説明

接着剤組成物、及び接着フィルム

【課題】高い耐熱性、高温環境下における接着強度、耐アルカリ性を有し、さらに高温プロセス後の剥離が容易な、接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る接着剤組成物は、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物である。そして、上記単量体組成物は、さらに、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーを含み、上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有することで、耐熱性、高温環境下における接着強度、耐アルカリ性、高温プロセス後の剥離の容易性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、及び接着フィルムに関するものである。さらに詳しくは、半導体ウェハー等の半導体製品や光学系製品等を研削等の加工をする工程において、当該半導体製品にシートや保護基板を一時的に固定するための、接着剤組成物、及び接着フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器及びICカード等の高機能化にともない、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化、薄型化及び高集積化への要求が高まっている。例えば、CSP(chip size package)及びMCP(multi-chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケージ化する集積回路についてもその薄型化が求められている。その中において、一つの半導体パッケージの中に複数の半導体チップを搭載するシステム・イン・パッケージ(SiP)は、搭載されるチップを小型化、薄型化及び高集積化し、電子機器を高性能化、小型化かつ軽量化を実現する上で非常に重要な技術となっている。
【0003】
薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを150μm以下にまで薄くする必要がある。さらに、CSP及びMCPにおいては100μm以下、ICカードにおいては50μm以下にチップを薄化加工する必要がある。
【0004】
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術により配線する手法が用いられている。また、このような薄型化や高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、チップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
【0005】
薄型のチップは、例えば、高純度シリコン単結晶等をスライスしてウェハーとした後、ウェハー表面にIC等の所定の回路パターンをエッチング形成して集積回路を組み込み、得られた半導体ウェハーの裏面を研削機により研削して、所定の厚さに研削後の半導体ウェハーをダイシングしてチップ化することにより製造されている。このとき、上記所定の厚さは、100〜600μm程度である。さらに、貫通電極を形成する場合は、厚さ50〜100μm程度にまで研削している。
【0006】
半導体チップの製造では、半導体ウェハー自体が肉薄で脆く、また回路パターンには凹凸があるので、研削工程やダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、研削工程においては、生じた研磨屑を除去したり、研磨時に発生した熱を除去するために精製水を用いて半導体ウェハー裏面を洗浄したりしながら研削処理している。このとき、洗浄に用いる上記精製水によって回路パターン面が汚染されることを防ぐ必要がある。
【0007】
そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止するために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業が行われている。
【0008】
また、ダイシング時には、半導体ウェハー裏面側に保護シートを貼り付けて、半導体ウェハーを接着固定した状態でダイシングし、得られたチップをフィルム基材側からニードルで突き上げてピックアップし、ダイパッド上に固定させている。
【0009】
このような加工用粘着フィルムや保護シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の基材フィルムに接着剤組成物から形成した接着剤層が設けられたものが知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0010】
また、加工用粘着フィルムや保護シートの代わりに窒化アルミニウム−窒化硼素気孔焼結体にラダー型シリコーンオリゴマーを含浸せしめた保護基板を用い、この保護基板と半導体ウェハーとを熱可塑性フィルムを用いて接着する構成も開示されている(特許文献4)。また保護基板として半導体ウェハーと実質的に同一の熱膨張率のアルミナ、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素等の材料を用い、また保護基板と半導体ウェハーとを接着する接着剤としてポリイミド等の熱可塑性樹脂を用い、この接着剤の適用法として、10〜100μmの厚さのフィルムとする構成と、接着剤組成物をスピンコートし、乾燥させて20μm以下のフィルムにする方法が提案されている(特許文献5)。
【0011】
また、半導体素子の多層配線化に伴って、回路が形成された半導体ウェハーの表面に接着剤組成物を用いて保護基板を接着し、半導体ウェハーの裏面を研磨し、その後、研磨面をエッチングして鏡面にし、この鏡面に裏面側回路を形成するプロセスが実施されている。この場合、裏面側回路が形成されるまでは、保護基板は接着したままになっている(特許文献6)。
【特許文献1】特開2003−173993号公報(平成15年6月20日公開)
【特許文献2】特開2001−279208号公報(平成13年10月10日公開)
【特許文献3】特開2003−292931号公報(平成15年10月15日公開)
【特許文献4】特開2002−203821号公報(平成14年7月19日公開)
【特許文献5】特開2001−77304号公報(平成13年3月23日公開)
【特許文献6】特開昭61−158145号公報(昭和61年7月17日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の上記加工用粘着フィルム等は、貫通電極の形成のように、高温プロセス及び高真空プロセスを必要とする工程に用いるには、高温環境下における接着強度の不足や、高真空環境下におけるガスの発生等による接着不良の問題や、上記高温プロセス後における剥離時に、残渣物が残存するなどの剥離不良という問題点を有している。
【0013】
例えば、貫通電極の形成では、半導体チップにバンプを形成した後、半導体チップ間を接続するとき、200℃程度まで加熱して、さらに高真空状態にするプロセスを要する。しかし、上記特許文献1及び上記特許文献2に係る保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、200℃もの高温に対する耐性が無い。また、加熱により上記接着剤層にガスが発生するため接着不良となる。
【0014】
また、薄型の半導体ウェハーは、研削やダイシングの後、上記保護基板から剥離することが必要となる。しかし、上記特許文献3に開示される保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、200℃もの高温ではエポキシ樹脂が変質して、硬化するため、剥離時に残渣物が残り、剥離不良が生じるという問題点を有する。
【0015】
さらに、上記特許文献4や上記特許文献5に係る保護基板と半導体ウェハーとの接着に用いられる熱可塑性フィルムでは、吸湿した水分に由来するガスを生じるため、接着不良の問題が生じる。上記特許文献6に係る半導体基板の加工方法では、エッチング液による鏡面化プロセスや真空蒸着による金属膜形成が行われるため、保護基板と半導体ウェハーとを接着するための接着剤組成物には、耐熱性、剥離性が要求される。しかし、上記特許文献6には、接着剤組成物の組成について全く開示がなされていない。
【0016】
また、本発明者らの調査では、半導体ウェハーやチップの加工において、アクリル系樹脂材料を用いた接着剤が、クラック耐性が良好であることから、好ましいとされている。しかし、このようなアクリル系樹脂材料を用いた接着剤においても、以下のような問題点を有することが判明した。
【0017】
