説明

接眼レンズ及びそれを用いた光学機器

【課題】見掛け視界が広視野で高性能を実現することのできる接眼レンズを得る。
【解決手段】光入射側より順に、像面平坦化機能を有する前方レンズ群、複数のレンズ群から成る後方レンズ群とを有し、該前方レンズ群と後方レンズ群との間の中間結像面に形成した中間像を該後方レンズ群を介して観察する接眼レンズにおいて、g線、F線、d線、C線に対する材料の屈折率を順にNg、NF、Nd、NCとし、アッベ数をνd、部分分散比をθgFとし、


とするとき、光路中に、―2.1x10−3・νd +0.693< θgF0.555<θgF<0.9なる条件を満足する固体材料の屈折光学素子を有していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対物レンズ(撮影レンズ)で形成された物体像を観察するのに好適な接眼レンズ及びそれを用いた望遠鏡および双眼鏡(観察光学系)等の光学機器に関し、特に高解像度、広視界の光学機器に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
望遠鏡、双眼鏡等の観察用の光学機器は、視野全体を無理なく観察できるように広視野であることが望まれている。このような望遠鏡、双眼鏡等の光学機器では対物レンズの像を接眼レンズで拡大して観察している。対物レンズの実画角は元来極めて小さいために高性能、広視野を実現するには、見掛け視界(視野角)の大きい接眼レンズに負うところが大きい。
【0003】
従来より高性能、広視野の接眼レンズは種々と提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1の接眼レンズは光の入射側より射出側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群、正の屈折力の第4レンズ群、そして正の屈折力の第5レンズ群の5つのレンズ群から構成されている。
【0005】
特許文献2の接眼レンズは光の入射側より射出側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群の2つのレンズ群を介して結像した中間像を正の屈折力の第3レンズ群、正の屈折力の第4レンズ群、そして正の屈折力の第5レンズ群で観察する全体として5つのレンズ群から構成されている。
【0006】
特許文献3の接眼レンズは、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群より成る像面平坦化手段を介して中間像位置に形成した中間像を拡大して観察するレンズ群から構成されている。
【0007】
一般に、接眼レンズは、広視界になるほど、観察視野周辺の光学性能が劣化しやすくなる。特に、広視界になるほど観察視野周辺で倍率色収差が大きく発生してくる。
【0008】
このときの倍率色収差を補正する為に、比較的高分散で、かつ比較的異常部分分散の液体材料より成る光学部材を用いて色消しを行った光学系が提案されている(特許文献3)。
【0009】
特許文献3は、このような特殊な光学部材を用いて色収差を良好に補正し、高い光学性能を有する光学系を得ている。
【特許文献1】特開平05−119273号公報
【特許文献2】特開平08−005938号公報
【特許文献3】特開平06−148534号公報
【特許文献4】米国特許第5731907号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に接眼レンズは、観察視野が広視野になるほど、観察視野周辺の光学性能が劣化しやすくなる。
【0011】
特に観察視野周辺において倍率色収差の発生が多くなる。この倍率色収差を補正し、光学性能を良好にしようとすると接眼レンズが大型化し、レンズ構成が複雑化してくる。
【0012】
倍率色収差を補正する為に、高分散で異常分離性の光学材料よりなるレンズを用いることが有効である。しかしながら単に光学系中にこのような光学材料より成るレンズを設けただけでは、倍率色収差を補正し、良好なる光学性能が得られない。
【0013】
本発明は見掛け視界が広視野で高性能を実現することのできる接眼レンズ及びそれを用いた望遠鏡及び双眼鏡等の光学機器の提供を目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の接眼レンズは、
◎光入射側より順に、像面平坦化機能を有する前方レンズ群、複数のレンズ群から成る後方レンズ群とを有し、該前方レンズ群と後方レンズ群との間の中間結像面に形成した中間像を該後方レンズ群を介して観察する接眼レンズにおいて、g線、F線、d線、C線に対する材料の屈折率を順にNg、NF、Nd、NCとし、アッベ数をνd、部分分散比をθgFとし、
【0015】
【数1】

【0016】
とするとき、光路中に、
―2.1×10−3・νd +0.693< θgF
0.555<θgF <0.9
なる条件を満足する固体材料の屈折光学素子を有していることを特徴としている。
【0017】
◎対物レンズを介して、被写体を観察する接眼レンズであって、g線、F線、d線、C線に対する材料の屈折率を順にNg、NF、Nd、NCとし、アッベ数をνd、部分分散比をθgFとし、
【0018】
【数2】

