説明

接触燃焼式水素センサ

【構成】 触媒ビードのない裸のPtコイルベースの凹部に保持して、定温度に加熱する。有機物除去フィルタとCO酸化フィルタとを介して、コイルへガスを導入し、水素を検出する。
【効果】 水素選択的で立ち上がり時間が短いセンサが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は接触燃焼式水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車などでの水素漏れの検出のために、接触燃焼式ガスセンサを用いることが提案されている(特許文献1)。燃料電池システムの水素漏れを検出する場合、水素に対する選択的感度があり、SOやシリコーン蒸気などに対する耐被毒性を備え、かつ電源投入から直ちに水素を検出可能になることが要求される。特に自動車の燃料電池用の水素漏れのセンサでは、自動車にキーを挿入した後、各回路を起動する前に、水素漏れの有無をチェックすることが必要で、電源投入から短い時間で水素漏れの検出が可能になることが要求される。また車載燃料電池用の水素洩れセンサは、各種機器の直ぐ側に置かれてアウトガスに曝されやすく、また排ガスなどの影響を受けやすいため、耐被毒性が重要になる。
【0003】
特許文献2は、接触燃焼式ガスセンサの検知片をシリコーン処理し、水素選択性を得ることを開示している。特許文献2によると、Ptを担持したアルミナビードにPtコイルを埋設した検知片を、ジメチルシロキサン等のシリコーン化合物の蒸気にさらし、この蒸気を熱分解する。生成したシリカ被膜は触媒表面を被覆し、分子量の小さな水素以外のガスへの感度を失わせるとされている。
【特許文献1】特開2004−178845
【特許文献2】特公平4−33387
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の基本的課題は、電源投入から短時間で水素の検出が可能で、かつ耐被毒性の高い接触燃焼式水素センサを提供することにある。
この発明での追加の課題は、水素選択性の高いセンサを提供することにある。
この発明での追加の課題は、検知片と補償片との特性を揃えるのが容易で、かつ密封ハウジングが不要なセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、ビードに埋設せずにむき出しの貴金属線コイルを一対設けて、一方をコイルの酸化活性により雰囲気中の水素を燃焼させる検知片とし、他方を密封ハウジング内に収容もしくは酸化触媒として不活性な被膜で被覆して補償片とした、接触燃焼式水素センサにある。
【0006】
好ましくは、検知片のハウジングの開口と貴金属コイルとの間に、常温動作するCO酸化触媒を備えたフィルタを設ける。特に好ましくは、前記フィルタを常温動作のCO酸化触媒と有機物吸着フィルタとで構成する。
【0007】
また好ましくは、前記検知片と補償片のハウジングが各々、凹部付きの合成樹脂ベースを備え、かつ該凹部の少なくとも両側に、頂部をベースの表面に並行に折り曲げた金属板を設けると共に、該金属板の他端をベースを貫通させてベースの外部へ引き出し、さらに前記凹部上に検知片と補償片の貴金属コイルを配置して、その両端を凹部の両側の金属板に接続する。
【0008】
好ましくは、補償片と検知片とを直列に接続し、これらに一定電圧を所定のデューテイ比、例えば100%〜4%程度で加えて動作させる。なおデューテイ比が100%未満の場合、その周期は例えば1μ秒〜1m秒程度と、補償片や検知片の熱時定数よりも短くする。例えば実施例では、定電圧を加える場合、ヒータ電圧VHは1.2V等となるので、デューテイ比5.7%で5V駆動となり、3V駆動ではデューテイ比を16%とすると良い。
【0009】
好ましくは、水素センサを燃料電池システムからの水素漏れの検出用のセンサとする。