(1)接着剤層と保護基板とを熱圧着したとき、接着剤層が吸湿した水分がガスとなって接着界面に泡状の剥がれを生じるため、高温環境下における接着強度が低い。また、このようなガスの発生は、高温環境下における接着強度を低下させるのみならず、真空条件による加工プロセス等を行なう場合において、真空環境の作製又は保持に支障を来たす。
【0018】
(2)半導体ウェハーがアルカリ性スラリーやアルカリ性現像液等のアルカリ性の液体に触れる工程を有する場合、アルカリ性の液体によって接着剤組成物の接触面が剥離、溶解、分散等により劣化してしまう。
【0019】
(3)約200℃に加熱した場合、耐熱性が低いため接着剤組成物が変質し、剥離液に不溶な物質が形成されるなど、剥離不良を生じる。
【0020】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温環境下、特に140℃〜200℃における高い接着強度、高い耐熱性、及び耐アルカリ性を有し、さらに、高温及び/又は高真空環境下における加工プロセス等(以下、単に「高温プロセス」と表記する)を経た後でも半導体ウェハー及びチップ等からの剥離が容易な、接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1の態様は、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、上記単量体組成物が、さらに、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーを含み、上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有することを特徴とする接着剤組成物である。
【0022】
本発明の第2の態様は、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を含有する接着剤層を備えることを特徴とする接着フィルムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る接着剤組成物は、以上のように、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、上記単量体組成物が、さらに、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーを含み、上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有する。
【0024】
そのため、上記単量体組成物がエチレン性二重結合を有するカルボン酸を含むことで、上記接着剤組成物中に、極性基が増え、上記接着剤組成物と当該接着剤組成物が塗布される被接着面との界面における上記接着剤組成物の極性が向上する。さらに、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。
【0025】
また、上記単量体組成物が二官能性モノマーを含むことで、得られる接着剤組成物を構成する分子の一部が、上記二官能性モノマーを介して架橋され、当該接着剤組成物の平均分子量が大きくなる。上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性を向上させることができる。
【0026】
また、上記単量体組成物がスチレンマクロモノマーを含むことで、得られる接着剤組成物が、上記スチレンマクロモノマーに由来するスチレンブロック構造を有することにより、当該接着剤組成物の平均分子量が大きくなる。さらに、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性を向上させることができる。
【0027】
また、上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有することで、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。さらに、上記接着剤組成物と当該接着剤組成物が塗布される被接着面との界面におけるガスの発生を防ぐことができる。これにより、上記界面におけるガスの発生による接着剤の剥離等を防ぎ、高温時における接着強度が向上する。上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性を向上させることができる。
【0028】
従って、耐熱性、高温環境下(特に140℃〜200℃)における接着強度、及び耐アルカリ性が高く、高温プロセス後においても容易に剥離することができる接着剤組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明に係る接着フィルムでは、以上のように、フィルム上に、上記接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。よって、高い耐熱性、高温環境下における高い接着強度、及び耐アルカリ性を備え、高温プロセス後でも容易に剥離することができる接着フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。
【0031】
本実施の形態では、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、上記単量体組成物が、さらに、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーを含み、上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有する接着剤組成物について説明する。なお、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0032】
〔単量体組成物の原料及び上記主成分であるポリマーの構造〕
本実施の形態に係る接着剤組成物は、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物とを共重合してなるポリマーを主成分とする。この構成により、接着剤組成物は、ある程度の耐熱性、高温環境下における接着強度、耐アルカリ性、高温プロセス後の剥離の容易性を備える。
【0033】
そして上記単量体成分に、さらに後述するエチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、スチレンマクロモノマーを含むことにより、また、上記ポリマーが後述するスチレンブロックセグメントを有することにより、さらに、高温環境下における接着強度、耐熱性等が向上する。
【0034】
なお、本明細書において「主成分」とは、上記接着剤組成物に含まれる他のいずれの成分よりも、その含量が多いことをいう。よって、上記主成分の含有量は、上記接着剤組成物中に含まれる成分の内、最も多い量である限り、限定されるものではないが、好ましくは、上記接着剤組成物の質量を100質量部としたとき、上記主成分の含有量は50質量部以上100質量部以下が好ましく、さらに好ましくは、70質量部以上100質量部以下である。50質量部以上であれば、上記接着剤組成物の備える高い耐熱性、高温環境下における高い接着強度、及び耐アルカリ性、剥離の容易性に係る効果が良好に発揮される。
【0035】
(スチレン)
本実施の形態に係る接着剤組成物は、上記単量体組成物に、スチレンを含む。上記スチレンは、200℃以上の高温環境下においても変質することが無いため、上記接着剤組成物の耐熱性が向上する。
【0036】
上記スチレンの混合量は、上記単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではない。しかし、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物との総量を100質量部としたとき、上記スチレンの混合量が10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがさらに好ましい。10質量部以上であれば、耐熱性をさらに向上させることが可能であり、50質量部以下であれば、クラック耐性の低下を抑制することができる。
【0037】
(環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル)
本発明に係る接着剤組成物は、上記単量体組成物に、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む。これにより、上記接着剤組成物の耐熱性が向上する。また、上記(メタ)アクリル酸エステルを含むことにより、上記接着剤組成物におけるアクリル酸の必要量を削減し、剥離液による良好な剥離性を確保することが可能となる。
【0038】
