説明

接着方法

【課題】作業性良好に両部材を固定し、注入圧力に耐え、両部材間に注入間隙を精度良く確保でき、広面積の接着が可能な注入接着工法による接着方法を提供する。
【解決手段】(1)補強部材5にその接着面に連通する複数の孔を設ける穿孔工程と、(2) 両部材4,5の接着面同士を複数のスペーサ1を介して間隔隔てて対面させた状態でスペーサを両部材に接着固定する配置工程と、(3)スペーサの周囲で開口する孔6のうちいずれかの孔を注入孔としてスペーサにより保持された両部材間の間隙8に接着剤を注入して未だ注入孔とされていない他の孔又は前記間隙の周縁から空気を排出しつつ接着剤層17を注入孔6aの周囲へ拡大形成し、(4)上記(3)を未だ注入孔とされていない孔のうちいずれかの孔を注入孔として繰り返して既に形成された接着剤層17(図(a))に連続させて接着剤層17(図(b))を形成する注入工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航空機、自動車、船舶或いは一般産業機器の接着部品に関するものであり、接着部品材料は複合材料が主体であるものの、金属、木材、コンクリート等材料的な制限はなく、液状接着剤による広範囲な面積の部品接着又は補強部材接着或いは修理に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体部品接着、補強又は修理を要する部材で、接着剤として航空機業界で一般的に用いられているフィルム状接着剤の適用が困難な構造形態或いはオートクレーブ(加熱/加圧)設備が使用できない作業環境において、液状接着剤で構造材、補強部材(修理材含む)を接着する場合、その方法は、始めに液状接着剤を構造部材面同士或いは補強部材面に塗布しておいて、貼合せ接着する圧着工法と予め構造部材同士或いは補強部材を仮固定しておいてその間隙に接着剤を注入する注入接着工法がある。
圧着工法は構造部材接着面と補強部材又は修理部材の接着面の両面又は片面に液状接着剤をヘラ、コテ或いはブラシ、刷毛等で塗布し、これらを貼り合せ接着する手法が採られている。
【0003】
しかし、この液状接着剤を広範囲な面積に塗布する手法は塗布斑、塗布厚み不均一を生じ、特に接着剤粘度が高い場合は、空気の巻き込みを防ぎながら塗布することは難しく、更に接着剤の塗布面は貼合せ両面が凹凸を抱えながら貼り合わせることからボイド(空隙部)が多い接着となる、このボイドは所定の接着強度が得られないだけでなく、内部欠陥として存在し、熱膨張収縮と共に応力集中点となり運用環境下で接着剥離の起点となる欠陥を引起す要因ともなる。
【0004】
更に貼り合せ接着は構造部材が外板と桁のケースで、桁位置が固定されている場合、外板の位置は貼り合せの接着剤量、フローアウト量により大きく変化することになり、製品品質を左右する外板の外形線が確保できなくなる。
一方注入接着工法は上記のボイド欠陥を排除することができ、接着品質の信頼性を向上させることが可能で、作業汚れも少なく作業性にも優れている特長がある。
しかし非特許文献1の図−1に示されるように、注入接着工法は補強部材の固定と注入間隙を確保する固定柱(アンカーボルト等)が不可欠であり、広範囲な面積を接着する場合には一定間隔で固定柱と注入間隙を確保する必要性があることからアンカーボルト等固定柱は接着外周辺だけでなく、中央部分も含めて数多く必要となる。
【0005】
又液状接着剤の粘度が高い(例えば10000 cps以上)場合は、注入圧力が必要となり、その注入圧により注入部分が脹らむことから一定間隔で固定柱を配置する必要性が生じる。
次に特許文献1で提案されている技術では、桁等の構造体と外板との接着を液状接着剤にて接着する工法において、外板の固定と接着区域以外への接着剤漏出防止目的の粘着両面テープ材(シール材)を接着区域外周に貼付し、接着外板には対極となる注入孔と排出孔を設け、注入孔から接着剤を注入、排出孔よりフローアウトさせる方法があり、接着剤充填度合いの検出機能を備えると共に、空隙形成を効果的に防止する注入接着手法がある。
【0006】
この注入接着工法は補強部材の接着にも応用可能であり粘着両面テープ材は前述のアンカーボルトの代用としても機能し、構造部材と補強部材間に適用することで補強部材の固定とテープ厚みで注入間隙を確保すると共に、注入接着剤が不必要な部位に流れ込むことを防止するシール材としての機能も効果として挙げている。
【0007】
しかし、この粘着両面テープによる固定方法ではその粘着力の限界があり、粘度の高い接着剤を注入する際の注入圧力には耐えられない欠点があり、アンカーボルトの代替としての固定力には不十分である、しかも粘着テープが占める面積が補強部材を固定するために一定面積必要であり、しかもこのテープは構造体としての接着力には全く寄与しないことになり、接着硬化後には構造体の中で不要な材料として残ってしまうことになる。