【0019】
とするとき、光路中に、
―2.1×10−3・νd +0.693< θgF
0.555<θgF <0.9
なる条件を満足する固体材料の屈折光学素子を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、見掛け視界が広視野で高性能を実現することのできる接眼レンズが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の接眼レンズの実施例1のレンズ断面図、図2は本発明の接眼レンズの実施例1の収差図である。
【0023】
図3は、本発明の接眼レンズの実施例2のレンズ断面図、図4は本発明の接眼レンズの実施例2の収差図である。
【0024】
図5は、本発明の接眼レンズの実施例3のレンズ断面図、図6は本発明の接眼レンズの実施例3の収差図である。
【0025】
図7は、本発明の接眼レンズの実施例4のレンズ断面図、図8は本発明の接眼レンズの実施例4の収差図である。
【0026】
各実施例の接眼レンズは、見掛け視界64度、瞳径4.1、アイレリーフ16mmである。レンズ断面図において、OCLは接眼レンズ、IPはアイポイント(観察位置)、MIPは中間結像位置、L1,L2は接眼レンズOCLの前方レンズ群FLを構成する第1、第2レンズ群,L3、L4,L5は接眼レンズOCLの後方レンズ群RLを構成する第3、第4,第5レンズ群である。
【0027】
尚、各実施例において、レンズ群とは、単一又は複数のレンズより成っている。L3n、L3pは第3レンズ群L3を構成する負レンズ、正レンズ、L5n,L5pは第5レンズ群L5を構成する負レンズ、正レンズである。GITは異常分散性を有する固体材料からなる屈折光学素子であり、レンズ面に設けている。実施例1〜4ではそれぞれ屈折光学素子GITが配置されレンズ面が異なる。具体的には図1の実施例1では第2レンズ群L2の中間結像面HIP側(アイポイントIP側)の面、図3の実施例3では第3レンズ群L3の中間結像面MIP側の面、図5の実施例3では第3レンズ群L3中の接合面、図7の実施例4では第1レンズ群L1の中間結像面MIPから離れた面(光入射側の面)に屈折光学素子GIPが配置されている。
【0028】
縦収差図において単位は、球面収差と像面湾曲はデイオプトリー、歪曲は%、倍率色収差は度である。図中、d、F,C、gは波長d線、F線、C線、g線の収差を、M、Sはメリデイオナル像面、サジタル像面の収差を表す。
【0029】
次に各実施例のレンズ構成および各レンズの光学的作用を説明する。各実施例の接眼レンズOCLは入射側(光入射側)より順に、入射面(被写体側(対物レンズ側)からの光束が入射する面をいう。以下同じ)の屈折力の絶対値が射出面(入射面から入射した光束が出射する面をいう。以下同じ)のそれより強い両レンズ面が凹形状の負レンズより成る第1レンズ群L1、射出面の屈折力の絶対値が入射面のそれよりも強い射出面が凸形状の正の屈折力の第2レンズ群L2、中間像位置MIPを挟んで、射出面が凸でメニスカス形状で全体として正の屈折力の接合レンズより成る第3レンズ群L3、両レンズ面が凸形状の正の屈折力の第4レンズ群L4、入射面の屈折力の絶対値が、出射面のそれよりも強い接合レンズより成る正の屈折力の第5レンズ群L5より構成されている。第1レンズ群L1と第2レンズ群L2から成る前方レンズ群FLは像面平坦化レンズ群を構成し、対物レンズで発生する像面湾曲の拡大を防止し、かつ接眼レンズOCLの像面湾曲の発生を抑える作用を有する。前方レンズ群FLは1以上の負レンズと1以上の正レンズを有するように構成するのが収差補正に良い。負の屈折力の第1レンズ群L1で像面平坦化をはかり、第1レンズ群L1において発生する軸外収差を第2レンズ群L2により補正している。
