説明

描画ペン

【課題】
筆圧が作用したときに確実にペン先からの熱溶融性描画材を流出させ、筆圧に応じて熱溶融性描画材の流出量をコントロールし、1本で太線と細線を描き分ける。
【解決手段】
中空のペン軸(2)に形成されたリザーバ(R)からペン先(3)に至る描画材流路を開成するバルブ(V)がペン先に内蔵され、前記バルブ(V)は、ペン先(3)の先端流出口(8)から突出するように付勢されたニードル状操作子(11)が付勢力に抗してペン先(3)内部に後退したときに開成されると共に、その操作子(11)には、筆圧が負荷されて後退されたときにペン先(8)の内周面との隙間(G)で形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側に向かって段階的に又は連続的にその径が小さくなる流量調整部材(13)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蜜蝋などの熱溶融性材料を描画材として用いた描画ペンに関し、特に、視覚障害者が絵画や書道の学習をするのに用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
絵画学習には鑑賞と表現があり、視覚障害者が絵画を学ぶ場合に、絵画鑑賞は、原画を凹凸の点で表した点図を作成したり、原画をレリーフ化した立体絵画を作成し、これらを触図することにより可能となってきた。
しかしながら、これらの手法はあくまでも、原画を元に触図可能なレプリカを作成することが前提であり、視覚障害者が絵画表現をするには向いていない。
【0003】
そこで本出願人は、描いた線画をその場で触図して確認することができる描画筆を提案した(特許文献1参照)。
この描画筆41は、図4に示すように、蜜蝋などの熱溶融性描画材を充填するリザーバRが形成された中空の筆軸42の先端に、金属ワイヤ43を束ねて形成した穂首44が取り付けられ、筆軸42には、蜜蝋が溶融状態に維持される温度にリザーバR及び穂首44を加熱するヒータ45が配されると共に、溶融した蜜蝋をリザーバRから穂首44に供給する流出口46が形成されている。
また、穂首44は、筆圧により筆軸の長手方向に所定のストロークだけ進退可能に配され、流出口46には穂首44のストロークにより開閉されるシャッタバルブ47が形成されている。
【0004】
これによれば、筆圧をかけたときにシャッタバルブ47が開いて、リザーバRより穂首44に蜜蝋が供給されるので、視覚障害者でも健常者が筆で描くのと同等の表現力で線画を描くことができ、その線画はすぐに固まるのでまた、描いた線画を触図して確認しながら描くことができるだけでなく、描いた後に書崩して鑑賞することもでき、その筆のタッチ、筆づかいなどによる絵画表現を学習することができる。
【0005】
しかしながら、筆軸42の紙面に対する角度や力の入れ具合で、穂首44を軸方向にストロークさせることができない場合は、バルブ47が閉じて描画材の供給が停止されてしまうためかすれやすく、描画材の供給が安定しないという問題があった。
また、視覚障害者が太線と細線の描き分けをする場合に、何本もの筆を使い分けることは困難であるので、一本で線幅の描き分けができる描画用具が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−201118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、筆圧が作用したときに確実にペン先からの熱溶融性描画材を流出させると共に、筆圧に応じて熱溶融性描画材の流出量をコントロールし、太線と細線を描き分けることができるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、熱溶融性描画材を充填するリザーバと前記描画材を溶融状態に維持するヒータとを備えた中空のペン軸の先端に、筒状のペン先が形成され、当該ペン先に、筆圧が負荷されたときにリザーバからペン先に至る描画材流路を開成するバルブが内蔵された描画ペンにおいて、 前記バルブは、ペン先先端に形成された流出口から突出するように付勢されると共にその付勢力に抗してペン先内部に後退するように所定のストロークで進退可能に配されたニードル状操作子によって開閉操作されると共に、 当該操作子には、筆圧が負荷されて後退されたときにペン先内周面との隙間で形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側に向かって段階的に又は連続的にその径が小さくなる流量調整部材が形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明による描画ペンによれば、ヒータの熱により溶融された蜜蝋などの熱溶融性描画材がリザーバに蓄えられており、筆圧がかからなければペン先に内蔵されたバルブによりリザーバからペン先に至る描画材流路が閉成されているので、ペン先から描画材が流出することもない。