【特許文献1】特開2003−154311号公報
【非特許文献1】『接着ハンドブック』<工業材料・・・1985年11月臨時増刊号・日刊工業新聞社発行>の172頁 土木・建築分野における接着技術
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したような液状接着剤で接着する場合、貼り合せ接着では、ボイド欠陥を排除できないだけではなく、例えば自動車製造において接着工法が用いられる場合外板となるルーフ、サイドパネル等の外形線を確保できない欠点がある。また、液状接着剤による広範囲接着においてボイド欠陥のない接着品質を得る工法として注入接着工法があるが、非特許文献1記載の方法での注入接着工法は補強部材の固定と注入間隙を確保するため、アンカーボルト等固定手法を一定間隔に準備する必要がある。
【0009】
しかしこのアンカーボルトを配置するためには構造物側に一定間隔で埋め込み用の下穴を設ける必要があり、構造物の母材強度を低下せしめることになる、又その下穴加工の作業が発生する、しかもこのアンカーボルトは補強部材から飛出すことになり、外観を著しく悪くする。
【0010】
又航空機部品で金属部品の場合は、補強部材接合にはリベット、溶接などの手段はあるが、複合材料の場合はそれらの手法は用いられず、一般的に薄板構造が主体であることからアンカーボルト等固定柱を埋め込むだけの肉厚を有していない、固定柱の代用として、外板と補強部材に孔を空けスペーサとファスナーで固定する方法がある。しかし、この手法は作業性が悪く、さらに空力特性への影響が大きいことから接着硬化した後、このファスナーを取り外す必要がある。
【0011】
特許文献1記載の粘着両面テープによる固定方法ではその粘着力の限界があり、注入圧力に耐えられる固定力は得られない、又粘着両面テープは接着剤硬化後には不要な材料として接着構造物に残ることになる。
【0012】
本発明は以上の従来技術の問題に鑑みてなされたものであって、アンカーボルトや粘着両面テープ等の固定手段を用いず作業性良好に両部材を固定し、注入圧力に耐え、両部材間に注入間隙を確保でき、広面積の接着が可能な注入接着工法による接着方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、部材と部材を接着する方法において、
(1) 一方の部材にその接着面に連通する複数の孔を設ける穿孔工程と、
(2) 両部材の接着面同士を複数のスペーサを介して間隔隔てて対面させた状態で前記スペーサを両部材に接着固定する配置工程と、
(3) 前記スペーサの周囲で開口する前記孔のうちいずれかの孔を注入孔として前記スペーサにより保持された両部材間の間隙に接着剤を注入して未だ注入孔とされていない他の孔又は前記間隙の周縁から空気を排出しつつ接着剤層を前記注入孔の周囲へ拡大形成し、
(4) 上記(3)を未だ注入孔とされていない前記孔のうちいずれかの孔を前記注入孔として繰り返して既に形成された接着剤層に連続させて接着剤層を形成する注入工程とを備える接着方法である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記穿孔工程及び前記配置工程の実行により、前記接着面内における前記スペーサ及び前記スペーサの周囲で開口する前記孔の配置を、当該スペーサと当該孔とが混在した配置とすることを特徴とする請求項1に記載の接着方法である。
【0015】
請求項3記載の発明は、前記穿孔工程及び前記配置工程の実行により、前記接着面内に前記スペーサ及び前記スペーサの周囲で開口する前記孔がそれぞれ均等に分散するとともに、両者の相互の間隔が均等な配置とすることを特徴とする請求項1に記載の接着方法である。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記注入工程の前に、空気排出用の小孔を有し、前記間隙の周縁における前記接着剤の漏洩を止めるシール材で前記間隙の周縁を被うシール工程を備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載の接着方法である。
【0017】
請求項5記載の発明は、前記穿孔工程において、前記スペーサより小さな孔を設け、
前記配置工程において、前記スペーサの片面を他方の部材に接着し、前記スペーサの前記片面の反対面に接着剤を塗布し、その後、前記スペーサより小さな孔を前記スペーサ上に配置することを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記穿孔工程において、前記スペーサより小さな孔を設け、
