説明

接合体の製造方法および射出成型装置

【課題】軟化温度の低い樹脂であっても、成型とマグネシウム合金との接合を両立させることができる、樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造方法および射出成型装置を提供することを目的とする。
【解決手段】分子接着剤の被膜が形成されたマグネシウム合金30を設置する下金型3と、マグネシウム合金30が設置された下金型3と型締めされた状態で樹脂10を成型する上金型2とをそれぞれ異なる温度に設定して、成型された樹脂31とマグネシウム合金30の接合体32を製造する。樹脂10とマグネシウム合金30の分子接着剤による接合に必要な金型温度を、樹脂10の成型に必要な金型温度より高く設定することで、軟化温度の低い樹脂10であっても、成型とマグネシウム合金30との接合を両立させた一体成型が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電子機器用の筐体に用いられる、樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造方法および射出成型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される近年の移動用モバイルは、高機能化とともに小型化を実現している。しかし、高機能化に伴って搭載する部品点数が増え、これらに電源を供給するバッテリーも大型化しているため、必ずしも軽量化は進展していないという現状がある。そこで、製品総重量に占める割合の大きい筐体の軽量化が重要な課題となってきており、高強度の軽金属が筐体の素材として注目を浴びている。このような背景のもと、軽金属と樹脂を複合成型した筐体を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−124995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この製造方法は、トリアジンチオール類を用いて表面処理を施した軽金属を金型に設置し、金型内に射出した樹脂と軽金属とを化学結合させて複合成型するものである。軽金属はアルミニウム合金であれば、例えばABS樹脂のように軟化温度が低い樹脂でも射出成型により接合が可能であった。しかしマグネシウム合金を用いた場合には通常の成型時における金型温度より高い温度が必要であった。このため、金型の温度を通常の成型時における金型温度より高くすると、軟化温度が低い樹脂の場合、金型に焼きついたり、液状化による成型不良を起こしたりすることがあるので、適用可能な樹脂は軟化温度が高いものに限定されていた。
【0004】
本発明は、軟化温度の低い樹脂であっても、成型とマグネシウム合金との接合を両立させることができる、樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造方法および射出成型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するとともに目的を達成するため、本発明は、分子接着剤の被膜が形成されたマグネシウム合金を設置する第1の金型と、前記マグネシウム合金が設置された前記第1の金型と型締めされた状態で樹脂を成型する第2の金型とをそれぞれ異なる温度に設定して、前記成型された樹脂と前記マグネシウム合金の接合体を製造する方法とした。
【0006】
また、分子接着剤の被膜が形成されたマグネシウム合金を設置する第1の金型と、前記第1の金型と型締めされ、前記第1の金型に設置された前記マグネシウム合金とキャビティの間に形成された空間に射出された樹脂を成型する第2の金型と、前記第1の金型と前記第2の金型の温度をそれぞれ独立して調整する調温装置を備えた射出成型装置とした。
【発明の効果】
【0007】
樹脂とマグネシウム合金の分子接着剤による接合に必要な金型温度と、樹脂の成型に必要な金型温度を異なる温度に設定することで、軟化温度の低い樹脂であっても、成型とマグネシウム合金との接合を両立させた一体成型が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
添付した図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態の射出成型装置の概略図、図2は本発明の実施の形態の樹脂とマグネシウム合金の接合体の概略図、図3は本発明の実施の形態の樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造工程図である。
【0009】
最初に、図1、図2を参照しながら、本発明の実施の形態の射出成型装置の構成および機能について説明する。射出成型装置1は、上下に分割された上金型2および下金型3と、下金型3を昇降させる昇降装置4と、上金型2に内蔵されている熱媒体5の温度調整を行う上金型温調装置6と、下金型3に内蔵されている熱媒体7の温度調整を行う下金型温調装置8と、上金型2のキャビティ9に溶融樹脂10を射出する射出装置11で構成されている。下金型3にはマグネシウム合金を載置するための凹部12が形成されている。上金型2の下面のキャビティ9の開口縁部を除く領域と、下金型3の上面の凹部12を除く領域には断熱材13が備わり、独立して温度管理が可能な上金型2と下金型3の間の熱移動を極力抑制する構造になっている。これにより型締め時における2つの金型の温度変化を抑え、所望の温度で管理することが、より有利に行える。なお、断熱材13の代わりにこれらの領域の内部を中空にし、熱伝導率が低下する構造にすることもできる。
