説明

探知時間を短縮したフェーズドアレイレーダアンテナおよびその使用方法

フェーズドアレイレーダアンテナは、互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作するよう構成された少なくとも2つのアンテナ(11、12、13、14)を含む。このフェーズドアレイレーダアンテナは、相対する側面で第1および第2のレーダ側面アンテナ(11、12)を支持する胴体と、第1のレーダ端部アンテナ(13)を支持する機首部と、第2のレーダ端部アンテナ(14)を支持する後尾部とを有する航空機に装着され得る。レードームはそれぞれ、第1および第2のレーダ端部アンテナを滑らかな空力形状を形成するように覆う。レーダ制御部(15)は、胴体内部に配設され、第1または第2のレーダ側面アンテナと、第1または第2のレーダ端部アンテナとを、それぞれ第1および第2の異なる周波数で同時に動作させるように、第1および第2のレーダ側面アンテナと、第1および第2のレーダ端部アンテナとに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェーズドアレイレーダアンテナに関し、特に航空機搭載レーダに関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイアンテナは、帯域幅が広く、電力ロスが小さく、所与のビーム方向に複数の周波数で放射する能力を有することが業界においてよく知られている。このため、本発明の使用方法は、特定の種類の航空機に限定するものではなく、航空機の大きさや種類に係わらず、何らかのレーダシステムが必要である。覆域が360°の遠距離レーダは、機体の干渉を最小限にするため、航空機胴体の上に搭載される大きなアンテナを必要とし、所要の遠距離探知を行うのに多くの電力を必要とする。これら2つの要件は、これまでのところある程度互いに両立できていない。なぜなら、航空機胴体の上に搭載される大きなアンテナは、かなりの抵抗を起こす上に、遠距離レーダの高電力要件を伴うため、大きな航空機のみに用いられ得る。
【0003】
1992年3月17日に公開され、本出願人に譲渡された、「航空機搭載早期警戒レーダシステム」と題する米国特許第5,097,267号(ラビブ(Raviv))は、自動制御無操縦者航空機と、無操縦者航空機に配設されるフェーズドアレイレーダアンテナと、フェーズドアレイレーダアンテナの向きを航空機に対して選択可能に変化させる装置とを含む航空機搭載早期警戒レーダシステムを開示している。
【0004】
AWACS、ERIEYE、CONDORおよびWEDGETAILなどのすべての公知のAEW(航空機搭載早期警戒)システムは、単一帯域レーダの従来のアーキテクチャが基になっている。AWACSは、機械的に回転するアンテナを用いるが、その他のシステムは、上記米国特許第5,097,267号に記載されているような種類の固定型電子走査アレーアンテナを用いている。
【0005】
機械的に回転するシステムでは、360°全周を走査するのに必要な時間は、機械アンテナを360°完全に回転させるのに要する時間に依存する。フェーズドアレイレーダアンテナの操作は電子的に行われるが、全360°の覆域を探知するには完全電子走査が必要となる。一旦レーダが空中のあるポイントを追尾すると、そのサイクルの間、そのポイントは、レーダに「見えない」。つまり、完全走査に要する時間が長くなれば、敵はレーダをかいくぐりやすくなる。なぜなら、敵の迎撃する時間が長くなり、敵がレーダをかいくぐり、その後の走査でレーダに見えるまでさらなる時間が経過するからである。このため、360°全周を走査するのに要する時間を短縮することが望まれている。
【0006】
1989年9月26日に公開され、「デュアルバンドアンテナ素子」と題する米国特許第4,870,426号(ランバーティーら(Lamberty et al))は、低帯域導波管と、平行な偏波共用高帯域導波管のアレイと、低帯域導波管内部に配設されるまたは低帯域導波管の開口部に直接隣接するダイポールとを含むレーダアンテナ素子を開示している。低帯域導波管と各高帯域導波管は、0.5の波長より小さい断面寸法を1つ有する。
【0007】
1988年5月10日に公開され、「2つの周波数帯域で動作するレーダシステム」と題する米国特許第4,743,907号(ゲレキンク(Gellekink))は、それぞれが独自の周波数で動作するが、1つの同じ追尾アンテナを用いる第1および第2のレーダ装置を含む低高度目標追尾用レーダシステムを開示している。
【0008】
1981年6月30日に公開され、「電子走査アンテナ」と題する米国特許第4,276,551号(ウィリアムスら(Williams et al))は、それぞれが複数の放射素子を有する複数の周波数走査アンテナ部と、前記アンテナ部に個々に接続された複数の位相変換器とを含む電子走査アンテナを開示している。この構成は、レーダビームを操作するのにデュアル周波数を用いるものの、異なる走査周波数は用いない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記引例には、それぞれが、異なる周波数で同時に動作するよう構成された一対の隣接するアンテナを含む、少なくとも2つの周期的に選択可能なアンテナ対を含むフェーズドアレイアンテナの使用に関する示唆は見られない。
