説明

接着剤を用いた製品の製造方法

【課題】製造工程内で良好な接着状態が得られなかった場合には被接着部材を再使用可能であり、かつ、市場で用いられる際には充分な接着性を確保することが可能な接着剤を用いた製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】判別工程12で接着状態が不良であると判別した場合には、剥離工程13で発泡剤を含有する接着剤層を加熱発泡させて被着体から剥離し、被着体を接着工程11で再使用する。一方、判別工程12で接着状態が良好にあると判別した場合には、ガス抜き工程14において、接着剤層が発泡し難い剥離工程13より低い温度で接着体を加熱して、接着剤層からガス抜きする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱発泡により接着機能を低下して被接着部材から剥離可能な熱剥離型の接着剤を用いた製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被接着部材を一時的に固定すること等を目的として、加熱により発泡して剥離性を呈する熱剥離型の接着剤が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−245967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に、製品の被接着部材間を接着する接着剤は、市場における製品の信頼性を得るために硬化後に接着信頼性が充分確保できるものが採用される。そのため、製品の製造工程内において被接着部材間が良好な接着状態にないことが明らかになった場合であっても、被接着部材から接着剤層を剥離して被接着部材を再使用することは極めて困難であった。
【0004】
これに対し、上記従来技術の熱剥離型接着剤を採用すれば、被接着部材間が良好な接着状態にない場合には、加熱することにより接着剤層を被接着部材から剥離して被接着部材を再使用することが可能である。しかしながら、被接着部材間が良好な接着状態にある製品が市場で用いられるときには、その環境条件温度によっては、接着剤層が発泡して接着機能が低下する可能性があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、製造工程内で良好な接着状態が得られなかった場合には被接着部材を再使用可能であり、かつ、市場で用いられる際には充分な接着性を確保することが可能な接着剤を用いた製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)とが接着された製品の製造方法であって、
第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)との間に、加熱によりガスを発生する発泡剤(4)を含有する接着剤層(3)を介在させて、第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)とを接着する接着工程(11)と、
接着工程(11)の後に、第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)との接着状態が所定状態であるか否かを判別する判別工程(12)と、
判別工程(12)で接着状態が所定状態にないと判別した場合に、第1の被接着部材(1)および第2の被接着部材(2)を接着工程(11)に供給して再接着するために、第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)との接着体を、発泡剤(4)が発生するガスにより接着剤層(3)を発泡する所定温度以上に加熱して接着剤層(3)を発泡させ、第1の被接着部材(1)および第2の被接着部材(2)から接着剤層(3)を剥離する剥離工程と(13)、
判別工程(12)で接着状態が所定状態にあると判別した場合に、第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)との接着体を該所定温度より低い温度で加熱して、接着剤層(3)の発泡を抑止しつつ発泡剤(4)が発生するガスを接着剤層(3)から抜くガス抜き工程(14)とを備えることを特徴としている。
【0007】
これによると、判別工程(12)で接着状態が所定状態にないと判別した場合には、剥離工程(13)で発泡剤(4)を含有する接着剤層(3)を加熱発泡させて第1、第2の被接着部材(1、2)から剥離し、第1、第2の被接着部材(1、2)を接着工程(11)で再度使用することができる。
【0008】
一方、判別工程(12)で接着状態が所定状態にあると判別した場合には、ガス抜き工程(14)において、接着剤層(3)が発泡し難い剥離工程(13)より低い温度で接着体を加熱して、接着剤層(3)からガス抜きすることができる。したがって、第1、第2の被接着部材(1、2)を接着した製品(5)が用いられる環境温度が比較的高温であっても接着剤層(3)が発泡し難い。
