説明

採血用器具

【課題】操作が簡単であり、採取された血液の細菌汚染を防止し、安全性を向上することができ、かつ検査用の血液を良好な状態で採取し得る採血用器具を提供する。
【解決手段】採血用器具1は、採血バッグ10と、採血針152と、これらに接続されたチューブ15とを有している。チューブ15の途中には、分岐コネクタ92が設けられ、分岐コネクタ92には、チューブ91の一端が接続されている。チューブ91の他端には、血液を一時的に収納するバッグ20が接続されている。また、バッグ20には、チューブ96の一端が接続され、このチューブ96の他端には、サンプリングポート71が設置されている。チューブ15にはクレンメ16が設けられ、チューブ91には封止部材93およびクレンメ95が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採血用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の採血(採血針から血液バッグ(採血バッグ)に採取された血液を導入する操作)においては、アルコール消毒等を行うが、それでも、皮膚上や皮下に存在する細菌が、血液とともに血液バッグの中に混入することがある。
【0003】
細菌の種類にもよるが、混入した細菌は、採取された血液が収納された血液バッグを冷蔵する間にも増殖し、そのことに気づかずにこの血液が輸血に供されると、輸血された患者に、感染症、敗血症が発症することがある。
【0004】
現在使用されている赤血球保存液(S.A.G.M.液、OPTISOL 液、M.A.P.液等)では、従来の血液保存液(ACD-A 液、CPD 液等の抗凝固剤)と異なりpHが比較的中性に近くなっている等のために、冷蔵時における細菌の増殖傾向が強い。
【0005】
これらの細菌は皮膚表面のみならず、皮下に棲む場合も多いことから、採血の直前に、念入りに採血穿刺部位を消毒するだけでは採取された血液への細菌の侵入を避けることは困難である。
【0006】
ここで経験的に、細菌は、採取された血液の初流(採血初流)に(多くは皮膚のかけらとともに)侵入することが判っている。
【0007】
しかしながら、この採血初流を除去することができる血液バッグや、採血用器具はいまだ存在しない(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平2−167173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、操作が簡単であり、採取された血液の細菌汚染を防止し、安全性を向上することができるとともに、検査用の血液を良好な状態で採取し得る採血用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) ドナーより血液を採取する採血針と、
前記採血針から採取された血液を収納する採血バッグと、
一端が前記採血バッグに他端が前記採血針にそれぞれ連通し、前記採血針から前記採取された血液を該採血バッグへ導入する第1のチューブと、
分岐部を介して前記第1のチューブから分岐し、血液を一時的に収納する収納部と、前記収納部に収納された血液の取り出し口とを備える第2のチューブとを有し、
前記採血針から採取された血液を前記採血バッグに採取する前に、前記血液の初流を前記第2のチューブに流入させて、前記収納部に所定量導入し、その後、前記収納部内に収納された血液を前記取り出し口を介して回収する採血用器具であって、
前記第2のチューブは、前記採血針と前記分岐部との間の前記第1のチューブと前記第2のチューブとにより形成される角度が鋭角になるように前記分岐部から分岐していることを特徴とする採血用器具。
【0011】
(2) 前記収納部は、可撓性を有する樹脂製シート材で構成された袋体である上記(1)に記載の採血用器具。
【0012】
(3) 前記収納部の容量は、10〜100mlである上記(1)または(2)に記載の採血用器具。
【0013】
(4) 前記収納部は、前記取り出し口の近傍に設けられている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の採血用器具。
【0014】
(5) 前記分岐部と前記採血バッグとの間の前記第1のチューブ内の流路を遮断した状態から開放し得る第1の流路用封止手段を有する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の採血用器具。
【0015】
(6) 前記第1の流路用封止手段は、破断すると前記第1のチューブ内の流路が開通する破断可能な封止部材である上記(5)に記載の採血用器具。
【0016】
(7) 前記分岐部と前記収納部との間の前記第2のチューブ内の流路を開放した状態から遮断し得る第2の流路用封止手段を有する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の採血用器具。
【0017】
(8) 前記第2のチューブは、前記分岐部から前記収納部への流れを可能にし、かつ、その逆方向の流れを阻止する逆流阻止手段を有する上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の採血用器具。
【0018】
(9) 前記第2のチューブは、一端が前記分岐部に他端が前記収納部の一端側にそれぞれ接続されたチューブを備え、前記収納部の他端側に前記取り出し口が設けられている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の採血用器具。
【0019】
(10) 前記取り出し口は、前記第2のチューブの端部に設けられている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の採血用器具。
【0020】
(11) 前記第2のチューブの流路は、横断面の面積が、前記第1のチューブの流路の横断面の面積より小さく設定されている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の採血用器具。
【0021】
(12) 当該採血用器具は、前記採血針から採取された血液の初流を前記第2のチューブに流入させて、前記収納部に所定量導入し、その後、前記血液を前記採血バッグに採取するのと並行して、前記収納部内に収納された血液を前記取り出し口を介して回収するものである上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の採血用器具。