特に好ましくは、車載燃料電池システムからの水素漏れの検出用のセンサとする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の水素センサでは、貴金属コイルをビードに埋設しないため、電源投入から水素の検出が可能になるまでの立ち上がり時間が短い。即ち、ビードを加熱してビード中の触媒をヒートクリーニングする必要がなく、貴金属コイル自体が触媒であり、貴金属コイルの表面をヒートクリーニングすればよいので、貴金属コイルに通電すると、短時間で水素の検出を開始できる。
【0011】
補償片を密封ハウジングに収容して雰囲気から遮断し、あるいは補償片のコイルを酸化触媒として不活性な被膜で被覆して水素に対する酸化活性を低下させる。不活性な被膜としては、例えばシリカ被膜やアルミナ被膜、ジルコニア被膜、チタニア被膜などがある。不活性な被膜で被覆した場合、検知片と補償片の2つのコイルの特性を揃えやすく、また共通のベースに2つのコイルを設けることも可能になる。
【0012】
この発明の水素センサは元々水素感度がCO感度よりも高く、フィルタを設けない場合でも、水素感度はCO感度の2〜3倍程度となる。さらに貴金属コイルの触媒活性を利用するという単純な構造のため、触媒の凝集や変質、被毒物質との反応による中間体の形成などが生じにくく、耐被毒性が高い。
【0013】
ここで常温動作形のCO酸化フィルタを設けると、CO感度を極めて小さくでき、仮にフィルタが破荷した場合でも、CO感度を水素感度の数分の一程度、例えば1/4〜1/5程度にできる。さらに有機物吸着フィルタを設けると、ガソリン蒸気などに対する選択性も向上する。実施例では、ガソリン蒸気を代替するガスとしてヘキサンを用いる。
【0014】
電源投入から短時間でガスセンサにより水素を検出する場合、電源投入時に一時的にヒータ電圧を増して、ヒートクリーニングを行うことが考えられ得るが、この発明の水素センサでは、電源投入から例えば2秒以内で水素を検出できる。そして電源投入時に、定常加熱温度へ向けて加熱し、定常加熱温度以上でのヒートクリーニングを行わない方が、ヒートクリーニング終了後の過渡特性が解消するのを待つ必要が無く、有利である。
【0015】
この発明の水素センサは、燃料電池システムからの水素漏れの検出に用いることが好ましく、特に車載の燃料電池システムからの水素漏れの検出に用いることが好ましい。この場合、検出目標は例えば5000ppm以上の水素を検出し、同じ濃度のCOに対して少なくとも3倍以上の相対感度があり、また爆発の危険が無い限り、ガソリン蒸気の漏れなどを検出せず、さらにSOやHMDSに対する耐被毒性が有ることである。この発明の水素センサはこれらの要求を満たすことができるので、車載等の燃料電池システムからの水素漏れの検出に用いるのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0017】
図1〜図11に、実施例を示す。図において2は検知片,4は補償片である。6は合成樹脂のベースで、その上面から底部へ向けて凹部8を設け、凹部8の左右両側に、ベース6の上面に並行に折り曲げた金属板10,10が設けてある。金属板10,10は、ここでは凹部8の左右両側に一対設けるが、図の鎖線で示したように、3枚目のダミーの金属板を設けても良い。金属板10,10はベース6を上下方向に貫通して、ベース6の底部から突き出した部分を外部接続用の端子とする。
【0018】
12は貴金属のコイルで、ここではPtZGS(ジルコニアを粒界に分散させたPt)を線材とし、線径は例えば直径で20μm、コイル内径が約150μmで、10ターンでコイル長は約300μmである。貴金属コイル12は凹部10上に配置され、その両端を金属板10,10に例えば溶接で接続する。貴金属コイル12には、PtZGSに限らず、単なるPtや、Pt−Rh,Pt−Irなどの他の貴金属線を用いても良い。ベース6〜コイル12までは、検知片2も補償片4も同一である。
【0019】
