説明

掘削泥水用添加剤及びそれを用いた掘削泥水

本発明は、土木建築における地中連続壁や基礎杭等の掘削に使用される掘削泥水に関して、濾水量を低減するとともに凝集沈降性が改善され、泥水安定性などの性能に優れた掘削泥水用添加剤及び該添加剤を含有する掘削泥水である。詳細には、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、アクリル酸及び/又はその塩を必須成分とする単量体混合物を重合して得られる高分子量の水溶性共重合体と低分子量の水溶性共重合体を併用した掘削泥水用添加剤、及び該添加剤を含有する掘削泥水である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は土木建築における地中連続壁や基礎杭等の掘削に使用される掘削泥水用添加剤及び掘削泥水に関するものである。更に詳しくは、特定の高分子量水溶性共重合体と低分子量水溶性共重合体からなることを特徴とし、腐敗などの性能劣化が無く、石膏やセメントなどの強アルカリ性を示す泥水に対しても安定性を有し、耐加圧濾水性及び耐凝集沈降性に優れた掘削泥水用添加剤、及び該添加剤を含有する掘削泥水に関する。
【背景技術】
土木建設工事において掘削を行う場合、壁面への水の浸透を抑え壁面の崩壊を抑止しながら、掘削の際に発生する土砂を運搬するために、掘削泥水が使用される。掘削泥水は、通常、ベントナイト、アタパルジャイト、セリナイトなどの無機系泥質及び用水をベースとし、泥水を安定化させるための掘削泥水調整剤を添加することで、工事現場の土質に適した泥水性状(粘度、比重、濾水量など)に設計され調製されている。
このうち掘削泥水の粘度と濾水量を調整するための掘削泥水用添加剤(あるいは調整剤)として、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース類が広く使用されているが、このようなセルロース類は腐敗を起こすため、調製した掘削泥水が経時的に劣化するという欠点を有している。
そこで、腐敗を起こさない低重合度(低分子量)のポリアクリル酸(塩)などの重合体やこれらの重合体とその他の成分との併用などが開示されている。(例えば、特開昭62−199682号公報、特開昭62−267388号公報及び特開平4−180989号公報など)。しかし、ポリアクリル酸(塩)では、セルロース類に比べると泥壁の形成性が劣るため濾水量が多くなるという欠点や、耐塩性が十分でないために、例えば作泥時の用水として硬度成分量の多い水又は海水を用いる場合や地中掘削部の泥水に多量の地下水や海水等が流入した場合、泥水の粘性が著しく損われゲル状となり、掘削が困難になる場合がある。
また、アクリル酸(塩)等の不飽和カルボン酸系単量体とスルホン酸基含有等の他の単量体との低分子量の共重合体を、掘削泥水用添加剤として使用したものも開示されている(例えば、特開2000−192026号公報、特開平2−185588号公報、特開平2−142883号公報及び特開昭58−104981号公報など)。これらの共重合体では、濾水量はかなり軽減されるが、石膏やセメントを含有するような強アルカリ性を示す泥水に対しては、泥水の増粘性が十分でないために添加量を多くする必要が有り、泥水が凝集、沈降や分離などを生じて不安定となり問題を起す場合がある。
そこで、アクリル酸(塩)やアクリル酸エステルなどを構成単位とし、分子量の異なる重合体を併用することで、分散性の側面と増粘性及び凝集性の側面の両立を試みたものが開示されている(特開昭58−84883号公報及び特開2001−146586号公報)。これらは、掘削泥水添加剤としての基本性能である分散性に加え、適度な増粘性及び凝集性などが維持された安定性を有する泥水を与えるが、石膏やセメントを含有するような強アルカリ性を示す泥水や多価金属塩や夾雑イオンを含有する泥水に対する安定性に問題点を残している。
【発明の開示】
本発明者らは、前記課題を解決するために様々な検討を行った結果、掘削泥水における濾水量を低減し、凝集沈降性が改善され、泥水安定性に優れた、特定の高分子量及び低分子量の水溶性共重合体から構成される掘削泥水添加剤が、前記課題を解決することを見出し本発明を完成させたのである。
すなわち、本発明は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、アクリル酸及び/又はその塩を必須単量体成分とする高分子量の水溶性共重合体と低分子量の水溶性共重合体とからなることを特徴とする掘削泥水用添加剤及び、該掘削泥水用添加剤とベントナイトを必須成分とする掘削泥水に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の掘削泥水用添加剤は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、アクリル酸及び/又はその塩を必須単量体成分とする単量体混合物を重合して得られる高分子量の水溶性共重合体及び低分子量の水溶性共重合体から構成される。
