説明

探査レーダ用アンテナ

【課題】比較的浅い領域の探査における探査画像の分解能を高める。
【解決手段】埋設物探査装置1に設けられた探査レーダ用アンテナ10は、基板17上に、二つの円形エレメント導体を並べた円形アンテナを有し、送信アンテナAと並列に並べられた受信アンテナBとを有している。パルサー23はパルス状のレーダ波を発生し、レーダ波は送信アンテナAを形成する二つの円形エレメント導体(11,12)に送られ、床又は壁面に放射される。壁や床から戻ってきた反射波は受信アンテナBを形成する円形エレメント導体(13,14)で受信され、埋設物探査装置1は、レーダ波発射から反射波の受信までの時間及び受信信号の位相とにより埋設物の状態を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設物探査装置の探査レーダ用アンテナに関し、特に、レーダ波を送信する送信アンテナと反射波を受信する受信アンテナとを有する探査レーダ用アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場などでは、地中、壁及び床に埋設されている鉄筋やガス管等を探査するために電磁誘導、X線又はレーダによる埋設物探査装置が使用されている。特にレーダを用いた埋設物探査装置は、所定の繰り返し周期で発生されるパルス状のレーダ波を送信アンテナから壁や床に放射すると共に、壁や床から戻ってきた反射波を受信アンテナにより受信する。この埋設物探査装置は受信アンテナで受信された反射波を信号処理部により処理することで壁や床の内部情報を表示器に表示するものである。
【0003】
図6は従来の探査レーダ用アンテナ30の構成を示し、図7は送信アンテナの回路構成を示している。図6の探査レーダ用アンテナ30は送信用アンテナAと受信用アンテナBを有し、給電点(A1,A2,B1,B2)を中央に配置するそれぞれ2枚の三角形エレメント導体(31〜34)より構成されており、一般的にボウ・タイ型アンテナと呼ばれている。各アンテナのエレメント導体(31〜34)は、所定の誘電率を有する基板37上に給電点を隣接させて配置している。また、給電点には同軸ケーブルとアンテナとを平衡接続するために図7のコイルL1〜L6を有するバラン38,39が設けられている。また、図6の各アンテナには導電性のシールドケース35,36と図示しない電波吸収体が設けられ、エレメント導体から測定物対象方向以外への不要放射を防止すると共に、外部雑音の侵入を防ぐ構造となっている。
【0004】
近年、埋設物探査装置で得られる内部情報の分解能を高めるため、さらなる改良が施されている。例えば、特許文献1では、探査レーダ用アンテナのリターンロス特性を改善することにより壁や床内部で近接した鉄筋やガス管などの物標を容易に識別する技術が示されている。
【0005】
また、特許文献2に記載されているレーダ型地中探査装置では、送信アンテナと受信アンテナを兼用させ、送受一体型の送受信部を採用すると共に、受信信号処理部で増幅を伴った信号処理を行う場合にも、飽和を発生しない良好な信号処理を行うことにより、内部情報の分解能を高める技術が示されている。
【0006】
また、特許文献3に記載されている電磁波レーダ装置では、送信アンテナと受信アンテナをそれぞれ覆うシールドケースと不要なレーダ波を吸収する電波吸収体とを備え、送信アンテナから受信アンテナに直接入射される直接波のリンギング、壁や床の表面からの反射及びその他の不要入射波を低減することにより物標の識別能力を向上させる技術が示されている。さらに、非特許文献1には、米国GSSI社の木の葉形アンテナが開示され、非特許文献2には、円形アンテナに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−18650号公報
【特許文献2】特開平11−64510号公報
【特許文献3】特開2003−107146号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】QF75101 ANTENNA ASSEMBLY Internal Photos(写真参照),[online],[2009年3月24日検索],インターネット<URL:https://fjallfoss.fcc.gov/oetcf/eas/reports/ViewExhibitReport.cfm?mode=Exhibits&RequestTimeout=500&calledFromFrame=N&application#id=890868&fcc#id=%27QF75101%27>
