説明

掘削工具および掘削工法

【課題】ケーシングパイプの強度低下やコスト高を招かずとも、ケーシングパイプ外周部の地盤に確実かつ十分に薬液を注入して強化した状態でケーシングパイプを掘削孔に打設する。
【解決手段】円筒状のケーシングパイプ1の先端にリングビット4がケーシングパイプ1の軸線O回りに回転自在、かつ軸線O方向先端側に抜け止めされつつ軸線O方向に進退可能に取り付けられるとともに、ケーシングパイプ1内に挿入されて軸線O回りに回転される伝達部材の先端には、リングビット4の内周に挿入されてリングビット4と軸線O方向先端側および軸線O回りに係合可能とされるインナービット5が取り付けられ、リングビット4をケーシングパイプ1に対して、係合手段7により軸線O回りの少なくとも1の回転方向と軸線O方向の少なくとも先端側とに向けて係合可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングパイプ先端にリングビットが取り付けられるとともに、このケーシングパイプ内に挿入されたインナーロッド等の伝達部材の先端にはインナービットが取り付けられた、いわゆる二重管式ビットの掘削工具、および該掘削工具を用いた掘削工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の二重管式ビットを有する掘削工具は、例えば橋脚や建物の基礎杭打設工事、法面補強工事におけるアンカー材挿入孔等の掘削において、掘削とケーシングパイプの打設を同時に行うことで掘削孔周辺の軟弱地盤の崩壊を防ぎながら掘削する、同時ケーシング工法に用いられる。そして、このような同時ケーシング工法では、ケーシングパイプの打設後はインナービットや伝達部材を掘削孔から抜き出し、次いでケーシングパイプ内を通して地盤強化用の薬液を注入することで掘削孔底部周辺の軟弱地盤を改良してケーシングパイプと一体化するようにしている。
【0003】
ここで、このような掘削工法に用いられる二重管式の掘削工具としては、例えば特許文献1に、円筒状のケーシングパイプの先端にリングビットが互いの内外周面を対向させてケーシングパイプの軸線回りに回転自在に取り付けられるとともに、インナービットはこのリングビットと軸線回りに係合可能に取り付けられた掘削工具において、ケーシングパイプとリングビットとの上記内外周面にそれぞれ軸線回りに延びる環状溝を形成して、これらの環状溝が合致することによって画成される環状孔に、軸線に対する径方向に弾性変形可能なC型止め輪等の係止部材を介装することにより、軸線方向にリングビットをケーシングパイプに係止させたものが提案されている。
【0004】
従って、このような掘削工具では、ケーシングパイプとリングビットの一方の内周面または外周面に形成された環状溝に係止部材を弾性変形させつつ他方の環状溝に嵌挿することにより、環状溝同士が合致して環状孔が画成されたところで、係止部材がその弾性によって元の状態に復帰してこの環状孔に介装されるため、比較的簡単な構造できわめて容易にリングビットをケーシングパイプ先端に回転自在としたまま先端側に抜け止めして取り付けることが可能となる。このため、ジャミングなどにより掘削途中で伝達部材およびインナービットを一旦後退させた後、再び前進させて掘削を続行しようとしたときなどに、リングビットがインナービットにより押し出されて外れてしまうような事態が生じるのを防ぐことができる。
【特許文献1】特開2001−140578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような掘削工具を上記同時ケーシング工法に用いた場合には、掘削孔の底部において、打設されたケーシングパイプ先端のリングビットよりも先端側には、注入された薬液が行き渡って軟弱地盤を強化することができるものの、これよりも後端側のケーシングパイプの外周側には薬液を十分に注入することができず、このケーシングパイプの外周部とその周辺の地盤とを確実に一体化することが難しいという問題がある。このような問題を解消するために、ケーシングパイプ自体に逆止弁やスリット等を設けて外周側の地盤に薬液を注入する手段も提案されているが、かかる手段ではケーシングパイプの強度低下を招いて、特に掘削長が長くなると折損事故が生じる傾向が強くなるとともに、ケーシングパイプが高コストになる。さらには、掘削孔の途中に高圧水脈等があると薬液を効率的に注入できない場合もある。
【0006】
特に最近では、基礎杭を堅固な岩盤内にまで埋設して根付けしたりせずに、岩盤の表面まで掘削孔を形成して薬液を注入することにより岩盤表面の地盤を強化して岩盤と一体化した強化部を形成し、この強化部に基礎杭を根付けして埋設する基礎杭工法も採用されつつある。そして、このような基礎杭工法でも、岩盤表面で薬液により強化した上記強化部を確実に岩盤と一体化させるためには、掘削孔とケーシングパイプ外周部の空隙に確実に薬液を充填する必要があるが、上記従来の掘削工具では上述のようにこのケーシングパイプ外周側に薬液を満遍なく十分に注入することは困難であり、かかる基礎杭工法に好適に用い得る掘削工具が要望されていた。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、ケーシングパイプの強度低下やコスト高を招いたりすることなく、ケーシングパイプの外周部の地盤に確実かつ十分に薬液を注入して強化した状態で、このケーシングパイプを掘削孔に打設することが可能な掘削工具を提供し、またこのような掘削工具を用いて、上述の基礎杭工法のような強化部を岩盤の表面などに確実に形成してケーシングパイプを埋設することが可能な掘削工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の掘削工具は、円筒状のケーシングパイプの先端にリングビットが該ケーシングパイプの軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側に抜け止めされつつこの軸線方向に進退可能に取り付けられるとともに、上記ケーシングパイプ内に挿入されて上記軸線回りに回転される伝達部材の先端には、上記リングビットの内周に挿入されて該リングビットと上記軸線方向先端側および該軸線回りに係合可能とされるインナービットが取り付けられてなる掘削工具において、上記リングビットは上記ケーシングパイプに対して、係合手段により上記軸線回りの少なくとも1の回転方向と該軸線方向の少なくとも先端側とに向けて係合可能とされていることを特徴とする。
