとしては、石灰石を焼成してつくられる軽質炭酸カルシウムが好ましい。
【0011】
また、本発明において用いられる炭酸カルシウムの大きさとしては、平径粒度として、0.7〜2.0μmが好ましく、1.0〜2.0がさらに好ましく、1.3〜1.7が最も好ましい。
【0012】
本発明の排水の処理は、上記した感染症病原菌を含む排水と、上記した炭酸カルシウムとを接触させておこなう。接触時間としては、1〜10分が好ましく、2〜8分間がさらに好ましく、4〜8分間が最も好ましい。接触させる際の感染症病原菌を含む排水に対する炭酸カルシウムの割合としては、2.5〜5.0質量%が好ましい。
【0013】
本発明において、感染症病原菌を含む排水と上記した炭酸カルシウムとを接触させる方法の具体例としては、排水を原水ポンプで炭酸カルシウム混合槽に送り、この混合槽に前もって入れておいた炭酸カルシウムと混合することにより両者を接触させる方法が挙げられる。このとき、混合槽において毎分60〜800回転の攪拌機により混合することが望ましく、毎分60〜400回転がさらに好ましく、毎分60〜100回転が最も好ましい。
【0014】
本発明においては、感染症病原菌を含む排水と上記した炭酸カルシウムとを接触させることで、感染症病原菌と何らかの相互作用により、その後の炭酸カルシウムの沈殿分離の過程で除去される。炭酸カルシウムを分離する方法の具体例としては、排水を炭酸カルシウムとともに、炭酸カルシウム混合槽から1本の流入管で繋がった炭酸カルシウム沈殿分離槽に流出させ、そこで10分〜20分静置することにより炭酸カルシウムは沈降してくるので、上澄みを放流することで炭酸カルシウムを分離する。
【0015】
本発明においては、炭酸カルシウムを再使用することも可能であり、そのための方法の具体例としては、前記炭酸カルシウム沈殿分離槽の底部に沈殿した炭酸カルシウムをエアリフトポンプにて、一定速度で炭酸カルシウム混合槽に戻すことをすればよい。
【0016】
以下、本発明の処理方法を、好適な施設のフロー略図を用いて説明する。
[施設の概要]
図1は本発明を実施することができる排水の処理施設の一例を示している。図中1は、畜産農場の排水路中に設けた沈殿分離槽であり、ここで排水中のきょう雑物を除去する。沈殿分離槽1には、その上澄みを炭酸カルシウム混合槽4に投入できるよう原水ポンプ2が配置され、排水投入管3を通じて炭酸カルシウム混合槽に送水できる。炭酸カルシウム混合槽4は4〜8分の滞留時間を確保できる容積を備えており、投入された排水が緩速攪拌できるよう毎分60〜400回転の攪拌機6を備えている。また炭酸カルシウム混合槽4は、隣に位置した炭酸カルシウム沈殿分離槽8と1本の流入管7で繋がっている。炭酸カルシウム沈殿分離槽8は、流入管7から流入した炭酸カルシウム混合液が10分〜20分滞留する容積をもち、またエアリフトポンプ9を備え、底部に沈殿した炭酸カルシウムを炭酸カルシウム混合槽4に戻すことができる。なお炭酸カルシウム沈殿分離槽8の底部は、すり鉢状になっており、沈殿物は効率よくエアリフトポンプ9に吸引される構造になっている。
【0017】
[施設の操作方法]
畜産農場から排水が発生した場合には、排水路中にある沈殿分離槽1できょう雑物が除去され、暫時原水ポンプ2で炭酸カルシウム混合槽4に投入される。排水が投入されると同時に攪拌機6とエアリフトポンプ9の作動が始まる。なお炭酸カルシウム混合槽4には、粒子状炭酸カルシウムを炭酸カルシウム混合槽内の水質量の2.5〜5.0%なるようにあらかじめ投入しておく。炭酸カルシウム混合槽4、炭酸カルシウム沈殿分離槽8は流入管7によって繋がっており、同じ水位に保たれるので、原水ポンプ2で排水が投入されるごとに、炭酸カルシウム沈殿分離槽8側に押し出されて放流管10から処理水が放流される。
【0018】
[管理方法]
数日〜数ヵ月間使用した炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム混合槽、炭酸カルシウム沈殿分離槽から取り出し、当該農場の堆肥化施設または乾燥施設に持ち込み堆肥化または乾燥処理される。
【産業上の利用可能性】
【0019】
