説明

揚柳調布帛の製造方法および揚柳調布帛

【課題】極細繊維を含みかつ揚柳調の布帛を製造する揚柳調布帛の製造方法および揚柳調布帛、および該製造方法で製造された揚柳調布帛を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが経糸に配された織物を経糸方向に走行させながらバフ加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維を含みかつ揚柳調の外観および風合いを呈する揚柳調布帛の製造方法、および該製造方法により製造された揚柳調布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
カーシート用布帛などの分野において、耐久性だけでなく意匠性も求められている。例えば、特許文献1や特許文献2では、極細繊維を用いて不織布を得た後ウレタン樹脂を含浸させることにより人工皮革調の布帛を得ることが提案されている。しかしながら、前記の布帛では、意匠性の点でまだ十分とはいえなかった。
【0003】
なお、ナノファイバーと称される単繊維径1000nm以下の極細繊維を用いた布帛は提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、強撚糸を使ってシボを発現させ、揚柳調の布帛を得ることは古くから知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−294572号公報
【特許文献2】特開2003−286666号公報
【特許文献3】特開2007−291567号公報
【特許文献4】特開2005−89928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、極細繊維を含みかつ揚柳調の外観および風合いを呈する揚柳調布帛の製造方法、および該製造方法により製造された揚柳調布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、極細繊維が経糸に配された織物を経糸方向に走行させながらバフ加工を施すことにより揚柳調の布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが経糸に配された織物を経糸方向に走行させながらバフ加工を施すことを特徴とする揚柳調布帛の製造方法。」が提供される。
【0008】
その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。また、前記織物において、経糸に含まれる前記ポリエステルフィラメント糸Aが、経糸全重量対比40〜100重量%の範囲内であることが好ましい。また、前記織物において、緯糸に仮撚捲縮加工糸または弾性糸が配されていることが好ましい。また、前記織物において、織物組織が経朱子組織であることが好ましい。また、織物を経糸方向に走行させる際の緯方向の張力が無張力であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された揚柳調布帛が提供される。かかる布帛は、カーシート用布帛または椅子張り用布帛またはソファー用布帛として特に好適に使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極細繊維を含みかつ揚柳調の布帛を製造する揚柳調布帛の製造方法および揚柳調布帛、および該製造方法で製造された揚柳調布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、まず、単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを用意する。
【0012】
ここで、前記ポリエステルフィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、後記のようにバフ加工を施しても揚柳調の布帛が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0013】
前記ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記ポリエステルフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、揚柳調の布帛を得る上で長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。特にポリエステルフィラメント糸Aに撚糸が施されていると、布帛の剛性が向上し、また耐摩耗性が向上するため好ましい。その際、撚数としては100T/m以上(特に好ましくは100〜600T/m)であることが好ましい。
【0015】
前記ポリエステルフィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としてはポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。なお、ポリエステル以外のポリアミドなどのポリマーでは、布帛の耐光性や耐摩耗性が損われるため好ましくない。
【0016】
前記ポリエステルフィラメント糸Aは、特開2007−2364号公報に開示されたような、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。
【0017】
すなわち、海成分ポリマーとして、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどを用意する。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0018】
一方、島成分ポリマーとして、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルを用意する。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとにおいて、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。
【0019】
次いで、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。その際、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。なお、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。また、海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0020】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。そして、必要に応じて撚糸を施す。
【0021】
かくして得られた海島型複合繊維において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いる織物において、少なくとも経糸には前記ポリエステルフィラメント糸Aが含まれている。その際、経糸に含まれる前記ポリエステルフィラメント糸Aが、経糸全重量対比40〜100重量%(最も好ましくは100重量%)の範囲内であることが好ましい。
【0023】
前記織物において、他の繊維が含まれる場合、かかる他の繊維において、単繊維径が1μmよりも大(好ましくは2〜25μm)の範囲内であることが好ましい。該単繊維径が1μm以下であると布帛の剛性がなくなるおそれがある。また、また加工性や取扱性も低下するおそれがある。逆に該単繊維径が25μmよりも大きいと、極細繊維が有するソフトな風合いが損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0024】
