説明

接触式変位計

【課題】温度ドリフトの影響を排除して安定して表示させる接触式変位計を提供する。
【解決手段】筐体11と、一の方向に移動することが可能に取り付けてある接触子12と、イメージセンサ13とを有し、接触子12の基準位置からの相対変位を計測する。接触子12の筐体11に対する各相対位置に対応する温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量と、伸縮量相当量の時間変化に関する情報とを記憶しておく。イメージセンサ13により読み取られた相対位置に基づいて、温度平衡状態での伸縮量相当量を抽出し、過去に算出した伸縮量相当量、抽出された温度平衡状態での伸縮量相当量、時間変化に関する情報、及び読み取られた相対位置と過去に算出した伸縮量相当量に対応した相対位置との読み取り時間差に基づいて算出された伸縮量相当量に基づいて相対位置の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCD、CMOS等の受光素子を用いたラインセンサにて接触子の変位を計測する接触式変位計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の接触式変位計は、一の方向に移動することが可能に取り付けてある接触子と、光学式のセンサ等を備えている。そして、接触子を基準位置に移動させた後、接触子を計測対象物に接触させたまま移動させ、センサが接触子の移動を光学的手段によって読み取り、相対変位を計測する。
【0003】
例えば特許文献1では、接触子が設けられたスピンドルを移動させ、基準位置となる原点に対する相対位置を受光素子であるフォトダイオードにより検出する光学式変位測長器が開示されている。
【特許文献1】特開2003−294489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子デバイスの発展に伴い、CMOS、CCD等のラインセンサデバイスやCPU等の制御デバイスが小型化しており、接触式変位計等のセンサヘッド内にも収容できるようになってきた。CMOS、CCD等は、従来の光学式センサと比較して、いずれも通電による発熱量が大きいため、センサヘッドの温度を上昇させる傾向にある。センサヘッドの温度が上昇した場合、筐体の内外で温度差が発生してセンサヘッドに隣接する接触子を熱膨張又は熱収縮させることから、計測誤差の原因となりやすい。特に、CPU等の制御素子をセンサヘッドに内蔵する場合、センサヘッドの温度が一層上昇し易くなる。
【0005】
接触子の温度上昇に伴う計測値の真値からの変動は、「温度ドリフト」と呼ばれている。特に、接触式変位計は、接触子が可動式であるので、計測の都度ラインセンサと接触子との距離が変わる。したがって、計測の都度、接触子がセンサヘッド等の発熱源から受け取る熱量も変動するため、筐体内外での温度差による接触子の変形量が一定しない。そのため、温度ドリフトに対する適正な補正を行うことが困難であるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接触子が筐体内部に発生する熱による伸縮の影響を受けた場合であっても、正確な計測値を出力することができる接触式変位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1発明に係る接触式変位計は、筐体と、該筐体に対して一の方向に移動することが可能に取り付けてある接触子と、該接触子の前記筐体に対する相対位置を所定のタイミングで読み取るイメージセンサとを有し、前記接触子の基準位置からの相対変位を計測する接触式変位計において、前記接触子の前記筐体に対する所定の相対位置に対応する温度平衡状態における前記接触子の伸縮量相当量と、該伸縮量相当量の時間変化に関する情報とを記憶する記憶手段と、前記イメージセンサにより読み取られた前記相対位置に基づいて、温度平衡状態での伸縮量相当量を前記記憶手段から抽出する抽出手段と、過去に算出した伸縮量相当量、抽出された温度平衡状態での伸縮量相当量、時間変化に関する情報、及び読み取られた前記相対位置と前記過去に算出した伸縮量相当量に対応した相対位置との読み取り時間差に基づいて伸縮量相当量を算出し、当該伸縮量相当量に基づいて前記相対位置の補正を行う補正手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