【0009】
また、このような掘削工具を用いた本発明の掘削工法は、上記リングビットと上記インナービットとを係合させて上記軸線回りに回転させつつ該軸線方向先端側に前進させることにより掘削孔を形成しながら、この掘削孔に上記ケーシングパイプを建て込み、次いで、上記伝達部材およびインナービットを引き抜き、しかる後、上記係合手段によって上記ケーシングパイプとリングビットとを係合させて上記1の回転方向に回転させるとともに上記軸線方向先端側に前進させて掘削を行うことを特徴とする。
【0010】
従って、上記掘削工具では、ケーシングパイプとリングビットだけでも掘削が可能となる。そこで、かかる掘削工具を用いたこのような掘削工法を、上述したような強化部に基礎杭を根付けして埋設する基礎杭工法に適用する場合には、まず上述のようにリングビットを、ケーシングパイプに対しては先端側に抜け止めしつつ軸線方向に進退可能かつ回転自在としたまま、その内周に挿入されたインナービットと軸線方向先端側および軸線回りに係合させることにより、伝達部材を介してこのインナービットに伝えられる回転力、打撃力、および推力がリングビットにも伝えられるので、これらインナービットとリングビットとを一体に回転、前進させることにより掘削孔を形成しながら、同時ケーシング工法によりこの掘削孔にケーシングパイプを建て込んでゆく。ここで、リングビットはケーシングパイプに抜け止めされているので、ジャミング等が生じて伝達部材およびインナービットを一旦後退させた後に再び前進させても、リングビットが脱落することはない。
【0011】
そして、この掘削孔が所定の深さ、例えば上記岩盤の表面に達する深さまで形成されたところで、伝達部材およびインナービットをリングビットおよびケーシングパイプの内周から引き抜くとともに、上記強化部を形成したりするのに必要な深さまでケーシングパイプおよびリングビットを後退させ、これらケーシングパイプおよびリングビット内を通して、リングビット先端から岩盤表面等との間の上記掘削孔底部周辺に薬液を注入する。このとき、薬液は、リングビット先端から岩盤表面等の間で広範囲にわたって放射的に分散するため、先に形成された掘削孔の外周側の地盤にも薬液が注入されて充填されることになる。
【0012】
しかる後、上記係合手段によってケーシングパイプとリングビットとを係合させて、ケーシングパイプを上記1の回転方向に回転させるとともに軸線方向先端側に前進させると、係合した先端のリングビットも一体に回転、前進して、上記薬液が注入された地盤がリングビットとケーシングパイプだけで掘削され、これらが例えば元の岩盤表面等に達する深さまで埋設される。そして、こうして埋設されたリングビットおよびケーシングパイプの外周部には、掘削孔との空隙部にも満遍なく十分に薬液が充填された状態で地盤が強化された強化部が形成されることになるので、上記構成の掘削工具および掘削工法によれば、ケーシングパイプに逆止弁やスリットを設けたりせずとも、ケーシングパイプの外周側に薬液が注入された地盤を形成したり、こうして薬液注入により地盤が強化された強化部を岩盤表面に確実に形成してケーシングパイプを埋設することが可能となる。
【0013】
この点、例えば上記特許文献1に記載の掘削工具では、リングビットはケーシングパイプの先端に抜け止めはされているものの、上述のような係合手段を備えることがないために常に回転自在の状態となっているため、ケーシングパイプを回転させてもリングビットが回転力を受けることはなく、掘削は不可能である。また、この抜け止めも、上述のようにリングビットとケーシングパイプの内外周面間に画成された環状孔にC型止め輪等の係止部材を介装することによるものであるため、ケーシングパイプを前進させた際にその推力や打撃力がこの係止部材を介してリングビットに伝えられると、該係止部材が破損してリングビットが外れてしまい、やはり掘削不能に陥ってしまう。
【0014】
ここで、このように掘削不能に陥ることなく、リングビットとケーシングパイプとを確実に係合させるには、第一に、上記リングビットをケーシングパイプの先端に、互いの内外周面を対向させて嵌挿するとともに、該リングビットの上記軸線方向後端側を向く面を上記ケーシングパイプの先端側を向く面に対向させて取り付け、上記係合手段においては、上記内外周面に互いに螺合する少なくとも一対の雌雄ネジ部を形成して、これらのネジ部を上記軸線方向先端側を向く面と後端側を向く面同士が密着するまでねじ込むことにより、上記リングビットを上記ケーシングパイプに対して係合可能とすればよい。この場合には、リングビットはケーシングパイプに対し、上記軸線回りにおいて上記雌雄ネジ部のねじ込み方向とは反対向きの回転方向に係合させられて回転力が伝えられるとともに、これらネジ部の螺合と上記先後端側を向く面同士の密着により先端側に向けて係合させられ、ケーシングパイプからの推力や打撃力は専らこの密着した面同士を介して伝えられるので、係合手段の雌雄ネジ部に破損が生じたりすることはなく、確実に掘削を行うことが可能となる。
【0015】
また、特にこうして雌雄ネジ部と先後端側を向く面とにより係合手段を構成した場合には、リングビットとケーシングパイプの上記内外周面において、上記一対の雌雄ネジ部のうち一方のネジ部が形成された周面に、他方のネジ部と螺合可能な抜け止めネジ部を、上記軸線に沿った上記他方のネジ部のねじ込み方向後方側に上記一方のネジ部と間隔をあけて形成しておいて、リングビットをケーシングパイプの先端に取り付けた状態で、上記他方のネジ部が軸線方向においてこれら一方のネジ部と抜け止めネジ部との間に緩挿されるように構成することにより、同時ケーシング工法において掘削孔を形成する際には、この抜け止めネジ部に他方のネジ部を係止させてリングビットを先端側に抜け止めするとともに回転自在にケーシングパイプに取り付けることができる。
【0016】
一方、同じように、上記リングビットをケーシングパイプの先端に、互いの内外周面を対向させて嵌挿するとともに、該リングビットの上記軸線方向後端側を向く面を上記ケーシングパイプの先端側を向く面に対向させて取り付けた場合でも、上記係合手段においては、第二に、上記内外周面に周方向に互いに対向する壁面を備えた凹凸部をそれぞれ形成して、上記軸線方向先端側を向く面と後端側を向く面同士が当接するとともに上記凸部が上記凹部に収容されて上記壁面同士が当接することにより、上記リングビットを上記ケーシングパイプに対して係合可能としてもよい。この場合でも、上記凹凸部の壁面同士の当接と先後端側を向く面同士の当接とによってリングビットとケーシングパイプが係合させられるので、係合手段に破損を生じさせたりすることなく、これらリングビットとケーシングパイプだけで確実に掘削を行うことが可能となる。