【0009】
このようにして、製造工程内で良好な接着状態が得られなかった場合には第1、第2の被接着部材(1、2)を再使用可能であり、かつ、第1、第2の被接着部材(1、2)を接着した製品(5)が市場で用いられる際には充分な接着性を確保することができる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明では、ガス抜き工程(14)における加熱温度は、剥離工程(13)における加熱温度に対し、セ氏温度値で20〜40%の値であることを特徴としている。
【0011】
剥離工程(13)において接着剤層(3)を確実に加熱発泡できる温度に対し、ガス抜き工程(14)では、加熱温度がセ氏温度値で40%より高いと接着剤層(3)が発泡し接着能が低下する可能性がある。一方、ガス抜き工程(14)における加熱温度が剥離工程(13)における加熱温度に対し20%未満であると、接着剤層(3)からのガス抜きが良好に行われ難い。
【0012】
したがって、ガス抜き工程(14)における加熱温度を、剥離工程(13)における加熱温度に対し、セ氏温度値で20〜40%の値とすることにより、接着剤層(3)を発泡させることなくガス抜きを良好に行うことができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、接着剤層(3)は常温硬化型接着剤からなることを特徴としている。
【0014】
これによると、接着工程(11)において接着剤層(3)を加熱する必要がないので、第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)とを接着する際に接着剤層(3)が発泡することを防止できる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、第1、第2の被接着部材(1、2)を接着した製品(5)は、車両に搭載されることを特徴としている。
【0016】
車両に搭載される製品は環境温度が比較的高温になり易い。第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)とを接着した製品(5)は、接着剤層(3)からガス抜きがされているので、車両に搭載されて高温になったとしても充分な接着信頼性を確保することができる。
【0017】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明を適用した一実施形態における被接着部材同士を接着して製品を製造する方法を説明するための工程フローチャートであり、図2〜4は、各工程における接着体の断面を模式的に示す工程別断面図である。
【0020】
本実施形態の製品5は、例えば、車載用コンピュータユニットであり、図1に示す接着工程11に供給される被着体1、2は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂製の筐体、および、この筐体の開口部を閉塞して、実装回路基板等を収納した内部空間を密封するPPS樹脂製のカバー部材とすることができる。被着体1、2は、本実施形態における第1の被接着部材および第2の被接着部材である。
【0021】
図1に示すように、被着体1、2および接着剤3Aが供給された接着工程11では、接着剤3Aによる被着体1、2間の接着が行われる。
【0022】
接着剤3Aは、例えば、シリコーン樹脂系接着剤(本例では東レダウコーニング社製HC2000)に、加熱によりガスを発生する発泡剤(本例では松本油脂社製マイクロスフェアF85D)を添加した、硬化に加熱を必要とせず室温で硬化する常温硬化型接着剤である。ちなみに、例示したシリコーン樹脂系接着剤は、空気中の水蒸気により硬化する湿気硬化型接着剤である。
【0023】
接着工程11では、図2に示すように、被着体1と被着体2との間に発泡剤4を含有する接着剤層3を介在させて、被着体1と被着体2とを接着する。接着剤層3を形成する接着剤3Aは発泡剤4を5〜40重量%含有していることが好ましい。
【0024】
発泡剤4を40重量%超含有する接着剤3Aは流動性が大きく低下し、接着剤層3を塗布形成することが困難である。一方、発泡剤4の含有率が5重量%未満では、後述する剥離工程13において接着剤層3を確実に発泡させ接着機能を低下させることが困難となる。これらより、接着剤3Aの発泡剤4の含有率は5〜40重量%であることが好ましい。
より好ましくは発泡剤4の含有率は25〜40重量%であり、より一層好ましくは発泡剤4の含有率は35〜40重量%である。
【0025】
接着工程を行ったら、次に、判別工程12を行う。判別工程12は、接着剤層3を介在させた被着体1と被着体2との接着状態が所定の状態となっているか否かを判別する、所謂検査工程である。