ここで、絵を書くために描画ペンのペン先を紙面に押し付けると、その筆圧によりペン先から突出しているニードル状操作子がその付勢力に抗してペン先内に押し込まれるので、バルブによりリザーバからペン先に至る描画材流路が開成されて、描画材がペン先に供給されるので、線画を描くことができる。
操作子には、先端側に向かって段階的に又は連続的にその径が小さくなる流量調整部材が形成されており、筆圧が大きくなって操作子の後退量が増えると、その後退量に応じてペン先内周面との隙間で形成される描画材流路の断面積が広がるので、筆圧が大きくなればなるほど描画材の流出量が増えて太い線が描けるようになる。
描画材は紙面上ですぐに冷えて固まるので、描いた直後には、これを触図することができ、視覚障害者の絵画表現学習に極めて効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る描画ペンを示す断面図。
【図2】その要部を示す拡大図。
【図3】他の実施形態の要部を示す拡大図。
【図4】従来装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、筆圧が作用したときに確実にペン先からの熱溶融性描画材を流出させると共に、筆圧に応じて確実にペン先からの熱溶融性描画材の流出量をコントロールし、太線と細線を描き分けるという目的を達成するために、ペン先を筆状ではなく筒状とし、そのペン先に筆圧感応型のバルブを内蔵し、リザーバからペン先に至る描画材流路を筆圧で開成するだけでなく、その描画材流路の断面積を筆圧に応じて広げることにより1本で線幅を描き分けることを実現した。
【実施例1】
【0012】
図1に示す描画ペン1は、熱溶融性描画材として蜜蝋を用いるものであり、内部に蜜蝋を充填するリザーバRが形成された中空のペン軸2の先端に、筒状のペン先3が形成されている。
ペン軸2は、両端を開口した筒状体で形成され、図1で見て上端側が描画材充填口4に形成され、シリコンゴム製のキャップ5が被せられている。
また、ペン軸2は、内周面側が熱伝導性の高いアルミパイプ2Aの外周面が断熱層2Bで覆われると共に、その間に、アルミパイプ2A内のリザーバRに充填された蜜蝋を溶融状態に維持し得る温度に加熱するフィルム状ヒータ6が設けられ、その導線7がペン軸2の外部に導出されている。
【0013】
ペン先3は、ペン軸2と略同径のペン軸連結部8Aと、当該連結部8Aより細径に形成された流出口8Bと、前記連結部8Aから流出口8Bに向かって徐々に断面積が小さくなる漏斗部8Cからなる異径筒状に形成されており、連結部8Aの外周面は断熱層3Aで覆われている。
また、ペン先3の内部には、筆圧が負荷されたときにリザーバRからペン先3に至る描画材流路を開成するバルブVが形成されている。
このバルブVは、ペン先3の先端に形成された流出口8Bから突出するようにスプリング10で付勢されると共にその付勢力に抗してペン先内部に後退するように所定のストロークで進退可能に配されたニードル状操作子11によって開閉操作される。
【0014】
この操作子11には、筆圧が負荷されていないときに漏斗部8Cの内周面に密着されるOリング12が取り付けられ、これにより、筆圧の有無に応じて描画材流路を開閉できるようになっている。
すなわち、筆圧が作用しないときは、スプリング10の弾發力により操作子11が流出口8Bから吐出するように付勢されるので、Oリング12が漏斗部8Cの内周面に密着されて、描画材流路は閉成される。
また、筆圧が作用したときは、スプリング10の弾發力に抗して操作子11がペン先3の内部に押し込まれるので、Oリング12が漏斗部8Cの内周面から離れて描画材流路が開く。
【0015】