1.高分子量の水溶性共重合体
高分子量の水溶性共重合体では、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩の使用量は、全単量体の合計モル数を基準として2〜60モル%が好ましく、特に5〜30モル%が好ましい。2モル%未満では泥水に対する重合体の溶解性及び増粘性が十分でなく、60モル%を超えると泥水に対する重合体の溶解性は増すものの無機泥質が凝集沈殿して安定な泥水が得られない場合がある。
高分子量の水溶性共重合体でのアクリル酸及び/又はその塩の使用量は、全単量体の合計モル数を基準に、好ましくは40〜98モル%であり、特に70〜95モル%が好ましい。40モル%未満では泥水の安定性が十分でなく、98モル%を超えると泥水に対する重合体の溶解性を悪化させたり増粘性を低下させる。
2.低分子量の水溶性共重合体
低分子量の水溶性共重合体では、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩の使用量は、全単量体の合計モル数を基準として1〜40モル%が好ましく、特に3〜30モル%が好ましい。1モル%未満では泥水に対する重合体の溶解性及び分散性が十分でなく、40モル%を超えると泥水に対する重合体の溶解性は増すものの分散性が不十分な場合がある。
低分子量の水溶性共重合体でのアクリル酸及び/又はその塩の使用量は、全単量体の合計モル数を基準に、好ましくは60〜99モル%であり、特に70〜97モル%が好ましい。60モル%未満では分散性が十分でなく、99モル%を超えると泥水に対する重合体の溶解性を悪化させたり分散性を低下させる。
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びアクリル酸の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、又は、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。
3.その他の成分
上記の高分子量及び低分子量の共重合体は、各々の性能及び得られる共重合体の水溶性を大きく阻害しない範囲で、上記必須成分の他に共重合可能な単量体を用いることもできる。共重合可能な単量体には、アニオン性単量体、ノニオン性単量体等の親水性単量体とその他の単量体があり、それらの具体例として以下のものが挙げられる。
(1)アニオン性単量体
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸以外の(メタ)アクリルアミドアルキルアルカンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;メタクリル酸及びそのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等及びそれらのアルカリ金属塩;並びにビニルスルホン酸及びそのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等。
(2)ノニオン性単量体
(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等。
(3)その他単量体
スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール及びアリルアミン等。
4.共重合体の製造方法
上記の水溶性共重合体の合成は、通常の重合体の合成法で用いられる、ゲル重合法、水溶液重合法及び逆相懸濁重合法などの既に公知の方法が数々あるが、高分子量の水溶性共重合体の合成は、重合体を高分子量化し易いこと及び重合操作や分子量の調整が容易なことから、ゲル重合法が好ましい。一方、低分子量の水溶性共重合体の合成は、重合操作や分子量の制御が容易なことから、水溶液重合法が好ましい。重合操作はバッチ式でも連続式でもよい。ゲル重合法の連続式の具体例としては単量体水溶液を可動式ベルト上で連続的に重合させる連続ベルト重合法が挙げられる。一方、水溶液重合法の連続式の具体例としては、単量体水溶液を多段連続攪拌槽型反応器で連続的に重合させる方法が挙げられる。
重合開始剤としてはレドックス重合開始剤が好ましく、またレドックス重合開始剤の替わりに、光重合開始剤を含有させた単量体水溶液に紫外線等の活性エネルギー線を照射してラジカル重合させることもできる。