【発明の効果】
【0022】
本発明の採血用器具によれば、第2のチューブは、採血針と分岐部との間の第1のチューブと第2のチューブとにより形成される角度が鋭角になるように、分岐部から分岐しているので、操作が簡単である。
【0023】
また、第2のチューブに血液を一時的に収納する収納部を有しているので、第1のチューブと第2のチューブの分岐部において、採血バッグ側に採血初流が残ってしまうことがなく、容易かつ確実に、採取された血液から採血初流を除去することができる。これにより、採取された血液やその採取された血液から分離された各血液成分中への細菌の混入が防止され、その安全性が向上する。
【0024】
また、血液をサンプリングする際(検査用の血液を採取する際)、血液に対し過度の負荷がかかるのを防止(例えば、溶血に代表される血中細胞へのダメージを防止)することができ、これにより、血液を良好な状態でサンプリングすることができる。
【0025】
また、血液をサンプリングする際、採取量の減少を抑制することができる。
また、収納部が第2のチューブに設けられているので、収納部が第2のチューブ以外の部位に設けられている場合(例えば、収納部が第2のチューブから分岐した第3のチューブに設けられている場合)に比べ、血液をサンプリングする際(検査用の血液を採取する際)の操作が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の採血用器具を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の採血用器具の第1実施形態を示す平面図である。
【0027】
同図に示すように、採血用器具1は、採取された血液を収納する採血バッグ10を有している。
【0028】
採血バッグ10は、例えば後述するポリ塩化ビニルのような軟質樹脂製の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁のシール部12において、融着(熱融着、高周波融着等)または接着し、袋状としたバッグ本体11を有している。
【0029】
このバッグ本体11のシール部12で囲まれる内側の部分に、採取された血液が収納される血液収納部13が形成されている。なお、採血バッグ10は、赤血球を保存する赤血球バッグとして兼用されることもあり、その場合には、血液収納部13には、最終的に濃厚赤血球が収納、保存される。
【0030】
バッグ本体11の上部には、ピールタブにより開封可能に封止された2つの開口部14、14が形成され、また、一方の開口部14の側部には、排出口18が形成されている。この排出口18には、封止部材(連結部材)17を介してチューブ61の一端が接続されている。封止部材17としては、後述する封止部材93と同様の構成のものを用いることができる。
【0031】
図示されていないが、前記チューブ61の他端側には、例えば、血漿バッグ、バフィーコートバッグ、血小板バッグ(薬液貯留バッグ)等の1または2以上のバッグが設けられていてもよい。すなわち、採血用器具がバッグ連結体を構成するようになっていてもよい。
【0032】
また、本発明では、前述した封止部材17、排出口18、チューブ61が省略されていてもよい。
【0033】
さらに、バッグ本体11の上部には、血液収納部13に連通するよう可撓性を有するチューブ15の一端が接続され、このチューブ15の他端には、ハブ151を介して採血針152が装着されている。また、ハブ151には採血針152を被包するキャップ153が装着される。なお、チューブ15の内腔により第1の流路の主要部が構成される。
【0034】
チューブ15の途中には、二股に分岐する分岐コネクタ(分岐部)92が設けられ、該分岐コネクタ92には、可撓性を有するチューブ91の一端が接続されている。
【0035】
ここで、図示の分岐コネクタ92は、ト字管であるが、本発明における分岐コネクタ92は、これに限らず、例えば、Y字管、T字管や、ト字管、Y字管の向きを逆にしたもの等であってもよい。
【0036】
また、チューブ15の分岐コネクタ92と採血バッグ10との間には、第1の流路用封止手段であるクレンメ(クランプ部材)16が設けられている。このクレンメ16は、好ましくは分岐コネクタ92の近傍に配置される。
【0037】
採血用器具1は、採取された血液を一時的に収納する収納部であるバッグ(袋体)20を有している。
【0038】
バッグ20は、例えば後述するポリ塩化ビニルのような軟質樹脂製の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁のシール部22において、融着(熱融着、高周波融着等)または接着し、袋状としたバッグ本体21を有している。
【0039】
このバッグ本体21のシール部22で囲まれる内側の部分に、収納部23が形成されている。
【0040】
バッグ本体21の一方の端部(図1中左側の端部)には、収納部23に連通するよう前記チューブ91の他端が接続されている。
【0041】
バッグ20の容量は、特に限定されず、回路を形成するチューブの内腔の空間容積(容積)等の諸条件を考慮して決定されるが、10〜100ml程度が好ましく、20〜50ml程度がより好ましい。
【0042】
バッグ20の容量が前記範囲未満であると、回路を形成するチューブの内腔の空間容積が比較的大きい場合等には、所定量の採取された血液を収納しきれないことがあり、前記範囲を超えると、採血用器具1が大型化し操作しにくくなる。
【0043】
また、チューブ91の途中には、封止部材(第2の流路用封止手段)93が設けられている。封止部材93の構成は、後に詳述する。
【0044】
また、チューブ91の封止部材93とバッグ20との間には、第2の流路用封止手段であるクレンメ(クランプ部材)95が設けられている。このクレンメ95は、好ましくはバッグ20の近傍に配置される。
【0045】
バッグ本体21の他方の端部(図1中右側の端部)には、収納部23に連通するよう可撓性を有するチューブ96の一端が接続され、このチューブ96の他端(端部)には、サンプリングポート(コネクタ)71が接続されている。サンプリングポート71の構成は、後に詳述する。なお、チューブ96および91の内腔により第2の流路の主要部が構成される。
【0046】
この採血用器具1では、チューブ96は、バッグ20のチューブ91と反対側に接続されているが、本発明では、チューブ96のバッグ20への接続部と、チューブ91のバッグ20への接続部の位置関係はこれに限らず、例えば、チューブ96が、バッグ20のチューブ91と同じ側(図1中左側)に接続されていてもよい。
