説明

掘削装置

【課題】低トルクで掘削できると共にドリルビットの交換作業性を向上できる掘削装置を提供すること。
【解決手段】反転歯車装置9により第1ドリルビット6の回転方向に対して第2ドリルビット8を逆回転にできるので、第1ドリルビット6により生じる回転反力を第2ドリルビット8で相殺し、回転反力を抑制できる。反転歯車装置9は筒体2に内設されているので、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、反転歯車装置9の大きさに制約を受けることなく、大きさや形状等を設定できる。これにより第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の掘削抵抗を減少させることができ、低トルクで掘削可能にできる。さらに、掘削により磨耗した第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、反転歯車装置9と無関係に新しいものと交換できるので、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の交換作業性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掘削装置に関し、特に、低トルクで掘削できると共にドリルビットの交換作業性を向上できる掘削装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、学術的な目的や資源探査等産業関連の目的で地質調査が行われている。地質調査では、掘削装置により地面を掘り進めて地下構造(地質)を調べることが行われる。掘削装置は、通常、切刃の回転力により地面を掘り進むので、切刃の動摩擦に起因する回転反力が発生する。掘削性能を安定に発揮させるには、その回転反力に抗して掘削装置を大地に対して固定する必要がある。そのため、掘削装置の重量を大きくしたり大地に強固に固設したりする必要があった。
【0003】
本発明者らは、この掘削装置に関する有用な技術を開発した(特許文献1)。特許文献1には、回転軸により一方向に回転される下部ドリルビットと、回転軸の回転を反転させる反転機構と、その反転機構が内蔵され下部ドリルビットと逆方向に回転される上部ドリルビットとを備える掘削装置が開示されている。この掘削装置では、下部ドリルビットの掘進により下部ドリルビットに動摩擦が生じ、それに起因して生じる回転反力が上部ドリルビットで相殺される。これにより下部ドリルビット及び上部ドリルビットの回転反力を抑制できる。その結果、掘削装置の質量を大きくする必要がなくなり、大地との固定も簡素化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−216130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、反転機構が上部ドリルビットに内蔵されているので、上部ドリルビットの大きさ(ドリル径)は反転機構の大きさ(直径)に制約を受けていた。ドリルビットが地面を掘削するときの掘削抵抗は、ドリルビットの掘削面の投影断面積に依存し、ドリルビットの投影断面積が大きくなるにつれ掘削抵抗が増加する。掘削抵抗が増加すれば、ドリルビットを回転駆動するためのトルクが増加する。トルクが増加すると、ドリルビットを回転駆動する駆動装置(モータ等)が大型化すると共に、駆動装置によって消費されるエネルギー量が増加する。
【0006】
また、掘削により磨耗したドリルビットは新しいものに交換する必要があるが、反転機構が上部ドリルビットに内蔵されているので、ドリルビットの交換作業が煩雑であった。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、低トルクで掘削できると共にドリルビットの交換作業性を向上できる掘削装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
この目的を達成するために請求項1記載の掘削装置によれば、入力軸は、少なくとも一部が筒体に内設され回転駆動される。その入力軸に第1出力軸の一端が連結され、第1出力軸の他端が筒体の軸方向先方に延設される。第1出力軸の他端に第1ドリルビットが取着されているので、入力軸の回転に伴い第1ドリルビットが回転する。
【0009】
一方、反転歯車装置の入力要素に入力軸から回転が入力され、入力要素と逆方向の回転が、反転歯車装置の出力要素により第2出力軸に出力される。第2出力軸は、第1出力軸に沿って同心状に配設され一端が筒体の軸方向先方に延設される。その第2出力軸の一端に第2ドリルビットが取着される。第2ドリルビットは反転歯車装置により第1ドリルビットと逆方向に回転する。掘進による動摩擦に起因して第1ドリルビット及び第2ドリルビットに回転反力が生じるが、この回転反力は第1ドリルビット及び第2ドリルビットにより相殺され抑制される。
【0010】
