説明

接合部継手構造及びその構築方法

【課題】 施工性をさらに向上させることができ、施工コストを低減させるとともに、継手空間部の接合面のひび割れを防止することで充分な耐久性を持たせることが可能な接合部継手構造を提供する。
【解決手段】 接合部を形成する継手空間部6へ向けて延長されてなる2本以上のプレキャスト部材に対して、当該延長方向にプレストレスを導入するとともにその端面に端板21、22を配設し、予め製作された繊維補強コンクリート部材からなる継手部材18、19を、継手空間部6内に配置するとともに、対向面に配設された鉄板25をプレキャスト部材の端板21、22に対向させ、さらにプレキャスト部材の端板21,22と、継手部材の鉄板25とを互いに溶接することにより接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築、土木の技術分野におけるトラス構造やアーチ構造等の接合部継手構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラス構造やアーチ構造等の格点部等に代表される接合部は、剛接合に近い接合であるため、曲げ、せん断、引張り、圧縮等の応力が集中し、その応力に対応するため格点部に鉄筋、鋼材等の補強材が集中して配置される。図7に従来のトラス構造の格点部補強構造を示す。トラス構造の格点部111は、2本のPCパイルからなる斜材1112、113と上弦材又は下弦材114との継手空間115に形成される。格点部111を形成する継手空間115内には、上弦材又は下弦材114の補強鉄筋116と格点部補強鉄筋117が配筋され、さらに、PCパイルからなる斜材112、113の端部からPC鋼材118を突出させ、継手空間115内にコンクリート119を充填し、コンクリート119の固化後、PC鋼材118の先端に設置した支圧板120を介してPC鋼材118に引張力を付与する格点部補強構造が実施されている。
【0003】
しかしながら、かかるラーメン構造の格点部には、応力の集中に対応するため補強部材が集中して配置され、格点部での鉄筋等の補強材の組み立て作業が困難となり施工性に問題が生じ、また格点部に補強材が集中することにより格点部にコンクリートを充填する際、コンクリートの行き渡りが悪くなるという問題も発生する。
【0004】
これらの問題点を解決するために、従来においては、例えば特許文献1に示すような格点部補強構造が提案されている。この格点部補強構造は、例えば図8に示すように、現場打ちコンクリートで構築される上弦材又は下弦材101、斜材としてのPCパイル102、トラス構造の格点部103により構成される。
【0005】
トラス構造の格点部103を構成する継手空間部104には、上弦材又は下弦材101の補強鉄筋105及び斜材としてのPCパイル102の端部から突出するPCパイルの補強鉄筋106が突設されており、トラス構造の格点部103を構成する継手空間部104に図示しない型枠を設置し、鋼繊維または有機繊維あるいはそれらの組合せからなる繊維を混入した繊維補強コンクリート107を打設し、養生固化させてトラス構造の格点部103を構築する。上下弦材101の部分は通常コンクリートが現場打ちにより打設される。
【0006】
継手空間部104内に充填される繊維補強コンクリート107は、それ自体が曲げ、せん断、引張り、圧縮等の応力に対して大きな強度を有するため格点部103の継手空間部104内に配筋される補強鉄筋105,106の使用量が低減でき、さらに、繊維補強コンクリート107を用いることにより継手空間部104内での充填コンクリートと鉄筋、鋼材等の補強部材との定着性が向上する。このため補強部材の使用量を一層低減でき、配筋作業等の困難性が軽減され、施工性が向上し、構造物の軽量化及びコストの低減化を図ることができ、且つ強度の大きい耐久性のある格点部補強構造とすることができる。
【特許文献1】特開2004−244989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているトラス構造のように、継手空間部104に延長されるPCパイル102の部材軸方向が互いに異なっている場合や、継手空間部104に対して3方向以上からPCパイルが延長されてくる場合に、当該継手空間部104に上記繊維補強コンクリート107を打設すると、その接合面にひび割れが発生する虞がある。このひび割れは、破壊の起点となるところ、トラス構造を構成する構造物全体の強度上の信頼性に影響を与えるため、その発生を極力抑制する必要がある。
【0008】
