説明

接触気相酸化方法

【課題】
工業的な規模で長期間に渡り安定した接触気相酸化反応を行う方法を提供する。
【解決手段】
反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の少なくとも一部を未使用の触媒に交換および/またはガス出口部に未使用の触媒を追加充填して層長を延長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒が充填されてなる固定床反応器を用いた少なくとも1種の有機化合物を分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化する方法に関する。詳しくは、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された活性の劣化した触媒の少なくとも一部を未使用の触媒に交換および/または未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長する接触気相酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学工業の分野において、固定床反応器を用いた接触気相酸化反応は、例えば、エチレンの接触気相酸化による酸化エチレンの製造、プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールおよび/またはメチルターシャリーブチルエーテルを出発原料とした二段酸化による(メタ)アクリル酸の製造、o−キシレンおよび/またはナフタレンの接触気相酸化による無水フタル酸の製造、ベンゼンやn−ブタンの接触気相酸化による無水マレイン酸の製造など数多く実施されている。
【0003】
このような固定床反応器を用いた接触気相酸化反応において、より長期間安定かつ効率的に目的生成物を製造することを目的に各社から様々な提案がされている。
【0004】
例えば、特許文献1および特許文献2には、接触気相酸化反応により劣化した触媒の少なくとも一部を未使用の触媒に抜出交換することで、触媒層全体を交換することなくより長期間安定して目的生成物を製造する方法が開示されている。また、特許文献3には、斜交羽根車を有する熱交換媒体循環機構を持った反応器において、最上部の触媒層を反応に未使用の触媒に交換できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許公開(US−A1)2004/0015013号公報
【特許文献2】米国特許公開(US−A1)2007/0155988号公報
【特許文献3】特開2003−83289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1〜特許文献3に記載の方法は、実質、反応ガス流れ方向に対してガス入口部に充填された触媒の一部を抜出交換するものであり、そのためにはガス入口部の触媒の上流側に配置された予熱層までも抜出交換する必要があるため経済的な面から好ましくない。また、特許文献1および特許文献3においては、性能が劣化したガス入口部の触媒の一部を未使用の触媒にそのまま交換するため、交換した部位とすでに反応に供してきた部位とで触媒活性のバランスが合わず局所的な高温発熱部の制御が困難となり暴走反応を引き起こしかねない。また、その過度の発熱により触媒劣化が促進される可能性もあり、長期運転のみならず安全運転の面からも好ましくない。その対策として特許文献2においては、反応ガス入口部の触媒を交換する際に、未使用の触媒に比べ体積比活性を低下させた触媒を用いることを開示しているものの、実質は未使用の触媒を不活性な担体で希釈する方法であり、その場合、反応管に充填される触媒量すなわち活性成分量が減少することになり、新たに充填した触媒の負荷が高くなるため長期運転の面から好ましくない。
【0007】
かくして、本発明の目的は、触媒が充填されてなる固定床反応器を用いた少なくとも1種の有機化合物の分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化において、工業的な規模で長期間に渡り安全にかつ、安定して効率的に接触気相酸化反応を行うための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に関し、上記従来公知の技術とは逆に、これらの接触気相反応においては、反応基質(原料)に対する反応次数がほぼ1次であるため、特に前記引用文献の実施例のようなガス入口部から出口部に向かって活性が高くなるよう充填する公知の方法では、ガス入口部の触媒を交換するより出口部を交換する方が、低下した触媒性能の回復効果が高くなると考え鋭意検討を行った結果、触媒が充填されてなる固定床反応器を用いた少なくとも1種の有機化合物の分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化において、反応に供した触媒層であっても、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒は局所的な高温発熱がなく触媒性能が安定化しており、その少なくとも一部を未使用の触媒に交換および/または未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長することで、長期間反応に供して低下した性能を、触媒活性のバランスに影響を与えることなく効率的に回復させ、長期に渡り安定かつ、安全に接触気相酸化反応を行うことが可能となることを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記課題の解決により、工業的な規模で長期に渡り安定した接触気相酸化反応を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる接触気相酸化方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0011】
本発明によれば、触媒を充填してなる固定床反応器を用いた少なくとも1種の有機化合物の分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化において、反応に供して性能低下した際に、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の少なくとも一部を未使用の触媒に交換および/または未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長すればよい。なお、本発明における未使用の触媒とは、反応に供していない触媒のことである。
