接続部品用導電材料及びその製造方法
【課題】摩擦係数が低く(低い挿入力)、電気的接続の信頼性(低い接触抵抗)を維持でき、同時にはんだ付け性を付与できる接続部品用導電材料を得る。
【解決手段】Cu板条からなる母材3の粗面化した表面に、平均の厚さが0〜3.0μmのNi被覆層4と、平均の厚さが0〜1.0μmのCu被覆層5と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層6と、Sn被覆層7がこの順に形成された接続部品用導電材料1。材料1の表面1bに対する垂直断面1aにおいて、Sn被覆層7の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下、最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μm、材料1の最表点1AとCu−Sn合金被覆層6の最表点6Bとの高度差[y]が0.2μm以下である。Sn被覆層7の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。
【解決手段】Cu板条からなる母材3の粗面化した表面に、平均の厚さが0〜3.0μmのNi被覆層4と、平均の厚さが0〜1.0μmのCu被覆層5と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層6と、Sn被覆層7がこの順に形成された接続部品用導電材料1。材料1の表面1bに対する垂直断面1aにおいて、Sn被覆層7の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下、最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μm、材料1の最表点1AとCu−Sn合金被覆層6の最表点6Bとの高度差[y]が0.2μm以下である。Sn被覆層7の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車や民生機器などの電気配線に使用される端子やバスバーなどの接続部品用導電材料に関し、特に嵌合に際しての摩擦や摩耗の低減、厳しい使用環境下における電気的接続の信頼性及びはんだ付け接合信頼性の兼備が求められる接続部品用導電材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や民生機器などの電気配線の接続に使用される端子やバスバーなどの接続部品用導電材料には、低レベルの信号電圧及び電流に対して高い電気的接続の信頼性が求められる重要な電気回路の場合などを除き、Snめっき(はんだめっき等のSn合金めっきを含む)を施したCu又はCu合金が用いられている。SnめっきはAuめっきや他の表面処理に比べて低コストであることなどの理由により多用されているが、その中でも、近年の環境負荷物質規制への対応からPbを含まないSnめっき、特にウィスカの発生による回路短絡障害の報告例がほとんどないリフローSnめっきや溶融Snめっきが主流となってきている。
【0003】
近年のエレクトロニクスの進展は目覚しく、例えば自動車においては安全性、環境性、快適性の追求から高度電装化が急速に進行している。これに伴い、回路数や重量などが増加して消費スペースや消費エネルギーなどが増加してしまうため、端子やバスバーなどの接続部品は、多極化、小型軽量化、及びエンジンルーム内への搭載などを行っても、接続部品としての性能を満足し得るような、接続部品用導電材料が求められている。
【0004】
接続部品用導電材料にSnめっきを施すおもな目的は、電気接点部や接合部において低い接触抵抗を得るとともに、表面に耐食性を付与し、接合をはんだ付けで行う接続部品用導電材料においてはそのはんだ付け性を得ることである。Snめっきは非常に軟質な導電性皮膜であり、その表面酸化皮膜が破壊されやすい。そのため、例えばオス端子とメス端子の組み合せからなる嵌合型端子において、インデントやリブなどの電気接点部がめっき同士の凝着によりガスタイト接触を形成しやすく、低い接触抵抗を得るのに好適である。また、使用に際して低い接触抵抗を維持するためには、Snめっきの厚さは厚い方が好ましく、また電気接点部同士を押しつける接圧力を大きくすることも重要である。
【0005】
しかしながら、Snめっきの厚さを厚くし、また電気接点部同士を押しつける接圧力を大きくすることは、Snめっき間の接触面積や凝着力を増加させるため、端子挿入の際にSnめっきの掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗を増加させ、結果として挿入力を大きくさせてしまう。挿入力の大きい嵌合型接続部品は、組立作業の効率を低下させたり、嵌合ミスによる電気的接続の劣化の原因にもなる。このため、極数が増加しても、全体の挿入力が従来より大きくならないように、低挿入力の端子が要求されている。
【0006】
また、挿入力や挿抜時の摩耗を小さくすることを目的として電気接点部同士を押しつける接圧力を小さくした小型のSnめっき製端子などは、その後の使用に際して低い接触抵抗を維持することが困難となるばかりでなく、使用時の振動や熱膨張・収縮などにより電気接点部が微摺動を起こし、接触抵抗が異常増大する微摺動摩耗現象を引き起こし易くなる。微摺動摩耗現象は、電気接点部のSnめっきが微摺動により摩耗し、それにより生じたSn酸化物が微摺動の繰り返しにより電気接点部同士の間に多量に堆積することにより引き起こされると考えられている。これらのことから、挿抜回数が増加しても、さらには電気接点部のSnめっきに微摺動が生じても、低い接触抵抗を維持できるような、低挿入力で耐挿抜摩耗性および耐微摺動摩耗性に優れる端子が要求されている。
【0007】
また、自動車用の端子やバスバーなどは、自動車の省スペース化の要求から高温のエンジンルーム内への搭載が進行しており、また使用電流量の増加からジュール熱による発熱量も増加しているなどの理由から、より厳しい熱環境下で使用されるようになってきている。挿入力を低減することなどを目的としてSn被覆層を薄く形成したSnめっき製端子やバスバーなどでは、熱影響により素材や下地めっきから熱拡散するSn以外の構成元素が酸化物として表面全体に厚く形成され、それらの電気抵抗が高いことから接触抵抗が増加して電気的接続の信頼性を失うことになる。また、Snめっき製端子やバスバーなどは、Cu合金母材の種類によっては、熱拡散現象によりSnめっき剥離が生じて、電気的接続の信頼性を失う場合がある。これらのことから、厳しい熱環境下においても、低い接触抵抗を維持でき、Snめっき剥離が生じないような、低挿入力で耐熱性に優れる端子やバスバーなどが要求されている。
【0008】
また、自動車用の端子やバスバーなどは、排ガス雰囲気など厳しい腐食環境下においても使用される場合がある。挿入力を低減することなどを目的としてSn被覆層を薄く形成したSnめっき製端子やバスバーなどは、腐食環境下に長時間保持することにより、Sn被覆層のみならず下地被覆層や素材構成元素が腐食生成物として表面全体に厚く形成し、それらの電気抵抗が高いことから接触抵抗が増加し、電気的接続の信頼性を失うことになる。これらのことから、腐食環境下に長時間保持しておいても低い接触抵抗を維持できるような、低挿入力で耐食性に優れる端子やバスバーなどが要求されている。
【0009】
さらに、接合をはんだ付けで行う端子などは、近年の環境負荷物質規制への対応からPbを含まないはんだを用いた接合(Pbフリーはんだ接合)が進行している。Pbフリーはんだは従来のはんだ付け接合に使用されてきたSn−Pb系はんだより融点が高く、はんだ濡れ性に劣り、また端子などを溶解する能力が大きいために、従来のSnめっき製端子などでは接合信頼性を確保することが困難となる場合が生じてくる。プリント回路基板などとのはんだ付け接合信頼性を確保するためには、下地めっきを施したり、厚いSnめっきを施すことが重要であるが、他方の端子嵌合部において挿入力が高くなるため、低挿入力ではんだ付け性に優れる端子が要求されている。
【0010】
下記特許文献1〜6には、Cu又はCu合金母材の表面に、Ni下地めっき層を形成し、その上にCuめっき層とSnめっき層をこの順に形成した後、リフロー処理し、Cu−Sn合金被覆層を形成した嵌合型端子材料が記載されている。これらの記載によれば、リフロー処理により形成されたこのCu−Sn合金被覆層はNiめっきやCuめっきに比べて硬く、これが最表面に残留するSn被覆層の下地被覆層として存在することにより、端子の挿入力を低減することができる。また、表面のSn被覆層により、低い接触抵抗を維持できる。
【0011】
【特許文献1】特開2004−68026号公報
【特許文献2】特開2003−151668号公報
【特許文献3】特開2002−298963号公報
【特許文献4】特開2002−226982号公報
【特許文献5】特開平11−135226号公報
【特許文献6】特開平10−60666号公報
【0012】
Sn被覆層の下地にCu−Sn合金被覆層を形成した端子の挿入力は、表面のSn被覆層の厚さが薄くなると低下する。さらに、Cu−Sn合金被覆層を表面に形成した端子の挿入力は、一段と低下する。一方、Sn被覆層の厚さが薄くなると、例えば自動車のエンジンルームのような150℃にも達する高温雰囲気に長時間保持したような場合、端子の接触抵抗が増加するという問題がある。また、Sn被覆層の厚さが薄いと、耐食性及びはんだ付け性も低下する。加えて、Sn被覆層は微摺動摩耗現象を引き起こし易い。このように、挿入力が低く、多数回の挿抜後、高温雰囲気に長時間保持後、腐食環境下あるいは振動環境下において低い接触抵抗が維持でき、同時にはんだ付け性に優れるなどの接続部品用導電材料に求められる特性をいまだ十分なかたちで得ることができず、さらなる改良が求められている。
【0013】
一方、特許文献7には、Cu板条からなる母材の表面に、Ni被覆層(0μmを含む)、Cu被覆層(0μmを含む)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層がこの順に形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%(望ましくは、少なくとも一方向における平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mm)、平均の厚さが0.1〜3.0μm、かつCu含有量が20〜70at%であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.2〜5.0μmである接続部品用導電材料が記載されている。特許文献7の発明では、少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さ(望ましくは、少なくとも一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mm)を有する母材が用いられ、母材表面にCuめっき及びSnめっきを形成し、又はNiめっき、Cuめっき及びSnめっきを形成した後、リフロー処理が行われる。
【0014】
また特許文献8には、Cu板条からなる母材の表面に、Ni被覆層(0μmを含む)、Cu被覆層(0μmを含む)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層がこの順に形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%(望ましくは、少なくとも一方向における平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mm)、平均の厚さが0.2〜3.0μm、かつCu含有量が20〜70at%であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.2〜5.0μmであり、その材料表面は少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下である接続部品用導電材料が記載されている。特許文献8の発明では、少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.3μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さ(望ましくは、少なくとも一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mm)を有する母材が用いられ、母材表面にCuめっき及びSnめっきを形成し、又はNiめっき、Cuめっき及びSnめっきを形成した後、リフロー処理が行われる。
【0015】
特許文献7,8に記載された接続部品用導電材料は、特に嵌合型端子用として、摩擦係数を低く抑えることができるので、例えば自動車等において多極コネクタに使用した場合、オス、メス端子の嵌合時の挿入力が低く、組立作業を効率よく行うことができる。また、高温雰囲気下で長時間保持されても、あるいは腐食環境下においても電気的信頼性(低い接触抵抗)を維持できる。加えて、特許文献8においては、振動環境下においても電気的信頼性(低い接触抵抗)を維持できる。さらに、エンジンルーム等の非常に高温で使用される箇所に配置された場合においても、優れた電気的信頼性が保持できる。
【0016】
【特許文献7】特開2006−77307号公報
