説明

排水の処理方法

【課題】 本発明は、排水中の有機および/または無機の被酸化性物質を効率よく、経済的に、なおかつ長期間安定的に処理する方法を提供する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 反応塔に、組成および/または組成比の異なる2種以上の触媒を充填して2個または3個以上の触媒層を設け、この反応塔に酸素含有ガスおよび排水を供給し、370℃以下の温度で、かつ該排水が液相を保持する圧力下にて排水を湿式酸化するに際して、気液を下向並流で流通させ、さらに、触媒に含まれる成分のうち、B成分としての、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびチタン−ジルコニウム複合酸化物から選ばれる少なくとも一種の上記触媒における含有量が、排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって多くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を浄化処理する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、化学プラント設備、メッキ工業設備、皮革製造設備、金属工業設備、金属鉱業設備、食品製造設備、医薬品製造設備、繊維工業設備、紙パルプ工業設備、染色染料工業設備、電子工業設備、機械工業設備、印刷製版設備、ガラス製造設備、写真処理設備、発電設備から排出される排水を浄化処理する場合に用いられる。特に、排水の浄化方法の中でも、排水を370℃以下の温度かつ該排水が液相を保持する圧力下、酸素存在下に、触媒湿式酸化するにあたり、長期間安定的でかつ経済性にも優れた排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水を処理する方法としては、例えば生物処理法、燃焼処理法、および湿式酸化法などが知られている。生物処理法は、排水中の被酸化性物質の分解に長時間を要し、しかも低濃度のものしか処理できないので、排水が高濃度の場合、適切な濃度に希釈する必要などがあり、これらの為に処理施設の設備面積が広大になるという欠点がある。また、使用する微生物は気温等の影響を大きく受けるため、安定した運転を続けることは困難である。
【0003】
燃焼処理は、燃料費等のコストがかかるため、大量の排水を処理すると処理コストが著しく高くなるという問題を有している。また燃焼による排ガス等による二次公害を生じるおそれがある。
【0004】
湿式酸化法は、高温、高圧下で、しかも酸素の存在下で排水を処理し、排水中の被酸化性物質を酸化および/または分解処理する方法であるが、一般に処理効率が低いため、この方法において反応速度を速め且つ反応条件を緩和する手段として、例えば酸化物を用いた触媒やこれら酸化物と貴金属元素等を組み合わせた触媒を使用する触媒湿式酸化法が提案されている。
【0005】
本発明者らは既に、チタンとジルコニウムの複合酸化物と、パラジウムおよび白金等の貴金属類、および/またはコバルト、ニッケル等の重金属類を含有する触媒を用いた排水の処理方法(特許文献1)、鉄とチタン、ケイ素およびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物と、パラジウムおよび白金等の貴金属類、および/またはコバルト、ニッケル等の重金属類を含有する触媒およその触媒を用いた排水の処理方法(特許文献2)を提案した。これらの触媒はいずれも触媒活性が高く、耐久性においても高いものとなったが、更なる処理活性および耐久性の向上望まれるものであった。
【0006】
そのような中、本発明者らは、2種類以上の触媒組成および/または触媒組成比の異なる触媒を使用した排水の処理方法(特許文献3)を提案した。この方法は、従来の方法と比べると浄化性が高く、耐久性もあり、経済性にも優れた方法であったが、長期間の使用においては、特に触媒層入口部における触媒の処理性能の低下や、触媒強度の低下、あるいは粉化を生じることがあった。また、長期間安定的に処理できる場合においても、処理性能が低い問題があった。更に、気液上向並流を使用した処理方法では、入口部分が反応器の下部となるため、劣化しやすい下部の触媒のみを交換することができず、触媒をすべて抜き出す必要があり、非常に高コストになることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−34997号公報
【特許文献2】特開平5−138027号公報