第1発明では、イメージセンサで読み取られた相対位置に基づいて、温度平衡状態での伸縮量相当量を抽出し、過去に算出した伸縮量相当量、抽出された温度平衡状態での伸縮量相当量、時間変化に関する情報、及びイメージセンサで読み取られた相対位置と過去に算出した伸縮量相当量に対応した相対位置との読み取り時間差に基づいて算出された伸縮量相当量に基づいて相対位置の補正を行う。温度平衡状態における接触子の伸縮量が、イメージセンサで読み取られた相対位置に対応する特性に着目し、接触子の筐体に対する各相対位置に対応する温度平衡状態における接触子の伸縮量相当量に基づいて相対位置の補正を行う。したがって、接触子を移動させた直後から温度ドリフトの影響に対する相対位置の補正を行うことができ、例えば一定のサンプリング間隔ごとに計測する都度、補正により正しい計測値を出力することが可能となる。
【0009】
なお、「伸縮量相当量」とは、相対位置と温度平衡状態における接触子の伸縮量との関係を比例近似し、比例乗数を含む比例式にて算出された伸縮量を意味する。「時間変化に関する情報」とは、いわゆる時定数であり、例えば放射線の半減期等と同様の概念であり、温度平衡状態における接触子の伸縮量と同様に相対位置に基づいた値となる。「読み取り時間差」とは、過去において伸縮量相当量を算出したタイミングと今回算出したタイミングとの時間差であり、イメージセンサにより前回相対位置を読み取ったタイミングと、今回相対位置を読み取ったタイミングとの時間差を意味する。
【0010】
また、第2発明に係る接触式変位計は、第1発明において、温度平衡状態での前記相対変位の最大値が外部の計測手段によって計測された真値と一致するように予め調整されていることを特徴とする。
【0011】
第2発明では、温度平衡状態での相対変位の最大値を、外部の計測手段、例えば熱による影響を受けず正確に計測することができる計測器によって計測された真値と一致するよう調整しておくことにより、何らかの影響によって過去に取得した各種の情報に誤差が含まれている場合であっても、接触子が温度平衡状態に収束しさえすれば必ず表示値が基準値と一致する。したがって、次回の計測においては前回までの誤差が蓄積されることがなく、正確な計測値を出力することが可能となる。
【0012】
また、第3発明に係る接触式変位計は、第1又は第2発明において、一定時間間隔で計数するカウンタを備え、前記補正手段は、該カウンタのカウンタ値に基づいて前記読み取り時間差を取得し、前記伸縮量相当量を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0013】
第3発明では、一定時間間隔で計数するカウンタのカウンタ値に基づいて読み取り時間差を取得し、伸縮量相当量を算出することにより、温度平衡状態に到達する前に接触子を移動させた場合であっても、カウンタ値に基づいて伸縮量相当量を算出することができ、正確な計測値を出力することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、温度平衡状態における接触子の伸縮量が、イメージセンサで読み取られた相対位置に対応する特性に着目し、接触子の筐体に対する各相対位置に対応する温度平衡状態における接触子の伸縮量相当量に基づいて相対位置の補正を行う。したがって、接触子を移動させた直後から温度ドリフトの影響に対する相対位置の補正を行うことができ、例えば一定のサンプリング間隔ごとに計測する都度、補正により正しい計測値を出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施の形態の説明で参照する図面を通じて、同一又は同様の構成又は機能を有する要素については、同一又は同様の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る接触式変位計の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る接触式変位計10は、筐体11の内部に、所定の方向、すなわち筐体11の長手方向に移動することが可能な接触子12を備えている。