【非特許文献2】S.Honda,M.Ito,H.seki and Y.Jimbo:“A disc monopole antenna with 1:8 impedance bandwidth and omnidirectional radiation pattern”Proc.1992 Int.Symp.,Antennas and Propag.,ISAP’92 pp.1145−1148,Sapporo,Japan,1992.8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した技術により、探査画像の分解能を向上させるためには、送信するレーダ波のパルス幅をさらに短くすることによりインパルス応答による広帯域化をはかり、受信側の周波数も同様に高周波数化することが必要となる。また、比較的浅い領域の探査を行う為には特許文献2のような送受一体型アンテナが望ましいが、送受信回路の技術的な問題があり、実現させることが困難であった。
【0010】
そこで、本発明に係る探査レーダ用アンテナでは、送信するレーダ波のパルス幅を短くすることで高周波数化(インパルス応答では広帯域化となる)を行うと共に、比較的浅い領域の探査に影響する送受信アンテナの形状と位置関係を見直すことにより探査画像の分解能を高めた探査レーダ用アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る探査レーダ用アンテナは、送信アンテナと受信アンテナとを有する探査レーダ用アンテナにおいて、送信アンテナと受信アンテナは、予め決められた誘電率を有するアンテナ基板上に設けられ、それぞれ二つ並べて配置された円形のエレメント導体に接続されたコネクタを有する無終端型の円形アンテナであり、隣り合う送信アンテナと受信アンテナは、探査する被測定対象の表面に近い部位における解像度を向上させるため、送信アンテナと受信アンテナとの間隔を狭めてアンテナ基板上に配置されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る探査レーダ用アンテナにおいて、二つ並べて配置された円形のエレメント導体に設けられた給電点はバランレスで構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る探査レーダ用アンテナにおいて、それぞれ二つの円形のエレメント導体によって構成される送信アンテナと受信アンテナとに接続される信号の極性を同極接続又は反転接続したことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る探査レーダ用アンテナにおいて、二つ並べて配置された円形のエレメント導体によって構成される送信アンテナと受信アンテナは無終端型のアンテナであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る探査レーダ用アンテナは、送信パルス幅を従来より短くすると共に、受信周波数の引き上げ及び高い周波数による分解能の向上と、比較的浅い領域の探査に影響する送受信アンテナの形状と位置関係を見直すことにより高分解能な探査画像を取得可能とするという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナの概要を説明する説明図である。
【図2】本発明に係る探査レーダ用アンテナを理解する上で参考となる従来構成である。
【図3】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナと従来構成の探査レーダ用アンテナの位置関係を説明する説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナの送信アンテナと受信アンテナの間隔を設定する上で重要となる測定特性を説明する説明図である。
【図5】従来アンテナと本実施形態の円形アンテナによる測定画像の比較結果を説明する説明図である。
【図6】従来の探査レーダ用アンテナの斜視図である。
【図7】従来の探査レーダ用アンテナの回路図である。
【図8】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナの正面図と部分拡大図である。
【図9】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナの右側面図と部分拡大図である。
【図10】本発明の実施形態に係る探査レーダ用アンテナの底面図と背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1は埋設物探査装置1における探査レーダ用アンテナ10とその周辺構成を示している。探査レーダ用アンテナ10は所定の誘電率を有する基板上に、二つの円形エレメント導体を並べた円形アンテナを構成し、送信アンテナAと並列に並べられた受信アンテナBとを有している。また、送信アンテナAと受信アンテナBとはシールドケース21,22によってシールドされ、シールドがなされていない基板17の裏面からレーダ波を送受信する。
