説明

接触分解触媒の製造方法

【課題】高い分解活性を有し、なおかつオクタン価の高いFCCガソリンを製造できる炭化水素油の接触分解触媒の製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、(b)シリカゾル、(c)第一リン酸アルミニウム、(d)粘土鉱物、及び必要に応じて(e)アルミナゾルを所定割合で含有する水性スラリーを調製する工程、該水性スラリーの調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、前記水性スラリーの調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、(b)シリカゾル、(c)第一リン酸アルミニウム、及び必要に応じて(e)アルミナゾルからなる群から選ばれた少なくとも1種を混合する第1調製工程、及び該第1調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第2調製工程を含む接触分解触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の接触分解触媒(以下「FCC触媒」と記すこともある)の製造方法に関する。より詳しくは、高い分解活性を有し、なおかつオクタン価の高いガソリン留分(以下「FCCガソリン」と記すこともある)を製造することができる炭化水素油の接触分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境意識の高まりや温暖化への対策が重要視されるようになり、その中でも、自動車の排気ガスが環境に与える影響は大きいので、該排気ガスのクリーン化が期待されている。自動車排気ガスのクリーン化は、自動車の性能とガソリンの燃料組成に影響を受けることが一般的に知られており、特に石油精製産業では、高品質なガソリンを提供することが求められている。
【0003】
ガソリンは、原油の精製工程において得られる複数のガソリン基材を混合することによって製造される。特に、重質炭化水素油の接触分解反応によって得られるFCCガソリンは、ガソリンへの配合量が多く、ガソリンの品質改善に与える影響は非常に大きい。
【0004】
重質炭化水素油の接触分解反応は、石油精製工程で得られる低品位な重質油を接触分解することによって、軽質な炭化水素油へと変換する反応であるが、FCCガソリンを製造する際に、副生成物として、水素・コーク、液化石油ガス(Liquid Petroleum Gas:LPG)、中間留分(Light Cycle Oil:LCO)、重質留分(Heavy Cycle Oil:HCO)が生産される。効率的にFCCガソリンを製造するためには、触媒の分解活性が高く、またFCCガソリン収率が高く、更にはオクタン価の高い高品質なFCCガソリンが得られることが当業者にとって好ましい。
【0005】
高品質なFCCガソリンを得るためには、ZSM―5などの酸性質の高いハイシリカゼオライトを触媒に添加し、FCCガソリン中の軽質オレフィン分を増加させ、FCCガソリンのオクタン価を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、重質油を軽質オレフィン分と高オクタン価のFCCガソリンに転化する接触分解方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。更に、炭化水素油の接触分解を効率的に進行させる目的で、特定の性状の結晶性アルミノケイ酸塩をバインダーとしてシリカゾルとアルミナゾルを用いて粘土鉱物中に分散させた触媒を使用する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、炭化水素油の接触分解方法においては、近年の原油の重質化・低品位化に伴い、バナジウムやニッケル等の重金属や残留炭素分の高い原料油を流動接触分解装置に投入しなければならない事態が生じている。バナジウムは、FCC触媒に沈着し堆積すると、FCC触媒の活性成分であるゼオライトの構造を破壊するため、触媒の著しい活性低下をもたらし、かつ水素・コークの生成量を増大させ、ガソリンの選択性を低下させるなどの問題を有していることが知られている。また、ニッケルも、触媒表面に沈着堆積し、脱水素反応を促進するため水素・コークの生成量を増加させ、ガソリンの選択性を低下させるなどの問題を有している。このような原油の重質化・低品位化に対応するためには、高い分解活性を有する触媒の開発が望まれている。
【0007】
更にまた、FCC触媒の分解活性を向上させる目的で、FCC触媒にリンを含有させる方法が提案されている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【0008】
なお更にまた、FCC触媒にリンを含有させることで生成物選択性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献7、8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−208395号公報
【特許文献2】特開平10−195454号公報
【特許文献3】特開平11−33406号公報
【特許文献4】特表2003−514752号公報
【特許文献5】特開昭63−197549号公報
【特許文献6】特開2006−142273号公報
【特許文献7】特開平4−354541号公報
【特許文献8】特開2007−244964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、FCCガソリンの収率が低下する欠点があった。また、特許文献2に記載の方法では、オクタン価を高くするオレフィンの量は増加するが、触媒に堆積するコークも多くなってしまうという問題があった。そして、特許文献3に記載の方法では、反応生成物中のLCO留分を増加させることはできるものの、オクタン価の高い高品質なFCCガソリンを得ることができない問題があった。
【0011】
特許文献4〜6に記載の方法はいずれも、超安定化Yゼオライトを単独でリン酸処理し、その後にFCC触媒の粒子を形成する方法であって、分解活性の向上には効果があるものの、オクタン価の高い高品質なFCCガソリンの製造に関しては課題がある。
【0012】
特許文献7に記載の触媒組成物は、硝酸アルミニウムとリン酸から調製されたリン酸アルミニウムを原料に用いた触媒組成物であるが、分解生成物中のC3、C4オレフィン類やイソブチレンの収率増大を目的としており、FCC触媒の分解活性向上を図るものではない。
【0013】
また、特許文献8に記載の触媒組成物は、結合剤に第一リン酸アルミニウムを使用した触媒組成物であるが、使用するゼオライトはペンタシル型ゼオライトのみであり、C3留分の選択性を向上させるものである。しかも、特許文献8に記載の触媒組成物は、FCC触媒に物理混合するアディティブ粒子であって、単独で重質油の接触分解に使用できるものではない。
【0014】
本発明は、以上述べた従来の諸点を考慮し、高い分解活性を有し、なおかつオクタン価の高いFCCガソリンを製造できる炭化水素油の接触分解触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、FCC触媒の原料としてソーダライトケージ構造を有するゼオライト・シリカゾル・第一リン酸アルミニウム・粘土鉱物を特定の割合で含有する水性スラリー、又はこれに更に特定の割合のアルミナゾルを含有する水性スラリーを噴霧乾燥してFCC触媒を製造する方法において、この噴霧乾燥に付す水性スラリーを調製するに当たって、まず、この噴霧乾燥に付す水性スラリーの含有成分の内、第一リン酸アルミニウムと、該含有成分の他の一定成分とを事前に混合して水性スラリーを得、次いで、この得られた水性スラリーに該含有成分の残余の成分を混合するというように、多段階で水性スラリーを調製することにより、高い分解活性を示し、なおかつオクタン価の高い高品質なFCCガソリンを製造できるFCC触媒が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の接触分解触媒の製造方法に関する。
