説明

接続具、PC部材の製造装置および製造方法

【課題】PC部材を製造する際の作業効率を向上させることができ、かつ、PC部材製造時に生じ得るPC用鋼材のロスを低減することのできる接続具とPC部材の製造装置を提供する。
【解決手段】PC部材の製造装置10は、PC鋼線2に緊張力を導入する緊張側アバット4と、緊張力導入時の反力を受ける反力受け側アバット5と、双方のアバット4,5に固定された所定本数のPC鋼棒3,3,…と、それぞれのPC鋼棒3,3,…の一端に接続される接続具1,1,…とを少なくとも具備している。PC鋼棒3の一端は接続具1の凹溝に螺合接続されており、反力受け側アバット5の接続具1と、該接続具1に対応する緊張側アバット4の接続具1の双方の有孔係止具(楔体16)の孔16dに、PC鋼線2の両端部がそれぞれ嵌合され、所定本数のPC鋼線2,2,…がアバット4,5間に掛け渡されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本のPC用鋼材を接続する接続具と、該接続具を備えたPC部材の製造装置および製造方法に係り、特に、PC部材を製造する際の作業効率を向上させることができ、かつ、PC部材製造時に生じ得るPC用鋼材のロスを低減することのできる接続具とPC部材の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に引張力に弱いコンクリートに対して、予め、ないしはコンクリートの硬化後に緊張力(圧縮力)を付与することにより、引張力やひび割れ等に対する強度が高められたプレストレストコンクリート部材(以下、PC部材という。)が建設分野では多用されている。このプレストレスは、PC鋼線やPC鋼より線、PC鋼棒といったPC用鋼材に緊張力が導入され、PC用鋼材とコンクリートとの付着力を介して、コンクリートにプレストレスとして導入されるものである。プレストレスの導入方式としては、PC用鋼材に予め緊張力を導入しておき、コンクリート硬化後に緊張力を解放するプレテンション方式と、コンクリートの硬化後に、該コンクリート内に(シース管等を介して)埋設されたPC用鋼材に緊張力を導入するポストテンション方式とがある。
【0003】
ところで、上記プレテンション方式によってPC部材を製造する場合には、緊張ジャッキを備えた緊張側アバットと、緊張力に抗する反力受け側アバットとを所定の間隔を置いて対向配置させ、その間にPC部材製造用の型枠を設置し、型枠の側壁を貫通させたPC用鋼材の両端部を緊張側アバット(の緊張ジャッキ)と反力受け側アバットに固定する。型枠内にフレッシュなコンクリートを打設する前に、ジャッキにてPC用鋼材に緊張力を導入しておき、コンクリートを打設し、その硬化を待って緊張力を解放することにより、コンクリート内に所定のプレストレスが導入される。なお、PC部材の形態は、橋梁桁のように長尺部材で、1方向にプレストレスを導入する場合には、緊張側アバットと反力受け側アバットとからなるアバットユニットは、1組用意すればよい。一方、スラブ等の面的な広がりを有する部材であって、例えば2方向にプレストレスを導入する場合には、前述のアバットユニットを例えば2組用意してPC部材の製造がおこなわれる。
【0004】
従来のプレテンション方式によるPC部材の製造方法に関する技術として、特許文献1を挙げることができる。この技術は、2方向(X方向、Y方向)に交差する緊張材を備えたPC部材を製造する方法であり、例えば、Y方向の緊張材の端部にデビエータを装着しておき、緊張力を双方の緊張材に導入し、コンクリートの硬化後に、まずX方向の緊張材のジャッキを弛め、次いで、Y方向のジャッキを弛めるものである。デビエータが装着されていない場合には、X方向の緊張材を弛めた際に、Y方向の緊張材がコンクリート部材の定着部近傍にて強制的に曲げられるという問題がある。後で弛められる側の緊張材にデビエータを装着しておくことにより、この曲げを防止することができるというものである。