図2に示すように、補償片4にはベース6に密封キャップ14を被せて、周囲の雰囲気から遮断し、検知片2には開口キャップ16を被せる。18はキャップ16の上側の開口、20は下側の開口で、それぞれ金網などを取り付け、22はCO酸化フィルタで、24は有機物吸着フィルタである。CO酸化フィルタ22は、Cu−V−PdなどのCO酸化触媒を、γ−アルミナやゼオライトなどの担体に担持させたものとし、担体当たりの触媒重量は例えば1〜10wt%程度とし、CuとVとPdの比は金属換算の重量比で、例えば6:1:1程度とする。この触媒は室温でCOを酸化し、−10℃以上あるいは相対湿度が10%以上であれば充分にCOを除去できる。CO酸化触媒にはこれ以外に、いわゆるホプカライト(MnO−CuOもしくはMnO−CuO−CO−Ag)などの触媒を、ゼオライトやγ−アルミナなどに担持させたものでも良い。
【0020】
24は有機物吸着フィルタで、例えば活性炭やゼオライトなどを用い、ガソリン蒸気などの有機物を吸着して除去するためのものである。なおCO酸化フィルタ22と有機物吸着フィルタ24は混合して用いても良く、使用量は例えば検知片2に対して、それぞれ20〜50mg程度が好ましい。
【0021】
ガスセンサの駆動では、電源投入からの立ち上がり時間を短縮するため、例えば電源投入と同時に検知片と補償片の直列片に一定電圧を加え、あるいは一定の電圧を所定のデューテイ比で加えることが好ましい。駆動回路の例を図3に示すと、検知片2と補償片4を直列に接続し、この直列片にヒータ電圧VHを加え、検知片2と補償片4の間から出力Voutを取り出す。ヒータ電圧VHは例えば一定でデューテイ比100%とするか、もしくは一定電圧で所定のデューテイ比でオンオフさせる。電源投入時に一時的にヒータ電圧を増すようなヒートクリーニングでは、ヒータ電力を通常値に戻す際に特性が安定するまでの待ち時間が生じるので、好ましくない。
【0022】
図4〜図11に、接触燃焼式水素センサの特性を示す。図4はヒータ電圧VHと出力Voutとの関係を示し、検知片2や補償片4への単独の電圧は、ヒータ電圧VHの約1/2となる。水素感度はVHが0.4〜0.6V程度の100℃付近でも存在するが、大きな出力を取り出し、周囲温度依存性を小さくし、かつ耐被毒性を向上させるため、ここでは1.2Vとする。駆動電圧1.2Vでの動作温度は約440℃となる。好ましい動作温度は200〜600℃で、より好ましくは250〜500℃とする。
【0023】
CO酸化フィルタを設けると、室温から500℃程度までの全動作温度範囲に渡ってCO感度はほとんど無い。ただし10000ppm程度の高濃度のCOに長時間、例えば30分以上曝すとCO酸化フィルタが破荷するが、この場合でも、同じ濃度のCOに対する水素の感度を4倍以上に保つことができる。これはCO酸化フィルタが破荷した場合でも、そのCO酸化活性が完全に0になるわけではないこと、並びにCO酸化フィルタによりガスの対流を遮断すると、水素とCOとの分子量の違いによる拡散係数の違いが、相対感度に表れるためであると考えられる。
【0024】
図5に、VHが1.2V(検知片並びに補償片にそれぞれ0.6V印加に相当)での水素,CO,エタノール並びにヘキサンに対する感度を示す。なお12000ppmのエタノールへの感度はほぼ0である。CO酸化フィルタも有機物吸着フィルタも設けない場合、12000ppmのCOに対する感度は約10mV程度となり、これは同濃度の水素の約1/3の感度で、12000ppmのヘキサンに対する感度は約50mVとなる。但し12000ppmのヘキサンが存在する場合、自動車の場合であれば、爆発下限近くの高濃度のガソリン蒸気が存在することになり、警報しても問題はない。また燃料電池システムからの水素漏れを検出する場合、例えば5000ppm以上の水素を検出することが要求される。
【0025】
図6に、電源をオンした際の過渡特性を示す。電源は時刻5秒目から10秒目までの5秒間オンし、周囲の雰囲気を、空気並びに水素6000ppm及び水素12000ppmとした。水素中では鋭いピークが生じ、電源投入から約1秒で出力は安定値に近づき、電源投入から約1秒で水素の検出を開始できる。なお、貴金属コイルの周囲を酸化触媒のビードなどで覆うと、電源投入から出力が安定するまで10秒程度の時間が必要であった。これはビードを加熱してビード上の触媒をヒートクリーニングするのに時間が必要なためと考えられる。