【0017】
接触子12は、筐体11に対し一定の方向に直線的に移動することができる。投光素子14は光源であり、投光素子14から発せられた光はコリメータレンズ15を通過することによって略平行光となってラインセンサ13に照射される。投光素子14及びコリメータレンズ15からなる光学機構は、斯かる構成に限定されるものではなく、ラインセンサ13に対して幅広な平行光を誘導することができる機構であれば何でも良い。
【0018】
ラインセンサ13は、CMOS、CCD等の受光素子が所定の間隔で配列されたイメージセンサである。スケール16を用いて接触子12の停止位置を読み取り、基準位置からの相対変位を計測する。すなわち相対変位の計測時には、まず接触子12が筐体11から最大長引き出された状態を基準位置とし、接触子12が基準位置にある状態で接触子12を計測対象物に接触させ、そのまま押し込んで接触子12の相対変位を求める。
【0019】
制御回路17は、CPU17a、メモリ17b、入出力インタフェース17c等を備え、互いに内部バスにより接続されている。制御回路17は、投光素子14、操作部18及び表示部19にも接続されている。CPU17aは、一定のサンプリング間隔ごとに計測値を取得し、メモリ17bに記憶されている種々の情報に基づいて相対位置ごとに適切な補正を実行し、補正された計測値を表示部19に表示する。したがって、計測値の読み取り時間差はサンプリング間隔に一致している。入出力インタフェース17cは、制御出力、アナログ出力、BCD出力等を出力することが可能な外部入出力ポートである。
【0020】
ラインセンサ13を構成するイメージセンサは、通電されることにより読み取り部であるセンサヘッドが発熱しやすく、筐体11の内部と外部との間に温度差を生じさせる。また、接触子12は一定の方向に移動するため、センサヘッドと接触子12との距離によって接触子12が受け取る熱量が変動する。したがって、接触子12が移動する都度、受け取る熱量が変動し、接触子12の伸縮量も変動する。このため、接触子12を移動させた後も、温度平衡状態に達するまでの間、温度ドリフトが発生して表示部19に表示される計測値が変動する。
【0021】
図2は、接触子12を相対変位させて静止した直後からの伸縮量の時間変化を表すグラフである。図2では、接触子12の押し込み量である相対変位xに応じて、伸縮量の時間変動を示している。つまり、グラフAからEまで順に相対変位xが0mm、3mm、6mm、9mm、12mmである場合の伸縮量を示している。
【0022】
図2に示すように、温度平衡状態における静止直後からの伸縮量は、相対変位xとほぼ比例関係にあることがわかる。したがって、各相対変位における熱変形に起因する伸縮量である伸縮量相当量は、最大変位L(x=L)での温度平衡状態における伸縮量相当量から比例計算で求めることが可能であると考えることができる。以下、押し込み量である相対変位xごとに温度ドリフトを補正して正確な計測値を出力する処理手順について説明する。
【0023】
まず、接触子12を基準位置で一定時間放置し温度平衡状態とする。その後、急峻に最大変位Lまで変位させ、最大変位Lに到達した時点で表示部19に表示されている生値aを計測する。生値aは、ラインセンサ13から読み取った値を表示部19に表示したものであり誤差を含んでいてもよい。なお、「急峻に」変位させるのは接触子12が熱により伸縮するよりも早く変位させるためである。
【0024】
次に、得られた生値aを「真値」と比較し、差が生じていた場合には生値aが真値として表示されるようにスケールリング調整をする。ここで「真値」とは、信頼性の高い他の計測手段、例えば精度の高い検査用治具等により計測される真の値を意味する。なお、生値aを真値とするためのスケールリング調整は、「スパン調整」と「オフセット調整」とから構成され、生値aが「真値」と一致するように1次式の写像変換を行うものである。以後、接触子12に温度変化の影響がでる前の状態での生値をスパン調整した真値を「基準値」という。
【0025】