前記他の繊維において、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本(好ましくは40〜200本)の範囲内であることが好ましい。また、前記他の繊維の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0025】
前記他の繊維を形成するポリマーの種類としては、ポリエステル系ポリマーであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが特に好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0026】
前記のポリエステルフィラメント糸Aと他の繊維とが空気混繊糸などの複合糸として含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交織または交編されていてもよい。特に、前記のポリエステルフィラメント糸Aが経糸に配され、かつ他の繊維が緯糸に配されていることが特に好ましい。その際、緯糸に配される他の繊維が仮撚捲縮加工糸(より好ましくは捲縮率が20〜55%の仮撚捲縮加工糸)または弾性糸(より好ましくは弾性回復率が70%以上の弾性糸)であることが好ましい。緯糸が仮撚捲縮加工糸または弾性糸であると、バフ加工の際、織物が緯方向に収縮するためペーパーが織物に不均一に接触し揚柳調の布帛が得られやすく好ましい。
【0027】
前記織物において、織物の組織は特に限定されず、平織、斜文織、朱子織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。特に、経朱子組織であると、経糸が織物の表面に多く露出するため、揚柳調の外観および風合いを効果的に発現させやすく好ましい。その際、耐摩耗性の点で12枚以下(より好ましくは4〜8枚)の経朱子組織であることが好ましい。
【0028】
次いで、該織物にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、前記海島型複合繊維を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0029】
本発明において、前記織物を経糸方向に走行させながらバフ加工を施す。ここで、従来、人工皮革調の風合いを出すために起毛やヒートブラシなどが採用されているが、本発明においてバフ加工であることが肝要である。かかるバフ加工はサンドペーパー(エメリークロス)を用いた従来公知のバフ加工でよい。その際、織物の走行速度としては3〜20m/分、バフ加工の装置としては例え(株)サンワマシナリー社製のGRANDPRIXやWATERGRANDORIXを使用するとよい。また、織物を経糸方向に走行させる際に、緯方向の張力が無張力(フリーテンション)であると、ペーパーが織物に不均一に接触し揚柳調の布帛が得られやすく好ましい。
【0030】
前記バフ加工の前および/または後において、常法の染色加工、裏面バックコーテイング、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0031】
また、かかる織物において、目付けが100〜700gr/m(より好ましくは150〜650gr/m)の範囲内であることが好ましい。該目付けが100gr/mよりも小さいと剛性が小さくなりカーシート用布帛などとして使用できないおそれがある。逆に、該目付けが700gr/mよりも大きいと、目付けが大きすぎるためカーシートなどを作製する際の取扱い性が損われるおそれがある。
かくして得られた織物は、揚柳調の外観および風合いを呈するので、カーシート用布帛または椅子張り用布帛またはソファー用布帛などとして好適に使用される。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0033】
<溶解速度>海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0034】
<風合い>
布帛表面の風合いを試験者3人が官能評価し、3級:超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する、2級:普通、1級:超極細繊維特有の風合いを呈さない、の3段階に評価した。
【0035】
<揚柳調の外観および風合い>
試験者3人が官能評価し、3級:揚柳調である、2級:やや揚柳調である、1級:揚柳調ではない、の3段階に評価した。
【0036】
<耐摩耗性>
JIS L1096 8.17.3C法(荷重500gr 1000回)により耐摩耗性を測定した。3級以上が合格である。
【0037】
<捲縮率>
供試フィラメント糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。
前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に6gの初荷重を付加し、さらに600gの荷重を付加したときのかせの長さL0を測定した。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させた。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾した。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、600gの荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定した。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出した。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
【0038】
<弾性回復率>
JIS L 1013 8.9 B法にて、伸長率のみ20%として伸長弾性率を算出。この伸長弾性率を弾性回復率とした。
【0039】
<目付け>
JIS L 1096 8.4.2より目付けを測定した。
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0040】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットしてポリエステルフィラメント糸A用海島型複合延伸糸として巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
次いで、該延伸糸を4本引きそろえて撚糸糸条(Z方向、250T/m)とし、スナール対策として温度70℃、時間30分の熱セットを行い経糸とした。
一方、他の繊維としてポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、捲縮率35%)を用意し、緯糸とした。
【0041】
次いで、前記経糸と緯糸を使用して、常法により経密度162本/2.54cm、緯密度90本/2.54cmで図1に示す8枚朱子織組織の織物を製織した。
次いで、織り上がった生機を、50g/リットルの NaOH水溶液で80℃×20分で30%の減量加工を行うことにより、前記海島型複合延伸糸を単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aとした。
次いで、該織物を染色した後、乾燥し、150℃で熱セットを行った。該織物において、経糸は単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aだけで構成され、緯糸はポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(単繊維径18μm)だけで構成されていた。
