説明

換気量センサレート応答の正規化及び計算

心調律管理(CRM)機器は胸郭インピーダンスからの換気量情報又は他の情報を抽出し、CRM治療の送達レートを調整することができる。患者の一回換気量が計測され、換気量レート応答係数の調整に使用される。一回換気量計測値は、場合により換気回数依存調整係数を用いて調整されてもよい。換気量レート応答係数はまた、患者について決定される最大随意換気量(MVV)、年齢から予測される最大心拍数、安静時心拍数、及び安静時換気量を使用して調整されてもよい。様々な例において、全体の換気量センサレート応答係数(母集団についてのもの)がCRM機器にプログラムされ、特定の患者に適するよう自動的に個別調整され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
全体として参照により本明細書に援用される2009年5月26日に出願された「Ventilation Sensor Rate Response Normalization and Calculation」と題される米国仮特許出願第61/181,044号明細書(代理人整理番号279.G96PRV)に対する優先権の利益が本明細書によって主張される。
【背景技術】
【0002】
植込み型医療機器(IMD)は、患者に植え込むように設計された機器を包含する。そのような機器のいくつかの例は、心機能管理(CFM)機器、例えば、植込み型ペースメーカー、植込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法機器(CRT)、ニューロモデュレーション機器、又はかかる機能の組み合わせを含む機器である。多くの場合、かかる機器は電気療法若しくは他の療法を用いた患者の治療に、又は医師若しくは介護者が患者の病態の体内モニタリングによって患者を診断する際の補助に使用され得る。機器は、1つ又は複数の感度増幅器と連通した1つ又は複数の電極を含むことで患者体内の電気的な心臓活動をモニタすることができ、及び多くの場合に1つ又は複数の生理学的センサを含み、1つ又は複数の他の内部的な患者パラメータをモニタすることができる。植込み型医療機器の他の例としては、植込み型診断機器、植込み型薬物デリバリーシステム、又は神経刺激機能を備えた植込み型機器が挙げられ、それらの中にはCFM機器として使用可能なものもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本書は、概して、分時換気量センサ又は他の換気量センサに対する分時換気量レート応答係数を正規化及び計算するためのシステム、機器、及び方法に関する。
分時換気量(「分時量」又は「MV」とも称される)は呼吸に関連するパラメータであり、1分の時間間隔の間に吸入及び呼出される空気量の尺度である。分時換気量は、患者の換気回数と、特定の呼吸の間に吸入及び呼出される空気についての患者の一回換気量との積として概念化することができる。患者の換気回数又は一回換気量の一方又は双方は、インピーダンスセンサを使用して検知することができ、センサは患者が呼吸することによって変化する経胸腔的インピーダンスを計測する。分時換気量は、ある心拍数範囲にわたり心拍数の増加に対する患者の代謝要求と高い相関を有する。
【0004】
典型的には、患者はその年齢に応じた同様の潜在的心拍数範囲を有する。しかしながら、患者体内で計測されるオーミック一回換気量(ohmic tidal volume)は、実質的にその胸部サイズ、体腔内でのインピーダンスセンサの位置、体腔内に取られる電流路等によって異なり得る。体格が大きい人は胸郭の動きが大きく、インピーダンス差が小さい小柄な人と比べて大きいインピーダンス差を呈し得る。しかしながら、いずれのタイプの人も、心拍数範囲は同じであり得る。加えて、低いゲイン設定の胸郭インピーダンスセンサにより検出される深い呼吸は、高いゲイン設定での浅い呼吸と同じデジタル化一回換気量出力を有し得る。一回換気量計測値のばらつきによって分時換気量の計測値が不正確となることがあり、ひいては少なくとも一部が分時換気量に基づき得るペーシング治療に影響が及び得る。
【0005】
第1の実施形態は心調律管理システムに関する。この実施形態では、システムは場合により、患者の一回換気量を計測し、且つ一回換気量計測値から決定される情報を用いて換
気量センサレート応答係数を調整するように構成された信号プロセッサを含む。この実施形態では、システムは場合により、信号プロセッサに結合されたコントローラであって、換気量センサ出力観測値のベースラインからの偏差に調整済み換気量センサレート応答係数を適用することを含む、換気量センサ駆動型ペーシングレートを計算するように構成されたコントローラを含む。
【0006】
第2の実施形態において、第1の実施形態の構成に対して、場合により、患者母集団から得られる情報を用いて換気量センサレート応答を調整するように構成された信号プロセッサを含む。
【0007】
第3の実施形態において、第1および第2の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して場合により、換気回数依存調整係数を用いて換気量センサレート応答係数を調整することにより調整済み一回換気量を生成するように構成された信号プロセッサを含む。
【0008】
第4の実施形態において、第1〜3の実施形態の任意の1つ又は複数の構成は場合により、信号プロセッサにおけるフィルタの非理想性を補償するように構成された換気回数依存調整係数を含む。
【0009】
第5の実施形態において、第1〜4の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、複数の安静時一回換気量を格納するように構成されたメモリを含むか、又はそれに結合される信号プロセッサであって、複数の安静時一回換気量の中心傾向を計算するように構成された中心傾向計算回路を含む信号プロセッサを含む。
【0010】
第6の実施形態において、第1〜5の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、一回換気量計測値を使用して、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を用いて正規化係数を決定するステップを含む、一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成された信号プロセッサを含む。
【0011】