【0012】
反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の少なくとも1部を未使用の触媒に交換および/またはガス出口部に未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長する際、触媒の交換量または触媒の追加充填量あるいは触媒の交換量および追加充填量の合計量が、触媒層長の1%以上であればよく、好ましくは3%以上であればより効果的である。交換量または触媒の追加充填量あるいは触媒の交換量および追加充填量の合計量が1%より少ないと、性能の回復効果が不十分であり、また長期間の運転にあたりその作業頻度が多くなり、それによって反応を停止する期間が長くなり十分な生産量が確保できなくなるため好ましくない。ただし、性能劣化した触媒を交換する場合には、交換量の上限としては、経済的な面および触媒活性のバランスの点から多くとも反応管に充填されている触媒層全体の1/3程度である。触媒層全体の1/3以上を交換した場合、高価な触媒の交換量に見合った効果が得られないばかりか、性能の劣化度合いの大きな触媒も交換することになり上述のように活性のバランスに影響を与える可能性がある。反応管の反応ガス出口部に充填されている触媒を触媒層の10%程度を交換すれば、活性のバランスに影響を与えない範囲で、交換量に見合った効果が十分に得られる。
【0013】
反応ガスの出口部に未使用の触媒を追加充填する場合、触媒が充填された反応管の反応ガス出口部の空間部の長さによっても変わるが、追加充填による圧力損失の上昇と性能回復効果との関係から既に充填されている触媒層長の10%程度追加充填すれば十分である。
【0014】
また、触媒の交換および追加充填を同時に行う場合にあっても、合計量が触媒層長の10%程度で十分に効果が得られる。
また、長期間安定して運転を行うには、前記の触媒の交換および/または触媒の追加充填による層長の延長を定期的に行うことが好ましく、少なくとも1回/年の頻度で行うのが好ましい。
前記した触媒の交換および/または追加充填を行う方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、触媒の交換時には、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の抜き出しに際しては、特開2002−301355号公報のように排気吸引装置に接続された吸引管を反応管内に挿入して空気流とともに抜き出す方法などを好適に用いることができる。また、触媒の交換時あるいは触媒層長の延長時に触媒を反応管に充填するに際しては、特開平10−202084号公報のような振動を制御した充填機を用いて充填する方法、特開2002−306953号公報のように予め容量が均一になるよう計量して所定の充填時間で充填する方法などが好適に使用できる。
【0015】
本発明で用いられる触媒としては、特に制限はなく、接触気相酸化において一般に用いられている公知の触媒を用いることができ、例えば、下記(1)〜(9)等が挙げられる。
(1)銀を必須成分として含み、エチレンを気相で酸化して酸化エチレンを製造するための触媒、
(2)モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含み、プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールおよび/またはメチルターシャリーブチルエーテルを気相で酸化して(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造するための触媒、
(3)モリブデンおよびバナジウムを必須成分として含み、アクロレインを気相で酸化してアクリル酸を製造するための触媒、
(4)モリブデンおよびリンを必須成分として含み、メタクロレインを気相で酸化してメタクリル酸を製造するための触媒、
(5)バナジウムおよびチタンを必須成分として含み、o−キシレンおよび/またはナフタレンを気相で酸化して無水フタル酸を製造するための触媒、
(6)モリブデンを必須成分として含み、ベンゼンを気相で酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒、
(7)リンおよびバナジウムを必須成分として含み、n−ブタンを気相で酸化して無水マレイン酸を製造するための触媒、
(8)モリブデンを必須成分として含み、プロパンを気相で酸化してプロピレン、アクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための触媒、
(9)その他、固定床多管式反応器に充填して接触気相酸化反応に用いられる固体粒状触媒。
【0016】
これら触媒については従来から公知の種々の方法で製造することができ、特に限定されるものではない。
【0017】
なお、反応器に充填される触媒は、上記(1)〜(9)のそれぞれの場合において、単一種の触媒である必要はなく、組成、形状や活性の異なる複数種の触媒をそれぞれ活性の異なる順に層を形成するように充填、あるいは混合して充填することも可能である。また、触媒の一部を不活性担体などで希釈することもできる。
【0018】
本発明において、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の交換および/またはガス出口部に追加充填するにあたり、当然ながら反応器に導入される反応ガス流れは反応器下部から上部に向かって流れるアップフローである必要があり、アップフローである限りは、公知の反応器を用いることができる。例えば、プロピレンの二段酸化によりアクリル酸を製造する方法においては、プロピレンを主としてアクロレインに接触気相酸化するに好適な触媒(前段触媒)を充填した反応器(前段反応器)および得られたアクロレインをアクリル酸に接触気相酸化するに好適な触媒(後段触媒)を充填した反応器(後段反応器)の2つの反応器が共にアップフローである装置、あるいは、下部に前段触媒を充填した反応帯(前段反応帯)および上部に後段触媒を充填した反応帯(後段反応帯)を設けた一つの反応器を用いることができる。その際、本発明における触媒の交換および/または追加充填による触媒層長の延長は、前段触媒または後段触媒のいずれか一方において行えばよく、当然前段触媒と後段触媒の双方について行ってもよい。これら反応器の反応管としては、特に限定されるわけではないが、好ましくはその内径が15〜50mmのものである。