また、反転歯車装置は筒体に内設されているので、第1ドリルビット及び第2ドリルビットは、反転歯車装置の大きさに制約を受けることなく、大きさや形状等を設定できる。これにより、第1ドリルビット及び第2ドリルビットの掘削面の投影断面積を小さくすることができる。その結果、掘削抵抗を減少させることができ、第1ドリルビット及び第2ドリルビットを回転駆動するためのトルクを小さくできる。これにより、低トルクで掘削可能にできる効果がある。
【0011】
また、反転歯車装置は筒体に内設されており、第1ドリルビット及び第2ドリルビットは、筒体の軸方向先方に延設された第1出力軸および第2出力軸に取着されている。そのため、掘削により磨耗した第1ドリルビット及び第2ドリルビットは、反転歯車装置と無関係に新しいものと交換できる。これにより、第1ドリルビット及び第2ドリルビットの交換作業性を向上できる効果がある。
【0012】
請求項2記載の掘削装置によれば、筒体に駆動装置が内蔵され、その駆動装置により入力軸が回転駆動される。これにより駆動装置を別部材として準備する必要がなく、駆動装置を別部材として現地に搬送する必要もない。また、駆動装置が筒体に内蔵されているので、第1ドリルビット及び第2ドリルビットを回転させつつ筒体を軸方向先方へ移動させることで掘進できる。その結果、請求項1の効果に加え、掘削作業の準備に要する工数や掘削作業に伴う付帯作業を軽減できる効果がある。
【0013】
請求項3記載の掘削装置によれば、第2出力軸は第1出力軸の外周側に配設されるものであり、軸受により第2出力軸の外周部が筒体に対して回転可能に支持される。軸受は筒体に内設され、軸方向において反転歯車装置と第2ドリルビットとの間に位置される。
【0014】
ここで、反転歯車装置の歯車間には運動方向に一定のバックラッシュ(隙間)がある。このバックラッシュのために出力要素に一定のガタが生じる。これは、出力要素の回転が出力される第2出力軸の芯ぶれ、即ち第2ドリルビットの芯ぶれの原因となる。これを防止するため、軸方向において反転歯車装置と第2ドリルビットとの間に軸受を位置させる。これにより請求項1又は2の効果に加え、軸受を支点にして出力要素のガタを許容できるので、第2出力軸に現れる芯ぶれを抑制できる効果がある。
【0015】
請求項4記載の掘削装置によれば、軸受は、軸受から出力要素までの軸方向長さを、軸受から第2ドリルビットまでの軸方向長さより大きくする位置に配設されている。軸受から出力要素までの軸方向長さが軸受から第2ドリルビットの軸方向長さより長いので、それら軸方向長さの比率により、出力要素のガタに起因する第2ドリルビットの芯ぶれを小さくできる。これにより請求項3の効果に加え、第2ドリルビットの芯ぶれを小さくできる効果がある。
【0016】
請求項5記載の掘削装置によれば、反転歯車装置は、入力要素および出力要素に噛合し自転する遊星歯車と、その遊星歯車の公転を阻止しつつ筒体に対して固定される固定部材とを備えているので、入力要素の回転と逆方向に出力要素を回転させることができる。固定部材は、遊星歯車を支持するだけでなく、入力軸を回転駆動させる反力に抗して駆動装置を固定するものでもあるので、請求項2から4のいずれかの効果に加え、部品点数を削減することができ掘削装置を軽量化できる効果がある。
【0017】
請求項6記載の掘削装置によれば、軸方向先方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットは、軸線に平行な面に投影したときの後端部の投影線が、軸線と直交する軸直角方向線に対して、軸線から軸方向先方に向けて傾斜するものであり、軸方向後方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットは、軸線に平行な面に投影したときの先端部の投影線が、軸線と直交する軸直角方向線に対して、軸線から軸方向後方に向けて傾斜するものである。軸方向先方および軸方向後方に位置する第1ドリルビット及び第2ドリルビットの間をテーパ状にすることで、第1ドリルビットと第2ドリルビットとの間に掘削対象物が噛み込まれて掘削できなくなることを防止できる。これにより請求項1から5のいずれかの効果に加え、安定して掘削性能を発揮できる効果がある。
【0018】
請求項7記載の掘削装置によれば、軸方向先方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットは、後端部が、軸方向後方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットの先端部と、軸直角方向内側において軸方向に所定の隙間をあけて配設されているので、軸直角方向内側における第1ドリルビットと第2ドリルビットとの間隔を大きくできる。これにより、軸直角方向内側における掘削対象物の噛み込みを防止することができ、請求項6の効果に加え、より安定して掘削性能を発揮できる効果がある。
【0019】