【特許文献8】特開2006−183068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、特許文献7,8に記載された発明をさらに発展させ、Cu板条からなる母材表面に、Ni被覆層(必要に応じて)、Cu被覆層(必要に応じて)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層を形成した接続部品用導電材料において、摩擦係数が低く(低い挿入力)、電気的接続の信頼性(低い接触抵抗)を維持するとともに、はんだ付け性を付与できる接続部品用導電材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る接続部品用導電材料は、Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが0〜3.0μm(望ましくは0.1〜3.0μm) のNi被覆層と、平均の厚さが0〜1.0μm以下のCu被覆層と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.20μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする。前記Sn被覆層は、望ましくはリフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなる。前記光沢又は半光沢Snめっき層の厚さは0.01〜0.2μmが望ましい。より望ましくは光沢Snめっきである。
なお、最表層に形成されるSnめっき層の種類によってめっき表面の反射率が変わる。言い換えれば、めっき表面の反射率によりめっき層の種類を判別できる。リフロー処理のみ行い、最表層に光沢又は半光沢Snめっき層が無い場合の反射率は70〜85%程度であるが、最表層に光沢Snめっき層が形成された場合の反射率は50〜65%程度、最表層に半光沢めっき層が形成された場合の反射率は35〜50%未満程度、最表層に無光沢めっき層が形成された場合の反射率は10〜30%程度である。最表層が無光沢めっきでは反射率が低い。従って、リフローSnめっき層と同等、あるいはこれに近い反射率をもたせるには、リフローSnめっき層の上に、光沢Snめっき層、あるいは半光沢Snめっき層を形成することが望ましく、光沢Snめっき層を形成することがより望ましい。
なお、ここに示す反射率はJIS Z 8741に従い、スガ試験機(株)製デジタル変角光沢度計(UGV−5D型)を用い、入射角45°で測定したものである。
【0019】
Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]、Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]及び材料の最表点とCu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]は、図1に説明されている。図1(a)は、図1(b)に示す材料1の断面1a(表面1bに対する垂直断面、表面1bが粗いときは母材の中立面2(板厚の中心を通る面)に対する垂直断面)の表面近傍を拡大して模式的に示すもので、母材3の表面にNi被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7が形成されている。
[D1]は、図1(a)において材料1の表面とCu−Sn合金被覆層6の間に描ける最小の内接円の直径であり、[D2]は最大の内接円の直径であり、[y]は、材料1の表面の中立面2から最も離れた箇所(材料1の最表点)1Aの高さ(中立面2からの高さ)と、Cu−Sn合金被覆層6の表面の中立面2から最も離れた箇所(Cu−Sn合金被覆層6の最表点)6Aの高さ(中立面2からの高さ)の差である。なお、[D1]が0μmであるとき、材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6の一部が露出して形成されていることを意味し、[y]が0μmであるとき、材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6の一部が露出し、かつCu−Sn合金被覆層6の最表点が材料1の最表点になっていることを意味する。Sn被覆層7の表面が平坦なとき、[D1]と[y]とは等しい。
本発明では、Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。従って、[D1]>0μm、かつ[y]>0μmである。
【0020】
Cu被覆層5は平均の厚さが0μmであってもよい。この場合、母材3の表面に、Ni被覆層4、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7がこの順に形成される。
また、Ni被覆層は平均の厚さが0μmであってもよい。この場合は、母材3の表面に、Cu被覆層、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7、又はCu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7がこの順に形成される。
なお、上記被覆層構成は、前記材料の表面に対し、ある特定の垂直断面(例えば圧延方向に垂直な断面)のみにおいて形成されていてもよいし、全ての垂直断面において形成されていてもよい。また、上記被覆層構成が形成された領域は、母材3の片面又は両面全体に及んでいてもよいし、片面又は両面の一部のみを占めているのでもよい。
【0021】
本発明において、Cu板条はCu合金板条を含む。条はコイル状に巻かれた板を意味する。
Ni被覆層、Cu被覆層及びSn被覆層は、それぞれNi、Cu及びSn金属のほか、Ni合金、Cu合金及びSn合金を含む。Cu−Sn合金被覆層は、Cu6Sn5(η相)、Cu3Sn(ε相)、Cu4Sn(δ相)などのCu−Sn二元系金属間化合物相や、それらにNi被覆層中のNiが拡散したNi−Cu−Sn三元系金属間化合物相のうち、少なくとも一種の金属間化合物相により全部又は大部分が構成されている。Cu−Sn合金被覆層中には母材構成元素やC、Oなどの不可避不純物が少量含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る接続部品用導電材料は、特に嵌合型端子用として、摩擦係数を低く抑えることができるので、例えば自動車等において多極コネクタに使用した場合、オス、メス端子の嵌合時の挿入力が低く、組立作業を効率よく行うことができる。また、Cu−Sn合金被覆層が露出した従来材に比べ、電気的接続の信頼性(低い接触抵抗)を維持するとともに、接合を鉛フリーはんだ接合で行う端子などに用いても良好なはんだ付け性を付与することができる。特にNi被覆層を含む場合、エンジンルーム等の、非常に高温で長時間使用される箇所に配置されても、腐食環境下においても、あるいは振動環境下においても電気的信頼性(低接触抵抗)を維持でき、かつ良好なはんだ付け性を維持できる。
なお、本発明に係る接続部品用導電材料を嵌合型端子として用いる場合、オス、メス端子の両方に用いることが望ましいが、オス、メス端子の一方だけに用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る接続部品用導電材料について、具体的に説明する。
(1)Ni被覆層は、母材構成元素の材料表面への拡散を抑制し、さらにCu−Sn合金被覆層の成長を抑制してSn被覆層の消耗を防止するため、高温長時間使用後も、また亜硫酸ガス腐食雰囲気下においても接触抵抗の上昇を抑制するとともに、良好なはんだ濡れ性を得るのに役立つ。しかし、Ni被覆層の平均の厚さが0.1μm未満の場合には、Ni被覆層中のピット欠陥が増加することなどにより、上記効果を充分に発揮できなくなる。ただし、Ni被覆層の平均の厚さが0.1μm未満(0μm含む)でも、本発明の効果が失われるわけではない。一方、Ni被覆層はある程度まで厚くなると上記効果が飽和し、厚くし過ぎると生産性や経済性が悪くなる。従ってNi被覆層の平均の厚さは、3.0μm以下(0μmを含む)、望ましくは0.1〜3.0μmとする。より望ましくは0.2〜2.0μmである。
Ni被覆層には、母材に含まれる成分元素等が少量混入していてもよい。また、Ni被覆層がNi合金からなる場合、Ni合金のNi以外の構成成分としては、Cu、P、Coなどが挙げられる。Cuについては40質量%以下、P、Coについては10質量%以下が望ましい。
なお、Ni被覆層を形成する場合、母材とNi被覆層の間にCu被覆層(Cu下地めっき層)を形成してもよい。Cu下地めっきは母材表面の欠陥(ピット等)や析出物等を覆ってNiめっきの付きを改善しNiめっきの信頼性を高めるためのものであり、このCu下地めっき自体、従来から行われている技術である。Cu被覆層の厚さは0.01〜1μmが望ましい。
【0024】
(2)Cu被覆層はなくてもよいが、Ni被覆層を形成した場合、Ni被覆層中のNiの材料表面への拡散及びCu−Sn合金被覆層への過度の拡散を効果的に抑制するのに役立つ。特に本発明のようにSn被覆層が部分的に薄い場合においては、高温長時間使用後も電気抵抗が非常に高いNi酸化物の材料表面への堆積を抑制するため、接触抵抗の上昇を長期間抑制するのに効果的であり、亜硫酸ガス耐食性の向上効果もある。しかし、Cu被覆層は厚くなりすぎるとCu−Sn合金被覆層の成長を抑制することが困難となり、Sn被覆層の消耗を防止する効果が減少する。また、Cu被覆層は厚くなりすぎるとCu被覆層とCu−Sn合金被覆層の間に、熱拡散や経時などによりボイドが生成し耐熱剥離性が低下するほか、生産性や経済性も悪くなる。従って、Cu被覆層の平均の厚さは1.0μm以下に規定する。より望ましくは0.5μm以下である。
Cu被覆層には、母材に含まれる成分元素等やNi被覆層のNiが少量混入していてもよい。また、Cu被覆層がCu合金からなる場合、Cn合金のCn以外の構成成分としてはSn、Zn等が挙げられる。Snの場合は50質量%未満、他の元素については5質量%未満が望ましい。
【0025】
(3)Cu−Sn合金被覆層はSn被覆層を形成するSn又はSn合金に比べて非常に硬い。従って、本発明のように、[D1]が0.2μm以下、かつ[y]が0.2μm以下である場合には、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗を抑制でき、摩擦係数を非常に低くすることができる。また、端子挿抜や振動環境下などにおける電気接点部の摺動・微摺動の際に、接圧力を硬いCu−Sn合金被覆層で受けてSn被覆層同士の接触面積を低減できるため、微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も減少する。さらに、Ni被覆層を形成した場合、Cu−Sn合金被覆層はNi被覆層中のNiの材料表面への拡散を抑制するのに役立つ。しかし、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さが0.2μm未満では、特に本発明のようにSn被覆層が部分的に薄い場合においては、高温酸化などの熱拡散による材料表面のNi酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、また耐食性も劣化することから、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。一方、3.0μmを超える場合には、生産性や経済性が悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さを0.2〜3.0μmに規定する。より望ましくは0.3〜2.0μmである。
【0026】
(4)Sn被覆層は、上記Cu−Sn合金被覆層の表面を覆い、電気的接続の信頼性(主として耐熱性及び耐食性)と良好なはんだ付け性を維持する効果を有する。
Sn被覆層の最小内接円の直径[D1](図1参照)が0.2μmを超える場合、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗が増加して摩擦係数を低くすることが困難となり、また微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も増加して接触抵抗増大を抑制することが困難となる。従って、[D1]を0.2μm以下と規定する。より望ましくは0.15μm以下である。
【0027】
(5)Sn被覆層の最大内接円の直径[D2](図1参照)が1.2μm未満の場合、熱拡散や経時などによるSn被覆層の消耗で、より早期にSn被覆層が消滅するため、耐熱性や耐食性の向上効果が低くなり、同時にSn被覆層の量が多くないため、はんだ濡れ性を確保することが困難となる。一方、[D2]が20μmを超える場合には、機械的性質に悪影響を及ぼす場合が生じ、生産性や経済性も悪くなる。従って、[D2]を1.2〜20μmと規定する。より望ましくは1.5〜10μmである。
【0028】
(6)材料の最表点とCu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y](図1参照)が0.2μmを超える場合、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗が増加して摩擦係数を低くすることが困難となり、また微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も増加して、接触抵抗増大を抑制することが困難となる。従って、[y]を0.2μm以下と規定する。より望ましくは、0.15μm以下である。
【0029】
(7)Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。この光沢又は半光沢Snめっき層により、Cu−Sn合金被覆層は必ず全面がSn被覆層により覆われ、電気的接続の信頼性とはんだ付け性が改善される。最表層に光沢又は半光沢Snめっき層を形成するのは、Cu−Sn合金層露出部に均一な厚さでSn被覆層を形成するためである。リフローSnめっきで[D1]を0.01〜0.2μmに制御しようすると、めっき前素材の凸部の形状、高さが一定ではないため、Cu−Sn合金被覆層が露出している部分や、[D1]が0.2μmを超える部分が発生する。また、リフローSnめっき層と最表面層の組織が変化することで、高温環境下での拡散が抑制され、耐熱信頼性の向上にもつながる。