上記(メタ)アクリル酸エステルの混合量は、上記単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではない。しかし、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物との総量を100質量部としたとき、上記(メタ)アクリル酸エステルの混合量が5〜60質量部であることが好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。5質量部以上であれば、耐熱性をさらに向上させることが可能であり、60質量部以下であれば、良好な剥離性を得ることができる。
【0039】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸におけるカルボキシル基の水素原子が、環式基又は環式基を有する有機基に置換された構造を有する。また上記環式基を有する有機基としては、特に限定されるものではないが、水素原子の一つが環式基に置換された、アルキル基が好ましい。
【0040】
上記環式基は、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンから1個以上の水素原子を除いた芳香族性の単環式基及び多環式基であってもよく、脂肪族環式基であってもよい。上記環式基は、さらに、後述する置換基を有していてもよい。
【0041】
なお、上記環式基の基本の環となる環状構造は、炭素原子及び水素原子のみからなることに限定されず、酸素原子や窒素原子を含んでもよいが、炭素原子及び水素原子のみからなる炭化水素基であることが好ましい。また上記炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよいが、飽和であることが好ましい。さらに、脂肪族多環式基であることが好ましい。
【0042】
また、上記脂肪族環式基の具体例としては、例えば、モノシクロアルカン、ジシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカン等のポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基等を例示できる。さらに具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンや、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等のポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基等が挙げられる。中でも、シクロヘキサン、シクロペンタンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。また、上記シクロヘキサン及びシクロペンタンは、さらに後述する置換基を有していてもよい。
【0043】
上記置換基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、酸素原子(=O)等の極性基や、炭素数1〜4の直鎖または分岐状の低級アルキル基が挙げられる。上記環式基が、さらに置換基を有する場合、上記極性基、上記低級アルキル基、又は上記極性基及び上記低級アルキル基の両方を有することが好ましい。上記極性基としては、特に酸素原子(=O)が好ましい。
【0044】
上記水素原子の一つが環式基に置換されたアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数が1〜12のアルキル基であることが好ましい。
【0045】
このような環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
また、上記アルキロール基としては、炭素数1〜4のアルキロール基が好ましい。このような環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシプロピルアクリレートが挙げられる。
【0047】
ここで、本明細書において「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。例えば「脂肪族環式基」とは、芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。
【0048】
また、上記(メタ)アクリル酸エステルは、環式構造上に置換基を備える環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、環式構造上に置換基を有さない環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含む(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。
【0049】
環式構造上に置換基を備える環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、環式構造上に置換基を有さない環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとを同時に含むことによって、耐熱性及び柔軟性を向上させることができる。
【0050】
(鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル)
本発明に係る接着剤組成物は、上記単量体組成物に、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む。これにより、当該接着剤組成物から得られる接着剤層の柔軟性、クラック耐性が向上する。
【0051】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合量は、上記単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではないが、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物との総量を100質量部としたとき、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合量が10〜60質量部であることが好ましい。10質量部以上であれば、得られる接着剤層の柔軟性及びクラック耐性をさらに向上させることが可能であり、60質量部以下であれば、耐熱性の低下、剥離不良及び吸湿性を抑制することができる。
【0052】
本明細書において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル及び炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルを意味する。
【0053】
上記アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等からアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐状であってもよい。
【0054】
上記炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、当該アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
【0055】
(エチレン性二重結合を有するカルボン酸)
上記単量体組成物は、さらにエチレン性二重結合を有するカルボン酸を含む。上記エチレン性二重結合を有するカルボン酸を含むことにより得られる上記接着剤組成物は、高温、特に140℃〜200℃の環境下における接着強度、及び耐熱性が向上し、さらに、高温プロセスを経た後においても、容易に剥離することができる。
【0056】
これは、上記接着剤組成物中に上記カルボン酸由来のヒドロキシル基(極性基)が増えることにより、上記接着剤組成物と当該接着剤組成物が塗布される被接着面との界面における上記接着剤組成物の極性が向上するためであり、さらに、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制されるためである。
【0057】
上記カルボン酸は、エチレン性二重結合を有し、他の単量体成分と共重合可能である限り、限定されるものではないが、下記一般式(1)
【0058】
【化1】

【0059】
(Rは、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する、炭素数2〜20の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。mは1〜3の整数を表す。)
で示されるカルボン酸であることが好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸又は下記一般式(2)
【0060】
【化2】

【0061】
(Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜5の2価のアルキル基、又は、環式構造を有する炭素数4〜20の2価の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。)