【0017】
なお、このような第二の係合手段を採用した場合に、同時ケーシング工法でリングビットをケーシングパイプに対して先端側に抜け止めしつつ回転自在とするのには、例えば上記内外周面の凹凸部とは軸線方向に離れた位置に互いに螺合する雌雄のネジ部を形成しておいて、リングビットをケーシングパイプの先端に取り付けた状態で、リングビット側の周面に形成されたネジ部がケーシングパイプ側の周面に形成されたネジ部よりも軸線方向後端側に緩挿されるように配置して、このリングビット側のネジ部をケーシングパイプ側のネジ部に係止することによってリングビットを抜け止めするとともに、こうしてネジ部が係止された状態では上記凹凸部が互いに離間しているように、それぞれの上記ネジ部との軸線方向位置を設定することで、リングビットをケーシングパイプに対して回転自在とすればよい。また、この第二の係合手段や、上述した第一の係合手段を採用した場合でも、リングビットをケーシングパイプに抜け止めしつつ回転自在とするだけならば、例えば上記特許文献1に記載されたように、上記内外周面に環状溝を形成して画成される環状孔に弾性変形可能な係止部材を介装してリングビットを係止する構成でもよい。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明の掘削工具によれば、インナービットとリングビットとを係合させてこれらによる掘削を行うことができるのは勿論、リングビットとケーシングパイプとを係合させての掘削を行うことも可能な多機能の掘削工具を提供することができ、例えばケーシングパイプの強度低下やコスト高を招いたりすることなく、ケーシングパイプの外周部の地盤に確実かつ十分に薬液を注入して強化した状態で、このケーシングパイプを掘削孔に打設することが可能となる。また、このような掘削工具を用いた本発明の掘削工法によれば、岩盤の表面などにおいてケーシングパイプの外周部にも確実に薬液を注入した状態でリングビットおよびケーシングパイプを埋設することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1ないし図3は、本発明の掘削工具の第1の実施形態を示すものである。本実施形態において、ケーシングパイプ1は、必要に応じて順次継ぎ足される円管状のパイプ本体2の先端に円筒状のケーシングトップ3が溶接により同軸に取り付けられて構成されるとともに、このケーシングパイプ1の内周には、図示されないインナーロッド等の打撃、回転、推力を伝達する伝達部材が上記ケーシングパイプ1の中心軸線Oと同軸に挿入されて、この伝達部材も必要に応じて順次継ぎ足されて構成され、その最後端は、掘削時に該伝達部材に軸線O回りの回転力と軸線O方向先端側に向けての推力を与える掘削装置に連結される。そして、ケーシングパイプ1先端のケーシングトップ3のさらに先端には円環状のリングビット4が取り付けられるとともに、伝達部材の先端には、軸線O方向先端側に向けての打撃力を与えるやはり図示されないハンマーを介して、インナービット5が取り付けられて上記リングビット4の内周に挿入されている。
【0020】
上記ケーシングトップ3は、その後端部が、先端部に対して内外径とも一段縮径するように形成されるとともに、その後端縁には後端側に向けて漸次拡径するテーパ部3Aが形成されており、この後端部を最先端のパイプ本体2の内周に嵌挿した上で、上記先端部の後端をパイプ本体2先端に突き合わせて溶接されることにより取り付けられている。また、このケーシングトップ3の先端部は、その外径がパイプ本体2の外径と略等しくされるとともに内径はパイプ本体2の内径より僅かに大きくされ、この先端部の軸線O方向先端側を向く面3Bすなわち当該ケーシングトップ3の先端面と、ケーシングトップ3の内周面のうち上記先端部と後端部との間の段差部分において同じく軸線O方向先端側を向く面3Cとは、軸線Oに垂直な円環状の平坦面とされている。
【0021】
このケーシングトップ3の先端側に取り付けられる上記リングビット4は、その後端部の外周面が上記ケーシングトップ3の先端部の内周に略嵌挿可能、あるいは緩挿可能な小さな外径とされるとともに、先端部は外周側に拡径してその外径がケーシングトップ3やパイプ本体2の外径よりも大きくされている。また、このリングビット4の内周面は、その先端側が上記ケーシングトップ3の後端部の内周面よりも一段小さな内径に形成されているとともに、後端側はこのケーシングトップ3後端部の内周面よりも僅かに大きな内径とされ、これら先後端の間の段差部には後端側に向かうに従い漸次拡径するテーパ部4Aが形成されている。従って、本実施形態ではこのリングビット4の後端部の外周面がケーシングパイプ1先端のケーシングトップ3における先端部の内周面と径方向に対向するように嵌挿されるとともに、このケーシングトップ3先端部の軸線O方向先端側を向く上記面3Bと拡径したリングビット4先端部の内周側の後端側を向く面4B、およびリングビット4の後端面4Cとケーシングトップ3の段差部分の上記面3Cとが、それぞれ軸線O方向に対向して取り付けられることになる。
【0022】
また、本実施形態では、このリングビット4の先端面は軸線Oに直交する平坦な円環状面とこの円環状面の内外周に連なって内外周側に向かうに従い後端側に傾斜する2つのテーパ面とから構成されており、これらの円環状面および内外周のテーパ面のそれぞれに、超硬合金等の硬質材料よりなるチップ6が多数植設されている。さらに、リングビット4の先端側の内周面には、軸線Oに平行に延びる複数条の凹溝4Dが、周方向に等間隔に、かつリングビット4先端の内周側の上記テーパ面に植設されたチップ6と干渉しないように形成されている。これらの凹溝4Dは、掘削時の上記インナービット5の回転方向後方側の部分が図1の下側に示す凹溝4Dのようにリングビット4先端内周の上記テーパ面から上記テーパ部4Aに亙って貫通して形成される一方、インナービット5の回転方向側の部分は、その後端側に図1の上側に示す凹溝4Dのような壁部4Eが形成されてテーパ部4Aには開口しないようにされている。
【0023】