(1)水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(d)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、及び(d)粘土鉱物を5〜65質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(d)の水性スラリー含有成分の内、(c)第一リン酸アルミニウムと、(a)ゼオライト及び(b)シリカゾルのうち少なくとも1方とを混合する第1調製工程、及び該第1調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第2調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
(2)水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(c)第一リン酸アルミニウムと、(a)ゼオライト、(b)シリカゾル及び(e)アルミナゾルからなる群から選ばれる少なくとも1種とを混合する第1調製工程、及び該第1調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第2調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
(3)水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%、及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合する第1調製工程、該第1調製工程で得られた水性スラリーに、(c)第一リン酸アルミニウムを混合する第2調製工程、及び該第2調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第3調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
(4)水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%、及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合する第1調製工程、該第1調製工程で得られた水性スラリーに、(b)シリカゾル及び(c)第一リン酸アルミニウムを混合する第2調製工程、及び該第2調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第3調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の接触分解触媒の製造方法によれば、高い分解活性を有し、なおかつオクタン価の高いFCCガソリンを製造できる接触分解触媒を製造し得て、上記目的を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
≪触媒の製造方法≫
本発明にかかるFCC触媒の製造方法は、水性スラリー中の全固形分基準、固形分換算で、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、及び(d)粘土鉱物を5〜65質量%、更には必要に応じて、(e)アルミナゾルをAl換算で0.5〜21質量%含有する水性スラリーを調製する工程を含む。そして、この水性スラリーを調製する工程は、後述するように、各水性スラリー含有成分を多段階に混合する工程を含む。
【0019】
本発明で採用する上記所定成分を所定割合で含有する水性スラリーを噴霧乾燥する接触分解触媒の製造方法は、それ自体でも従来の公知技術よりも高い分解活性を有するなど触媒性能に優れた接触分解触媒を得ることができるが、本発明に規定するように噴霧乾燥に付す水性スラリーを多段階で調製することによって一層従来の公知技術よりも高い分解活性を有するなど触媒性能に優れた接触分解触媒を得ることができる。本発明においては、噴霧乾燥に付す水性スラリーを本発明に規定するように多段階で調製することが肝要であり、本発明は、一層従来の公知技術よりも高い分解活性を有するなど触媒性能に優れた接触分解触媒の製造方法を提供するものである。
【0020】
ここで、本発明者らが、上記噴霧乾燥に付す水性スラリーの多段階調製を着想した理由は以下の通りである。まず、本発明で採用する所定成分を含有する水性スラリーを噴霧乾燥する接触分解触媒の製造方法では、原料に第一リン酸アルミニウムを使用するが、第一リン酸アルミニウムは加熱によって脱水縮合して、第一リン酸アルミニウムの結晶性はより高まり、流動接触分解を促進する酸点が増える。この酸点が分解活性に寄与することとなるが、この酸点が触媒中に高分散化されていると一層分解活性が向上すると考えられる。ところで、第一リン酸アルミニウムは水性スラリー中では、ゼオライト骨格中のアルミニウムやケイ素、シリカゾル、アルミナゾルと相互作用している状態にあると考えられる。本発明における水性スラリーの原料比率であれば、原料として投入した第一リン酸アルミウムのほとんどはゼオライト骨格中のアルミニウム、ケイ素、シリカゾル、アルミナゾルと水素結合および分子間相互作用により相互作用するため、その状態を維持したまま噴霧乾燥を行えば、第一リン酸アルミニウムは触媒中で均質で良好な結晶状態を形成し、その結果、酸点が触媒上に高分散状態で存在する触媒を得ることができると考えられる。
【0021】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
<水性スラリー調製工程>
本発明における水性スラリー調製工程は、上記のとおりの、各水性スラリー含有成分を各割合で含有する噴霧乾燥に付す水性スラリーを、多段階で調製する工程である。
噴霧乾燥に付す水性スラリー(以下、単に「水性スラリー」とも言う。)中に含まれる上記各成分とその含有量や、水性スラリーの多段階での調製方法などを以下詳しく説明する。
【0022】
(ソーダライトケージ構造を有するゼオライト)
本発明の製造方法で用いるソーダライトケージ構造を有するゼオライト(以下、単に「ゼオライト」とも言う。)とは、アルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした形の十四面体のゼオライトの結晶構造により規定される空隙構造であって、四員環と六員環の細孔構造を有するゼオイラトである。このソーダライトケージ同士の結合場所や方法が変化することによって種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するソーダライトケージ構造を有するゼオライトがある。しかして、本発明で用いるソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては、上記種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用い得て、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、Xゼオライト、Yゼオライト、安定化Yゼオライトなどが挙げられ、好ましくは安定化Yゼオライトである。