【0026】
図7は、時刻5秒目にガスを注入した際の応答波形を示し、1秒以内でセンサ出力は定常値に近づく。このため電源投入からの立ち上がり時間が1秒、ガスに接触してからの応答時間が約1秒としても、合計2秒以下で水素を検出できる。ただし電源投入時の水素検出の場合、既に水素漏れが生じている環境でセンサの電源をオンすることを考慮すれば良く、図6に示したように、約1秒で水素の検出を行うことができる。
【0027】
図8,図9に被毒に対する耐久性能を示す。図8は、150ppmのSO中に3時間センサを曝した際の特性変化を示し、何れのガスに対しても著しい感度の変化は生じていない。図9は、30ppmのHMDS中に24時間センサを曝した際の特性変化を示し、この場合も特性変化は僅かである。このようにSOに高い耐被毒性能が得られるのは、裸の貴金属コイルを用いた簡単な構造で、コイルを加熱すれば充分にヒートクリーニングが行われるためと思われる。またHMDSへの耐久性は、フィルタ22,24に基づくものと思われる。
【0028】
図10,図11に、CO酸化フィルタや有機物吸着フィルタの破荷状況を示す。テストはCO10000ppmあるいはヘキサン4000ppm中に時刻0からセンサを曝すことにより行った。図中の18Hr後などの表示は、90分高濃度のガスに曝した後に、18時間等の間、空気中でセンサを通電して再度破荷テストを行ったことを示す。10000ppmのCOに90分曝しても1日でフィルタ特性は回復し、40000ppmのヘキサンに90分曝しても数日でフィルタ特性は回復する。
【0029】
この発明のガスセンサは水素センサであり、特に燃料電池からの水素漏れの検出に用いることが好ましく、最も好ましくは車載の燃料電池からの水素漏れの検出センサとする。これらの場合の要求項目は、水素感度が同濃度のCOやヘキサン蒸気などよりも充分高く、かつ電源投入から短時間で水素漏れを検出できることである。また車載の場合、耐被毒性能も要求される。
【0030】
これに対して実施例のガスセンサでは、フィルタ無しでもCOよりも水素に高い感度が得られ、CO酸化フィルタを設けることにより、CO感度を水素感度の1/10以下にでき、CO酸化フィルタが被毒した場合でも、COに対する水素の感度を数倍以上得ることができる。さらに有機物吸着フィルタを設けることにより、ガソリン蒸気などに対応するヘキサン感度を極めて小さくできる。
【0031】
実施例のガスセンサでは、裸のコイルを凹部に配置して加熱するという簡単な構造のため、電源オンから例えば2秒程度で水素を検出できる。さらにこのような簡単な構造であることと、有機物吸着フィルタやCO酸化フィルタを設けたため、被毒に対する耐久性が高い。
【0032】
実施例2
図12〜図26に、第2の実施例を示す。図12において、32は検知片で、ジルコニアを分散させたPtコイルから成り、34は補償片で、検知片32と同じコイルの上に、シリカ被膜46を設けたものである。36はプラスチック製等のベースで、38は検知片32と補償片34との間の熱的な干渉を防止するためのシールドで、例えば金属板である。40は検知片32や補償片34の端部を溶接したピンで、42はマークでガスセンサの向きを示す。補償片34でのコイルの断面を図12の左側に示すと、ジルコニアを分散させたPt線44の表面をシリカ被膜46が被覆し、シリカ被膜46の膜厚は例えば10nm〜1μm程度とし、実施例ではサブμm以下の厚さである。シリカ被膜46の有無を除き、補償片34と検知片32は同一である。
【0033】
第2の実施例でのセンサのサイズを示すと、検知片32も補償片34もPt線の直径は例えば30μmで、例えば内径400μm程度のコイルを例えば14ターン巻いてコイル長を900μmとし、検知片32はコイルの表面をそのまま露出させ、補償片34ではコイルの表面をシリカ被膜46で被覆している。
【0034】