一方、上記インナービット5は、先端から後端に向けて2段に拡径した後に段階的に縮径する外形多段円柱状をなしており、先端側の1段目の部分の外径はリングビット4の先端側の内周部に、また2段目の部分の外径はケーシングトップ3後端部の内周部に、さらに3段目の最も大きな部分の外径はパイプ本体2の内周部に、それぞれ緩挿可能な大きさとされている。また、このインナービット5の上記1段目の部分の先端面の外周縁部、すなわち当該インナービット5の先端面の外周縁部と、1段目から2段目の間の段差部と、2段目から3段目の部分の段差部とは、それぞれ外周側に向かうに従い後端側に向けて円錐状に広がるテーパ部とされており、このうち1段目から2段目のテーパ部5Aおよび2段目から3段目のテーパ部5Bは、そのテーパ角が上記リングビット4のテーパ部4Aおよびケーシングトップ3のテーパ部3Aと等しくされていて、図1に示すようにこれらのテーパ部5A,5Bがテーパ部4A,3Aに当接した状態で、インナービット5の先端がリングビット4の先端よりも突出するように設定されている。
【0024】
ただし、このインナービット5の上記1段目の部分の外周には、上述のようにリングビット4の先端側内周部に緩挿可能とされたその外径よりも外周側に突出する突条5Cが、上記凹溝4Cと同数、やはり周方向に等間隔に、かつ軸線O方向にはそれぞれインナービット5の先端面からやや後退した位置から上記テーパ部5Aの手前部分にかけて延びるように形成されている。これらの突条5Cは、図1下側に示したように上記凹溝4Dのテーパ部4Aへの貫通部に後端側から緩挿可能とされ、かつこうして凹溝4Dに緩挿して上述のようにテーパ部4A,3Aとテーパ部5A,5Bを当接させたところで、図1上側に示したように凹溝4Dの上記壁部4Eよりも先端側に間隔をあけて該凹溝4D内に収容可能とされている。従って、こうして突条5Cを凹溝4Dに収容してリングビット4の内周に挿入されたインナービット5は、テーパ部5Aをテーパ部4Aに当接させることによりリングビット4に対して軸線O方向先端側に係合可能、かつ軸線O回りに回転させたときには突条5Cが凹溝4Dの周方向を向くいずれかの側壁に当接することで、この軸線O回りにも係合可能とされてリングビット4と一体に回転させられる。
【0025】
なお、インナービット5後端側の縮径した部分は上記ハンマーへの取付部とされるとともに、インナービット5の内部には、その後端から上記軸線Oに沿って先端側に向けて、このハンマーから送られた圧縮空気等の供給孔5Dが形成されており、この供給孔5Dはインナービット5の先端側で、外周側に向かうに従い先端側に延びる複数の噴出孔に分岐させられていて、このうち一部の噴出孔はインナービット5の先端面に開口させられるとともに、残りはインナービット5の先端側外周面において、テーパ部4A,5Aを当接させた状態でリングビット4の先端面に臨む位置に開口させられている。
【0026】
また、このインナービット5の外周には、軸線Oに平行に延びる複数条の掘削屑の排出溝5Eが、該インナービット5の先端から最大外径となる上記3段目の部分で外周側に切れ上がるように、かつ周方向には上記突条5Cと干渉しないように形成されており、これらの排出溝5Eは、インナービット5の先端面では内周側に向けてその溝深さが漸次浅くなるように延設されていて、供給孔5Dから分岐した上記一部の噴出孔はこの先端面の排出溝5E内に開口させられている。さらに、このインナービット5の先端面にも、超硬合金等の硬質材料よりなる多数のチップ6が、テーパ部とされたその外周縁部にかけて、上記排出溝5Eと干渉しない位置に多数植設されている。
【0027】
そして、このようなインナービット5が内周に挿入された上記リングビット4は、図1に示すようにインナービット5のテーパ部5A,5Bがケーシングトップ3のテーパ部3Aとリングビット4のテーパ部4Aとに当接した状態で、ケーシングトップ3を含めたケーシングパイプ1に対して軸線O回りに回転自在、かつこの軸線O方向先端側に抜け止めされつつ該軸線O方向に進退可能に取り付けられる一方、インナービット5が内周から抜き出された状態では、係合手段7により、上記軸線O回りの1の回転方向と該軸線O方向の先端側とに向けてケーシングトップ3(ケーシングパイプ1)に対し係合可能とされている。
【0028】
本実施形態では、この係合手段7は、上述のように互いに対向するように嵌挿されたリングビット4後端部の外周面とケーシングトップ3先端部の内周面とに形成された2対の雌雄ネジ部8A〜8Dによって構成されている。すなわち、図2に示すようにリングビット4の後端部外周面には2つの雄ネジ部8A,8Bが軸線O方向後端側と先端側とに間隔をあけて形成されるとともに、ケーシングトップ3の先端部内周面にはやはり2つの雌ネジ部8C,8Dが上記間隔と略等しい間隔をあけて先端側と後端側とに形成され、これら雌雄ネジ部8A〜8Dは、それぞれ互いに螺合可能なように、そのネジ径やピッチ、リード、ネジ山形状等が等しくされている。
【0029】
従って、本実施形態の係合手段7では、これら先後端の雄ネジ部8A,8Bを雌ネジ部8C,8Dにそれぞれねじ込んでゆくことにより、リングビット4は、その軸線O方向後端側を向く上記面4Bまたは後端面4Cあるいはこれら両面4B,4Cがケーシングトップ3の軸線O方向先端側を向く上記先端面3Bまたは上記面3Cあるいはこれら両面3B,3Cと密着したところで、図3に示すようにケーシングトップ3に螺着させられ、リングビット4がケーシングトップ3すなわちケーシングパイプ1に対して、軸線O回りには少なくとも雌雄ネジ部8A〜8Dのねじ込み方向と反対向きの回転方向に係合させられるとともに軸線O方向にはその先後端側両側に係合させられることになる。
【0030】
なお、互いに略等しくされた上記雄ネジ部8A,8B間の間隔と雌ネジ部8C,8D間の間隔は、ケーシングトップ3の先端側の雌ネジ部8Cの軸線O方向の長さおよびリングビット4の後端側の雄ネジ部8Aの軸線O方向の長さよりも長くなるようにされている。また、これら雌雄ネジ部8A〜8D以外の部分のケーシングトップ3先端部内周面とリングビット4後端部外周面は、ケーシングトップ3とリングビット4とを軸線Oに対して同軸に配置したときに、該雌雄ネジ部8A〜8Dとの間に僅かな間隔があけられるような内外径とされている。
【0031】