【0026】
判別工程12において、被着体1と被着体2との接着状態が所定の状態にない場合、すなわち接着体が不良品であると判別した場合には、剥離工程13を行う。
【0027】
剥離工程13では、図3に示すように、被着体1と被着体2との接着体を、発泡剤4が発生するガスにより接着剤層3を発泡する所定温度以上に加熱して(本例では180℃で5分間加熱して)接着剤層3を発泡させて接着剤層3の接着能を低下させ、被着体1と接着剤層3との間および被着体2と接着剤層3との間を剥離する。
【0028】
接着剤層3を形成する接着剤3Aは、所謂、熱剥離型接着剤である。剥離工程13で接着剤層3を剥離された被着体1および被着体2は、接着工程11に供給され再接着される。
【0029】
判別工程12において、被着体1と被着体2との接着状態が所定の状態にある場合、すなわち接着体が良品であると判別した場合には、ガス抜き工程14を行う。
【0030】
ガス抜き工程14では、図4に示すように、被着体1と被着体2との接着体を、発泡剤4が発生するガスにより接着剤層3を発泡する所定温度より低い温度で加熱して(本例では50℃で5時間加熱して)、接着剤層3の発泡を抑制しつつ発泡剤4が発生するガスを接着剤層3から徐々に抜く。
【0031】
ガス抜き工程14における加熱温度(セ氏温度)は、剥離工程13における加熱温度(セ氏温度)の20〜40%の温度とし、0.1〜5時間加熱することが好ましい。
【0032】
剥離工程13において接着剤層3を確実に加熱発泡する温度に対し、ガス抜き工程14の加熱温度がセ氏温度値で40%より高いと、接着剤層3が発泡し接着能が低下する可能性があり好ましくない。一方、ガス抜き工程14の加熱温度が剥離工程13の加熱温度に対しセ氏温度値で20%未満であると、接着剤層3からのガス抜きが良好に行われ難く好ましくない。
【0033】
したがって、ガス抜き工程14の加熱温度を、剥離工程13の加熱温度に対し、セ氏温度値で20〜40%の値とすることにより、接着剤層3を発泡させることなくガス抜きを良好に行うことができる。
【0034】
ガス抜き工程14を実行することで、ガス抜きされた接着剤層3により被着体1と被着体2とが接着された接着体を備える製品5が得られる。
【0035】
上述の製品の製造方法によれば、判別工程12で接着状態が所定状態にないと判別した場合には、剥離工程13で発泡剤4を含有する接着剤層3を加熱発泡させ接着能を低下させて被着体1、2から剥離し、被着体1、2を廃棄することなく接着工程11で再度使用することができる。
【0036】
また、判別工程12で接着状態が所定状態にあると判別した場合には、ガス抜き工程14において、接着剤層3が発泡し難い剥離工程13より低い温度で接着体を加熱して、接着剤層3からガス抜きすることができる。したがって、被着体1、2を接着した製品5が用いられる市場の熱環境が比較的高温であっても接着剤層3の発泡を防止して接着能が低下することを抑止できる。
【0037】
このようにして、接着工程11で良好な接着状態が得られなかった場合には、被着体1、2を再使用することができ、接着工程11で良好な接着状態が得られた場合には、被着体1、2を接着した製品5の接着信頼性を維持することができる。
【0038】
図5は、本発明者らが行ったせん断接着強度の評価結果である。ガス抜き工程14を行わなかった場合には、接着体を80℃雰囲気中に放置した後に、接着強度が初期強度の50%以下にまで低下していることを確認した。また、120℃雰囲気中に放置した後には更に接着強度が低下することを確認した。
【0039】
これに対し、50℃3時間のガス抜き工程14を行った場合には、接着体を80℃雰囲気中に放置した後であっても接着強度が初期強度の80%以上確保できることを確認したが、120℃雰囲気中に放置した後には接着強度が50%以下にまで低下することを確認した。
【0040】
また、50℃5時間のガス抜き工程14を行った場合には、接着体を80℃雰囲気中に放置した後であっても接着強度が初期強度の80%以上確保でき、120℃雰囲気中に放置した後であっても接着強度が初期強度の50%以上確保できることを確認した。
【0041】
車両において車室内の一般的な最高温度は80℃であり、エンジンルーム内の一般的な最高温度は120℃である。したがって、車両に搭載される製品に本実施形態の製造方法を適用すれば、熱剥離型の接着剤を採用しても接着信頼性を確保できることを確認した。
【0042】
(他の実施形態)
上記一実施形態では、接着剤層3を構成する接着剤3Aとしてシリコーン系接着剤を例示していたが、常温硬化型接着剤もしくは発泡剤が発泡しない程度の加熱温度で硬化させることが可能な接着剤であれば、これに限定されるものではない。例えばウレタン系接着剤等であってもよい。