図13にシリカ被膜46の形成を模式的に示す。ベース36に補償片34のコイルのみを溶接し、ピン40,40から例えば電圧を加えて100〜300℃程度に加熱する。ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)の液を補償片34のコイルを包み込むように滴下し、液滴48を形成して熱分解し、シリカの薄膜とする。このプロセスを複数回、好ましくは3回以上で、例えば10〜40回繰り返し、補償片の表面にシリカ被膜を形成する。形成したシリカ被膜を例えば300〜700℃程度で熱処理し、被膜の状態を安定化させる。
【0035】
図14にシリカ被膜の形成方法の他の例を示すと、補償片34のコイルを多数連続して形成し、コイルの芯線を抜いて、両端に電圧を加え発熱させる。これをHMDSO蒸気を満たしたチャンバー内に配置して、HMDSOを熱分解しシリカ被膜46を形成する。シリカ被膜は液相からでも気相からでも形成でき、出発物質にはシロキサン化合物の他に、テトラエチルシリケートなどの有機シリケート化合物などでも良い。また被膜の種類はシリカに限らず、アルミナやジルコニア、チタニアなどでもよく、これらの元素のエトキシ化合物などを用いると同様に成膜できる。即ち被膜の前駆体は、好ましくはシリコン、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの元素の有機物とする。
【0036】
図15は第2の実施例のセンサの断面を示し、第1の実施例と同じ符号は同じものを表す。ハウジング17の開口18と検知片32や補償片との間に、有機物吸着フィルタ24とCO酸化フィルタ22とを配置する。
【0037】
図16に、HMSDO液を20回滴下してシリカ被膜を形成した補償片を用いたセンサの特性を示す。なお以下センサの数は特に断らない限り3個で、結果はそれらの平均値である。また図16〜図21では、CO酸化フィルタや有機物吸着フィルタを除いてある。さらに検知片と補償片との直列片に1.6Vの電圧を加えることを標準動作条件とし、この時のコイル温度はその抵抗値から換算して約320℃である。図16では、水素とヘキサンに対する感度が残り、COに対する感度が失われている。このことは、シリカ被膜により補償片の水素感度とヘキサン感度とが失われることを示している。図17はHMDSOの液滴を30回滴下したセンサの特性を示し、これは図16の特性とほぼ類似で、補償片の水素とヘキサンへの感度が失われている。
【0038】
このような被膜を形成した場合、熱サイクルに対する耐久性が問題となる。シリカとPtとでは熱膨張率が異なるので、熱サイクルを繰り返せば、その間にクラックが生じることが考えられる。図18は、図16のセンサを14000回5秒ヒータオフで、5秒ヒータオンのサイクルに曝した後の結果である。なおヒータ電圧は検知片と補償片の合計で1.6Vである。熱サイクルによりCOへの感度が発生するが、水素やヘキサンの感度はほとんど変わっていない。図19は、図17のセンサに対して14000回の熱サイクルを経験させた後の特性を示す。図18と同様にCO感度が発生するが、水素やヘキサンへの感度はほとんど変わっていない。
【0039】
図20は図16のセンサを100000回熱サイクルに曝した際の結果を示し、図18からの変化は小さく、熱サイクル前の初期値に比べて、水素感度の変化は10%以下である。図21は図17のセンサを100000回の熱サイクルを経験させた際の特性を示し、水素感度の変化は10%以下である。以上のように、シリカ被膜は100000回程度の熱サイクルに耐えることができる。
【0040】
実施例ではセンサ出力1mVは水素200ppm強に相当する。センサの扱い易さを評価するため、ヒータ電圧を1.6Vから±0.1V変化させた際の、水素4000ppm中での出力の変化を測定した。図16,17のセンサでは、この値は最大で水素300ppm相当で、100000回のエージング後でも最大で400ppm相当であった。
【0041】