【0010】
本発明の目的は、全360°の覆域の探知が可能でよりコンパクトなフェーズドアレイレーダアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作するよう構成された少なくとも2つのアンテナを含むフェーズドアレイレーダアンテナにより本発明の広範な局面に基づいて実現される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によると、
乗り物の各側面に固定するよう構成された第1および第2のレーダ側面アンテナと、
前記乗り物の各端部に固定するよう構成された第1および第2のレーダ端部アンテナと、
前記第1または第2のレーダ側面アンテナと、前記第1または第2のレーダ端部アンテナとが、それぞれ第1および第2の異なる周波数で同時に動作するよう、前記第1および第2のレーダ側面アンテナと、前記第1および第2のレーダ端部アンテナとに接続するよう構成されたレーダ制御部とを含む、乗り物用フェーズドアレイアンテナを提供する。
【0013】
前記第1と第2のレーダ側面アンテナおよび前記第1と第2のレーダ端部アンテナは、360°をカバーするよう構成され得る。典型的な用途では、このようなフェーズドアレイレーダアンテナは、単一の探知周波数のみを用いるフェーズドアレイレーダアンテナよりも短い時間で全360°の覆域を探知することができる。しかし、本発明のフェーズドアレイレーダアンテナは、これまで提案されてきたフェーズドアレイレーダアンテナよりも小型で、それと同じ時間で全360°または360(よりも狭い覆域を探知するのにも用い得る。
【0014】
本発明はまた、異なる方向に覆域を提供できるよう乗り物の各表面に固定された少なくとも2つのフェーズドアレイアンテナを用いるレーダ走査方法であって、前記アンテナの少なくとも2つを互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作させる工程を含むレーダ走査方法を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明および本発明が実際にどのように実施され得るのかが理解できるよう、添付図面を参照しながら限定されない実施例を用いて、好ましい実施形態について説明する。
【0016】
図1は、フェーズドアレイレーダアンテナを装着した航空機10を示す図である。第1のレーダ側面アンテナ11は、航空機胴体の一方の側面に固定するよう構成されており、第2のレーダ側面アンテナ12(図2に図示)は、航空機胴体の反対側の側面に固定するよう構成されている。第1のレーダ端部アンテナ13は、航空機の(前部を構成する)機首に固定するよう構成されており、第2のレーダ端部アンテナ14は、航空機の(後部を構成する)後尾に固定するよう構成されている。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態例に係るフェーズドアレイレーダアンテナシステム20を機能的に示すブロック図である。システム20は、第1または第2のレーダ側面アンテナと、第1または第2のレーダ端部アンテナとが、それぞれ第1および第2の互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作するよう、第1および第2のレーダ側面アンテナ11、12と、第1および第2のレーダ端部アンテナ13、14とに接続するよう構成されたレーダ制御部15を含む。レーダ制御部15は、処理データを表示するためのディスプレイ16に接続される。
【0018】
図3は、図2に示すフェーズドアレイレーダアンテナシステム20の動作を示すフロー図である。このように、連続して隣接するアンテナ対を異なる周波数で動作させることにより全360°の覆域の探知が実現される。一例として、覆域の第1エリアでは、レーダ制御部15は、第1の周波数で第1の側面アンテナ11動作させ、同時に第2の周波数で第1の端部アンテナ13を動作させる。これにより、図4に図示するような180°の覆域が得られる。同様に180°をカバーする覆域の第2エリアも、第1の周波数で第2の側面アンテナ12を動作させ、同時に第2の周波数で第2の端部アンテナ14を動作させることにより得られる。2つのアンテナが同時に動作するため、360°全周の走査を達成する時間は、各アンテナを個別に動作させなければならない単一周波数のレーダシステムが要する時間の約半分になる。アンテナ寸法を低減しながら、同じ走査時間で単一周波数レーダ距離性能を実現することができる。側面アンテナ11、12の面積は、端部アンテナ13、14の面積よりもはるかに大きいため、端部アンテナのかなり小さなフットプリントを補償するには、端部アンテナが動作する第1の周波数を、側面アンテナが動作する第2の周波数よりもそれ相当に高くしなければならない。好ましい実施形態では、第1の周波数はS帯域であり、第2の周波数はL帯域である。