第7の実施形態において、第1〜6の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して場合により、一回換気量の関数としての正規化係数について実質的に負の線形関係を含む、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を含む。
【0012】
第8の実施形態において、第1〜7の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して場合により、母集団について予想される一回換気量範囲にわたり約4対1の正規化係数範囲を含む、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を含む。
【0013】
第9の実施形態では、第1〜8の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、心調律管理機器にプログラムされた母集団に基づく換気量レート応答係数を使用するステップと、患者の一回換気量計測値を使用して決定される正規化係数を用いて、母集団に基づく換気量レート応答係数をその患者に対して自動的に調整するステップとを含む、一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成される信号プロセッサを含む。
【0014】
第10の実施形態では、第1〜9の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、患者について決定される安静時分時換気量計測値、運動時等価分時換気量、安静時心拍数、及び年齢から予測される最大心拍数を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成される信号プロセッサを含む。
【0015】
第11の実施形態は、方法に関する。この方法は、プロセッサに結合されたメモリ回路
であって、患者の一回換気量を計測するステップと、一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するステップと、換気量センサ駆動型ペーシングレートを計算するステップであって、換気量センサ出力観測値のベースラインからの偏差に調整済み換気量センサレート応答係数を適用することを含むステップとのうちの1つ又は複数をプロセッサに制御又は実行させる命令を含むメモリ回路を含み得る。
【0016】
第12の実施形態では、第1〜11の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、患者母集団から得られる情報を用いて換気量センサレート応答を調整するステップを含む。
【0017】
第13の実施形態では、第1〜12の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、患者について決定される安静時分時換気量計測値、運動時等価分時換気量、安静時心拍数、及び年齢から予測される最大心拍数を用いて換気量レート応答係数を調整するステップを含む。
【0018】
第14の実施形態では、第1〜13の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、スケーリング係数を用いて最大随意換気量をスケーリングするステップを含み、スケーリング係数は患者の身体的健康状態に基づき選択される。
【0019】
第15の実施形態では、第1〜14の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、換気回数依存調整値を用いて一回換気量計測値を調整し、それにより調整済み一回換気量計測値を生成するステップを含む。
【0020】
第16の実施形態では、第1〜15の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、複数の安静時一回換気量を受け取るステップと、複数の一回換気量計測値の中心傾向を計算するステップとを含む、一回換気量を計測するステップを含む。
【0021】
第17の実施形態では、第1〜16の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、植込み型医療機器を使用して一回換気量を計算するステップ及び複数の調整済み一回換気量計測値の中心傾向を計算するステップを含む。
【0022】
第18の実施形態では、第1〜17の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、一回換気量計測値を使用して、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を用いて正規化係数を決定する、一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するステップを含む。
【0023】
第19の実施形態では、第1〜18の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、一回換気量の関数としての正規化係数について実質的に負の線形関係を含む、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係の使用を含む。
【0024】
第20の実施形態では、第1〜19の実施形態の任意の1つ又は複数の構成に対して、場合により、最大随意換気期間の間に計測される一回換気量の使用を含む。
本節は、本特許出願の主題の概要を提供することを意図している。これは、本発明の限定的又は網羅的な説明の提供を意図するものではない。本特許出願に関するさらなる情報を提供するため、詳細な説明を含める。
【0025】
図面は必ずしも一定の尺度で描かれているとは限らず、そのなかでは同様の符号が異なる図における同様の構成要素を示し得る。異なる添え字を有する同様の符号は、同様の構成要素の異なる例を表し得る。図面は、本書で考察される様々な実施形態を、限定としてではなく例示として概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】心調律管理機器と電極接続部とを含む植込み型医療機器の一例の説明図である。
【図2】信号プロセッサの諸部分の一例を概略的に示すブロック図である。
【図3】母集団についてのMVの長期平均の累積分布関数を示すグラフである。
【図4】正規化補正率とオーミック一回換気量との間の負の相関を示すグラフである。