【0023】
この好ましく用いられる安定化Yゼオライトは、Yゼオライトを出発原料として合成され、Yゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対し耐性を示すものであり、一般には、Yゼオライトを高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより得られる。上記の手法で得られた安定化Yゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Yゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0024】
本発明で用いる安定化Yゼオライトは、一般に、(a)化学組成分析によるバルクのSiO/Alモル比が4〜15、好ましくは5〜10、(b)単位格子寸法が24.35〜24.65Å、好ましくは、24.40〜24.60Å、(c)ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が0.3〜1.0、好ましくは0.4〜1.0、のものを用いる。この安定化Yゼオライトは、天然のフォージャサイトと基本的に同一の結晶構造を有し、酸化物として下記組成式(I)を有する。
〔組成式(I)〕
(0.02〜1.0)R2/mO・Al・(5〜11)SiO・(5〜8)H
式中;R:Na、K、その他のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン
m:Rの原子価
【0025】
上記安定化Yゼオライトにおける単位格子寸法はX線回折装置(XRD)により測定することができ、また、全Alに対するゼオライト骨格内Alのモル数は、化学組成分析によるSiO/Al比及び単位格子寸法から下記数式(A)〜(C)を用いて算出される値である。なお、数式(A)は、H.K.Beyer et al.,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,(81),2899(1985).に記載の式を採用したものである。
〔数式(A)〕
Al= (a0−2.425)/0.000868
式中;a0:単位格子寸法/nm
Al:単位格子あたりのAl原子数
2.425:単位格子骨格内の全Al原子が骨格外に脱離したときの単位格子寸法
0.000868:実験により求めた計算値であり、a0とNAlについて1次式で整理したとき(a0=0.000868NAl+2.425)の傾き
〔数式(B)〕
(Si/Al)計算式=(192−NAl)/NAl
式中;192:Yゼオライトの単位格子寸法あたりの(Si+Al)の原子数
〔数式(C)〕
ゼオライト骨格内Al/全Al =(Si/Al)化学組成分析値/(Si/Al)計算式
【0026】
ゼオライトのSiO/Alモル比は、触媒の酸強度を示しており、モル比が大きいほど触媒の酸強度が強くなる。SiO/Alモル比が4以上であれば、重質炭化水素油の接触分解に必要な酸強度を得ることができ、その結果分解反応が好ましく進行する。SiO/Alモル比が15以下であれば、触媒の酸強度は強くなり、また必要な酸の数を確保でき、重質炭化水素油の分解活性を確保し易くなる。
【0027】
上記ゼオライトの単位格子寸法は、ゼオライトを構成する単位ユニットのサイズを示しているが、24.35Å以上であれば、重質油の分解に必要なAlの数が適当であり、その結果分解反応が好適に進行する。24.65Å以下であれば、ゼオライトの結晶の劣化を防ぎやすく、触媒の分解活性の低下が著しくなることを回避することができる。
【0028】
ゼオライト結晶を構成するAlの量が多くなりすぎると、結果、ゼオライトの骨格から脱落したAl粒子が多くなり、強酸点が発現しないために接触分解反応が進行しなくなるおそれがあるが、上記ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が0.3以上であれば、上記現象を回避できる。また、ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が1に近いと、ゼオライト内のAlの多くがゼオライト単位格子に取り込まれていることを意味し、ゼオライト内のAlが強酸点の発現に効果的に寄与するため好ましい。
【0029】
本発明の製造方法では、以上述べたソーダライトケージ構造を有するゼオライトを原料に用いることが所期の高分解活性を有する接触分解触媒を製造するために必要である。
水性スラリー中に含有されるソーダライトケージ構造を有するゼオライトの割合は、水性スラリー中の全固形分を基準に換算したときに、20〜50質量%であり、35〜45質量%とすることが好ましい。水性スラリー中に含有するソーダライトケージ構造を有するゼオライトの量が20質量%以上であると、得られる接触分解触媒に所期の分解活性を付与することができ、また、50質量%以下であると、得られる接触分解触媒における他の成分の含有量を所望の範囲にすることができることから、好ましい触媒強度や触媒の嵩密度としやすく、装置を好適に運転し得る接触分解触媒を得ることができる。
【0030】
(シリカゾル)
本発明の製造方法で用いるシリカゾルとしては、種々の珪素化合物を使用できるが、水溶性のシリカゾルが好ましい。また、シリカゾルには、幾つかの種類が知られており、コロイダルシリカを例に挙げれば、ナトリウム型、リチウム型、酸型等があり、本発明はいずれの型を用いてもよい。また、シリカゾルとしては、ゾル状である限りにおいてはそのSiO濃度は特に限定はなく、例えば10質量%程度のものから50質量%程度のものまで幅広く使用することができる。更に、商業的規模での生産の場合、希釈水ガラス水溶液と硫酸水溶液とを反応させて得られるシリカヒドロゾルなどを用いることもできる。
【0031】
水性スラリー中に含有されるシリカゾルの割合は、水性スラリー中の全固形分を基準に換算したときに、SiO換算で10〜30質量%、好ましくは15〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%含有する。含有量が10質量%未満では十分な強度が得づらく、触媒の散飛、生成油中への混入等の好ましくない現象が起きやすくなる。30質量%を超えても使用量に見合った触媒性能の向上は得られない傾向にあり、経済的ではない。
本発明においては、シリカゾルは結合剤として機能するものであり、ゼオライト及び粘土鉱物の粒子間に存在して、触媒を微粒子化する時の成形性を良くし、球状にさせ、また得られる触媒微粒子の流動性及び耐摩耗性を図る機能を有する。
【0032】
(アルミナゾル)
本発明の製造方法においては、水性スラリー中に、必要に応じて更にアルミナゾルを含有させることができる(請求項2にかかる発明)。
本発明の製造方法で用いるアルミナゾルとは、ベーマイトや擬ベーマイトやアルミナを水で希釈したもの等が挙げられる。
ここで、アルミナゾルには大きく2つの効果があり、アルミナゾルの種類によってその効果は異なる。まず、擬ベーマイトは、重質留分を軽質留分へ変換し、有用な軽質留分をより多く得られる効果を有し、一方ベーマイトはFCC原料油中に含まれる触媒被毒金属であるバナジウムやニッケルを不動態化させることでゼオライトの結晶構造を維持し高い分解活性が得られると共に、脱水素反応を抑制することで副生成物であるコークを低減する効果も有する。本発明の製造方法においては、アルミナゾルとしてベーマイト及び擬ベーマイトを配合することがより好ましい。
【0033】