【0019】
図4は、側面アンテナ11と12をL帯域で動作させ、機首および後尾アンテナ13、14をS帯域で動作させた場合のアンテナの実際の角度覆域を示す図である。側面アンテナ11と12の角度覆域が、機首および後尾アンテナ13と14の角度覆域の約2倍であることがわかる。これにより、S−帯域レーダは、寸法が小さいにも係わらず、L−帯域レーダに対して十分な性能を達成することができる。
【0020】
但し、側面アンテナ11と12が動作する周波数と、機首および後尾アンテナ13と14が動作する周波数は、相互干渉を防止するよう十分に異なっていなければならない。実際には、これら周波数を、周波数帯域の両端の周波数は相互に非干渉かつ十分に異なっていると考えられるが、重複しない周波数帯域に設定することが必要となり得る。
【0021】
本発明を、特に航空機早期警戒レーダシステムに関連させて説明したが、本発明は、他の乗り物用早期警戒レーダシステムにも適用可能であり、同じ原理を、例えば、船など他の乗り物に適用し得ることは言うまでもない。しかしながら、これまで提案されてきた早期警戒レーダシステムに勝る本発明の特別な利点は、空力フットプリントが小さいレーダシステムを提供する必要性により航空機早期警戒レーダシステムにおいて最も顕著となる。本発明では、これは、航空機の空力特性を阻害することなく航空機の胴体に搭載しやすいように構成された2つの側面アンテナ11と12の平面構造により実現されている。同様に、高周波数で動作するよう構成された2つの端部アンテナ13と14は、滑らかな空力形状を有するように特別に設計された航空機の前部と後部とにある適切に成形されたレードームに配設が可能な低いフットプリントを有する。このレードームの機械的構成は当業者の技量の範囲に含まれるため、本発明の特徴ではない。海上用途では、このような考察がそれほど重要ではないことは明確である。
【0022】
4つのアンテナを用いる本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明の原理は、より一般的に、互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作する2つ以上のアンテナを用いる場合に適用され得る。例えば、2つのアンテナを、それぞれが、重複しない180°の覆域を有するよう構成し、2つのアンテナを同時に動作させることにより、全360°の覆域の探知を達成する時間を半減させることができる。同様に、図5に示すように、3つのアンテナF1、F2およびF3を、それぞれが、重複しない120°の覆域を有するように構成し、これらアンテナをそれぞれ互いに干渉しない周波数で同時に動作させることにより、全360°の覆域の探知を達成する時間を3分の1に低減することができる。
【0023】
本発明を、特に全360°の覆域に関連させて説明したが、常に全360°の覆域が要求されるわけではない。例えば、図6は、それぞれが互いに干渉しない周波数で同時に動作し、合わせて180°の部分覆域を有するよう構成された2つのアンテナL1とS1を示す。2つ以上のアンテナを互いに干渉しない異なる周波数で動作させることにより、このような狭い覆域の探知が実現される限り、これも本発明の範囲に含まれる。
【0024】
本発明は、有人および無人航空機のどちらにも同様に適用可能であることは、当業者により理解される。
【0025】
また、本発明は乗り物、特に、本発明に係るレーダシステムを用いて構成された航空機を含むものとする。
【0026】
また、本発明に係るレーダシステム20は、適切にプログラムされたコンピュータを含み得る。同様に、本発明は、コンピュータで読み取り可能な本発明の方法を実行するコンピュータプログラムを含むものとする。本発明はさらに、機械により実行可能な本発明の方法を実行する指示のプログラムを実現する機械読み取り可能なメモリを含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態例に係るフェーズドアレイレーダアンテナを装着した航空機を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態例に係るフェーズドアレイレーダアンテナシステムを機能的に示すブロック図である。
【図3】図3は、図2で機能的に示したフェーズドアレイレーダアンテナシステムの動作を示すフロー図である。
【図4】図4は、本発明の異なる実施形態に係るフェーズドアレイレーダアンテナのデュアル周波数走査をどのように実施するかを示す図である。
【図5】図5は、本発明の異なる実施形態に係るフェーズドアレイレーダアンテナのデュアル周波数走査をどのように実施するかを示す図である。