プロピレンの二段酸化によりアクリル酸を製造する方法においては、前段触媒および後段触媒の好適な反応温度は、反応条件などによって適宜選択されるが、前段触媒では、通常、300〜380℃であり、また、後段触媒では、通常、250〜350℃である。さらに、前段触媒の反応温度と後段触媒の反応温度との差は10〜110℃、好ましくは30〜80℃とするのがよい。
【0019】
なお、前段触媒の反応温度と後段触媒の反応温度とは、それぞれの反応器または反応帯における熱媒体入口温度に実質的に相当するものであり、熱媒体入口温度は、上記の範囲内で設定されたそれぞれの設定温度に応じて決定される。以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。なお、転化率および収率は次の通り定義される。
転化率(モル%)
=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
収率(モル%)
=(生成した目的生成物のモル数/供給した原料のモル数)×100
<参考例1>
[酸化物触媒(1)および(2)の調製]
蒸留水2000部を加熱攪拌しつつモリブデン酸アンモニウム350部を溶解した(A液)。別に500部の蒸留水に硝酸コバルト250部および硝酸ニッケル120部を溶解させ(B液)、さらに別途、蒸留水350部に濃硝酸(65質量%)18部を加えて酸性とした溶液に硝酸第二鉄80.1部および硝酸ビスマス120部を溶解させた(C液)。A液にこれらの硝酸塩溶液(B液、C液)を滴下した。引き続き、硝酸カリウム1.67部を加えた。このようにして得られた懸濁液を加熱、攪拌、蒸発せしめた。得られた乾燥物を200℃で乾燥後に150μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。転動造粒機に平均粒径4mmのアルミナ球状担体1400部を投入し、次いで結合剤として35質量%の硝酸アンモニウム水溶液と共に触媒粉体を徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下470℃で6時間熱処理をして酸化物触媒(1)を得た。この触媒の担体および酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
【0021】
Mo12Bi1.5Co5.2Ni2.5Fe1.20.1
また、この酸化物触媒の次式より算出した担持率は約30質量%であった。
【0022】
担持率(質量%)=(酸化物触媒質量−担体質量)/担体質量×100
同様にして、平均粒径7mmの球状アルミナ担体に担持させた酸化物触媒(2)を得た。
〔反応器〕
全長3000mm、内径25mmのSUS製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器3器(A、B、C)を鉛直方向に用意した。各々の反応器について反応管上部より予熱層として平均粒径8mmの不活性なセラミックボール、酸化物触媒(2)、酸化物触媒(1)を順次落下させて、それぞれの層長が下から順に、セラミックボール;100mm、酸化物触媒(2);700mm、酸化物触媒(1);2000mmとなるように充填し、反応器3器(A、B、C)の触媒充填仕様は実質的に同一とした。
〔酸化反応〕
酸化物触媒を充填した3器の反応器各々に、プロピレン8.3容量%、酸素15容量%、水蒸気30容量%、窒素46.7容量%の混合ガスを空間速度1800hr−1(STP)で反応器下部より導入し、接触気相酸化反応を8000時間継続して行った。その反応結果を表1に示す。3器ともほぼ同じ性能であった。
<比較例1>
参考例1において、反応の8000時間経過後に、反応器Aについて触媒の抜出し等を何も行わず、さらに8000時間継続して反応を行った。その累計経時12000時間および16000時間における反応結果を表1に示す。
<実施例1>
参考例1において、反応の8000時間経過後に、反応器Bについて反応管上部より酸化物触媒(1)を層長20mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(1)を層長20mm分再充填し触媒交換を行った後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1において、累計経時12000時間後に、反応管上部より未使用の酸化物触媒(1)を追加充填し触媒層長を40mm延長した後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時16000時間)。その触媒層長延長直後(延長後48時間経過時点)および累計経時16000時間における反応結果を表1に示す。
<実施例3>
参考例1において、反応の8000時間経過後に、反応器Cについて反応管上部より酸化物触媒(1)を層長30mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(1)を層長30mm分再充填し触媒交換を行った後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表1に示す。
<実施例4>
実施例3において、累計経時12000時間後に、反応管上部より酸化物触媒(1)を層長60mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(1)を層長60mm分再充填し、さらに反応管上部より未使用の酸化物触媒(1)を追加充填し触媒層長40mm延長した後、反応を4000時間継続して行った(累計経時16000時間)。その触媒交換および層長延長直後(交換・延長後48時間経過時点)および累計経時16000時間における反応結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
<参考例2>