【特許文献3】特開平8−276194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、排水中の有機および/または無機の被酸化性物質を効率よく、経済的に、なおかつ長期間安定的に処理する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため様々な角度から検討した結果、以下の処理方法により、排水を効率よく、経済的に、なおかつ長期間安定的に処理できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次のとおりのものである。
1) 上部に入口、下部に出口を有する一つの反応塔に、組成および/または組成比の異なる2種以上の触媒を充填して2個または3個以上の触媒層を設け、この反応塔に酸素含有ガスおよび排水を供給し、370℃以下の温度で、かつ該排水が液相を保持する圧力下にて排水を湿式酸化するに際して、
(1)触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金から選ばれる少なくとも一種の触媒A成分と、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびチタン−ジルコニウム複合酸化物から選ばれる少なくとも一種の触媒B成分とを含有する触媒(ただし、活性炭を含むものを除く)を用い、
(2)触媒B成分の含有量が、排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって少なくなるようにし、そして
(3)反応塔の入口から出口に向かって酸素含有ガスおよび排水を供給して気液下向並流で流通させる、
ことを特徴とする排水の処理方法。
2) 上部に入口、下部に出口を有する一つの反応塔に、組成および/または組成比の異なる2種以上の触媒を充填して2個または3個以上の触媒層を設け、この反応塔に酸素含有ガスおよび排水を供給し、370℃以下の温度で、かつ該排水が液相を保持する圧力下にて排水を湿式酸化するに際して、
(1)触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金から選ばれる少なくとも一種の触媒A成分と、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびチタン−ジルコニウム複合酸化物から選ばれる少なくとも一種の触媒B成分と、鉄酸化物とを含有する触媒(ただし、活性炭を含むものを除く)を用い、
(2)触媒B成分の含有量が、排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって少なくなるようにし、そして
(3)反応塔の入口から出口に向かって酸素含有ガスおよび排水を供給して気液下向並流で流通させる、
ことを特徴とする排水の処理方法。
3) 上記1)または2)において、触媒A成分の含有量が実質的に同一である排水の処理方法。
4) 上記1)または2)において、触媒A成分の含有量が排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって多くなるようにする排水の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
上記の本発明の処理方法によって、様々な成分が含まれている排水であっても該排水に応じた触媒の選定が可能となり、効率よく、長期間かつ安定的に排水を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明方法を実施するための処理装置の一構成例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における排水中の処理対象物質は、酸化・分解処理によって浄化処理できる有機および/または無機の化合物であり、有機化合物、窒素化合物、硫黄化合物、さらには有機ハロゲン化合物や有機燐化合物などであっても良い。具体的には、例えばメタノール、エタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、アセトン、酢酸、プロピオン酸、THF、フェノールなどの有機化合物;アンモニア、ヒドラジン、亜硝酸イオン、DMF、モノエタノールアミン、ピリジンなどの窒素化合物;チオ硫酸イオン、硫化ナトリウム、ジメチルスルホキシド、アルキルベンゼンスルホン酸塩などの硫黄化合物;過酸化水素などを挙げることができる。また、水中に溶解していても、懸濁物質として存在していてもよい。また、本発明で処理される排水の種類は特に限定されず、例えば、化学プラント、半導体製造工場、食品加工設備、金属加工設備、金属メッキ設備、印刷工場などの各種産業プラントからの排水や、火力発電所や原子力発電所などの発電設備からの排水でもよい。更に、湿式酸化処理を実施した排水を再度処理することも可能である。
【0014】
