説明

採血器具及び流路開閉手段

【課題】破断が速やかにできなかったり、封止部材の破断片が流路を塞いだり、破断屑が発生したりする等の懸念がなく、血液を層流の状態で移送することができる採血器具及び流路開閉手段を提供すること。
【解決手段】分岐管(13)と採血バッグ(4)間の採血チューブ(T1)の途中に、流路開閉手段(30、40)を配置し、当該流路開閉手段(30、40)は、内管(31、41)と外管(32、42)とから構成され、前記内管(31、41)は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、前記外管(32、42)は、前記採血チューブ(T1)と接続可能な材料より形成されている採血器具(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初流血液を採取するとともに、検査用血液の採取を容易に行うことのできる採血器具及び流路開閉手段に関する。流路開閉手段は、採血器具以外の医療分野、その他の一般産業分野にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
採血針から採取した血液を血液バッグに導入する際、供血者の穿刺位置をアルコール等で消毒を行うが、消毒を行なっても、皮膚や皮下に存在する細菌が採取した血液の中に混入することがある。
混入した細菌は、細菌の種類によっては、血液バッグを保存している間にも増殖し、細菌の増殖に気づくことなく輸血などに用いられると輸血された患者に感染症などを引き起こし、重篤な事態となるおそれもある。
そこで、採取された血液の細菌汚染防止を図ることができるように、特に採血時の初流の血液を除去するシステムが発明されるようになった。
【0003】
特許文献1から特許文献4には、血液を採取する採血針と、採取された血液を収納する採血バッグと、一方端が採血バッグに他方端が採血針にそれぞれ連通し、採取された血液を採血バッグへ導入する第1の流路(採血チューブ)と、分岐部を介して第1の流路から分岐し、末端に血液の取り出し口を有する第2の流路(初流血液チューブ)を有し、分岐部と採血バッグの間の第1の流路(採血チューブ)に、流路用封止手段(外付けのクランプ、破断すると流路が開通する封止部材)を装着した採血用器具の発明が開示されている。
【0004】
中でも特許文献2と特許文献3は、第1の流路(採血チューブ)の流路用封止手段として、外付けのクランプを使用した場合、作業者のクランプの閉め忘れ、これに伴う採血バッグへの採血初流の混入を確実に防止するために、流路用封止手段として、破断すると流路が開通する封止部材を使用するのが良いと明記されている。
特許文献5には、加熱によりブロッキングを生じない材質の弾性状内管(シリコーン樹脂)と当該内管を覆う可とう性外管(ポリ塩化ビニル)と、当該外管の端部に接続されるチューブとから構成される医療用チューブの発明が開示されている。
【0005】
また特許文献2と特許文献3のように、分岐部と採血バッグの間の第1の流路(採血チューブ)に、破断すると流路が開通する封止部材を装着する手段では、(1)破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がある。(2)第1の流路(採血チューブ)内に配置するため、第1の流路(採血チューブ)と異なる管状部材内に配置して、第1の流路(採血チューブ)に接続しないといけないので、構成が複雑になる。
特許文献5の発明のように、弾性状内管(シリコーン樹脂)は、オートクレーブ滅菌等より加熱しても収縮しないが、可とう性外管(ポリ塩化ビニル)は、オートクレーブ滅菌等により、加熱すると収縮するため、相互に密着しにくい。このため特許文献5の発明のように、可とう性外管(ポリ塩化ビニル)で、弾性状内管(シリコーン樹脂)を覆うまたは単に内管を外管に挿入するのみでは、相互の密着性に難がある。
密着性が弱いと液体(血液等)が弾性状内管(シリコーン樹脂)と、可とう性外管(ポリ塩化ビニル)の隙間に侵入し、残血、漏血等が懸念される。密着性を確実にするには、相互の接触面に溶剤等を塗布すればよいが、血液と接触させる部分なので溶剤等はできるだけ使用しないほうが好ましい。
【0006】
【特許文献1】特許3361440(特許請求の範囲、図1、9、10)
【特許文献2】特許3776227(特許請求の範囲、図1、2、11から13)
【特許文献3】特許3813974(特許請求の範囲、図1、2、5)
【特許文献4】特開2001−17539(特許請求の範囲、図1)
【特許文献5】実公平2−7573(実用新案登録請求の範囲、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、
特許文献2、3のように、破断すると流路が開通する封止部材を装着する手段では、(1)破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がある。(2)第1の流路(採血チューブ)の構成が複雑になる等の点である。