前記配置工程において、前記スペーサの片面を他方の部材に接着し、その後、前記スペーサより小さな孔を前記スペーサ上に配置し、その後、前記スペーサ上に配置された孔から前記一方の部材と前記スペーサとの間に接着剤を注入することを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0019】
請求項7記載の発明は、前記注入工程において、一の注入孔に隣接する未だ注入孔とされていない他の孔への接着剤の到達を確認して前記一の注入孔からの接着剤の注入を終了し、前記一の注入孔に隣接する未だ注入孔とされていない他の孔のうちいずれかの孔へ注入孔を移行することを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0020】
請求項8記載の発明は、前記注入工程において、既に注入孔とした孔を当該注入工程終了まで少なくとも接着材の流出を阻止する力で塞いだ上で次の孔からの注入に移行することを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0021】
請求項9記載の発明は、前記注入工程において、前記間隙の中央部からより周辺に順次前記注入孔を移行して前記接着剤層を中央から周辺へと拡大形成することを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0022】
請求項10記載の発明は、前記注入工程において、前記間隙の一側部からこれに相対する他の側部に向かって順次前記注入孔を移行して前記接着剤層を前記一側部から前記他の側部へと拡大形成することを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0023】
請求項11記載の発明は、使用する前記スペーサの前記接着剤層に平行となる断面を楕円、菱形その他の長手方向のある形状とし、前記注入工程における接着剤層の拡大方向にスペーサの長手方向が沿うように前記配置工程において前記スペーサを配置することを特徴とする請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0024】
請求項12記載の発明は、前記両部材のうち少なくとも一方が繊維強化樹脂複合材であることを特徴とする請求項1から請求項11のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0025】
請求項13記載の発明は、前記スペーサとして強化繊維織物体を積層し樹脂を含浸して形成した繊維強化樹脂複合材の積層体を用い、前記配置工程において前記両部材を隔てる方向に前記織物体の積層方向を一致させて前記スペーサを配置することを特徴とする請求項1から請求項12のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【0026】
請求項14記載の発明は、前記接着剤として主剤と硬化剤を混合して硬化させる2液混合型の接着剤を用い、前記注入工程において主剤と硬化剤と混合して生成した接着剤を注入することを特徴とする請求項1から請求項13のうちいずれか一に記載の接着方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、接着する部材と部材との間に複数のスペーサを介するから、両部材の間に接着剤を注入する間隙を確保することができる。
また本発明によれば、スペーサを両部材に接着固定するから、両部材を所定の相対位置に固定することができるとともに、接着剤の注入圧に耐える固定強度を得ることができる。
スペーサの厚みの選択により所望の間隙を形成することができる。スペーサを両部材に接着固定することにより部材の位置ずれを防止するとともに、接着剤の注入圧に耐えて各部材の形状や両部材間の間隔を保持することができる。
したがって、作業者の技量によらず安定して精度の良い外形を有する製品を製造することができる。
【0028】
また本発明によれば、両部材間の間隙に接着剤を注入する時、未だ注入孔とされていない他の孔又は間隙の周縁から空気を排出しつつ接着剤層を注入孔の周囲へ拡大形成する。これを未だ注入孔とされていない他の孔のうちいずれかの孔を注入孔として繰り返す。各注入孔から注入された接着剤層を連続させて両部材間の間隙内に拡大形成する。これにより、両部材間の間隙に接着剤を充填し間隙を消失させる。
したがって、本発明によれば、広範囲に接着剤層を拡大し広面積の接着を可能とする。
また、広面積の接着を可能としながら、空気を排出してボイドを排除し応力集中の原因となるボイド欠陥を生じさせない。スペーサ部分を含めて接着剤の硬化により高い接合強度を得ることができ、粘着両面テープなどの弱部を残さない。