水性スラリー中に含有されるアルミナゾルの割合は、水性スラリー中の全固形分を基準に換算したときに、Al換算で0.1〜21質量%、好ましくは0.1〜15質量%、更に好ましくは0.5〜15質量%である。水性スラリー中に含有するアルミナの量を0.1質量%以上とすることで軽質留分の選択性向上及び高分解活性、低コーク選択性の効果を有する触媒が得やすく、21質量%以下とすることで流動接触分解に必要な摩耗強度や嵩密度を有する触媒が得やすくなる。
【0034】
(第一リン酸アルミニウム)
本発明の製造方法で用いる第一リン酸アルミニウムとは、一般式[Al(HPO]で示される水溶性の酸性リン酸塩であり、第一リン酸アルミニウム、モノリン酸アルミニウム又は重リン酸アルミニウムとも称される。第一リン酸アルミニウムは加熱によって脱水縮合され、水分を失うと、酸化物形態となって安定化する。第一リン酸アルミニウムとしては、第一リン酸アルミニウムの状態である限りにおいてはそのAl・3P換算濃度に特に限定はなく、例えば30質量%程度のものから95質量%程度のものまで幅広く用いることができる。また、第一リン酸アルミニウムとしては、本発明の製造方法で得られる触媒の性能に影響しない程度の含有量、例えば10質量%以下の含有量であればホウ素やマグネシウムなどの金属分や、乳酸などの有機化合物を含有するものを用いることもできる。
【0035】
水性スラリー中に含有される第一リン酸アルミニウムの割合は、水性スラリー中の全固形分を基準に換算したときに、Al・3P換算で0.1〜21質量%、好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.5〜10質量%である。また、水性スラリー中に投入した全ての第一リン酸アルミニウムがFCC触媒中に良好な結晶状態で存在し、かつ得られる触媒が良好な性能を得やすいという観点からは、特に0.5〜5質量%であることが好ましい。水性スラリー中に含有する第一リン酸アルミニウムの量が0.1質量%未満では十分な分解活性向上効果が得づらい。21質量%を超えても使用量に見合った触媒性能の向上は得られない傾向にあり、またオクタン価の高いFCCガソリンが得づらくなる。
【0036】
第一リン酸アルミニウムは他のアルミニウム源と比較して、水溶液中で多核錯体のポリマーとして存在しており、表面に多量の水酸基を含有しているため、強い結合力を発揮する。すなわち、上記のシリカゾルと同様に、本発明の接触分解触媒の製造において、結合剤として機能する。
また、第一リン酸アルミニウムを使用することで触媒中の酸性質が変化し、それによって所期の高い分解活性を示し、オクタン価の高いFCCガソリンを得られる触媒とすることができる。
【0037】
(リン/ケイ素モル比)
本発明の製造方法においては、水性スラリー中において、シリカゾル由来のケイ素に対する第一リン酸アルミニウム由来のリンのモル比(以下「リン/ケイ素モル比」とも言う。)を、好ましくは0.01〜0.75、より好ましくは0.01〜0.35、特に好ましくは0.03〜0.35の範囲とする。リン/ケイ素モル比が0.01以上であればより高い分解活性を有する触媒が得られ、また0.75以下であればより高オクタン価のFCCガソリンが得られる触媒が得られるため好ましい。リン/ケイ素モル比は、第一リン酸アルミニウムとシリカゾルの配合量を調節することにより設定することができる。
【0038】
(粘土鉱物)
本発明の製造方法で用いる粘土鉱物としては、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等の粘土鉱物を用いることができる。また、本発明の製造方法においては、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、シリカ−マグネシア、アルミナ−マグネシア、リン−アルミナ、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア−アルミナ等の通常の接触分解触媒に使用される公知の無機酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用して使用することもできる。
【0039】
水性スラリー中に含有される粘土鉱物の割合は、水性スラリー中の全固形分を基準に換算したときに、5〜65質量%であり、10〜60質量%であることが好ましい。水性スラリー中に含有する粘土鉱物の量が5質量%未満であると、触媒強度や、触媒の嵩密度が小さくて、装置の運転に支障をきたすおそれがあり、また、65質量%を超えると、相対的にソーダライトケージ構造を有するゼオライトや結合剤の量が少なくなり、所期の分解活性が得られなくなることや、結合剤量の不足により触媒の調製が困難となるおそれがある。
【0040】
(水性スラリー中の全固形分の含有割合)
上記各成分を含有する水性スラリー中の全固形分の含有割合は、約5〜60質量%になるように調整することが好ましく、10〜50質量%になるように調整することがより好ましい。固形分の含有割合が上記範囲内であれば、蒸発させる水分量が適当となり、噴霧乾燥工程などで支障をきたすことがなく、また、水性スラリーの粘度が高くなり過ぎて、水性スラリーの輸送が困難になることがない。
また、水性スラリー中の全固形分の含有割合は28〜30質量%とし、かつpHを2.8〜2.9とすることでより高い分解活性のFCC触媒を得ることができる。
【0041】
(水性スラリー含有成分の混合)
上記のとおり、本発明においては、上記各成分を各割合で含有する水性スラリーを多段階で混合して調製する。
本発明の製造方法では、この水性スラリーを、まず、第1調製工程で、水性スラリーの含有成分の内、(c)第一リン酸アルミニウムと、(a)ゼオライト及び(b)シリカゾルのうち少なくとも一方とを事前に混合した水性スラリーを得(この水性スラリーを「事前スラリー」とも言う。)、次いで、第2調製工程で、この第1調製工程で得られた水性スラリーに、水性スラリーの含有成分の残余の成分を混合するという、2段階で調製する接触分解触媒の製造方法である(製造方法1)。
水性スラリー成分としてさらに(e)アルミナゾルを含む場合は、(c)第一リン酸アルミニウムと、(a)ゼオライト、(b)シリカゾル及び(e)アルミナゾルからなる群から選ばれる少なくとも1種とを混合した水性スラリーを得(この水性スラリーを「事前スラリー」とも言う。)、次いで、第2調製工程で、この第1調製工程で得られた水性スラリーに、水性スラリーの含有成分の残余の成分を混合するという、2段階で調製する接触分解触媒の製造方法である(製造方法2)。
【0042】
また、(e)アルミナゾルを含む場合は、事前スラリーの調製をさらに分けて、3段階で調製してもよい。すなわち本発明の製造方法は、第1調製工程にて(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合し、さらに第2調製工程にて(c)第一リン酸アルミニウムを混合して水性スラリーを得(この水性スラリーを「事前スラリー」とも言う。)、次いで、第3調製工程で、この第2調製工程で得られた水性スラリーに、水性スラリーの含有成分の残余の成分を混合するという、3段階で調製する接触分解触媒の製造方法である(製造方法3)。
また、上記製造方法3において、第一リン酸アルミニウムの混合時にシリカゾルを混合してもよい。すなわち、第1調製工程にて(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合し、さらに第2調製工程にて(b)シリカゾル及び(c)第一リン酸アルミニウムを混合して水性スラリーを得(この水性スラリーを「事前スラリー」とも言う。)、次いで、第3調製工程で、この第2調製工程で得られた水性スラリーに、水性スラリーの含有成分の残余の成分を混合するという、3段階で調製する接触分解触媒の製造方法である(製造方法4)。