また特許文献5のように、可とう性外管(ポリ塩化ビニル)で、弾性状内管(シリコーン樹脂)を覆うまたは単に内管を外管に挿入するのみでは、相互の密着性に難があり、密着性が弱いと液体(血液等)が弾性状内管(シリコーン樹脂)と、可とう性外管(ポリ塩化ビニル)の隙間に侵入し、残血、漏血等が懸念される点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、供血者より血液を採取する採血針(8)と、
採取された血液を収納する採血バッグ(4)と、
一方端が前記採血バッグ(4)に他方端が前記採血針(8)にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ(4)へ導入する採血チューブ(T1)と、
当該採血チューブ(T1)に分岐管(13)を配置し、当該分岐管(13)に前記採取された血液の初流を除去する初流血液チューブ(T2)を接続した採血器具であって、
前記分岐管(13)と前記採血バッグ(4)間の前記採血チューブ(T1)の途中に、流路開閉手段(30、40)を配置し、
当該流路開閉手段(30、40)は、内管(31、41)と外管(32、42)とから構成され、
前記内管(31、41)は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、
前記外管(32、42)は、前記採血チューブ(T1)と接続可能な材料より形成されている採血器具(1)を提供する。
[2]本発明は、前記流路開閉手段(30、40)の前記外管(32、42)に流路開閉部材(50)を装着した[1]に記載の採血器具(1)を提供する。
[3]本発明は、内管(41)と外管(42)と接続管(45)から構成され、
前記内管(41)は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、
外管(42)と接続管(45)は、他の流体管(T1´)と接続可能な材料より形成し、
前記内管(41)と外管(42)の一端部は、前記接続管(45)の一端部に装着され、前記内管(41)の他方の端部は外管(42)の内壁面に装着した流路開閉手段(40)を提供する。
[4]本発明は、前記外管(42)は、本体(42H)の一端部に内筒(42T)を形成し、当該本体(42H)と内筒(42T)の間に溝部(42M)を形成し、
前記接続管(45)は、本体(45H)の一端部に内筒(45T)を形成し、当該本体(45H)と内筒(45T)の間に溝部(45M)を形成し、
前記内管(41)と外管(42)のそれぞれの一端部を、前記接続管(45)の溝部(45M)に装着し、
前記内管(41)の他方の端部を前記外管(42)の溝部(42M)に装着した[3]に記載の流路開閉手段(40)を提供する。
[5]本発明は、前記外管(42)に流路開閉部材(50)を装着した[3]または[4]に記載の流路開閉手段(40)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の採血器具1は、特許文献2から特許文献3に記載の発明で採用されている流路用封止手段(破断すると流路が開通する封止部材)の代わりに、流路開閉手段30、40[内管31、41と外管32、42とから構成され、内管31、41は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、外管32、42は、採血チューブT1と接続可能な材料より形成されている]を採用しているので、破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がなく、血液を層流の状態で移送することができる。
本発明の流路開閉手段40は、前記内管41と外管42の一端部は、前記接続管45の一端部に装着され、前記内管41の他方の端部は外管42の内壁面に装着されているので、溶剤等を使用しなくても内管41と外管42の密着性が向上し、液体は、内管41と外管42の隙間に入り込む余地はなく、確実に内管41の内側のみを通過することができるので、残血、漏血等の懸念がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の採血器具1の概略図、図2から図3は、流路閉塞手段30、40の一例とその使用例を示す概略図である。
[採血器具1]
本発明の採血器具1は、図1に例示するように、供血者より血液を採取する採血針8と、採取された血液を収納する採血バッグ4と、一方端が前記採血バッグ4に他方端が前記採血針8にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ4へ導入する採血チューブT1を有し、当該採血チューブT1に分岐管13を配置し、当該分岐管13に採取された血液の初流を除去する初流血液チューブT2を接続した採血器具であって、分岐管13と採血バッグ4間の採血チューブT1の途中に、流路開閉手段30、40を配置している。