またトラス構造においては、このような格点部が数多く形成されるところ、その継手空間部に対する繊維補強コンクリート107の充填作業の負担が過大となり、またこれに応じて工期が長期化してしまうという問題点もあった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、施工性をさらに向上させることができ、施工コストを低減させるとともに、継手空間部の接合面のひび割れを防止することで充分な耐久性を持たせることが可能なトラス構造やアーチ構造、更にはラーメン構造等の接合部継手構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る接合部継手構造は、上述した課題を解決するために、接合部を形成する継手空間部へ向けて延長され、当該延長方向にプレストレスが導入されるとともにその端面に端板が配設される2本以上のプレキャスト部材と、予め製作された繊維補強コンクリート部材からなり、上記継手空間部内に配置されてなるとともに上記プレキャスト部材の端板と対向する対向面に鉄板が配設されてなる継手部材とを備え、 上記プレキャスト部材並びに上記継手部材は、上記端板と上記鉄板とが溶接されることにより互いに接合されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る接合部継手構造の構築方法は、上述した課題を解決するために、接合部を形成する継手空間部へ向けて延長されてなる2本以上のプレキャスト部材に対して、当該延長方向にプレストレスを導入するとともにその端面に端板を配設し、予め製作された繊維補強コンクリート部材からなる継手部材を、上記継手空間部内に配置するとともに、対向面に配設された鉄板を上記プレキャスト部材の端板に対向させ、さらに上記プレキャスト部材の端板と、上記継手部材の鉄板とを互いに溶接することにより接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明を適用した接合部継手構造は、継手空間部内に、繊維補強コンクリート部材からなる継手部材を配置する。このため、2本以上のプレキャスト部材の交点としての接合部においても、継手部材を構成する繊維補強コンクリート部材自体が継手空間部に負荷される曲げ、せん断、引張り、圧縮等の応力に対して対抗することが可能となる。また、本発明を適用した接合部継手構造では、プレキャスト部材からなる仲介材並びに下弦材にプレストレスを導入しているため、引張、圧縮応力が負荷された場合には、これらによっても対抗することができる。これに対して、接合部継手構造において圧縮応力や曲げ応力が負荷された場合には、この継手部材により対抗することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、トラス構造やアーチ構造、更にラーメン構造等に適用される接合部継手構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本発明を適用した接合部継手構造1は、例えば図1、2に示すようなトラス構造2等に適用される。このアーチ2は、PC床版5の下側に配設され、上弦材13と、下弦材14と、斜材や垂直材等に代表される仲介材16とが主要な構成部材となる。このトラス構造2に対して、本発明に係る接合部継手構造1を適用する箇所として、トラス構造の接合部としての格点部を形成する継手空間部6周辺をその範囲とする。
【0015】
仲介材16並びに下弦材14は、それぞれプレキャスト部材で構成される。仲介材16は、継手空間部6へと延長され、当該延長方向にプレストレスが導入されるとともにその端面16aに端板21が配設される。また、下弦材14も継手空間部6へと延長され、当該延長方向にプレストレスが導入されるとともにその端面14aに端板22が配設される。ちなみに、これら端板21、22は、鉄製の板で構成される。
【0016】
継手空間部6には、予め製作された繊維補強コンクリート部材からなる継手部材18が配置される。図3は、この継手部材18の構成を示している。継手部材18は、継手空間部6内に配置した場合に仲介材16並びに下弦材14における端版21、22と対向する対向面18aが形成されている。この対向面18aには鉄板25がそれぞれ配設されている。この継手部材18を構成する繊維補強コンクリート部材に混入される繊維としては、鋼繊維等の金属繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の有機繊維のなかから選択される1つまたは複数の繊維の組合せを用いる。ちなみに、この継手部材18は、配設すべき継手空間部6のスペックに応じて、予め工場等で大量生産するようにしてもよい。
【0017】
このような構成からなる継手部材18は、継手空間部6に配置された場合において、その対向面18aに配設された鉄板25が、端板21、22と対向することになる。この継手部材18は、鉄板25を、端板21、22に対してそれぞれ溶接させて互いに接合されている。互いに溶接された鉄板25並びに端版21、22の周囲には、樹脂モルタル28が埋め込まれる
【0018】