【0030】
さらに第1レンズ群L1を構成する両レンズ面が凹形状の負レンズと第2レンズ群L2とで形成される空気レンズにより視野周辺の像性能の劣化を緩和している。中間結像面MIPを介して第3レンズ群L3は第2レンズ群L2と対向する入射面を第2レンズ群L2の射出面と同等の曲率として全体の収差発生を抑えている。
【0031】
接眼レンズOCLが広視野のため周辺視野の光束は周辺になるほど第3レンズ群L3と第4レンズ群L4の周辺部を通過し像面湾曲など収差が発生しやすくなる。そこで第3レンズ群L3と第4レンズ群L4と第5レンズ群L5をすべて正の屈折力として光束が徐々に屈折して、アイポイントIPに入射するように構成して収差の発生を抑えている。さらに第3レンズ群L3の正レンズL3pと第4レンズ群L4に高屈折率のガラスを使用して、像面湾曲の平坦化をはかっている。観察側にもっとも近い第5レンズ群L5は単一レンズでも接合レンズでもよい。倍率色収差をさらに良好に補正するため第5レンズ群L5を接合レンズとした場合、接合レンズの接合面を瞳位置に対しコンセントリックに近い曲率とするのが良い。これによれば周辺視野の光束に対する収差を発生を少なくすることができる。
【0032】
接眼レンズを構成する屈折光学素子GITの固体材料は、アッベ数をνd、部分分散比をθgF、θgdとおいたとき、
−2.1×10−3・νd +0.693<θgf・・・・(1)
0.555<θgF<0.9・・・・(2)
−2.407×10−3・νd+1.420<θgd・・・・(3)
1.255<θgd<1.67・・・・(4)
νd<50・・・・(5)
のうち1以上の条件を満足している。
【0033】
ここでアッベ数νd、部分分散比θgF,θgdは、g線(波長435.8nm),F線(486.1nm),d線(587.6nm),C線(656.3nm)に対する材料の屈折率をそれぞれNg,Nd,NF,NCとするとき、
νd=(Nd−1)/(NF−NC)
θgd=(Ng−Nd)/(NF−NC)
θgF=(Ng−NF)/(NF−NC)
である。
【0034】
接眼レンズの観察視野が広視野の場合、材料を全てガラスで構成すると視野周辺で倍率色収差の補正が難しくなる。特に短波長側になると視野角が大きくなるにつれて倍率色収差の曲がりが増大する。そこで条件式(1)〜(5)を満足する固定材料を接眼レンズの一部の屈折光学素子に使用することによって視野周辺における倍率色収差の曲がりを補正している。この理由は、条件式(1)〜(5)を満足する固体材料で形成される屈折光学素子GITは、通常のガラス材より成るレンズで発生する倍率色収差の曲がりと逆の曲がりを発生できるためである。
【0035】
屈折光学素子GITを接眼レンズの前方レンズ群内に配置する場合には、屈折光学素子GITの屈折力を負とし、屈折光学素子GITを後方レンズ群RL内に配置する場合には屈折力を正とするのがよい。
【0036】
接眼レンズを構成する屈折光学素子に、分散の小さな材料を用いると、必要な色収差を得るためのパワー変化量が大きくなり、それに伴って球面収差などの諸収差が大きく変化し、色収差の補正の独立性が弱まる。したがって、接眼レンズを構成する屈折光学素子の内、少なくとも1つの屈折光学素子を、高分散材料で形成することが収差補正上重要である。
【0037】
また屈折光学素子GITは一般の光学材料と組み合わせて使用するため、屈折光学素子GITに用いられる固体材料の部分分散比は一般の光学材料の部分分散比と異なることが必要ではあるが、あまりかけ離れすぎては良くない。
【0038】
一般の光学材料と部分分散比が、大きくかけ離れた材料より成る屈折光学素子を用いた場合、そのレンズ面の色収差の短波長側の曲がりが特に大きくなる。その大きな曲がりをガラスより発生する色収差の曲がりで補正するのは困難である。