その後、表面加工としてバフ加工を行った。その際、織物を経糸方向に走行(走行速度8m/分)させながらバフ加工((株)サンワマシナリー社製のWATERPRANDPRIXを使用)した。該バフ加工は、経方向のみ張力が掛かり、幅方向はフリーテンションで行った。そして最後にほつれ防止のための、裏面アクリル樹脂バックコーティングをおこない、カーシート用布帛を得た。その際、バックコーティング時のアクリル樹脂量は100g/mであった。
得られた布帛の目付は300g/m、図2に示すように楊柳調の外観および風合いを有し(3級)、耐摩耗性は3級であった。また、得られた布帛において、全繊維重量200g/m中、単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aが63重量%含まれ、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(単繊維径18μm)は37重量%含まれていた。
【0042】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/144fil、帝人ファイバー社製、捲縮率8%)を3本引きそろえて撚糸糸条(Z方向、250T/m)とし、スナール対策として温度70℃、時間30分の熱セットを行ったものと、実施例1と同じ撚糸糸条とを1:1の割合で整経した。一方、緯糸として実施例1と同じポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、捲縮率35%)を用意した。
次いで、実施例1と同様に製織、減量加工、染色加工、熱セットを行った。該織物において、経糸は単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aと、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/144fil、単繊維径6μm)とで構成され、緯糸はポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fi、単繊維径18μm)で構成されていた。
その後、実施例1と同様のバフ加工を行った。得られた布帛の目付は310g/m、楊柳調の外観および風合いを有し(3級)、耐摩耗性は4級であった。また、得られた布帛において、全繊維重量210g/m中、単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aが30重量%含まれ、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/144filの撚糸糸条)は35重量%、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fil)は35重量%含まれていた。
【0043】
[実施例3]
実施例1において、織組織を平織組織に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた布帛は楊柳調の外観および風合いを有し(3級)、耐摩耗性は3級であった。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/144fil、帝人ファイバー社製、捲縮率8%)を3本引きそろえて撚糸糸条(Z方向、250T/m)とし、スナール対策として温度70℃、時間30分の熱セットを行い経糸とした。
一方、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、捲縮率35%)を用意し、緯糸とした。
次いで、前記経糸と緯糸を使用して、常法により経密度162本/2.54cm、緯密度90本/2.54cmで図1に示す8枚朱子織組織の織物を製織した。
次いで、織り上がった生機を、減量加工せずに染色した後、乾燥し、150℃で熱セットを行った。該織物において、経糸はポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度56dtex/144fil、単繊維径6μm)で構成され、緯糸はポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fi、単繊維径18μm)で構成されていた。
次いで、実施例1と同様のバフ加工を行い、そして最後にほつれ防止のための、裏面アクリル樹脂バックコーティングをおこない、カーシート用布帛を得た。
得られた布帛の目付は350g/m、図3に示すように楊柳調の外観および風合いを有さず(1級)、耐摩耗性は3級であった。
【0045】
[比較例2]
実施例1において、経糸に配した糸を緯糸に配し、緯糸に配した糸を経糸に配すること以外は実施例1と同様にした。
得られた布帛は、楊柳調の外観および風合いを有さず(1級)、耐摩耗性は3級であった。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、経糸に用いた撚糸糸条を緯糸にも配すること以外は実施例1と同様にした。バフ加工前の織物において、織物は、経緯とも単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aだけで構成されていた。また、緯糸の弾性回復率は30%であった。
最終的に得られた布帛において、やや楊柳調の外観および風合いを有し(2級)、耐摩耗性は3級であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、極細繊維を含みかつ揚柳調の布帛を製造する揚柳調布帛の製造方法および揚柳調布帛、および該製造方法で製造された揚柳調布帛が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1で用いた織組織図(8枚の経朱子組織)である。
【図2】実施例1で得られた布帛の表面写真(楊柳調である。)である。
【図3】比較例1で得られた布帛の表面写真(揚柳調ではない。)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aが経糸に配された織物を経糸方向に走行させながらバフ加工を施すことを特徴とする揚柳調布帛の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1に記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸である、請求項1または請求項2に記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項4】
前記織物において、経糸に含まれる前記ポリエステルフィラメント糸Aが、経糸全重量対比40〜100重量%の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項5】
前記織物において、緯糸に仮撚捲縮加工糸または弾性糸が配されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項6】
前記織物において、織物組織が経朱子組織である、請求項1〜5のいずれかに記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項7】
織物を経糸方向に走行させる際の緯方向の張力が無張力である、請求項1〜6のいずれかに記載の揚柳調布帛の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された製造方法により製造された揚柳調布帛。
【請求項9】
布帛がカーシート用または椅子張り用またはソファー用である、請求項8に記載の揚柳調布帛。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−138501(P2010−138501A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313235(P2008−313235)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】