【特許文献1】特開2005−47233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のプレテンション方式によるPC部材の製造方法によれば、2方向に交差する緊張材のうち、一方の緊張材の緊張力弛緩時に他方の緊張材に曲げを生じさせることなく、双方の緊張材から緊張力を弛緩することができる。しかし、緊張材の両端部は、緊張アバット(ジャッキ)と反力アバットの双方に固定されており、PC部材から双方のアバットまでの長さ分の緊張材、すなわち、最終的に除去される緊張材のロス量は多くなってしまう。この問題は、上記特許文献1に限ったものではなく、従来のプレテンション方式によるPC部材製造時に必然的に発生している問題である。
【0006】
また、アバットに穿孔された緊張材用の貫通孔に緊張材を貫通させる作業には多くの時間と労力を要し、緊張材の本数が多くなるにつれてこの問題は一層深刻なものとなり、結果として製造コストの高騰にも繋がる。さらには、アバットに緊張材を直接設置することにより、設置時の様々な誤差などに起因する導入緊張力のロスの発生も依然として残っている。
【0007】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、PC部材を製造するに際し、PC用鋼材のロス量を低減することができ、導入緊張力のロスを低減することができ、さらには、PC用鋼材をアバット等に設置する際に要する時間の短縮と労力の削減を図ることのできる接続具と、該接続具を備えたPC部材の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による接続具は、2本のPC用鋼材を接続する接続具であって、前記接続具は、一方のPC用鋼材が挿入される第1の開口と、該第1の開口に連通する中空部と、他方のPC用鋼材が挿入される第2の開口と、該第2の開口に連通する凹溝と、を備えた本体部材と、前記中空部に設けられた付勢部材と、該付勢部材に取付けられた有孔係止具と、を具備しており、前記一方のPC用鋼材は、該有孔係止具の孔に押圧嵌合可能となっており、前記他方のPC用鋼材は前記凹溝に取付け可能となっていることを特徴とする。
【0009】
ここで、PC用鋼材は、任意仕様のPC鋼線、PC鋼棒、PC鋼より線のほか、軟鋼や高張力鋼からなる棒鋼、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ロッドなどを含んでおり、2本のPC用鋼材の組合せとしては、2本のPC鋼線や2本のPC鋼棒、2本の高張力鋼や2本の異形棒鋼(軟鋼)などのほか、PC鋼線とPC鋼棒の組合せ、PC鋼線と高張力鋼の組合せ、PC鋼棒と異形棒鋼(軟鋼)の組合せなど、仕様の異なる任意のPC用鋼材の組合せが適用できる。
【0010】
接続具を構成する本体部材は、比較的長尺な棒状の外郭形状を有している形態や、その他、任意の外郭形状の形態などがある。この本体部材は、鋼製素材、高強度プラスチック材など、少なくとも、導入緊張力に抗し得る引張強度を備えた任意の材料にて成形される。本発明の接続具は、構造物の緊張材として使用される2本のPC用鋼材を繋ぐカップラーとして適用されるほかに、後述するPC部材の製造装置にも適用される。
【0011】
接続具には、2本のPC用鋼材が挿入可能な2つの開口が形成されている。その一方の開口(第1の開口)は、本体部材内部に形成された中空部と連通しており、他方の開口(第2の開口)は、本体部材内部の所定深さまで穿孔された凹溝と連通している。この中空部には、例えば、圧縮ばね等からなる付勢部材が取付けられており、この付勢部材の端部には、任意形状の有孔係止具が取付けられている。
【0012】
有孔係止具に形成された孔は、該係止具の一端側から他端側へ貫通する貫通孔であってもよいし、係止具内部の途中まで穿孔された形態の孔であってもよい。この孔の内径は、挿入されるPC用鋼材端部の外径と同径、ないしはPC用鋼材の外径よりも若干小径に成形できる。尤も、PC用鋼材の端部が押圧嵌合され、該PC用鋼材に緊張力が導入された際に、有孔係止具とPC用鋼材とが導入緊張力にて分離しない程度の摩擦強度が得られるように双方の内径と外径が決定される。