接触子12を最大変位Lまで移動した状態で一定時間放置することにより温度平衡状態となった後、生値bを計測する。生値bは、ラインセンサ13から放出される熱の影響を受けて伸縮する接触子12の温度平衡状態における計測値である。接触子12の熱変形の影響が最大となる伸縮量相当量(=補正量)Emaxは、(生値b−生値a)として求めることができる。
【0026】
上述の通り、相対変位に応じて補正するべき伸縮量相当量Eは相対変位xに正比例するため、基準位置における伸縮量相当量Eを0、最大変位Lにおける伸縮量相当量をEmaxとした2点を直線近似することにより、任意の相対変位xに対する伸縮量相当量Eを求めることができる。
【0027】
図3は、相対変位xと伸縮量相当量Eとの関係を示すグラフである。横軸は相対変位x、縦軸は温度平衡状態における伸縮量相当量Eである。相対変位xと伸縮量相当量Eとは比例関係にあることから、任意の相対変位xaに対する伸縮量相当量Eaは、式(1)に示すような相対変位xの関数として算出することができる。
【0028】
E=(Emax/L)・x (0≦x≦L) ・・・・(1)
【0029】
上述のように、相対変位xと伸縮量相当量Eとの間に比例関係が存在しない場合、予め複数の点における伸縮量相当量Eから近似式を求める、又は各相対変位xの変換テーブルを用意して予め相対変位xと伸縮量相当量Eとの関係を定義しておいても良い。
【0030】
図4は、相対変位xと伸縮量相当量Eとの関係を示す変換テーブルの構成の例示図である。図4に示すように、相対変位xのサンプリング点ごとの伸縮量相当量Eを、メモリ17bに記憶しておく。相対変位xがサンプリング点の間である場合には、近接する2つのサンプリング点を用いて補間して任意の相対変位における伸縮量相当量Eを求めることができる。
【0031】
以上のよう本実施の形態によれば、温度平衡状態での伸縮量相当量Eの収束点を求めることができ、計測された生値から伸縮量相当量Eを加減算することにより、正しい計測値を出力することができる。しかし、実際の計測においては、接触子12の温度は温度平衡状態に達するまで時々刻々と変化し、伸縮量相当量Eも時間の関数として変動する。そのため、正しい伸縮量相当量Eを得るために温度平衡状態まで待つ必要があり、計測に相当の時間を要することから現実的ではない。また、温度平衡状態になるまでの間の温度ドリフトの影響を排除することもできない。
【0032】
そこで、一定のサンプリング間隔ごとに温度変化量ΔTを算出することによって、必要な伸縮量相当量Eを毎回算出することで、温度ドリフトの影響を受けることなく「基準値」を得ることができる。以下、その方法について説明する。
【0033】
計測開始から現在までに算出された伸縮量相当量Eを把握するため、一定時間間隔で計数するカウンタを設け、カウンタのカウンタ値に基づいて読み取り時間差を取得し、相対位置xでの伸縮量相当量Eを算出する。なお、「読み取り時間差」とは、過去において伸縮量相当量Eを算出したタイミングと今回算出したタイミングとの時間差であり、相対位置xを前回読み取ったタイミングと今回読み取ったタイミングとの時間差を意味する。したがって、カウンタを設けず、相対位置xを読取るタイミングを予め定めておき、定められたタイミングの時間差を上述の時間差としても良い。例えば、1ms周期で相対位置xを読取る場合には、読み取り時間差を1msと予め記憶して、後述の演算に使用すれば良い。
【0034】
カウンタ値に基づいて伸縮量相当量Eを算出することにより、カウンタに何らかの誤差が生じた場合であっても、時間が十分に経過して温度平衡状態に収束した場合には、必ず基準値が表示されるため、次回以降の計測時まで生じた誤差が蓄積されない。
【0035】
以下、伸縮量相当量Eを算出する方法について説明する。伸縮量相当量Eが、熱量Q、温度Tと線形の関係にあるとみなすことができる条件下では、熱流速、つまり熱量の授受に着目した微分方程式を解くことによって伸縮量相当量Eを得ることができる。前提として、以下の条件を具備するものと仮定する。
【0036】
(1)接触子12は均質であり、比熱及び熱膨張率が接触子12内で一定であり、温度抵抗が0であること