【0010】
射出装置11は、溶融樹脂10を内蔵する射出シリンダ20と、射出シリンダ20に内蔵されている溶融樹脂10をキャビティ9に送り出すスクリュ21と、スクリュ21に駆動力を供給するスクリュ駆動装置22と、射出シリンダ20に外部から溶融樹脂10を供給するためのホッパ23で構成されている。射出シリンダ20には、内蔵する溶融樹脂10が硬化しないように加熱するためのヒータ24が備わっている。
【0011】
図2は射出成型装置1により製造された樹脂成型品とマグネシウム合金の接合体である。樹脂成型品とマグネシウム合金はトリアジンチオール誘導体を用いて接合されている。トリアジンチオール誘導体は、樹脂等の高分子化合物や金属と強固に化学結合するという性質を有する分子接着剤である。例えばトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールや、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジンモノナトリウム塩が挙げられる。
【0012】
射出成型装置1の下金型3は、浸漬処理や電解重合処理等によって予め表面にトリアジンチオール被膜が形成されたマグネシウム合金を載置する第1の金型であり、上金型2は、下金型3と型締めされた状態でキャビティ9とマグネシウム合金との間に樹脂成型空間を形成する第2の金型である。上金型2と下金型3を型締めした状態で上金型2側からキャビティ9に射出された溶融樹脂10は、樹脂成型空間で凝固して成型されながら、トリアジンチオール誘導体の持つ分子接着剤としての機能によりマグネシウム合金と接合する。
【0013】
次に、図3を参照しながら、樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造工程について説明する。最初に、トリアジンチオール被膜が形成されたマグネシウム合金30を下金型3の凹部に載置する。凹部に載置されたマグネシウム合金30の上面は下金型3の上面と同一平面上にあり、型締めの際に上金型2の下面と段差なく平面接触できるようになっている。その後、型締めにより上金型2の下面と下金型3の上面を密着させる。これにより、上金型2のキャビティと下金型3に載置されたマグネシウム合金30との間に樹脂成型空間40が形成される。
【0014】
そして、上金型2側から溶融樹脂10を射出し、樹脂成型空間40に充満させる。樹脂成型空間40に充満した溶融樹脂10は、空間形状に倣って凝固するとともに、マグネシウム合金30と接する下端部がトリアジンチオール被膜の分子接着力によりマグネシウム合金30と接合する。
【0015】
樹脂射出から所定時間を経過した後に、型開きにより上金型2と下金型3を分離させる。この時点で溶融樹脂10は凝固して樹脂成型品31となっており、その下端部がマグネシウム合金30と接合している。従って、型開きの際に樹脂成型品31は上金型2に追随するか、上金型2から外れてマグネシウム合金30とともに下金型3に追随するかの何れかとなるが、ここでは後に記載する理由により上金型2に追随する。最後に、上金型2から樹脂成型品31を抜き出し、樹脂成型品31とマグネシウム合金30が接合した接合体32が完成する。
【0016】
次に、(表1)を参照しながら、上金型2と下金型3の温度管理について説明する。(表1)は、マグネシウム合金と一体成型する樹脂としてABS樹脂(Acrylonitrile−Butadiene−Styrene resin)を用いた場合の上下金型の温度と、樹脂成型品とマグネシウム合金との接合状態と、樹脂成型品との品質の関係を表している。一般に、ABS樹脂を単体で射出成型する場合の金型温度は、40度〜80度の間に設定される。そこで、図3に示した製造工程において、上下金型とも60度に設定したところ、樹脂成型品31の品質は良好であったがマグネシウム合金30とはほとんど接合されていなかった。上下金型を80度まで上昇させた場合も同様の結果であった。なお、従来のトリアジンチオール被膜が形成されたアルミニウム合金では、金型温度80度でABS樹脂と接合していた。
【0017】
【表1】

【0018】
今度は、上金型2と下金型3を独立した温度管理に変更し、マグネシウム合金30を載置する下金型3のみを180度まで上昇させたところ、60度に設定された上金型2によって成型された樹脂成型品31の品質は良好であり、強度不足ではあるがマグネシウム合金30との接合も認められた。さらに下金型3の温度を200度まで上昇させると、樹脂成型品31とマグネシウム合金30が十分な強度で接合されたことが認められた。ちなみに、上下金型とも200度に設定したところ、樹脂とマグネシウム合金30の接合は認められたが、樹脂はキャビティ9の形状に倣った形には成型されておらず、一部に樹脂焼けを生じていた。
【0019】
この結果から、金型を用いて、樹脂とトリアジンチオール被膜が形成されたマグネシウム合金30を一体成型した接合体を製造する場合には、溶融樹脂10を成型する上金型2とマグネシウム合金30を載置する下金型3の温度管理を独立して行い、下金型3が上金型2より高い温度(200度以上)になるように温度管理を行うことが好ましい。