図22は、図16のセンサに対し、時刻5秒目にヒータをオンし、時刻10秒目にオフした際の特性を示す。出力として水素6000ppm中のものと空気中のものとを示し、空気中での安定出力が0となるように出力を表示してある。図23は、図16のセンサの雰囲気を空気中から水素6000ppm中に変更した際の応答を示す。実施例では、電源投入や高濃度の水素に接触してから、2秒以内に水素を検出できる。
【0042】
図24,図25では、検知片のコイルをPt5wt%担持のγアルミナ中に埋設すると共に、補償片にシリカ被膜を設けず、代わりに補償片を触媒無担持のγアルミナ中に埋設したセンサの特性を示す。図24,図25では、図22,図23と素子温度を揃えるため、ヒータ電圧を2.0Vとし、図24に電源投入時の応答を、図25に水素に対する応答を示す。図24,図25のいずれの場合でも、水素の検出には5秒程度の時間が必要である。このため水素燃料を用いる燃料電池自動車を起動させる場合、実施例では最初の2秒程度で水素漏れの有無を検出できるのに対し、図24,25の従来例では数秒程度の待機時間後でないと水素漏れを検出できず、運転開始がそれだけ遅れることになる。
【0043】
図26に、センサの向きによる熱バランスの変化を示す。図中のハウジングの突起はベースに設けたマークを示し、左端ではセンサを水平に取り付け、空気中で出力は0になっている。次にマークが上に来るように、即ち補償片が上に来るようにすると、出力は負の値を示し、マークが下に来るように、即ち検知片が上に来るようにすると、出力は正の値を示す。これは検知片が上に来ると、補償片からの熱で昇温することに対応する。次いでマークを横向きにすると、出力は0mVに戻る。従って第2の実施例のセンサは、検知片や補償片が水平面内にあるように取り付けるか、検知片と補償片の高さが揃うように取り付けることが好ましい。
【0044】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) コイルをビードに埋設する必要がないので、製造が簡単で、かつ特性を揃えやすい。
(2) ビードを用いないので熱時定数が短く、電源投入から短時間で水素を検出できる。
(3) コイルにシリカ被膜などを設けると、水素感度などを失わせることができる。このため同じハウジングに検知片と補償片を設けることができ、密封ハウジングが不要で、検知片と補償片の特性を揃えやすい。
(4) シリカ被膜による効果は10万回程度の熱サイクルに耐えることができ安定である。

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例の接触燃焼式水素センサのキャップを外した状態での平面図
【図2】実施例の接触燃焼式水素センサの断面図
【図3】実施例の接触燃焼式水素センサの動作回路図
【図4】実施例の接触燃焼式水素センサでのヒータ電圧とガス感度とを示す特性図
【図5】実施例の接触燃焼式水素センサでのガス濃度と感度とを示す特性図
【図6】実施例の接触燃焼式水素センサでの電源オン時の波形を示す特性図
【図7】実施例の接触燃焼式水素センサでのガスへの応答波形を示す特性図
【図8】実施例の接触燃焼式水素センサを、150ppmのSOに3時間曝した際の、感度変化を示す図
【図9】実施例の接触燃焼式水素センサを、30ppmのHMDS(ヘキサメチルジシロキサン)に24時間曝した際の、感度変化を示す図
【図10】実施例の接触燃焼式水素センサを、10000ppmのCO中に90分間曝した際の特性図で、図の3Hrや18Hrは、90分間10000ppmのCOに曝した後に、3時間あるいは18時間センサを通電したことを示す。
【図11】実施例の接触燃焼式水素センサを、4000ppmのヘキサン中に90分間曝した際の特性図で、図の3Hrや18Hr,120Hrは、90分間4000ppmのヘキサンに曝した後に、3時間、18時間、あるいは120時間、センサを通電したことを示す。
【図12】第2の実施例の接触燃焼式水素センサのキャップを外した状態での平面図
【図13】Ptコイルをベースに溶接した後に不活性膜を形成する例を模式的に示す図
【図14】溶接前のコイルに不活性膜を形成する例を模式的に示す図
【図15】第2の実施例のセンサの断面図