図4は、トラス構造の格点部を構成する継手空間部6に、垂直方向から仲介材16が延長されるとともに、水平方向から下弦材14が延長される例を示している。即ち、この図4の例では、継手空間部6に3本のプレキャスト部材が延長されてきている構成を示しており、上述した図2と同一の構成要素、部材に関しては、同一の番号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0019】
図5は、この継手空間部6に配置される継手部材19の構成を示している。継手部材19は、継手空間部6内に配置した場合に仲介材16並びに下弦材14における端版21、22と対向する対向面19aが鉛直方向と水平方向左右の3面に亘り形成されている。この対向面19aには鉄板25がそれぞれ配設されている。
【0020】
次に、本発明を適用した接合部継手構造1の構築方法について、図4に示すように3本のプレキャスト部材が延長されてきている継手空間部6に継手部材19を配置する場合を例にとり説明をする。
【0021】
先ず、トラス構造の格点部を形成する継手空間部6へ向けて延長されてなる仲介材16並びに下弦材14に対して、延長方向にプレストレスを導入する。このとき、その端面16a、14aに端板21、22が未配設の場合には、この段階で配設するようにしてもよい。
【0022】
次に、予め製作された継手部材19を、継手空間部6内に配置する。そして、継手部材19における対向面19aに配設された鉄板25を、仲介材16並びに下弦材14の端板21,22に対向させる。この対向させる鉄板25表面と端板21、22表面は、接合性を高めるべく、互いに平行であることが望ましい。さらに端板21、22と、継手部材19の鉄板25とを互いに溶接されることにより接合する。最後に、これら溶接固定した端版21、22と鉄板25の周囲を樹脂モルタル28で埋め込む。
【0023】
このように、本発明を適用した接合部継手構造1では、継手空間部4内に、繊維補強コンクリート部材からなる継手部材19を配置する。このため、2本以上のプレキャスト部材の交点としての格点部においても、継手部材19を構成する繊維補強コンクリート部材自体が継手空間部6に負荷される曲げ、せん断、引張り、圧縮等の応力に対して対抗することが可能となる。また、本発明を適用した接合部継手構造1では、プレキャスト部材からなる仲介材16並びに下弦材14にプレストレスを導入しているため、引張、圧縮応力が負荷された場合には、これらによっても対抗することができる。これに対して、接合部継手構造1において圧縮応力や曲げ応力が負荷された場合には、この継手部材19により対抗することが可能となる。
【0024】
特に本発明において、継手部材18、19を構成する繊維補強コンクリート部材につき、繊維混入率を0.5〜5.0%の範囲で構成することにより、例えば設計基準強度36N/mmの繊維補強コンクリートでは、1.38N/mmの引張抵抗を考慮することができる。なお、繊維混入率があまりに高いと繊維の練り混ぜが困難になる。
【0025】
また、継手部材18、19を構成する繊維補強コンクリート部材においては、コンクリートのひび割れ抵抗性能を表す破壊エネルギーGをも向上させることができる。例えば、圧縮強度30N/mm程度の通常のコンクリートでは、100N/m程度であるが、繊維混入率1%程度の繊維補強コンクリートでは、10000N/m程度まで向上させることが可能となる。
【0026】
また、本発明を適用した接合部継手構造1では、継手部材19と、仲介材16並びに下弦材14との接合部において、鉄板25と、端板21,22とを溶接固定している。これにより、従来において問題となっていた、接合面に発生するひび割れを防止することが可能となり、ひいてはトラス構造全体の信頼性を向上させることが可能となる。
【0027】
また、本発明を適用した接合部継手構造1では、予め工場等において製作した継手部材19を現場に持ち込んで配置するのみで作業を完了させることができる。このため、継手空間部6に対する繊維補強コンクリートの充填作業の負担を解消することができ、施工性を向上させることが可能となることから、工期を短縮することが可能となる。特にトラス構造に存在する格点部の数が多いほど、その効果は大きくなる。
【0028】
さらに、このような構成からなる接合部継手構造1が設けられるトラス構造又はアーチ構造では、全体が外ケーブルでプレストレスが導入されており、この継手空間部6にはプレストレスを導入しない。仮に、この継手空間部6に対してもプレストレスを導入しようとした場合には、接合部材がいきおい大きくなってしまう。このため、本願発明では、継手空間部6に対してもプレストレスを導入する代わりに、繊維補強コンクリート部材からなる継手部材19を配置する。これにより、大きな接合部材を配置する必要がなくなることから、格点部のサイズそのものを小さくすることが可能となる。
【0029】