【0013】
一方のPC用鋼材の端部を有孔係止具の孔に押圧嵌合させた際に、有孔係止具は、付勢部材の付勢に抗して付勢部材を圧縮させる。PC用鋼材が孔に嵌合された後に、押圧力を解放すると、付勢部材によって有孔係止具が第1の開口側へ付勢され、その一端が中空部の端部に当接係合することにより、一方のPC用鋼材が接続具に固定される。
【0014】
一方、他方のPC用鋼材は、第2の開口から凹溝内に挿入され、接続具に固定されることとなる。このPC用鋼材と凹溝との固定は、嵌め合い構造、螺合構造等、適宜の固定態様を選定することができ、既述するように、少なくとも導入緊張力に抗し得る接続強度を備えた固定態様が必要とされる。
【0015】
本発明の接続具によれば、任意仕様の2本のPC用鋼材を容易に接続することができ、また、接続部の十分な強度を確保することができる。
【0016】
また、本発明による接続具の他の実施の形態において、前記中空部の一部は、前記第1の開口に向けて縮径するテーパー部を具備しており、前記有孔係止具は、該テーパー部に嵌合可能な楔体からなり、前記凹溝の内壁面には、前記他方のPC用鋼材の端部と螺合可能なねじ切りが形成されていることを特徴とする。
【0017】
有孔係止具の外形をその一方側から他方側へ縮径した楔形状とし、この楔形状に一致する内壁形状のテーパー部を中空部の一部に形成しておき、上記の押圧力解放時に、このテーパー部に有孔係止具が嵌合するようにしておくことで、有孔係止具と接続具の本体部材との強固な係合を実現できる。なお、楔体は、全体が楔形状に一体成形されている形態や、2ないし3以上の分割体の端部同士を当接させることにより、全体として楔形状を形成する形態、さらには、楔体の拡径部に2ないし3以上の切り欠きが形成されている形態などがある。特に、複数の分割体から楔体が形成されている場合には、一方のPC用鋼材を楔体の孔に押圧嵌合させる際に、嵌め合い状態のテーパー部から楔体が解放されることで分割体同士が分離し、分割体内の孔が拡径することでPC用鋼材を該孔に挿入し易くなる。PC用鋼材を孔に挿入後、押圧力を解放することで、分離した分割体は付勢部材によって付勢され、一体の楔体となってテーパー部に嵌め込まれ、孔の内壁にてPC用鋼材が圧縮された状態で楔体とPC用鋼材とが強固に接続される。
【0018】
一方、凹溝には他方のPC用鋼材の端部のねじ切り部分と螺合するねじ切りを形成しておき、PC用鋼材を螺合させて凹溝に接続固定することにより、該他方のPC用鋼材と接続具との簡易な接続を実現でき、強固な接続強度を得ることができる。
【0019】
また、本発明によるPC部材の製造装置は、プレテンション方式によってプレストレスが導入される第1のPC用鋼材を備えたPC部材を製造するPC部材の製造装置であって、緊張側アバットと、緊張力導入時の反力を受ける反力受け側アバットと、からなるアバットユニットと、双方のアバットに固定された所定本数の第2のPC用鋼材と、第2のPC用鋼材の一端が接続される前記接続具と、を少なくとも具備しており、第2のPC用鋼材の一端は該接続具の前記凹溝に取付けられており、反力受け側アバットの接続具と、該接続具に対応する緊張側アバットの接続具の双方の有孔係止具の孔に、前記第1のPC用鋼材の両端部がそれぞれ嵌合され、所定本数の第1のPC用鋼材がアバットユニット間に張設されるように構成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明のPC部材の製造装置は、プレテンション方式によってPC部材を製造する際に使用される装置に関するものであり、コンクリート内部に埋設されるPC用鋼材としては、PC鋼線やPC鋼棒、PC鋼より線などが適用される。
【0021】