【0011】
さらに詳述すれば、採血器具1は、例えば図1に示すように、採血バッグ4、採血初流除去セット2、血液フィルタ3、第1子バッグ5、第2子バッグ6及び赤血球保存液入バッグ7から構成される。
採血バッグ4の上流には、採血チューブT1が接続されている。採血チューブT1には、先端(上流)からその途中にわたって、採血針8、分岐管13が接続・配置されている。分岐管13には、初流血液導入チューブT2を介して採血初流除去セット2が接続される。
さらに採血バッグ4の下流には、連結チューブT3を介して血液フィルタ3及び第1子バッグ5を接続している。さらに第1子バッグ5は、連結チューブT4、接続管13b、連結チューブT5、T6を介して、第2子バッグ6、赤血球保存液入バッグ7を接続している。
採血バッグ4及び赤血球保存液入りバッグ7には、採血時または輸血保存時における血液の凝固の防止または保存のために、例えばACD液、CPD液、MAP液のような抗凝固剤または赤血球保存液を収納している。
採血初流除去バッグB及び採血バッグ4のバッグ類を構成する材料として、例えばポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等の可撓性合成樹脂が用いられる。
【0012】
[流路開閉手段30、40]
本発明の「流路開閉手段30、40」とは、内管31、41と外管32、42とから構成され、内管31、41は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、外管32、42は、採血チューブT1(他の流体管T1´)と接続可能な材料より形成されているものを意味する。
【0013】
[流路開閉手段30、40]
本発明に使用する流路開閉手段30、40の一例として、例えば図2から図3に例示するものが挙げられる。
図3の流路開閉手段40は、内管41と外管42と接続管45から構成され、
内管41は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、外管42と接続管45は、他の流体管(T1´)と接続可能な材料より形成されている。
さらに詳述すれば、図3に例示するように外管42は、本体42Hの一端部に内筒42Tを形成し、当該本体42Hと内筒42Tの間に溝部42Mを形成している。
接続管45は、本体45Hの一端部に内筒45Tを形成し、当該本体45Hと内筒45Tの間に溝部45Mを形成している。
そして内管41と外管42のそれぞれの一端部を、接続管45の溝部45Mに装着(固定)し、内管41の他方の端部を前記外管42の溝部42Mに装着(固定)している。
このように内管41と外管42の両端部を固定することにより、溶剤等を使用しなくても内管41と外管42の密着性が向上させることができる。このため液体は、内管41と外管42の隙間に入り込む余地はなく、確実に内管41の内側のみを通過することができるので、残血、漏血等の懸念がなくなる。
図3はあくまでも例示であり、内管41と外管42の両端部を固定でき、溶剤等を使用しなくても内管41と外管42の密着性が向上させることができる形態であれば、なんでも良い。
【0014】
内管31、41に好適な材料として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、特にシリコーン樹脂が好ましい。
外管32、42、接続管45に好適な材料として、採血チューブT1(他の流体管T1´)と接続可能なポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0015】
[流路開閉部材50]
流路開閉手段30、40の外管32、42の外周に流路開閉部材50を装着する。
流路開閉部材50は、公知のクランプを使用することができる。
例えば、いわゆる板クランプ(例えば実公平2−7573の図2参照)、いわゆるローラクランプ(例えば図1のクランプ11b参照)、いわゆるストップクランプ50C(例えば図1のクランプ11a参照)、または図示しないが例えばいわゆる略C状のクランプ/例えば特開2005−169146の図7、図8参照)等が挙げられる。
[板クランプの場合]
例えば図4に例示するように、流路開閉手段30、40の流路を開放する場合は、板クランプ50Aの装着溝56に装着し、流路を閉塞するときは、板クランプ50Aのスリット55側にスライドさせる。
[ローラクランプの場合]
流路開閉手段30、40の流路を開放する場合は、流路開閉手段30、40を押し潰さないように、ローラを緩めておき、流路を閉塞するときは、流路開閉手段30、40を押し潰す方向にローラを移動させる。
[ワンストップクランプ、略C字状クランプの場合]