参考例1において、反応管上部より酸化物触媒(1)、酸化物触媒(2)および予熱層として平均粒径8mmの不活性なセラミックボールを順次落下させて、それぞれの層長が下から酸化物触媒(1);2000mm、酸化物触媒(2);700mm、セラミックボール;100mmとなるように充填し、参考例1同様の混合ガスを反応器上部より導入し、接触気相酸化反応を8000時間継続して行った。その反応結果を表2に示す。
<比較例2>
参考例2において、反応の8000時間経過後に、反応管上部よりセラミックボール全量、次いでガス入口部の酸化物触媒(2)を200mm抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(2)を200mmと再度セラミックボールを充填し触媒交換を行った後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表2に示す。局所的な高温発熱部の影響により最適な反応温度での運転が出来ず低性能であった。
【0025】
【表2】

【0026】
<参考例3>
[酸化物触媒(3)および(4)の調製]
蒸留水2400部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム380部、メタバナジン酸アンモニウム83.9部、パラタングステン酸アンモニウム72.7部を溶解した。別に水400部を加熱攪拌しながら、硝酸銅56.3部および硝酸コバルト36.5部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン26.1部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を150μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。転動造粒機に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体1500部を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして酸化物触媒(3)を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、担体および酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒1:Mo121.5Cu1.3Sb1.0Co0.7
同様にして、平均粒径7.5mmのシリカ−アルミナ球形担体に担持させた酸化物触媒(4)を得た。
〔反応器〕
全長3000mm、内径25mmのSUS製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器3器(D、E、F)を鉛直方向に用意した。各々の反応管上部より予熱層として平均粒径8mmの不活性なセラミックボール、酸化物触媒(4)、酸化物触媒(3)を順次落下させて、それぞれの層長が下から順にセラミックボール;100mm、酸化物触媒(4);600mm、酸化物触媒(3);2000mmとなるように充填し、反応器3器(D、E、F)の触媒充填仕様は実質的に同一とした。
〔酸化反応〕
酸化物触媒を充填した3器の反応器各々に、アクロレイン7.7容量%、酸素9.9容量%、水蒸気35容量%、窒素47.4容量%の混合ガスを反応器下部より空間速度1800hr−1(STP)で導入し、接触気相酸化反応を8000時間継続して行った。その反応結果を表3に示す。3器ともほぼ同じ性能であった。
<比較例3>
参考例3において、反応の8000時間経過後に、反応器Dについて触媒の抜出し等を何も行わず、さらに8000時間継続して反応を行った。その累計経時12000時間および16000時間における反応結果を表3に示す。
<実施例5>
参考例3において、反応の8000時間経過後に、反応器Eについて反応管上部より酸化物触媒(3)を層長30mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(3)を層長30mm分再充填し触媒交換を行った後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表3に示す。
<実施例6>
実施例5において、累計経時12000時間後に、反応管上部より酸化物触媒(3)を層長60mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(3)を層長60mm分再充填した後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時16000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時16000時間における反応結果を表3に示す。
<実施例7>
参考例3において、反応の8000時間経過後に、反応器Fについて反応管上部より未使用の酸化物触媒(3)を追加充填し触媒層長を90mm延長した後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。その触媒層長延長直後(層長延長後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表3に示す。
<実施例8>
実施例7において、累計経時12000時間後に、反応管上部より酸化物触媒(3)を層長150mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(3)を層長150mm分再充填した後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時16000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時16000時間における反応結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
<参考例4>
[第一反応器]
反応管数13,000本(反応管径25mm、長さ3000mm)およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる固定床多管式反応器に、その各反応管上部から予熱層として平均粒径8mmの不活性なセラミックボール、酸化物触媒(2)、酸化物触媒(1)、を順次落下させ、各反応管においてそれぞれの層長が下から順にセラミックボール;100mm、酸化物触媒(2);600mm、酸化物触媒(1);2000mmとなるように充填した。