製造装置は、緊張ジャッキ等を備えた緊張側アバットと、該アバットと所定の間隔を置いて載置され、緊張力導入時の反力を受ける反力受け側アバットとから構成される。さらに、双方のアバットには、所定本数のPC鋼棒等からなるPC用鋼材(第2のPC用鋼材)が他方のアバットのPC用鋼材(第2のPC用鋼材)と対応する形態で取付けられている。このPC用鋼材のうち、他方のアバット側となる端部には、例えばねじ切りが形成されており、各PC用鋼材の端部が、接続具の凹溝(その内壁にもねじ切りが形成されている)と螺合することにより、PC用鋼材と接続具とを接続することができる。
【0022】
対向する双方のアバットに取付けられた接続具の間には、所定形状のPC部材製造用の型枠が設けられており、型枠の側枠に形成された貫通孔を介して、双方のアバットの接続具にPC鋼線等からなるPC用鋼材(第1のPC用鋼材)の両端部が取付けられ、アバット間に所定本数のPC用鋼材が掛け渡される。
【0023】
第1のPC用鋼材の端部を接続具に取付ける際には、一方の端部を一方のアバットの接続具の有孔係止具の孔に押圧嵌合させた後に、他方のアバットの接続具の有孔係止具と第1のPC用鋼材の他端とを同様に押圧嵌合させる。
【0024】
アバット間に所定本数の第1のPC用鋼材が掛け渡され、各PC用鋼材に所定の緊張力を導入することでPC用鋼材が張設され、型枠内にフレッシュコンクリートが充填される。コンクリートが所定の強度を発現するまで待ち、その後にジャッキによる緊張力を弛緩し、各PC鋼線の端部を接続具から取り外すことにより、所望形状および寸法のPC部材(PC桁、PC柱など)を製造することができる。
【0025】
なお、有孔係止具から第1のPC用鋼材の端部を取り外す方法としては、例えば、第1の開口から任意形状の取り外し治具を挿入し、例えば複数の分割体からなる楔形状の有孔係止具を付勢部材に抗して押込み、分割体を中空部内で分離させることによってその内部の第1のPC用鋼材を解放させることにより、容易に第1のPC用鋼材と接続具との取り外しが可能となる。
【0026】
本発明のPC部材の製造装置によれば、緊張側アバットと反力受け側アバットの双方に第2のPC用鋼材を介して接続具を取付け、PC部材に内設される第1のPC用鋼材の両端部を対向する接続具に取付けることにより、PC用鋼材(第1のPC用鋼材)のロス量を格段に低減することができる。
【0027】
また、接続具を構成する有孔係止具の孔にPC用鋼材の端部を押圧するだけでPC用鋼材をアバット間に掛け渡すことができるため、PC用鋼材の配設作業効率を従来の装置に比して格段に高めることができる。また、PC用鋼材を接続具に強固に接続できるため、アバットに設置されたPC用鋼材(第1のPC用鋼材)端部のセットロス等による導入緊張力のロスの低減を確実に防止することができる。
【0028】
また、本発明によるPC部材の製造装置の他の実施の形態は、2組の前記アバットユニットからなり、双方の緊張側アバットと反力受け側アバットとを繋ぐ軸線が互いに交差するように2組のアバットユニットが配設されており、交差する2方向にプレストレスが導入されるPC部材を製造可能であることを特徴とする。
【0029】
本発明の製造装置は、特に、スラブ等の面的な広がりのあるPC部材を製造する際に適用される装置に関するものである。ここで、2組のアバットユニットを繋ぐ2本の軸線の交差態様は、直交する態様のほか、任意の交角にて交差する態様があり、それぞれのPC用鋼材の交差態様に応じて、平面視が、正方形や矩形、菱形、平行四辺形、台形等の板状のPC部材を製造することができる。
【0030】
本発明のPC部材の製造装置によれば、既述する装置の効果(PC鋼線等のロス量の低減、導入緊張力のロスの低減など)に加えて、面的に広がりのある任意形状の板状PC部材を効率的に製造することが可能となる。
【0031】
さらに、本発明によるPC部材の製造方法は、プレテンション方式によってプレストレスが導入されるPC用鋼材を備えたPC部材を製造するPC部材の製造方法であって、前記PC部材の製造装置を準備する第1の工程と、双方のアバットに設置された対向する接続具に前記第1のPC用鋼材の両端部を接続してアバット間に所定本数の第1のPC用鋼材を掛け渡し、第1のPC用鋼材に緊張力を導入する第2の工程と、アバットユニット間に設置された型枠内にコンクリートを打設し、コンクリートが所定の強度を発現した段階で緊張力を解放し、コンクリート内にプレストレスを導入する第3の工程と、を具備してなることを特徴とする。