請求項8記載の掘削装置によれば、第1ドリルビット及び第2ドリルビットは、外周に凹設される溝を備え、その溝により排土が行われるものである。軸方向後方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットの排土容量は、軸方向先方に位置する第1ドリルビット又は第2ドリルビットの排土容量より大きく設定されるので、詰まりなくスムーズに排土できる。これにより請求項1から7のいずれかの効果に加え、掘削力を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施の形態における掘削装置の断面図である。
【図2】掘削装置の一部を示した部分片側断面図である。
【図3】側面視における第1ドリルビット及び第2ドリルビットの模式図である。
【図4】第2実施の形態における掘削装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における掘削装置1の断面図(軸方向断面図)である。図1に示すように、掘削装置1は、筒体2と、その筒体2に内設される駆動装置3と、その駆動装置3により回転駆動される入力軸4と、その入力軸4に連結される第1出力軸5と、その第1出力軸5に取着される第1ドリルビット6と、第1出力軸5に沿って同心状に配設される第2出力軸7と、第2出力軸7に取着される第2ドリルビット8と、第1出力軸5及び第2出力軸7と連係される反転歯車装置9とを主に備えて構成されている。
【0022】
筒体2は、駆動装置3、反転歯車装置9等を収容するための部材であり、軸方向先方側(図1下側)が少し縮径されると共に、先端が開口し軸方向後方(図1上側)が有底の円筒状に形成されている。筒体2の軸方向先方に第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8が支持されているので、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の掘進が筒体2によりガイドされ、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の掘削方向の正確性を向上できる。
【0023】
駆動装置3は、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8を回転駆動するための装置であり、筒体2の後部側に内蔵されている。本実施の形態では、駆動装置3は電動モータにより構成されており、駆動装置3の後方の筒体2に内蔵される電池Bにより駆動可能に構成されている。なお、駆動装置3は、回転駆動力を発生できるものであれば電動モータに限定されるものではなく、他の駆動装置を採用できる。他の駆動装置としてはエンジン等を例示できる。また、筒体2に電池Bを内蔵することなく、外部の電源装置から駆動装置3に電力を供給することが可能である。これにより電池Bの質量分だけ掘削装置1を軽量化できる。
【0024】
入力軸4は、駆動装置3により回転駆動される軸部材であり、筒体2に内設され、駆動装置3から軸方向先方に向けて延設されている。第1出力軸5は、入力軸4から動力が伝達される軸部材であり、一端(後端)がスプライン結合により入力軸4に連結(直結)されている。第1出力軸5は入力軸4と同心状に配設され、他端(先端)が筒体2の軸方向先方に延設されている。
【0025】
第1ドリルビット6は、大地を掘削するための部材であり、略軸状体に形成され第1出力軸5の先端に固定されている。本実施の形態では、第1ドリルビット6は外形が側面視において略円錐状に形成されている。第1ドリルビット6を第1出力軸5に取着するには、第1出力軸5を第1ドリルビット6の中心に嵌挿した後、締結部材10を外周から螺入し第1出力軸5の外周に形成された孔部5aに係合させる。この締結部材10により第1ドリルビット6は第1出力軸5に着脱可能に固定される。
【0026】
第2出力軸7は、反転歯車装置9から動力が伝達される軸部材であり、第1出力軸5に沿って同心状に配設され、一端(先端)が筒体2の軸方向先方に延設されている。本実施の形態では、第2出力軸7は他端(後端)がフランジ状に外周側に張り出して形成されており、第2出力軸7の中心に第1出力軸5が貫設されている。第1出力軸5の先端に第1ドリルビット6が取着されるので、第2出力軸7が筒体2から軸方向先方に突出する軸方向長さは、第1出力軸5が筒体2から軸方向先方に突出する軸方向長さより短く設定されている。
【0027】
第2ドリルビット8は、第1ドリルビット6と共に大地を掘削するための部材であり、略軸状体に形成され第2出力軸7の先端に固定されている。本実施の形態では、第2ドリルビット8は外形が側面視において略円錐台状に形成されている。第2ドリルビット8は、第1ドリルビット6の軸方向後方に位置しているので、第2ドリルビット8の着脱は、第1ドリルビット6を第1出力軸5から取り外した状態で行われる。第2ドリルビット8を第2出力軸7に取着するには、第2出力軸7を第2ドリルビット8の中心に嵌挿した後、締結部材11を外周から螺入し第2出力軸7の外周に形成された孔部7aに係合させる。この締結部材11により第2ドリルビット8は第2出力軸7に着脱可能に固定される。
【0028】