このような構成の掘削工具において、雌雄ネジ部8A〜8Dが形成されたリングビット4とケーシングトップ3とは、先端側からリングビット4後端側の雄ネジ部8Aをケーシングトップ3先端側の雌ネジ部8Cにねじ込んでいって該雌ネジ部8Aを通り抜けさせ、図1および図2に示したように雄ネジ部8Aが雌ネジ部8C,8Dの間の部分に位置した状態に取り付けられる。従って、この状態で当該掘削工具の先端を下向きにしても、再び雄ネジ部8Aを雌ネジ部8Cに螺合させて上記とは逆に先端側に抜け出るように回転させない限りは、雄ネジ部8Aが雌ネジ部8Cに当接して係止されることによってリングビット4は上述のように先端側に抜け止めされる。すなわち、本実施形態ではこの雌ネジ部8Cがリングビット4の抜け止めネジ部としても作用することになる。また、雄ネジ部8Aが雌ネジ部8C,8D間で進退する範囲、あるいは雌ネジ部8Cが雄ネジ部8A,8B間で進退する範囲でリングビット4はケーシングトップ3に対して進退可能とされ、しかもこの範囲ではリングビット4はケーシングトップ3に対して軸線O回りに回転自在とされる。
【0032】
こうしてリングビット4が取り付けられた掘削工具によって掘削を行う場合に、上述したような強化部に基礎杭を根付けして埋設する基礎杭工法に適用した本発明の掘削工法の一実施形態を図4を用いて説明する。本実施形態では、まずリングビット4の内周にインナービット5を挿入してテーパ部5A,5Bをテーパ部3A,4Aに当接させた状態で、このインナービット5の後端部に連結された伝達部材Pを介してインナービット5に軸線O回りの回転力と該軸線O方向先端側への推力とを与えるとともに、この伝達部材Pに備えられたハンマーからインナービット5に同じく先端側への打撃力を与え、図4(a)に示すように地盤を掘削してゆく。このとき、上記回転力は上述のように突条5Cが凹溝4Dの側壁に当接して係合することで、また推力および打撃力はテーパ部5A,4Aが当接することで、それぞれリングビット4にも伝えられる。
【0033】
従って、図4(a)に示したように地盤にはケーシングパイプ1よりも大きなこのリングビット4の外径に準ずる内径の掘削孔Hが形成され、さらに推力および打撃力はテーパ部5B,3Aの当接によってケーシングトップ3を介してケーシングパイプ1全体にも伝えられるので、掘削孔Hの形成と同時にケーシングパイプ1も前進してこの掘削孔H内に打設されてゆく。なお、図1に示したように、こうしてテーパ部5A,5Bをテーパ部3A,4Aに当接させた状態で、リングビット4の上記雄ネジ部8Aはケーシングトップ3の雌ネジ部8C,8D間に、ケーシングトップ3の上記雌ネジ部8Cはリングビット4の雄ネジ部8A,8B間にそれぞれ位置させられ、また上記回転力の方向は、上述のように雌雄ネジ部8A,8Cが再び螺合して先端側に抜け出ることのない方向とされる。
【0034】
こうして、同時ケーシング工法により掘削孔Hが所定の深さまで形成されてケーシングパイプ1が打設されたなら、図4(b)に示すようにケーシングパイプ1ごとリングビット4およびインナービット5や伝達部材P等を一旦後退させ、次いで係合手段7によってリングビット4をケーシングパイプ1(ケーシングトップ3)に対して係合させた上で、図4(c)に示すようにインナービット5および伝達部材P等をリングビット4およびケーシングパイプ1の内周から引き抜く。
【0035】
ここで、このように係合手段7によって雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させてリングビット4をケーシングパイプ1(ケーシングトップ3)に対し係合させるには、上記インナービット5をケーシングパイプ1から引き抜く前に、一旦上記凹溝4Dの壁部4Eが形成された側に突条5Cが位置するようにインナービット5を回転させてから後退させて突条5Cを壁部4Eに当接させ、さらにインナービット5を後退させてリングビット4の雄ネジ部8A,8Bをケーシングトップ3の雌ネジ部8C,8Dの先端側から当接させてから、これら雌雄ネジ部8A〜8Dが螺合するようにインナービット5を回転させつつ後退させればよい。従って、上記凹溝4Dにおいて壁部4Eが形成される側は、こうして雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させる際のインナービット5の回転方向側となり、また螺合させられたリングビット4が上述のようにケーシングパイプ1とともに回転させられて再び掘削を行う際の回転方向は、ケーシングトップ3に対してリングビット4が螺合させられる際の回転方向の反対向きとされる。
【0036】
次いで、こうしてリングビット4およびケーシングパイプ1を後退させることにより中空となったケーシングパイプ1内を通して、図4(d)に示すようにリングビット4の先端から薬液を掘削孔Hの底部に注入し、強化部Rを形成する。例えば、上述のように堅固な岩盤の表面にこの薬液注入による強化部Rを形成して基礎杭を根付けする場合には、掘削孔Hを一旦この岩盤表面に達する深さまで形成し、リングビット4およびケーシングパイプ1は、リングビット4の先端と岩盤表面との間に必要な大きさの強化部Rを形成し得る間隔が確保される深さまで後退させればよい。こうして岩盤表面との間に間隔をあけたリングビット4先端から薬液を注入すると、薬液はこの間の部分で例えば放射状に拡がって分散させられ、先に岩盤表面までの間に形成された掘削孔Hの外周側にも薬液が充填されて強化部Rが形成されることになる。
【0037】
そして、本実施形態では、上述のように係合手段7によってリングビット4がケーシングトップ3に対して軸線O回りの上記回転方向と軸線O方向先端側とに向けて係合させられているので、ケーシングパイプ1を介してこのリングビット4に軸線O回りの回転力と軸線O方向先端側への推力、場合によっては打撃力を与えて、これらリングビット4とケーシングパイプ1だけにより、言い換えれば二重管の外管単体だけで再び掘削を行い、例えば図4(e)に示すように上記強化部Rにリングビット4およびケーシングパイプ1を埋設して掘削孔Hの底部にまで到達させる。すなわち、上述のようにこの係合手段7の上記雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させて、図3に示したようにリングビット4の後端側を向く上記面4B,4Cの少なくとも一方をケーシングトップ3の先端側を向く上記面3B,3Cの少なくとも一方と密着させることにより、リングビット4はケーシングパイプ1に対して上記ねじ込み方向の反対向きの回転方向と軸線O方向先端側とに係合するため、この回転方向にケーシングパイプ1を回転させることにより回転力が、また密着した上記面3B,3Cと面4B,4Cを介して推力および打撃力がリングビット4に伝えられ、その先端のチップ6によって掘削が可能となるのである。
【0038】