光沢又は半光沢Snめっきの厚さが0.01μm未満の場合には、Cu−Sn合金層を覆ったとしてもCu−Sn合金層が一部露出している場合に比べてはんだ付け性を改善する効果は小さい。また、0.2μmを超えると、必然的に[D1]及び[y]が0.2μmを超え、端子挿抜時の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断する抵抗が発生し、摩擦係数が高くなる。従って、最表面Sn被覆層は0.01μm以上が望ましく、0.2μm以下に規定する。より望ましくは0.05〜0.2μmである。
Sn被覆層がSn合金からなる場合、Sn合金のSn以外の構成成分としては、Pb,Bi,Zn,Ag,Cuなどが挙げられる。Pbについては50質量%未満、他の元素については10質量%未満が望ましい。
【0030】
本発明に係る接続部品用導電材料は、Cu板条からなる母材の表面に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことにより製造することができる。リフロー処理により、溶融流動するSnめっき層から平滑化したSn被覆層が形成され、CuめっきとSnめっきからCu−Sn合金被覆層が形成される。場合によってCu−Sn合金被覆層の一部が表面に露出するが、続いて行われるSnめっきにより全面が均一に覆われる。Niめっき層を形成する前に、母材表面にCu下地めっき層を形成してもよい。
また、Ni被覆層を必要としない場合、Cu板条からなる母材の表面に、CuめっきとSnめっきをこの順に行い、あるいはCuめっきを行わずSnめっきのみを行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことにより製造することができる。リフロー処理により、溶融流動するSnめっき層から平滑化したSn被覆層が形成され、CuめっきとSnめっきあるいは母材とSnめっきからCu−Sn合金被覆層が形成される。場合によってCu−Sn合金被覆層の一部が表面に露出するが、続いて行われるSnめっきにより全面が均一に覆われる。
【0031】
この製造方法において、前記母材の表面粗さは、少なくとも一方向において算術平均粗さRaが0.4μm以上で、かつ全ての方向において算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さとすることが望ましい。どの方向でもRaが0.4μm未満の場合、めっき厚やリフロー条件を調整しても、請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難であり、Raが4.0μmを越えるとSnの溶融流動性を悪化させる。
望ましくは、前記一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mmであることであり、0.01mm未満では請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難な場合があり、0.5mmを越えると、特に小型端子に用いた場合に低い摩擦係数を得ることが困難となることがある。さらに望ましくは、前記一方向における最大高さRyが2.0〜20μmである。この範囲外では、請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難な場合がある。
なお、母材の表面において、前記表面粗さにして前記被覆層構成を形成する領域は、母材の片面又は両面全体に及んでいてもよいし、片面又は両面の一部のみを占めているのでもよい。
【0032】
母材の前記表面粗さ得るために母材の表面を粗化処理する方法としては、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法が挙げられる。この中で、生産性、経済性および母材表面形態の再現性に優れる方法としては、圧延や研磨が望ましい。
なお、リフロー処理前のめっきにおいて、各めっき層は、前記母材の表面粗さを反映して電着される(均一電着性が良好である)ことが望ましい。これは本発明で規定した材料の断面形態及び表面形態を制御しやすくするためである。
【0033】
リフロー処理は、Snめっき層の融点以上、600℃以下の温度で3〜30秒間行い、前記Snめっき層を溶融流動させることが望ましい。600℃を越えると溶融Sn中への拡散元素量が増加して、Snの溶融流動性を悪化させる場合がある。また、3秒未満ではSnの溶融流動が不十分となる場合があり、30秒を超える場合は溶融Sn中への拡散元素量が増加して、Snの溶融流動性を悪化させる場合がある。
【0034】
Cu−Sn合金被覆層は、リフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散して形成されるが、その際にCuめっき層が全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。Cuめっき層が全て消滅する場合などには、Niめっき層からCu−Sn合金被覆層中にNiが供給される場合がある。母材の表面にCuめっき層を形成することなくSnめっき層のみを形成する場合、Cu−Sn合金被覆層は母材中のCuとSnめっき層のSnが相互拡散して形成される。
Niめっき層の平均の厚さは0.1〜3.0μm、Cuめっき層の平均の厚さは0.1〜1.5μm、Snめっき層の平均の厚さは0.4〜8.0μmが望ましい。Niめっき層の平均厚さが上記範囲を外れると、Ni被覆層の平均厚さが望ましい0.1〜3.0μmの範囲を外れる可能性が高くなる。Cuめっき層の平均の厚さが0.1μm未満ではCu−Sn合金被覆層へのNiの拡散量が多くなり過ぎ、1.5μmを越えるとCu被覆層の平均厚さが規定範囲を外れる可能性が高くなる。Snめっき層の平均の厚さが上記範囲を外れると、請求項1の規定(特にD2)を満たさない可能性が高くなる。
なお、本発明において、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層(後述するリフロー処理後のSnめっきを含む)は、それぞれNi、Cu及びSn金属のほか、Ni合金、Cu合金及びSn合金を含む。後者の場合、先にNi被覆層、Cu被覆層及びSn被覆層に関して説明した合金を用いることができる。
【0035】
本発明に係る接続部品用導電材料は、以上の工程を経たリフロー処理後の材料の表面に、さらにSnめっき層を形成することにより製造する。このSnめっき層は請求項1等に規定するSn被覆層に含まれる。従って、このSnめっき層は0.2μm以下の厚さで均一に形成し、[D1]及び[y]が0.2μmを越えないようにする必要がある。
リフロー処理後のSnめっき層の形成に、無電解めっきや蒸着なども用い得るが、生産性、経済性に優れる方法としては電気めっきが望ましい。電気Snめっきには、無光沢めっき、半光沢めっき、光沢めっきなどの種類があり、いずれの方法でも電気的接続の信頼性とはんだ付け性改善効果は得られるが、無光沢めっきではめっき皮膜の均一電着性が劣るため、外観ムラ発生や、光沢の低下が起こる。従って、外観、光沢などを考慮すると、半光沢めっき又は光沢めっきが望ましく、より望ましくは光沢めっきである。
【0036】
銅板条に対するリフロー処理後のSnめっきは、リフロー処理までの製造ラインと連続のラインで行っても、別の製造ラインで行っても構わないが、生産性、経済性を考慮すると、連続の製造ラインで行うことが望ましい。リフロー処理から続いて行われるSnめっきまでの間に、リフロー処理後の表面の酸化(特に表面に露出しているCu−Sn合金層の酸化)が進み、Snめっき前にフッ化水素アンモニウム水溶液浸漬処理を行わないと、Snめっきが均一に電着しなくなることがあり(半光沢Snめっきにおいて顕著)、品質の面からもリフロー処理後連続のラインでSnめっきを行うことが望ましい。フッ化水素アンモニウム水溶液は濃度を0.5〜10質量%に調整することが望ましく、前記浸漬処理は20〜50℃の温度で20秒以下の時間行うことが望ましい。濃度が0.5質量%未満では表面酸化皮膜の除去が困難となる場合が生じ、10質量%を越える場合はSn被覆層を溶解させる。温度範囲が上記範囲外だと表面酸化膜の除去が困難となり、浸漬時間が20秒を越えるとSn被覆層を溶解させる。
なお、一般的に、半光沢Snめっきは室温で行うことができ、めっき浴を冷却又は加温する必要はないが、光沢Snめっきは15℃前後で行う場合が多く、めっき浴を冷却する必要がある。リフロー処理前のSnめっきは半光沢Snめっきが行われるから、リフロー処理後のSnめっきが半光沢Snめっきであれば、めっき浴タンクを共通化することができ、かつめっき浴の冷却設備も不要である利点がある。一方、リフロー処理後のSnめっきが光沢Snめっきであれば、特に連続製造ラインで製造する場合等、フッ化水素アンモニウム水溶液への浸漬処理を省略できる利点がある。
【0037】
本発明に係る接続部品用導電材料の断面構造は図1に示されているが、製造方法を反映させた模式図を図2〜図4に例示する。いうまでもなく、これらの断面形状以外にも種々の形態をとり得る。
図2は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図2(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Ni被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階では、Cu−Sn合金被覆層6の一部が材料表面に露出し、[D1]と[y]がいずれも0となっている。図2(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。[D1]と[y]は等しく、いずれもゼロではない。
【0038】
図3は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図3(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Ni被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階で、すでにCu−Sn合金被覆層6の材料表面への露出はなく、[D1]と[y]がいずれも0ではない。図3(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。
【0039】
図4は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図4(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Cuめっき層が消滅し、Ni被覆層4、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階では、Cu−Sn合金被覆層6の一部が材料表面に露出し、[D1]は0であるが、[y]は0ではない。図4(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。[D1]と[y]は異なり、いずれもゼロではない。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により、要点を絞り、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[試験材の作製]
作製した試験材No.1〜35の製造工程概要を、表1及び表2に示す。
母材には、Cu中に1.8質量%のNi、0.40質量%のSi、0.10質量%のSn、1.1質量%のZnを含有するCu合金板を用い、圧延の際にショットブラストなどにより粗面化したワークロールを使用して表面粗化処理を行い(あるいは行わずに)、ビッカース硬さ200、厚さ0.25mmで、各々の表面粗さを有する母材に仕上げた。なお、母材の表面粗さは、試験材No.1〜26,28,29は、Ra、Sm及びRyが、発明を実施するための最良の形態の欄に望ましいと記載された範囲内であり、試験材No.27は、Ra及びSmが望ましいと記載された範囲内であるが、Ryが下限値未満であり、従来材の試験材No.30〜35は、Ra及びRyが望ましいと記載された下限値未満である。
続いて、試験材No.1〜18,23〜35の母材の表面に、Niめっきを施し(あるいは施さず)、Cuめっきを施し(あるいは施さず)、次いで半光沢Snめっきを施し、リフロー処理(加熱炉にてSnめっき層を溶融させた後水冷)を行い、表面の水分を一旦乾燥させた後、フッ化水素アンモニウム水溶液浸漬処理を行い(あるいは行わずに)、半光沢Snめっきを再度施した(あるいは施さなかった)。試験材No.19〜22は前記リフロー処理後表面の水分を乾燥させずに光沢Snめっきを施した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
作製した試験材のNi被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さ、材料の垂直断面における被覆層形態([D1]、[D2]、[y])を、下記要領で測定した。その結果を、表3及び表4に示す。また、参考として材料表面における被覆層形態(下記[D3]、[D4])を、下記要領で測定し、あわせて表3及び表4に示した。
【0045】
[Ni被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さ測定方法]