ゆえに本発明によれば、広面積であっても均質性に優れ、高強度の接着接合部を形成することができる。
【0029】
また本発明によれば、一方の部材に本法実施のための孔を加工すれば足りるので、両部材に孔を空ける従来技術に比較して作業性がよく、構造物の母材強度を低下せしめることがない。また、アンカーボルト等の突出物を表面に残さず、美観の良い製品を得ることができる。さらに、ファスナーなどの施工後取り外す必要がある工具を使用しないので、作業性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の一実施の形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0031】
注入接着に先立ち、円盤状のプレートをスペーサとして構造部材と補強部材間に一定間隔に配置し、構造部材と補強部材の両部材に接着し、接着剤を硬化させ、注入間隙確保と注入圧に耐える固定強度を得る。
【0032】
まず、図1に示すようにスペーサを作製する。
スペーサは構造部材及び補強部材が複合材料の場合、図1(a)に示すように複合材料素材である織物材プリプレグを注入間隙の要求に合わせて所定板厚に積層した積層体2を作製し、スペーサ1の接着面となる積層体2の上下面には接着前処理面形成と保護を目的とするピールプライ3を貼り成形硬化する。
航空機構造部材と補強部材での接着の場合、接着剤層の厚みは通常0.2〜1.0mm程度が望ましく、この厚みの織物材プリプレグは通常1〜5枚程度の積層で得られる。また、接着剤層を0.1mm単位でコントロールすることも可能であり、その場合はより薄い織物プリプレグを用いる。
【0033】
図1(a)に示すものを成形硬化させたシートから、例えば図1(b)に示すようにウオータージェット加工機などでピールプライ3が貼られた状態のままφ10〜20mm程度のサイズに加工切断し、図1(c)に示すようなスペーサ1を得る。
【0034】
スペーサは図1(c)(d)に示すような円形状に限定されるものではなく、接着剤フロー指向性をコントロールすることが可能な楕円形状(図1(e))或いは、菱形形状(図1(f))を適用も可能である。
また、スペーサの素材は例えばCFRPであるが、これに限定されるものでなく、GFRP、金属、ゴム、或いはプラスチックでも可能で、構造部材、補強部材の材質に応じて使い分けが可能である。
【0035】
このスペーサを構造部材と補強部材間の接着面に一定間隔で配置・接着・硬化し、硬化後にはスペーサはその接着力で注射器、注入ガン、ノズル等による注入圧力に耐え得る反力柱となる。
【0036】
以上のようにして補強部材5と同じ材料で円盤状のFRPスペーサ1を事前に成形加工し、図2の如く構造部材4の接着面に一定間隔(100〜250mmヒ゜ッチ)で接着する。さらに、スペーサ1の上にFRP製の補強部材5を配置し、スペーサ1と接着させ、図2に示す構造を得る。
すなわち、図2に示すように、構造部材4と補強部材5とを、その接着面同士を複数のスペーサ1を介して間隔隔てて対面させた状態でスペーサ1を両部材に接着固定する(配置工程)。
構造部材4と補強部材5との間であって、スペーサ1を除く空間に接着剤を注入する間隙8が形成される。
図2の場合、補強部材5の構造部材4に対向する面の全部が補強部材5の接着面である。同じく構造部材4の補強部材5に対向する部分の補強部材5に対向する面が構造部材4の接着面である。
【0037】
補強部材5には、間隙8への注入孔6及びスペーサ対応孔7を形成する。注入孔6は図2の状態においてスペーサ1の周囲で開口する孔であり、間隙8に連通する。スペーサ対応孔7は図2の状態においてスペーサ1上に配置される孔である。これらの孔は補強部材5を構造部材4に合わせる前に加工する(穿孔工程)。スペーサ対応孔7はスペーサ1より小さくする。注入孔6はスペーサ1より大きくすることもできるが、スペーサ対応孔7と同じ径とすれば、穿孔作業が簡素化する。
【0038】
図2の状態、すなわち、穿孔工程及び配置工程の実行後、接着面内におけるスペーサ1及びスペーサ1の周囲で開口する注入孔6の配置を、スペーサ1と注入孔6とが混在した配置とする。これらが混在しない場合は、自ずと、スペーサ1も注入孔6も接着面内において偏在することとなる。スペーサ1が偏在すれば、接着面全体において、より均等な支持力(引張及び圧縮)が得られ難い。注入孔6が偏在すれば、接着面全体においてより均等な接着剤注入圧力を確保すること難しくなる。
【0039】
したがって、最も理想的には、接着面内にスペーサ1及び注入孔6がそれぞれ均等に分散するとともに、両者の相互の間隔が均等な配置とする。