【0032】
本発明のPC部材の製造装置を使用することにより、既述するように、アバットにPC鋼線等の第1のPC用鋼材を直接設置する必要がなく、PC用鋼材の端部を接続具の有孔係止具の孔に押圧するだけでPC用鋼材の設置が完了するため、アバット間にPC用鋼材を張設する(緊張力を導入する)までの準備に要する時間を従来の装置に比して格段に短縮することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から理解できるように、本発明の接続具と該接続具を備えたPC部材の製造装置および製造方法によれば、PC部材に内設されるPC用鋼材の端部のロス量を低減することができ、PC用鋼材への導入緊張力のロスを低減することができ、さらには、対向するアバット間に効率的にPC用鋼材を張設することができる。したがって、PC部材の製造時間を短縮することが可能となり、製造コストの削減に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の接続具の一実施の形態の縦断図を、図2は、楔体の斜視図をそれぞれ示している。図3は、接続具にPC鋼線を接続している状況を説明した図であって、図3aは、PC鋼線を楔体の孔に押圧している状況を示した図であり、図3bは、押圧力を解放した状態を示した図である。図4は、本発明のPC部材の製造装置の一実施の形態の側面図を、図5は、図4のV矢視図であって、PC部材の製造装置の平面図を、図6は、本発明のPC部材の製造装置の他の実施の形態の平面図をそれぞれ示している。図7〜図12は順に、図4,5に示すPC部材の製造装置を使用して、PC部材を製造する製造方法を説明した図であり、図13は、PC鋼線を楔体から取り外している状況を説明した図である。
【0035】
図1は、接続具の一実施の形態の縦断図を示している。この接続具1は、鋼製で比較的長尺な本体部材11から構成されており、本体部材11の両端部には、2つの開口12,14が穿孔されている。一方の開口12は、本体部材11の内部に形成された中空部13と連通しており、この中空部13のうち、開口12側の部分には、該開口12に向かって縮径しているテーパー部13aが形成されている。
【0036】
中空部13内には、圧縮ばね17が取付けられており、圧縮ばね17の一端は、中空部13の奥側端部に取付けられており、圧縮ばね17の他端は、内部に貫通孔16dを備えた楔体16に当接している。楔体16の外郭形状はテーパー部13aの内壁形状と一致しており、楔体16を介して圧縮ばね17を開口12側から押圧することにより、テーパー部13aから楔体16が取り外し可能となっている。
【0037】
一方、本体部材11の他方の開口14からは、所定深さの凹溝15が形成されており、この凹溝15の内壁面には、被挿入部材であるPC鋼材の端部のねじ切りと螺合するねじ切り15aが形成されている。
【0038】
図2は、楔体16の斜視図を示している。楔体16は、3つの分割体16a,16b,16cから構成されており、これらの分割体16a,16b,16cの端面をそれぞれ当接させることによって楔体16が形成されるようになっている。この楔体16の内部には、貫通孔16dが形成されており、この貫通孔16dにPC鋼材が挿入可能となっている。なお、楔体16を構成する各分割体は、その縮径端部にて不可分な構造となっており、拡径部分にて各分割体が分離可能な構成(楔体の一部が複数に分離された形態)であってもよい。また、貫通孔16dの孔径は、挿入されるPC鋼材の外径や該貫通孔内にPC鋼材が押圧嵌合された際の付着強度、押圧強度等を勘案して決定される。
【0039】