(2)熱流速は温度差に比例し、接触子12の押し込み量(相対変位)xの関数であること
(3)熱変動の時定数は、サンプリング間隔に比べて十分に大きいこと
【0037】
図5は、接触子12の熱流速モデルを示す模式図である。図5の矢印Aは、接触子12に流入する熱流速iINを表し、矢印Bは、接触子12から流出する熱流速iOUTを表す。また、筐体11の内部温度をT、筐体11の外部温度をT、接触子12の相対変位をx、接触子12の温度をT、熱量をQ、熱流速i、時刻tとする。
【0038】
ここで、熱流速とは単位時間当たりに移動する熱量を意味する。したがって、式(2)に示すように定義することができる。
【0039】
dQ/dt=i ・・・・(2)
【0040】
接触子12に蓄積される熱量の単位時間当たりの増分は、流入する熱流速から流出する熱流速を減算すれば良いので、式(2)を式(3)に変形することができる。
【0041】
dQ/dt=iIN−iOUT ・・・・(3)
【0042】
ここで、上述した熱流速モデルでは、接触子12の外表面が温度境界面であり、熱流速は、温度境界面で分けられる領域間の温度差と温度境界面の面積とに比例すると考えられる。したがって、流入する熱流速iIN及び流出する熱流速iOUTは、式(4)のように表すことができる。式(4)において、aは正の定数であり、Lは接触子12の最大変位を示す。
【0043】
IN=a(T−T)・x
OUT=a(L−x)(T−T
・・・・(4)
【0044】
式(3)に式(4)を代入することで、式(5)を求めることができる。
【0045】
dQ/dt=−aLT+a(T−T)・x+aLT ・・・・(5)
【0046】
一方、接触子12に蓄積される熱量と温度との関係は、比熱をcとすると、式(6)のように表すことができる。
【0047】
Q=cT ・・・・(6)
【0048】
式(6)に式(5)を代入してまとめることで、式(7)の微分方程式が求まる。
【0049】
dT/dt+aT−ax−a=0 ・・・・(7)
但し、a、L、(T−T)、Tはいずれも正の定数であるため、a、a、aはいずれも正の定数である。
【0050】
式(7)の微分方程式を解いて、接触子12の温度Tを求めると、式(8)のようになる。式(8)において、Aは定数、b、bはいずれも正の定数である。
【0051】
T=Aexp(−at)+bx+b ・・・・(8)
【0052】
ここで、初期値は既知であり、初期値をT(時刻t=0でT=T)とした場合、時刻tに応じて時々刻々と変化する温度Tは、実際に温度測定することなく式(8)の関係から求めることができる。しかしながら、式(8)の「bx+b」は、相対変位xにより変化するので、式(8)のままでは既知の初期値T及び時刻tのみでは時々刻々と変化する温度Tを求めることができない。そこで、初期値を前回相対位置xを読み取った読取時刻における温度(以下、温度前回値)Tとし、前回相対位置xを読み取った読取時刻と今回相対位置xを読み取った読取時刻との時間差である読み取り時間差Δtにおける温度変化量ΔTを算出することで、「bx+b」の変化に対応して温度Tを算出できるようになる。つまり、計測する都度、温度前回値Tを初期値として温度Tを算出するので「bx+b」の変化に対応して温度Tを算出できるようになる。この温度変化量ΔTは、式(9)で表すことができる。ここで、ωは、初期値の0.632(=1−1/e)倍になるまでの時間である熱変動の時定数を意味しており、aの次元を修正したものである。
【0053】
ΔT=T−T=(bx+b−T)(1−exp(−Δt/ω))・・・(9)
【0054】
式(9)における「bx+b」は、式(8)にてtが無限大(t→∞)となった場合の温度T、つまり温度平衡状態における接触子12の最終到達温度を意味している。したがって、前述の前提条件、あるいは、それに準じた条件下では、最終到達温度が接触子12の相対変位xと比例関係にあることが明らかである。
【0055】
一方、時定数ωは、前述の前提条件、又はそれに準じた条件下では、接触子12の相対変位xと独立した関係にある定数であり、読み取り時間差Δtも相対変位xと独立した関係にある定数である。したがって、予め接触子12の各相対変位xに対する最終到達温度Tを計測しておき、相対変位xから温度変化量ΔTを求めるための近似式又は変換テーブルを準備しておけば、サンプリング点ごとに温度変化量ΔTを算出できることになる。温度変化量ΔTは、式(10)により求めることができる。