上記製造方法3や製造方法4のように、まずゼオライトとアルミナゾルを混合したスラリーを調製した後に、第一リン酸アルミニウムを混合すると、本願発明の触媒を用いて製造される生成物のオクタン価がより一層高くなり好ましい。
【0043】
水性スラリーの調製を2段階で行う製造方法1及び2における第1調製工程で調製する水性スラリーすなわち事前スラリーの例としては、下記に示すような、第一リン酸アルミニウムに、粘土鉱物以外の種々の成分を組み合わせた水性スラリーが挙げられる。
i)(c)第一リン酸アルミニウムと(a)ゼオライトを含有する水性スラリー、
ii)(c)第一リン酸アルミニウムと(b)シリカゾルを含有する水性スラリー、
iii)(c)第一リン酸アルミニウムと(e)アルミナゾルを含有する水性スラリー、
iv)(c)第一リン酸アルミニウムと(a)ゼオライトと(b)シリカゾルを含有する水性スラリー、
v)(c)第一リン酸アルミニウムと(a)ゼオライトと(e)アルミナゾルを含有する水性スラリー、
vi)(c)第一リン酸アルミニウムと(a)ゼオライトと(b)シリカゾルと(e)アルミナゾルを含有する水性スラリー等。
【0044】
そして、製造方法1〜4において、水性スラリー含有成分のうち、事前スラリーに含まれない成分については、事前スラリーに対して粘土鉱物等の成分とともに後から混合、攪拌して、最終的に均質な、噴霧乾燥工程に供するための水性スラリーを調製する。
【0045】
なお、本発明においては、第一リン酸アルミニウムの全てが、ゼオライト、シリカゾル及びアルミナゾルの少なくとも一つと、水性スラリー中で事前に相互作用していることが肝要であるから、事前スラリーには、第一リン酸アルミニウムと相互作用するのに十分な量のゼオライト、シリカゾル又はアルミナゾルが含まれていればよい。したがって、これらゼオライト、シリカゾル及びアルミナゾル等の相互作用成分は、全量を事前スラリーに混合してもよく、一部を事前スラリーにおいて混合し残余を後から混合してもよい。例えば、製造方法1において、第1調製工程で、第2調製工程で調製される水性スラリーに含有させるべきゼオライトの一部のみを第一リン酸アルミニウムと混合した後に、第2調製工程で残余のゼオライトを添加し噴霧乾燥に付す水性スラリーを調製したとしても、第1調製工程で全ての第一リン酸アルミニウムがゼオライトと十分に相互作用していれば、このようにゼオライトを2回に分けて添加することもできる。
したがって、事前スラリー中の上記各成分の含有量は、上記噴霧乾燥に付される水性スラリー中の各成分の含有量、すなわち製造方法1及び製造方法2にあっては第2調製工程で調製された水性スラリー中の各成分の含有量、製造方法3及び製造方法4にあっては第3調製工程で調製された水性スラリー中の各成分の含有量、を考慮し、その範囲内で選択することができる。ゼオライト、シリカゾル及びアルミナゾル等の相互作用成分の一部を事前スラリーに混合し残余を後から混合する場合、事前スラリーにおけるこれらの含有量は、第一リン酸アルミニウムの質量(Al・3P換算)に対し、ゼオライトにおいては500質量%以上、シリカゾルにおいては2000質量%以上(SiO換算)、アルミナゾルにおいては400質量%以上(Al換算)であることが好ましい。
【0046】
なお、第一リン酸アルミニウムは、混合する際に、予め水を加えてゾル状としたものを用いてもよい。
【0047】
また、上記製造方法1及び2の第1調製工程で調製される水性スラリー中に含まれる全固形分は、特に制限はないが、得られる触媒の物性の観点から、20質量%〜40質量%が好ましく、より好ましくは25質量%〜35質量%、更に好ましくは28質量%〜30質量%である。
また、製造方法3及び4の第1調製工程で調製される水性スラリー中に含まれる全固形分は、特に制限はないが、得られる触媒の物性の観点から、20〜40質量%が好ましく、より好ましくは25〜35質量%、更に好ましくは28〜30質量%である。
また製造方法3及び4の第2調製工程で調製される水性スラリー中に含まれる全固形分は、特に制限はないが、得られる触媒の物性の観点から、20〜40質量%が好ましく、より好ましくは25〜35質量%、更に好ましくは28〜30質量%である。
【0048】
<噴霧乾燥工程>
上記水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーは噴霧乾燥装置による噴霧乾燥がなされ、微小球体(触媒あるいは触媒前駆体)が得られる。
この噴霧乾燥は、噴霧乾燥装置により、200〜600℃のガス入口温度、及び100〜300℃のガス出口温度で行うことが好ましい。噴霧乾燥により得られる微小球体は、20〜150μmの粒子径を有している。
なお、必要に応じて、この噴霧乾燥後、後記の洗浄処理前に100〜500℃程度の乾燥処理を行ってもよい。
【0049】
<洗浄工程>
上記噴霧乾燥工程で得られた微小球体は、必要に応じて、公知の方法で洗浄し、引き続いてイオン交換を行い、上記各種成分の原料から持ち込まれる過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等を除去した後、乾燥し、本発明で目的とする触媒を得ることができる。なお、微小球体に過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等が存在しない場合には、洗浄やイオン交換等を行うことなくそのまま触媒として使用することもできる。
【0050】
上記の洗浄は具体的には、水あるいはアンモニア水を用いて行い、これにより可溶性不純物量を低減させることができる。
この洗浄終了後の微小球体は次いで、イオン交換を行う。イオン交換は具体的には、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホスフィン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムなどのアンモニウム塩の水溶液によって行うことができ、このイオン交換によって微小球体に残存するナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を低減させることができる。
【0051】
本発明で目的とする触媒では、アルカリ金属や可溶性不純物は、乾燥触媒基準で、アルカリ金属が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、可溶性不純物が2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下にまで低減させることが、触媒活性を高める上で好ましい。また、上記の洗浄及びイオン交換の工程は、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、順序を逆にして行うこともできる。
【0052】
<乾燥工程>
上記の洗浄及びイオン交換の操作の後続いて、得られた微小球体を100〜500℃の温度で再度乾燥し、水分含有量を1〜25質量%にして、本発明の目的の触媒を得ることができる。
【0053】
<希土類金属等の含有>
本発明の製造方法においては、希土類金属を得られる触媒へ含有させる工程を有していてもよい。触媒中に希土類金属を含有させると、ゼオライト結晶の崩壊を抑制することができ、触媒の耐久性を高めることができる。