【図5】心調律管理システムの分時換気量センサ又は同様の換気量センサに対するレート応答係数(K)を調整するステップを含む一例を概略的に示すダイヤグラムである。
【図6】心調律管理システムの分時換気量センサ又は同様の換気量センサに対するレート応答係数(K)を調整するステップであって、例えばフィルタの非理想性を調整するため、呼吸数依存係数により一回換気量計測値を調整することを含むステップを含む一例を概略的に示すダイヤグラムである。
【図7】1つ又は複数の係数を使用した、及び場合により図5又は図6に関連して記載される技法と併せて利用可能な、分時換気量レート応答係数補正値の決定ステップを含む一例を概略的に示すダイヤグラムである。
【図8】心拍数と分時換気量との間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本書は、概して、分時換気量センサ又は他の換気量センサに対する分時換気量レート応答係数を正規化するためのシステム、機器、及び方法に関する。
図1は、心調律管理システム100の一例を示す。この例では、システム100は特に、心調律管理機器105、及び機器105と生体の一部分、例えば心臓115との間で信号を伝達するためのリード線(「リード」)110を含み得る。機器105の例としては、徐脈及び抗頻拍ペースメーカー、カーディオバーター、デフィブリレーター、ペースメーカー/デフィブリレーターの組み合わせ、ニューロモデュレーション機器、薬物デリバリー機器、及び例えば心臓115の利益のための、心血管機能のモニタリング又は心血管治療の提供が可能な任意の他の心調律管理装置を挙げることができる。システム100はまた、追加的な構成要素、例えば機器105との通信が可能なローカル又は遠隔プログラマも含み得る。
【0028】
一例では、システム100は、生体、例えばヒト患者の胸筋部若しくは腹部領域、又は他の部位に植え込み可能であり得る。一例では、システム100の1つ又は複数の部分(例えば、機器105)はヒト患者の体外に配置され得る。示される例において、リード110の諸部分は右心室に配置される;しかしながら、リード110の任意の他の位置決めを用いてもよい。例えば、リード110は心房又は他の部位に位置決めされてもよい。一例では、リード110は市販のバイポーラペーシングリードであり得る。システム100はまた、例えばリード110に加えて、心臓115の内部若しくはその周辺等、又は他の部位に適切に配置された1つ又は複数の他のリード又は電極(例えば、リード有り、若しくはリードレス)も含み得る。
【0029】
一例では、システム100は、例えば本特許出願の譲受人に譲渡された「DUAL INDIFFERENT ELECTRODE PACEMAKER」と題されるHauckらの米国特許第5,284,136号明細書(その開示は、インピーダンス検知システムのその記載を含め、全体として参照により本明細書に援用される)に記載されるとおり、少なくとも4個の電極を含み得る。本システム及び方法はまた、異なる数の電極(例えば、2個又は3個の電極、又は5個以上の電極)の使用も包含し得る。一例では、多心リード110の第1の導体が、第1の電極、例えば先端電極120(例えば、心臓115の右心室の心尖部に配置される)を機器105に電気的に結合し得る。多心リード110の
第2の導体が、独立して、第2の電極、例えばリング電極125を機器105に電気的に結合し得る。一例では、機器105は、チタンなどの導電性金属で形成されたハーメチックシールハウジング130を含み得る。このハウジング130(「ケース」又は「カン」とも称される)は、「ケース」又は「カン」電極135と称される第3の電極を形成する窓を除くその表面全体が、好適な絶縁体、例えばシリコーンゴムにより実質的に被覆されてもよい。一例では、例えばリード110を受け入れるための、ヘッダ140がハウジング130に装着され得る。ヘッダ140は絶縁性材料、例えば成形プラスチックから形成され得る。ヘッダ140はまた、例えばリード110及びリード110を機器105と電気的に結合する導体を受け入れるための、少なくとも1つのレセプタクルも含み得る。ヘッダ140はまた第4の電極も含むことができ、これは不関電極145と称することができる。
【0030】
図1は機器105の諸部分もまた、様々な電極との接続の略図と併せて概略的に示す。機器105は、エキサイタ150などの電気刺激源を含み得る。エキサイタ150は、電気的励起信号、例えばストローブ電流パルス系列又は他の計測用刺激を心臓115に(例えば、リング電極125と先端電極120との間に、又は電流パルスの送達に好適な任意の他の電極構成を使用して)送達することができる。エキサイタ150は、コントローラ165から1つ又は複数のクロック信号又は他の制御信号を受け取るように構成され得る。エキサイタ150によって供給される励起信号に応答して、信号プロセッサ155により応答信号が(例えば、先端電極120と不関電極145との間、又は任意の他の好適な電極構成で)検知され得る。一例では、信号プロセッサ155によって検知される応答信号は、経胸腔的(例えば、胸部又は胸郭の一部分にわたる)インピーダンスを表す電圧であってもよい。
【0031】
一例では、一回換気量の計測は、インピーダンスから得られる換気量信号を使用してオーミック一回換気量を計測することを含む。一例では、インピーダンスから得られる換気量信号、例えば分時換気量信号は、経胸腔的(胸部又は胸郭にわたる)インピーダンスを計測することによって得ることができる。計測された経胸腔的インピーダンスは、患者が呼吸する速さ及び深さを含む呼吸情報又は換気量情報を提供し得る。経胸腔的インピーダンスの成分は、患者が吸息及び呼息するに伴い変化する。胸郭インピーダンス信号には、換気量(例えば、「換気回数」又は「VR」とも称される呼吸速度、及び「一回換気量」又は「TV」とも称される呼吸量)の情報が含まれる。換気量を表すインピーダンス差は、オーミックTVと関連付けられ得る。分時換気量信号(「分時量」又は「MV」とも称される)の信号は、インピーダンス信号から式(1a)によって示されるとおり求めることができる。MVは呼吸気流量(例えば、リットル毎分)の尺度を示し、オーミックTVは一呼吸当たりの容量(例えば、一呼吸当たりのリットル数)の尺度を示し、及びVRは呼吸速度(例えば、毎分呼吸数)の尺度を示す。
【0032】
MV=VR×オーミックTV×k (1a)
