説明

排水処理方法

【課題】マイクロバブル圧壊技術及び無機系凝集剤を使用することにより、効果的に排水中の有機物量を低減させる排水処理方法を提供する。
【解決手段】有機物を含む排水中に気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記マイクロバブルを圧壊させる工程と、前記排水に前記圧壊工程の前及び/又は最中に、無機系凝集剤を添加する工程とを具備する無機系凝集剤を利用した排水処理方法であって、前記無機系凝集剤は、前記排水に対し、0.1〜3%となるように添加され、前記圧壊工程にて圧壊された前記マイクロバブルの表面において、前記排水中の溶解有機物並びに前記排水中及び前記無機系凝集剤により供給された電解質イオンが高濃度に濃縮されると共に、前記圧壊により生じたフリーラジカルの作用を受けて化学反応を起こすことにより、溶解有機物を固体として析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブルの圧壊を利用した排水処理において、無機系添加剤を添加することで排水中の溶解有機物を固体(有機物系固体析出物)として析出させる排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物系排水に対する排水処理の主たる目的は、排水中に存在している炭素分(有機物)の除去である。除去手段としては、大きく2つに分けることができる。1つは二酸化炭素などの気体として排水から除去する物理化学的な方法である。一般的には、有機物を徹底的に酸化させて二酸化炭素として除去する方法である。
【0003】
しかしながら、上記物理化学的な方法では、有機物を酸化させる為に、大量の酸化剤を必要とし、処理コストや排水における環境負荷がかかってしまうということが問題点であった。
【0004】
もう1つは、炭素分を固体として除去する生物化学的な方法であり、一般的には好気的な微生物を利用する方法が相当する。排水中において、曝気をおこない微生物を繁殖させることにより、排水中に溶解している有機物を微生物体内に摂取させる。取り込まれた有機物は微生物の体躯となり、これを排水中から分離除去することで排水の環境負荷を低減することができる。
【0005】
しかしながら、上記生物化学的な方法では、非生分解性有機物に対しては効果を示さず、該有機物によっては、微生物が死滅してしまう問題点がある。
【0006】
そこで、近年では、例えば本件出願人らによる特許第4378543号公報(特許文献1)に開示されているマイクロバブル(直径がμmオーダーの気泡のことを言う。)を用いた技術が注目されている。
【0007】
特許文献1には、オゾンなどの気体を含んだ直径が10〜50μm程度のマイクロバブルを水中で消滅させることにより発生する大量のフリーラジカル(主に水酸基ラジカル)を発生させて、該フリーラジカルにより有機物を酸化させ、最終的に二酸化炭素として取り除く方法が開示されている。この方法は汎用性が高いため難分解性化学物質にも対処できるまた、中間生成物が生分解性に優れたものである場合には上記に示したような好気的な微生物を利用した方法との併用も可能などの多くの利点を有している。
【0008】
この様なマイクロバブルによる圧壊処理に関しての技術開発を進める過程で、圧壊時に非常に奇妙な現象が起こることを発見した。それは有機系成分が固体として析出する現象である。そのメカニズムは気液界面の効果に関与していると考えている。すなわち気液界面にはイオンと溶解有機物が集まりやすい傾向がある。イオンは気液界面が帯電していることに関与している。気液界面近傍における水は、バルクとは異なった水素結合ネットワークを形成している。バルク水中では水分子の周囲に他の水分子が存在しており全方位的にネットワークを形成することができる。これに対して気液界面に存在する水分子にとっては気体側に手を繋ぐべき相手の水分子が存在していない。このため、ネットワークの構造そのものが、気液界面はバルクと異なってしまう。この構造的な違いが要因となり、水分子が電離して生じたOHやHが気液界面に高い密度で存在していると考えられる。特に通常のpH条件下ではOHが優勢に界面に存在しているため、気液界面は負に帯電している。水溶液中には様々な電解質イオンが存在しているため、静電気的な引力を受けて界面近傍には陽イオンが引き寄せられている。気液界面にはこの様なイオン類の局在化に加えて水中に溶解した有機物も集積してくる傾向にある。溶解有機物は水溶液中に一様にとけ込んでいるわけではなく、特に分子量が多い有機物ほど疎水的な特性を持つため、気液界面に集まりやすい傾向を持つ。