説明

接着剤組成物、及びそれを用いた有機繊維とゴムとの接着方法

【課題】作製時及び接着処理時のホルムアルデヒドを削減して作業環境を改善することができる上、有機繊維とゴムとの接着における長時間耐熱性を向上させることが可能な接着剤組成物及びそれを用いた接着方法を提供する。
【解決手段】レゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと、イオウを含有するレゾルシン誘導体とを含んでなることを特徴とする接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、及び該接着剤組成物を用いた有機繊維とゴムとの接着方法に関し、特にポリエステル繊維とゴムとの接着における長時間耐熱性を向上させることが可能な接着剤組成物及びそれを用いた接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ等のゴム物品においては、レゾルシン又はノボラック型のレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とホルムアルデヒドとゴムラテックスとからなる接着剤組成物(所謂、RFL液)を有機繊維に含浸付着せしめた後、熱処理した有機繊維を未加硫ゴムに埋設し、該未加硫ゴムを加硫して有機繊維とゴムとを一体化する技術が知られている。ここで、RFL液等のレゾルシノール樹脂接着系は、一般に長時間耐久性が高いことが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年のホルムアルデヒドを削減した接着剤組成物へのニーズの高まりから、レゾルシン又はノボラック型のレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、特定のメラミン系化合物と、ゴムラテックスとからなる接着液が注目されている(下記特許文献1参照)。該接着液においては、特定のメラミン系化合物が、メチレンドナーとしてのホルムアルデヒドの役割を代替できるため、ホルムアルデヒドの使用量を削減することができ、その結果として、作業環境を改善することができる。
【0004】
【非特許文献1】接着,高分子刊行会,V0149,No10,2005
【特許文献1】特開2000−160108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特開2000−160108号公報に記載のメラミン系化合物を含む接着液は、長時間耐熱性が低く、特にゴム物品の補強材としてポリエステルコードを使用した場合、該ポリエステルは分子構造的に緻密で且つ官能基が少ないため、この傾向が顕著に現れることが分かった。そのため、RFL液を上記のメラミン系化合物が縮合された樹脂系で代替して製造したゴム物品は、長時間耐久性に優れたレゾルシノール樹脂接着系を用いて製造したゴム物品に比べ、製品寿命が短く、特にゴム物品を高歪・高温下で使用した場合、有機繊維とゴムとの接着強度が劣化する不具合が有ることが分かった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、作製時及び接着処理時のホルムアルデヒドを削減して作業環境を改善することができる上、有機繊維とゴムとの接着における長時間耐熱性を向上させることが可能な接着剤組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる接着剤組成物を用いた、作業環境を改善することが可能な有機繊維とゴムとの接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、レゾルシンと特定のメラミン系化合物との初期縮合物及びビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと共に、ジスルフィド結合を有するレゾルシン誘導体を含む接着剤組成物が、有機繊維とゴムとの接着における長時間耐熱性を大幅に改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の接着剤組成物は、
レゾルシンと下記一般式(I):
【化1】


[式中、Rは、それぞれ独立して水素、メチロール基、メトキシメチル基又はエトキシメチル基である]で表わされるメラミン系化合物との初期縮合物と、
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと、
下記化学式(II):
【化2】