また、低分子量の水溶性重合体の合成では、上記の重合開始剤のほか、連鎖移動剤を用いることが好ましい。
重合開始剤の具体例としては、過硫酸ナトリウムや過硫酸カリウム等の過硫酸アルカリ金属塩、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、クメンヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。このとき、高分子量の水溶性共重合体では、遷移金属塩や亜硫酸水素塩、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)、アミン化合物等のレドックス形成用の還元剤を併用することが好ましい。また、低分子量の水溶性共重合体でも上記の還元剤を併用してもよい。
また、添加する重合開始剤の量は、使用する重合開始剤の種類や目的とする重合体の組成、重合度、粘度などに応じて調整されるが、高分子量の水溶性共重合体の場合、通常、全単量体の合計量を基準にして、5〜10,000質量ppmが用いられる。好ましくは10〜5,000質量ppm、特に15〜3,000質量ppmがより好ましい。一方、低分子量の水溶性共重合体の場合、通常、100〜100,000質量ppmが用いられる。好ましくは300〜50,000質量ppm、特に1,000〜30,000質量ppmがより好ましい。
連鎖移動剤としては上述した単量体の重合の際に、ポリマーラジカルから連鎖移動する物質であれば何れのものでもよく、特に制限はない。具体的には、2−メルカプトエタノール等のメルカプト化合物、亜硫酸及び亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸アルカリ金属塩又はその酸性塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。又、イソプロパノール等の比較的連鎖移動定数の高い溶剤を用いて重合した後、減圧処理により溶剤を除去後、水置換する方法等でもよい。
また、添加する連鎖移動剤の量は、使用する連鎖移動剤の種類や目的とする重合体の組成、重合度、粘度などに応じて調整されるが、本発明で用いる低分子量の水溶性共重合体の場合、通常、全単量体の合計量を基準にして、0.1〜30質量%が用いられる。好ましくは0.3〜20質量%、特に1〜10質量%がより好ましい。
高分子量の共重合体の合成で用いられるゲル重合法は、極めて高分子量の水溶性重合体を得るために、有機凝集剤用の高分子製造法において採用されている重合法であり、それによれば生成重合体はゲル状物で得られる。
ゲル重合法の技術的特徴は、単量体の水溶液濃度を20〜50質量%程度とし、かつ重合開始剤の使用量を微少量、すなわち1,000ppm以下にすることである。このような条件で初期反応液温度5〜10℃として重合を開始させると、反応液は高粘度なゲルに変換し、反応の途中からもはや攪拌および反応熱除去の操作ができなくなるが、その状態のまま一定時間放置することにより、通常最高到達温度80〜100℃を経た後、重合が完結し、目的とする高分子量の水溶性重合体が得られる。
ゲル重合法による重合反応で好ましい重合開始温度は0〜30℃、より好ましくは5〜20℃であり、好ましい重合到達温度は70〜105℃、より好ましくは80〜100℃である。この重合開始温度と重合到達温度の範囲に入るように単量体濃度を調整すればよい。また、好ましい重合時間は30分〜6時間程度である。
本発明は、高分子量の水溶性共重合体と低分子量の水溶性共重合体を併用するものであるが、高分子量の水溶性共重合体は増粘剤や凝集剤として広く用いられているものであるが、本発明において好ましくは、重量平均分子量が50万〜2,000万の高分子量の水溶性共重合体であり、より好ましくは重量平均分子量が100万〜1,000万の高分子量の水溶性共重合体である。また、低分子量の水溶性共重合体は分散剤、洗剤ビルダー、キレート剤等で広く使用されているものであるが、本発明において好ましくは、重量平均分子量が1,000〜10万の低分子量の水溶性共重合体であり、より好ましくは重量平均分子量が2,000〜5万の低分子量の水溶性共重合体である。なお、高分子量の水溶性共重合体と低分子量の水溶性共重合体の併用において、それぞれを1種類づつ単独で、或いは2種類以上を使用して併用することも可能である。なお、重合体の分子量は、ポリエチレンオキサイドを基準物質とする水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)による重量平均分子量である。
5.掘削泥水用添加剤及び掘削泥水