【0047】
また、本発明では、サンプリングポート71が、バッグ20の例えば、図1中左側の端部または右側の端部に直接接続されていてもよい。
【0048】
前述したチューブ91、96の流路の横断面の面積は、チューブ15のそれより小さく設定されているのが好ましい。すなわち、チューブ91、96の内径をチューブ15の内径よりも小さくするのが好ましい。このようにすると、後述する採取された血液の採血バッグ10への導入において、チューブ91、96内に残る血液の量を少なくすることができる等の利点がある。
【0049】
また、チューブ96の長さは、チューブ91のそれより短く設定されているのが好ましく、特に、チューブ96内の空気の影響が実質的に無い程度に設定されているのが好ましい。すなわち、バッグ20は、サンプリングポート(血液の取り出し口)71の近傍に設置されているのが好ましい。
【0050】
また、前述した採血バッグ10内には、予め抗凝固剤が入れられていることが好ましい。この抗凝固剤は、通常液体であり、例えば、ACD−A液、CPD液、CPDA−1液、ヘパリンナトリウム液等が挙げられる。これらの抗凝固剤の量は、予定採血量に応じた適正な量とされる。
【0051】
次に、採血バッグ10およびバッグ20を構成するシート材、各チューブ15、61、91および96の構成材料等について説明する。
【0052】
[1]採血バッグ10について
採血バッグ10のバッグ本体11を構成するシート材の組成、特性等は、特に限定されない。
【0053】
この場合、採血バッグ10のシート材の構成材料としては、軟質ポリ塩化ビニルまたは軟質ポリ塩化ビニルを主とする材料(例えば、少量の他の高分子材料との共重合体、ポリマーブレンド、ポリマーアロイ等)が好ましい。
【0054】
この軟質ポリ塩化ビニルにおける可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジノルマルデシル(DnDP)等が好ましい。
【0055】
可塑剤のシート材中の含有量は、25〜50wt%程度が好ましく、30〜40wt%程度がより好ましい。
以上のようなシート材は、例えば次のような方法で製造することができる。
【0056】
混練機を用いて所定の材料を十分に混練し、該混練物をTダイあるいはサーキュラーダイを介して押し出し、得られた平坦なシート状物等に対し、サーモフォーミング、ブロー、延伸、裁断、端部のシール(融着)等の工程を順次行って、所望の形状・形態に加工する。
【0057】
また、シート間のブロッキングを防ぐためにシート(基材)表面を粗面化(エンボス加工)したり、ブロッキング防止剤、スリップ剤等を添加または付与するすることもできる。
【0058】
[2]バッグ20について
バッグ20のバッグ本体21を構成するシート材の組成、特性等は、特に限定されず、例えば、前記採血バッグ10におけるシート材と同様のものを用いることができる。前記採血バッグ10におけるシート材と同様のものを用いた場合には、用意するシート材の種類が少なくなり、製造上有利である。
【0059】
[3]チューブ15、61、91、96について
チューブ15、61、91、96の構成材料としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等、あるいはこれらを主とする材料が挙げられるが、そのなかでも特に、軟質ポリ塩化ビニルまたはこれを主とする材料が好ましい。
【0060】
各チューブが軟質ポリ塩化ビニル製であれば、十分な可撓性、柔軟性が得られるので取り扱いがし易く、また、クレンメ等による閉塞に適する。さらに、軟質ポリ塩化ビニル製チューブは、主材料を同じくするバッグのシート材との相溶性に優れるので、融着や接着によりこれらを接合する場合に、その接合強度が高く、かつ気密性に優れ、遠心分離操作に対する耐久性や無菌性の維持にとって好ましい。なお、各チューブに用いられる可塑剤の種類やその含有量は特に限定されない。
【0061】
ここで、チューブ91、96の内径、外径等の寸法は、特に限定されないが、内径が大きすぎたり、肉厚が薄すぎたり(外径/内径の比率が小さい)すると、チューブ91、96が、軟質であり、封止部材93と後述するキャップ76により密封されていることから、高圧蒸気滅菌を施した際に偏平形状に変形し易くなる。
【0062】
また、チューブ91、96の内径が比較的大きいと、チューブ91、96の内腔の空間容積(容積)が大きくなり、採血および血液サンプリングを行った際に、その空間容積のために、血液のロスを生じることがある。
【0063】
このチューブ内容積の問題への対策として、内径、外径とも比較的小さいチューブ91、96を使用するという方法もあるが、他の部材との接続(接合)の点で外径を小さくすることには限界があり、また、前述した高圧蒸気滅菌に際してのチューブ91、96の変形を十分に防止することができない。
【0064】
従って、このような問題を有効に解決するためには、チューブ91、96の内径は、好ましくは、0.5〜2.0mm程度、より好ましくは、0.8〜1.5mm程度とし、外径は、好ましくは、内径の2〜4倍程度、より好ましくは、内径の2.5〜3.5倍程度とするのがよい。
【0065】
また、チューブ91、96の内径が前記範囲未満であると、後述する減圧採血管85への血液のサンプリングにおいて、血液が円滑に流れず、血液の流量が不十分となる場合がある。血液の流量は、通常、1〜5μm /sec程度が好ましい。
【0066】
特に、チューブ91、96の外径については、他の部材との接続に最も適したサイズとして、4.0〜4.5mm程度とするのが好ましい。
【0067】
次に、封止部材17および93の構成について説明する。なお、各封止部材17および93の構成は、ほぼ同様であるので、代表的に封止部材93を説明する。
【0068】
図2は、封止部材93の構成例を示す縦断面図である。同図に示すように、封止部材93は、例えば軟質ポリ塩化ビニルのような可撓性を有する樹脂により構成された短チューブ930と、この短チューブ930内に液密に嵌入され、中実柱状部932によりその一端が閉塞された筒体931とで構成されている。
【0069】
短チューブ930の図2中上端部には、図2中上側のチューブ91の一端が液密に接続され、短チューブ930の図2中下端部には、図2中下側のチューブ91の一端が液密に接続されている。
【0070】