で示されるカルボン酸である。上記一般式(2)で示されるカルボン酸としては具体的には、Rがシクロヘキサン、ノルボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンから水素原子を2個除いた基を有するものが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、より好ましくは(メタ)アクリル酸である。これらのカルボン酸と、上記単量体組成物における他の成分との共重合は、好適に進み、さらに共重合後により得られるポリマーの構造が安定となる。よって、分子鎖同士の解離を防ぐことができるため、耐熱性、高温環境下における接着強度が向上する。
【0062】
上記カルボン酸の混合量は、接着強度等の目的とする接着剤組成物の性質に応じて適宜設定すればよいが、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの総量を100質量部としたとき、1〜10質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5質量部である。1質量部以上であれば、得られる接着剤組成物の耐熱性、高温環境下における接着強度を、さらに向上させることができる。また、10質量部以下であれば、接着剤組成物の吸湿性を抑制し、ゲル化を防ぐことができる、上記接着剤組成物が有するカルボキシル基の量を少なくすることによって、耐アルカリ性も向上する。
【0063】
(二官能性モノマー)
上記単量体組成物は、さらに二官能性モノマーを含む。二官能性モノマーを含むことにより、得られる接着剤組成物では、その構成分子が、当該二官能性モノマーを介して架橋される。架橋することによって、三次元構造をとり、当該接着剤組成物の質量平均分子量が大きくなる。一般に接着剤の技術分野において、構成する分子の質量平均分子量が大きくなると、接着剤組成物の内部エネルギーが向上することが知られている。そして、高温環境下における接着強度の高低は、この内部エネルギーも一つの要因となっていることが知られている。また、接着剤組成物の質量平均分子量が大きくなると、見かけのガラス転移点も上昇し、これにより接着強度が向上する。つまり、上記単量体組成物が、さらに二官能性モノマーを含むことによって、接着剤組成物の質量平均分子量が大きくなり、高温環境下における接着強度が向上する。
【0064】
さらに、上記単量体組成物が、二官能性モノマーを含むことで、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。これにより、高温時における接着強度が向上し、また、高温プロセスを経た後においても、容易に剥離することができる。さらに、上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性を向上させることができる。
【0065】
従って、上記単量体組成物が、二官能性モノマーを含むことで、接着剤組成物の、耐熱性、及び高温環境下(特に140℃〜200℃)における接着強度、高温プロセス後の剥離の容易性を、向上させることができる。
【0066】
本明細書において二官能性モノマーとは、官能基を二つ備えた化合物をいう。即ち、上記二官能性モノマーは、官能基を二つ備えた化合物であれば、限定されるものではないが、下記一般式(3)
【0067】
【化3】

【0068】
(Rは、炭素数2〜20の2価のアルキル基、又は、環式構造を有する炭素数6〜20の2価の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。X及びXは、それぞれ独立して、(メタ)アクリロイル基、ビニル基を表す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの二官能性モノマーであることが好ましい。上記一般式(3)で示される化合物としては、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、ナフタレンジアクリレート、及び下記式(4)
【0069】
【化4】

【0070】
(R及びRは、それぞれ独立して、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを表し、n及びsは、それぞれ独立して0〜4の整数である)
で示される化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0071】
これらの中でも、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、ナフタレンジアクリレート、及び上記式(4)からなる群から選ばれる少なくとも一つの二官能性モノマーであることが、さらに好ましい。これらの二官能性モノマーは、その他の単量体組成物の成分と架橋しやすく、その架橋構造も安定である。よって、高温環境下における接着強度及び耐熱性が、さらに向上した接着剤組成物を得ることができるからである。
【0072】
上記二官能性モノマーの量は、接着強度等の目的とする接着剤組成物の性質に応じて適宜設定すればよいが、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの総量を100質量部としたとき、0.1〜0.5質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.3質量部である。0.1〜0.5質量部であれば、得られる接着剤組成物の、高温環境下における接着強度及び耐熱性がさらに向上し、また吸湿性を抑制することができるため、接着剤組成物のゲル化を防止できる。
【0073】
(スチレンマクロモノマー)
上記単量体組成物は、さらに、スチレンマクロモノマーを含む。これにより、得られる接着剤組成物の平均分子量が大きくなる。さらに、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。そのため、接着剤組成物の耐熱性、高温環境下(特に140℃〜200℃)における接着強度、高温プロセス後の剥離の容易性を、さらに向上させることができる。なお、上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性をさらに向上させることができる。
【0074】
上記スチレンマクロモノマーは、その構造中にスチレンブロック構造を有し、上記単量体組成物における他の成分と共重合可能である限り、限定されるものではないが、スチレンブロック構造と、当該スチレンブロック構造の両末端に位置する有機基とからなり、上記有機基の内、少なくとも一つの有機基が、炭素−炭素二重結合を備えるスチレンマクロモノマーであることが好ましく、さらに好ましくは、下記式(5)
【0075】
【化5】

【0076】
(R及びRは、それぞれ独立して、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を備える炭素数1〜10の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。)で示されるスチレンマクロモノマーである。上記スチレンマクロモノマーは、その他の上記単量体組成物に含まれる化合物と共重合しやすい。よって、得られる接着剤組成物の平均分子量がさらに大きくなり、また、上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。
【0077】
なお、上記スチレンマクロモノマー中のスチレンブロック構造を構成するスチレンの数は、特に限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性等の接着剤組成物の性質に応じて、適宜設定すればよいが、20〜100個であることが好ましく、さらに好ましくは50〜70個である。
【0078】
上記スチレンマクロモノマーの具体例としては、マクロモノマー(東亞合成株式会社製、グレード:AS−6S)、マクロモノマー(東亞合成株式会社製、グレード:AN−6S)を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのスチレンマクロモノマーと、上記単量体組成物における他の成分との共重合は、好適に進み、さらに共重合後により得られるポリマーの構造が安定となる。よって、分子鎖同士の解離を防ぐことができるため、耐熱性、高温環境下における接着強度が向上する。
【0079】