【0039】
この為、屈折光学素子GITの材料としては、一般の光学材料に比べて部分分散比が大きな材料であること、かつ一般の光学材料と比べて部分分散比が大きくかけ離れていないことも重要である。条件式(1)〜(5)は、このような収差補正の原理に基づいて色収差を良好に補正するためのアッベ数νdと部分分散比θgF、θgdの関係を特定したものである。
【0040】
なお、条件式(1)の数値範囲は、以下の範囲とすることで更に良好な色収差の補正効果が期待できる。
【0041】
−2.100×10−3・νd+0.693 < θgF <
−1.231×10−3・νd+0.900・・・(1a)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0042】
−2.100×10−3・νd+0.693 < θgF <
−1.389×10−3・νd+0.823・・・(1b)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0043】
−1.682×10−3・νd+0.700 < θgF <
−1.682×10−3・νd+0.756・・・(1c)
条件式(2)の数値範囲は、以下とすると更に良好な色収差補正効果が期待できる。
【0044】
0.555 < θgF < 0.86・・・(2a)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0045】
0.555 < θgF < 0.80・・・(2b)
条件式(3)の数値範囲は、以下とすると更に良好な色収差の補正効果が期待できる。
【0046】
−2.407×10−3・νd+1.420 < θgd <
−1.152×10−3・νd+1.651・・・(3a)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0047】
−2.407×10−3・νd+1.420 < θgd <
−1.865×10−3・νd+1.572・・・(3b)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0048】
−2.076×10−3・νd+1.426 < θgd <
−2.076×10−3・νd+1.512・・・(3c)
条件式(4)の数値範囲は、以下とすると更に良好な色収差の補正効果が期待できる。
【0049】
1.255 < θgd < 1.61・・・(4a)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0050】
1.255 < θgd < 1.54・・・(4b)
条件式(5)は、屈折光学素子GITのアッベ数を適切に設定し、色収差を良好に補正するためのものである。条件式(5)を外れると、広い視界にわたり、色収差を良好に補正するのが難しくなってくる。
【0051】
条件式(5)の数値範囲は、以下の範囲とすることで更に良好な色収差補正効果が期待できる。
【0052】
νd < 45・・・(5a)
更に望ましくは、以下に示す範囲とするのが良い。
【0053】
νd < 32・・・(5b)
各実施例に用いる屈折光学素子の光学材料としては、0℃〜40℃におけるd線の屈折率の温度変化の絶対値を|dn/dT|とするとき、
|dn/dT|< 2.5×10−4(1/℃)・・・(6)
なる条件を満足するのが良い。
【0054】
ここで条件式(6)の範囲をはずれると、0℃〜40℃の温度範囲で良好な光学性能を維持することが困難になる。
【0055】
各実施例の接眼レンズにおいて屈折光学素子GITを光学系中に設けるときは、hを近軸光線の軸上光線の高さ、
【0056】
【数3】