式(1a)において「k」は、リットル/オームの単位を有する変換定数を表す。より大きいMV信号は心拍数の増加に対する代謝要求を示し、それに従い機器105などの心調律管理機器によってペーシングレートが調整され得る。定数「k」が利用可能でない場合(典型的にはこれが該当し得る)、式(1b)が適用され、式中ではオーム/分の単位を有する「オーミック分時換気量」又は「オーミック分時量」が換気回数及びオーミック一回換気量と関連付けられ得ることに留意されたい。典型的には、後述するとおり、このオーミックMVは心拍数の調整に使用され得る。
【0033】
オーミックMV=VR×オーミックTV (1b)
経胸腔的インピーダンスの計測手法の一例が、本願の譲受人に譲渡された「RATE ADAPTIVE CARDIAC RHYTHM MANAGEMENT DEVIC
E CONTROL ALGORITHM USING TRANS−THORACIC
VENTILATION」と題されるHauckらの米国特許第5,318,597号明細書(その開示は、経胸腔的インピーダンスの計測及び使用手法についてのその記載を含め、全体として参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0034】
一例では、信号プロセッサ155は、インピーダンス信号からMV信号を含めた換気量情報を抽出し得る。少なくとも一部においてMV信号に基づき、信号プロセッサ155は指示ペーシングレート信号をノード160でコントローラ165に出力し得る。ノード160における指示ペーシングレート信号に基づき、コントローラ165が、治療回路170による心臓115への電気的ペーシング刺激などの心調律管理治療の送達レートを調整し得る。かかるペーシング刺激は、例えば、先端電極120とリング電極125との間などにおけるバイポーラペーシングの提供、カン電極135と先端電極120又はリング電極125のいずれかとの間などにおけるユニポーラペーシングの提供、又は任意の他の好適な電極構成を使用したペーシング刺激の提供を含み得る。
【0035】
図2は、信号プロセッサ155の1つ又は複数の部分の一例を概略的に示す。信号プロセッサ155はアナログ信号処理回路200とデジタル信号処理回路205とを含み得る。アナログ信号処理回路200のプリアンプ210(プリアンプ又は受信器とも称される)の入力は、例えばエキサイタ150により提供される上述の刺激に応答して信号を受け取るため、不関電極145及び先端電極120の各々に電気的に結合され得る。アナログ信号処理回路200はまた、例えばプリアンプ210の出力を受け取って帯域フィルタ220に出力信号を提供する復調器215も含み得る。帯域フィルタ220からの出力信号はアナログ−デジタル(A/D)変換器225が受け取り得る。
【0036】
A/D変換器225は帯域フィルタ220の出力信号を受け取り得るとともに、得られたデジタル化出力信号をデジタル信号処理回路205のハイパスフィルタ230に提供し得る。一例では、A/D変換器225は、約1ボルトの入力レンジを有する12ビットの逐次比較型スイッチドコンデンサA/D変換器として実装され得る。一例において、A/D変換器225は、エキサイタ150により送達される電流パルス系列に対応する1つの12ビットワードを提供する。A/D変換器225の多くの異なる実装が、本システム及び方法での使用に好適であり得る。A/D変換器225からの出力信号は、デジタル信号処理回路205のハイパスフィルタ230が受け取り得る。
【0037】
一例では、ハイパスフィルタ230としては、A/D変換器225から12ビットのデジタル出力信号を受け取り得る単極無限インパルス応答(IIR)デジタルフィルタを挙げることができる。ハイパスフィルタ230は、約0.1Hzのその高域遮断周波数未満の周波数成分を除去し得る。ハイパスフィルタ230の他の多くの異なる例もまた、本システム及び方法での使用に好適であり得る。ハイパスフィルタ230は、有利には、例えば肺水腫などに起因し得る経胸腔的インピーダンスのベースライン直流成分、すなわち低周波シフト、及びA/D変換器225によって生じる任意の直流オフセット電圧をさらに減衰してもよい。一例では、ハイパスフィルタ230の出力は適応的ローパスフィルタ235に提供され、適応的ローパスフィルタ235の低域遮断周波数を超える信号の周波数成分が減衰され得る。減衰された周波数は、各心周期の間に心臓115が収縮するときの心臓115内の血液量の変化から生じる心拍出信号を含むことができ、この信号は経胸腔的インピーダンス信号の一成分として現れる。一例では、フィルタ235の低域遮断周波数は、適応的に患者の心拍数に基づき得る。一例では、低域遮断周波数は、患者から得られるいかなる呼吸速度信号からも独立していてよい。一例では、適応的ローパスフィルタ235はチェビシェフフィルタを使用し得る。一例では、適応的ローパスフィルタ235は楕円フィルタを含み得る。一例では、適応的ローパスフィルタ235は従来の直接型の構造ではなく、状態空間構造を使用し得る。状態空間構造は、係数の量子化及び丸め雑音
の効果をさらに低減することができる。かかる状態空間構造の一例が、Leland B.Jackson、「Digital Filters and Signal Processing」、第2版、332〜340頁、Kluwer Academic Publishers、Boston,Mass.(その開示は参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0038】
一例では、デジタル信号処理回路205は、コントローラ165内に、例えばマイクロプロセッサにより実行される一連の命令として含まれ得る。一例では、デジタル信号処理回路205は、本明細書に記載されるデジタル信号処理タスクの実行専用の別個に実装されたハードウェア部分を含み得る。ハイパスフィルタ230からの出力信号は、デジタル信号処理回路205の適応的ローパスフィルタ235が受け取り得る。分時換気量(MV)計算モジュール240が適応的ローパスフィルタ235からの出力信号を受け取り得るとともに、得られた指示ペーシングレート信号をノード160でコントローラ165に供給し得る。
【0039】
一例では、MV計算モジュール240は、任意の好適なマイクロプロセッサ上で実行される一連の命令として実装され得る。それに代えて又は加えて、MV計算モジュール240はまた、換気量情報に基づき指示ペーシングレートの計算が可能な任意の他のハードウェア又はソフトウェア構成として実装されてもよい。分時換気量指示レートを計算するためにマイクロプロセッサ上で実行されるかかる一連の命令の例を以下に記載し、及び図3に示す。