筒体931の外周には、薄肉で脆弱な破断部933が形成されている。手指等により短チューブ930の外部から短チューブ930ごと中実柱状部932を折り曲げて破断部933を破断し、中実柱状部932を分離することにより、流路が開通する。
【0071】
筒体931の構成材料としては、例えば、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル等の硬質材料が挙げられる。
【0072】
また、中実柱状部932の図中上方は、くさび形状をなし、その上端部(頂部)934は、幅方向の寸法が筒体931の外径より小さく、チューブ91の内径より大きい寸法とされ、中実柱状部932の破断分離後に中実柱状部932がチューブ91を閉塞しないような構成とするのが好ましい。さらに、図示のごとく、中実柱状部932の上端部934には、血液の流通を促進する溝935を設けてもよい。
【0073】
次に、サンプリングポート71の構成について説明する。図3は、サンプリングポート71の構成例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図3中の右側を「先端」、左側を「基端」と言う。
【0074】
同図に示すように、サンプリングポート71は、コネクタ本体73と、栓77と、キャップ76とで構成されている。
【0075】
コネクタ本体73の基端部732は、チューブ96の端部に液密に接続されている。
このコネクタ本体73の形状は、ほぼ円筒状であり、その外周面には、リブ74が立設されている。
【0076】
また、コネクタ本体73の先端部731には、針管が穿刺可能な栓(栓体)77が嵌入されている。前記針管としては、例えば、減圧採血管用採血器具の穿刺針(両頭針)、注射針等が挙げられる。
【0077】
そして、コネクタ本体73の先端側には、栓77を被包するキャップ76が装着される。なお、コネクタ本体73の先端側の栓77付近に、血液の取り出し口が形成される。
【0078】
コネクタ本体73およびリブ74の構成材料としては、それぞれ、例えば、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル等の硬質材料が挙げられる。
【0079】
また、栓77の構成材料としては、比較的容易に針管を穿刺し得る材料を用いるのが好ましく、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種ゴム材料が挙げられる。
【0080】
また、キャップ76の構成材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種ゴム材料が挙げられる。
【0081】
図4に示すように、このサンプリングポート71には、例えば、減圧採血管(容器)85のホルダー(減圧採血管用採血器具)82が接続され、このホルダー82と減圧採血管85とにより、血液の初流(採血初流)が減圧採血管85に回収される。
【0082】
ここで、減圧採血管85は、採血管本体86と、この採血管本体86に嵌入されているゴム栓87とで構成されている。減圧採血管85内は、真空または減圧状態になっている。
【0083】
そして、ホルダー82は、有底筒状のホルダー本体83と、このホルダー本体83と同心的に設置されている両頭針84とで構成されている。
【0084】
この場合、両頭針84には、雄ねじが形成された部材(ルアーアダプター841)が固着され、ホルダー本体83の底部(図4中左側端部)中央には、前記雄ねじと螺合する雌ねじが形成され、これらを螺合することにより、両頭針84が、ホルダー本体83に対し着脱自在に装着、固定される。
【0085】
なお、両頭針84の図4中左側の長さおよび図4中右側の長さは、それぞれ、栓77およびゴム栓87を十分に刺通できる長さに設定される。
【0086】
また、図示されていないが、両頭針84の、ルアーアダプター841を境とした少なくとも一方側に、それを被包する伸縮自在な(弾性材料の)被包部材が設置されていてもよい。これにより、両頭針84からの血液の漏れを防止することができる。
【0087】
次に、図1および図4に基づき、採血用器具1の作用(採血用器具を用いた血液処理方法)について説明する。
【0088】
図4に示すように、サンプリングポート71のコネクタ本体73からキャップ76を取り外して、サンプリングポート71の栓77にホルダー82の両頭針84を穿刺し、貫通させることにより、ホルダー82をサンプリングポート71に装着する。
【0089】
そして、この採血用器具1の採血バッグ10およびバッグ20を、それぞれ、採血針152を穿刺する部位より低い位置に設置する。
【0090】
次いで、図1に示すように、チューブ15をクレンメ16で圧閉し、その流路を閉塞させる(遮断する)。また、クレンメ95を開き、封止部材93とバッグ20との間のチューブ91の流路を開通(開放)させる。
【0091】
次いで、ハブ151からキャップ153を取り外し、ドナー(供血者)の静脈(血管)に採血針152を穿刺し、採血針152が静脈を捉えていることが確認されたら、ハブ151をテープ等で固定し、封止部材93の破断部933を破断して中実柱状部932を分離し、封止部材93内の流路を開通させる。
【0092】
これにより、採血初流(血液)は、採血針152、チューブ15の一部(採血針152から分岐コネクタ92までの部分)、分岐コネクタ92を経て、チューブ91へ流入し、このチューブ91を流れ、バッグ20の収納部23に導入される。この場合、チューブ15の流路は、クレンメ16で遮断されているので、血液は、チューブ15から分岐コネクタ92を経てチューブ91に流れ込む。
【0093】
また、この血液の導入の際は、その前に、チューブ15、91および分岐コネクタ92内の空気が、チューブ91の他端から排出され、バッグ20に回収される。
【0094】
これにより、チューブ15および91内の圧力や、チューブ15および91の内腔の容積は、ほぼ一定に保持され、血液細胞に対し過度の負荷がかかるのを防止することができ、よって、血液に溶血等が生じるのを防止することができる。
【0095】
また、血液が、分岐コネクタ92において、クレンメ16側に入り込んで残ってしまうこともない。
【0096】
このようにして、血液をバッグ20に所定量採血(採取)した後、チューブ91をクレンメ95で圧閉し、その流路を閉塞させる(遮断する)。
【0097】
次いで、採血バッグ10への採血を開始する。