第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、側面視において全体として略円錐状に形成されている。そのため第2ドリルビット8のドリル径の最大径(軸方向後方)は第1ドリルビット6のドリル径の最大径(軸方向後方)より大きく設定されている。また、第2ドリルビット8のドリル径の最大径は、内筒2の外径より大きく設定されている。これにより掘削装置1を軸方向先方(図1下側)に推進すると、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8により掘削される掘削対象物は筒部2の外周側に排出され、掘削装置1は掘進する。
【0029】
軸受12は、筒体2に対して第2出力軸7を回転可能に支持する部材であり、筒体2と第2出力軸7の外周部との間に介設されている。また、軸受12は筒体2に内設されると共に、軸方向において第2ドリルビット8と反転歯車装置9との間に位置している。
【0030】
反転歯車装置9は、複数の歯車を噛み合わせることで入力軸4から入力された回転を反転して出力するための装置であり、太陽歯車91、遊星歯車92、外輪歯車97及び固定部材94を主に備えて構成されている。太陽歯車91は、入力軸4の回転が入力される部材(入力要素)であり、第1出力軸5の一端(後端)と一体に形成される一方、太陽歯車91の周囲に少なくとも1つ以上配置された遊星歯車92と噛み合う。遊星歯車92は、太陽歯車91の回転方向を反転させるための部材であり、遊星歯車92を軸支する回転軸93は、筒体2に固定された固定部材94及びフランジ95に支持されている。
【0031】
固定部材94及びフランジ95は、遊星歯車92の回転軸93を支持する部材である。固定部材94及びフランジ95はそれぞれ入力軸4、第1出力軸5が貫設されるため、いずれも環状に形成されている。固定部材94は駆動装置3の軸方向先方に配置され、固定ピン96により筒体2に回転不能に固定されている。フランジ95も同様に固定手段(図示せず)により筒体2に回転不能に固定されている。これにより、遊星歯車92は軸心回りの移動が規制され、自転は許容される一方、公転は阻止される。
【0032】
なお、駆動装置3は、固定部材94の軸方向に貫設される固定ピン13により、固定部材94に回転不能に固定されている。これにより、固定部材94は遊星歯車92を支持するだけでなく、入力軸4を回転駆動させる反力に抗して駆動装置3を固定する。その結果、遊星歯車92及び駆動装置3の移動の規制をそれぞれ別部材により行う場合と比較して、部品点数を削減することができ掘削装置1を軽量化できる。また、部品点数を削減することで、部品を配置する筒体2内のスペースを削減できるので、筒体2を小型化することも可能である。
【0033】
外輪歯車97は、遊星歯車92の外側に配置され内周面に形成される歯車と遊星歯車92とが噛み合う部材(出力要素)であり、遊星歯車92の外側に回転可能に配設されている。外輪歯車97は、筒部2の内側で軸方向先方に延設され第2出力軸7の他端(後端)に連結されている。これにより、遊星歯車92が回転することにより、外輪歯車97及び第2出力軸7は太陽歯車91と逆方向に回転する。
【0034】
次に、以上のように構成される掘削装置1を用いた大地の掘削方法について説明する。掘削装置1の駆動装置3を駆動すると入力軸4が回転駆動される。その入力軸4に第1出力軸5の一端(後端)が直結されると共に第1出力軸5の他端(先端)が筒体2の軸方向先方に延設され、さらに第1出力軸5の他端(先端)に第1ドリルビット6が取着されているので、入力軸4の回転に伴い第1ドリルビット6が所定の方向に回転する。
【0035】
一方、反転歯車装置9の太陽歯車91に入力軸4から回転が入力されると、遊星歯車92により反転され、太陽歯車91と逆方向の回転が外輪歯車97により第2出力軸7の他端(後端)に出力される。第2出力軸7は第1出力軸5に沿って同心状に配設され一端(先端)が筒体2の軸方向先方に延設されており、第2出力軸7の一端に第2ドリルビット8が取着されているので、第2ドリルビット8は第1ドリルビット6と逆方向に回転する。
【0036】
駆動装置3を駆動させると、軸方向先方に位置する第1ドリルビット6の掘進による動摩擦に起因して回転反力が生じるが、この回転反力は軸方向後方に位置する第2ドリルビット8が逆回転することにより相殺される。これにより第1ドリルビット6の回転反力を抑制できるので、大地との固定を不要または簡素化できると共に掘削装置1を軽量化できる。なお、駆動装置3を駆動させる際、推進装置(図示せず)により筒体2を軸方向先方に推進させても良い。
【0037】
また、反転歯車装置9は筒体2に内設されているので、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、反転歯車装置9の大きさに制約を受けることなく、大きさや形状等を設定できる。これにより、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の掘削面の投影断面積(軸直角方向における)を小さくすることができる。その結果、掘削抵抗を減少させることができ、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8を回転駆動するための駆動装置3のトルクを小さくできる。これにより低トルクで掘削可能にできると共に、駆動装置3も小型・軽量化できる。