【図16】HMDSO液を20回滴下して補償片に不活性膜を形成したセンサでの、水素4000ppm、CO10000ppm、ヘキサン4000ppmに対する感度を示す特性図
【図17】HMDSO液を30回滴下して補償片に不活性膜を形成したセンサでの、水素4000ppm、CO10000ppm、ヘキサン4000ppmに対する感度を示す特性図
【図18】図16のセンサに14000回の熱サイクルを経験させた後のガス感度を示す特性図
【図19】図17のセンサに14000回の熱サイクルを経験させた後のガス感度を示す特性図
【図20】図16のセンサに100000回の熱サイクルを経験させた後のガス感度を示す特性図
【図21】図17のセンサに100000回の熱サイクルを経験させた後のガス感度を示す特性図
【図22】図16のセンサの電源を時刻5秒にオンし、10秒にオフした際の応答を示す図
【図23】図16のセンサの空気中からH2 6000ppm中への変化に対する応答を示す図
【図24】コイルをアルミナビードに埋設した従来例のセンサに対して、電源を時刻5秒にオンし、10秒にオフした際の応答を示す図
【図25】コイルをアルミナビードに埋設した従来例のセンサでの、空気中からH2 6000ppm中への変化に対する応答を示す図
【図26】センサの向きによる熱バランスの変化を示す図
【符号の説明】
【0046】
2 検知片
4 補償片
6 ベース
8 凹部
10 金属板
12 コイル
14 密封キャップ
16 開口キャップ
18,20 開口
22 CO酸化フィルタ
24 有機物吸着フィルタ
32 検知片
34 補償片
36 ベース
38 シールド
40 ピン
42 マーク
44 Pt線
46 シリカ被膜
48 HMDSOの液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードに埋設せずにむき出しの貴金属線コイルを一対設けて、一方をコイルの酸化活性により雰囲気中の水素を燃焼させる検知片とし、他方を密封ハウジング内に収容もしくは酸化触媒として不活性な被膜で被覆して補償片とした、接触燃焼式水素センサ。
【請求項2】
補償片の貴金属コイルを密封ハウジング内に収容したことを特徴とする、請求項1の接触燃焼式水素センサ。
【請求項3】
補償片の貴金属コイルを酸化触媒として不活性な被膜で被覆したことを特徴とする、請求項1の接触燃焼式水素センサ。
【請求項4】
検知片のハウジングの開口と貴金属コイルとの間に、常温動作するCO酸化触媒を備えたフィルタを設けたことを特徴とする、請求項1の接触燃焼式水素センサ。
【請求項5】
前記フィルタが、常温動作するCO酸化触媒と有機物吸着フィルタとを備えていることを特徴とする、請求項4の接触燃焼式水素センサ。
【請求項6】
前記検知片と補償片のハウジングが各々、凹部付きの合成樹脂ベースを備え、かつ該凹部の少なくとも両側に、頂部をベースの表面に並行に折り曲げた金属板を設けると共に、該金属板の他端をベースを貫通させてベースの外部へ引き出し、さらに前記凹部上に検知片と補償片の貴金属コイルを配置して、その両端を凹部の両側の金属板に接続したことを特徴とする、請求項2の接触燃焼式水素センサ。
【請求項7】
補償片と検知片とを直列に接続し、一定電圧を所定のデューテイ比で加えて動作させるようにしたことを特徴とする、請求項5の接触燃焼式水素センサ。
【請求項8】
燃料電池システムからの水素漏れの検出用のセンサであることを特徴とする、請求項7の接触燃焼式水素センサ。
【請求項9】
車載燃料電池システムからの水素漏れの検出用のセンサであることを特徴とする、請求項8の接触燃焼式水素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2006−194851(P2006−194851A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66841(P2005−66841)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】