なお、排水中に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、アルミニウム、マグネシウム等の金属イオンやフッ素、塩素、臭素等のハロゲンイオン、炭酸イオン、リン、ケイ素等を含有する無機塩類が含有されていてもよい。これらの無機塩類が排水に含まれる濃度は、処理条件において塩として析出しない範囲内であれば差し支えないが、排水の塩類濃度が高くなると気相中の酸素の液相への溶解濃度が低下するため、塩類濃度は低い方が好ましい。また、本発明の排水の処理方法としては、特に廃棄物焼却炉排水、埋立地浸出水などのダイオキシン類が含まれる排水である場合にも効果的である。上記に記載したように、排水には様々な成分が含まれており、排水に含有される成分が同じであることは希であるため、効率よく、長期間安定的に排水を処理するためには、排水に応じた触媒の選定が必要となる。
【0015】
本発明において使用する触媒の種類は、好ましくは2種類もしくは3種類の触媒を用いることである。触媒の種類を多くすると、各排水に適した処理が可能となるが、触媒調製のコストがかかるため好ましくない。
【0016】
本発明の処理方法は、触媒に含まれる成分の内で、チタンおよび/またはジルコニウムの酸化物および/または複合酸化物(以後、B成分とする)に関し、該排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって、該触媒における上記B成分の含有量が、入口側で使用される触媒におけるB成分の含有量よりも少なくなることを特徴とする排水の処理方法である。
【0017】
入口から出口に向かって上記B成分の含有量が少なくなることとは、触媒組成および/または触媒組成比の異なる少なくとも2種類以上の触媒において、出口側の触媒になるほど触媒中のB成分の含有量が少なくなることを意味する。ただし、B成分の含有量が少なくなった触媒の出口側に、含有量を多くした触媒を設置した場合においても、本発明と同様の効果を見出すこともできるが、触媒充填量が多くなるだけである。したがって、本発明では、気液下向流を採用し、更に出口側に向かってB成分の含有量を少なくするように触媒を設置することにより、最適な触媒による排水の処理を可能にすることに発明の効果を見出すものである。
【0018】
本発明の処理方法で使用する触媒の充填状態については、特に限定されたものではなく、処理条件により適宜決定することができるものであるが、好ましくは触媒反応塔の入口側から出口側に向かって複数の触媒層別に仕切る方法である。例えば、触媒反応塔の入口部から出口部に向かって、2種類の触媒を使用する場合、チタンおよび/またはジルコニウムの酸化物および/または複合酸化物を多く含有する入口側の触媒層の占有容積をVbとし、出口部に近いB成分の少ない触媒の占有容積をV1とすると、Vb/(Vb+V1)で表されるVbの占有率が、0.1以上0.9未満であることが好ましく、更に0.3以上0.6未満であることが好ましい。なお、VBの占有率が、0.1未満および0.9以上であるときは、1種類の触媒を用いた結果と処理性能に大きな差はないものである。
【0019】
また、同様に3種類の触媒を使用する場合においても、B成分を多く含有する入口側の触媒層1の占有容積をVbとして、出口側にむかってB成分の含有量が減少した触媒層の占有体積をそれぞれV1、V2とし、Vb/(Vb+V1+V2)で表されるVbの占有率が、0.1以上0.9未満であることが好ましく、更に0.3以上0.6未満であることが好ましい。VBの占有率が、0.1未満および0.9以上であるときは、1種類の触媒を用いた結果と処理性能に大きな差はないものである。
【0020】
入口の触媒層における、B成分としてのチタンおよび/またはジルコニウムの酸化物および/または複合酸化物における含有量としては、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。出口の触媒層におけるB成分としての、チタンおよび/またはジルコニウムの酸化物および/または複合酸化物における含有量としては、70質量%未満であることが好ましい。このB成分の含有量の範囲において、上記濃度勾配の式にしたがって、触媒中のB成分の量を調整することは好ましい形態である。
【0021】
また、本発明の排水の処理方法では、B成分の含有量が徐々に増加するように充填することも可能である。この場合、複数段になるように、触媒層を区切ることが可能である。具体的には、全触媒層を3等分し、入口側から出口側に向かって徐々にA成分の含有量が多くなるように触媒を設置すればよい。より好ましくは、5等分以上、さらに好ましくは、7等分以上に区切ることである。さらに好ましくは10等分以上に区切ることである。複数段設けるときの、触媒層の上限数は、処理性能,コスト、工程等を考慮し、20等分である。また、この等分に区切るとは、触媒層を区切るという意味だけの区分であり、区切られた触媒の長さ(触媒層)は特に限定されない。
【0022】