なお、本発明を適用した接合部継手構造1は、上述した実施の形態に限定されるものではない。図6は、接合部継手構造1における他の構成例を示している。この構成例において、仲介材16並びに下弦材14には、それぞれの端面16a、14aから部材内部へ向けてアンカー材31が定着されている。このアンカー材31は、端面16a、14aに配設された端板21,22にそれぞれ固着されていてもよい。
【0030】
また、継手部材19は、その対向面19aから部材内部へ向けてアンカー材32が定着され、その上で繊維補強コンクリート部材が埋め込まれて構成されている。このアンカー材32は、対向面19aに配設された鉄板25にそれぞれ固着されていてもよい。また、このアンカー材32は、継手部材19の部材内部へと延長され、その先端は、図6に示すように他の対向面19aへ向けて折り曲げられていてもよい。これにより、継手部材19の応力伝達性能をより向上させることが可能となる。
【0031】
ちなみに、上述した例においては、仲介材16、下弦材14、継手部材19内部にそれぞれ2列に亘ってアンカー材31、32をそれぞれ定着される場合を例にとり説明をしたが、かかる場合に限定されるものではないく、いかなる列数でこれを定着するようにしてもよい。
【0032】
また上述した例では、継手空間部6に3〜4本のプレキャスト部材が延長されてきている場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、継手空間部6に2本以上のプレキャスト部材が延長されてきているいかなるアーチ構造やトラス構造の格点部において、接合部継手構造1を配設することも可能である。
【0033】
また、上述した例では、あくまでトラス構造2に適用される接合部継手構造1を例に挙げて説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、いかなるアーチ構造、ラーメン構造に対して適用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る接合部継手構造が適用されるラーメン構造の例を示す図である。
【図2】本発明を適用した接合部継手構造の構成例につき説明するための図である。
【図3】本発明を適用した接合部継手構造に適用される継手部材の例につき説明するための図である。
【図4】本発明を適用した接合部継手構造の他の構成例につき説明するための図である。
【図5】本発明を適用した接合部継手構造に適用される継手部材の他の例につき説明するための図である。
【図6】継手部材19にアンカー材を設ける場合につき説明するための図である。
【図7】従来のラーメン構造の格点部補強構造を示す図である。
【図8】従来のラーメン構造の格点部補強構造を示す他の図である。
【符号の説明】
【0035】
1 接合部継手構造
2 トラス構造
5 PC床版
6 継手空間部
13 上弦材
14 下弦材
16 仲介材
18、19 継手部材
21、22 端板
25 鉄板
31 アンカー材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部を形成する継手空間部へ向けて延長され、当該延長方向にプレストレスが導入されるとともにその端面に端板が配設される2本以上のプレキャスト部材と、
予め製作された繊維補強コンクリート部材からなり、上記継手空間部内に配置されてなるとともに上記プレキャスト部材の端板と対向する対向面に鉄板が配設されてなる継手部材とを備え、
上記プレキャスト部材並びに上記継手部材は、上記端板と上記鉄板とが溶接されることにより互いに接合されていること
を特徴とする接合部継手構造。
【請求項2】
上記鉄板から上記継手部材の内部へ向けてアンカー材が埋設されてなること
を特徴とする請求項1記載の接合部継手構造。
【請求項3】
接合部を形成する継手空間部へ向けて延長されてなる2本以上のプレキャスト部材に対して、当該延長方向にプレストレスを導入するとともにその端面に端板を配設し、
予め製作された繊維補強コンクリート部材からなる継手部材を、上記継手空間部内に配置するとともに、対向面に配設された鉄板を上記プレキャスト部材の端板に対向させ、
さらに上記プレキャスト部材の端板と、上記継手部材の鉄板とを互いに溶接することにより接合すること
を特徴とする接合部継手構造の構築方法。
【請求項4】
上記鉄板から内部へ向けてアンカー材が埋設されてなる上記継手部材を、上記継手空間部内に配置すること
を特徴とする請求項3記載の接合部継手構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−77628(P2007−77628A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265044(P2005−265044)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【Fターム(参考)】