また、スチレンマクロモノマーの量は、目的とする接着強度、耐熱性等の接着剤組成物の性質に応じて適宜設定すればよいが、上記単量体組成物の総量を100質量部としたとき、上記スチレンと上記スチレンマクロモノマーとの総量は30〜90質量部、好ましくは40〜60質量部であって、上記スチレンマクロモノマーの量は、当該総量の範囲内であって、5〜40質量部であることが好ましく、さらに好ましくは、上記スチレンと上記スチレンマクロモノマーとの総量は30〜90質量部であって、上記スチレンマクロモノマーの量は、当該総量の範囲内であって、10〜20質量部である。この範囲であれば、上記接着剤組成物は、スチレンと、スチレンマクロモノマーとを好適な割合であるといえる。即ち、上記接着剤組成物は、スチレンによる耐熱性の向上の効果、上述したスチレンマクロモノマーによる高温環境下における接着強度の向上の効果を、共に得ることができる。
【0080】
(スチレンブロックセグメント)
本実施の形態に係る接着剤組成物の主成分であるポリマーは、スチレンブロックセグメントを有する。
【0081】
スチレンブロックセグメントを有するポリマーを主成分とする接着剤組成物は、接着剤組成物と被接着物との界面におけるガスの発生を防ぐことができる。そのため、加熱時、真空時において、上記界面におけるガスの発生による接着剤組成物の剥離等を防ぎ、高温環境下における接着強度が向上した接着剤組成物を得ることができる。
【0082】
また、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制されるため、高温環境下における接着剤組成物の変質を防ぐことができる。よって、接着強度が向上し、高温プロセスを経た後においても、容易に剥離することができる。さらに、上述したカルボン酸を用いる量を若干減らしても、耐熱性を向上させる等の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の耐アルカリ性をさらに向上させることができる。
【0083】
従って、耐熱性、高温環境下(特に140℃〜200℃)における接着強度、高温プロセス後の剥離の容易性をさらに向上させることができる。
【0084】
なお、本明細書でいう「スチレンブロックセグメント」とは、上記ポリマーにおいて、スチレンがブロック単位で共重合した部位をいう。ここで、重合を開始させた後にスチレンを添加すると、他の成分の共重合がほぼ終了しているため、当該スチレンのみのブロック体が形成される。よって、スチレンブロックセグメントは、他の単量体成分の重合を開始させた後に添加したスチレンのみが重合したブロック共重合体であるといえる。
【0085】
(接着剤組成物における主成分以外の成分)
本実施の形態に係る接着剤組成物には、他の添加成分としてジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミドやアクリロイルモルホリンなどのモルホリンを配合してもよい。これらの配合により、耐熱性と接着性との同時改善が期待できる。
【0086】
本実施の形態に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲で、さらに、混和性のある添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤などの慣用されているものを添加することができる。
【0087】
さらに接着剤組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、粘度調整のために有機溶剤を用いて希釈してもよい。上記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテル等の多価アルコール類及びその誘導体;ジオキサン等の環式エーテル類;及び乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテル等の多価アルコール類及びその誘導体が好ましい。
【0088】
有機溶剤の使用量は、接着剤組成物を塗布する膜厚に応じて適宜設定されるものであり、接着剤組成物が半導体ウェハー等の支持体上に塗布可能な濃度であれば特に限定されるものではない。一般的には、接着剤組成物の固形分濃度が20〜70質量%、好ましくは25〜60質量%の範囲内となる様に用いられる。
【0089】
〔共重合反応〕
本実施の形態に係る接着剤組成物は、上記単量体組成物を共重合反応させて製造すればよい。上記単量体組成物を共重合反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、既存の攪拌装置を用いて、上記単量体組成物を攪拌すればよい。
【0090】
以下に、上記単量体組成物のうち、主成分以外の成分、即ち、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーの、好ましい混合方法、並びに、上記ポリマーに、スチレンブロックセグメントを形成する方法について説明するが、これに限られるものではない。
【0091】
(エチレン性二重結合を有するカルボン酸の混合)
エチレン性二重結合を有するカルボン酸を混合するタイミングは、当該カルボン酸と、当該カルボン酸以外の上記単量体組成物の成分とが、共重合反応可能であれば、限定されるものではない。
【0092】
つまり、上記カルボン酸を、予め、共重合反応を開始させる前に、他の上記単量体組成物に混合しておいてもよく、他の成分の共重合反応を開始させた後、当該共重合反応が終了するまでに、上記カルボン酸を混合してもよい。中でも、予め、上記カルボン酸と、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを混合した上で共重合反応を開始させることが好ましい。予め上記カルボン酸を混合した単量体組成物を共重合反応させることで、上記カルボン酸が、他の成分とランダム共重合する。そのため、上記極性基が接着剤組成物中に均一に存在することとなり、上記界面における接着剤組成物の極性がさらに向上し、高温環境下における接着剤組成物中の分子鎖同士の解離がさらに抑制されるため、接着強度がさらに向上する。
【0093】
なお、本明細書において、「共重合反応を開始させる」とは、上述した共重合反応を開始した後に混合する化合物以外の化合物を混合してなる上記単量体組成物において、共重合反応が始まる時点をいう。
【0094】
実際に上記接着剤組成物の製造を実施する場合は、予め混合することを目的とする単量体組成物の成分の混合が、終了した時点を、上記「共重合反応を開始させる」時点としてもよい。また、共重合反応に攪拌機付き反応器を用いる場合は、予め混合することを目的とする成分の全種類の、それぞれ少なくとも一部を反応器に供した後に、攪拌を開始した時点としてもよく、所定の共重合反応の反応温度を設定する場合は、当該温度に対する加熱を開始した時点としてもよく、重合開始剤を用いる場合は、重合開始剤添加時とすればよい。
【0095】
上記いずれの時点を「共重合反応の開始」としても、本発明の効果を得ることができるため、上記接着剤組成物の製造設備、条件等に応じて、適宜「共重合反応の開始」の時点を設定し、その後の工程等を制御すればよい。
【0096】
また、本明細書において、「共重合反応を終了させる」とは、所望の共重合反応が達成された時点をいう。具体的には、上記攪拌を止める時点、又は、上記反応温度から冷却を開始させる時点として、上記接着剤組成物の製造を実施すればよい。
【0097】
(二官能性モノマーの混合)
二官能性モノマーは、予め、共重合反応の開始前に、他の単量体組成物に混合することが最も好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、二官能性モノマーの一部又は全部を、他の単量体組成物の共重合反応開始後に混合しても、上述の接着剤組成物の質量平均分子量が大きくなる効果や、高温環境下における接着強度が向上する効果を、同様に得ることができる。
【0098】
(スチレンマクロモノマーの混合)
スチレンマクロモノマーを混合するタイミングは、上記スチレンマクロモノマーと、上記単量体組成物における当該スチレンマクロモノマー以外の成分とが、共重合反応をすることが可能であれば、限定されるものではない。
【0099】
つまり、上記スチレンマクロモノマーを、予め、共重合反応の開始前の単量体組成物に混合しておいてもよく、他の成分の共重合反応を開始させた後、当該共重合反応が終了するまでに、上記スチレンマクロモノマーを混合してもよい。なお、上記スチレンマクロモノマー以外の単量体組成物の共重合反応を開始後に、上記スチレンマクロモノマーを混合することが好ましく、当該共重合反応開始後に、一括して、又は複数回に分けて回分的に混合することがさらに好ましい。このように混合することにより、上記接着剤組成物中に、スチレンマクロモノマーに由来するスチレンブロック構造が密集する箇所を偏在させることができるため、高温環境下における分子鎖の解離をさらに抑制することができ、その結果、高温環境下における接着強度が向上する。
【0100】
(スチレンブロックセグメントの形成)