この様に気液界面には電解質イオンと溶解有機物が集まった状態であり、なおかつマイクロバブルが水中で縮小する状況下では、面積に反比例してこれらの電解質イオンや有機物濃度は急激に上昇する。さらに気泡消滅時には水酸基ラジカルなどのエネルギー種が形成される。これらが反応場を形成することにより溶解有機物や電解質イオン類が素材となって固体析出物が発生する。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を用いて排水処理をした場合、溶解有機物や電解質イオンなどの素材が揃っていても、マイクロバブル圧壊時に固体(有機物系固体析出物)が析出することは非常に希であり、また排水処理過程でどのような条件を満足した場合に現象が再現されるかも不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4378543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述したような実情に鑑みてなされたものであり、マイクロバブル圧壊技術と無機系凝集剤を使用することにより、排水中に溶解した有機物を固体、即ち有機物系固体析出物として析出させ、これを分離除去することで効果的に排水中の有機物量を低減させる排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、有機物を含む排水に対して、前記排水中で、気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記排水中の前記マイクロバブルを圧壊させる工程と、前記排水に前記圧壊工程の前及び/又は最中に、無機系凝集剤を添加する工程とを具備する無機系凝集剤を利用した排水処理方法であって、前記無機系凝集剤は、前記排水に対し、0.1〜3%となるように添加され、前記圧壊工程にて圧壊された前記マイクロバブルの表面において、前記排水中の溶解有機物並びに前記排水中及び前記無機系凝集剤により供給された電解質イオンが高濃度に濃縮されると共に、前記圧壊により生じたフリーラジカルの作用を受けて化学反応を起こすことにより、前記排水に含まれる有機物を有機物系固体析出物として析出させることを特徴とすることにより効果的に達成される。
【0013】
また本発明は、前記マイクロバブルは、直径が10〜50μmであることにより、或いは前記気体がオゾンであることにより、或いは前記物理的刺激は、循環流量10〜100L/分で前記マイクロバブルを含む排水を循環させながら、前記マイクロバブルを含む排水をパンチング板に通すことであることにより、或いは前記物理的刺激が、発振周波数が20〜1000kHzの超音波を照射することであることにより、或いは前記物理的刺激が、電圧が2000〜3000Vの放電を使用することであることにより、或い前記無機系凝集剤がアルミニウム塩又は鉄塩のいずれかであることにより、或いは前記フリーラジカルがヒドロキシルラジカルであることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排水処理方法によれば、マイクロバブルの圧壊時の反応場で溶解有機物と化学反応を起こし、その結果として溶解有機物を固体として析出させることができ、析出した固体は、凝集剤自体の本来の作用を受けて凝集沈殿するため、これを処理水から分離除去することで排水の環境負荷を大幅に低減することが可能となった。また、ありとあらゆる有機物に対して適応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る排水処理方法にて使用する排水処理装置の概略図である。
【図2】本発明に係る排水処理方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る排水処理方法の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
先ず、本発明に係る排水処理方法にて使用する排水処理装置の概要を説明する。
【0018】
図1は、前記排水処理装置の概略図である。図1に示すように、排水処理装置1は、処理槽2内部にマイクロバブル発生装置3が設置され、処理槽2の側面に、循環ポンプ4及びパンチング板(多孔板)5が備え付けられている循環パイプ6が設置されて成る。
【0019】
ここで、マイクロバブル発生装置3のタイプは限定されないが、シャフトタイプのものが望ましい。ちなみにマイクロバブル発生装置3の設置台数は特に制限はない。
【0020】