[第二反応器]
反応管数13,000本(反応管径25mm、長さ3000mm)およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる固定床多管式反応器に、その各反応管上部から予熱層として平均粒径8mmの不活性なセラミックボール、酸化物触媒(4)、酸化物触媒(3)、を順次落下させ、各反応管においてそれぞれの層長が下から順にセラミックボール;100mm、酸化物触媒(4);600mm、酸化物触媒(3);2000mmとなるように充填した。
【0029】
第一反応器の出口と第2反応器の入口とを蒸気で外部から加熱できるようにした内径500mm、長さ5000mmの鋼鉄製パイプで連結した。
[酸化反応]
酸化物触媒を充填した反応器に、プロピレン8.2容量%、酸素15容量%、水蒸気32容量%および窒素44.8容量%からなる混合ガスを第一反応器の下部より第一反応器に充填した触媒に対する空間速度1700h−1(STP)で導入し、第一反応器で生成した反応ガスを第二反応器下部より導入し、接触気相酸化反応を8000時間継続して行った。その反応結果を表4に示す。
<実施例9>
参考例4において、反応の8000時間経過後に、第一反応器の各反応管の上部より酸化物触媒(1)を層長100mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(1)を層長100mm分再充填した後、さらに各反応管の上部より未使用の酸化物触媒(1)を追加充填し触媒層長を50mm延長した。同様に、第二反応器において、各反応管の上部より酸化物触媒(3)を層長100mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(3)を層長100mm分再充填した後、さらに各反応管の上部より未使用の酸化物触媒(3)を追加充填し触媒層長を50mm延長し、反応を4000時間継続して行った(累計経時12000時間)。その触媒交換延長直後(交換・延長後48時間経過時点)および累計経時12000時間における反応結果を表4に示す。
<実施例10>
実施例9において、累計経時12000時間後に、第一反応器の各反応管の上部より酸化物触媒(1)を層長200mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(1)を層長200mm分再充填した。同様に、第二反応器において、各反応管の上部より酸化物触媒(3)を層長200mm分抜出し、代わりに未使用の酸化物触媒(3)を層長200mm分充填した後、さらに反応を4000時間継続して行った(累計経時16000時間)。その触媒交換直後(交換後48時間経過時点)および累計経時16000時間における反応結果を表4に示す。
【0030】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が充填されてなる固定床反応器を用いて、少なくとも1種の有機化合物を分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化する方法において、反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された活性の劣化した触媒の少なくとも一部を未使用の触媒に交換および/またはガス出口部に未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長することを特徴とする接触気相酸化方法。
【請求項2】
反応ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の少なくとも1部を未使用の触媒に交換および/またはガス出口部に未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長する際、触媒の交換量または触媒の追加充填量あるいは触媒の交換量および追加充填量の合計量が、触媒層長の1%以上であることを特徴とする請求項1記載の接触気相酸化方法。
【請求項3】
ガス流れ方向に対してガス出口部に配置された触媒の少なくとも1部を未使用の触媒に交換および/またはガス出口部に未使用の触媒を追加充填して触媒層長を延長する際、触媒の交換量または触媒の追加充填量あるいは触媒の交換量および追加充填量の合計量が、触媒層長の10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の接触気相酸化方法。
【請求項4】
接触気相酸化反応が、下記(1)〜(8)からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の接触気相酸化方法。
(1)エチレンを気相酸化して酸化エチレンを製造するための接触気相酸化反応
(2)プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールおよび/またはメチルターシャリーブチルエーテルを気相酸化して(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造するための接触気相酸化反応
(3)アクロレインを気相酸化してアクリル酸を製造するための接触気相酸化反応
(4)メタクロレインを気相酸化してメタクリル酸を製造するための接触気相酸化反応
(5)オルト−キシレンおよび/またはナフタレンを気相酸化して無水フタル酸を製造するための接触気相酸化反応
(6)ベンゼンを気相酸化して無水マレイン酸を製造するための接触気相酸化反応
(7)n−ブタンを気相酸化して無水マレイン酸を製造するための接触気相酸化反応
(8)プロパンを気相酸化してプロピレン、アクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための接触気相酸化反応

【公開番号】特開2011−116660(P2011−116660A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68704(P2008−68704)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】