ミクロトーム法にて加工した試験材の断面に、必要に応じてアルゴンイオンエッチングを行い、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、Ni被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さを各々算出した。なお、測定断面は、表面粗化処理の際に行った圧延方向に直角な方向の垂直断面とした。
【0046】
[材料の表面に対する垂直断面の形態測定方法]
ミクロトーム法にて加工した試験材の断面に、必要に応じてアルゴンイオンエッチングを行い、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、[D1]、[D2]及び[y]を各々算出した。なお、測定断面は、表面粗化処理の際に行った圧延方向に直角な方向の垂直断面である。
図5〜7に試験材No.1の断面のSEM組成像を示す。図5内の左側の四角形の部分を拡大したものが図6、右側の四角形の部分を拡大したものが図7であり、3は母材、4はNi被覆層、5はCu被覆層、6はCu−Sn合金被覆層、7はSn被覆層(リフローSnめっき層7a)を示す。図5において、白く見える部分がSn被覆層7及びCu−Sn合金被覆層6である。リフロー処理により材料表面はほぼ平坦であり、母材3の表面の凹凸に従ってSn被覆層7の厚さが変化している。図6において、Ni被覆層4の表面に少量のCu被覆層5が残留し、灰色がかったCu−Sn合金被覆層6を構成する1〜数μm程度の径の粒子の湾曲した先端が白く見えるSn被覆層7の表面に露出している。図7において、Ni被覆層4の表面に少量のCu被覆層5が残留し、灰色がかったCu−Sn合金被覆層6の粒子の上全体を白く見えるSn被覆層7が覆っている。
図8に、試験材No.1の表面をEDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)により観察して得られたSEM組成像を示す。図中、白い部分がSn被覆層7(リフローSnめっき層7a)、黒い部分がSn被覆層7の表面に露出したCu−Sn合金被覆層6である。
なお、本発明例(試験材No.2等)の場合、ちょうど試験材No.1の表面にさらにSnめっきが行われたようなものであり、Sn被覆層がさらに半光沢Snめっき層を含むため、Cu−Sn合金被覆層は材料表面に露出していない(図2参照)。
【0047】
[材料の表面の形態測定方法]
試験材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、Cu−Sn合金被覆層の最大内接円の直径[D3]及びSn被覆層の最大内接円直径[D4]を各々算出した。[D3]及び[D4]は材料表面におけるCu−Sn合金被覆層の露出形態を示す。
なお、材料1の垂直断面1a(図1(b)参照)において材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6が一部露出しているとき(すなわち[D1]が0μmのとき)、材料1の表面において[D3]及び[D4]を測定することができる。[D3]及び[D4]は図9に説明されている。図9は、材料1の表面を模式的に示すもので、該表面はCu−Sn合金被覆層6とSn被覆層7により構成されている。[D3]は、図9においてSn被覆層7に囲まれた最大の内接円の直径であり、[D4]は、Cu−Sn合金被覆層6に囲まれた最大の内接円の直径である。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
また、得られた試験材について、摩擦係数評価試験、微摺動摩耗試験時の接触抵抗評価試験、高温放置試験後の接触抵抗評価試験、耐熱剥離試験、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗評価試験及び鉛フリーはんだ濡れ試験及び鉛フリーはんだ濡れ試験を、下記の要領で行った。その結果を、表5及び表6に示す。
【0051】
[摩擦係数評価試験]
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図10に示すような装置を用いて評価した。まず、各々の試験材No.1〜35から切り出した板材のオス試験片11を水平な台12に固定し、その上に試験材No.35から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片13をおいて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片13に3.0Nの荷重(錘14)をかけてオス試験片11を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、オス試験片11を水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。なお、15はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/3.0 …(1)
【0052】
[微摺動摩耗試験時の接触抵抗評価試験]
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図11に示すような摺動試験機(株式会社山崎精機研究所;CRS−B1050CHO)を用いて評価した。まず、試験材No.35から切り出した板材のオス試験片16を水平な台17に固定し、その上に各々の試験材No.1〜35から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片18をおいて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片18に2.0Nの荷重(錘19)をかけてオス試験片16を押さえ、オス試験片16とメス試験片18の間に定電流を印加し、ステッピングモータ20を用いてオス試験片16を水平方向に摺動させ(摺動距離を50μm、摺動周波数を1.0Hzとした)、摺動回数1000回までの最大接触抵抗を四端子法により、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した。なお、矢印は摺動方向である。
【0053】
[高温放置試験後の接触抵抗評価試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、大気中にて175℃×1000hrの熱処理を行った後、接触抵抗を四端子法により測定した(Auプローブを水平方向に摺動させ、荷重を3.0N、摺動距離を0.30mm、摺動速度を1.0mm/min、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した)。
[耐熱剥離試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、90°曲げ(曲げ半径を0.7mmとした)を行い、大気中にて175℃×1000hrの熱処理を行った後、曲げ戻しを行い、被覆層の剥離の有無を外観評価した。
【0054】
[亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗評価試験]
まず、各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、亜硫酸ガス濃度25ppm、温度35℃、湿度75%RH、時間96hrの亜硫酸ガス腐食試験を行った後、接触抵抗を四端子法により測定した(Auプローブを水平方向に摺動させ、荷重を3.0N、摺動距離を0.30mm、摺動速度を1.0mm/min、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した)。
【0055】
[鉛フリーはんだ濡れ試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてゼロクロスタイムと最大濡れ応力を測定した(255℃のSn−3.0Ag−0.5Cuはんだに浸漬させ、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを12mm、浸漬時間を5.0secの条件にて測定した)。また、上記はんだ浸漬後の試験片について、はんだ濡れ不良の有無を外観評価した。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
表3及び表5に示すように、試験材No.1〜22は、被覆層構成(各被覆層厚さと[D1]、[D2],[y])に関して本発明の規定を満たし、摩擦係数が低く、微摺動摩耗試験時の接触抵抗、高温放置試験後の接触抵抗、耐熱剥離試験後の外観、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗、鉛フリーはんだ濡れ性のいずれについても、優れた特性を示した。なお、試験材No.15〜18は、Ni被覆層の平均厚さが0又は0.1μm未満と比較的薄いため、試験材No.1〜22の中では相対的に高温放置後及び亜硫酸ガス腐食後の接触抵抗が高いが、Ni被覆層の厚さが0の従来材である試験材No.30,32,35と比較すると改善している。
試験材No.1〜22のうち、試験材No.2,4,6,8,16,17,19〜22は本発明例であり、Cu−Sn合金層が表面に露出したものに比べると、相対的にはんだ濡れ性が優れる。
【0059】
試験材No.23〜29は、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層のいずれかの平均の厚さが本発明の規定を満たさず、又は「D1」、[D2]及び[y]のいずれかが本発明の規定を満たさず、それに応じていずれか1つ又は複数の特性が劣る。
なお、試験材No.25は、Niめっき後Cuめっきを施さずに作製した試験材であり、Cu−Sn合金被覆層でなくNi−Sn合金被覆層が形成されたため、高温放置試験後の接触抵抗、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗が高い。
【0060】
試験材No.30〜35は、母材の表面粗化処理を行わずに作製した試験材であり、本発明の規定のいずれか1又は2以上を満たさず、そのため、いずれか1又は2以上の特性が劣る。
なお、試験材No.30はNiめっきが施されず、長時間のリフロー処理でSn被覆層が全て消滅した試験材であり、試験材No.31は長時間のリフロー処理でSn被覆層の大部分が消滅した試験材であり、試験材No.32はNiめっき及びCuめっきが施されず、試験材No.35はNiめっきが施されていない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】材料の表面に対する垂直断面に表れる被覆層構造を模式的に示す図である。
【図2】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図3】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図4】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図5】試験材No.1について、材料の表面に対する垂直断面に表れる被覆層構造を示すSEM組成像である。
【図6】その一部(左側の四角形で囲まれた部分)を拡大したSEM組成像である。
【図7】その一部(右側の四角形で囲まれた部分)を拡大したSEM組成像である。
【図8】試験材No.1について、材料の表面に表れる被覆層構造を示すSEM組成像である。
【図9】材料の表面に表れる被覆層構造を模式的に示す図である。
【図10】摩擦係数測定治具の概念図である。
【図11】微摺動摩耗測定治具の概念図である。
【符号の説明】
【0062】
3 母材
4 Ni被覆層
5 Cu被覆層
6 Cu−Sn被覆層
7 Sn被覆層
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車や民生機器などの電気配線に使用される端子やバスバーなどの接続部品用導電材料に関し、特に嵌合に際しての摩擦や摩耗の低減、厳しい使用環境下における電気的接続の信頼性及びはんだ付け接合信頼性の兼備が求められる接続部品用導電材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や民生機器などの電気配線の接続に使用される端子やバスバーなどの接続部品用導電材料には、低レベルの信号電圧及び電流に対して高い電気的接続の信頼性が求められる重要な電気回路の場合などを除き、Snめっき(はんだめっき等のSn合金めっきを含む)を施したCu又はCu合金が用いられている。SnめっきはAuめっきや他の表面処理に比べて低コストであることなどの理由により多用されているが、その中でも、近年の環境負荷物質規制への対応からPbを含まないSnめっき、特にウィスカの発生による回路短絡障害の報告例がほとんどないリフローSnめっきや溶融Snめっきが主流となってきている。
【0003】
近年のエレクトロニクスの進展は目覚しく、例えば自動車においては安全性、環境性、快適性の追求から高度電装化が急速に進行している。これに伴い、回路数や重量などが増加して消費スペースや消費エネルギーなどが増加してしまうため、端子やバスバーなどの接続部品は、多極化、小型軽量化、及びエンジンルーム内への搭載などを行っても、接続部品としての性能を満足し得るような、接続部品用導電材料が求められている。
【0004】
接続部品用導電材料にSnめっきを施すおもな目的は、電気接点部や接合部において低い接触抵抗を得るとともに、表面に耐食性を付与し、接合をはんだ付けで行う接続部品用導電材料においてはそのはんだ付け性を得ることである。Snめっきは非常に軟質な導電性皮膜であり、その表面酸化皮膜が破壊されやすい。そのため、例えばオス端子とメス端子の組み合せからなる嵌合型端子において、インデントやリブなどの電気接点部がめっき同士の凝着によりガスタイト接触を形成しやすく、低い接触抵抗を得るのに好適である。また、使用に際して低い接触抵抗を維持するためには、Snめっきの厚さは厚い方が好ましく、また電気接点部同士を押しつける接圧力を大きくすることも重要である。