また、図1では処理槽2の側面に、循環ポンプ4及びパンチング板5が備え付けられている循環パイプ6が設置されているが、これらは無くても構わない(理由は後述)。
【0021】
そして、凝集剤添加装置7については、排水処理装置1に内蔵しても、パイプ等で該装置1に外付けで設置しても、また、無くても構わない。
【0022】
次に、本発明に係る排水処理方法を図1の排水処理装置及び図2のフローチャートを基に説明する。
【0023】
先ず、処理槽2に処理する原水(排水)を導入する(スタート)。なお、本発明に係る排水処理方法で使用する該原水は、特に限定はないが、COD(化学的酸素要求量)が1000mg/L以上のものに対して好適である。また、該原水は、予め有機物系固体微粒子(浮遊物)を取り除くための前処理がされていることが好ましい。ここで言う、有機物系固体微粒子(浮遊物)とは、本発明に係る排水処理方法を行う前の時点で、排水中に浮遊している微粒子のことを指し、本発明の方法によって析出する有機物系固体析出物とは異なるものである。
【0024】
次に、該原水を処理槽2に導入した後、マイクロバブル発生装置3にてマイクロバブルを発生させる(ステップS1)。この段階で発生するマイクロバブルの直径(粒径)は、数〜数百μmオーダーである。この時点でマイクロバブルの直径分布(範囲)が大きいが、マイクロバブル発生装置3そのものや、パンチング板5(後述)を通過させる等によって最終的には直径が10〜50μmに揃う。なお、該マイクロバブル内部に介在させる気体、即ちマイクロバブル発生装置3に吸入させる気体は、オゾンが好ましいが、酸素、窒素、希ガス類及び空気等といった気体でも構わない。
【0025】
次に、循環ポンプ4を使用して、マイクロバブルを含んだ原水(以下、マイクロバブル含有原水と記す。)を循環パイプ7内に循環させ(循環経路は、図1に示す矢印を参照)、前記マイクロバブル含有原水を処理槽2に戻す手前でパンチング板5に通過させる(ステップS2)。なお、マイクロバブル含有原水を循環パイプ6内にて循環させる際の循環量は、10〜100L/分が望ましい。また、循環ポンプ6の押し出し圧力は0.1〜0.3MPaが望ましい。ちなみに前記循環量及び前記押し出し圧力について、これらの範囲以下であると圧壊が十分にされず、範囲以上としても効率はさほど上がらない。
【0026】
ちなみに、上記排水処理装置には循環ポンプ4及びパンチング板5が備え付けられている循環パイプ6が設置されなくても良いと上述したが、そもそも、パンチング板5に通過させる理由は、直径が10〜50μmのマイクロバブルを圧壊(消滅)させるための物理的刺激として使用するためのものであり、この物理的刺激は、超音波照射、放電でも可能である。なお、超音波照射を物理的刺激として使用する場合は、発振周波数が20〜1000k(1M)Hzのものが使用可能であり、放電を使用する場合は2000〜3000Vのものが使用可能である。
【0027】
また、マイクロバブル含有原水を循環パイプ7内で循環させるのと並行又は循環させる前に、凝集剤添加装置7を使用して、凝集剤を添加する(ステップS3)。凝集剤の量は、原水(排水)に対し、0.1〜3%となるように添加するのが望ましい。0.1%以下であると凝集が十分に進行せず、3%以上であると、余剰の凝集剤が排水中に残存してしまう。凝集剤には、アルミニウム塩、鉄塩などの無機系凝集剤が使用可能である。なお、凝集剤添加装置8を使用した場合、排水の連続供給量の0.1〜3%を連続的に添加するのが望ましい。
【0028】
凝集剤を添加してマイクロバブル含有原水を処理した後、原水を静置し、凝集剤によって析出した有機物系固体析出物を適宜分離除去する。該析出物を分離除去する方法は、特に限定は無い。また、該析出物を分離した後に残った液体部分は、再度本発明の排水処理方法或いは活性汚泥方法などの別法で処理して構わない。
【実施例】
【0029】
以下、本発明に係る排水処理方法について実施例を説明する。なお、本実施例にて使用した排水処理装置については、図1及び上記実施形態を参照されたい。
【0030】
[実施例]
COD(化学的酸素要求量)が約4万mg/Lである排水を約0.1m/時の流量で処理槽に導入した。処理原水に対しては予め有機物系固体微粒子(浮遊物)を取り除くための前処理を実施しており、処理原水中の有機系個体粒子の量は有機物量として1%以下であった。処理槽は約0.5mであり、処理槽内部にはシャフトタイプのマイクロバブル発生装置(50Wタイプ)を2台設置した。マイクロバブルの発生量は、パーティクルカウンタで測定したところ、50μm以下の気泡として約2,000個/mLであった。また、発生装置の吸入気体としてオゾンを利用しており、吸入量は4L/分であった。