スチレンブロックセグメントの形成は、本実施の形態に係る接着剤組成物の製造に用いるスチレンの全部又は一部を、当該スチレンの残部と、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを混合して共重合反応を開始させた後、当該共重合反応を終了させる前に、一括して、又は複数回に分けて回分的に、共重合反応系、即ち共重合反応させている反応器等に混合することにより行なう。
【0101】
スチレンブロックセグメントを形成するスチレンの量は、共重合反応を開始させた後に加えるスチレンの量で調整される。そして、その量は、目的とする接着強度、耐熱性等の接着剤組成物の性質に応じて適宜設定すればよいが、本実施の形態に係る接着剤組成物の製造に用いるスチレンの全量を100質量部としたとき、5〜80質量部が好ましく、さらに好ましくは10〜30質量部である。
【0102】
さらに、上記共重合反応を開始させた後に加えるスチレンは、一括して、即ち当該スチレンの全量を一度に、加えることが好ましい。また、共重合反応に要する時間の内、半分の時間が経過するより前に加えることが好ましい。このようにすれば、スチレンが密集して共重合することで、スチレンブロックセグメントが上記接着剤組成物中に好適に形成される。
【0103】
(共重合反応のその他の条件)
共重合反応における温度条件は、適宜設定すればよく、限定されるものではないが、60〜150℃であることが好ましく、さらに好ましくは70〜120℃である。
【0104】
また、共重合反応においては、適宜、溶媒を用いてもよい。上記溶媒としては、上記有機溶剤を用いることができ、中でもプロピレングリコール・モノメチルエーテル・アセテート(以下、「PGMEA」と表記する)が好ましい。
【0105】
また、本実施の形態に係る共重合反応においては、適宜、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜2種以上を混合して用いてもよい。また、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すれば良く、特に限定されるものではない。
【0106】
〔接着フィルム〕
以上述べてきた本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用方法を用いることができる。例えば、液状のまま、半導体ウェハー等の被加工体の上に塗布して接着剤層を形成する方法を用いてもよいし、本発明に係る接着フィルム、即ち、予め可撓性フィルム等のフィルム上に上記のいずれかの接着剤組成物を含む接着剤層を形成した後、乾燥させておき、このフィルム(接着フィルム)を、被加工体に貼り付けて使用する方法(接着フィルム法)を用いてもよい。
【0107】
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記のいずれかの接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。
【0108】
そのため、上記単量体組成物が、さらに上記カルボン酸を含有することにより、上記接着剤層に極性基が導入される。よって、高い耐熱性、高温環境下における高い接着強度、及び耐アルカリ性を備え、高温プロセス後でも容易に剥離することができる接着フィルムを得ることができる。
【0109】
また、上記単量体組成物が、さらに上記二官能性モノマーを含有することにより、上記接着剤層を構成する分子は、当該二官能性モノマーにより、架橋される。
【0110】
また、上記単量体組成物が、さらに上記スチレンマクロモノマーを含有することにより、上記接着剤層を構成する接着剤組成物の平均分子量が大きくなり、また、当該接着剤層は、当該スチレンマクロモノマー由来のスチレンブロック構造を有する。これにより、さらに、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制される。
【0111】
また、上記接着剤層の主成分である上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有するため、上記接着剤組成物と当該接着剤組成物が塗布される被接着面との界面におけるガスの発生を防ぐことができる。
【0112】
従って、耐熱性に優れ、高温環境下における接着強度、耐アルカリ性を有し、剥離容易性に優れた接着フィルムを得ることができる。
【0113】
上記接着フィルムは、上記接着剤層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねた後、接着剤層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
【0114】
従って、上記接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚均一性及び表面平滑性の良好な層を形成することができる。
【0115】
また、上記接着フィルムの製造に使用する上記フィルムとしては、フィルム上に製膜された接着剤層をフィルムから剥離することができ、接着剤層を保護基板やウェハー等の被処理面上に転写できる離型フィルムであれば限定されるものではない。例えば、膜厚15〜125μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムには必要に応じて、転写が容易となるように離型処理されることが好ましい。
【0116】
上記フィルム上に接着剤層を形成する方法としては、所望する接着剤層の膜厚や均一性に応じて適宜、公知の方法を用いればよく、限定されるものではないが、例えば、アプリケーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター等を用いて、フィルム上に上記接着剤層の乾燥膜厚が10〜1000μmとなるように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。中でもロールコーターが膜厚の均一性に優れ、かつ厚さの厚い膜が効率よく形成できるため好ましい。
【0117】
また、上記保護フィルムを用いる場合、上記保護フィルムとしては、上記接着剤層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムが好ましい。また、上記各保護フィルムは、シリコンをコーティング又は焼き付けしてあることが好ましい。上記接着剤層からの剥離が容易となるからである。上記保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが15〜125μmが好ましい。保護フィルムを備えた上記接着フィルムの柔軟性を確保できるからである。
【0118】
上記接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものでは無いが、例えば、保護フィルムを用いた場合は、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねて、フィルム上(接着剤層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラ等でロール状に巻き取れば、保存し再利用することが可能である。
【0119】
本実施形態の接着剤組成物は接着剤組成物として接着用途に用いられる限り、特に限定されるものではないが、半導体ウェハーの精密加工用保護基板を半導体ウェハー等の基板に接着するための接着剤組成物として好適に用いることができる。本発明の接着剤組成物は、特に、半導体ウェハー等の基板を研削して薄板化する際に、当該基板をサポートプレートに貼り付けるための接着剤組成物として、好適に用いることができる(例えば、特開2005−191550号公報)。
【0120】
〔剥離液〕
本実施形態に係る接着剤組成物を取り除くための剥離液としては、通常用いられる剥離液を用いることができるが、特にPGMEAや酢酸エチル、メチルエチルケトンを主成分とする剥離液が環境負荷や剥離性の点で好ましい。
【実施例】
【0121】
以下に、本発明に係る接着剤組成物の接着強度等を確認した実施例について説明する。
【0122】
なお、以下の実施例及び比較例に係る接着剤組成物の評価は、それぞれの耐熱性、吸湿性、柔軟性、異なる温度条件下における接着強度、200℃におけるガスの発生量(以下、「出ガス」と表記する)、接着性等を測定することにより行なった。これらの測定方法を以下に説明する。
【0123】
(耐熱性、吸湿性、出ガスの測定方法)
後述する実施例1及び比較例1に係る各接着剤組成物をシリコンウェハー上に塗布した後、それぞれの塗膜を40℃から250℃まで昇温して、塗膜からの脱ガス量を測定し、そのガス量により評価した。
【0124】