図3は、接続具にPC鋼線を接続している状況を説明した図である。図3aでは、接続具1の本体部材11の凹溝15(のねじ切り15a)にPC鋼棒3(のねじ切り3a)が螺合され、開口12から挿入されたPC鋼線2が中空部13内の楔体16の貫通孔16dに押圧嵌合されている状況を示している。PC鋼線2を押圧嵌合することにより(X方向)、圧縮ばね17にて付勢されながらテーパー部13a内に係止していた楔体16は、圧縮ばね17の付勢に抗して中空部13の内部に押し込まれる。楔体16が中空部13内に押し込まれることによって、テーパー部13aにて拘束されていた分割体16a,16b,16cが分離し、貫通孔16dが拡径することにより、PC鋼線2が所定長さだけ挿入される。
【0040】
PC鋼線2を挿入し、押圧力を解放した状況を図3bに示している。押圧力を解放することにより、楔体16は、圧縮ばね17によって開口12側へ付勢され(Y方向)、分離していた分割体16a,16b,16cは一体の楔体16となってテーパー部13aに嵌め込まれる。分割体16a,16b,16cが一体となることにより、PC鋼線2は貫通孔16d内で強固に嵌合され、PC鋼線2と接続具1との接続が完了する。接続具1は、一方でPC鋼棒3と螺合しており、接続具1を介したPC鋼棒3とPC鋼線2との接続構造が形成される。なお、PC鋼棒同士を接続するカップラーとして、この接続具1を使用することもできる。
【0041】
図4,5は、上記する接続具1を適用してなるPC部材の製造装置の一実施の形態を示したものであり、図4は、その側面図を、図5は、その平面図をそれぞれ示している。
【0042】
この製造装置10は、一方向に複数のPC鋼線が内設され、プレストレスが導入される長尺部材の桁などを製造するための装置である。この製造装置10は、図5に示すように、内設されるPC鋼線2,2,…と同数のジャッキ6,6,…を備えた緊張側アバット4と、該緊張側アバット4と所定の間隔を置いて配設された反力受け側アバット5と、双方のアバット間に設置された桁構築用の型枠7とから大略構成されている。この型枠7は図4に示すように、底枠72と側枠71とから構成されており、側枠71には、不図示のPC鋼線貫通孔が設けられている。
【0043】
図5に戻り、双方のアバット4,5には、所定本数で、かつ同数のPC鋼棒3,3,…が固設されており、それぞれのPC鋼棒3,3,…の一端には、上記の接続具1,1,…が取付けられている。例えば、既述するように、PC鋼棒3の取付け端にねじ切りが形成され、この端部が接続具1の凹溝15に螺合されている。
【0044】
一方、接続具1の他方の開口12には、PC鋼線2の端部が押圧挿入され、本体部材11内の楔体16と嵌合接続される。両端部が、双方のアバット4,5の接続具1,1にそれぞれ取付けられることで、PC鋼線2は双方のアバット4,5間(対向する側枠71,71間)に掛け渡される。
【0045】
所定本数のPC鋼線2,2,…をアバット4,5間に掛け渡した後、ジャッキ6,6,…にてPC鋼棒3,3,…を同時緊張することにより、各PC鋼線2,2,…に緊張力が導入され、アバット間にPC鋼線が張設される。
【0046】
一方、図6は、2方向にプレストレスが導入される平板を成形する際に使用される製造装置10Aを平面的に示した図である。
【0047】
緊張側アバット4には、2本のジャッキ6a,6aが設けられており、このジャッキ6a,6aに緊張側梁部材4aが取付けられている。緊張側梁部材4aには所定本数のPC鋼棒3,3,…が固設されており、各PC鋼棒3,3,…の端部には、接続具1a,1a,…が螺合接続されている。一方、反力受け側アバット5にも、同様にPC鋼棒3,3,…が固設され、その端部に接続具1a,1a,…が接続されている。対応する接続具1a,1a間に長手方向のPC鋼線2aが掛け渡される。
【0048】
一方、短手方向においても、緊張側アバット4と反力受け側アバット5の双方に所定本数のPC鋼棒3,3,…が取付けられ、その先端に接続具1b,1b,…が取付けられ、対応する接続具1b,1b間に短手方向のPC鋼線2bが掛け渡される。なお、短手方向の緊張ジャッキの図示は省略している。