【0031】
次に、処理槽内のマイクロバブルを含んだ排水(以下マイクロバブル含有排水)を、循環ポンプを利用して循環パイプ内を循環させ、処理槽に戻す前に、前記排水をパンチング板に通過させた。ポンプの循環量は約50L/分であり、押し出し側の圧力は約0.2MPaであった。次に、無機系凝集剤添加装置を利用してポリ塩化アルミニウム(PAC)を約15mL/分の割合で槽内に添加した。
【0032】
上記の条件で処理を実施し、系が安定した段階で処理された排水について調べたところ大量の沈殿物(有機物系固体析出物)の発生を認めた。沈殿物には金属キレートなどの錯体も含まれており、TOF−SIMSにより分析したところAl、NaやK、CaおよびC−H系が強く検知された。Alは主にPAC由来であると思われるが、その他の元素も排水中に含まれていたものと考えられる。このことは有機物系固体析出物の析出に関して無機系凝集剤自体の無機成分のみでなく、排水自体に元来含まれていたイオン類も大きく関与していることを示している。
【0033】
処理水のCODは約5,000mg/Lであった。比較例として、無機系凝集剤の添加を行わずに同様の処理を行った場合には沈殿物の生成はほとんど認められず、またCODは約3万mg/Lであった。
【0034】
なお、実施例は、あくまで一例である。
【符号の説明】
【0035】
1 排水処理装置
2 処理槽
3 マイクロバブル発生装置
4 循環ポンプ
5 パンチング板
6 循環パイプ
7 凝集剤添加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む排水に対して、前記排水中で、気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記排水中の前記マイクロバブルを圧壊させる工程と、前記排水に前記圧壊工程の前及び/又は最中に、無機系凝集剤を添加する工程とを具備する無機系凝集剤を利用した排水処理方法であって、
前記無機系凝集剤は、前記排水に対し、0.1〜3%となるように添加され、
前記圧壊工程にて圧壊された前記マイクロバブルの表面において、前記排水中の溶解有機物並びに前記排水中及び前記無機系凝集剤により供給された電解質イオンが高濃度に濃縮されると共に、前記圧壊により生じたフリーラジカルの作用を受けて化学反応を起こすことにより、前記排水に含まれる有機物を有機物系固体析出物として析出させることを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記マイクロバブルは、直径が10〜50μmである請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記気体がオゾンである請求項1又は2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記物理的刺激が、循環量10〜100L/分で前記マイクロバブルを含む排水を循環させながら、前記マイクロバブルを含む排水をパンチング板に通すことである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記物理的刺激が、発振周波数が20〜1000kHzの超音波を照射することである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記物理的刺激が、電圧が2000〜3000Vの放電を使用することである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記無機系凝集剤がアルミニウム塩又は鉄塩のいずれかである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記フリーラジカルがヒドロキシルラジカルである請求項1乃至7のいずれか1項に記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106212(P2012−106212A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258700(P2010−258700)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(503357735)株式会社REO研究所 (21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】