本発明の製造方法においは、希土類金属を触媒へ含有させる態様としては、上記イオン交換によるアルカリ金属の洗浄除去後、微小球体を乾燥する前に、希土類金属によるイオン交換を行う態様や、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトに予め希土類金属を担持させ、いわゆる金属修飾型のソーダライトケージ構造を有するゼオライトとし、該金属修飾型のソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いて触媒を製造する態様が挙げられる。具体的には、希土類金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の化合物の単独あるいは2種以上を含有する水溶液を、乾燥状態あるいは湿潤状態にあるソーダライトケージ構造を有するゼオライト、あるいはそれを含有する触媒にイオン交換あるいは含浸させ、必要に応じて加熱することにより行うことができる。なお、希土類金属を含有させる態様が、上記予め金属修飾型にしたソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いて触媒を製造する態様の場合も、触媒の製造は、修飾型でないソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いて触媒を製造する場合と同様に、前記のスラリー調製工程においてスラリー中に含有させる。
【0054】
希土類金属の種類としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム等の1種あるいは2種以上を含有させることができ、好ましいのはランタン、セリウムである。
なお、本発明で目的とする触媒には、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、希土類以外の金属も含有させることができる。
【0055】
≪本発明で得られる接触分解触媒≫
本発明の製造方法で得られる接触分解触媒は、本発明に従って接触分解触媒を調製するに当たって用いた各成分の原料に起因して、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、シリカゾル由来のケイ素をSiO換算で10〜30質量%、第一リン酸アルミニウム由来のリン・アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、粘土鉱物を5〜65質量%、更には必要に応じてアルミナゾル由来のアルミニウムをAl換算で0.5〜15質量%含有するものである。また、接触分解触媒の調製に当たって、希土類金属や希土類以外の金属を触媒中に含有させた場合は、それらをも含有している。また、触媒性能の観点から、シリカゾル由来のケイ素に対する第一リン酸アルミニウム由来のリンのモル比(リン/ケイ素モル比)が0.01〜0.75であることが好ましく、0.01〜0.35であることがより好ましく、0.03〜0.35であることが特に好ましい。
【0056】
本発明で得られる接触分解触媒は、本発明で用いる水性スラリーが、所定の成分を所定量含有し、かつ所定の多段階で調製されることに起因して、高い分解活性を有し、なおかつオクタン価の高いFCCガソリンを製造できる、優れた性能の接触分解触媒である。
一般に、炭化水素油の流動接触分解は、その性質上、わずかでも分解活性が向上するとFCC装置にかかるコスト及び負担を減少させることができる。更に、一般に、FCCガソリンは、市場に出荷するガソリンへの配合量が多く、FCCガソリンのオクタン価向上により生み出される利益は非常に大きい。即ち、本発明で得られた接触分解触媒は、上記のように、高い分解活性を示し、なおかつオクタン価の高いFCCガソリンを製造できるものであるから、実用上極めて有効である。
【0057】
≪本発明で得られた接触分解触媒を用いた接触分解方法≫
本発明の製造方法によって製造された触媒を使用して炭化水素油を接触分解するには、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素油(炭化水素混合物)を、本発明で得られた触媒に接触させればよい。このガソリン沸点範囲以上で沸騰する炭化水素油とは、原油の常圧あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油を意味し、もちろんコーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(Gasto Liquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油をも包括するものである。 更にこれらの原料炭化水素油は、当業者に周知の水素化処理、即ちNi−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も接触分解の原料として使用できることは言うまでもない。
【0058】
商業的規模での炭化水素油の接触分解は、通常、垂直に据え付けられたクラッキング反応器と触媒再生器との2種の容器からなる接触分解装置に、上記した本発明で得られた触媒を連続的に循環させて行う。すなわち、触媒再生器から出てくる熱い再生触媒を、分解すべき炭化水素油と混合し、クラッキング反応器内を上向の方向に導く。その結果、触媒上に析出したコークによって失活した触媒を、分解生成物から分離し、ストリッピング後、触媒再生器に移す。触媒再生器に移した失活した触媒を、該触媒上のコークを空気燃焼による除去で再生し、再びクラッキング反応器に循環する。一方、分解生成物は、ドライガス、LPG、ガソリン留分、中間留分(LCO)、及び重質留分(HCO)あるいはスラリー油のような1種以上の重質留分に分離する。もちろん、分解生成物から分離したLCO、HCO、スラリー油のような重質留分の一部あるいは全部を、クラッキング反応器内に再循環させて分解反応をより進めることもできる。
【0059】
このときのFCC装置におけるクラッキング反応器の運転条件としては、反応温度を400〜600℃、好ましくは450〜550℃、反応圧力を常圧〜5kg/cm、好ましくは常圧〜3kg/cm、触媒/原料炭化水素油の質量比を2〜20、好ましくは4〜15とすることが適当である。
反応温度が400℃以上であれば、炭化水素油の分解反応が好適に進行して、分解生成物を好適に得ることができる。また、600℃以下であれば、分解により生成するドライガスやLPGなどの軽質ガス生成量を軽減でき、目的物のガソリン留分の収率を相対的に増大させることができ経済的である。
圧力は5kg/cm以下であれば、モル数の増加する反応の分解反応の進行が阻害されにくい。また、触媒/原料炭化水素油の質量比が2以上であれば、クラッキング反応器内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料炭化水素油の分解が好適に進行する。また、20以下であれば、触媒濃度を上げる効果が飽和してしまい、触媒濃度を高くするに見合った効果が得られずに不利となることを回避できる。
【実施例】
【0060】
<触媒の調製>
実施例1
ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては表1の物性を有する安定化Yゼオライトを、第一リン酸アルミニウムとしてはAl・3P換算で46.2質量%のものを、シリカゾルとしてはSiO換算で29.0質量%のものを、アルミナゾルとしてはAl換算で8質量%のベーマイトを、粘土鉱物としてはカオリナイトを、それぞれ使用した。
【0061】
【表1】

【0062】