本発明におけるB成分で示されるチタンおよび/またはジルコニウムの酸化物および/または複合酸化物は、どのような排水に対しても安定的に処理できるものであるが、活性炭を含有する触媒と比較すると比較的低活性である。また、気液下向流法を採用することにより、劣化し易い部分が触媒層上部となるため、劣化した触媒のみを交換しやすく、経済的にも優れているものである。更に、触媒の振動などが抑制され、触媒が粉化することが少なくなり、長期間安定的に使用することができるものである。
【0023】
本発明において、触媒層への気液の流通方法は、気液を下向並流で流通させるものである。気液下向並流の場合、排水が触媒の外表面を流下し、ガス層が触媒および排水の周囲で連続相を形成しながら、下向きに流通していく。したがって、気液上向流と比較すると、酸素含有ガスと排水との接触効率が向上し、排水中への酸素溶解量が増加するため、酸素供給量を低減するため、触媒の振動が少なく、触媒の耐久性も向上させることができる。
【0024】
更に、従来用いられていた気液上向並流による処理では、触媒層入口部分が劣化するような場合、触媒層の入口部分のみを交換することが難しく、すべて抜き出した後、交換する必要があった。また、交換しないと中央部、出口部も次第に劣化する可能があるため触媒が長期間使用できない場合があった。しかしながら、気液を下向並流で流通させることにより、触媒層入口から中央部が劣化するような場合でにおいても、上層部のみを簡単に交換することができるため、触媒コストも大幅に低減されるものである。
【0025】
本発明において使用する触媒を充填した湿式酸化処理装置は、通常使用されるものが用いられ、反応塔あるいは処理塔は、単管式、多管式のいずれの形式であってもよいし、排水に含まれる成分、その量等によっては単管式と多管式とを、単独または組み合わせ処理に適した条件で処理することができ、また複数の反応塔を用いてもよく、さらには複数の湿式酸化処理装置を用いてもよい。
【0026】
すなわち、ひとつの反応塔に触媒組成および/または触媒組成比の異なる少なくとも2種類以上の触媒を積層充填して用いてもよいし、複数の反応塔に触媒組成および/または触媒組成比の異なる少なくとも2種類以上の触媒を充填して用いてもよく、さらには複数の湿式酸化処理装置で複数回処理をおこなってもよく、特に限定されるものではない。また、ひとつの反応塔内の上部にラシヒリングなどの充填物層を設置し、出口側に触媒層を設置することも可能である。これにより、触媒の負担が小さくなり、触媒の耐久性も向上するため、本発明において好ましい方法である。
【0027】
以下、図1の処理装置を用いて排水を処理する方法について説明する。図1は酸化処理工程の一つとして湿式酸化処理を採用した場合の処理装置の一実施形態を示す概略図であるが、本発明で用いられる装置はこれに限定する趣旨ではない。排水供給源から供給される排水は、排水タンク6から排水供給ポンプ5に供給され、更に加熱器3に送られる。この際の空間速度は特に限定されず、触媒の処理能力によって適宜決定すればよい。
【0028】
本発明は、湿式酸化処理は酸化含有ガスの存在下、もしくは不存在下のいずれの条件でも行うことができるが、排水中の酸素濃度を高めると排水中の処理対象物質の酸化、分解効率を向上させることができるので、排水に酸素含有ガスを混入させることが望ましい。
【0029】
酸素含有ガスの存在下に湿式酸化処理を行う場合には、例えば酸素含有ガスを酸素含有ガス供給ライン8から導入し、コンプレッサー7で昇圧した後、排水が加熱器3に供給される前に排水に混合されることが望ましい。
【0030】
本発明で用いることのできる酸素含有ガスとしては、酸素分子を含有するガスであるならば特に限定されるものではなく、純酸素ガス、酸素富化ガス、空気等でよいが、価格の安価な空気を使用することが好ましい。また、場合によってはこれらを不活性ガスで希釈して用いることもできる。また、これらのガス以外にも他のプラント等から生じる酸素含有の排ガスも適宜用いることができる。なお、酸素含有ガスに代えて、過酸化水素水なども使用することができるものである。
【0031】
酸素含有ガスを排水へ供給する場合の供給量は特に限定されず、排水中の被酸化性物質を酸化および/または分解するのに有効な量を供給すればよい。酸素含有ガスの供給量は、例えば酸素含有ガス流量調節弁9を酸素含有ガス供給ライン8上に設けることによって排水への供給量を適宜調節することができる。通常、被酸化性物質の理論酸素要求量の0.5倍以上、より好ましくは0.7倍以上であり、好ましくは5.0倍以下、より好ましくは3倍以下とすることが推奨される。
【0032】
尚、本発明において「理論酸素要求量」とは、排水中の被酸化性物質を窒素、二酸化炭素、水、灰分まで酸化および/または分解するのに必要な酸素量の
ことである。
【0033】