従って、こうしてリングビット4とケーシングパイプ1先端のケーシングトップ3とを螺合させて係合させ、回転力と推力、場合によっては打撃力も与えることにより前進させて例えば上述のように掘削孔Hの底部に到達させた状態では、これらリングビット4およびケーシングパイプ1の外周部にも、満遍なく十分に上記薬液が充填されて強化された強化部Rが形成されることになる。このため、上記掘削工具および該掘削工具を用いた上述のような掘削工法によれば、ケーシングパイプ1に逆止弁やスリットを設けたりせずとも、すなわちケーシングパイプ1の強度低下やコスト高を招いたりすることなく、上記強化部Rをリングビット4やケーシングパイプ1の外周側に空隙部を残さずに形成することができ、この強化部Rを介してケーシングパイプ1を根付けして、例えば上記岩盤表面等に確実に固定することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態の掘削工具では、上述のようにリングビット4とケーシングトップ3(ケーシングパイプ1)とを軸線O回りの回転方向と軸線O方向先端側とに係合させるのに、これらリングビット4とケーシングトップ3との互いに対向する内外周面に形成した雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させるとともに、軸線O方向に同じく対向する先後端側を向く面3B,3C,4B,4Cを密着させるようにしている。このため、これらケーシングパイプ1とリングビット4とをより強固に係合させることができるとともに、雌雄ネジ部8A〜8Dの螺合によって面3B,3C,4B,4Cを押し付けるようにして密着させることができるので、ケーシングパイプ1からの推力や特に打撃力を一層確実かつ効率的にリングビット4に伝えて掘削を行うことが可能となる。
【0040】
しかも、本実施形態では、リングビット4とケーシングトップ3との互いに対向する内外周面に二対の雌雄ネジ部8A〜8Dが形成されて、雌雄ネジ部8A,8C同士および雌雄ネジ部8B,8D同士がそれぞれ互いに螺合可能とされており、すなわちこれら二対の雌雄ネジ部8A〜8Dによって係合手段7を構成しているので、一層強固にこれらリングビット4とケーシングトップ3とを係合、もしくは一体化させることができる。加えて、上記軸線O方向に対向する面も、本実施形態ではケーシングトップ3側とリングビット4側とで二対の面3B,3C,4B,4Cが備えられているので、これらの面3B,4B同士と面3C,4C同士をそれぞれ互いに同時に密着可能に形成すれば、上記推力や打撃力をさらに効率的に伝播させることが可能となる。ただし、これら二対の面3B,3C,4B,4Cは、雌雄ネジ部8A〜8Dをねじ込んだときに少なくとも面3B,4B同士あるいは面3C,4C同士の一方が密着可能とされて係合手段7を構成するようにされていればよく、他方の面同士の間には間隔が開けられていてもよい。
【0041】
さらに、本実施形態では、このようにリングビット4を二対の雌雄ネジ部8A〜8Dによってケーシングトップ3に螺合させることにより係合させているのに合わせて、リングビット4後端側の雄ネジ部8Aを雌ネジ部8C,8Dの双方に、またケーシングトップ3先端側の雌ネジ部8Cは雄ネジ部8A,8Bの双方に螺合可能となるように、すなわちすべての雌雄ネジ部8A〜8Dのネジ径やピッチ、リード、ネジ山形状等が等しくなるように形成されている。そして、これにより、インナービット5をリングビット4に係合させて掘削を行うときには、上記雄ネジ部8Aが雌ネジ部8Cに後端側から当接することによりリングビット4が先端側に抜け止めされるとともに軸線O回りに回転自在とされるので、インナービット5とリングビット4との一体回転が阻害されることがなく、またジャミング等によりインナービット5を一旦引き抜いてリングビット4内周に再び挿入する場合でも、リングビット4が外れて脱落してしまうような事態も防止することができる。
【0042】
ただし、本実施形態ではこのように二対の雌雄ネジ部8A〜8Dをケーシングトップ3とリングビット4の内外周面に形成しているが、これら内外周面の一方には軸線O方向に間隔をあけた2つの等しい雄ネジ部または雌ネジ部が、他方にはこれらの雄ネジ部または雌ネジ部と螺合可能な1つの雌ネジ部または雄ネジ部がそれぞれ少なくとも形成されていれば、リングビット4をケーシングトップ3に螺合させて係合可能とするとともに、インナービット5を係合させたときには先端側に抜け止めしつつ回転自在に支持することができる。この場合には、上記内外周面の一方に形成された2つの雄または雌ネジ部の一方と他方の雌または雄ネジ部とが係合手段を構成することになる。また、本実施形態では雌ネジ部8C,8Dを形成したケーシングトップ3の先端側内周面に、雄ネジ部8A,8Bを形成したリングビット4の後端側外周面を対向するように嵌挿させてこれら雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させるようにしているが、これとは逆にリングビット4の後端部内周面にケーシングトップ3の先端部外周面を対向させるように嵌挿して、このケーシングトップ3側に雄ネジ部8A,8Bを、リングビット4側に雌ネジ部8C,8Dを形成するようにしてもよい。
【0043】
さらに、本実施形態の掘削工法では、掘削孔Hを形成した後にケーシングパイプ1ごとリングビット4およびインナービット5や伝達部材P等を後退させ、次いでインナービット5および伝達部材Pを回転させつつ後退させて係合手段7によりリングビット4をケーシングパイプ1(ケーシングトップ3)に係合させた後に、インナービット5および伝達部材P等をリングビット4およびケーシングパイプ1の内周から引き抜いているが、先にリングビット4をケーシングパイプ1に係合させた後に、インナービット5および伝達部材P等を引き抜いたり、ケーシングパイプ1およびリングビット4を一旦後退させたりしてもよい。また、例えばリングビット4を掘削孔Hの底部に接地させることによりその回転を拘束した状態としておいて、ケーシングパイプ1を上記雌雄ネジ部8A〜8Dが螺合する方向に回転させつつ前進させることにより、係合手段7によってリングビット4とケーシングパイプ1とを係合させることも可能であり、この場合には先にインナービット5および伝達部材P等を引き抜いておくこともできる。
【0044】