【0019】
パルサー23はディレイライン15と接続され、ディレイライン15は送信アンテナAに接続されている。パルサー23は所定の繰り返し周期で発生されるパルス状のレーダ波を発生し、ディレイライン15に出力する。ディレイライン15からのレーダ波は送信アンテナAを形成する二つの円形エレメント導体(11,12)に送られ、床又は壁面に放射される。
【0020】
同様に受信アンテナBは、ディレイライン16と接続され、ディレイライン16はサンプラー24に接続されている。壁や床から戻ってきた反射波は受信アンテナBを形成する円形エレメント導体(13,14)で受信され、ディレイライン16を介してサンプラー24にて受信されレーダ波発射から反射波の受信までの時間及び受信信号の位相により埋設物の状態を判別する。
【0021】
図2には、本実施形態の探査レーダ用アンテナ10を理解する上で参考となる探査レーダ用アンテナ30が示されている。図2の探査レーダ用アンテナ30は、所定の誘電率を有する基板37上に形成された送信アンテナA及び受信アンテナBと送受信アンテナを覆うシールドケース(35,36)とを有している。各アンテナの給電点A1,A2,B1,B2は、三角形エレメント導体の頂点部に設けられ、他の頂点は抵抗R1〜R8を介して他の三角形エレメント導体の他の頂点部に接続されると共に終端接続されている。
【0022】
本実施形態では、探査画像の分解能を向上させるために、パルサーのパルス幅を、例えば、従来の1ns(半値幅)からさらに短くすると共に、サンプラーの周波数帯域を例えば1GHzより高くした。特に、ハンディー型の埋設物探査装置では、深度が約10cm程度の比較的浅い領域での分解能向上が望まれている。このため、浅い領域での分解能を向上させる方法の一つとして、送受信アンテナと探査する物標との見かけの角度を通常より狭め、浅い領域であっても鋭角的にレーダ波の送信と反射波の受信により実現する方法がある。
【0023】
図3は本実施形態の探査レーダ用アンテナ10と従来構成の探査レーダ用アンテナ30の位置関係を示している。送受信アンテナの電波強度はそのエレメント導体の面積に比例するため、所定の電波強度を得る為には、従来構成のような探査レーダ用アンテナ30のような三角形エレメント導体の面積が必要でり、送受信アンテナ間の中心間距離は図3に示す距離LAとなっていた。
【0024】
そこで、送受信アンテナを近づけて配置するため、従来のボウ・タイ型アンテナから無終端型の丸アンテナに変更し、従来と同等レベルの電波強度を得る為にその直径を約4cmとすることで、図3に示す距離LBにすることが可能となった。このような無終端型の丸アンテナにすることにより、円形アンテナとアンテナに接続するためのコネクタとを有する構成部品の少ないアンテナとしている。
【0025】
なお、アンテナと同軸ケーブルとの平衡接続のために使用していたバランは、積分効果により鋭いパルスをなまらせる作用があることから、本実施形態の探査レーダ用アンテナ10では、鋭いパルスにより探査分解能を高めるために、バランレスとしてそのままコネクタ18に接続した。また、バランレスとしたことで、物標によっては、向かい合う送信アンテナと受信アンテナに正極と負極を同じ側に接続する形態や、異なるように接続する形態を切り替えて使用することで探査画像を鮮明にすることも可能である。
【0026】
図4は本実施形態の探査レーダ用アンテナ10の送信アンテナと受信アンテナの間隔を設定する上で重要となる測定特性を示している。図4(A)の横軸は送信アンテナと受信アンテナの間隔を示し、縦軸には不感帯の広さ、ダイレクトカップリングの大きさ及び要求される測定特性が示されている。一般的に送信アンテナ及び受信アンテナは所定の広がりを有していることから、図4(B)に示すように送信アンテナと受信アンテナの間隔が大きくなるに従い不感帯が大きくなる。
【0027】
本実施形態にて要求される測定特性は、被測定対象の浅い領域における不感帯の減少及び探査画像の解像度が向上すると良い特性である。図4では、送信アンテナと受信アンテナの間隔LBが狭いほど良い結果となるが、送信アンテナと受信アンテナの間隔を狭めると、送信アンテナから放出されるレーダ波を受信アンテナが直接受信することによる電波強度が増大(ダイレクトカップリング現象)が増大し、表面近傍の反射が増加することになる。
【0028】
そこで、本実施形態では送信アンテナと受信アンテナそれぞれを二つの円形アンテナで構成し、送信アンテナから受信アンテナに直接伝達するダイレクトカップリング現象の影響と分解能との最良点を実験により求め、浅い領域における探査画像の解像度を確保すると共に、ダイレクトカップリングが測定に悪影響をあたえない程度で送信アンテナと受信アンテナとを近接(例えば、間隔を約1cm)して配置した。また、無終端型の円形アンテナを用いることにより、従来のボー・タイ型アンテナに比べて送受信アンテナを近接して配置することが可能となっている。