【0040】
MV計算モジュール240は、経時的に変化する経胸腔的インピーダンスを表すデジタル信号を適応的ローパスフィルタ235から受け取り得る。一例では、インピーダンス信号はゼロを中心として、正の値が吸息を表し、負の値が呼息を表し得る。インピーダンス信号の最大値(最も高い正値)及び最小値(最も低い負値)が別個の記憶レジスタに格納され得る。各呼吸後、例えば正方向ゼロ交差が起こるごとに、マイクロプロセッサに割込みが提供され得る。
【0041】
一例では、信号プロセッサ155は、オーミック分時換気量の移動短期平均(STA)及び同時長期平均(LTA)を決定するように構成され得る。一例では、STAは、約30秒間にわたるオーミック分時換気量の平均の実行を含み得る。一例では、LTAは、約4時間〜約5時間にわたるオーミック換気量の平均の実行を含み得る。STAは現在の分時換気量による代謝要求指示を表し得る。同様に、LTAは患者の安静状態の近似を表し得る。一例では、LTAはIIRデジタルフィルタにより実行される。平均値(average)又は平均値(mean)ではない他の形態の中心傾向又は他の中心性尺度が得られてもよい。
【0042】
一例では、LTAとSTAとが、例えば一方から他方を減じることによって比較され得る。その差が場合によりスケーリングされてもよく、STAがLTAを超えたときのペーシングレートの調整に用いられ得る。一例では、ペーシングレートは式(2)に従い調整され得る。
【0043】
SENSOR RATE DELTAMV=LRL+K(STA−LTA) (2)
式(2)において、「K」は任意選択のスケーリング係数を表すレート応答係数であり、LRLはインクリメンタルセンサ駆動型レートを加えるプログラム可能な下限であり、及びSENSOR RATE DELTAMVは、ペーシング治療が送達されるべき分時換気量指示レートである。一例では、SENSOR RATE DELTAMVは差STA−LTAの一次関数であり得る。また、この例では、短期平均(STA)の値が長期
平均(LTA)の値未満である場合、ペーシング治療はレート下限(LRL)で送達される。
【0044】
一例では、例えば得られた分時換気量指示レートに対する分時換気量の区分線形写像を得るため、2個以上のスケーリング係数Kが使用され得る。例えば、STA−LTA差が特定の閾値を超えると、より小さいスケーリング係数Kが用いられ得る。これにより、高いペーシングレートについてのペーシングレートをインクリメントする増分が、レート下限(LRL)に近いペーシングレートについてのペーシングレートをインクリメントする増分と比較したとき小さくなる。
【0045】
一例では、上記のとおり使用される差STA−LTAではなく、比STA/LTAが用いられ得る。かかる例では、レートは式(3)に従い調整され得る。
SENSOR RATE DELTAMV=LRL+K(STA/LTA) (3)
式(3)において、STAは短期平均を表し、LTAは長期平均を表し、「K」は任意選択のスケーリング係数を表すレート応答係数であり、LRLはインクリメンタルセンサ駆動型レートを加えるプログラム可能なレート下限であり、及びSENSOR RATE DELTAMVはペーシング治療が送達される分時換気量指示レートである。短期平均(STA)の値が長期平均(LTA)の値未満である場合、ペーシング治療はレート下限(LRL)で送達され得る。一例では、使用されるLRLは毎分約60拍動数であり得る。一例では、より高いペーシングレートについてのインクリメンタルレートの低下が、上記のようなスケーリング係数を2個以上使用して達成され得る。
【0046】
他のレート修飾器もまた、分時換気量指示レートを得るために使用され得る。さらに、分時換気量指示レートは、他のレート指標、例えば異なる代謝要求指標を提供する異なるセンサ(例えば、対象者の身体的労作レベルを示す加速度センサ)から得られた指標と結合され、混成され、又は他の形で併せて使用されてもよい。かかる指標は、有利には上記の分時換気量レート指示と組み合わされ得る異なる応答特性(例えば、運動開始後のタイムラグ)を有し得る。さらに、上記は連続する心収縮間の拍数に関して示されているが、当業者はそれが概念上の便宜によるものであり、実施態様では代わりに連続する心収縮間の時間間隔、又は心拍数と心拍間隔との適切な組み合わせが用いられ得ることを理解するであろう。
【0047】
本発明者らは、特に、MVに対する所望のペーシングレート応答の達成には、特定の患者についてのMVレート応答係数(K又はK)の個別調整が関わり得る−これは、医師又は他の使用者が心調律管理機器のプログラミングにより多くの労力を費やすことを伴う−ことを認識した。特定の患者について、TV計測値は概して約400ml〜約4000mlの範囲であり得る。TV計測値は概して対象者の呼吸数(呼吸速度)に依存し得る。呼吸数は概して約6呼吸/分〜約70呼吸/分の範囲内でばらつきがある。一般に、体格が大きい人ほど肺は大きく、呼吸する間に生成される胸郭インピーダンス差がより大きくなり、対照的に肺が小さい人ほど生成される胸郭インピーダンス差は小さくなる。これが、少なくとも一部において、MVレート応答係数を概して特定の患者に対して個別調整しなければならない理由である。
【0048】
しかしながら、本発明者らはまた、例えば特定の患者のTV計測値、及び他の患者による母集団から得られる情報に基づき、特定の患者に対してMVレート応答係数を自動的に個別調整することが可能であり得ることも認識した。
【0049】
図3は、例えば多数の患者のサンプルから得られた、ある患者母集団についてのMVの長期平均の累積分布関数を示す曲線を図示する。図3の例では、平均MVは、標本患者母
集団の約95%が約10,000ミリオーム毎分の下限から約40,000ミリオーム毎分の上限までの範囲にある。図3の例では、安静時呼吸についてのMV上限のMV下限に対する比は約4:1と決定され得る。本発明者らは、この比を使用して正規化係数を決定し、その正規化係数を使用して、特定の患者について計測されるオーミック一回換気量を、例えば図4を用いて正規化し得ることを認識した。
【0050】