次に、図5ないし図7は、本発明の掘削工具の第2の実施形態を示すものであり、第1の実施形態の掘削工具と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。すなわち、本実施形態においても、リングビット4は、その後端部外周面をケーシングパイプ1先端のケーシングトップ3の先端部内周面に対向させて嵌挿されるとともに、その軸線O方向後端側を向く面4B,4Cをケーシングトップ3の先端側を向く面3B,3Cに対向させて取り付けられているが、その係合手段11は、上記内外周面に周方向に互いに対向する壁面12A,13Aを備えた凹凸部12,13がそれぞれ形成されたものとされて、上記軸線O方向先端側を向く面3B,3Cの少なくとも一方と後端側を向く面4B,4Cの少なくとも一方とが当接するとともに、上記凹部12に凸部13が収容されて上記壁面12A,13A同士が当接することにより、リングビット4がケーシングトップ3に対して係合可能とされていることを特徴とする。
【0045】
本実施形態では、図5に示されるようにケーシングトップ3の先端部に上記凹部12が形成される一方、リングビット4には上記凸部13が形成されている。凹部12は、円筒状のケーシングトップ3先端部を径方向に貫通して上記先端面3Bから切り欠くように形成されており、上記壁面12Aは上記軸線Oを含む平面に沿うように延びている。また、この壁面12Aの後端側には軸線Oに垂直な底面が形成されるとともに、この底面の壁面12Aと反対側には、先端側に向かうに従い壁面12Aと離間するように延びる壁面が形成されていて、凹部12は図6に示すように台形状を呈しており、このような同形同大の凹部12がケーシングトップ3の先端に周方向に等間隔に複数形成されている。
【0046】
一方、本実施形態では、リングビット4のケーシングトップ3内周に嵌挿される後端部からチップ6が植設された先端部に向けて拡径する部分に上記凸部13が形成されている。ここで、本実施形態では、この後端部から先端部に向けて拡径する部分が、後端部の外周面がなす円筒面をそのまま先端側に延長して軸線Oに垂直な円環状の軸線O方向後端側を向く面4Bに交差するように形成されており、凸部13はこの面4Bと上記円筒面との交差稜線部に、凹部12と同数周方向に等間隔に形成されている。この凸部13は、その上記壁面13Aがやはり軸線Oを含む平面に沿った平坦面とされるとともに、軸線O方向の後端面は上記面4Bと平行とされ、また壁面13Aと反対側の面は先端側に向かうに従い壁面13Aと離間するように延び、さらに外周側を向く面は先端側に向かうに従い漸次拡径するテーパ面状とされている。ただし、この凸部13の面4Bからの軸線O方向の高さおよび周方向の幅は、凹部12の先端面3Bからの軸線O方向の深さおよび周方向の幅より小さくされている。
【0047】
また、本実施形態でも、リングビット4外周面の後端側には雄ネジ部14が形成されるとともに、ケーシングトップ3の内周面にはこの雄ネジ部14に螺合する雌ネジ部15が凹部12の後端側に形成されている。ただし、本実施形態では、これらの雌雄ネジ部14,15は、インナービット5と係合したリングビット4を抜け止めしつつ軸線O回りに回転自在に取り付けるだけのものであって、一対の雌雄ネジ部14,15が形成されているだけであり、雌ネジ部15の後端とケーシングトップ3の後端側の軸線O方向先端側を向く面3Cとの間隔は雄ネジ部14の軸線O方向の幅より大きくされ、また雄ネジ部14の先端と凸部13の上記後端面との間隔は雌ネジ部15の後端とケーシングトップ3の先端面3Bとの間隔よりも大きくされ、さらにリングビット4の上記面4Bから後端面4Cまでの長さはケーシングトップ3の先端面3Bから上記面3Cまでの間隔と略等しくされている。
【0048】
このような構成の第2の実施形態の掘削工具においても、リングビット4は、その後端部がケーシングトップ3の先端部内周に先端側から挿入され、上記雄ネジ部14が雌ネジ部5に螺合させられ、さらに後端側に通り抜けるようにされることにより、先端側に抜け止めされて取り付けられる。そして、インナービット5を後端側からリングビット4内周に挿入してテーパ部5A,5Bをケーシングトップ3のテーパ部3Aとリングビット4のテーパ部4Aにそれぞれ当接させた状態で、リングビット4は、その上記雄ネジ部14がケーシングトップ3の雌ネジ部15後端と上記面3Cとの間に位置させられて回動自在とされ、凹溝4Dにインナービット5の突条5Cが挿入されることにより軸線O回りに回転させられる。
【0049】
この第2の実施形態によって所定の深さまで掘削孔を形成した後に、上述のような強化部を形成してリングビット4およびケーシングパイプ1を埋設するには、まず掘削孔形成後にケーシングパイプ1ごとリングビット4およびインナービット5や伝達部材等を一旦後退させ、次いでインナービット5および伝達部材等をそのままリングビット4およびケーシングパイプ1内から抜き出し、次いで中空となったケーシングパイプ1内を通してリングビット4の先端から薬液を注入して強化部を形成する。しかる後、凹部12の上記壁面12Aが向く一の回転方向にケーシングパイプ1を回転させながら前進させて、この凹部12にリングビット4の上記凸部13を収容する。このとき、リングビット4の先端は強化部に当たるため、リングビット4がケーシングパイプ1とともに回転したり、前進したりすることはなく、スムーズに凸部13を凹部12に収容することができる。
【0050】
そして、さらにケーシングパイプ1を回転、前進させることにより、壁面12A,13Aを当接させてリングビット4をケーシングトップ3に対して上記一の回転方向に係合させるとともに、先端面3Bを上記面4Bに、または上記面3Cを後端面4Cに、もしくはこれらの面3B,3C,4B,4Cの双方を当接させて、軸線O方向先端側にも係合させる。しかる後、第1の実施形態と同様にケーシングパイプ1に回転力および推力、場合によっては打撃力を与えると、回転力は上記一の回転方向に互いに当接した壁面12A,13Aを介して、また推力および打撃力は軸線O方向にやはり当接した面3B,3C,4B,4Cの少なくとも一組を介してリングビット4に伝えられるので、第1の実施形態による上記掘削工法の実施形態と同様に強化部にリングビット4およびケーシングパイプ1を埋設して、その周囲に強化部が配設された状態でこの強化部を介して強固に根付けされるようにケーシングパイプ1が打設されることになる。
【0051】