【0005】
しかしながら、Snめっきの厚さを厚くし、また電気接点部同士を押しつける接圧力を大きくすることは、Snめっき間の接触面積や凝着力を増加させるため、端子挿入の際にSnめっきの掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗を増加させ、結果として挿入力を大きくさせてしまう。挿入力の大きい嵌合型接続部品は、組立作業の効率を低下させたり、嵌合ミスによる電気的接続の劣化の原因にもなる。このため、極数が増加しても、全体の挿入力が従来より大きくならないように、低挿入力の端子が要求されている。
【0006】
また、挿入力や挿抜時の摩耗を小さくすることを目的として電気接点部同士を押しつける接圧力を小さくした小型のSnめっき製端子などは、その後の使用に際して低い接触抵抗を維持することが困難となるばかりでなく、使用時の振動や熱膨張・収縮などにより電気接点部が微摺動を起こし、接触抵抗が異常増大する微摺動摩耗現象を引き起こし易くなる。微摺動摩耗現象は、電気接点部のSnめっきが微摺動により摩耗し、それにより生じたSn酸化物が微摺動の繰り返しにより電気接点部同士の間に多量に堆積することにより引き起こされると考えられている。これらのことから、挿抜回数が増加しても、さらには電気接点部のSnめっきに微摺動が生じても、低い接触抵抗を維持できるような、低挿入力で耐挿抜摩耗性および耐微摺動摩耗性に優れる端子が要求されている。
【0007】
また、自動車用の端子やバスバーなどは、自動車の省スペース化の要求から高温のエンジンルーム内への搭載が進行しており、また使用電流量の増加からジュール熱による発熱量も増加しているなどの理由から、より厳しい熱環境下で使用されるようになってきている。挿入力を低減することなどを目的としてSn被覆層を薄く形成したSnめっき製端子やバスバーなどでは、熱影響により素材や下地めっきから熱拡散するSn以外の構成元素が酸化物として表面全体に厚く形成され、それらの電気抵抗が高いことから接触抵抗が増加して電気的接続の信頼性を失うことになる。また、Snめっき製端子やバスバーなどは、Cu合金母材の種類によっては、熱拡散現象によりSnめっき剥離が生じて、電気的接続の信頼性を失う場合がある。これらのことから、厳しい熱環境下においても、低い接触抵抗を維持でき、Snめっき剥離が生じないような、低挿入力で耐熱性に優れる端子やバスバーなどが要求されている。
【0008】
また、自動車用の端子やバスバーなどは、排ガス雰囲気など厳しい腐食環境下においても使用される場合がある。挿入力を低減することなどを目的としてSn被覆層を薄く形成したSnめっき製端子やバスバーなどは、腐食環境下に長時間保持することにより、Sn被覆層のみならず下地被覆層や素材構成元素が腐食生成物として表面全体に厚く形成し、それらの電気抵抗が高いことから接触抵抗が増加し、電気的接続の信頼性を失うことになる。これらのことから、腐食環境下に長時間保持しておいても低い接触抵抗を維持できるような、低挿入力で耐食性に優れる端子やバスバーなどが要求されている。
【0009】
さらに、接合をはんだ付けで行う端子などは、近年の環境負荷物質規制への対応からPbを含まないはんだを用いた接合(Pbフリーはんだ接合)が進行している。Pbフリーはんだは従来のはんだ付け接合に使用されてきたSn−Pb系はんだより融点が高く、はんだ濡れ性に劣り、また端子などを溶解する能力が大きいために、従来のSnめっき製端子などでは接合信頼性を確保することが困難となる場合が生じてくる。プリント回路基板などとのはんだ付け接合信頼性を確保するためには、下地めっきを施したり、厚いSnめっきを施すことが重要であるが、他方の端子嵌合部において挿入力が高くなるため、低挿入力ではんだ付け性に優れる端子が要求されている。
【0010】
下記特許文献1〜6には、Cu又はCu合金母材の表面に、Ni下地めっき層を形成し、その上にCuめっき層とSnめっき層をこの順に形成した後、リフロー処理し、Cu−Sn合金被覆層を形成した嵌合型端子材料が記載されている。これらの記載によれば、リフロー処理により形成されたこのCu−Sn合金被覆層はNiめっきやCuめっきに比べて硬く、これが最表面に残留するSn被覆層の下地被覆層として存在することにより、端子の挿入力を低減することができる。また、表面のSn被覆層により、低い接触抵抗を維持できる。
【0011】
【特許文献1】特開2004−68026号公報
【特許文献2】特開2003−151668号公報
【特許文献3】特開2002−298963号公報
【特許文献4】特開2002−226982号公報
【特許文献5】特開平11−135226号公報
【特許文献6】特開平10−60666号公報
【0012】
Sn被覆層の下地にCu−Sn合金被覆層を形成した端子の挿入力は、表面のSn被覆層の厚さが薄くなると低下する。さらに、Cu−Sn合金被覆層を表面に形成した端子の挿入力は、一段と低下する。一方、Sn被覆層の厚さが薄くなると、例えば自動車のエンジンルームのような150℃にも達する高温雰囲気に長時間保持したような場合、端子の接触抵抗が増加するという問題がある。また、Sn被覆層の厚さが薄いと、耐食性及びはんだ付け性も低下する。加えて、Sn被覆層は微摺動摩耗現象を引き起こし易い。このように、挿入力が低く、多数回の挿抜後、高温雰囲気に長時間保持後、腐食環境下あるいは振動環境下において低い接触抵抗が維持でき、同時にはんだ付け性に優れるなどの接続部品用導電材料に求められる特性をいまだ十分なかたちで得ることができず、さらなる改良が求められている。
【0013】
一方、特許文献7には、Cu板条からなる母材の表面に、Ni被覆層(0μmを含む)、Cu被覆層(0μmを含む)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層がこの順に形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%(望ましくは、少なくとも一方向における平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mm)、平均の厚さが0.1〜3.0μm、かつCu含有量が20〜70at%であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.2〜5.0μmである接続部品用導電材料が記載されている。特許文献7の発明では、少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さ(望ましくは、少なくとも一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mm)を有する母材が用いられ、母材表面にCuめっき及びSnめっきを形成し、又はNiめっき、Cuめっき及びSnめっきを形成した後、リフロー処理が行われる。
【0014】
また特許文献8には、Cu板条からなる母材の表面に、Ni被覆層(0μmを含む)、Cu被覆層(0μmを含む)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層がこの順に形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%(望ましくは、少なくとも一方向における平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mm)、平均の厚さが0.2〜3.0μm、かつCu含有量が20〜70at%であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.2〜5.0μmであり、その材料表面は少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下である接続部品用導電材料が記載されている。特許文献8の発明では、少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.3μm以上で全ての方向における算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さ(望ましくは、少なくとも一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mm)を有する母材が用いられ、母材表面にCuめっき及びSnめっきを形成し、又はNiめっき、Cuめっき及びSnめっきを形成した後、リフロー処理が行われる。
【0015】
特許文献7,8に記載された接続部品用導電材料は、特に嵌合型端子用として、摩擦係数を低く抑えることができるので、例えば自動車等において多極コネクタに使用した場合、オス、メス端子の嵌合時の挿入力が低く、組立作業を効率よく行うことができる。また、高温雰囲気下で長時間保持されても、あるいは腐食環境下においても電気的信頼性(低い接触抵抗)を維持できる。加えて、特許文献8においては、振動環境下においても電気的信頼性(低い接触抵抗)を維持できる。さらに、エンジンルーム等の非常に高温で使用される箇所に配置された場合においても、優れた電気的信頼性が保持できる。
【0016】
【特許文献7】特開2006−77307号公報
【特許文献8】特開2006−183068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、特許文献7,8に記載された発明をさらに発展させ、Cu板条からなる母材表面に、Ni被覆層(必要に応じて)、Cu被覆層(必要に応じて)、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層を形成した接続部品用導電材料において、摩擦係数が低く(低い挿入力)、電気的接続の信頼性(低い接触抵抗)を維持するとともに、はんだ付け性を付与できる接続部品用導電材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る接続部品用導電材料は、Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが0〜3.0μm(望ましくは0.1〜3.0μm) のNi被覆層と、平均の厚さが0〜1.0μm以下のCu被覆層と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.20μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする。前記Sn被覆層は、望ましくはリフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなる。前記光沢又は半光沢Snめっき層の厚さは0.01〜0.2μmが望ましい。より望ましくは光沢Snめっきである。
なお、最表層に形成されるSnめっき層の種類によってめっき表面の反射率が変わる。言い換えれば、めっき表面の反射率によりめっき層の種類を判別できる。リフロー処理のみ行い、最表層に光沢又は半光沢Snめっき層が無い場合の反射率は70〜85%程度であるが、最表層に光沢Snめっき層が形成された場合の反射率は50〜65%程度、最表層に半光沢めっき層が形成された場合の反射率は35〜50%未満程度、最表層に無光沢めっき層が形成された場合の反射率は10〜30%程度である。最表層が無光沢めっきでは反射率が低い。従って、リフローSnめっき層と同等、あるいはこれに近い反射率をもたせるには、リフローSnめっき層の上に、光沢Snめっき層、あるいは半光沢Snめっき層を形成することが望ましく、光沢Snめっき層を形成することがより望ましい。
なお、ここに示す反射率はJIS Z 8741に従い、スガ試験機(株)製デジタル変角光沢度計(UGV−5D型)を用い、入射角45°で測定したものである。
【0019】
Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]、Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]及び材料の最表点とCu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]は、図1に説明されている。図1(a)は、図1(b)に示す材料1の断面1a(表面1bに対する垂直断面、表面1bが粗いときは母材の中立面2(板厚の中心を通る面)に対する垂直断面)の表面近傍を拡大して模式的に示すもので、母材3の表面にNi被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7が形成されている。
[D1]は、図1(a)において材料1の表面とCu−Sn合金被覆層6の間に描ける最小の内接円の直径であり、[D2]は最大の内接円の直径であり、[y]は、材料1の表面の中立面2から最も離れた箇所(材料1の最表点)1Aの高さ(中立面2からの高さ)と、Cu−Sn合金被覆層6の表面の中立面2から最も離れた箇所(Cu−Sn合金被覆層6の最表点)6Aの高さ(中立面2からの高さ)の差である。なお、[D1]が0μmであるとき、材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6の一部が露出して形成されていることを意味し、[y]が0μmであるとき、材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6の一部が露出し、かつCu−Sn合金被覆層6の最表点が材料1の最表点になっていることを意味する。Sn被覆層7の表面が平坦なとき、[D1]と[y]とは等しい。
本発明では、Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。従って、[D1]>0μm、かつ[y]>0μmである。