図4は、正規化係数とそれに対するオーミック一回換気量を示すグラフである。グラフのx軸はオーム単位のオーミック一回換気量を表し、y軸は百分率値として示される正規化係数を表す。この例において正規化係数の範囲は、図3に示されるものと同じ4:1の範囲にわたり、特定の患者について計測されると予想されるオーミック一回換気量の範囲(例えば、約400ミリオオーム〜約4000ミリオオーム)に対して(例えば、負の線形性で)写像され得る。図3に示される関係を用いることにより、特定の患者についての特定の正規化係数を、当該の患者からのオーミック一回換気量の計測値を使用して選択することができる。選択された正規化係数は、上記のMVレート応答係数Kの調整に使用することができる。これにより、必要に応じて、あらゆる患者について単一のMVレート応答係数Kを心調律管理機器にプログラムすることが可能となり得る、すなわち機器は、図4を使用して選択される正規化係数(患者のオーミック一回換気量計測値に基づく)を用いてKを自動的に調整することができ、従って得られた有効なMVレート応答係数は、特定の患者に対して自動的に適切に個別調整される。
【0051】
図5は、特定の患者に対してレート応答係数を自動的に個別調整するステップを含む例500を概略的に示すチャートである。
510において、単一のTV計測値又は複数のTV計測値(例えば、約2分間から数時間の範囲であってもよい期間にわたる)の中心傾向(例えば、平均値、中央値等)を使用することにより、特定の患者について安静時TVが計測され得る。一例では、平均一回換気量が短時間(例えば2分間)にわたって計測される間、患者を静かに着座させ、話すことなく通常どおり呼吸させることにより「クイックキャリブレーション」が実施される。よりはるかに長いキャリブレーション期間(例えば、6時間)を使用して「自動的な」キャリブレーションを実施してもよい。自動キャリブレーションの間、患者は通常の活動を継続してもよく、ここではその期間の大部分が安静状態で費やされ、ひいては得られる平均一回換気量が安静時一回換気量を反映し得るものと仮定される。
【0052】
520において、正規化係数(NF)を選択することができ、例えばx軸目盛りとして特定の患者について計測されたTVを使用することにより、例えば図4のグラフを用いてNFとして使用される対応するy軸値を得ることによって対応するNFが選択される。例えば、NFは式(4)を用いるなどして計算され得る。
【0053】
正規化係数(NF)=(Y切片)+(傾き)*(TVAvg) (4)
530において、例えばKにNFを乗じることで、特定の患者に適するように自動的に個別調整された有効MVレート応答係数Keffectiveを得ることにより、MVレート応答係数Kが正規化係数を用いて調整され得る。これは式(5)に示されるとおり表すことができる。
【0054】
有効レート応答係数(Keffective)=NF*K (5)
540において、例えば上記の式(2)又は式(3)のKの代わりにKeffectiveを使用することにより、レート応答ペーシング治療又は心臓再同期治療が特定の患者に送達され得る。
【0055】
図6は、換気量センサのレート応答を調整するステップを含む例600を概略的に示す。本発明者らは、特に、場合によってはCRM機器を使用してTV計測値を得ることがで
き、その場合、図2の帯域フィルタ220、ハイパスフィルタ230、又は適応的ローパスフィルタ235の1つ又は複数における周波数依存性などに起因して、TV計測値が呼吸速度に対するわずかな依存性を呈し得ることを認識した。その場合、TV計測値を図4でy軸の正規化係数NFを得るためのx軸目盛りとして使用する前に、かかる周波数依存性についてTV計測値を補正することが望ましい。かかるTV計測値の補正は、呼吸速度(呼吸数)の計測、及びNFの選択において図4で使用される補正済みTV計測値を得るためのフィルタリングにおける非理想性の逆関数の適用を含み得る。このTV計測値を使用する一例が、図6の例600に関連して記載される。
【0056】
610において、患者のオーミック一回換気量(TV)が計測され得る。これは、対応する記憶レジスタに保持された、患者の前回の呼吸についての胸郭インピーダンス信号の最大値と最小値との差をとることを含み得る。より高い一回換気量は、より低い一回換気量と比べて呼吸がより深いことを示す。610では、患者によって行われる個々の呼吸について一回換気量計測値が生成され得る。
【0057】
620において、計測されたオーミック一回換気量が呼吸数依存調整係数を用いて調整され、調整済みオーミック一回換気量が生成され得る。例えば、呼吸数依存調整係数は、信号処理回路205で使用される任意の非理想フィルタにおける非理想性の関数に対する逆関数の適用によって生成され、それにより例えば任意の非理想性が補償され得る。
【0058】
630において、調整済みオーミック一回換気量の中心傾向が計算され、図4でy軸正規化係数NFを得るためのx軸目盛りとして使用され得る。
640において、分時換気量センサレート応答係数Kが調整され、Keffectiveが得られ得る。この調整は、630で計算された中心傾向から判定される情報を用いて得られた正規化係数NFの使用を含み得る。
【0059】
650において、調整済み分時換気量センサレート応答係数を分時換気量センサ出力計算値のベースラインからの偏差に適用することを含め、分時換気量センサ駆動型ペーシングレートが計算され得る。
【0060】
図7は、例えば、図3に示される母集団を代表しない個人の場合、又は図7の技法がその個人に一層適し得ると医師が考える場合(例えば、肺疾患を患う者、又は著しい運動を行う者の場合)の別のレート応答係数の調整技法を表す。一例では、この技法は、上記で考察される母集団に基づく正規化の例と共に、又はそれとは独立して使用することができる。図7は、分時換気量センサのレート応答を調整するための例700を概略的に示す。本発明者らは、特に、患者において最大随意換気量(MVV)を計測することにより、心調律管理(CRM)機器によるセンサレート応答係数の予測が可能となり得ることを認識した。MVVは、随意的な努力により1分間当たりに呼吸することのできる最大気体量を表し、患者に可能な限り深く速い呼吸を強制的に行うよう要求することにより計測することができる。
【0061】
ほとんどの人は、運動時の分時換気量がMVVの肺機能上の限界に達することはなく、概してそれより約25%低い。母集団に関しては、最大運動負荷時に観測される最高分時換気量は、MVVの0.61〜1.07の範囲であり得る。下限は慢性肺閉塞性疾患(COPD)患者により実現され、一方、他方の極値(1.07)は相当の訓練を積んだ運動選手により実現される。
【0062】