加熱器3に送られた排水は、反応塔1に供給される。気液の反応塔への供給方法は、気液下向並流であることが好ましい。気液下向並流では、気液が上部から下部に流れ、触媒の揺れ、浮き上がりが少なくなるため、触媒の耐久面に優れている。更に、気液下向並流では、最も劣化しやすい入口部での触媒の交換が容易であるため、従来よりも大幅に触媒コストを低減すること可能となる。
【0034】
また、反応温度については、370℃以下であればよいが、好ましくは、80℃以上260℃未満であり、さらに好ましくは、80℃以上170℃未満である。なお、処理温度が370℃を超える場合は、液相を保持することができなくなり、260℃以上の場合は耐熱性、耐圧性などを必要とするため、設備コストが非常に高くなる。また、170℃以上の場合は、液相を保持する反応圧力が1メガパスカル(MPa)ゲージ以上となり、高圧ガス保安法の規制を受けるため設備コストが高くなる。一方、80℃未満では被酸化性物質を十分に分解できないものである。
【0035】
また湿式酸化処理装置の排ガス出口側に圧力調整弁を設け、反応塔内で排水が液相を保持できるように処理温度に応じて圧力を適宜調節することか望ましい。
【0036】
排水を加熱する時期は特に限定されず、予め加熱した排水を反応塔内に供給してもよいし、或いは、排水を反応塔内に供給した後に加熱してもよい。また、排水の加熱方法についても特に限定されず、加熱器、熱交換器を用いてもよく、また、反応塔内にヒーター2を設置して排水を加熱してもよい。更に蒸気などの熱源を排水に供給してもよい。
【0037】
本発明において、装置の材質は、処理される排水に対して耐久性があるものであればどのようなものを用いてもよい。また、多量の排水を処理する場合、触媒充填層が高くなるため、反応塔を並列に並べて処理することが望ましい。
【0038】
反応塔で酸化および/または分解された処理液は、処理液ライン10から取り出され、必要に応じて冷却器4で適度に冷却された後、気液分離器11によって気体と液体に分離される。その際、液面制御弁13によって気液分離器内の液面が一定となるように制御するが望ましい。また圧力コントローラーPCを用いて圧力状態を検出し、圧力制御弁12によって気液分離器内の圧力が一定となるように制御することが望ましい。
【0039】
処理液の温度制御には、処理液を気液分離器11に供給する前に熱交換器などの冷却工程によって冷却してもよく、或いは気液分離器後に熱交換機などの冷却工程を設けて冷却してもよい。
【0040】
気液分離器11で分離して得られた処理液は、処理液排出ライン15から排出される。ここで排出された処理水は、生物処理、膜処理により更に処理することもできる。一般に触媒湿式酸化処理では、生物処理困難な有機成分が分解され、中間生成物として生物処理し易い酢酸が生成することが多いため、生物処理の負担を軽くすることができる。また、湿式酸化処理後の処理水に含まれる有機酸(酢酸等)やアンモニア等の被酸化性物質を、ポリアミド系複合膜などの高脱塩率を有する逆浸透膜を用いて処理する場合、逆浸透膜を透過した液は、被酸化性物質をほとんど含まない排水であり、高度処理が可能となる。一方、逆浸透膜の非透過液は、有機酸やアンモニア等の被酸化性物質を濃縮して含有するため、再度湿式酸化処理等の排水を実施することで排水の高度処理が可能となるものである。
【0041】
更に、触媒湿式酸化処理後の処理液、または触媒湿式酸化処理後の生物処理液や膜処理の透過水を、再度排水に混合し、希釈水として利用することができる。具体的には、処理された排水の処理水を循環し、処理前の排水の希釈水として使用するものである。これにより、従来希釈に必要であった水を大幅に低減させることができ、より低コストな処理設備になるものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更することはいずれも本発明の技術範囲に含まれるものである。
【0043】
実施例および比較例で使用した触媒は次のようにして調製した。
【0044】
(触媒a)
チタン−ジルコニウム(TiO −ZrO (50:50(質量%))からなるペレット(4mmφ×4mm)に、ヘキサアンミン白金水溶液を溶解した溶液を含浸させた。次に、空気雰囲気下で乾燥(100℃、15時間)し、焼成(300℃、3時間)し、水素雰囲気下で還元(300℃、2時間)した。こうして得られた触媒の白金の含有量は0.3質量%であった。
【0045】
(触媒b)
チタン−酸化鉄(TiO −Fe (30:70(質量%))からなるペレット(4mmφ×4mm)に、塩化白金酸からなる溶液を含浸させた。次に、窒素雰囲気で乾燥(300℃、5時間)した後、水素雰囲気下で還元(300℃、2時間)した。こうして得られた触媒の白金の含有量は0.3質量%であった。
【0046】
<実施例1〜3>