本発明の掘削泥水用添加剤として、高分子量水溶性共重合体と低分子量水溶性共重合体の使用割合は、通常、無機系泥質等を含んだ泥水の配合条件下で目的とする粘度の泥水となるように調整される。但し、配合する無機系泥質の種類や配合割合、セメントの配合の有無や配合割合によって泥水の粘度が大きく異なるために一概には言えないが、一般的には、掘削泥水に用いる用水1kgに対して各々の重合体の固形分量が、高分子量水溶性重合体では0.1〜30g、低分子量水溶性重合体では0.1〜100gが好ましい。高分子量水溶性重合体が0.1g未満であると増粘性が不足して目的の粘度に調整できない場合があり、30gを超えると増粘性は増すものの無機系泥質を凝集沈降させて安定な泥水が得られない場合がある。一方、低分子量水溶性重合体が0.1g未満であると分散性が不足して無機系泥質を凝集沈降させて安定な泥水が得られない場合があり、100gを超えてもそれに見合った効果はなく経済的に無駄である。
本発明における掘削泥水とは、当該分野で周知のもので無機系泥質が用水に分散したものであり、上記の水溶性共重合体からなる掘削泥水用添加剤を無機系泥質及び用水と併用することによって掘削泥水を得ることができる。その無機系泥質として、ベントナイト、アタパルジャイト,セリナイト,含水マグネシウムケイ酸塩などを挙げることができるが、効果の点でベントナイトが好ましい。また、ソイルセメント工法で使用されるセメントを多量に配合した泥水であってもよい。
本発明の掘削泥水における無機系泥質の配合割合は、掘削泥水に用いる用水1kgに対して、無機系泥質5〜300gであることが好ましい、より好ましくは10〜200gである。
掘削泥水のpHは3〜14の範囲に調節される必要があり、好ましくはpH6〜13である。pHが3未満の場合、目的とする粘度の泥水に調整するのに多量の高分子量水溶性重合体を添加する必要があったり、泥水の使用により設備類を腐食する恐れがあるため、好ましくない。pH調整が必要な場合、pH調整剤として、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、メチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン、メチルエチルアミン、モノイソプロピルアミン、フェントラミン、メチルプロピルアミン、ジイソプロピルアミンなどのアルキルアミン類、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、などのアルカノールアミン類、アンモニア、ピリジンなどを挙げられるが、なかでもアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩が好ましい。
本発明の掘削泥水用添加剤及び掘削泥水の調製方法において、掘削泥水用添加剤の使用方法、高分子量水溶性共重合体と低分子水溶性共量重合体の添加方法や添加順序等は特に制限はなく、掘削を行う時に双方の水溶性共重合体が掘削泥水中に存在していれば効果を発揮する。例えば、無機粘土類と用水を混合した掘削泥水に低分子量水溶性重合体を加えてよく混合し、その後、高分子量水溶性重合体を加えて混合する方法などが挙げられる。又、高分子量水溶性重合体と低分子量水溶性重合体を同時に添加することも可能である。後者の場合、高分子量水溶性重合体が粉末状の重合体であれば、粉末状の高分子量水溶性重合体を無機粘土類に予備混合したもの(A)と、用水に低分子量水溶性重合体を溶解した水相(B)とをそれぞれ準備しておき、掘削泥水の調製時に(A)と(B)を混合する方法が好ましい。また、必要に応じて他の掘削泥水調整剤や加重剤などの添加剤を併用することも可能である。但し、無機粘土類と用水を混合した掘削泥水に高分子量水溶性重合体を先に加えると、無機粘土類等が強固に凝集する場合があり、その後で低分子量水溶性重合体を加えても再分散させるのが困難となる恐れがあるので、この方法は好ましくない。
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
尚、以下の各例において、特に表示されていない場合の「%」は、「質量%」を意味する。
[重合体の製造]
[実施例1](重合体1の合成)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下、ATBS−Naという)の50質量%水溶液422.8g(30モル%相当)、アクリル酸ナトリウム(以下、ANaという)の36質量%水溶液160.6g(20モル%相当)、アクリル酸(以下、AAという)の110.8g(50モル%相当)及び純水305.8gを混合して単量体濃度38質量%の単量体水溶液1kgを調製した。この単量体水溶液をステンレス製デュアー瓶(反応容器)に仕込み、反応容器内の温度を10℃に温調しながら30分間窒素バブリングを行った。次いで重合開始剤として、t−ブチルハイドロパーオキサイド30ppm(全単量体の合計量に対しての質量基準に換算、以下同様)、過硫酸ナトリウム200ppm及びエリソルビン酸ナトリウム30ppmを添加し、そのまま8時間放置して断熱静置レドックス重合を行った。8時間の反応終了後、生成した含水ゲル状重合体を反応容器から取り出し、チョッパーに投入して挽肉状に細断した。細断された含水ゲルを熱風乾燥機で乾燥し、更に粉砕機で粉砕して目的とする粉末状の重合体1を得た。