【0057】
は中間結像面に対する軸外光線の高さとするとき、
【0058】
【数4】

【0059】
を満足するレンズ面に設けるのが良い。
【0060】
ここで条件式(7)に該当する面は像面の近傍であることを意味する。この条件(7)では中間結像面に結像する各光束は互いに屈折面において異なる高さに入射するため、倍率色収差の曲がりを補正しやすくなる。
【0061】
この屈折光学素子と空気などの雰囲気とで界面を形成すれば、界面の僅かな曲率変化で色収差を比較的大きく変化させることができるため倍率色収差を補正しやすくなる。
さらに屈折光学素子GITの空気に接している面に非球面を用いると、倍率色収差の曲がりを補正すると同時に広視界である場合に発生しやすい像面湾曲の曲がり、コマ収差を補正するのに効果がある。
【0062】
尚、各実施例において、収差補正好ましくは、屈折光学素子GITの2つの面のうち、少なくとも一つの屈折面は非球面形状であること、屈折光学素子GITの2つの屈折面のうち、少なくとも一方の屈折面は空気に接すること、屈折光学素子GITの2つの屈折面は共にガラスに接していること、
の少なくとも1つを満足するのが良い。
【0063】
前述した条件式(1),(2)を満足する固体材料(以下「光学材料」ともいう。)の具体例としては、例えば樹脂がある。様々な樹脂の中でも特にUV硬化樹脂(Nd=1.635,νd=22.7,θgF=0.69)やN−ポリビニルカルバゾール(Nd=1.696,νd=17.7,θgF=0.69)は条件式(1),(2)を満足する光学材料である。尚、条件式(1),(2)を満足する樹脂であれば、これらの種類に限定するものではない。
【0064】
また、一般の硝材とは異なる特性を持つ光学材料として、下記の無機酸化物ナノ微粒子を合成樹脂中に分散させた混合体がある。なお無機酸化物ナノ微粒子として、TiO(Nd=2.304,νd=13.8),Nb(Nd=2.367,νd=14.0),ITO(Nd=1.8581,νd=5.53),Cr(Nd=2.2178,νd=13.4),BaTiO(Nd=2.4362,νd=11.3)等がある。
【0065】
これらの無機酸化物の中では、TiO(Nd=2.304,νd=13.8,θgF=0.87)微粒子を合成樹脂中に適切なる体積比で分散させた場合、上記条件式(1),(2)を満足する光学材料が得られる。
TiOは様々な用途で使われる材料であり、光学分野では反射防止膜などの光学薄膜を構成する蒸着用材料として用いられている。他にも光触媒、白色顔料などとして、またTiO微粒子は化粧品材料として用いられている。
【0066】
各実施例において樹脂に分散させるTiO微粒子の平均径は、散乱などの影響を考えると2nm〜50nm程度がよく、凝集を抑えるために分散剤などを添加しても良い。TiOを分散させる媒体材料としては、ポリマーが良く、成形型等を用いて光重合成形または熱重合成形することにより高い量産性を得ることができる。
【0067】
また、ポリマーの光学定数の特性としても、部分分散比が比較的大きいポリマー、あるいはアッベ数が比較的小さいポリマーか、両者を満たすポリマーが良く、N−ポリビニルカルバゾール、スチレン、ポリメタクリル酸メチル(アクリル)、などが適用できる。実施例ではTiO微粒子を分散させるホストポリマーとしてUV硬化樹脂を用いている。しかし、これに限定するものではない。ナノ微粒子を分散させた混合体の分散特性N(λ)は、良く知られたDrudeの式から導きだされた次式によって簡単に計算することができる。即ち、波長λにおける屈折率N(λ)は、
N(λ)=[1+V{NTiO(λ)−1}+(1−V){N(λ)−1}]1/2
である。
【0068】
ここで、λは任意の波長、NTiOはTiOの屈折率、Nはポリマーの屈折率、Vはポリマー体積に対するTiO微粒子の総体積の分率である。
次に条件式(1),(2)を満足する固体材料の光学特性を具体的に示す。
表−1は本発明の接眼レンズの実施例1,2,3,4に対応させて、UV硬化樹脂1,TiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比率10%、20%及び7%で混合した混合体のd線、g線、C線及びF線に対する屈折率及びアッベ数、部分分散比の値を示す。表−2は表1の混合体を構成するUV硬化樹脂2、TiO単体のd線、g線、C線及びF線に対する屈折率及びアッベ数、部分分散比を示している。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
本発明の実施例1,2,3,4では屈折光学素子GITに採用した固体材料は、実施例1ではUV硬化樹脂1、実施例2ではTiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で10%分散させた混合体、実施例3はTiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で20%分散させた混合体、実施例4はTiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で7%分散させた混合体である。
【0072】
図14はアッベ数νdと部分分散比θgFについて、条件式(1),(2)の範囲と、表1,表2の物質及び一般の光学ガラスとの関係を示したものである。図15はアッベ数νdと部分分散比θgdについて、条件式(3),(4)の範囲と、表1,表2の物質及び一般の光学ガラスとの関係を示したものである。