このように、上記第2の実施形態の掘削工具および該掘削工具を用いた掘削工法でも、第1の実施形態およびその掘削工法と同様の効果を得ることができる。また、この第2の実施形態では、係合手段11によってリングビット4とケーシングパイプ1とを係合させるための操作がケーシングパイプ1を回転、前進させるだけでよいので、雌雄ネジ部8A〜8Dを螺合させることによる第1の実施形態の係合手段7と比べて操作が容易であるという利点も得られる。さらに、リングビット4とケーシングトップ3との係合が軸線O方向にも回転方向にも面3B,3C,4B,4Cや壁面12A,13Aの面同士の当接によるため、回転力や推力、打撃力を一層確実に伝達することも可能となる。
【0052】
なお、この第2の実施形態ではケーシングトップ3側に凹部12を、リングビット4側側に凸部13を形成しているが、これらは逆であっても、また双方に凹部12と凸部13とが形成されていてもよい。さらに、これら凹凸部12,13が形成される位置も、例えばリングビット4の後端部とケーシングトップ3の上記面3C側であってもよい。この場合には、図示の例よりも雌雄ネジ部14,15を先端側に形成すればよい。
【0053】
また、上記第1、第2の実施形態では、リングビット4を先端側に抜け止めするのに、このように雌雄ネジ部8A,8C,14,15を螺合させて後端側に通り抜けさせることにより互いの先後端を当接させて係止するようにしているが、単にリングビット4を回転自在としつつ抜け止めするだけなら、例えば上記特許文献1に記載されたようにケーシングトップ3とリングビット4の互いに対向する内外周面に、合致して断面例えばT字状の環状孔を画成する環状溝を形成して、この環状溝に係止部材を介装するすることによりリングビット4を係止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態の掘削工具を示す側断面図である。
【図2】図1に示す実施形態における係合手段7の非係合の状態を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示す実施形態における係合手段7の係合状態を示す拡大断面図である。
【図4】図1に示す実施形態による本発明の掘削工法の一実施形態を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の掘削工具を示す側断面図である。
【図6】図5に示す実施形態における係合手段11の非係合の状態を示す側面図である(パイプ本体2やチップ6等は図示が略されている。)。
【図7】図5に示す実施形態における係合手段11の係合状態を示す側面図である(パイプ本体2やチップ6等は図示が略されている。)。
【符号の説明】
【0055】
1 ケーシングパイプ
3 ケーシングトップ
4 リングビット
5 インナービット
6 チップ
7,11 係合手段
8A〜8D,14,15 雌雄ネジ部
12 凹部
13 凸部
O ケーシングパイプ1の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のケーシングパイプの先端にリングビットが該ケーシングパイプの軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側に抜け止めされつつこの軸線方向に進退可能に取り付けられるとともに、上記ケーシングパイプ内に挿入されて上記軸線回りに回転される伝達部材の先端には、上記リングビットの内周に挿入されて該リングビットと上記軸線方向先端側および該軸線回りに係合可能とされるインナービットが取り付けられてなる掘削工具において、
上記リングビットは上記ケーシングパイプに対して、係合手段により上記軸線回りの少なくとも1の回転方向と該軸線方向の少なくとも先端側とに向けて係合可能とされていることを特徴とする掘削工具。
【請求項2】
上記リングビットは上記ケーシングパイプの先端に、互いの内外周面を対向させて嵌挿されるとともに、該リングビットの上記軸線方向後端側を向く面を上記ケーシングパイプの先端側を向く面に対向させて取り付けられており、上記係合手段においては、上記内外周面に互いに螺合する少なくとも一対の雌雄ネジ部が形成されていて、これらのネジ部を上記軸線方向先端側を向く面と後端側を向く面同士が密着するまでねじ込むことにより、上記リングビットが上記ケーシングパイプに対して係合可能とされることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項3】
上記リングビットと上記ケーシングパイプの上記内外周面には、上記一対の雌雄ネジ部のうち一方のネジ部が形成された周面に、他方のネジ部と螺合可能な抜け止めネジ部が、上記軸線に沿った上記他方のネジ部のねじ込み方向後方側に上記一方のネジ部と間隔をあけて形成されていて、上記リングビットを上記ケーシングパイプの先端に取り付けた状態で、上記他方のネジ部が上記軸線方向においてこれら一方のネジ部と抜け止めネジ部との間に緩挿されることを特徴とする請求項2に記載の掘削工具。
【請求項4】
上記リングビットは上記ケーシングパイプの先端に、互いの内外周面を対向させて嵌挿されるとともに、該リングビットの上記軸線方向後端側を向く面を上記ケーシングパイプの先端側を向く面に対向させて取り付けられており、上記係合手段においては、上記内外周面に周方向に互いに対向する壁面を備えた凹凸部がそれぞれ形成されていて、上記軸線方向先端側を向く面と後端側を向く面同士が当接するとともに上記凸部が上記凹部に収容されて上記壁面同士が当接することにより、上記リングビットが上記ケーシングパイプに対して係合可能とされることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の掘削工具を用いた掘削工法であって、上記リングビットと上記インナービットとを係合させて上記軸線回りに回転させつつ該軸線方向先端側に前進させることにより掘削孔を形成しながら、この掘削孔に上記ケーシングパイプを建て込み、次いで上記係合手段によって上記ケーシングパイプとリングビットとを係合させるとともに上記伝達部材およびインナービットを引き抜き、しかる後、上記ケーシングパイプとリングビットとを上記1の回転方向に回転させるとともに上記軸線方向先端側に前進させて掘削を行うことを特徴とする掘削工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−190287(P2008−190287A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28205(P2007−28205)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】