[実施例2](重合体2の合成)
ATBS−Naの50質量%水溶液150.6g(10モル%相当)、ANaの36質量%水溶液257.5g(30モル%相当)、AAの142.0g(60モル%相当)及び純水449.9gを混合して単量体濃度31質量%の単量体水溶液1kgを調製した。それ以外は実施例1と同様に操作して目的とする粉末状の重合体2を調製した。
[実施例3](重合体3の合成)
ATBS−Naの50質量%水溶液80.1g(5モル%相当)、ANaの36質量%水溶液365.2g(40モル%相当)、AAの138.5g(55モル%相当)及び純水416.2gを混合して単量体濃度31質量%の単量体水溶液1kgを調製した。それ以外は実施例1と同様に操作して目的とする粉末状の重合体3を調製した。
[実施例4](重合体4の合成)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下、ATBSという)の40質量%水溶液187.5g(8モル%相当)、AAの300g(92モル%相当)及びイソプロパノール(以下、IPAという)の60質量%水溶液375gを混合して単量体水溶液862.5gを調製した。また、2−メルカプトエタノール25gとIPAの60質量%水溶液125gを混合して連鎖移動剤150gと、重合開始剤として過硫酸ナトリウムの6質量%水溶液104gをそれぞれ調製した。
次いで、還流冷却器、温度計、攪拌機を備えた容量3リットルのジャケット付きガラス製反応器に、IPAの60質量%水溶液375gを初期張りとして仕込み、反応器内の温度を85℃に温調しながら、攪拌下、上記で調製した単量体水溶液、連鎖移動剤及び重合開始剤を5時間掛けて連続滴下して、水溶液重合法により重合を行った。引き続き、公知の方法により追触及び熟成を2.5時間行った。冷却後、減圧処理してIPAを除去した後、純水を加えて濃度調整して目的とする固形分40質量%の重合体水溶液(重合体4)を得た。
○比較例1(比較重合体1の合成)
ANaの33質量%の単量体水溶液1kgを、ステンレス製デュアー瓶(反応容器)に仕込み、反応容器内の温度を10℃に温調しながら30分間窒素バブリングを行った。次いで、重合開始剤として、t−ブチルハイドロパーオキサイド90ppm、過硫酸ナトリウム200ppm及びエリソルビン酸ナトリウム90ppmを添加した。それ以外は実施例1と同様に操作して目的とする粉末状の比較重合体1を調製した。
[重合体の物性評価]
次に、実施例1〜4及び比較例1、並びにポリアクリル酸ナトリウム水溶液(東亞合成株式会社製;商品名「アロンT−40」、以下、T−40という)の物性を以下に示す方法に従って試験した。その結果を表1及び表2に示す。
(試験方法)
1)固形分
実施例1〜3及び比較例1で得られた重合体各々1.0gをアルミカップに計量し、105℃の乾燥機で3時間加熱して加熱減量から固形分を求めた。但し、実施例4で得られた重合体4及びT−40は、各々3.0gをアルミカップに計量し、155℃の乾燥機で45分間加熱して加熱減量から固形分を求めた。
2)粘度
純水500mlに実施例1〜3及び比較例1で得られた重合体を各々1.0gずつ加えて3時間攪拌し、十分に溶解して0.2質量%濃度の重合体水溶液を調製した。この重合体水溶液の粘度をB型粘度計(東京計器(株)製、形式:BM型)により、30℃、30rpmのローター回転数で測定した。
但し、実施例4で得られた重合体4及びT−40の粘度は、そのままの水溶液をB型粘度計(東京計器(株)製、形式:BM型)により、25℃、60rpmのローター回転数で測定した。
3)pH
上記の各々重合体水溶液のpHをpH計で測定した。
4)不溶解分
上記の各々重合体水溶液400mlを83meshのステンレス製標準篩(JIS Z8801、内径200mm)で、濾過し、篩上に残った不溶解物の容量を測定した。
5)重量平均分子量
実施例1〜4及び比較例1で得られた重合体1〜4及び比較重合体1並びにT−40の分子量は、溶質として硫酸ナトリウム(1.33g/l)と水酸化ナトリウム(0.33g/l)を含む水溶液を用いた水系GPC法により測定した。重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイドを基準物質として検量線を作成し算出した。