【0038】
その結果、掘削装置1を小型・軽量化できるため、直径3cm程度の小型の掘削装置1を製造することも可能となる。さらに1kgに満たない(但し電池Bの質量は除く)掘削装置1を製造することも可能となる。小型・軽量化が可能な掘削装置1は、重力が小さく地盤が軟弱な月面探査等において威力を発揮することが期待される。
【0039】
また、反転歯車装置9は筒体2に内設されており、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、筒体2の軸方向先方に延設された第1出力軸5及び第2出力軸7に取着されている。そのため、掘削により磨耗した第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、反転歯車装置9と無関係に、締結部材10,11を取り外すことによって新しいものと交換できる。これにより、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の交換作業性を向上できる。
【0040】
また、筒体2に駆動装置3が内蔵され、その駆動装置3により入力軸4が回転駆動されるので、駆動装置3を別部材として準備する必要がなく、駆動装置3を別部材として現地に搬送する必要もない。また、駆動装置3が筒体2に内蔵されているので、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8を回転させつつ、推進装置(図示せず)により筒体2を軸方向先方へ移動させることで掘進できる。その結果、掘削作業の準備に要する工数や掘削作業に伴う付帯作業を軽減できる。
【0041】
ここで、地質調査においては、掘削装置1の駆動装置3の回転数や掘削速度のデータを採取し、そのデータから、ドリルに加わる土圧や地盤強度(N値)を算出する方法がある。この場合にドリル(第2ドリルビット8)の芯ぶれが起こると、データにばらつきが生じるため、地盤強度(N値)等を正確に算出できないという問題がある。また、ドリル(第2ドリルビット8)の芯ぶれが起こると、掘削力の低下や掘削装置1の故障等の原因となる。
【0042】
ところで、掘削装置1が備える反転歯車装置9の歯車間には運動方向に一定のバックラッシュ(隙間)があるので、このバックラッシュのために外輪歯車97に一定のガタが生じる。これは、外輪歯車97の回転が出力される第2出力軸7の芯ぶれ、即ち第2ドリルビット8の芯ぶれの原因となる。
【0043】
この反転歯車装置9のバックラッシュに起因する第2出力軸7の芯ぶれを防止するため、掘削装置1は、軸方向において反転歯車装置9と第2ドリルビット8との間に軸受12を位置させ、その軸受12で筒体2に対して第2出力軸7を回転可能に支持する。その結果、軸受12を支点として外輪歯車97のガタを許容することで、第2出力軸7に現れる芯ぶれを抑制できる。これにより、第2ドリルビット8の芯ぶれを抑制できる。その結果、掘削装置1を用いた地盤強度の算出精度を向上できると共に、安定に掘削性能を発揮させることができる。さらに芯ぶれを少なくすることで、掘削装置1に故障を生じ難くすることができ信頼性を向上できる。
【0044】
この点について、図2を参照してさらに説明する。図2は掘削装置1の一部を示した部分片側断面図である。なお、図2では掘削装置1の軸方向後方の図示を省略している。軸受12は、軸受12(軸受12の中心)から外輪歯車97(外輪歯車97の軸方向の中心)までの軸方向長さL1を、軸受12(軸受12の中心)から第2ドリルビット8(第2ドリルビット8が第2出力軸7に取着される締結部材11)までの軸方向長さL2より長くする位置に配設されている(L1>L2)。ここで、外輪歯車97のガタの軸直角方向(図2左右方向)の大きさをGとすれば、それら軸方向長さの比率(L2/L1)により、外輪歯車97のガタによる第2ドリルビット8の芯ぶれはG×L2/L1と表すことができる。上述のとおりL1>L2なので、L2/L1<1である。軸受12を支点にすることで、芯ぶれをガタの大きさGよりも小さくすることができ、外輪歯車97のガタが第2ドリルビット8の芯ぶれに与える影響を小さくできる。
【0045】
次に図2を参照して、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8について説明する。軸方向先方(図2下側)に位置する第1ドリルビット6は、軸線aに平行な面(図2紙面)に投影したときの先端部61の投影線が軸線aに対して軸方向後方に向けて傾斜する。さらに、軸線aに平行な面に投影したときの後端部62の投影線が、軸線aと直交する軸直角方向線に対して、軸線aから軸方向先方(図2下側)に向けて傾斜する(θ1)。一方、軸方向後方に位置する第2ドリルビット8は、軸線aに平行な面に投影したときの先端部81の投影線が、軸線aと直交する軸直角方向線に対して、軸線aから軸方向後方(図2上側)に向けて傾斜する(θ2)。このように第1ドリルビット6の後端部62及び第2ドリルビット8の先端部81の間をテーパ状にすることで、第1ドリルビット6と第2ドリルビット8との隙間を確保し、第1ドリルビット6と第2ドリルビット8との間に掘削対象物が噛み込まれて掘削できなくなることを防止できる。これにより掘削装置1は、安定して掘削性能を発揮できる。