また、操作子11には、筆圧が負荷されて後退されたときにペン先3の内周面との隙間Gで形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側に向かって段階的に又は連続的にその径が小さくなる流量調整部材13が形成されている。
本例では、筆圧が負荷されて後退されたときにパイプ状の流出口8Bの内周面と操作子11との隙間Gで形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側の細径部14Aと後端側の大径部14Bからなる2段階の流量調整部材14が形成されている。
なお、操作子11の後端部には、棒状ヒータ15が埋め込まれ、操作子11を介してペン先3内の描画材を加熱し、溶融状態に維持している。
【0016】
以上が本発明の一構成例であって、次にその作用について説明する。
描画材として36℃前後で溶融開始する蜜蝋を使用する場合、描画材充填口4のキャップ5を外して固形状態の蜜蝋をリザーバRに充填してキャップ5を閉じる。
次いで、スイッチ(図示せず)をオンすると導線7を介して面状ヒータ6に通電されて60度前後に加熱され、その熱がアルミパイプ2Aに伝達され、その内側のリザーバRが40〜50℃程度に達するので、充填した蜜蝋が溶融状態に維持される。
なお、ペン軸2はその外周部が断熱層2Bで覆われているので、ヒータ6の熱が外部に漏れることがなく、筆軸2を持つ指に熱さを感じさせることもない。
【0017】
また、筆圧が作用していなければ、図2(a)に示すように、ニードル状操作子11はスプリング10により流出口8Bから突出する方向に付勢されて、Oリング12が漏斗部8Cの内周面に密接されており、リザーバRから流出口8Bに至る描画材流路が閉成されているので、溶融された描画材が不用意にボタ落ちすることもない。
【0018】
そして、描画ペン1を手に持って、ペン先3を紙面に軽く押し当てることにより筆圧を作用させると、図2(b)に示すように、ニードル状操作子11がスプリング10の弾發力に抗してペン先3内に押し込まれて、Oリング12が漏斗部8Cの内周面から離れ、リザーバRから流出口8Bに至る描画材流路が開成されるので、溶融された描画材がペン先3に供給される。
このとき筆圧が軽いために、操作子11の後退量が少なく、流出口8B内に大径部14Bが位置していれば、大径部14Bと流出口8Bの隙間Gで形成される描画材流路断面積は狭いので、流出口8Bから流出される描画材の量が少なく、操作子11先端の細径部14Aを伝わって紙面に流れ、細い線幅で描画することができる。
【0019】
さらに、ペン先3を紙面に強く押し当てると、図2(c)に示すように、操作子11に大きな筆圧が作用して操作子11が大きく後退するので、流出口8B内に小径部14Aが位置する。
したがって、小径部14Aと流出口8Bの隙間Gで形成される描画材流路の断面積が広くなって、流出口8Bから描画材が多量に流出され、太い線幅で描画することができる。
このように、本例では、一本の描画ペン1で筆圧を変化させるだけで、細い線と太い線の2種類の線幅で線画を描くことができる。
【実施例2】
【0020】
図3は、他の実施形態を示す。
本例の描画ペン21は、ニードル状操作子の構成が異なる以外、他の構成は実施例1と同様であるので、共通する部分は同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0021】
本例のニードル状操作子22は、筆圧が負荷されていないときに漏斗部8Cの内周面に密着されるOリング12が取り付けられて、これにより、筆圧の有無に応じて描画材流路を開閉できるようになっている点、後端部に棒状ヒータ15が設けられている点は共通している。
また、スプリング10により、先端ニードル部22aが流出口8Bから突出する方向に付勢されている。
本例の流量調整部材23は、漏斗部8Cに対向する部分が先端側に向かって連続的に細くなる略円錐状に形成され、筆圧が負荷されて後退されたときに漏斗部8Cの内周面との隙間Gで形成される描画材流路の断面積が広がるように形成されている。
【0022】
すなわち、筆圧が作用していなければ、図3(a)に示すように、ニードル状操作子21はスプリング10により流出口8Bから突出する方向に付勢されて、Oリング12が漏斗部8Cの内周面に密接されており、リザーバRから流出口8Bに至る描画材流路が閉成されているので、溶融された描画材が不用意にボタ落ちすることもない。