【0073】
各実施例の接眼レンズの一部には、前述した条件式(1)〜(7)の1以上を満足する光学材料を用いている。各実施例では、光学材料としてUV硬化樹脂1、TiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で7−20%の範囲内で分散させた混合体を用いた例を示した。実施例1は接眼レンズOCLの前方レンズ群L1において中間結像面MIPにもっとも近接する面に前記光学材料を用いた例である。光学材料としてUV硬化樹脂1を用いている。実施例2は接眼レンズOCLの第2レンズ群L2において中間結像面MIPに最も近接した面に光学材料を用いた例である。光学材料としてTiO2微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で10%分散させた混合体を用いている。
【0074】
実施例3は接眼レンズOCLの後方レンズ群RLにおいて中間結像面MIPに近い接合面に前記光学材料を用いた例である。光学材料としてTiO2微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で20%分散させた混合体を用いている。
【0075】
実施例4は接眼レンズOCLの第1レンズ群L1において最も中間結像面MIPから離れた面に用いた例である。光学材料としてはTiO微粒子をUV硬化樹脂2に体積比で7%分散させた混合体を用いている。実施例1−3は光学材料の屈折面は球面で構成されている。実施例4は光学材料の接合側の屈折面は球面、空気に接する屈折面は非球面である。実施例1,2、4は屈折光学素子GITが空気に接する面を有して収差補正に有効に機能するようにしている。実施例3は屈折光学素子GITを空気に接する面が生じないようにレンズの接合面に配置して環境耐久性に強い構成としている。
【0076】
異常分散性の光学材料を接眼レンズの適切な位置に配置することによって倍率色収差の曲がりが補正され、観察する全視野で色にじみのない像を観察できる。さらに光学材料の屈折面に非球面を用いると像面湾曲の曲がり及びコマ収差の補正に効果がある。
【0077】
図9は、本発明の実施例1の接眼レンズを用いた望遠端の実施例5のレンズ断面図である。
【0078】
図10は実施例5の収差図である。
【0079】
図11は、本発明の実施例2の接眼レンズを用いた望遠端の実施例6のレンズ断面図である。
【0080】
図12は実施例6の収差図である。
【0081】
実施例5,6はいずれも望遠鏡の倍率が10倍であり、かつ自動的に手ぶれ補正を有した光学系である。図中、OBJは対物レンズ、L6、L7は対物レンズOBJを構成する第6レンズ群、第7レンズ群、VAPは頂角可変プリズム、Pは正立プリズムである。VAPはプリズム頂角可変の特徴を生かして望遠鏡装置の振れ角に応じてプリズム頂角を変化させ観察像を見かけ上静止させる機能を持たせている。Pは対物レンズOBJで反転した像を正立像に変換し接眼レンズOCLでは正立像が観察できるようにするプリズムであり、図では展開系のガラスブロックで示している。望遠鏡の性能を確保するためには接眼レンズOCLの性能を良好にすると同時に対物レンズOBJの性能も良好にする必要がある。実施例では良好な光学性能を有する対物レンズを組み合わせて構成している。
【0082】
図13は図9の望遠鏡を1対用いた双眼鏡の実施例7の概略図である。図中、OBJR,VAPR、PR,OCLR,OARは順に、双眼鏡の右側に配置された対物レンズ、頂角可変プリズム、正立プリズム、接眼レンズ、対物レンズの光軸を表している。又OBJL、VAPL、PL、OCLL OALは順に、双眼鏡の左側に配置された対物レンズ、頂角可変プリズム、正立プリズム、接眼レンズ、対物レンズの光軸を表している。なお左右の対物レンズOBJL,OBJRに対し左右に配置された正立プリズムであるポロII型プリズムPL,PRと接眼レンズOCLL,OCLRを対物レンズの光軸OAL,OARを回転軸にして左右それぞれ一体的に回動することによって眼幅調整を行うことができる。図10の縦収差図で示したように図13の双眼鏡は10倍、64度の広視界にもかかわらず良好な性能を確保している。
【0083】
なお本発明の接眼レンズは顕微鏡にも使用できる。本発明の接眼レンズを用いた顕微鏡は画像周辺まで良好に色収差補正された画像の観察が可能となる。
【0084】
以上のように各実施例によれば、60度以上の広視界にもかかわらず視野周辺まで倍率色収差のきわめて少ない良好な性能を有する10倍程度の接眼レンズ及びそれを有する望遠鏡や双眼鏡を実現できる。
【0085】
次に、本発明の接眼レンズ及びそれを望遠端に用いたときの数値実施例を示す。各数値実施例において、iは物体側からの面の順序を示し、Riはレンズ面の曲率半径、Diは第i面と第(i+1)面との間の間隔、Ni、νdiはそれぞれd線を基準とした屈折率、アッベ数を示す。θgF、θgdは部分分散比である。
【0086】
また、最も像側の1つの面はアイポイントである。
【0087】
また、非球面形状は、光の進行方向を正とし、xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、B〜Eを非球面係数とするとき、
x=(h/R)/[1+{1−(1+k)(h/R)1/2
+Bh+Ch+Dh+Eh10
なる式で表している。
【0088】
また「e−0X」は「×10−x」を意味している。fは焦点距離、ωは半画角を示す。
【0089】
【数5】