【0049】
長手方向と短手方向の双方のPC鋼線2a,2a,…,2b,2b,…に緊張力を導入することにより、2方向にPC鋼線を張設することができる。図示する実施の形態では、長手方向に複数の平板状のPC部材A,A,…が同時に製造される。
【0050】
なお、図示するPC部材の実施の形態では、平板内に内設される2方向のPC鋼線が直交する形態であるが、PC鋼線の交差態様は、直交以外の任意の交角を選定でき、平面視が菱形や平行四辺形、台形など、任意の形状のPC部材を製造することも可能である。
【0051】
上記する製造装置10,10Aによれば、対向するアバット4,5に、PC部材を構成するPC鋼線が直接固定される必要がないため、最終的に切除されるPC鋼線のロス量を大幅に低減することが可能となる。また、接続具にPC鋼線が強固に接続されるため、従来の製造装置に比して導入緊張力のロスを格段に低減することができる。
【0052】
次に、図7〜図12に基づいて上記する製造装置10を使用してなるPC部材の製造方法を説明する。
【0053】
まず、図7に示すように、製造装置10を準備する。具体的には、緊張側アバット4と反力受け側アバット5を所定の間隔を置いて配設し、双方のアバット4,5に所定本数のPC鋼棒3,3,…を取付け、各PC鋼棒3,3,…に接続具1,1,…を螺合接続させる。また、双方のアバット4,5間には、PC鋼線貫通用の孔が穿孔された側枠71と底枠72とからなる型枠7を設置する。
【0054】
次いで、図8に示すように、反力受け側アバット5のPC鋼棒3に取付けられた接続具1にPC鋼線2の一端を押圧嵌合させ、該PC鋼線2を側枠71の孔に通し、PC鋼線2の他端を側枠71の貫通孔に通し(X方向)、緊張側アバット4のPC鋼棒3に取付けられた接続具1の開口12を介して該接続具1に押圧嵌合させる。
【0055】
次いで、図9に示すように、PC鋼棒3をジャッキ6にて所定の緊張力にて緊張し(Y方向)、PC鋼線2を張設する。
【0056】
すべてのPC鋼線2に所定の緊張力を導入後、図10に示すように、型枠7内にフレッシュコンクリート9を打設し、所定の強度発現を待つ。
【0057】
コンクリートが所定の強度を発現したら、図11に示すように、側枠を脱型し、PC鋼棒3およびPC鋼線2の緊張力を解放して(Z方向)、コンクリート9内にプレストレスを導入する。
【0058】
プレストレス導入後、図12に示すように、PC鋼線2の両端部を接続具1,1から取り外し、プレストレスが導入されたPC部材Aを底枠72から取り外し(W方向)、PC部材Aの製造が完了する。なお、PC鋼線2を接続具1から取り外す際には、図13に示すように、適宜の取り外し用治具aを開口12に挿入し(X方向)、楔体16を押込むことによって楔体16とPC鋼線2との噛み合いを解除することにより、容易にPC鋼線2を取り外すことができる(Y方向)。
【0059】
本発明の製造装置10を使用したPC部材の製造方法によれば、PC部材内に内設されるPC鋼線を接続具の開口に押圧挿入するだけでPC鋼線を接続具に取付けることができるため、PC鋼線をアバット間に掛け渡す際の作業効率が格段に向上する。作業効率の向上によってPC部材の製造時間を大幅に短縮することができ、その製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の接続具の一実施の形態の縦断図。
【図2】楔体の斜視図。
【図3】接続具にPC鋼線を接続している状況を説明した図であって、(a)は、PC鋼線を楔体の孔に押圧している状況を示した図であり、(b)は、押圧力を解放した状態を示した図。
【図4】本発明のPC部材の製造装置の一実施の形態の側面図。
【図5】図4のV矢視図であって、PC部材の製造装置の平面図。
【図6】本発明のPC部材の製造装置の他の実施の形態の平面図。
【図7】図4,5に示すPC部材の製造装置を使用して、PC部材を製造する製造方法を説明した図。
【図8】図7に続いて、製造方法を説明した図。
【図9】図8に続いて、製造方法を説明した図。