図2(a)に示す配置はこの理想的な配置であり、接着面内にスペーサ1が均等に分散配置されている。また、接着面内に注入孔6が均等に分散配置されている。スペーサ1及び注入孔6がそれぞれ均等に分散配置されているだけでなく、スペーサ1及び注入孔6の両者相互の間隔が均等な配置となっている。
この配置により、接着面全体において、より均等な支持力(引張及び圧縮)が得られ、より均等な接着剤注入圧力を確保することができる。
【0040】
配置工程における接着には2手法(A法、B法とする。)があり、A法としては図3(a)、(b)に示すように構造部材4の接着面をサンディング研磨等で接着前処理、次にFRPスペーサに貼られていた両面のピールプライを剥して(接着前処理は剥すだけで良好な面が得られる)補強部材5を接着する接着剤と同じ接着剤をスペーサ片面に塗布し、構造部材に接着する。
【0041】
次いで、予め一定間隔(100〜250mmヒ゜ッチ)で注入孔6とスペーサ対応孔7を穿孔しておいた補強部材5の接着面を接着前処理した後、構造部材4に接着されたスペーサ1上面に接着剤を塗布し、図3(b)の如く補強部材5の固定位置を予め決めてある位置に配置すると共に、スペーサ対応孔7の位置がスペーサ1の中央に位置するように配置して補強部材5をスペーサ1に接着する。この時スペーサ1に塗布された余剰接着剤と貼り合せ時に巻き込まれた気泡はスペーサ対応孔7より排除される。
【0042】
B法では、予めA法と同じく構造部材4にスペーサ1を接着し、図3(c)如く一定間隔で注入孔6とスペーサ対応孔7が穿孔された補強部材5を接着前処理した後、補強部材5をスペーサ1上面に配置する。この時、スペーサ1への接着剤塗布を行わない。単に、スペーサ1の位置と補強部材5に穿孔されたスペーサ対応孔7との位置を合わせる。その後、スペーサ対応孔7から接着剤を注射器9等で注入し、適用量の接着剤を補強部材5とスペーサ1との間に注入する。
【0043】
以上のA法又はB法により、補強部材5とスペーサ1の間に施した接着剤を硬化させて補強部材5の固定を完了する。
A法、B法とも接着圧力は図4に示す如く、真空バギング法による真空圧、又は重石、砂袋あるいは補強部材が充分に重い場合は自重による圧力を利用する。図4(a)に示す真空バギング法では、接着剤を施して組みさわせた構造部材4、スペーサ1及び補強部材5を真空バッグ10内に収め、シール材12によりシールし真空ラインから真空バッグ10内を真空排気して、大気圧により接着圧力を得る。図4(b)では、接着剤を施して組みさわせた構造部材4、スペーサ1及び補強部材5を、片側の補強部材5を下にして適所に載置し、上側の補強部材5の上に重り13をスペーサ1の上方位置に載置する。その他、何らかの手段で挟み付けるなどして適度な接着圧力を与えた状態で接着剤の完全硬化まで安置する。
【0044】
硬化は液状接着剤の場合、室温硬化が一般的であるが時間短縮のため、加熱促進硬化を適用しても良い。
スペーサ1の接着の硬化が完了したら、図5(a)に示す如く、補強部材5の周縁を粘着テープ等のシール材14でシールする。この時シール材14には針孔程度の孔を任意の間隔で開け、間隙8の周縁部まで接着剤が注入された時の空気抜き孔とする。
【0045】
(注入工程)
補強部材5を全面的に接着するための手順として、接着する補強部材5の中央部分から注入孔6より注射器15等を用いて接着剤16を注入する(図5(a))。
接着剤層17が間隙内に拡大し、注入している注入孔6aの隣の注入孔6への接着剤の到達を確認したら、注射器15を隣の注入孔6に移すと共に注入していた注入孔6aより接着剤の逆流を防ぐため注入孔6aをゴムプラグ18で塞ぐ(図5(b))。この手順を繰り返し図6(a)に示すように順次周辺へ接着剤注入を移して行く。これにより各注入孔6から接着剤を間隙8内に順に注入して連続した一つの接着剤層に成長させる(図6(a))。接着剤が端部まで注入されシール材14の針孔から接着剤が押出されたら注入工程を終了する。これにより、構造部材4と補強部材6の間を接着剤層で満たす。
【0046】
図5に示すように両面に補強部材5を接着する場合は、片面(図5で言えば上面側)に接着剤を注入後、すぐに反転して反対側の接着作業に移っても注入孔6にはゴムプラグ18、補強部材5の周縁はシール材14により接着剤を密封していることから接着剤が流れ出したり、漏れたりすることはない。
また、使用する液状接着剤が一般的な常温硬化タイプであればそのままの状態で硬化する為、最初の面の硬化時間と反対側の接着作業時間とが重なっても問題はなく効率的な作業ができる。
【0047】