この場合、クレンメ16を開き、チューブ15の流路を開通(開放)させる。これにより、採血された血液が、チューブ15を流れ、採血バッグ10の血液収納部13に導入される。
【0098】
また、この採血バッグ10への採血と並行して、バッグ20内に収納されている血液を減圧採血管85内に回収(サンプリング)する。
【0099】
この場合、減圧採血管85をホルダー82に挿入して、ホルダー82の最奥部まで押し込み、ホルダー82の両頭針84をゴム栓87に穿刺し、貫通させる。これにより、バッグ20内に収納されている血液は、チューブ96を流れ、減圧採血管85内に吸引され、回収される。この減圧採血管85への血液のサンプリング終了後、減圧採血管85をホルダー82から引き抜く。
【0100】
複数本の減圧採血管85へ血液のサンプリングを行う場合には、前述した操作を繰り返す。
【0101】
前記減圧採血管85への採血、すなわち、減圧採血管85への血液のサンプリング終了後、サンプリングポート71からホルダー82を取り外し、サンプリングポート71のコネクタ本体73にキャップ76を装着する。
【0102】
なお、サンプリングポート71のコネクタ本体73には栓77が嵌入されているので、この栓77により、血液の漏れ出しを防止することができる。
【0103】
また、前記採血バッグ10への採血において、血液を採血バッグ10に所定量採血した後、ドナーの血管から採血針152を抜き取り、ハブ151にキャップ153を装着し、必要に応じて、チューブシーラー等により、チューブ91や15を融着により封止し、封止部を切断し、サンプリングポート71側のチューブ91、15を分離、除去する。
【0104】
これにより、採血初流の除去された採取された血液が収納された採血バッグ10が得られる。
【0105】
前述したバッグ連結体の場合、この採血バッグ10に収納された採取された血液に遠心分離操作を行って、例えば、赤血球、バフィーコート、血漿のような複数の血液成分に分離し、分離された血液成分を、常法に従って、採血バッグ10に連結された所定の血液成分バッグへ移送する。
【0106】
一方、減圧採血管85内に回収された採血初流は、廃棄されるか、または、例えば、血清の生化学検査、感染症ウィルス(例えば、エイズ、肝炎等)の抗体検査等に用いることができる。
【0107】
以上説明したように、採血用器具1によれば、採血の際、容易かつ確実に、細菌感染の確率の高い採血初流を除去することができ、これにより、採取された血液やその採取された血液から分離された各血液成分への細菌の混入が防止され、安全性が向上する。
【0108】
なお、バッグ20を有していない場合には、減圧採血管85へ採血初流をサンプリングする際、採血初流が、分岐コネクタ92において、クレンメ16側に入り込んで残ってしまうことがあり、このサンプリングの後に採血バッグ10への採血を行う際、このクレンメ16側に残った採血初流が採血バッグ10内に混入するおそれがある。
【0109】
このようなクレンメ16側への血液の入り込みが生じる主な原因は、次の通りである。前記バッグ20を有していない場合には、採血初流をチューブ91に導入し、減圧採血管85へサンプリングする際、チューブ15、91内の空気の逃げ場がなく、その空気を外部へ排出することができないので、採血針152からサンプリングポート71までのチューブ15および91内を血液で満たすことができず、気液の界面がチューブ15または91の途中で停止する。この状態で、減圧採血管85を装着すると、減圧採血管85とサンプリングポート71とが連通した瞬間に、チューブ15および91内の空気が減圧採血管85内に吸引され、チューブ15および91の流路が急激に減圧状態になる。この回路内の減圧状態を常圧状態に回復するために、血液が回路中に満たされる。その際、クレンメ16側にも血液が入り込むと考えられる。
【0110】
しかし、この採血用器具1では、分岐コネクタ92とサンプリングポート71との間(第2の流路)にバッグ20を有しているので、前述したように、チューブ15および91内の空気をバッグ20内に逃がすことができ、このため、血液が、分岐コネクタ92において、クレンメ16側に入り込んで残ってしまうことがなく、よって、確実に、採血初流を除去することができる。
【0111】
また、バッグ20を有していない場合には、減圧採血管85へサンプリングされた血液に溶血が生じることがあり、この溶血により、血清中のナトリウムやカリウムの測定における測定精度が低下するおそれがある。
【0112】
この溶血を生じる主な原因は、次の通りである。前述したように、前記バッグ20を有していない場合には、血液をチューブ91に導入し、減圧採血管85へサンプリングする際、採血針152からサンプリングポート71までのチューブ15および91内を血液で満たすことができない。この状態で、減圧採血管85を装着すると、減圧採血管85とサンプリングポート71とが連通した瞬間に、チューブ15および91内の空気が減圧採血管85内に吸引され、チューブ15および91の流路が急激に減圧状態となる。この際、採血針152の位置や血管の柔らかさ等の要因の複合により、チューブ15および91が潰れ、その流路の断面積が縮小されることと、引圧が比較的大きい(吸引による血液の移動速度が比較的大きい)こととが組み合わさり、サンプリングされた血液中の細胞、特に赤血球に損傷が生じると考えられる。
【0113】
しかし、この採血用器具1では、分岐コネクタ92とサンプリングポート71との間にバッグ20を有しているので、前述したように、血液に溶血が生じるのを防止することができる。
【0114】
また、複数の減圧採血管85をホルダー82に付け替えて血液のサンプリングを行うのが通常であるが、バッグ20を有していない場合には、1本目の減圧採血管85では、その減圧採血管85のサンプリング可能量(減圧による吸引でサンプリング可能な最大量)に対して、実際にサンプリングした血液の量(サンプル量)が少なくなってしまう。サンプル量の不足は、検査項目数、検査精度、検査作業性等に悪影響を与えることになる。
【0115】
この主な原因は、前述したように、前記バッグ20を有していない場合には、血液をチューブ91に導入し、減圧採血管85へサンプリングする際、チューブ15、91内の空気の逃げ場がなく、その空気を外部へ排出することができないので、採血針152からサンプリングポート71までのチューブ15および91内を血液で満たすことができず、この状態で、減圧採血管85を装着すると、前記チューブ15、91内の空気が、減圧採血管85内に吸引され、回収されるためである。
【0116】