上記脱ガス量により、耐熱性及び吸湿性の評価が可能な理由は以下の通りである。つまり、100℃までに測定される脱ガス量は水蒸気又はその共沸ガスに由来するものである。そして、上記水蒸気又はその共沸ガスは、接着剤組成物が吸湿した水分に由来するものであるため、100℃までに測定される脱ガス量によって、吸湿性が評価できる。また、100℃以上で測定される脱ガス量は、接着剤組成物自体が熱により分解されて生じたガスに由来するものである。よって、100℃以上、特に200℃近辺における脱ガス量により、接着剤組成物の耐熱性が評価できる。
【0125】
上記脱ガス量の測定には、TDS法(Thermal Desorption Spectroscopy法、昇温脱離分析法)を用いた。TDS測定装置(放出ガス測定装置)は、電子科学株式会社製のEMD−WA1000を使用した。
【0126】
TDS装置の測定条件は、Width:100、Center Mass Number:50、Gain:9、Scan Speed:4、Emult Volt:1.3KVで行った。
【0127】
耐熱性の評価は、200℃において、上記TDS測定装置により求められる強度(Indensity)が100000以下であり、残渣が金属顕微鏡で観察されない場合は○、100000以上であるが、残渣が金属顕微鏡で観察されない場合は△、100000以上であり、残渣が金属顕微鏡で観察される場合は×とした。
【0128】
吸湿性の評価は、100℃における上記強度(Indensity)が10000以下である場合は○、10000以上である場合は×とした。
【0129】
また、出ガスの評価は、200℃において、上記TDS測定装置により求められる強度(Indensity)が100000以下である場合は○、100000以上である場合は×とした。
【0130】
(各温度における接着強度)
シリコンウェハー上に、実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物を塗布した後、150℃で3分間乾燥させた。次に、ガラス基板を200℃で、1kgの加重で接着させた後、各温度環境下で、そのガラス基板を引っ張り、シリコンウェハーから剥がれた時の接着強度を縦型電動計測スタンド「MX−500N」(株式会社イマダ社製)を用いて算出した。
【0131】
(柔軟性の評価)
6インチのシリコンウェハー上にスピンナーを用いて各接着剤組成物を1000rpmにて25秒間塗布した後、ホットプレートで200℃、3分間加熱して、上記シリコンウェハー上に塗膜層を得た。次に、上記塗膜層のクラックの有無を目視により観察し、クラックが有ったものを×、無しのものを○とした。なお、用いたシリコンウェハーの厚さは、15μmである。
【0132】
(耐アルカリ性の評価)
耐アルカリ性は、シリコンウェハー上に、実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物を塗布した後、200℃で3分間乾燥した。次に、2.38質量%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液の中に浸漬させて、塗布した膜が溶解するか否かを目視で観察した。目視で、塗布した膜の溶解が確認されなかったものを○、確認されたものを×とした。
【0133】
(接着性の評価)
実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物の接着性を評価した。具体的には、シリコンウェハー上に、実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物を塗布した後、200℃で3分間加熱して、接着層を形成した。さらに当該接着層の上に、150℃で2分間熱圧着することにより、ガラス板を貼り付けた。次に、23℃、60℃、140℃、200℃の各温度環境下において、ガラス板を剥がしたとき、シリコンウェハー上に、接着剤組成物が残存しているか否かを観察した。接着剤組成物が残存していなければ、接着性を○とし、残存していれば接着性を×とした。また、ガラス板を剥がした後のシリコンウェハー上を光学顕微鏡(オリンパス社製、MX50)を用いて、50倍で観察した。
【0134】
〔実施例1、比較例1〕
スチレンと、環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含み、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーとを含む単量体組成物を用い、さらに、スチレンブロックセグメントを形成させた接着剤組成物(実施例1)と、スチレンと、環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみを含む単量体組成物を用いた接着剤組成物(比較例1)との性質を比較した。
【0135】
なお、エチレン性二重結合を有するカルボン酸としてアクリル酸、二官能性モノマーとして、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート(以下、「DCPA」と表記する)、スチレンマクロモノマーとして、東亞合成株式会社より入手したスチレンマクロモノマー(製品名:マクロモノマー、グレード:AS−6S、メタクリロイル基を有するスチレンマクロモノマー、分子量:6000、以下、「MCST」と表記する)を用いた。
【0136】
また、実施例1では、後述のように、接着剤組成物の製造に用いるスチレン40質量部の内、20質量部のスチレン以外の、単量体組成物の成分を混合して、Nの吹込みを開始して、90℃まで昇温した後に、スチレンの残部(20質量部)を、当該フラスコ内に混合することで、スチレンブロックセグメントを形成した。
【0137】
実施例1、比較例1における単量体組成物の組成、及び当該単量体組成物を重合することにより得られた上記接着剤組成物の平均分子量を表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
実施例1に係る接着剤組成物は、次のように得た。
【0140】
まず、還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤としてPGMEA 53.85g、及び、表1に示すように、モノマー単量体としてフェノキシエチルアクリレート 20g、メタクリル酸メチル 15g、メタクリル酸n−ブチル 13g、スチレン 20g、アクリル酸 5g、DCPA 0.1g、MCST 12gを仕込み、Nの吹き込みを開始した。攪拌をはじめることで重合を開始させ、攪拌しながら90℃まで昇温した後、PGMEA 13.33g、スチレン 20g、及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2gからなる混合液を滴下ノズルより、2時間かけて連続的に滴下した。滴下速度は一定とした。なお、それぞれの実施例に係る接着剤組成物が表1に記載の平均分子量となるように、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートの量を調整した。
【0141】
滴下終了後に得られた重合反応液を、そのまま1時間、90℃で熟成した後、PGMEA 25.10g及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 0.3gからなる混合液を1時間かけて滴下した。その後、重合反応液を、さらにそのまま1時間、90℃で熟成した後、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 1.0gを一括投入した。
【0142】
次に、重合反応液を、そのまま3hr、90℃で熟成した後、溶剤の還流が認められるまで重合反応液を昇温した後、1時間熟成し、重合を終了させた。
【0143】
比較例1に係る接着剤組成物は、次のように得た。
【0144】
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤としてPGMEA 53.85g、及び、表1に示すように、モノマー単量体としてフェノキシエチルアクリレート 20g、メタクリル酸メチル 15g、メタクリル酸n−ブチル 13g、スチレン 52gを仕込み、Nの吹き込みを開始した。攪拌をはじめることで重合を開始させ、攪拌しながら90℃まで昇温した後、PGMEA 38.45g及び重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 1.0gからなる混合液とを滴下ノズルより、2時間かけて連続的に滴下した。滴下を通じて滴下速度は一定とした。
【0145】
滴下終了後に得られた重合反応液を、そのまま1時間、90℃で熟成した後、PGMEA 25.10g及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 0.3gからなる混合液を1時間かけて滴下した。その後、重合反応液を、さらにそのまま1時間、90℃で熟成した後、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 1.0gを一括投入した。
【0146】