また、図6(b)(c)の模式図で示すように使用するスペーサを断面楕円のスペーサ30、断面菱形のスペーサ31等の長手方向のある形状とし、注入工程における接着剤層の拡大方向にスペーサ30、31等の長手方向が沿うように上記配置工程においてスペーサ30、31等を配置する方法がある。これにより、接着剤フローの指向性を制御することが可能である。
【0048】
図6(b)においては、スペーサ30が中央から放射状に配置され、接着剤層32を中央から周辺へと拡大形成する。これにより、注入を円滑にし、注入圧を低く抑え、充填残りの発生を防ぐことができる。
【0049】
図6(c)においては、スペーサ31の長い方の対角線が補強部材5の長辺の方向と一致するように配置され、接着剤層33を補強部材5の長辺方向の一端にある一側部からから相対する他の側部に向かって拡大形成する。これにより、注入を円滑にし、注入圧を低く抑え、充填残りの発生を防ぐことができる。
【0050】
使用する液状接着剤としては、主剤と硬化剤を混合して硬化させる2液混合型の接着剤を用いる。注入工程において主剤と硬化剤と混合して生成した接着剤を注入孔6から注入する。例えば、液状接着剤はDP-460(商品名:住友3M(株)製)、注入器としてアプリケータ(2個のチューブからそれぞれ別個に出た材料を一緒にスパイラル状に通して混合させる注入器)を使用する。又はHYSOL EA-9394(HENKEL)のように作業者が自分で秤量・混合し、注射器或いは注入ガンに詰める接着剤を使用する。
【0051】
図7、図8に、補強外板50を接着した翼構造を示す。図7は翼の外板40に約1.5m×1.5mの補強外板50を接着した全体見取図であり、図8は図7に示す破線囲み部分の拡大図である。図8に示すように、注入孔6の間隔を115〔mm〕とした。
【0052】
図9に自動車製造への適用例を示す。図9(a)は正面図、(b)は側面図であり、図(b)中22は接着剤流出防止フィンである。図9に示すように外板部品たるルーフ21を構造部材たるピラー20に接着する用途において、本発明によれば外形線を確保しながらピラー20とルーフ21とのクリアランス(間隙)を注入・充填した接着剤でカバーすることが可能であり、製造部品のバラツキを接着剤層で補償的に吸収できる。本適用例では、ピラー20に注入孔6を設け、構造部材たるピラー20が注入側となる。
【0053】
本実施形態によれば、複数の注入孔を設けた補強板と被補強板との間に間隙を設けて、複数の点で点接着し、複数の注入孔から接着剤を注入して硬化させる。本実施形態によれば、注入工程において、間隙8から空気を排除しながら接着剤を充填する手法であることから、貼り合せ接着作業のように塗布面凸凹形成による貼り合せ時の空気巻き込み等、空気が残留する要素がないボイドレスの接着が可能である。
また、本実施形態によれば、スペーサ接着面積がφ10〜20mmと比較的小サイズでもその接着力は大きく、注入圧力に対し十分な反力を得ることが可能であり、従ってスペーサ接着時の圧力も面積に応じて小さくて良く、重り、砂袋或いは補強外板の重さだけでも十分である。
【0054】
本実施形態によれば、円盤状のスペーサは必要な厚みをプリプレグ(材料)の積層枚数で容易に得ることが出来、成形硬化後、円盤状形状にはウオータージット加工で容易に得られる。
スペーサは円形状のほか、楕円形状、菱形形状と接着剤フロー指向性を考慮して任意の形状が容易に加工できる。
本実施形態によれば、スペーサ素材成形時にピールプライをプリプレグの両面に貼付し、接着直前にこのピールプライをスペーサから剥すことにより接着面の接着前処理作業を行うので、スペーサ作製と接着作業が容易となる。
【0055】
本実施形態によれば、補強部材5には一定間隔で注入孔6を穿孔し、接着時において接着剤到達度を隣接する注入孔6から確認し、接着剤注入孔を順次周辺に移す作業手順により、1回での接着剤到達(充填)長さを制限する。このように接着剤到達(充填)長さを制限することによって、注入圧力を過大とさせない。ポットライフ(作業可使時間)が短い接着剤でも、1注入区間づつ注入するから、広範囲な面積でも接着が可能である。既に注入が終了した注入孔から注入された接着剤の硬化が進行しその粘度が上昇しても、他の注入孔からの注入する際の注入圧力を上昇させない。
【0056】
本実施形態によれば、接着剤が流動到達されていない注入孔は空気抜き孔として機能する。
本実施形態によれば、接着剤注入済みの注入孔にはゴムプラグで塞ぎ、補強外板接着端部外周辺にはシール材でマスキングすることから、接着剤の溢れ出しがなく、周辺を余剰接着剤で汚す心配がない。
接着剤として主剤と硬化剤による2液混合タイプの液状接着剤を使用することにより、接着剤、粘度的に制限を受けない幅広い作業が可能である。