【0020】
このように、上金型2と下金型3では設定温度が大きく異なるので、型開きの際には設定温度の低い上金型2に接合体32が追随するようにし、設定温度の高い下金型3から離間させることで冷却速度を高めるようにしている。
【0021】
また、上述したように下金型3の上面の凹部12を除く領域には断熱材13が備えているため、設定温度が大きく異なる温度が低い上金型2に熱が伝わりにくくなり、上金型2と下金型3とのそれぞれの温度制御がしやすくなる。
【0022】
マグネシウム合金と接合する樹脂は、先に記載したABS樹脂に限られるものではなく、実際に接合させた樹脂の種類とそのときに設定した金型温度について(表2)に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
ABS樹脂の他に、PBT(Polybutylene Terephthalate)、PPS(PolyPhenilenSulfide)、ポリアミドについて、(表2)に示した設定温度で上下金型を温度管理することで、それぞれの樹脂の成型とトリアジンチオール誘導体によるマグネシウム合金との接合が良好に行われた。ここで上金型の温度範囲は、各樹脂毎の通常の成型時の金型温度と同等である。また下金型温度の温度範囲は、トリアジンチオール被膜が形成されたマグネシウム合金と各樹脂との接合時の金型温度以上であって、各樹脂の可塑化温度以下であることが好ましい。
【0025】
なお、上記上金型2の温度は、通常樹脂成型を行う際の一般的な温度であって、成型する樹脂の形状等により変化するため、上記温度範囲の限りではない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明にかかる樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造方法および射出成型装置は、樹脂とマグネシウム合金の分子接着剤による接合に必要な金型温度と、樹脂の成型に必要な金型温度を異なる温度に設定することで、軟化温度の低い樹脂であっても、成型とマグネシウム合金との接合を両立させた一体成型が実現できる。これにより例えば携帯電話やパーソナルコンピュータのような電子機器用の筐体として利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の射出成型装置の概略図
【図2】本発明の実施の形態の樹脂とマグネシウム合金の接合体の概略図
【図3】本発明の実施の形態の樹脂とマグネシウム合金の接合体の製造工程図
【符号の説明】
【0028】
1 射出成型装置
2 上金型
3 下金型
6 上金型調温装置
8 下金型調温装置
30 マグネシウム合金
31 樹脂成型品
32 接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子接着剤の被膜が形成された少なくともマグネシウムを含むマグネシウム合金を設置する第1の金型と、前記マグネシウム合金が設置された前記第1の金型と型締めされた状態で樹脂を成型する第2の金型とをそれぞれ異なる温度に設定して、前記成型された樹脂と前記マグネシウム合金の接合体を製造する接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金型の温度を前記第2の金型の温度より高く設定する請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金型の温度は、前記樹脂とマグネシウム合金とが接着する温度以上である請求項2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の金型の温度は200度以上である請求項2に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金型と前記第2の金型は、型締め時において接触する面に、断熱材、又は中空部分を有している請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
分子接着剤の被膜が形成されたマグネシウム合金を設置する第1の金型と、前記第1の金型と型締めされ、前記第1の金型に設置された前記マグネシウム合金とキャビティの間に形成された空間に射出された樹脂を成型する第2の金型と、前記第1の金型と前記第2の金型の温度をそれぞれ独立して調整する調温装置を備えた射出成型装置。
【請求項7】
前記第1の金型の調温装置は200度以上に設定することが可能である請求項6に記載の射出成型装置
【請求項8】
前記第1の金型と第2の金型は、型締め時において接触する面に断熱材、又は中空部分を有している請求項6に記載の射出成型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−17900(P2010−17900A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178827(P2008−178827)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】