で表わされるレゾルシン誘導体と
を含んでなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機繊維とゴムとの接着方法は、
上記の接着剤組成物を有機繊維に含浸付着させる工程と、
前記接着剤組成物が付着した有機繊維を未加硫ゴムに埋設する工程と、
前記接着剤組成物が付着した有機繊維及び前記未加硫ゴムを加硫処理して、有機繊維とゴムとを一体化する工程と
を含むことを特徴とする。ここで、前記有機繊維としては、ポリエステル繊維が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レゾルシンと特定のメラミン系化合物との初期縮合物及びビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと共に、ジスルフィド結合を有する特定のレゾルシン誘導体を含み、接着剤組成物の作製にホルムアルデヒドを使用する必要がないため作業環境を改善できる上、有機繊維とゴムとの接着における長時間耐熱性を向上させることが可能な接着剤組成物を提供することができる。また、該接着剤組成物を有機繊維とゴムとの接着処理に用いることで、接着処理時の作業環境を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の接着剤組成物は、レゾルシンと上記一般式(I)で表わされるメラミン系化合物との初期縮合物と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと、上記化学式(II)で表わされるレゾルシン誘導体とを含んでなることを特徴とする。
【0012】
本発明の接着剤組成物においては、式(I)のメラミン系化合物が、メチレンドナーとしてのホルムアルデヒドの役割を代替できるため、ホルムアルデヒドを使用する必要がない。そのため、本発明の接着剤組成物によれば、接着剤組成物の作製時及び接着処理時の作業環境を改善することができる。
【0013】
また、本発明の接着剤組成物に用いるジスルフィド結合を有する式(II)のレゾルシン誘導体は、加硫工程でのラテックスの加硫において加硫遅延(リターダー)作用を発現し、接着剤層の硬化を防止して、接着の耐熱性を向上させることができる。そのため、本発明の接着剤組成物を有機繊維とゴムとの接着に用いることで、有機繊維とゴムとの長時間耐熱性を向上させることができる。
【0014】
本発明の接着剤組成物に用いるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスは、ピリジン環含有ビニル化合物と、未置換・置換スチレンと、共役ジエン化合物との共重合体粒子を含むラテックスであり、市販品を利用することができる。ここで、ピリジン環含有ビニル化合物としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン等が挙げられ、これらの中でも、2-ビニルピリジンが好ましい。また、未置換・置換スチレンとしては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。更に、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ジエン化合物系モノマーが挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。なお、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体における各モノマーの組成比は、特に限定されない。
【0015】
本発明の接着剤組成物に用いるレゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物は、レゾルシンとメラミン系化合物とを混合して、熟成することで調製することができる。ここで、該レゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物において、レゾルシン(R)とメラミン系化合物(M)との質量比(R/M)は、10/35〜30/10の範囲が好ましい。タイヤの耐熱性の点においては、化合物の分解温度が低いメラミン系化合物の量を必要以上に多く配合しない方が好ましい。
【0016】
上記レゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物の合成に使用するメラミン系化合物は、上記一般式(I)で表わされ、式(I)中のRは、水素(−H)、メチロール基(−CH2OH)、メトキシメチル基(−CH2OCH3)又はエトキシメチル基(−CH2OC25)であり、各Rは、同一でも、異なってもよい。式(I)のメラミン系化合物は、メチレンドナーとしてのホルムアルデヒドの役割を代替できるため、式(I)のメラミン系化合物を用いることで、ホルムアルデヒドを使用する必要がなくなる。なお、上記レゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物の配合量は、上記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスの固形分100質量部に対して20〜65質量部の範囲が好ましい。20質量部未満では、ディップ処理作業上でゴムラテックスの粘性が強く、付着等による汚れ発生源となり易くなり、清掃性上で好ましくなく、65質量部超過では、幾何学的にラテックスが樹脂に埋没するため、ラテックス成分と被着ゴムとが接触し難くなり、加硫しても被着ゴムと接着剤組成物とが接着し難くなる。
【0017】
本発明の接着剤組成物に用いる上記化学式(II)で表わされるレゾルシン誘導体は、分子内にジスルフィド結合を有し、上述のようにラテックスの加硫においてリターダーとして作用する。なお、式(II)のレゾルシン誘導体は、例えば、レゾルシンとS2Cl2を反応させることで合成することができる。ここで、ジスルフィド結合を有する式(II)のレゾルシン誘導体の配合量は、上記ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスの固形分100質量部に対して5〜300質量部の範囲が好ましく、50〜150質量部の範囲が更に好ましい。式(II)のレゾルシン誘導体の配合量が上記ゴムラテックスの固形分100質量部に対して5質量部未満では、ラテックスの加硫において加硫遅延効果が十分に得られず、接着剤層が硬化するため、接着の耐熱性を十分に改善できないことがあり、一方、300質量部を超えると、ゴムラテックスの接着剤組成物中での比率が小さくなり、被着ゴムとゴムラテックスとの共加硫による接着効果が小さくなり、接着性が低くなる。
【0018】