自動車製造において、軽量化目的等で繊維強化樹脂複合材料を外板部品等に適用する場合、金属構造部材との結合に溶接は不可能であり、ボルト結合も適さないが、本接着方法を用いることで外観品質確保と共に量産対応の結合が可能である。
【0057】
本実施形態の方法は接着剤層に気泡が入る余地がない接着法であり、構造部材同士或いは構造部材と補強部材の接着間隙に合わせて接着剤層を形成できる接着法であり、接着間隙のバラツキに対応可能な接着法である。自動車製造の場合、外板等の外形線確保は重要な商品品質である。本方法によれば、外板等部品の外形線を固定した上で外板等にスペーサを接着し、構造部材とのクリアランス(間隙)を注入接着剤で埋めることで外形線を確保しながら構造部材との接着が可能となる。
【0058】
本実施形態によれば、補強部材の位置固定と接着剤注入間隙確保及び接着剤の注入圧力に耐えるスペーサ(反力柱)を一定間隔で接着しておく。このように準備された状態で粘度の高い液状接着剤(一般的にエポキシ系接着剤のように高接着強度が得られる高性能な接着剤は粘度が高い、例えば航空機業界で代表的な液状接着剤であるHYSOL EA934 は混合後の粘度が80000 cpsである。)を注入孔から注入ガン等で注入すると注入圧力が必然的に高くなり、しかも接着間隙が狭かったり、注入域(奥域)広くなるに従い益々高い圧力が必要となる。しかしエポキシ接着剤により一定間隔で接着したスペーサ(反力柱)の接着力は大きく(例えばφ15mmのスペーサ1個で約1500kgf接着力がある。)、その注入圧力に十分耐える反力を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、広範囲面積接着にも一定間隔で穿孔してある隣の注入孔に接着剤が届いたことを目視確認した後、注入孔を隣に移しバトンタッチしながら順次周辺へと接着剤を注入してゆく手法であり、スペーサの厚みを変えることで接着剤層の厚みを0.2〜1.0mmに任意(0.1mm単位で)にコントロールできる。さらに、補強部材の厚みが薄い場合はスペーサの厚みを接着部位毎にコントロールすることでその部位に応じた接着剤層を得ることが可能である。
【0060】
本実施形態によれば、接着剤注入圧力は接着剤層(接着間隙)が狭いほど、接着剤の粘度が高いほど高い圧力が必要となるが、本実施形態によれば、スペーサの接着力は大きく、十分反力柱となる。
本実施形態によれば、ヘラ、コテ、ブラシ等での両面塗布作業ではなく、注射器、注入ガン等で接着間隙に接着剤を注入する手法であることから、溢れる接着剤もなく、無駄なく、きれいな作業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係るスペーサ素材の断面図(a)、スペーサのカットラインが入ったスペーサ素材の斜視図(b)、スペーサ単体斜視図(c)及び種々のスペーサの形状を示す平面図(d)〜(f)である。
【図2】本発明の一実施形態に係るスペーサを介して接着された構造の平面図(a)及び断面図(b)である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスペーサの接着手順を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスペーサ接着のための圧力負荷方法を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る注入工程を示す断面図である。
【図6】スペーサの形状と配置と接着剤注入過程との組み合わせ例を示す平面図である。
【図7】本発明の翼構造への適用例を示す全体見取図である。
【図8】図7に示す破線囲み部分の拡大図である。
【図9】本発明の自動車のルーフ・ピラー構造への適用例を示す正面図(a)及び側面図(b)である。
【符号の説明】
【0062】
1 スペーサ
4 構造部材
5 補強部材
6 注入孔
7 スペーサ対応孔
8 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材と部材を接着する方法において、
(1) 一方の部材にその接着面に連通する複数の孔を設ける穿孔工程と、
(2) 両部材の接着面同士を複数のスペーサを介して間隔隔てて対面させた状態で前記スペーサを両部材に接着固定する配置工程と、
(3) 前記スペーサの周囲で開口する前記孔のうちいずれかの孔を注入孔として前記スペーサにより保持された両部材間の間隙に接着剤を注入して未だ注入孔とされていない他の孔又は前記間隙の周縁から空気を排出しつつ接着剤層を前記注入孔の周囲へ拡大形成し、
(4) 上記(3)を未だ注入孔とされていない前記孔のうちいずれかの孔を前記注入孔として繰り返して既に形成された接着剤層に連続させて接着剤層を形成する注入工程とを備える接着方法。
【請求項2】