【0056】
ΔT=(T−T)(1−exp(−Δt/ω)) ・・・・(10)
【0057】
なお、式(4)では、熱流速が接触子12の外表面の面積、すなわち相対変位xに比例することを前提としているが、接触子12が均質とみなすことができない等の前述の前提条件、あるいは、それに準じた条件から外れる場合、熱流速が比例関係ではない相対変位xの関数となることが想定される。この場合でも、温度変化量ΔTは式(11)のように表すことができる。
【0058】
ΔT=(T−T)(1−exp(−Δt/ω(x))) ・・・・(11)
【0059】
このように、最終到達温度Tだけでなく、時定数ω(x)についても相対変位xに依存するようになる。したがって、相対変位xに対応する最終到達温度TTだけでなく相対変位xにおける時定数ω(x)を併せて計測しておくことにより、温度変化量ΔTをサンプリング点ごとに正確に算出することができる。
【0060】
温度変化量ΔTと接触子12の伸縮量相当量との関係は、近似式又は関係を記憶する変換テーブルに基づいて求めることができる。また、温度変化量ΔTを求めてから伸縮量相当量を求める代わりに、接触子12の伸縮量相当量E(接触子12の相対変位xが0の時の接触子12の長さを基準とした時の伸縮量)が、温度に対し線形関係にあるとの仮定を利用して、直接的に伸縮量相当量Eを求めても良い。この場合、接触子12の相対変位xと接触子12の伸縮量相当量Eとの関係は、式(12)のように求めることができる。ここでEは、前回計測時の伸縮量相当量を示している。
【0061】
E=E+(E(x)−E)(1−exp(−Δt/ω(x)))・・・(12)
【0062】
なお、E(x)は、相対変位xに対応した温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量であり、予め接触子12の各相対変位xに対する最終到達温度Tを計測し記憶する代わりに、この各相対変位xに対応した温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量E(x)を計測し記憶しておけば良い。ここで、厳密には、相対変位xは、接触子12の伸縮量相当量Eの影響を受ける。しかし、伸縮量相当量Eは相対変位xに対し0.01%程度のオーダーであることから、実質的には温度平衡状態での接触子12の伸縮量相当量E(x)を決定するための相対変位xについては、接触子12の伸縮量相当量Eの影響を考慮しなかったとしても算出される伸縮量相当量Eへの影響は実質的に無い。
【0063】
したがって、計測値を補正する補正量Cmは、接触子12の伸縮量相当量Eから温度平衡状態での接触子12の伸縮量相当量E(x)を減算した値となるので、式(13)のように表すことができる。
【0064】
Cm=E−E(x) ・・・・(13)
【0065】
補正後の計測値Mcは、相対変位xに補正量Cmを加算することにより求めることができるので、式(14)により求めることができ、表示部19に表示される。
【0066】
Mc=x+Cm ・・・・(14)
【0067】
このように、時々刻々変化する温度、熱量、伸縮量相当量を直接的に測定することなく、予め相対変位xと温度平衡状態における伸縮相当量及び熱変動(温度変化)の時定数を記憶しておくだけで、温度平衡状態で誤差が0となるように補正するとともに、表示部19に表示される計測値は、常に真値が表示されるよう補正することができる。
【0068】
図6は、本発明の実施の形態に係る接触式変位計10のCPU17aの相対変位xに対応する伸縮量相当量Eの算出手順を示すフローチャートである。図6において、接触式変位計10のCPU17aは、相対変位xと温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量E(x)との関係を関数式として、又は両者の対応関係を一定間隔のサンプリング値で記憶する変換テーブルとしてメモリ17bに記憶し、時定数ω(x)をメモリ17b内に記憶しておく(ステップS601)。