【0023】
そして、描画ペン1を手に持って、ペン先3を紙面に軽く押し当てることにより筆圧を作用させると、図3(b)に示すように、ニードル状操作子21がスプリング10の弾發力に抗してペン先3内に押し込まれて、Oリング12が漏斗部8Cの内周面から離れ、リザーバRから流出口8Bに至る描画材流路が開成されるので、溶融された描画材がペン先3に供給される。
このとき筆圧が軽いために、操作子11の後退量が少なく、漏斗部8Cと流量調整部材23の外周面との隙間Gで形成される描画材流路断面積は狭いので、流出口8Bから流出される描画材の量が少なく、操作子11先端のニードル部22aを伝わって紙面に流れ、細い線幅で描画することができる。
【0024】
さらに、ペン先3を紙面に強く押し当てると、図3(c)に示すように、操作子22に大きな筆圧が作用して操作子22が大きく後退するので、漏斗部8Cと流量調整部材23の外周面との隙間Gで形成される描画材流路断面積が広がり、流出口8Bから描画材が多量に流出され、太い線幅で描画することができる。
このように、本例では、一本の描画ペン21の筆圧を変化させるだけで、細い線と太い線の2種類の線幅で線画を描くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、蜜蝋などの熱溶融性描画材を用いた描画ペンの用途に適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 描画ペン
R リザーバ
2 ペン軸
3 ペン先
6 面状ヒータ
7 導線
8B 流出口
8C 漏斗部
V バルブ
11 ニードル状操作子
12 Oリング
13 流量調整部材
G 隙間
14A 細径部
14B 大径部
15 棒状ヒータ
21 描画ペン
22 ニードル状操作子
22a ニードル部
23 流量調整部材











【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性描画材を充填するリザーバと前記描画材を溶融状態に維持するヒータとを備えた中空のペン軸の先端に、筒状のペン先が連続形成され、当該ペン先に、筆圧が負荷されたときにリザーバからペン先に至る描画材流路を開成するバルブが内蔵された描画ペンにおいて、
前記バルブは、ペン先先端に形成された流出口から突出するように付勢されると共にその付勢力に抗してペン先内部に後退するように所定のストロークで進退可能に配されたニードル状操作子によって開閉操作されると共に、
当該操作子には、筆圧が負荷されて後退されたときにペン先内周面との隙間で形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側に向かって段階的に又は連続的にその径が小さくなる流量調整部材が形成されたことを特徴とする描画ペン。
【請求項2】
前記ペン先に、ペン軸から流出口に向かって徐々に断面積が小さくなる漏斗部が形成され、前記ニードル状操作子には、筆圧が負荷されていないときに漏斗部内周面に密着されるOリングが取り付けられて成る請求項1記載の描画ペン。
【請求項3】
前記ペン先を構成する漏斗部の先端にパイプ状の流出口が形成され、
前記ニードル状操作子には、筆圧が負荷されて後退されたときにパイプ状の流出口内周面との隙間で形成される描画材流路の断面積が広がるように、先端側の細径部と後端側の大径部からなる2段階の流量調整部材が形成された請求項2記載の描画ペン。
【請求項4】
前記ニードル状操作子には、筆圧が負荷されて後退されたときに前記漏斗部内周面との隙間で形成される描画材流路の断面積が広がるように、漏斗部に対向する部分が先端側に向かって連続的に細くなる略円錐状の流量調整部材が形成された請求項2記載の描画ペン。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−208208(P2010−208208A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58289(P2009−58289)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(391005444)有限会社安久工機 (4)
【Fターム(参考)】