【0020】
Cu被覆層5は平均の厚さが0μmであってもよい。この場合、母材3の表面に、Ni被覆層4、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7がこの順に形成される。
また、Ni被覆層は平均の厚さが0μmであってもよい。この場合は、母材3の表面に、Cu被覆層、Cu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7、又はCu−Sn合金被覆層6及びSn被覆層7がこの順に形成される。
なお、上記被覆層構成は、前記材料の表面に対し、ある特定の垂直断面(例えば圧延方向に垂直な断面)のみにおいて形成されていてもよいし、全ての垂直断面において形成されていてもよい。また、上記被覆層構成が形成された領域は、母材3の片面又は両面全体に及んでいてもよいし、片面又は両面の一部のみを占めているのでもよい。
【0021】
本発明において、Cu板条はCu合金板条を含む。条はコイル状に巻かれた板を意味する。
Ni被覆層、Cu被覆層及びSn被覆層は、それぞれNi、Cu及びSn金属のほか、Ni合金、Cu合金及びSn合金を含む。Cu−Sn合金被覆層は、Cu6Sn5(η相)、Cu3Sn(ε相)、Cu4Sn(δ相)などのCu−Sn二元系金属間化合物相や、それらにNi被覆層中のNiが拡散したNi−Cu−Sn三元系金属間化合物相のうち、少なくとも一種の金属間化合物相により全部又は大部分が構成されている。Cu−Sn合金被覆層中には母材構成元素やC、Oなどの不可避不純物が少量含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る接続部品用導電材料は、特に嵌合型端子用として、摩擦係数を低く抑えることができるので、例えば自動車等において多極コネクタに使用した場合、オス、メス端子の嵌合時の挿入力が低く、組立作業を効率よく行うことができる。また、Cu−Sn合金被覆層が露出した従来材に比べ、電気的接続の信頼性(低い接触抵抗)を維持するとともに、接合を鉛フリーはんだ接合で行う端子などに用いても良好なはんだ付け性を付与することができる。特にNi被覆層を含む場合、エンジンルーム等の、非常に高温で長時間使用される箇所に配置されても、腐食環境下においても、あるいは振動環境下においても電気的信頼性(低接触抵抗)を維持でき、かつ良好なはんだ付け性を維持できる。
なお、本発明に係る接続部品用導電材料を嵌合型端子として用いる場合、オス、メス端子の両方に用いることが望ましいが、オス、メス端子の一方だけに用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る接続部品用導電材料について、具体的に説明する。
(1)Ni被覆層は、母材構成元素の材料表面への拡散を抑制し、さらにCu−Sn合金被覆層の成長を抑制してSn被覆層の消耗を防止するため、高温長時間使用後も、また亜硫酸ガス腐食雰囲気下においても接触抵抗の上昇を抑制するとともに、良好なはんだ濡れ性を得るのに役立つ。しかし、Ni被覆層の平均の厚さが0.1μm未満の場合には、Ni被覆層中のピット欠陥が増加することなどにより、上記効果を充分に発揮できなくなる。ただし、Ni被覆層の平均の厚さが0.1μm未満(0μm含む)でも、本発明の効果が失われるわけではない。一方、Ni被覆層はある程度まで厚くなると上記効果が飽和し、厚くし過ぎると生産性や経済性が悪くなる。従ってNi被覆層の平均の厚さは、3.0μm以下(0μmを含む)、望ましくは0.1〜3.0μmとする。より望ましくは0.2〜2.0μmである。
Ni被覆層には、母材に含まれる成分元素等が少量混入していてもよい。また、Ni被覆層がNi合金からなる場合、Ni合金のNi以外の構成成分としては、Cu、P、Coなどが挙げられる。Cuについては40質量%以下、P、Coについては10質量%以下が望ましい。
なお、Ni被覆層を形成する場合、母材とNi被覆層の間にCu被覆層(Cu下地めっき層)を形成してもよい。Cu下地めっきは母材表面の欠陥(ピット等)や析出物等を覆ってNiめっきの付きを改善しNiめっきの信頼性を高めるためのものであり、このCu下地めっき自体、従来から行われている技術である。Cu被覆層の厚さは0.01〜1μmが望ましい。
【0024】
(2)Cu被覆層はなくてもよいが、Ni被覆層を形成した場合、Ni被覆層中のNiの材料表面への拡散及びCu−Sn合金被覆層への過度の拡散を効果的に抑制するのに役立つ。特に本発明のようにSn被覆層が部分的に薄い場合においては、高温長時間使用後も電気抵抗が非常に高いNi酸化物の材料表面への堆積を抑制するため、接触抵抗の上昇を長期間抑制するのに効果的であり、亜硫酸ガス耐食性の向上効果もある。しかし、Cu被覆層は厚くなりすぎるとCu−Sn合金被覆層の成長を抑制することが困難となり、Sn被覆層の消耗を防止する効果が減少する。また、Cu被覆層は厚くなりすぎるとCu被覆層とCu−Sn合金被覆層の間に、熱拡散や経時などによりボイドが生成し耐熱剥離性が低下するほか、生産性や経済性も悪くなる。従って、Cu被覆層の平均の厚さは1.0μm以下に規定する。より望ましくは0.5μm以下である。
Cu被覆層には、母材に含まれる成分元素等やNi被覆層のNiが少量混入していてもよい。また、Cu被覆層がCu合金からなる場合、Cn合金のCn以外の構成成分としてはSn、Zn等が挙げられる。Snの場合は50質量%未満、他の元素については5質量%未満が望ましい。
【0025】
(3)Cu−Sn合金被覆層はSn被覆層を形成するSn又はSn合金に比べて非常に硬い。従って、本発明のように、[D1]が0.2μm以下、かつ[y]が0.2μm以下である場合には、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗を抑制でき、摩擦係数を非常に低くすることができる。また、端子挿抜や振動環境下などにおける電気接点部の摺動・微摺動の際に、接圧力を硬いCu−Sn合金被覆層で受けてSn被覆層同士の接触面積を低減できるため、微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も減少する。さらに、Ni被覆層を形成した場合、Cu−Sn合金被覆層はNi被覆層中のNiの材料表面への拡散を抑制するのに役立つ。しかし、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さが0.2μm未満では、特に本発明のようにSn被覆層が部分的に薄い場合においては、高温酸化などの熱拡散による材料表面のNi酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、また耐食性も劣化することから、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。一方、3.0μmを超える場合には、生産性や経済性が悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さを0.2〜3.0μmに規定する。より望ましくは0.3〜2.0μmである。
【0026】
(4)Sn被覆層は、上記Cu−Sn合金被覆層の表面を覆い、電気的接続の信頼性(主として耐熱性及び耐食性)と良好なはんだ付け性を維持する効果を有する。
Sn被覆層の最小内接円の直径[D1](図1参照)が0.2μmを超える場合、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗が増加して摩擦係数を低くすることが困難となり、また微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も増加して接触抵抗増大を抑制することが困難となる。従って、[D1]を0.2μm以下と規定する。より望ましくは0.15μm以下である。
【0027】
(5)Sn被覆層の最大内接円の直径[D2](図1参照)が1.2μm未満の場合、熱拡散や経時などによるSn被覆層の消耗で、より早期にSn被覆層が消滅するため、耐熱性や耐食性の向上効果が低くなり、同時にSn被覆層の量が多くないため、はんだ濡れ性を確保することが困難となる。一方、[D2]が20μmを超える場合には、機械的性質に悪影響を及ぼす場合が生じ、生産性や経済性も悪くなる。従って、[D2]を1.2〜20μmと規定する。より望ましくは1.5〜10μmである。
【0028】
(6)材料の最表点とCu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y](図1参照)が0.2μmを超える場合、端子挿抜の際にSn被覆層の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断するせん断抵抗が増加して摩擦係数を低くすることが困難となり、また微摺動によるSn被覆層の摩耗や酸化も増加して、接触抵抗増大を抑制することが困難となる。従って、[y]を0.2μm以下と規定する。より望ましくは、0.15μm以下である。
【0029】
(7)Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されている。この光沢又は半光沢Snめっき層により、Cu−Sn合金被覆層は必ず全面がSn被覆層により覆われ、電気的接続の信頼性とはんだ付け性が改善される。最表層に光沢又は半光沢Snめっき層を形成するのは、Cu−Sn合金層露出部に均一な厚さでSn被覆層を形成するためである。リフローSnめっきで[D1]を0.01〜0.2μmに制御しようすると、めっき前素材の凸部の形状、高さが一定ではないため、Cu−Sn合金被覆層が露出している部分や、[D1]が0.2μmを超える部分が発生する。また、リフローSnめっき層と最表面層の組織が変化することで、高温環境下での拡散が抑制され、耐熱信頼性の向上にもつながる。
光沢又は半光沢Snめっきの厚さが0.01μm未満の場合には、Cu−Sn合金層を覆ったとしてもCu−Sn合金層が一部露出している場合に比べてはんだ付け性を改善する効果は小さい。また、0.2μmを超えると、必然的に[D1]及び[y]が0.2μmを超え、端子挿抜時の掘り起こしによる変形抵抗や凝着をせん断する抵抗が発生し、摩擦係数が高くなる。従って、最表面Sn被覆層は0.01μm以上が望ましく、0.2μm以下に規定する。より望ましくは0.05〜0.2μmである。
Sn被覆層がSn合金からなる場合、Sn合金のSn以外の構成成分としては、Pb,Bi,Zn,Ag,Cuなどが挙げられる。Pbについては50質量%未満、他の元素については10質量%未満が望ましい。
【0030】
本発明に係る接続部品用導電材料は、Cu板条からなる母材の表面に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことにより製造することができる。リフロー処理により、溶融流動するSnめっき層から平滑化したSn被覆層が形成され、CuめっきとSnめっきからCu−Sn合金被覆層が形成される。場合によってCu−Sn合金被覆層の一部が表面に露出するが、続いて行われるSnめっきにより全面が均一に覆われる。Niめっき層を形成する前に、母材表面にCu下地めっき層を形成してもよい。
また、Ni被覆層を必要としない場合、Cu板条からなる母材の表面に、CuめっきとSnめっきをこの順に行い、あるいはCuめっきを行わずSnめっきのみを行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことにより製造することができる。リフロー処理により、溶融流動するSnめっき層から平滑化したSn被覆層が形成され、CuめっきとSnめっきあるいは母材とSnめっきからCu−Sn合金被覆層が形成される。場合によってCu−Sn合金被覆層の一部が表面に露出するが、続いて行われるSnめっきにより全面が均一に覆われる。
【0031】
この製造方法において、前記母材の表面粗さは、少なくとも一方向において算術平均粗さRaが0.4μm以上で、かつ全ての方向において算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さとすることが望ましい。どの方向でもRaが0.4μm未満の場合、めっき厚やリフロー条件を調整しても、請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難であり、Raが4.0μmを越えるとSnの溶融流動性を悪化させる。
望ましくは、前記一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mmであることであり、0.01mm未満では請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難な場合があり、0.5mmを越えると、特に小型端子に用いた場合に低い摩擦係数を得ることが困難となることがある。さらに望ましくは、前記一方向における最大高さRyが2.0〜20μmである。この範囲外では、請求項1の規定(特に[D2])を満たすことが困難な場合がある。
なお、母材の表面において、前記表面粗さにして前記被覆層構成を形成する領域は、母材の片面又は両面全体に及んでいてもよいし、片面又は両面の一部のみを占めているのでもよい。
【0032】
母材の前記表面粗さ得るために母材の表面を粗化処理する方法としては、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法が挙げられる。この中で、生産性、経済性および母材表面形態の再現性に優れる方法としては、圧延や研磨が望ましい。
なお、リフロー処理前のめっきにおいて、各めっき層は、前記母材の表面粗さを反映して電着される(均一電着性が良好である)ことが望ましい。これは本発明で規定した材料の断面形態及び表面形態を制御しやすくするためである。