まず、表1の物性を有する安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、攪拌した後に、第一リン酸アルミニウム2g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これに、カオリナイト66.0g(乾燥基準)、アルミナゾル(ベーマイト)10.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第1調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムと安定化Yゼオライトを含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し(第2調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3リットル(以下、「L」と記すこともある)で2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Aを得た。
【0063】
実施例2
まず、第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)をアルミナゾル(ベーマイト)10.0g(乾燥基準)に添加し、水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これに、カオリナイト66.0g(乾燥基準)及び表1の物性を有する蒸留水で希釈した安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第1調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムとアルミナゾル(ベーマイト)を含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し(第2調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Bを得た。
【0064】
実施例3
まず、第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)とシリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤の水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、カオリナイト66.0g(乾燥基準)及び表1の物性を有する蒸留水で希釈した安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)、アルミナゾル(ベーマイト)10.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記(第1調製工程)で調製した第一リン酸アルミニウムとシリカゾルを含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し(第2調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Cを得た。
【0065】
実施例4
まず安定化Yゼオライト50.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、更にアルミナゾル(ベーマイト)10.0g(乾燥基準)を攪拌した(第1調製工程)。
ここに第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第2調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これにカオリナイト66.0g(乾燥基準)、安定化Y型ゼオライト30.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第2調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムとゼオライトとアルミナゾル(ベーマイト)を含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し(第3調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Dを得た。
【0066】
実施例5
まず、安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、攪拌した後に、第一リン酸アルミニウム2g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これに、カオリナイト76.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第1調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムと安定化Yゼオライトを含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し、噴霧乾燥用水性スラリーを得た(第2調製工程)。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Eを得た。
【0067】
実施例6
まず、安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、攪拌した後に、アルミナゾル(ベーマイト)10.0g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これに第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第1調製工程で調製した安定化Yゼオライトとアルミナゾル(ベーマイト)を含有する水性スラリーに加えて混合した(第2調製工程)。
この第2調製工程で得た水性スラリーに、更にカオリナイト66.0g(乾燥基準)を添加し、10分間混合し(第3調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Fを得た。
【0068】
実施例7
まず、安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、攪拌した後に、第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)、アルミナゾル(ベーマイト)26.0g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第1調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これに、カオリナイト50.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第1調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムと安定化Yゼオライトを含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し、噴霧乾燥用水性スラリーを得た(第2調製工程)。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Gを得た。
【0069】
実施例8
まず安定化Yゼオライト50.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、更にアルミナゾル(ベーマイト)26.0g(乾燥基準)を攪拌した(第1調製工程)。
ここに第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)を添加し、水性スラリーを調製した(第2調製工程)。