図1に示した装置を使用し、下記条件で、5,000時間処理を行った。このとき、反応塔1は、直径40cm、長さ5mの円筒状であり、その内部に、入口側に触媒aと出口側に触媒bを表1に示す割合で触媒を503リットル(以下、Lで表示する。)、触媒層長4mになるよう充填した。また、処理に供した排水は、酢酸、アクリル酸を主に含有する排水であり、COD(Cr)濃度が30,000mg/L、pHは5.2であった。
【0047】
該排水は排水供給ポンプによって503L/hの流量で昇圧フィードしたあと、加熱器3で200℃に加熱し、反応塔1の上部より供給し、気液下向流で処理した。また、空気を酸素含有ガス供給ライン8より導入し、コンプレッサー7で昇圧した後、酸素含有ガス(空気)1005L/min(理論酸素量の1.2倍量)を加熱器3の手前で排水に供給した。
【0048】
反応塔1では、電気ヒーター2を用いて200℃に保温し、酸化・分解処理を実施した。処理液は、冷却器4で30℃まで冷却した後、圧力制御弁12から解圧排出し、気液分離器11で気液分離した。このとき圧力制御弁12は、圧力コントローラーで圧力を検出し、反応塔1内が2MPa(Gauge)の圧力を保持するように制御した。5,000時間後のCOD(Cr)処理効率は、表1に示すようになった。
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1 反応塔
2 電気ヒーター
3 加熱器
4 冷却器
5 排水供給ポンプ
6 排水タンク
7 コンプレッサー
8 酸素含有ガス供給ライン
9 酸素含有ガス流量調節弁
10 処理液ライン
11 気液分離器
12 圧力制御弁
13 ガス排出ライン
14 処理液排出ポンプ
15 処理液排出ライン
16 酸素濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に入口、下部に出口を有する一つの反応塔に、組成および/または組成比の異なる2種以上の触媒を充填して2個または3個以上の触媒層を設け、この反応塔に酸素含有ガスおよび排水を供給し、370℃以下の温度で、かつ該排水が液相を保持する圧力下にて排水を湿式酸化するに際して、
(1)触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金から選ばれる少なくとも一種の触媒A成分と、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびチタン−ジルコニウム複合酸化物から選ばれる少なくとも一種の触媒B成分とを含有する触媒(ただし、活性炭を含むものを除く)を用い、
(2)触媒B成分の含有量が、排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって少なくなるようにし、そして
(3)反応塔の入口から出口に向かって酸素含有ガスおよび排水を供給して気液下向並流で流通させる、
ことを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
上部に入口、下部に出口を有する一つの反応塔に、組成および/または組成比の異なる2種以上の触媒を充填して2個または3個以上の触媒層を設け、この反応塔に酸素含有ガスおよび排水を供給し、370℃以下の温度で、かつ該排水が液相を保持する圧力下にて排水を湿式酸化するに際して、
(1)触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金から選ばれる少なくとも一種の触媒A成分と、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびチタン−ジルコニウム複合酸化物から選ばれる少なくとも一種の触媒B成分と、鉄酸化物とを含有する触媒(ただし、活性炭を含むものを除く)を用い、
(2)触媒B成分の含有量が、排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって少なくなるようにし、そして
(3)反応塔の入口から出口に向かって酸素含有ガスおよび排水を供給して気液下向並流で流通させる、
ことを特徴とする排水の処理方法。
【請求項3】
触媒A成分の含有量が実質的に同一である請求項1または2記載の排水の処理方法。
【請求項4】
触媒A成分の含有量が排水の流れ方向に対して入口から出口に向かって多くなるようにする請求項1または2記載の排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206122(P2012−206122A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158325(P2012−158325)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2001−301023(P2001−301023)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】