しかし、この採血用器具1では、前述したように、第2の流路のサンプリングポート71の近傍に血液を一時的に収納するバッグ20を有しており、このバッグ20内に収納されている血液を減圧採血管85へサンプリングするので、1本目の減圧採血管85内にチューブ96内の空気が吸引されたとしてもその量は少なく、このため、1本目の減圧採血管85へサンプリングし得る血液の量(サンプル量)をその減圧採血管85のサンプリング可能量に近づけることができる。
【0117】
また、バッグ20を第2の流路以外の部位に有する場合、例えば、バッグ20を第2の流路から分岐した第3の流路に有する場合には、採血初流をチューブ91に導入し、減圧採血管85へサンプリングする際、流路を切り替えるための操作(流路切替操作)を必要とするが、この採血用器具1では、前述したように、バッグ20が第2の流路に設置されているので、前記流路切替操作が不要であり、このため、前述した採血用器具1を用いた血液処理における操作が容易である。
【0118】
また、採血用器具1では、チューブ91に封止部材93が設けられているので、採血初流がチューブ91に流れ始める時期を自由に選択することができる。
【0119】
また、前述したように、チューブ91、96の内径を比較的小さくし(特に0.5〜2.0mm程度とし)、チューブ91、96の肉厚を比較的大きくすると(特に外径を内径の2〜4倍程度とすると)、高圧蒸気滅菌時のチューブ91、96の変形(潰れ)を抑制することができる。
【0120】
次に、本発明の採血用器具の第2実施形態を説明する。
図5は、本発明の採血用器具の第2実施形態を示す平面図である。なお、前述した採血用器具1との共通点については説明を省略し、主な相違点を説明する。
【0121】
同図に示すように、採血用器具1aは、チューブ96の他端、すなわちチューブ96の図5中右側の端部とサンプリングポート71との間に、逆止弁(逆流阻止手段)94を有している。
【0122】
図6は、逆止弁94の構成例を示す縦断面図、図7は、図6中のA−A線での断面図である。なお、以下の説明では、図6および図7中の右側を「基端」、左側を「先端」と言う。
【0123】
これらの図に示すように、逆止弁94は、例えば軟質ポリ塩化ビニルのような可撓性を有する樹脂により構成された短チューブ940と、弾性材料により構成された弁本体941とで構成されている。弁本体941は、短チューブ940内に液密に嵌入され、固定されている。
【0124】
短チューブ940の先端部には、サンプリングポート71が液密に接続され、短チューブ940の基端部には、チューブ96の端部が液密に接続されている。
【0125】
弁本体941は、チューブ96に連通し、血液の流路の一部となる中空部942を有している。この中空部942の先端部には、テーパ面943が形成されている。すなわち、中空部942の先端部の図6中上下方向の長さLは、基端側から先端側に向って漸減している。
【0126】
そして、弁本体941の先端部には、一対の板状の開閉部材944、944が形成されている。各開閉部材944、944は、弾性力、復元力により互いに密着し、これにより、逆止弁94内の流路は、閉塞している。血液流が先端側から基端側に向いている場合には、その血液により圧力が各開閉部材944、944の外面にかかり、開閉部材944同士を密着させるように作用する。このため、血液は、先端側から基端側には流れない。
【0127】
一方、血液流が基端側から先端側に向いている場合には、その血液により所定の圧力がテーパ面943の先端部にかかり、その圧力により各開閉部材944、944が離間する方向に変位し、逆止弁94内の流路が開通する。これにより、血液は、基端側から先端側に流れる。
【0128】
なお、弁本体941の構成材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の各種ゴム材料が挙げられる。
【0129】
この逆止弁94により、血液の逆流が阻止される。すなわち、血液は、サンプリングポート71から分岐コネクタ92側(バッグ20側)には流れずに、分岐コネクタ92(バッグ20)からサンプリングポート71側にのみ流れる。
【0130】
よって、バッグ20内に収納された血液を減圧採血管85へサンプリングする際、この逆止弁94により、血液のバッグ20側への逆流を阻止することができる。
【0131】
本発明では、逆止弁94の位置は、第2の流路であれば特に限定されないが、逆止弁94の位置は、前述したように、バッグ20よりサンプリングポート71側が好ましく、バッグ20とサンプリングポート71との間がより好ましい。
この採血用器具1aでも前述した採血用器具1と同様の効果が得られる。
【0132】
次に、本発明の採血用器具の第3実施形態を説明する。
図8は、本発明の採血用器具の第3実施形態を示す平面図である。なお、前述した採血用器具1aとの共通点については説明を省略し、主な相違点を説明する。
【0133】
同図に示すように、採血用器具1bは、チューブ91の途中、すなわちチューブ91の封止部材93とクレンメ95との間に、逆止弁(逆流阻止手段)94を有している。
【0134】
血液をバッグ20内に導入する際、この逆止弁94により、血液の分岐コネクタ92側への逆流を阻止することができる。
この採血用器具1bでも前述した採血用器具1aと同様の効果が得られる。
【0135】
次に、本発明の採血用器具の第4実施形態を説明する。
図9は、本発明の採血用器具の第4実施形態を示す平面図である。なお、前述した採血用器具1aとの共通点については説明を省略し、主な相違点を説明する。
【0136】
同図に示すように、採血用器具1cでは、第1の流路用封止手段が、破断すると第1の流路が開通する破断可能な封止部材19で構成されている。すなわち、採血用器具1cは、チューブ15の分岐コネクタ92と採血バッグ10との間に、封止部材(第1の流路用封止手段)19を有している。この封止部材19は、好ましくは分岐コネクタ92の近傍に配置される。
【0137】
この封止部材19としては、前述した封止部材93と同様の構成のものを用いることができる。
【0138】
また、前述した採血用器具1aと同様に、採血用器具1cは、チューブ96の他端、すなわちチューブ96の図9中右側の端部とサンプリングポート71との間に、逆止弁(逆流阻止手段)94を有しており、バッグ20内に収納された血液を減圧採血管85へサンプリングする際、この逆止弁94により、血液のバッグ20側への逆流を阻止することができる。
