説明

接着性試験方法

【課題】プライマーを塗布した建築用部材等の被着体にシーリング材等を接着したものが実際に使用される状況と同様の状況での接着性を、簡易かつ適切に評価することのできる接着性試験方法を提供する。
【解決手段】被着体とこれに接着した被試験材とに力を加えて接着性を評価する接着性試験方法において、被着体と被試験材との接着面に一致させて被着体の被着面にプライマーを塗布することを特徴とする方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーリング材や接着剤等とプライマーを塗布した被着体との接着性を試験するための接着性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築分野において、建築用部材とシーリング材との間の接着性をよくするためプライマーが用いられている。このプライマーは、シーリング材に対して専用とされている事が多く、シーリング材−プライマー間の接着性については一般に安定した性能を発揮する事ができる。しかし、建築用部材は、その材質や、塗装してある場合のその塗膜等が多種多様であり、使用する前に各種建築用部材とプライマー間の接着性を確かめる為の接着性試験を行う事が不可欠である。
【0003】
接着性試験の方法としては、従来からJIS A 1439:2004「建築用シーリング材の試験方法」(非特許文献1)に記載されている「H型試験体」を用いた方法が知られているが、実際のシーリング材を打設した構成で試験を行うと、「H型試験体」を用いた方法よりも小さな力でプライマーが剥離することがあった。これは、実際にシーリング材が打設された箇所に予期しない応力が作用し、接着性試験で用いる試験体の構成がこのような実際の構成を再現できていないことが考えられる。
しかし、実際に使用する全ての建築用部材を用いて試験体を作成して評価を行うことは、建築用部材は形状や大きさが多岐にわたり、加工に非常に手間がかかる上に、中には引張り試験中に変形してしまい、評価ができないものもあり、困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS A 1439:2004「建築用シーリング材の試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、プライマーを塗布した建築用部材等の被着体にシーリング材等を接着したものが実際に使用される状況と同様の状況での接着性を、簡易かつ適切に評価することのできる接着性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく研究した結果、使用前の検証における小規模の試験体を用いた場合でも、簡易に実際に使用される状況を再現できる試験方法を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
(1)被着体とこれに接着した被試験材とに力を加えて接着性を評価する接着性試験方法において、被着体と被試験材との接着面に一致させて被着体の被着面にプライマーを塗布することを特徴とする方法である。
そして、被着体と被試験材との接着面に一致させて被着体の被着面にプライマーを塗布する方法としては、
(2)前記被着体の前記被試験材が接着する領域よりも広くプライマーを塗布し、前記被試験材が接着した領域の端縁に沿ってプライマーに切れ目を入れる方法が好適であり、また、
(3)前記被着体の前記被試験材が接着する領域にのみプライマーを塗布する方法であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の試験方法を用いることにより、プライマーを塗布した建築用部材等の被着体にシーリング材等を接着したものが実際に使用される状況での接着性を、簡易かつ適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る接着性試験用試験体の斜視図(a)、正面図(b)及び上面図(c)である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る接着性試験用試験体の図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の接着性試験方法は、被着体とこれに接着した被試験材とに力を加えて接着性を評価する接着性試験方法において、被着体と被試験材との接着面に一致させて被着体の被着面にプライマーを塗布することを特徴とする。このように、プライマー塗布面の端縁と被試験材の接着面の端縁とを一致させることにより、かかる一致した端縁に沿って線状にあるいは角部に点状に最大応力が作用するようになり、実際の使用における応力の作用と同様の状況を再現することができる。
【0010】
このことをより具体的に説明すると、例えば、H型試験体で引張試験を行うと、弾性体であるシーリング材(被試験材)は変形するが、プライマーとの接着面は固定されているために該接着面の端縁に沿って線状に最大応力がかかることとなる。従来公知の接着性試験方法では、プライマーは被着体の被着面全面若しくは被試験材の接着面よりかなり広い範囲に塗布されている。このような試験体では、シーリング材の端縁にかかった応力が、被着体とプライマーとの間の界面では、シーリング材接着面以外の部分に分散される。しかし、実際のシーリング材を打設した構成では、シーリング材の端縁とプライマーの端縁とは一致している場合が多く、シーリング材の端縁に線状にかかる応力は、そのまま被着体とプライマーとの間の界面でも線状に集中してかかることになる。このために、実際の打設部の構成では、H型試験体での結果よりも小さい力でプライマーが剥離してしまうことになる。そこで、プライマーを被試験材との接着面に一致して塗布されているようにして、プライマー塗布面の端縁と被試験材の接着面の端縁とを一致させることによって、実際の打設部の構成を再現することができる。
【0011】
このように、本発明の接着性試験方法で用いる試験体においては、被試験材と接着している部分の被着体上のプライマー皮膜面の輪郭が、被試験材の被着体と接着している接着面の輪郭と一致若しくは近接することが重要であって、下記実施例に限定されるものではなく、特に試験体各部の寸法が異なっていてもよいことを明記しておく。
【0012】
本発明の接着性試験方法における力の加え方については、引張に加えて、せん断、剥離、割裂等、実際の使用の状況を勘案して必要に応じて様々な力の加え方で試験を行うことができる。力の加え方によっては、一致させたプライマー塗布面及び被試験材の接着面の端縁に沿って線状に最大応力が作用する場合に加えて、直方体形状のシーリング材の角部に点状に最大応力が作用するような場合もある。