[掘削泥水の評価]
[実施例5]
2Lの樹脂製ビーカーに名古屋市上水道水1,000mlを仕込み、掘削泥水用添加剤として実施例1で得られた重合体1を0.538g(固形分量0.50g)と実施例4で得られた重合体4を25.0g(固形分量10.0g)とを攪拌機で攪拌しながら添加して十分に溶解した後、ベントナイト(中國ベントナイト鉱業製)20gとセメント280gを加えて更に均一になるまで攪拌してベントナイトとセメントを含有した目的とする掘削泥水を調製した。得られた液のファンネル粘度(500ml/500ml)、B型粘度及び加圧濾水量をそれぞれ測定し、それらの結果を表3に示した。なお、加圧濾水量はAPI規格(アメリカ石油協会規格)によるフィルタ−プレスによって加圧3kg/cm、30分間にて測定した。また、泥水の経時劣化の指標として、40℃にて5日間経過させた液を200rpmで20分間撹拌した後、ファンネル粘度、B型粘度及び加圧濾水量を測定した。
[実施例6〜9、及び比較例2〜11]
添加剤の種類及び添加量、泥水の処方を表3−1に示すように変更した以外は実施例5と同様にして掘削泥水を調製した。比較例には、ポリアクリル酸ナトリウム系の比較重合体1(高分子量の水溶性重合体)、アロンT−40(東亞合成株式会社製)、カルボキシメチルセルロース系のCMC1170、CMC1190(ダイセル化学製)を添加したものなどを用いた。
○比較例12
添加剤を添加しなかったこと以外は実施例5と同様にして掘削泥水を調製した。
表3−2に示すように、実施例の掘削泥水は比較例の掘削泥水に比べて良好な結果が得られた。
すなわち、掘削泥水用添加剤を含まない掘削泥水(比較例12)に比して、高分子量の水溶性共重合体として重合体1〜3、低分子量の水溶性共重合体として重合体4を用いた実施例5〜9では、調製された掘削泥水の濾水量が極めて少なく、且つ5日後においてもその性能は維持されており、耐加圧濾水性及び耐凝集沈降性に優れていた。
掘削泥水用添加剤として低分子量の水溶性共重合体(重合体4)のみを用いた比較例2では、耐凝集沈降性は確保されているものの、濾水量に若干の問題がある。また、掘削泥水用添加剤として高分子量の水溶性共重合体(重合体1)のみを用いた比較例3では、調製された掘削泥水が5日後には凝集してしまう問題があった。さらに、掘削泥水用添加剤として高分子量のポリアクリル酸ナトリウム(比較重合体1)、低分子量のポリアクリル酸ナトリウム(T−40)などを単独で、又は併用した比較例4及び5では、調製された掘削泥水の加圧濾水量が多く、且つ5日後には沈降・硬化してしまう問題があった。
そのほか、掘削泥水用添加剤としてカルボキシメチルセルロース系のCMC1170やCMC1190を含有する掘削泥水(比較例6〜11)は、セメントを含むような強アルカリ性を示す場合、加圧濾水量が多く、且つ5日後には沈降・硬化してしまう結果であった。


以上のように、各実施例で使用した掘削泥水用添加剤を含有する掘削泥水は、強アルカリ性を示す液体に対しても増粘効果に優れ、耐加圧濾水性及び耐凝集沈降性に優れた結果であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、腐敗等の経時的な劣化が少なく、掘削時に地下水やセメント等と接触又は混合しても、その掘削泥水の優れた耐凝集沈降性及び耐加圧濾水性により泥壁を形成せしめることができ、広く土木建築業界において工業的利用価値が極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、アクリル酸及び/又はその塩とを必須単量体成分とする単量体混合物を重合して得られる分子量が異なる2種類の水溶性共重合体からなることを特徴とする掘削泥水用添加剤。
【請求項2】
請求項1記載の水溶性共重合体が、重量平均分子量50万〜2,000万の高分子量の水溶性共重合体と、重量平均分子量1,000〜10万の低分子量の水溶性共重合体からなることを特徴とする掘削泥水用添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の掘削泥水用添加剤とベントナイトとを必須成分として含有する掘削泥水。

【国際公開番号】WO2005/007773
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511903(P2005−511903)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010431
【国際出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】