この採血用器具1cでも前述した採血用器具1aと同様の効果が得られる。
【実施例】
【0139】
次に、本発明の採血用器具の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
図1に示す採血用器具1を用意した。バッグ20の容量は、20mlとした。この採血用器具を用いて、前述した方法により、採血初流を一旦バッグ20内に収納し、この後、血液を採血バッグ10に200ml採取するとともに、バッグ20内に収納されている採血初流を減圧採血管85に回収(サンプリング)した。なお、サンプリング可能量が10mlの減圧採血管を使用した。
【0140】
(実施例2)
図5に示す採血用器具1a(バッグ20の容量は、20ml)を用意し、実施例1と同様に、前述した方法により、血液を採血バッグ10に200ml採取し、また、採血初流を減圧採血管85に回収(サンプリング)した。なお、サンプリング可能量が10mlの減圧採血管を使用した。
【0141】
(実施例3)
図8に示す採血用器具1b(バッグ20の容量は、20ml)を用意し、実施例1と同様に、前述した方法により、血液を採血バッグ10に200ml採取し、また、採血初流を減圧採血管85に回収(サンプリング)した。なお、サンプリング可能量が10mlの減圧採血管を使用した。
【0142】
(実施例4)
図9に示す採血用器具1c(バッグ20の容量は、20ml)を用意し、実施例1と同様に、前述した方法により、血液を採血バッグ10に200ml採取し、また、採血初流を減圧採血管85に回収(サンプリング)した。なお、サンプリング可能量が10mlの減圧採血管を使用した。
【0143】
(比較例1)
バッグ20およびクレンメ95が省略されている他は、実施例1とほぼ同様の構造の採血用器具を用意した。この採血用器具を用いて、直接、採血初流を減圧採血管85に回収(サンプリング)し、この後、血液を採血バッグ10に200ml採取した。なお、サンプリング可能量が10mlの減圧採血管を使用した。
【0144】
(比較例2)
分岐コネクタ92、チューブ91、封止部材93、クレンメ95およびバッグ20が省略されている他は、実施例1とほぼ同様の構造の採血用器具を用意した。この採血用器具を用いて、常法により、血液を採血バッグ10に200ml採取した。
【0145】
前記実施例1〜4および比較例1、2のいずれの場合も、ドナーに対して、採血1週間前より1回/日、穿刺予定部位に、Yersinia enterocolitica の菌液(リン酸緩衝液懸濁液:濃度100cfu/ml)を綿棒で塗布した。また、採血まで当該穿刺予定部位を洗わなかった。
【0146】
次に、前記実施例1〜4および比較例1、2において採血バッグに収納された採取された血液を用いて、下記の細菌培養試験を行った。
【0147】
[細菌培養試験]
採血バッグ中の血液200mlを混和後に、採血バッグ10の開口部14に操作アダプターを刺し、シリンジおよびそれに装着された針とを用いて、操作アダプターのゴム部から血液を無菌的に約50mlサンプリングし、その血液を培地が収納されているガラス製容器に注入し、培養に供した。
【0148】
検査数(ドナー数)25に対し、培養後、細菌を検出したものの数(細菌検出数)を調べた。なお、培地や、培養の諸条件は、下記の通りである。
【0149】
培地:Brain Heart Infusion w/PAB and CO2,Under Vacuum (Difco 社製)
培地量:50ml
培養温度:25〜30℃
観察期間(培養期間):10日
この細菌培養試験の結果を下記表1に示す。
【0150】
【表1】

【0151】
<結果の考察>
実施例1〜4では、採血初流をバッグ20内に導入する際、チューブ内の空気をバッグ20内に逃がすことができ、これにより、チューブ内の圧力およびチューブの内腔の容積をほぼ一定に保持することができたので、血液が、分岐コネクタ92において、クレンメ16側に入り込んで残ってしまうことがなく、このため、いずれも採取された血液から採血初流がほぼ完全に除去され、よって、上記表1に示すように、細菌検出数は0であった。
【0152】
これに対し、比較例2では、採取された血液が採血初流を含んでいるため、細菌検出数が多かった。
【0153】
また、比較例1では、減圧採血管へ採血初流をサンプリングする際、チューブ内の空気を外部へ排出することができないので、採血針からサンプリングポートまでのチューブ内を血液で満たすことができない。このため、減圧採血管を装着した直後、減圧状態を常圧状態に回復するために、血液が回路中に満たされる。その際、クレンメ16側にも血液が入り込んで残ってしまう場合があり、それが採取された血液中に混入してしまい、細菌検出数を0とすることはできなかった。
【0154】
また、前記実施例1〜4および比較例1において、減圧採血管85にサンプリングされた血液サンプルの溶血の度合い(溶血検出数)およびサンプル量の平均値を下記表2に示す。
【0155】
血液サンプルの溶血の度合いの検査は、次のように行った。血液凝固後、3000rpm、10分間の遠心処理にて血清を分離し、その血清の色調を目視観察した。そして、赤色の色調によって、下記溶血なし(レベル0)、微溶血(レベル1)および溶血(レベル2)の3ランクで判断した。
【0156】
溶血なし(レベル0):赤色の色調が認められない。
微溶血(レベル1) :わずかに赤色の色調が認められる。
溶血(レベル2) :赤色の色調が認められる。
【0157】
上記微溶血(レベル1)および溶血(レベル2)をそれぞれ「溶血あり」とし、この溶血ありの検出数(溶血検出数)を求めた。
【0158】
【表2】

【0159】
<結果の考察>
実施例1〜4では、採血初流をバッグ20内に導入する際、チューブ内の空気をバッグ20内に逃がすことができ、これにより、チューブ内の圧力およびチューブの内腔の容積をほぼ一定に保持することができたので、血液に対し過度の負荷がかかることがなく、よって、上記表2に示すように、溶血が生じない。すなち、実施例1〜4では、微溶血(レベル1)および溶血(レベル2)が0件であった。
【0160】
また、実施例1〜4では、サンプリングポートの近傍に設けられているバッグ20内に採血初流を一旦収納し、その血液を減圧採血管へサンプリングしたので、上記表2に示すように、サンプル量は、ほとんど減少しない。
【0161】