【図6】図6は、本発明の異なる実施形態に係るフェーズドアレイレーダアンテナのデュアル周波数走査をどのように実施するかを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作するよう構成された少なくとも2つのアンテナ(11、12、13、14)を含むフェーズドアレイレーダアンテナ。
【請求項2】
少なくとも2つの周期的に選択可能なアンテナ対を含み、各アンテナ対は異なる周波数で同時に動作するよう構成された一対の隣接するアンテナ(11、14;12、13)を含むことを特徴とする請求項1に記載のフェーズドアレイレーダアンテナ。
【請求項3】
乗り物の各側面に固定するよう構成された第1および第2のレーダ側面アンテナ(11、12)と、
前記乗り物の各端部に固定するよう構成された第1および第2のレーダ端部アンテナ(13、14)と、
前記第1または第2のレーダ側面アンテナと、前記第1または第2のレーダ端部アンテナとが、それぞれ第1および第2の互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作するよう、前記第1および第2のレーダ側面アンテナと、前記第1および第2のレーダ端部アンテナとに接続するよう構成されたレーダ制御部(15)とを含む、乗り物(10)に搭載するよう構成された請求項2に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項4】
前記第1の周波数はL帯域であり、前記第2の周波数はS帯域であることを特徴とする請求項3に記載のフェーズドアレイレーダアンテナ。
【請求項5】
前記乗り物は航空機であり、前記第1および第2のレーダ側面アンテナは、前記航空機の胴体に固定するよう構成されたことを特徴とする請求項3または4に記載のフェーズドアレイレーダアンテナ。
【請求項6】
前記航空機は無人であることを特徴とする請求項5に記載のフェーズドアレイレーダアンテナ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフェーズドアレイレーダアンテナを含むデュアルバンド早期警戒レーダシステム。
【請求項8】
異なる方向に覆域を提供するよう乗り物(10)の各表面に固定された少なくとも2つのフェーズドアレイアンテナ(11、12、13、14)を用いるレーダ走査方法であって、前記アンテナの少なくとも2つを互いに干渉しない異なる周波数で同時に動作させる工程を含むことを特徴とするレーダ走査方法。
【請求項9】
各アンテナ対が一対の隣接するアンテナを含む連続したアンテナ対を周期的に選択する工程と、
前記選択された対に含まれる隣接したアンテナを異なる周波数で同時に動作させる工程とを含む、前記乗り物の各表面に固定された少なくとも4つのフェーズドアレイアンテナを用いる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コンピュータで実行されると、請求項8または9に記載の方法を行うコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項11】
コンピュータ読み取り可能な媒体で実現される請求項10に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のフェーズドアレイレーダアンテナ(11、12、13、14)を含むデュアルバンド早期警戒レーダシステムを搭載した乗り物(10)。
【請求項13】
相対する側面で前記第1および第2のレーダ側面アンテナ(11、12)を支持する胴体と、
前記第1のレーダ端部アンテナ(13)を支持する機首部と、
前記第2のレーダ端部アンテナ(14)を支持する後尾部と、
前記第1および第2のレーダ端部アンテナを滑らかな空力形状を形成するように覆うレードームと、
前記胴体内部に配設され、前記第1または第2のレーダ側面アンテナと、前記第1または第2のレーダ端部アンテナとを、それぞれ第1および第2の異なる周波数で同時に動作させるように、前記第1および第2のレーダ側面アンテナと、前記第1および第2のレーダ端部アンテナとに接続されたレーダ制御部(15)とを含む請求項12に記載の航空機(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−541085(P2008−541085A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510718(P2008−510718)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000489
【国際公開番号】WO2006/120665
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507348573)エルタ システムズ エルティーディー. (5)
【Fターム(参考)】