【0069】
CPU17aは、現在の相対変位xの計測値を取得し(ステップS602)、取得した相対変位xに基づいて、対応する温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量E(x)を初期値として算出する(ステップS603)。
【0070】
CPU17aは、初期状態から所定時間経過したか否かを判断し(ステップS604)、CPU17aが所定時間経過していないと判断した場合(ステップS604:NO)、CPU17aは、計測待ち状態となる。CPU17aが、所定時間経過したと判断した場合(ステップS604:YES)、CPU17aは、この間に接触子12が移動したことによる新たな相対変位xの計測値を取得する(ステップS605)。ここでの所定時間が「読み取り時間差」に相当し、例えば1msである。
【0071】
CPU17aは、取得した相対変位xに基づいて、対応する温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量E(x)を算出し(ステップS606)、時定数ω(x)を用いて、式(12)に基づいて新たな接触子12の伸縮量相当量Eを算出する(ステップS607)。
【0072】
CPU17aは、上述した処理を繰り返すことにより、接触子12の伸縮量相当量Eから温度平衡状態での接触子12の伸縮量相当量E(x)を減算することで、補正量Cmを求め、相対変位xに補正量Cmを加減算することにより補正後の計測値Mcを求める。
【0073】
図7は、図2のグラフにおける各サンプリング点にて、補正量Cmを減算した伸縮量を示すグラフである。サンプリング間隔は一定であり、サンプリング間隔ごとに計測値が読み取られる。そして、サンプリング点ごとに補正量Cmが計算され、計測値が読み取られる都度補正量Cmを加減算することにより、±0.05μm以下の伸縮量となっている。したがって、高い精度で安定した計測値を出力することができる。
【0074】
図8は、相対変位xを連続的に変化させた場合の、伸縮量相当量Eの時間変化を表すグラフである。相対変位xは、0mm(0〜2分)→12mm(2〜4分)→4mm(4〜10分)と連続的に変化させている。図8に示すように、伸縮量相当量Eは移動直後に大きく、温度平衡状態に近づくほど時定数ωで減衰する。計測開始後2分間はほぼ0であり、接触子12を大きく押し込んで相対変位xを12mmとした場合、移動直後はまだ伸縮量が小さいため伸縮量相当量Eの大きさは約−0.9μmとなるが、その後約2分後には約−0.1μmまで減少する。また、相対変位xを4mmに戻した場合、今度は伸縮が始まるが、すでに伸縮量が大きいため伸縮量相当量Eとしては+0.5μmとなり、その後減衰して温度平衡状態での伸縮量相当量Eは実質的に0となる。このように、計測開始から時間が経過するほど伸縮量相当量Eが小さくなることが明らかである。
【0075】
図9は、図8のグラフにおける各サンプリング点から、サンプリング間隔ごとに伸縮量相当量Eから補正量Cmを減算した伸縮量の時間変化を示すグラフである。図9に示すように、全てのサンプリング点において、伸縮量がほとんど0となるように補正されていることが分かる。したがって、接触子12をどの時点でどれだけ移動させても、熱による伸縮の影響を受けることなく真値を出力することが可能となる。
【0076】
なお、上述した実施の形態では、初期状態における計測値を真値となるように補正し、接触子12の伸縮量相当量Eと温度平衡状態における接触子12の伸縮量相当量E(x)との差を補正量としている。しかし、温度平衡状態以後の計測値が真値となるように、基準値に生値b、すなわち温度平衡状態における接触子12の計測値が真値となるようにスパン調整したものを用いても良い。このようにしても、次回の計測の際に過去の誤差が蓄積されることがない。
【0077】
また、上述した実施の形態に示すように、時定数ωは相対位置xの関数であっても良いし、一定値であっても良い。一定値とした場合であっても補正後の計測値のバラツキ度合いは時定数ω(x)を相対位置xの関数とした場合とほとんど変化しないので、実際に十分使用可能であることが確認されている。