【0029】
図5は従来アンテナ(A)と本実施形態の円形アンテナ(B)による探査画像の比較結果を示している。深さ約8cm、間隔約8cm,約5cm,約4cm,約3cmとしてコンクリートに鉄筋を5本埋設した試験体を用いて探査画像を比較した。この試験体は、深さを基準として水平方向の間隔に基づいて、水平方向の分解能を評価するものである。
【0030】
図中、従来アンテナ(A)では、水平分解能は約8cm間隔の鉄筋を識別することが困難であったが、本実施形態の円形アンテナ(B)では山形のエコーが分離して表示され、約5cm間隔の鉄筋まで識別することができ、従来アンテナに比べて高い水平分解能を有することが確認できた。
【0031】
以上、上述したように、本実施形態に係る探査レーダ用アンテナにより、比較的浅い領域の探査における高分解能な探査画像を取得することが可能となる。なお、本実施形態では円形アンテナを用いたが、給電点側だけ半円形または楕円形としても良いし、大小複数の円形を組み合わせた雪だるま形やおむすび形、円形と三角形の結合型、及び、円形と四角形の結合型でも比較的良好な結果を得ることが可能である。
【0032】
なお、本実施形態の物品である探査レーダ用アンテナは円形エレメント導体の形状、模様、色彩等に特徴があることから、その特徴についても述べる。図8は本実施形態に係る探査レーダ用アンテナの正面図とコネクタの部分拡大図である。本物品は、車輪を有するハンディー型埋設物探査装置の底面部に装着される平面アンテナ給電素子であり、例えば、床や壁面内部状況を測定するため、床や壁面に沿ってその内部を探査するものである。なお、本実施形態の円形アンテナはハンディー型埋設物探査装置の底面に装着され、アンテナ基板の大きさは幅約12cm、長さ約15cm程度、厚さ約2mm程度である。
【0033】
図9は本実施形態の探査レーダ用アンテナの右側面図とコネクタの部分拡大図である。なお、右側面図は左側面図と対称に表れる為、省略した。
【0034】
図10は本実施形態の探査レーダ用アンテナの底面図と背面図である。探査レーダ用アンテナの背面は床や壁面等と接触する場合があり、表面を保護するために黒色のシルク印刷又は黒色塗装が施されている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る探査レーダ用アンテナは、無終端型の円形アンテナである送信用アンテナと受信用アンテナとして埋設物探査装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 埋設物探査装置、10,30 探査レーダ用アンテナ、11,12,13,14 円形エレメント導体、15,16 ディレイライン、17,37 基板、18 コネクタ、21,22,35,36 シールドケース、23 パルサー、24 サンプラー、38,39 バラン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナと受信アンテナとを有する探査レーダ用アンテナにおいて、
送信アンテナと受信アンテナは、予め決められた誘電率を有するアンテナ基板上に設けられ、それぞれ二つ並べて配置された円形のエレメント導体に接続されたコネクタを有する無終端型の円形アンテナであり、
隣り合う送信アンテナと受信アンテナは、探査する被測定対象の表面に近い部位における解像度を向上させるため、送信アンテナと受信アンテナとの間隔を狭めてアンテナ基板上に配置されたことを特徴とする探査レーダ用アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の探査レーダ用アンテナにおいて、
二つ並べて配置された円形のエレメント導体に設けられた給電点はバランレスで構成されることを特徴とする探査レーダ用アンテナ。
【請求項3】
請求項2に記載の探査レーダ用アンテナにおいて、
それぞれ二つの円形のエレメント導体によって構成される送信アンテナと受信アンテナとに接続される信号の極性を同極接続又は反転接続したことを特徴とする探査レーダ用アンテナ。
【請求項4】
請求項2に記載の探査レーダ用アンテナにおいて、
二つ並べて配置された円形のエレメント導体によって構成される送信アンテナと受信アンテナは無終端型のアンテナであることを特徴とする探査レーダ用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−249715(P2010−249715A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100590(P2009−100590)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】