心血管の限界は、一例では、個人の最高運動時換気量と個人の安静時MVV計測値とを比較することにより肺の限界と区別され得る。患者の換気予備率は、患者の疾患状態(例えば、COPD等)及び患者の安静時MVVを知ることにより推定され得る。必要であれ
ば、信号処理回路205は、患者の換気予備率を患者の心拍予備率と実質的に一致させ得るMVレート応答を提供するように構成され得る。
【0063】
710において、例えば患者に医師の監督下で所定の時間(例えば、12〜15秒間)にわたり可能な限り深く速い呼吸を強制的に行うよう要求することにより、最大随意換気(MVV)の間に患者の安静時MVが計測され得る。外部プログラマ190を使用して、MVV強制的呼吸操作の前にMV計測を作動させ得る。信号処理回路205は、MVV操作中の経胸腔的インピーダンスを計測することにより安静時分時換気量を計算し得る。外部プログラマ190は、キャリブレーションが完了したため患者がMVV強制的呼吸操作を中止してもよいことを示す可聴式又は視覚的指示を生成し得る。
【0064】
720において、例えば710で計測された安静時分時換気量を使用することにより、最大運動時等価分時換気量が計算され得る。最大運動時等価分時換気量は式(6)を用いて計算することができる。
【0065】
最大運動時等価MV=MVV×スケーリング係数 (6)
MVV強制的呼吸操作の間に観測される分時換気量にスケーリング係数(例えば、0.75)が乗じられる。一例では、スケーリング係数は約0.67〜約1.07を含む範囲内にある任意の特定の値であってよい。一例では、使用することのできる呼びスケーリング係数は約0.8である。COPD患者には下限未満(例えば、0.67未満)のスケーリング係数が用いられ得る。
【0066】
730において、計算された最大運動時等価分時換気量、年齢から予測される最大心拍数、安静時心拍数、及び安静時分時換気量を使用して分時換気量センサレート応答係数が調整され得る。年齢から予測される最大心拍数(HR)は式(7)によって与えられ得る:
HR=220−(患者の年齢) (7)
例えば、式(7)に基づけば、50歳の患者は、年齢から予測される最大心拍数が170と予測される。図8に示される例では、710でMVをキャリブレートし、720で最大運動時等価分時換気量を計算した後(式6)、グラフに2つの点(x1,y1)及び(x2,y2)がプロットされ得る。心拍数がy軸上に示され、オーミック分時換気量がx軸上に示される。第1の点は安静時の分時換気量に対応するx座標(x1)(すなわちキャリブレーション後、グラフにおいてRESTと表示される)と、安静時心拍数に対応するy座標(y1)(ペースメーカー患者においてこれはレート下限−LRL−である)とを含む。第2の点(x2,y2)は最大運動時等価分時換気量に対応するx座標(x2)と、年齢から予測される最大心拍数に対応するy座標(y2)(例えばAPHRMAX=220−患者年齢)とを含む。(x1,y1)と(x2,y2)との間に引かれる線がMVレート応答係数Kである。
【0067】
このように決定されるMVレート応答係数Kは、ほとんどの場合、母集団データから導かれた、キャリブレーションの一部として自動的に生じる先述のKeffectiveと等しい。MVVから導かれるK3は、母集団から導かれるKeffectiveが計算される前に決定されてもよい。いずれの場合にも、機器の次のMVキャリブレーションまではそれが母集団から導かれるKeffectiveに取って代わり得る。(注記:MVキャリブレーションは、リードの修正がない限り、又は使用者が別のキャリブレーションを要求しない限り、機器の寿命にわたり有効である)。
【0068】
上記は、検出された経胸腔的インピーダンスから換気量情報を抽出することができ、且つ換気量情報から得られる指標に基づき心調律管理治療の送達レートを調整することができる本機器及び方法の特定の例を、限定としてではなく、例示として示す。しかしながら
、本機器及び方法はまた、例えばかかる情報から抽出された指標に基づき心調律管理治療の送達レートを調整するための、経胸腔的インピーダンスからの他の情報(例えば、心拍出に関する情報)の抽出も含み得る。その一例が、「METHOD AND APPARATUS FOR MANAGING AND MONITORING CARDIAC
RHYTHM MANAGEMENT USING ACTIVE TIME AS THE CONTROLING PARAMETER」と題されるSpinelliの米国特許第5,235,976号明細書(これは本特許出願の譲受人に譲渡されており、及びその開示は参照により本明細書に援用される)に開示されている。
補注
植込み型医療機器(IMD)は、本明細書に記載される特徴、構造、方法、又はそれらの組み合わせの1つ又は複数を含み得る。例えば、心臓モニター又は心臓刺激装置が、上記の有利な特徴又は方法の1つ又は複数を含むように実装され得る。かかるモニター、刺激装置、又は他の植込み型若しくは部分的植込み型機器は、本明細書に記載される特徴の全てを含む必要はなく、独自の構造又は機能を提供する選択された特徴を含むように実装されてもよいことが意図される。かかる機器は、様々な治療的又は診断的機能を提供するように実装され得る。
【0069】
上記の詳細な説明は添付の図面への参照を含み、図面は詳細な説明の一部をなす。図面は、例示として、本発明が実施され得る具体的な実施形態を示す。これらの実施形態はまた、本明細書では「例」とも称される。本書で参照される全ての刊行物、特許、及び特許文献は、個々に参照により援用されたものとして、全体として参照により本明細書に援用される。本書と、このように参照により援用されるそれらの文献との間に一致しない用法があった場合、援用される文献における用法は本書の用法の補足であると考えられるべきである;解決し難い不一致については、本書の用法を優先する。
【0070】
本書では、用語「a」又は「an」は、特許文献で一般的なとおり、任意の他の場合又は「少なくとも1つ」若しくは「1つ又は複数」の用法とは無関係に、1つ又は1つより多くを含んで使用される。本書では、用語「又は」は、他に指示されない限り、非排他性を参照し、すなわち「A又はB」が、「AであるがBではない」、「BであるがAではない」、及び「A及びB」を含むように使用される。添付の特許請求の範囲では、用語「〜を含む(including)」及び「ここで(in which)」は、それぞれ用語「〜を含んでなる(comprising)」及び「その場合において(wherein)」のプレイン・イングリッシュによる言い換えとして使用される。また、以下の特許請求の範囲において、用語「〜を含む(including)」及び「〜を含んでなる(comprising)」は非制限的であり、すなわち、クレームにおいてかかる用語の後に列挙される要素に追加して要素を含むシステム、機器、物品、又は方法は、なおそのクレームの範囲内に含まれるものと見なされる。さらに、以下の特許請求の範囲において、用語「第1」、「第2」、及び「第3」等は、単に分類のために使用されるに過ぎず、それらの対象に数値的な要件を課すことを意図するものではない。