【0078】
また、相対位置xのサンプリング間隔よりも長い間隔で伸縮量相当量を算出しても良い。この場合、すべてのサンプリング点を用いるのではなく、例えば2個に1個のサンプリング点を用いて計測値を補正する。したがって、演算処理負荷を軽減することが可能となる。
【0079】
なお、上述した実施の形態では、接触式変位計10の筐体11内に入出力インタフェース17c、操作部18、表示部19等を収容しているが、本件発明はこれに限定されるものではなく、例えば入出力インタフェース17c、操作部18、表示部19等が、筐体11とは別体のセンサコントローラに設けられ、筐体11には、接触子12、ラインセンサ13、投光素子14、コリメータレンズ15、スケール16及びCPU17aとメモリ17bとから構成される演算回路が収容された、いわゆる分離型センサにも適用することが可能である。
【0080】
その他、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変形、置換等が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態に係る接触式変位計の構成を示すブロック図である。
【図2】接触子を相対変位させて静止した直後からの伸縮量の時間変化を表すグラフである。
【図3】相対変位と伸縮量相当量との関係を示すグラフである。
【図4】相対変位と伸縮量相当量との関係を示す変換テーブルの構成の例示図である。
【図5】接触子の熱流速モデルを示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る接触式変位計のCPUの相対変位に対応する伸縮量相当量の算出手順を示すフローチャートである。
【図7】各サンプリング点にて、補正量を減算した伸縮量を示すグラフである。
【図8】相対変位を連続的に変化させた場合の、伸縮量相当量の時間変化を表すグラフである。
【図9】各サンプリング点から、サンプリング間隔ごとに伸縮量相当量から補正量を減算した伸縮量の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10 接触式変位計
11 筐体
12 接触子
13 ラインセンサ(イメージセンサ)
14 投光素子
15 コリメータレンズ
16 スケール
17 制御回路
17a CPU
17b メモリ
17c 入出力インタフェース
18 操作部
19 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
該筐体に対して一の方向に移動することが可能に取り付けてある接触子と、
該接触子の前記筐体に対する相対位置を所定のタイミングで読み取るイメージセンサとを有し、前記接触子の基準位置からの相対変位を計測する接触式変位計であって、
前記接触子の前記筐体に対する所定の相対位置に対応する温度平衡状態における前記接触子の伸縮量相当量と、該伸縮量相当量の時間変化に関する情報とを記憶する記憶手段と、
前記イメージセンサにより読み取られた前記相対位置に基づいて、温度平衡状態での伸縮量相当量を前記記憶手段から抽出する抽出手段と、
過去に算出した伸縮量相当量、抽出された温度平衡状態での伸縮量相当量、時間変化に関する情報、及び読み取られた前記相対位置と前記過去に算出した伸縮量相当量に対応した相対位置との読み取り時間差に基づいて伸縮量相当量を算出し、当該伸縮量相当量に基づいて前記相対位置の補正を行う補正手段と
を備えることを特徴とする接触式変位計。
【請求項2】
温度平衡状態での前記相対変位の最大値が外部の計測手段によって計測された真値と一致するように予め調整されていることを特徴とする請求項1記載の接触式変位計。
【請求項3】
一定時間間隔で計数するカウンタを備え、
前記補正手段は、該カウンタのカウンタ値に基づいて前記読み取り時間差を取得し、前記伸縮量相当量を算出するようにしてあることを特徴とする請求項1又は2記載の接触式変位計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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