【0033】
リフロー処理は、Snめっき層の融点以上、600℃以下の温度で3〜30秒間行い、前記Snめっき層を溶融流動させることが望ましい。600℃を越えると溶融Sn中への拡散元素量が増加して、Snの溶融流動性を悪化させる場合がある。また、3秒未満ではSnの溶融流動が不十分となる場合があり、30秒を超える場合は溶融Sn中への拡散元素量が増加して、Snの溶融流動性を悪化させる場合がある。
【0034】
Cu−Sn合金被覆層は、リフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散して形成されるが、その際にCuめっき層が全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。Cuめっき層が全て消滅する場合などには、Niめっき層からCu−Sn合金被覆層中にNiが供給される場合がある。母材の表面にCuめっき層を形成することなくSnめっき層のみを形成する場合、Cu−Sn合金被覆層は母材中のCuとSnめっき層のSnが相互拡散して形成される。
Niめっき層の平均の厚さは0.1〜3.0μm、Cuめっき層の平均の厚さは0.1〜1.5μm、Snめっき層の平均の厚さは0.4〜8.0μmが望ましい。Niめっき層の平均厚さが上記範囲を外れると、Ni被覆層の平均厚さが望ましい0.1〜3.0μmの範囲を外れる可能性が高くなる。Cuめっき層の平均の厚さが0.1μm未満ではCu−Sn合金被覆層へのNiの拡散量が多くなり過ぎ、1.5μmを越えるとCu被覆層の平均厚さが規定範囲を外れる可能性が高くなる。Snめっき層の平均の厚さが上記範囲を外れると、請求項1の規定(特にD2)を満たさない可能性が高くなる。
なお、本発明において、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層(後述するリフロー処理後のSnめっきを含む)は、それぞれNi、Cu及びSn金属のほか、Ni合金、Cu合金及びSn合金を含む。後者の場合、先にNi被覆層、Cu被覆層及びSn被覆層に関して説明した合金を用いることができる。
【0035】
本発明に係る接続部品用導電材料は、以上の工程を経たリフロー処理後の材料の表面に、さらにSnめっき層を形成することにより製造する。このSnめっき層は請求項1等に規定するSn被覆層に含まれる。従って、このSnめっき層は0.2μm以下の厚さで均一に形成し、[D1]及び[y]が0.2μmを越えないようにする必要がある。
リフロー処理後のSnめっき層の形成に、無電解めっきや蒸着なども用い得るが、生産性、経済性に優れる方法としては電気めっきが望ましい。電気Snめっきには、無光沢めっき、半光沢めっき、光沢めっきなどの種類があり、いずれの方法でも電気的接続の信頼性とはんだ付け性改善効果は得られるが、無光沢めっきではめっき皮膜の均一電着性が劣るため、外観ムラ発生や、光沢の低下が起こる。従って、外観、光沢などを考慮すると、半光沢めっき又は光沢めっきが望ましく、より望ましくは光沢めっきである。
【0036】
銅板条に対するリフロー処理後のSnめっきは、リフロー処理までの製造ラインと連続のラインで行っても、別の製造ラインで行っても構わないが、生産性、経済性を考慮すると、連続の製造ラインで行うことが望ましい。リフロー処理から続いて行われるSnめっきまでの間に、リフロー処理後の表面の酸化(特に表面に露出しているCu−Sn合金層の酸化)が進み、Snめっき前にフッ化水素アンモニウム水溶液浸漬処理を行わないと、Snめっきが均一に電着しなくなることがあり(半光沢Snめっきにおいて顕著)、品質の面からもリフロー処理後連続のラインでSnめっきを行うことが望ましい。フッ化水素アンモニウム水溶液は濃度を0.5〜10質量%に調整することが望ましく、前記浸漬処理は20〜50℃の温度で20秒以下の時間行うことが望ましい。濃度が0.5質量%未満では表面酸化皮膜の除去が困難となる場合が生じ、10質量%を越える場合はSn被覆層を溶解させる。温度範囲が上記範囲外だと表面酸化膜の除去が困難となり、浸漬時間が20秒を越えるとSn被覆層を溶解させる。
なお、一般的に、半光沢Snめっきは室温で行うことができ、めっき浴を冷却又は加温する必要はないが、光沢Snめっきは15℃前後で行う場合が多く、めっき浴を冷却する必要がある。リフロー処理前のSnめっきは半光沢Snめっきが行われるから、リフロー処理後のSnめっきが半光沢Snめっきであれば、めっき浴タンクを共通化することができ、かつめっき浴の冷却設備も不要である利点がある。一方、リフロー処理後のSnめっきが光沢Snめっきであれば、特に連続製造ラインで製造する場合等、フッ化水素アンモニウム水溶液への浸漬処理を省略できる利点がある。
【0037】
本発明に係る接続部品用導電材料の断面構造は図1に示されているが、製造方法を反映させた模式図を図2〜図4に例示する。いうまでもなく、これらの断面形状以外にも種々の形態をとり得る。
図2は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図2(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Ni被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階では、Cu−Sn合金被覆層6の一部が材料表面に露出し、[D1]と[y]がいずれも0となっている。図2(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。[D1]と[y]は等しく、いずれもゼロではない。
【0038】
図3は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図3(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Ni被覆層4、Cu被覆層5、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階で、すでにCu−Sn合金被覆層6の材料表面への露出はなく、[D1]と[y]がいずれも0ではない。図3(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。
【0039】
図4は、表面粗化された母材3の表面にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを行った後、リフロー処理し、続いてSnめっきを行ったものである。図4(b)はリフロー処理後の断面構造であり、Cuめっき層が消滅し、Ni被覆層4、Cu−Sn合金被覆層6及びリフローSnめっき層7aが形成されている。この段階では、Cu−Sn合金被覆層6の一部が材料表面に露出し、[D1]は0であるが、[y]は0ではない。図4(a)は続いてSnめっきを行った後の断面構造であり、均一なSnめっき層7bが形成され、リフローSnめっき層7aとともにSn被覆層7を構成している。[D1]と[y]は異なり、いずれもゼロではない。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により、要点を絞り、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[試験材の作製]
作製した試験材No.1〜35の製造工程概要を、表1及び表2に示す。
母材には、Cu中に1.8質量%のNi、0.40質量%のSi、0.10質量%のSn、1.1質量%のZnを含有するCu合金板を用い、圧延の際にショットブラストなどにより粗面化したワークロールを使用して表面粗化処理を行い(あるいは行わずに)、ビッカース硬さ200、厚さ0.25mmで、各々の表面粗さを有する母材に仕上げた。なお、母材の表面粗さは、試験材No.1〜26,28,29は、Ra、Sm及びRyが、発明を実施するための最良の形態の欄に望ましいと記載された範囲内であり、試験材No.27は、Ra及びSmが望ましいと記載された範囲内であるが、Ryが下限値未満であり、従来材の試験材No.30〜35は、Ra及びRyが望ましいと記載された下限値未満である。
続いて、試験材No.1〜18,23〜35の母材の表面に、Niめっきを施し(あるいは施さず)、Cuめっきを施し(あるいは施さず)、次いで半光沢Snめっきを施し、リフロー処理(加熱炉にてSnめっき層を溶融させた後水冷)を行い、表面の水分を一旦乾燥させた後、フッ化水素アンモニウム水溶液浸漬処理を行い(あるいは行わずに)、半光沢Snめっきを再度施した(あるいは施さなかった)。試験材No.19〜22は前記リフロー処理後表面の水分を乾燥させずに光沢Snめっきを施した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
作製した試験材のNi被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さ、材料の垂直断面における被覆層形態([D1]、[D2]、[y])を、下記要領で測定した。その結果を、表3及び表4に示す。また、参考として材料表面における被覆層形態(下記[D3]、[D4])を、下記要領で測定し、あわせて表3及び表4に示した。
【0045】
[Ni被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さ測定方法]
ミクロトーム法にて加工した試験材の断面に、必要に応じてアルゴンイオンエッチングを行い、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、Ni被覆層、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平均の厚さを各々算出した。なお、測定断面は、表面粗化処理の際に行った圧延方向に直角な方向の垂直断面とした。
【0046】
[材料の表面に対する垂直断面の形態測定方法]
ミクロトーム法にて加工した試験材の断面に、必要に応じてアルゴンイオンエッチングを行い、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、[D1]、[D2]及び[y]を各々算出した。なお、測定断面は、表面粗化処理の際に行った圧延方向に直角な方向の垂直断面である。
図5〜7に試験材No.1の断面のSEM組成像を示す。図5内の左側の四角形の部分を拡大したものが図6、右側の四角形の部分を拡大したものが図7であり、3は母材、4はNi被覆層、5はCu被覆層、6はCu−Sn合金被覆層、7はSn被覆層(リフローSnめっき層7a)を示す。図5において、白く見える部分がSn被覆層7及びCu−Sn合金被覆層6である。リフロー処理により材料表面はほぼ平坦であり、母材3の表面の凹凸に従ってSn被覆層7の厚さが変化している。図6において、Ni被覆層4の表面に少量のCu被覆層5が残留し、灰色がかったCu−Sn合金被覆層6を構成する1〜数μm程度の径の粒子の湾曲した先端が白く見えるSn被覆層7の表面に露出している。図7において、Ni被覆層4の表面に少量のCu被覆層5が残留し、灰色がかったCu−Sn合金被覆層6の粒子の上全体を白く見えるSn被覆層7が覆っている。
図8に、試験材No.1の表面をEDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)により観察して得られたSEM組成像を示す。図中、白い部分がSn被覆層7(リフローSnめっき層7a)、黒い部分がSn被覆層7の表面に露出したCu−Sn合金被覆層6である。
なお、本発明例(試験材No.2等)の場合、ちょうど試験材No.1の表面にさらにSnめっきが行われたようなものであり、Sn被覆層がさらに半光沢Snめっき層を含むため、Cu−Sn合金被覆層は材料表面に露出していない(図2参照)。
【0047】
[材料の表面の形態測定方法]
試験材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析処理により、Cu−Sn合金被覆層の最大内接円の直径[D3]及びSn被覆層の最大内接円直径[D4]を各々算出した。[D3]及び[D4]は材料表面におけるCu−Sn合金被覆層の露出形態を示す。
なお、材料1の垂直断面1a(図1(b)参照)において材料1の表面にCu−Sn合金被覆層6が一部露出しているとき(すなわち[D1]が0μmのとき)、材料1の表面において[D3]及び[D4]を測定することができる。[D3]及び[D4]は図9に説明されている。図9は、材料1の表面を模式的に示すもので、該表面はCu−Sn合金被覆層6とSn被覆層7により構成されている。[D3]は、図9においてSn被覆層7に囲まれた最大の内接円の直径であり、[D4]は、Cu−Sn合金被覆層6に囲まれた最大の内接円の直径である。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
また、得られた試験材について、摩擦係数評価試験、微摺動摩耗試験時の接触抵抗評価試験、高温放置試験後の接触抵抗評価試験、耐熱剥離試験、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗評価試験及び鉛フリーはんだ濡れ試験及び鉛フリーはんだ濡れ試験を、下記の要領で行った。その結果を、表5及び表6に示す。
【0051】
[摩擦係数評価試験]