【0046】
また、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、軸直角方向内側(図2軸線a寄り)において、第1ドリルビット6の後端部62と第2ドリルビット8の先端部81とが軸方向に所定の隙間L3をあけて配設されている。その結果、軸直角方向内側における第1ドリルビット6と第2ドリルビット8との間隔を大きくできる。軸直角方向内側における間隔L3は、第1ドリルビット6の後端部62及び第2ドリルビット8の先端部81の間をテーパ状にするだけでは確保できないものである。これにより、第1ドリルビット6と第2ドリルビット8との間の軸直角方向内側における掘削対象物の噛み込みを防止することができ、掘削性能がより安定して発揮される。
【0047】
次に図3を参照して、さらに第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8について説明する。図3は、側面視における第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の模式図である。図3に示すように、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は略軸状体に構成され、第1ドリルビット6の先端部61は軸の先端が突起し鋭角状に形成されている。これにより、掘削を開始するときの掘削面の中心を正確に決めることができる。
【0048】
第1ドリルビット6は、掘削時に排土を行うための溝63が、ボデーの外周面に先端部61から後端部62に亘って螺旋状に形成されている。また、第2ドリルビット8においても、ボデーの外周面に先端部81から後端部82に亘って溝83が螺旋状に形成されている。なお、第1ドリルビット6と第2ドリルビット8とは逆方向に回転するため、溝63,83のねじれの向きは逆方向である。
【0049】
これにより、溝63,83により形成されるリーディングエッジで第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の外周面に切刃の機能が付与されるので、掘削装置1の掘削力を向上できる。さらに動摩擦が増加することで、掘削装置1を軸方向に推進させる機能を付与することができる。その結果、硬い地盤や軟弱な地盤に対しても掘削装置1の掘削性能を安定にできる。
【0050】
第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の溝63,83は、ドリル径に対して溝底64,84が深く形成されている。これにより溝63,83による排土性能を確保でき、その結果、掘削装置1の推進力を確保できる。なお、軸方向の任意の位置におけるドリル径に対する溝底64,84の径(軸方向から見た溝底63,83の内接円の直径)の比率は、0.15〜0.75が好適とされる。この比率が0.15より小さくなるにつれボデーの機械的強度が低下する傾向がみられ、0.75より大きくなるにつれ排土性能が低下する傾向がみられる。
【0051】
第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8は、リード(溝63,83によって形成されるリーディングエッジに沿って軸の回りを1周するとき軸方向に進む距離)を可能な限り小さくすることが望ましい。掘削時の軸方向力を大きくするためである。なお、第2ドリルビット8のドリル径(最大径)に対するリードの比率は、0.5以下が好適とされる。これにより、駆動装置3の限られたトルクで掘削装置1の掘削力と推進力とを両立させることができる。
【0052】
第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8に形成された溝63,83からの排土容量は、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8のリード、ドリル径、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の回転数等により決定される。第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の回転数は、反転歯車装置9の歯数比により主に決定される。これらを設定することで、第2ドリルビット8の排土容量が第1ドリルビット6の排土容量より大きくなるようにする。その結果、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8が掘削した掘削対象物を詰まりなくスムーズに排土でき、掘削力を向上できる。
【0053】