別途、シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈して結合剤スラリーを得て、これにカオリナイト50.0g(乾燥基準)、安定化Y型ゼオライト30.0g(乾燥基準)を加えて混合した。そこに、上記第2調製工程で調製した第一リン酸アルミニウムとゼオライトとアルミナゾル(ベーマイト)を含有する水性スラリーを添加し、更に10分間混合し(第3調製工程)、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Hを得た。
【0070】
参考例1
シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈し、結合剤水溶液を調製した。これとは別に、安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記のシリカゾルの結合剤水溶液に、カオリナイト76.0g(乾燥基準)を加えて混合し、更に上記のゼオライトスラリー、第一リン酸アルミニウム2.0g(乾燥基準)を添加し、更に10分間混合し、噴霧乾燥用水性スラリーを得た。
得られた噴霧乾燥用水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Iを得た。
【0071】
比較例1
シリカゾル144.8gを25%硫酸で希釈し結合剤水溶液を調製した。一方、表1の物性を有する安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記の結合剤水溶液に、カオリナイト78.0g(乾燥基準)を加えて混合し、更に上記のゼオライトスラリーを添加し、更に10分間混合し、水性スラリーを得た。
得られた水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Jを得た。
【0072】
<調製した触媒を用いた流動接触分解>
上記の実施例1〜8、参考例1、比較例1にて調製した触媒は、反応容器と触媒再生器とを有する流動床式接触分解装置であるベンチスケールプラントを用い、同一原料油、同一測定条件のもとで接触分解特性を試験した。
なお、試験に先立ち、上記触媒について、実際の使用状態に近似させるべく、即ち平衡化させるべく、500℃にて5時間乾燥した後、各触媒にニッケル及びバナジウムがそれぞれ1000質量ppm、2000質量ppmとなるようにナフテン酸ニッケル、ナフテン酸バナジウムを含むシクロヘキサン溶液を吸収させ、乾燥し、500℃で5時間の焼成を行い、引き続き、各触媒を100%水蒸気雰囲気中、785℃で6時間処理した。
続いて、この実際の使用状態に近似させた触媒を表2に記載の反応条件、表3に記載の性状を示す炭化水素油(脱硫減圧軽油(VGO)50%+脱硫残油(DDSP)50%)を使用し、接触分解反応を行った。
得られた分解生成油は、Agilent technologies社製 AC Simdis Analyzerを用いてガスクロ蒸留法にて解析し、ガソリン(25〜190℃)、中間留分(LCO(190〜350℃))、HCO(350℃以上)の生成物量を解析した。
なお、得られたガソリンのオクタン価はヒューレッドパッカード社製PONA分析装置を用い、ガスクロマトグラフ法によるGC−RONで測定した。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
<調製した触媒の接触分解反応結果>
実施例1〜8、参考例1、比較例1で得られた触媒を用いた接触分解反応で得られた生成物の分布結果、ガソリン留分のオクタン価、及び触媒/原料油(質量比)=8における転化率を表4に示す。ここで転化率は、100−(LCOの質量%)―(HCOの質量%)で表現する。
また、表4には、実施例1〜8、参考例1、比較例1における、噴霧乾燥用水性スラリー中の全固形分、該水性スラリー中の全固形分基準での各成分の固形分換算の割合(Yゼオライトは乾燥基準、シリカゾルは酸化物換算、アルミナゾルも酸化物換算、第一リン酸アルミニウムも酸化物換算、粘土鉱物は乾燥基準での割合)も合わせて示した。
【0076】
【表4】

【0077】
表4から明らかなように、本発明の製造方法により得られた触媒はいずれも、高い転化率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(d)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、及び(d)粘土鉱物を5〜65質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(d)の水性スラリー含有成分の内、(c)第一リン酸アルミニウムと(a)ゼオライト及び(b)シリカゾルのうち少なくとも1方とを混合する第1調製工程、及び該第1調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第2調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
【請求項2】
水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(c)第一リン酸アルミニウムと、(a)ゼオライト、(b)シリカゾル及び(e)アルミナゾルからなる群から選ばれる少なくとも1種とを混合する第1調製工程、及び該第1調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第2調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%、及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合する第1調製工程、該第1調製工程で得られた水性スラリーに、(c)第一リン酸アルミニウムを混合する第2調製工程、及び該第2調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第3調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。
【請求項4】
水性スラリー中の全固形分基準で以下の(a)〜(e)の各水性スラリー含有成分を固形分換算したときに、(a)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、(b)シリカゾルをSiO換算で10〜30質量%、(c)第一リン酸アルミニウムをAl・3P換算で0.1〜21質量%、(d)粘土鉱物を5〜65質量%、及び(e)アルミナゾルをAl換算で0.1〜21質量%含有する水性スラリーを調製する水性スラリー調製工程、
該水性スラリー調製工程で得られた水性スラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程を含む接触分解触媒の製造方法であって、
前記水性スラリー調製工程が、前記(a)〜(e)の水性スラリー含有成分の内、(a)ゼオライト及び(e)アルミナゾルを混合する第1調製工程、該第1調製工程で得られた水性スラリーに、(b)シリカゾル及び(c)第一リン酸アルミニウムを混合する第2調製工程、及び該第2調製工程で得られた水性スラリーに、前記水性スラリー含有成分の残余の成分を混合する第3調製工程を含むことを特徴とする接触分解触媒の製造方法。

【公開番号】特開2012−61409(P2012−61409A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207136(P2010−207136)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】