流路開閉手段30、40の流路を開放する場合は、流路開閉手段30、40を押し潰さないようにクランプを開いておき、流路を閉塞するときは、流路開閉手段30、40を押し潰す方向にクランプをとじる。
【0016】
[採血器具1の使用例]
(1)初流血液の採血
流路開閉手段30(40)の流路を閉塞した状態で、供血者に採血針8を穿刺して、初流血液を採血針8、採血チューブT1、分岐管13、初流血液チューブT2を経て、採血初流除去バッグBに採取する。
(2)採血バッグ4への血液の採取
初流血液の採取が規定量に達した時点で、クランプ11aで、初流血液チューブT2の流路を閉じ、流路開閉手段30(40)の流路を開放して、初流血液採取後の血液を、採血針8から採血チューブT1、分岐管13を経て、採血バッグ4へ採取する。
本発明の流路開閉手段30(40)では、流路を開放時に、破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がなく、血液を層流の状態で移送することができる。
(3)最後に、バッグ本体21の血液溜内に貯留した血液を、バッグ本体21の出口に接続される真空採血管ホルダ22から真空採血管へと採取する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の採血器具の概略図
【図2】流路開閉手段の一例を示す概略図
【図3】流路開閉手段の一例を示す概略図
【図4】流路開閉部材の一例を示す概略図
【符号の説明】
【0018】
1 採血器具
2 採血初流除去セット
B 採血初流除去バッグ
3 血液フィルタ
4 採血バッグ
5 第1子バッグ
6 第2子バッグ
7 赤血球保存液入バッグ
8 採血針
10 針カバー
11a、11b クランプ
13a、13b 接続管
21 バッグ本体
22 真空採血管ホルダ
30、40 流路開閉手段
31、41 内管
32、42 外管
33、43 閉塞部材
45 接続管
42H、45H 本体
42T、45T 内筒
42M、45M 溝部
50 流路開閉部材
50A 板クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供血者より血液を採取する採血針(8)と、
採取された血液を収納する採血バッグ(4)と、
一方端が前記採血バッグ(4)に他方端が前記採血針(8)にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ(4)へ導入する採血チューブ(T1)と、
当該採血チューブ(T1)に分岐管(13)を配置し、当該分岐管(13)に前記採取された血液の初流を除去する初流血液チューブ(T2)を接続した採血器具であって、
前記分岐管(13)と前記採血バッグ(4)間の前記採血チューブ(T1)の途中に、流路開閉手段(30、40)を配置し、
当該流路開閉手段(30、40)は、内管(31、41)と外管(32、42)とから構成され、
前記内管(31、41)は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、
前記外管(32、42)は、前記採血チューブ(T1)と接続可能な材料より形成されている採血器具(1)。
【請求項2】
前記流路開閉手段(30、40)の前記外管(32、42)に流路開閉部材(50)を装着した請求項1に記載の採血器具(1)。
【請求項3】
内管(41)と外管(42)と接続管(45)から構成され、
前記内管(41)は、加熱によりブロッキングを生じることなく、外部からの圧力を受けても弾性回復力のある材料より形成され、
外管(42)と接続管(45)は、他の流体管(T1´)と接続可能な材料より形成し、
前記内管(41)と外管(42)の一端部は、前記接続管(45)の一端部に装着され、前記内管(41)の他方の端部は外管(42)の内壁面に装着した流路開閉手段(40)。
【請求項4】
前記外管(42)は、本体(42H)の一端部に内筒(42T)を形成し、当該本体(42H)と内筒(42T)の間に溝部(42M)を形成し、
前記接続管(45)は、本体(45H)の一端部に内筒(45T)を形成し、当該本体(45H)と内筒(45T)の間に溝部(45M)を形成し、
前記内管(41)と外管(42)のそれぞれの一端部を、前記接続管(45)の溝部(45M)に装着し、
前記内管(41)の他方の端部を前記外管(42)の溝部(42M)に装着した、請求項3に記載の流路開閉手段(40)。
【請求項5】
前記外管(42)に流路開閉部材(50)を装着した請求項3または請求項4に記載の流路開閉手段(40)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−206641(P2008−206641A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45249(P2007−45249)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】