畜産農場から流出する排水には病原性大腸菌やサルモネラ、クリプトスポリジウム等の人畜共通感染症病原菌が存在する可能性があるが、現在これらの排水の浄化または殺菌の方法について、安価でかつ下流の魚類等に対して安全な対策はない。本発明は、これらの排水中の人畜共通感染症病原菌を削減する低価格な施設と安全な処理水放流を実現する。またそれによって周辺地域の衛生環境の向上と水環境の保全が図られる。なお本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0020】
実施例1
近隣農場から入手した一般細菌、大腸菌、サルモネラ、クリプトスポリジウムを含む懸濁液をそれぞれ作成して、溶液の2.5質量%に相当する粒子状炭酸カルシウム(東洋電化工業株式会社製、商品名トヨホワイト、平均粒度1.5μm)を投入して、常温で、マグネチックスターラーにて4分間緩速攪拌し(回転数毎分100回転)、10分間の沈殿静置後の上澄みに含まれる微生物数を調べ、結果を表1に示した。表1から明らかなように、一般細菌、大腸菌、サルモネラ、クリプトスポリジウムいずれも、除去率が98%以上と高い除去率であった。なお除去率(%)は、
除去率(%)=((投入微生物数−処理後微生物数)÷投入微生物数)×100
として算出した。
【0021】
また、微生物数は、沈殿後の上澄みを希釈した後、一般細菌についてはソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地、大腸菌はデゾキシコレート培地、サルモネラはブレインハートインヒュージョン培地を用いて、滅菌シャーレにて18〜24時間培養して算出した。また、クリプトスポリジウムについては、ショ糖浮遊法にて回収し、顕微鏡で観察して数えた。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2
近隣農場から入手した一般細菌、大腸菌、サルモネラ、クリプトスポリジウムを含む懸濁液をそれぞれ作成して、溶液の5.0質量%に相当する粒子状炭酸カルシウム(東洋電化工業株式会社製、商品名トヨホワイト、平均粒度1.5μm)を投入して、常温で、マグネチックスターラーにて4分間緩速攪拌し(回転数毎分100回転)、10分間の沈殿静置後の上澄みに含まれる微生物数を実施例1と同様にして調べ、また除去率も同様にして計算した結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 本発明の排水の処理方法を実施するのに好適な装置の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0027】
1 沈殿分離槽
2 原水ポンプ
3 排水投入管
4 炭酸カルシウム混合槽
5 粒子状炭酸カルシウム懸濁液
6 攪拌器
7 流入管
8 炭酸カルシウム沈殿分離槽
9 エアリフトポンプ
10放流管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症病原菌を含む排水と炭酸カルシウムとを接触させ、炭酸カルシウムに感染症病原菌を吸着させた後、炭酸カルシウムを分離することにより排水中の感染症病原菌を削減することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
炭酸カルシウムが、粒状の軽質炭酸カルシウムである請求項1記載の排水の処理方法。
【請求項3】
粒状の軽質炭酸カルシウムの平均粒度が0.7〜2.0μmである請求項2記載の排水の処理方法。
【請求項4】
感染症病原菌を含む排水と炭酸カルシウムとを接触させる時間が、4〜8分間である請求項1〜3のいずれかに記載の排水の処理方法。
【請求項5】
感染症病原菌を含む排水に対して、炭酸カルシウムを2.5〜5.0質量%の割合で接触させる請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−173620(P2008−173620A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37087(P2007−37087)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(507051341)
【出願人】(507051352)
【出願人】(507051802)
【Fターム(参考)】