【0013】
本発明の接着性試験方法について、図を参照しながらさらに詳細に説明する。
本発明の接着性試験方法に用いる試験体においては、被着体とシーリング材等の被試験材とが直接接触する事は好ましくなく、被着体の被試験材との接触部分にのみプライマーを塗布することが困難な場合は、被着体の被試験材との接触部分より広い部分にプライマーを塗布し、試験の前に被試験材と被着体が接着した部分に沿ってプライマー皮膜に切れ目を入れることで本発明の試験体を作製することができる。このようにして作製した接着性試験用試験体の一例を図1に示す。なお、図1の(a)、(b)及び(c)は、それぞれ斜視図、正面図及び上面図である。この例では、被着体である2枚の基板1の被着面全体にプライマー3を塗布し、このプライマーを塗布した面の中央部分に、長辺の長さが被着面の幅と等しい直方体形状の被試験材2を、図示されるように基板1の側面と被試験材2の側面とがH型になるように接着してある。そして、被試験材2が接着している辺に沿ってプライマー3の皮膜を貫通する切れ目4を合わせて4本入れてある。
【0014】
もちろん、接着性試験用試験体は、被着体の被試験材との接触部分にのみプライマーを塗布して作製してもよい。このようにして作製した接着性試験用試験体の例を、上記同様に、図2(正面図)に示す。この例では、図1の試験体において、プライマー3が被試験材2が接着する部分にのみ塗布されている。
【0015】
なお、被着体が軟らかい場合は、被着体の被試験材との接着面の反対側に、同サイズのスレート板等の硬い材料を接着剤等で貼り付けてから試験に供する事も可能である。
上述のような接着性試験用試験体を用いて、接着性を評価することによって、プライマーやシーリング材が実際に使用される状況と同様の状況での接着性を簡易かつ適切に評価することができる。
【実施例】
【0016】
<試験体の構造>
実施例に用いた試験体は、図1に示されるものである。被試験材2(シーリング材)は、その断面が12×12mmであり、その長さは50mmの直方体である。シーリング材の12×50mmの1面が、厚さ2mm×50mm角のプライマー3が塗布された、被着体である基板1としての焼付け塗装アルミ板に接着され、シーリング材の該被着面とは反対側の1面が、もう一方の基板1に接着されている。シーリング材の12mmの辺に沿って、4本の少なくともプライマー3の皮膜を貫通する切れ目4を入れる。
【0017】
<試験体の作成方法>
上述の試験体は、以下のようにして作製した。厚み2mmの焼付け塗装アルミ板を50mm角に2枚切断し、必要に応じて表面をバフがけした後、表面を洗浄・乾燥したものを被着体とした。被着体に各種プライマーを塗布し、温度23℃、相対湿度50%雰囲気中で1時間養生した後、シーリング材(オート化学工業(株)製ALCコークタイプII(商品名))を用いて、JIS A 1439:2004「建築用シーリング材の試験方法」の「5.17.2 試験体の作製」に準拠して試験体を作製した。作製した試験体を温度50℃、相対湿度80%雰囲気中で7日間養生した後、23℃、相対湿度50%雰囲気中に1日間置いた後、シーリング材の長辺に沿ってプライマー皮膜に切れ目を入れたものを試験に供した(初期)。温水浸漬処理を行う場合は、プライマー皮膜に切れ目を入れた後に、50℃の温水中に7日間浸漬後、取り出して、23℃、相対湿度50%雰囲気中に1日間置いた後試験に供した(温水浸漬後)。
【0018】
<接着性試験>
JIS A 1439:2004「建築用シーリング材の試験方法」の「5.20引張接着性試験」に準拠して行った。
破壊状況から接着面積に対する破断の位置が「プライマー皮膜と被着体の界面(PF)」の占める面積の割合を「界面剥離率」として示した。
「合否」は温水浸漬後の最大引張応力(Tmax)が51[N/cm]以上のものを○、31〜50[N/cm]のものを△、30[N/cm]以下のものを×と評価した。
【0019】
(実施例1〜4)
表1に示す被着体の処理条件と、プライマーの組み合わせにより、接着性試験を行った結果を、表2に示す。
(比較例1〜4)
「試験体の作成方法」において、プライマー皮膜に切れ目を入れない以外は、実施例1〜4と同様にして表1に示す被着体の処理条件と、プライマーの組み合わせにより、接着性試験を行った結果を、表2に示す。
実施例及び比較例に用いたアルミ板に施したものと同じ焼付け塗装を行った実際のアルミ製建築部材において、プライマーAを用いた時には一部でプライマー層と建築部材との界面で剥離がみられたが、プライマーBを用いた時にはプライマー層と建築部材との界面で剥離はみられなかった。
【0020】
表2から明らかなように、従来のH型試験体を用いた試験では、何れの被着体の処理条件と、プライマーの組み合わせにおいても、良好な接着性を示しており、プライマーAも被着体に対して良好な接着性を示すと誤って判断されてしまうが、実際の建築物での使用状況を再現した実施例においては、プライマーAは低い接着性を示している。
【0021】
以上のように、本発明の接着性試験方法によって実際の建築物等に使用した条件に近い条件で評価を行うことができ、従来の試験法では判明しなかった接着性の違いを検出することができる。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【符号の説明】
【0024】
1 基板
2 被試験材
3 プライマー
4 切れ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体とこれに接着した被試験材とに力を加えて接着性を評価する接着性試験方法において、被着体と被試験材との接着面に一致させて被着体の被着面にプライマーを塗布することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記被着体の前記被試験材が接着する領域よりも広くプライマーを塗布し、前記被試験材が接着した領域の端縁に沿ってプライマーに切れ目を入れたことを特徴とする請求項1に記載の接着性試験方法。
【請求項3】
前記被着体の前記被試験材が接着する領域にのみプライマーを塗布したことを特徴とする請求項1に記載の接着性試験用試験体。

【図1】
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【図2】
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