次に、重合反応液を、そのまま3時間、90℃で熟成した後、溶剤の還流が認められるまで重合反応液を昇温した後、1時間熟成し、重合を終了させた。
【0147】
実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物の、140℃における接着強度、出ガス、耐熱性、柔軟性、吸湿性、及び耐アルカリ性を比較した。その結果を表2に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
また、実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物の接着強度を比較した。その結果を表3及び図1に示す。
【0150】
なお、図1において、横軸は各温度条件を示し、縦軸は接着強度(kgf/cm2)を示す。
【0151】
【表3】

【0152】
また、実施例1及び比較例1に係る接着剤組成物の接着性を比較した。その結果を表4に示す。
【0153】
【表4】

【0154】
ここで、接着性の比較の結果を、より詳細に図2に基づいて説明する。図2は接着性の比較の結果を模式的に示す図である。図2(a)は、接着剤組成物を介してシリコンウェハー及びガラス板が接着している様子を示す。そしてガラス板を剥がすと、図2(b)又は図2(c)の状態となる。図2(b)は、接着剤組成物が接着破壊によって剥離した状態を模式的に示しており、表4に示す○に対応している。図2(c)は、接着剤組成物が凝集破壊によって剥離したことを模式的に示しており、表4に示す×に対応している。
【0155】
図2(d)は、各温度条件における接着性を評価した後の、シリコンウェハー上を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。例えば、実施例1の23℃の欄に示しているように、左側は接着剤組成物を塗布していた領域(接着部)であり、右側は接着剤組成物を塗布していなかった領域(非接着部)である。
【0156】
表4の○に対応する欄では、接着剤組成物が残存しておらず、接着破壊により剥離したことが確認された。表4の×に対応する欄では、接着剤組成物が残存しており、凝集破壊により剥離したことが確認された。
【0157】
以上のように、実施例1に係る接着剤組成物は140℃においても接着性は良好であったが、比較例1に係る接着剤組成物は140℃において、接着不良を生じたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る接着剤組成物及び接着フィルムは、高い耐熱性及び耐アルカリ性を有し、吸湿性が低く、加熱時に発生するガスが少なく、また剥離液による剥離を容易に行なうことができる。よって高温プロセス、高真空プロセス、アルカリ等様々な化学薬品を用いるプロセスを経る半導体ウェハー又はチップの加工工程に、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の実施例において、接着剤組成物の接着強度を、異なる温度条件下で比較した結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、接着剤組成物の接着性を比較した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、
上記単量体組成物が、さらに、エチレン性二重結合を有するカルボン酸、二官能性モノマー、及び、スチレンマクロモノマーを含み、
上記ポリマーが、スチレンブロックセグメントを有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記カルボン酸の量が、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの総量を100質量部としたとき、1〜10質量部であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記カルボン酸が、下記一般式(1)
【化1】

(Rは、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する、炭素数2〜20の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。mは1〜3の整数を表す。)
で示されるカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記カルボン酸が、(メタ)アクリル酸又は下記一般式(2)
【化2】

(Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜5の2価のアルキル基、又は、環式構造を有する炭素数4〜20の2価の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。)
で示されるカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記二官能性モノマーが、(メタ)アクリロイル基及びビニル基からなる群から選ばれる二つの官能基を備えることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記二官能性モノマーが、下記一般式(3)
【化3】

(Rは、炭素数2〜20の2価のアルキル基、又は、環式構造を有する炭素数6〜20の2価の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。XおよびXは、それぞれ独立して、(メタ)アクリロイル基、ビニル基を表す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの二官能性モノマーであることを特徴とする請求項1又は5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記二官能性モノマーが、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、ナフタレンジアクリレート、及び下記式(4)
【化4】

(RおよびRは、それぞれ独立して、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを表し、nおよびsは、それぞれ独立して0〜4の整数である)
で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの二官能性モノマーであることを特徴とする請求項1、5又は6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
上記二官能性モノマーの量は、上記スチレンと、上記(メタ)アクリル酸エステルと、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの総量を100質量部としたとき、0.1〜0.5質量部であることを特徴とする請求項1及び5〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
上記スチレンマクロモノマーが、スチレンブロック構造と、当該スチレンブロック構造の両末端に位置する有機基とからなり、
上記有機基の内、少なくとも一つの有機基が、炭素−炭素二重結合を備えるスチレンマクロモノマーであることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項10】
上記スチレンマクロモノマーが、下記式(5)
【化5】

(RおよびRは、それぞれ独立して、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を備える炭素数1〜10の有機基を表し、酸素原子を含んでもよい。)
で示されるスチレンマクロモノマーであることを特徴とする請求項1又は9に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
上記単量体組成物の総量を100質量部としたとき、上記スチレンと上記スチレンマクロモノマーとの総量は30〜90質量部であり、上記スチレンマクロモノマーの量は、当該総量の範囲内であって、5〜40質量部であることを特徴とする請求項1、9又は10に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
フィルム上に、請求項1〜11のいずれか1項に記載の接着剤組成物を含有する接着剤層を備えることを特徴とする接着フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127506(P2008−127506A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316094(P2006−316094)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】