本発明の有機繊維とゴムとの接着方法は、上述した接着剤組成物を有機繊維に含浸付着させる工程と、前記接着剤組成物が付着した有機繊維を未加硫ゴムに埋設する工程と、前記接着剤組成物が付着した有機繊維及び前記未加硫ゴムを加硫処理して、有機繊維とゴムとを一体化する工程とを含むことを特徴とし、接着処理時のホルムアルデヒドを削減して、作業環境を改善することができる。
【0019】
本発明の接着方法においては、例えば、接着剤組成物液に有機繊維を浸漬して、接着剤組成物液を有機繊維に含浸付着させ、該接着剤組成物液が付着した有機繊維を接着剤組成物液から取り出して、乾燥及び熱処理した後、未加硫ゴムに埋設し、常法に従って、接着剤組成物が付着した有機繊維及び未加硫ゴムを加硫処理することで、有機繊維とゴムとを一体化することができる。
【0020】
上記有機繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維等のポリエステル繊維、6-ナイロン繊維、6,6-ナイロン繊維、4,6-ナイロン繊維等の脂肪族ポリアミド繊維の他、レーヨン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維等を用いることができる。これらの中でも、ポリエステル繊維を用いた場合、本発明の効果が顕著に現れる。
【0021】
また、上記未加硫ゴムとしては、特に限定はなく、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム等のゴム成分に対して、カーボンブラック、硫黄等の配合剤を配合して調製した未加硫ゴム組成物を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(1)レゾルシンとメラミン系化合物との初期縮合物と、ゴムラテックスからなる組成物の調製
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス[日本エイアンドエル株式会社製, ピラテックス(商品名), ブタジエン70質量%とスチレン15質量%と2-ビニルピリジン15質量%とを乳化重合させて得た共重合物の41質量%分散液]250質量部と、レゾルシン20質量部と、トリス(メトキシメチル)メラミン25質量部とを混合し、最低24時間熟成し、ゴムラテックス、及びレゾルシンとメラミン化合物との初期縮合物を含む組成物を調製した。
【0024】
(2)ジスルフィド結合を有するレゾルシン誘導体(RDS)の調製
撹拌機付きの密閉型フラスコ内で、トルエン 150g中にレゾルシン 22.4gを105℃で完全に溶解させ、S2Cl2 11gを105℃で約3時間かけて撹拌しながら滴下し、更に2時間撹拌した。蒸留水 32gを加え110℃で1時間撹拌の後、室温まで冷却し、1時間静置後にデカンテーションした水層を100℃で120分間蒸留してトルエンを共沸蒸留除去し、ジスルフィド結合を有する上記式(II)のレゾルシン誘導体(RDS)を含む水溶液を調製した。
【0025】
(3)接着剤組成物
上記(1)で得られたゴムラテックス、及びレゾルシンとメラミン化合物との初期縮合物を含む組成物と、上記(2)で得られたジスルフィド結合を有するレゾルシン誘導体(RDS)を含む水溶液とを、固形分の質量比[(1)/(2)]が100/10になるように混合した後、軟水を加えて、固形分濃度を20質量%に調製し、実施例の接着剤組成物を調製した。
【0026】
また、上記(1)で得られたゴムラテックス、及びレゾルシンとメラミン化合物との初期縮合物を含む組成物に軟水を加えて、固形分濃度を20質量%に調製し、比較例の接着剤組成物を調製した。
【0027】
(4)接着剤組成物処理コードの作製
コード材料として、撚構造1670dtex/2、上撚数40回/10cm、下撚数40回/10cmのポリエステルタイヤコードを用い、上記(3)で得た接着剤組成物に浸漬し、次に、160℃で1分間乾燥後、240℃に保った雰囲気下で2分間処理して、接着剤組成物処理コードを作製した。
【0028】
(5)長時間加硫
上記(4)で得た接着剤組成物処理コードを、天然ゴム 80重量部、スチレンブタジエン共重合ゴム 20重量部、カーボンブラック 40重量部、ステアリン酸 2重量部、石油系軟化剤 10重量部、バインタール 4重量部、亜鉛華 5重量部、N−フェニル−β−ナフチルアミン 1.5重量部、2−ベンゾチアジルジスルフィド 0.75重量部、ジフェニルグアニジン 0.75重量部及び硫黄 2.5重量部からなる配合の未加硫ゴム組成物に埋め込み、160℃で100分間、20kgf/cm2の加圧下で加硫した。
【0029】
(6)長時間加硫後の接着力
上記(5)で得た加硫物からコードを掘り起こし、30cm/分の速度でコードを加硫物から剥離する時の抗力を測定し、これを長時間加硫後の接着力とした。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、レゾルシンと特定のメラミン系化合物との初期縮合物及びビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと共に、ジスルフィド結合を有するレゾルシン誘導体(RDS)を含む接着剤組成物を用いてポリエステル繊維コードを処理することで、コードと被着ゴムとの長時間加硫後の接着力(ゴム中での熱劣化後の接着力)を大幅に向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルシンと下記一般式(I):
【化1】

[式中、Rは、それぞれ独立して水素、メチロール基、メトキシメチル基又はエトキシメチル基である]で表わされるメラミン系化合物との初期縮合物と、
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン系共重合体ゴムラテックスと、
下記化学式(II):
【化2】

で表わされるレゾルシン誘導体と
を含んでなることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
有機繊維とゴムとの接着方法であって、
請求項1に記載の接着剤組成物を有機繊維に含浸付着させる工程と、
前記接着剤組成物が付着した有機繊維を未加硫ゴムに埋設する工程と、
前記接着剤組成物が付着した有機繊維及び前記未加硫ゴムを加硫処理して、有機繊維とゴムとを一体化する工程と
を含む有機繊維とゴムとの接着方法。
【請求項3】
前記有機繊維がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項2に記載の接着方法。

【公開番号】特開2008−260863(P2008−260863A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105009(P2007−105009)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】