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図10に示すような装置を用いて評価した。まず、各々の試験材No.1〜35から切り出した板材のオス試験片11を水平な台12に固定し、その上に試験材No.35から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片13をおいて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片13に3.0Nの荷重(錘14)をかけてオス試験片11を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、オス試験片11を水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。なお、15はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/3.0 …(1)
【0052】
[微摺動摩耗試験時の接触抵抗評価試験]
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図11に示すような摺動試験機(株式会社山崎精機研究所;CRS−B1050CHO)を用いて評価した。まず、試験材No.35から切り出した板材のオス試験片16を水平な台17に固定し、その上に各々の試験材No.1〜35から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片18をおいて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片18に2.0Nの荷重(錘19)をかけてオス試験片16を押さえ、オス試験片16とメス試験片18の間に定電流を印加し、ステッピングモータ20を用いてオス試験片16を水平方向に摺動させ(摺動距離を50μm、摺動周波数を1.0Hzとした)、摺動回数1000回までの最大接触抵抗を四端子法により、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した。なお、矢印は摺動方向である。
【0053】
[高温放置試験後の接触抵抗評価試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、大気中にて175℃×1000hrの熱処理を行った後、接触抵抗を四端子法により測定した(Auプローブを水平方向に摺動させ、荷重を3.0N、摺動距離を0.30mm、摺動速度を1.0mm/min、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した)。
[耐熱剥離試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、90°曲げ(曲げ半径を0.7mmとした)を行い、大気中にて175℃×1000hrの熱処理を行った後、曲げ戻しを行い、被覆層の剥離の有無を外観評価した。
【0054】
[亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗評価試験]
まず、各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、亜硫酸ガス濃度25ppm、温度35℃、湿度75%RH、時間96hrの亜硫酸ガス腐食試験を行った後、接触抵抗を四端子法により測定した(Auプローブを水平方向に摺動させ、荷重を3.0N、摺動距離を0.30mm、摺動速度を1.0mm/min、開放電圧20mV、電流10mAの条件にて測定した)。
【0055】
[鉛フリーはんだ濡れ試験]
各々の試験材No.1〜35から切り出した板材の試験片に対して、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてゼロクロスタイムと最大濡れ応力を測定した(255℃のSn−3.0Ag−0.5Cuはんだに浸漬させ、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを12mm、浸漬時間を5.0secの条件にて測定した)。また、上記はんだ浸漬後の試験片について、はんだ濡れ不良の有無を外観評価した。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
表3及び表5に示すように、試験材No.1〜22は、被覆層構成(各被覆層厚さと[D1]、[D2],[y])に関して本発明の規定を満たし、摩擦係数が低く、微摺動摩耗試験時の接触抵抗、高温放置試験後の接触抵抗、耐熱剥離試験後の外観、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗、鉛フリーはんだ濡れ性のいずれについても、優れた特性を示した。なお、試験材No.15〜18は、Ni被覆層の平均厚さが0又は0.1μm未満と比較的薄いため、試験材No.1〜22の中では相対的に高温放置後及び亜硫酸ガス腐食後の接触抵抗が高いが、Ni被覆層の厚さが0の従来材である試験材No.30,32,35と比較すると改善している。
試験材No.1〜22のうち、試験材No.2,4,6,8,16,17,19〜22は本発明例であり、Cu−Sn合金層が表面に露出したものに比べると、相対的にはんだ濡れ性が優れる。
【0059】
試験材No.23〜29は、Cu被覆層及びCu−Sn合金被覆層のいずれかの平均の厚さが本発明の規定を満たさず、又は「D1」、[D2]及び[y]のいずれかが本発明の規定を満たさず、それに応じていずれか1つ又は複数の特性が劣る。
なお、試験材No.25は、Niめっき後Cuめっきを施さずに作製した試験材であり、Cu−Sn合金被覆層でなくNi−Sn合金被覆層が形成されたため、高温放置試験後の接触抵抗、亜硫酸ガス腐食試験後の接触抵抗が高い。
【0060】
試験材No.30〜35は、母材の表面粗化処理を行わずに作製した試験材であり、本発明の規定のいずれか1又は2以上を満たさず、そのため、いずれか1又は2以上の特性が劣る。
なお、試験材No.30はNiめっきが施されず、長時間のリフロー処理でSn被覆層が全て消滅した試験材であり、試験材No.31は長時間のリフロー処理でSn被覆層の大部分が消滅した試験材であり、試験材No.32はNiめっき及びCuめっきが施されず、試験材No.35はNiめっきが施されていない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】材料の表面に対する垂直断面に表れる被覆層構造を模式的に示す図である。
【図2】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図3】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図4】材料の表面に対する垂直断面に表れる別の被覆層構造を模式的に示す図である。
【図5】試験材No.1について、材料の表面に対する垂直断面に表れる被覆層構造を示すSEM組成像である。
【図6】その一部(左側の四角形で囲まれた部分)を拡大したSEM組成像である。
【図7】その一部(右側の四角形で囲まれた部分)を拡大したSEM組成像である。
【図8】試験材No.1について、材料の表面に表れる被覆層構造を示すSEM組成像である。
【図9】材料の表面に表れる被覆層構造を模式的に示す図である。
【図10】摩擦係数測定治具の概念図である。
【図11】微摺動摩耗測定治具の概念図である。
【符号の説明】
【0062】
3 母材
4 Ni被覆層
5 Cu被覆層
6 Cu−Sn被覆層
7 Sn被覆層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが3.0μm以下のNi被覆層と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする接続部品用導電材料。
【請求項2】
前記Sn被覆層が、リフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなることを特徴とする請求項1に記載された接続部品用導電材料。
【請求項3】
前記光沢又は半光沢Snめっき層の平均の厚さが0.01〜0.2μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載された接続部品用導電材料。
【請求項4】
前記Ni被覆層の平均の厚さが0.1〜3.0μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項5】
Ni被覆層とCu−Sn合金被覆層の間に平均の厚さが1.0μm以下のCu被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項6】
Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする接続部品用導電材料。
【請求項7】
前記Sn被覆層が、リフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなることを特徴とする請求項6に記載された接続部品用導電材料。
【請求項8】
前記光沢又は半光沢Snめっき層の平均の厚さが0.01〜0.2μmであることを特徴とする請求項6又は7に記載された接続部品用導電材料。
【請求項9】
母材の表面とCu−Sn合金被覆層の間に平均の厚さが1.0μm以下のCu被覆層が形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項10】
Cu板条からなる母材の表面にNiめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項11】
Cu板条からなる母材の表面にCuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項12】
Cu板条からなる母材の表面にSnめっきを行い、リフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項13】
リフロー処理後に半光沢Snめっきを行う場合において、半光沢Snめっきを行う前に、Cu板状をフッ化水素アンモニウム水溶液に浸漬して表面酸化被膜を除去することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項1】
Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが3.0μm以下のNi被覆層と、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする接続部品用導電材料。
【請求項2】
前記Sn被覆層が、リフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなることを特徴とする請求項1に記載された接続部品用導電材料。
【請求項3】
前記光沢又は半光沢Snめっき層の平均の厚さが0.01〜0.2μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載された接続部品用導電材料。
【請求項4】
前記Ni被覆層の平均の厚さが0.1〜3.0μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項5】
Ni被覆層とCu−Sn合金被覆層の間に平均の厚さが1.0μm以下のCu被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項6】
Cu板条からなる母材の表面に、平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された材料であって、前記材料の表面に対する垂直断面において、前記Sn被覆層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μmであり、前記材料の最表点と前記Cu−Sn合金被覆層の最表点との高度差[y]が0.2μm以下であり、前記Sn被覆層の一部として均一な厚さの光沢又は半光沢Snめっき層が最表層に形成されていることを特徴とする接続部品用導電材料。
【請求項7】
前記Sn被覆層が、リフローSnめっき層とその上に形成された前記光沢又は半光沢Snめっき層からなることを特徴とする請求項6に記載された接続部品用導電材料。
【請求項8】
前記光沢又は半光沢Snめっき層の平均の厚さが0.01〜0.2μmであることを特徴とする請求項6又は7に記載された接続部品用導電材料。
【請求項9】
母材の表面とCu−Sn合金被覆層の間に平均の厚さが1.0μm以下のCu被覆層が形成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項10】
Cu板条からなる母材の表面にNiめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項11】
Cu板条からなる母材の表面にCuめっき及びSnめっきをこの順に行い、Snめっきのリフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項12】
Cu板条からなる母材の表面にSnめっきを行い、リフロー処理を行った後、さらに光沢又は半光沢Snめっきを行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【請求項13】
リフロー処理後に半光沢Snめっきを行う場合において、半光沢Snめっきを行う前に、Cu板状をフッ化水素アンモニウム水溶液に浸漬して表面酸化被膜を除去することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載された接続部品用導電材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−52076(P2009−52076A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218903(P2007−218903)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]