前記穿孔工程及び前記配置工程の実行により、前記接着面内における前記スペーサ及び前記スペーサの周囲で開口する前記孔の配置を、当該スペーサと当該孔とが混在した配置とすることを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
前記穿孔工程及び前記配置工程の実行により、前記接着面内に前記スペーサ及び前記スペーサの周囲で開口する前記孔がそれぞれ均等に分散するとともに、両者の相互の間隔が均等な配置とすることを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項4】
前記注入工程の前に、空気排出用の小孔を有し、前記間隙の周縁における前記接着剤の漏洩を止めるシール材で前記間隙の周縁を被うシール工程を備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載の接着方法。
【請求項5】
前記穿孔工程において、前記スペーサより小さな孔を設け、
前記配置工程において、前記スペーサの片面を他方の部材に接着し、前記スペーサの前記片面の反対面に接着剤を塗布し、その後、前記スペーサより小さな孔を前記スペーサ上に配置することを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項6】
前記穿孔工程において、前記スペーサより小さな孔を設け、
前記配置工程において、前記スペーサの片面を他方の部材に接着し、その後、前記スペーサより小さな孔を前記スペーサ上に配置し、その後、前記スペーサ上に配置された孔から前記一方の部材と前記スペーサとの間に接着剤を注入することを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項7】
前記注入工程において、一の注入孔に隣接する未だ注入孔とされていない他の孔への接着剤の到達を確認して前記一の注入孔からの接着剤の注入を終了し、前記一の注入孔に隣接する未だ注入孔とされていない他の孔のうちいずれかの孔へ注入孔を移行することを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項8】
前記注入工程において、既に注入孔とした孔を当該注入工程終了まで少なくとも接着材の流出を阻止する力で塞いだ上で次の孔からの注入に移行することを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項9】
前記注入工程において、前記間隙の中央部からより周辺に順次前記注入孔を移行して前記接着剤層を中央から周辺へと拡大形成することを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項10】
前記注入工程において、前記間隙の一側部からこれに相対する他の側部に向かって順次前記注入孔を移行して前記接着剤層を前記一側部から前記他の側部へと拡大形成することを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項11】
使用する前記スペーサの前記接着剤層に平行となる断面を楕円、菱形その他の長手方向のある形状とし、前記注入工程における接着剤層の拡大方向にスペーサの長手方向が沿うように前記配置工程において前記スペーサを配置することを特徴とする請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項12】
前記両部材のうち少なくとも一方が繊維強化樹脂複合材であることを特徴とする請求項1から請求項11のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項13】
前記スペーサとして強化繊維織物体を積層し樹脂を含浸して形成した繊維強化樹脂複合材の積層体を用い、前記配置工程において前記両部材を隔てる方向に前記織物体の積層方向を一致させて前記スペーサを配置することを特徴とする請求項1から請求項12のうちいずれか一に記載の接着方法。
【請求項14】
前記接着剤として主剤と硬化剤を混合して硬化させる2液混合型の接着剤を用い、前記注入工程において主剤と硬化剤と混合して生成した接着剤を注入することを特徴とする請求項1から請求項13のうちいずれか一に記載の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−209923(P2007−209923A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33792(P2006−33792)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】