次に図4を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、入力軸4を回転駆動する駆動装置3が筒体2に内蔵される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、筒体102に駆動装置は内蔵されておらず、掘削装置101の外部に別部材として設けた駆動装置Fにより入力軸104が回転駆動される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は第2実施の形態における掘削装置101の断面図(軸方向断面図)である。
【0054】
図4に示すように、掘削装置101は、筒体102と、駆動装置Fにより回転駆動される入力軸104と、その入力軸104に直結される第1出力軸5と、その第1出力軸5に取着される第1ドリルビット6と、第1出力軸5に沿って同心状に配設される第2出力軸7と、第2出力軸7に取着される第2ドリルビット8と、第1出力軸5及び第2出力軸7と連係される反転歯車装置9とを主に備えて構成されている。
【0055】
筒体102は、反転歯車装置9等を収容するための部材であり、第1出力軸5にスプライン結合された入力軸104が軸方向後方に延設されている。入力軸104は軸方向後方が把持され、それに連結する外部の駆動装置Fにより回転駆動される軸部材である。入力軸104が回転駆動されることにより、第1実施の形態と同様に、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8が回転される。筒体102は軸方向後方の縮径部102aに推進装置Pが押し付けられ、推進装置P及び駆動装置Fが軸方向先方に推進することにより、掘削装置101は地面を掘り進む。掘削装置101は筒体102に駆動装置Fが内蔵されていないので、さらに小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0056】
なお、筒体102は、後端部(駆動装置Fと推進装置Pとの間)に配管(図示せず)が連通されており、この配管から空気、窒素等の気体が筒体102の内部に供給される。筒体102の内部に供給された気体は筒体102内を正圧に保ち、一部は排気口(図示せず)や部材と部材との隙間から排気される。これにより隙間から異物が筒体102内に侵入することが防止されると共に、排気によって筒体102、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8等を冷却することができ、掘削装置101の耐久性を高めることができる。
【0057】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0058】
上記各実施の形態では、反転歯車装置9の遊星歯車92の公転運動を伝達する遊星キャリヤ(固定部材94及びフランジ95が該当する)を筒体2に固定し、太陽歯車91を入力要素、外輪歯車97を出力要素とする場合について説明した。しかし、これに限られるものではなく、遊星歯車92の公転運動を伝達する遊星キャリヤ、太陽歯車91、外輪歯車97の3要素の内、いずれかを筒体2に固定し、残りの一方を入力要素、他方を出力要素とすることで、入力要素と逆方向の回転を出力要素から出力できれば、他の形態とすることは当然可能である。他の形態としては、例えば本実施の形態と同様に遊星キャリヤ(固定部材94及びフランジ95)を筒体2に固定し、入力軸4,104を外輪歯車97に連結して入力要素とし、太陽歯車91を出力要素とすることが挙げられる。
【0059】
また、上記各実施の形態では、反転歯車装置9が遊星歯車装置により構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の反転機構を採用することは当然可能である。他の反転機構としては、例えばベベル等の差動歯車機構等が挙げられる。
【0060】
上記各実施の形態では、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8が全体として略円錐状に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、掘削装置1,101に適用可能な他のドリルビットを採用することは当然可能である。他のドリルビットとしては、例えば円盤状、椀状等に形成されたドリルビットが挙げられる。
【0061】
また、上記各実施の形態では、第1ドリルビット6が第2ドリルビット8に対して軸方向先方に位置する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。反転歯車装置9における入力要素および出力要素の位置関係、第1出力軸5及び第2出力軸7の長さ、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の形状等によって、第1ドリルビット6を第2ドリルビット8に対して軸方向後方に位置させることは当然可能である。また、ドリルビット6及び第2ドリルビット8を軸方向の先方または後方に位置させるのではなく、第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の掘削面を、軸直角方向における同一面上に位置させるようにすることは当然可能である。いずれの場合も、掘削時の第1ドリルビット6及び第2ドリルビット8の回転反力を相殺できるからである。