【図10】図9に続いて、製造方法を説明した図。
【図11】図10に続いて、製造方法を説明した図。
【図12】図11に続いて、製造方法を説明した図。
【図13】PC鋼線を楔体から取り外している状況を説明した図。
【符号の説明】
【0062】
1,1a,1b…接続具、11…本体部材、12…開口、13…中空部、13a…テーパー部、14…開口、15…凹溝、15a…ねじ切り、16…楔体(有孔係止具)、16a,16b,16c…分割体、16d…貫通孔、17…圧縮ばね(付勢部材)、2,2a,2b…PC鋼線、3…PC鋼棒、3a…ねじ切り、4…緊張側アバット、4a…緊張側梁部材、5…反力受け側アバット、6,6a…ジャッキ、7…型枠、8…PC部材、9…コンクリート、10,10A…製造装置、A…PC部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のPC用鋼材を接続する接続具であって、
前記接続具は、一方のPC用鋼材が挿入される第1の開口と、該第1の開口に連通する中空部と、他方のPC用鋼材が挿入される第2の開口と、該第2の開口に連通する凹溝と、を備えた本体部材と、前記中空部に設けられた付勢部材と、該付勢部材に取付けられた有孔係止具と、を具備しており、前記一方のPC用鋼材は、該有孔係止具の孔に押圧嵌合可能となっており、前記他方のPC用鋼材は前記凹溝に取付け可能となっていることを特徴とする接続具。
【請求項2】
前記中空部の一部は、前記第1の開口に向けて縮径するテーパー部を具備しており、前記有孔係止具は、該テーパー部に嵌合可能な楔体からなり、前記凹溝の内壁面には、前記他方のPC用鋼材の端部と螺合可能なねじ切りが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接続具。
【請求項3】
プレテンション方式によってプレストレスが導入される第1のPC用鋼材を備えたPC部材を製造するPC部材の製造装置であって、
緊張側アバットと、緊張力導入時の反力を受ける反力受け側アバットと、からなるアバットユニットと、双方のアバットに固定された所定本数の第2のPC用鋼材と、第2のPC用鋼材の一端が接続される請求項1または2に記載の接続具と、を少なくとも具備しており、第2のPC用鋼材の一端は該接続具の前記凹溝に取付けられており、反力受け側アバットの接続具と、該接続具に対応する緊張側アバットの接続具の双方の有孔係止具の孔に、前記第1のPC用鋼材の両端部がそれぞれ嵌合され、所定本数の第1のPC用鋼材がアバットユニット間に張設されるように構成されているPC部材の製造装置。
【請求項4】
2組の前記アバットユニットからなり、双方の緊張側アバットと反力受け側アバットとを繋ぐ軸線が互いに交差するように2組のアバットユニットが配設されており、交差する2方向にプレストレスが導入されるPC部材を製造可能である請求項3に記載のPC部材の製造装置。
【請求項5】
プレテンション方式によってプレストレスが導入されるPC用鋼材を備えたPC部材を製造するPC部材の製造方法であって、
請求項3または4に記載のPC部材の製造装置を準備する第1の工程と、双方のアバットに設置された対向する接続具に前記第1のPC用鋼材の両端部を接続してアバット間に所定本数の第1のPC用鋼材を掛け渡し、第1のPC用鋼材に緊張力を導入する第2の工程と、アバットユニット間に設置された型枠内にコンクリートを打設し、コンクリートが所定の強度を発現した段階で緊張力を解放し、コンクリート内にプレストレスを導入する第3の工程と、を具備してなるPC部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−216503(P2007−216503A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39386(P2006−39386)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】