【0043】
また、上記一実施形態では、接着剤層3に含有される発泡剤4として例示したものは、具体的な構成の説明を省略していたが、微細粒子状の熱可塑性樹脂バルーン内にガスを封入したものである。しかしながら、接着剤層に含有される発泡剤はこれに限定されるものではなく、例えば、加熱されることによって反応しガスを発生するものであってもよい。
【0044】
また、上記一実施形態では、被接着部材である被着体1、2はPPS樹脂製であったが、これに限定されるものではない。例えば、他の樹脂からなるものであってもよいし、金属製やセラミックス製の被接着部材であってもかまわない。
【0045】
また、上記一実施形態では、被接着部材である被着体1、2として、車載用コンピュータユニットの筐体とカバー部材とを例示していたが、これに限定されるものではない。コンピュータユニット以外の車載製品の製造に本発明を適用するものであってもよいし、車載用以外の製品の製造に本発明を適用するものであってもよい。
【0046】
ただし、車両に搭載される製品は環境温度が比較的高温になり易いため、車載製品の製造に本発明を適用すれば、車両に搭載されて高温になったとしても充分な接着信頼性を確保することができ、極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用した一実施形態における被接着部材同士を接着して製品を製造する方法を説明するための工程の流れを示す図である。
【図2】接着工程における接着体の断面を模式的に示す断面図である。
【図3】剥離工程における接着体の断面を模式的に示す断面図である。
【図4】ガス抜き工程における接着体の断面を模式的に示す断面図である。
【図5】せん断接着強度の評価結果を示す表である。
【符号の説明】
【0048】
1 被着体(第1の被接着部材)
2 被着体(第2の被接着部材)
3 接着剤層
4 発泡剤
5 製品
11 接着工程
12 判別工程
13 剥離工程
14 ガス抜き工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被接着部材(1)と第2の被接着部材(2)とが接着された製品の製造方法であって、
前記第1の被接着部材(1)と前記第2の被接着部材(2)との間に、加熱によりガスを発生する発泡剤(4)を含有する接着剤層(3)を介在させて、前記第1の被接着部材(1)と前記第2の被接着部材(2)とを接着する接着工程(11)と、
前記接着工程(11)の後に、前記第1の被接着部材(1)と前記第2の被接着部材(2)との接着状態が所定状態であるか否かを判別する判別工程(12)と、
前記判別工程(12)で前記接着状態が前記所定状態にないと判別した場合に、前記第1の被接着部材(1)および前記第2の被接着部材(2)を前記接着工程(11)に供給して再接着するために、前記第1の被接着部材(1)と前記第2の被接着部材(2)との接着体を、前記発泡剤(4)が発生するガスにより前記接着剤層(3)を発泡する所定温度以上に加熱して前記接着剤層(3)を発泡させ、前記第1の被接着部材(1)および前記第2の被接着部材(2)から前記接着剤層(3)を剥離する剥離工程と(13)、
前記判別工程(12)で前記接着状態が前記所定状態にあると判別した場合に、前記第1の被接着部材(1)と前記第2の被接着部材(2)との接着体を前記所定温度より低い温度で加熱して、前記接着剤層(3)の発泡を抑止しつつ前記発泡剤(4)が発生するガスを前記接着剤層(3)から抜くガス抜き工程(14)とを備えることを特徴とする接着剤を用いた製品の製造方法。
【請求項2】
前記ガス抜き工程(14)における加熱温度は、前記剥離工程(13)における加熱温度に対し、セ氏温度値で20〜40%の値であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤を用いた製品の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤層(3)は、常温硬化型接着剤からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着剤を用いた製品の製造方法。
【請求項4】
前記製品(5)は、車両に搭載されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接着剤を用いた製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−46640(P2009−46640A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216378(P2007−216378)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】