【符号の説明】
【0062】
1,101 掘削装置
2,102 筒体
3 駆動装置
4,104 入力軸
5 第1出力軸
6 第1ドリルビット
61 先端部
62 後端部
63 溝
7 第2出力軸
8 第2ドリルビット
81 先端部
82 後端部
83 溝
9 反転歯車機構
91 入力要素(太陽歯車)
92 遊星歯車
94 固定部材
97 出力要素(外輪歯車)
12 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成される筒体と、
その筒体に少なくとも一部が内設されると共に回転駆動される入力軸と、
その入力軸に一端が連結され他端が前記筒体の軸方向先方に延設される第1出力軸と、
その第1出力軸に沿って同心状に配設され一端が前記筒体の軸方向先方に延設される第2出力軸と、
前記入力軸から回転が入力される入力要素と、その入力要素と逆方向の回転を前記第2出力軸に出力する出力要素とを備え、前記筒体に内設される反転歯車装置と、
前記第1出力軸の他端に取着される第1ドリルビットと、
前記第2出力軸の一端に取着されると共に前記第1ドリルビットと逆方向に回転する第2ドリルビットとを備えていることを特徴とする掘削装置。
【請求項2】
前記入力軸を回転駆動させる駆動装置を備え、
その駆動装置は、前記筒体に内蔵されていることを特徴とする請求項1記載の掘削装置。
【請求項3】
前記第2出力軸は、前記第1出力軸の外周側に配設されるものであり、
前記筒体に内設され、軸方向において前記反転歯車装置と前記第2ドリルビットとの間に位置すると共に、前記第2出力軸の外周部を前記筒体に対して回転可能に支持する軸受を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の掘削装置。
【請求項4】
前記軸受は、前記軸受から前記出力要素までの軸方向長さを、前記軸受から前記第2ドリルビットまでの軸方向長さより長くする位置に配設されていることを特徴とする請求項3記載の掘削装置。
【請求項5】
前記反転歯車装置は、
前記入力要素および前記出力要素に噛合し自転する遊星歯車と、
その遊星歯車の公転を阻止しつつ前記筒体に対して固定される固定部材とを備え、
その固定部材は、前記入力軸を回転駆動させる反力に抗して前記駆動装置を固定するものであることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の掘削装置。
【請求項6】
軸方向先方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットは、軸線に平行な面に投影したときの後端部の投影線が、軸線と直交する軸直角方向線に対して、軸線から軸方向先方に向けて傾斜するものであり、
軸方向後方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットは、軸線に平行な面に投影したときの先端部の投影線が、軸線と直交する軸直角方向線に対して、軸線から軸方向後方に向けて傾斜するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の掘削装置。
【請求項7】
軸方向先方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットは、後端部が、軸方向後方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットの先端部と、軸直角方向内側において軸方向に所定の隙間をあけて配設されていることを特徴とする請求項6記載の掘削装置。
【請求項8】
前記第1ドリルビット及び前記第2ドリルビットは、外周に凹設される溝を備え、その溝により排土が行われるものであり、
軸方向後方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットの排土容量は、軸方向先方に位置する前記第1ドリルビット又は前記第2ドリルビットの排土容量より大きく設定されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202193(P2012−202193A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71051(P2011−71051)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:イノベーション・ジャパン2010−大学見本市 主催者名:独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 開催日 :平成22年9月29日から平成22年10月1日まで
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】