これに対し、比較例1では、溶血が認められた。すなわち、微溶血(レベル1)が10件あった。これは、比較例1では、採血針からサンプリングポートまでのチューブ内を血液で満たすことができないので、減圧採血管を装着した瞬間に、チューブ内の空気が減圧採血管内に吸引され、チューブ内が減圧状態となり、チューブが潰れ、血液がこのチューブを流れる際、赤血球等に損傷が生じたものと推定される。
【0162】
また、比較例1では、採血針からサンプリングポートまでのチューブ内を血液で満たすことができず、この状態で、減圧採血管を装着して血液をサンプリングするので、チューブ内の空気が減圧採血管内に吸引され回収されてしまい、このためサンプル量が2ml減少した。なお、比較例1におけるサンプル量の減少分は、チューブ長30cmの空間容積に対応したものであった。
【0163】
以上、本発明の採血用器具を、図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。
【0164】
例えば、本発明では、前記各実施形態の所定の構成(構成要件)を適宜組み合わせてもよい。
【0165】
また、本発明では、分岐部は、図示のような分岐コネクタに限らず、例えば、3方活栓のような多方活栓で構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の採血用器具の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明における封止部材の構成例を示す縦断面図である。
【図3】本発明におけるサンプリングポートの構成例を示す縦断面図である。
【図4】図3に示すサンプリングポートの先端部、減圧採血管およびそのホルダーを示す縦断面図である。
【図5】本発明の採血用器具の第2実施形態を示す平面図である。
【図6】本発明における逆止弁の構成例を示す縦断面図である。
【図7】図6中のA−A線での断面図である。
【図8】本発明の採血用器具の第3実施形態を示す平面図である。
【図9】本発明の採血用器具の第4実施形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0167】
1、1a、1b、1c 採血用器具
10 採血バッグ
11 バッグ本体
12 シール部
13 血液収納部
14 開口部
15 チューブ
151 ハブ
152 採血針
153 キャップ
16 クレンメ
17 封止部材
18 排出口
19 封止部材
20 バッグ
21 バッグ本体
22 シール部
23 収納部
61 チューブ
71 サンプリングポート
73 コネクタ本体
731 先端部
732 基端部
74 リブ
76 キャップ
77 栓
82 ホルダー
83 ホルダー本体
84 両頭針
841 ルアーアダプター
85 減圧採血管
86 採血管本体
87 ゴム栓
91 チューブ
92 分岐コネクタ
93 封止部材
930 短チューブ
931 筒体
932 中実柱状部
933 破断部
934 上端部
935 溝
94 逆止弁
940 短チューブ
941 弁本体
942 中空部
943 テーパ面
944 開閉部材
95 クレンメ
96 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーより血液を採取する採血針と、
前記採血針から採取された血液を収納する採血バッグと、
一端が前記採血バッグに他端が前記採血針にそれぞれ連通し、前記採血針から採取された血液を該採血バッグへ導入する第1のチューブと、
分岐部を介して前記第1のチューブから分岐し、血液を一時的に収納する収納部と、前記収納部に収納された血液の取り出し口とを備える第2のチューブとを有し、
前記採血針から採取された血液を前記採血バッグに採取する前に、前記血液の初流を前記第2のチューブに流入させて、前記収納部に所定量導入し、その後、前記収納部内に収納された血液を前記取り出し口を介して回収する採血用器具であって、
前記第2のチューブは、前記採血針と前記分岐部との間の前記第1のチューブと前記第2のチューブとにより形成される角度が鋭角になるように前記分岐部から分岐していることを特徴とする採血用器具。
【請求項2】
前記収納部は、可撓性を有する樹脂製シート材で構成された袋体である請求項1に記載の採血用器具。
【請求項3】
前記収納部の容量は、10〜100mlである請求項1または2に記載の採血用器具。
【請求項4】
前記収納部は、前記取り出し口の近傍に設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の採血用器具。
【請求項5】
前記分岐部と前記採血バッグとの間の前記第1のチューブ内の流路を遮断した状態から開放し得る第1の流路用封止手段を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の採血用器具。
【請求項6】
前記第1の流路用封止手段は、破断すると前記第1のチューブ内の流路が開通する破断可能な封止部材である請求項5に記載の採血用器具。
【請求項7】
前記分岐部と前記収納部との間の前記第2のチューブ内の流路を開放した状態から遮断し得る第2の流路用封止手段を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の採血用器具。
【請求項8】
前記第2のチューブは、前記分岐部から前記収納部への流れを可能にし、かつ、その逆方向の流れを阻止する逆流阻止手段を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の採血用器具。
【請求項9】
前記第2のチューブは、一端が前記分岐部に他端が前記収納部の一端側にそれぞれ接続されたチューブを備え、前記収納部の他端側に前記取り出し口が設けられている請求項1ないし8のいずれかに記載の採血用器具。
【請求項10】
前記取り出し口は、前記第2のチューブの端部に設けられている請求項1ないし9のいずれかに記載の採血用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−175534(P2007−175534A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89888(P2007−89888)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【分割の表示】特願平11−195835の分割
【原出願日】平成11年7月9日(1999.7.9)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】