【0090】
【数6】

【0091】
【数7】

【0092】
【数8】

【0093】
【数9】

【0094】
【数10】

【0095】
本発明の接眼レンズの実施例1,2,3、4の屈折光学素子の固体材料が条件式(1)〜(5)を満足することは後述する図14、図15で明確である。また条件式(6)に相当する数値は下記のとおりである。
【0096】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の接眼レンズ実施例1のレンズ断面図
【図2】本発明の接眼レンズ実施例1の縦収差図
【図3】本発明の接眼レンズ実施例2のレンズ断面図
【図4】本発明の接眼レンズ実施例2の縦収差図
【図5】本発明の接眼レンズ実施例3のレンズ断面図
【図6】本発明の接眼レンズ実施例3の縦収差図
【図7】本発明の接眼レンズ実施例4のレンズ断面図
【図8】本発明の接眼レンズ実施例4の縦収差図
【図9】本発明の望遠鏡レンズの実施例5のレンズ断面図
【図10】本発明の望遠鏡の実施例5の縦収差図
【図11】本発明の望遠端の実施例6のレンズ断面図
【図12】本発明の望遠鏡の実施例6の縦収差図
【図13】本発明の望遠鏡の実施例5を一対用いた双眼鏡の光学系を示す図
【図14】本発明に係る条件式(1),(2)の範囲を説明する図
【図15】本発明に係る条件式(3),(4)の範囲を説明する図
【符号の説明】
【0098】
L1 第1レンズ群
L2 第2レンズ群
L3 第3レンズ群
L4 第4レンズ群
L5 第5レンズ群
L6 第6レンズ群
L7 第7レンズ群
GIT 屈折光学素子
MIP 中間結像面
OBJ,OBJR,OBJL 対物レンズ
VAP、VAPR、VAPL 頂角可変プリズム
P、PR,PL 正立プリズム
OCL,OCLR,OCLL 接眼レンズ
OAR,OAL 対物レンズ光軸
FL 前方レンズ群
RL 後方レンズ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側より順に、像面平坦化機能を有する前方レンズ群、複数のレンズ群から成る後方レンズ群とを有し、該前方レンズ群と後方レンズ群との間の中間結像面に形成した中間像を該後方レンズ群を介して観察する接眼レンズにおいて、g線、F線、d線、C線に対する材料の屈折率を順にNg、NF、Nd、NCとし、アッベ数をνd、部分分散比をθgFとし、
【数1】

とするとき、光路中に、
―2.1×10−3・νd +0.693< θgF
0.555<θgF <0.9
なる条件を満足する固体材料の屈折光学素子を有していることを特徴とする接眼レンズ。
【請求項2】
前記屈折光学素子の部分分散比をθgdとし、
【数2】

とするとき、
−2.407×10−3・νd+1.420<θgd
1.255<θgd<1.67
なる条件を満足することを特徴とする請求項1の接眼レンズ。
【請求項3】
前記前方レンズ群は、1枚以上の負レンズと、1枚以上の正レンズから成ることを特徴とする請求項1又は2の接眼レンズ。
【請求項4】
前記屈折光学素子は、負の屈折力を有し、前記前方レンズ群に配置されていることを特徴とする請求項1、2又は3の接眼レンズ。
【請求項5】
前記屈折光学素子は、正の屈折力を有し、前記後方レンズ群に配置されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4の接眼レンズ。
【請求項6】
前記屈折光学素子は、前記中間結像面を通過する近軸光線の軸上光線の高さをh、軸外光線の高さを
【数3】

とするとき、
【数4】

なる条件を満足する面に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項7】
前記固体材料は0°C〜40°Cの温度範囲におけるd線の屈折率の温度に対する変化率の絶対値を|dn/dT|とするとき
|dn/dT| < 2.5×10−4 /°C
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項8】
前記屈折光学素子の光入射側と光出射側の2つの面のうち、少なくとも一つの面は非球面形状であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項9】
前記屈折光学素子の光入射側と光出射側の2つの面のうち、少なくとも一方の面は空気に接していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項10】
前記屈折光学素子の光入射側と光出射側の2つの面は共にガラス材より成る面に接していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項11】
対物レンズを介して、被写体を観察する接眼レンズであって、g線、F線、d線、C線に対する材料の屈折率を順にNg、NF、Nd、NCとし、アッベ数をνd、部分分散比をθgFとし、
【数5】

とするとき、光路中に、
―2.1×10−3・νd +0.693< θgF
0.555<θgF <0.9
なる条件を満足する固体材料の屈折光学素子を有していることを特徴とする接眼レンズ。
【請求項12】
前記屈折光学素子の部分分散比をθgdとし、
【数6】

とするとき、
−2.407×10−3・νd+1.420<θgd
1.255<θgd<1.67
なる条件を満足することを特徴とする請求項11の接眼レンズ。
【請求項13】
νd<50
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項の接眼レンズ。
【請求項14】
対物レンズと、請求項1から13のいずれか1項の接眼レンズとを用いて被写体を観察することを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−301508(P2006−301508A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126492(P2005−126492)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】