【0071】
本明細書に記載される方法例は、少なくとも一部において機械又はコンピュータに実装され得る。一部の例は、上記の例に記載されるとおりの方法を実施するように電子デバイスを構成する働きをし得る命令が符号化されたコンピュータ可読媒体又は機械可読媒体を含み得る。かかる方法の実施態様は、コード、例えば、マイクロコード、アセンブリ言語コード、高水準言語コードなどを含み得る。かかるコードは、様々な方法を実行するためのコンピュータ可読命令を含み得る。コードはコンピュータプログラム製品の一部を形成し得る。さらに、コードは、実行中に、又は他の時点で、1つ又は複数の揮発性又は不揮発性コンピュータ可読媒体にタンジブルに格納され得る。そのようなコンピュータ可読媒体としては、限定はされないが、ハードディスク、リムーバブル磁気ディスク、リムーバブル光ディスク(例えば、コンパクトディスク及びデジタルビデオディスク)、磁気カセ
ット、メモリカード又はスティック、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)などを挙げることができる。
【0072】
上記は例示を意図しており、限定することは意図されない。例えば、上記の例(又はその1つ又は複数の態様)は、互いに組み合わせて使用されてもよい。当業者が上記の説明を考察するなどして、他の実施形態が使用され得る。要約は、米国特許法施行規則第1.72条(b)に基づき、読者が技術的開示内容の本質を簡便に確認することを可能にするために提供される。これは、それが特許請求の範囲の範囲又は意味を解釈又は限定するために使用されることはないという了解のもとに提出される。また、上記の詳細な説明では、様々な特徴を一つにまとめて本開示を合理化し得る。これは、特許請求されない本開示中の特徴が任意のクレームに不可欠であることを意図するものとして解釈されてはならない。むしろ、開示される特定の実施形態の全ての特徴に本発明に係る主題が含まれるわけではない。従って、以下の特許請求の範囲は本明細書によって詳細な説明に組み込まれ、各クレームは別個の実施形態として独立して成り立つ。本発明の範囲は、かかる特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と共に添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号プロセッサにおいて、
患者の一回換気量を計測し、及び前記一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成された信号プロセッサと、
前記信号プロセッサに結合されたコントローラであって、換気量センサ出力観測値のベースラインからの偏差に前記調整済み換気量センサレート応答係数を適用することを含む、換気量センサ駆動型ペーシングレートを計算するように構成されたコントローラと、
を備える心調律管理システム。
【請求項2】
前記信号プロセッサが、患者母集団から得られる情報を用いて前記換気量センサレート応答を調整するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記信号プロセッサが、換気回数依存調整係数を用いて前記換気量センサレート応答係数を調整することにより調整済み一回換気量を生成するように構成される、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記換気回数依存調整係数が、前記信号プロセッサにおけるフィルタの非理想性を補償するように構成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記信号プロセッサが、複数の安静時一回換気量を格納するように構成されたメモリを含むか、又はそれに結合され、及び前記信号プロセッサが、前記複数の安静時一回換気量の中心傾向を計算するように構成された中心傾向計算回路を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記信号プロセッサが、前記一回換気量計測値から決定される情報を用いて前記換気量センサレート応答係数を調整するように構成され、前記一回換気量計測値を使用して、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を用いて正規化係数を決定するステップを有してなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係が、前記一回換気量の関数としての前記正規化係数について実質的に負の線形関係である、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係が、前記母集団について予想される一回換気量範囲にわたり約4対1の正規化係数範囲に相当する、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記信号プロセッサが、前記一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成され、
心調律管理機器にプログラムされた母集団に基づく換気量レート応答係数を使用するステップと、
前記患者の前記一回換気量計測値を使用して決定される正規化係数を用いて、前記母集団に基づく換気量レート応答係数を前記患者に対して自動的に調整するステップと、
を有してなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記信号プロセッサが、前記患者について決定される安静時分時換気量計測値、運動時等価分時換気量、安静時心拍数、及び年齢から予測される最大心拍数を用いて換気量センサレート応答係数を調整するように構成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
患者の一回換気量を計測するステップと、
前記一回換気量計測値から決定される情報を用いて換気量センサレート応答係数を調整するステップと、
換気量センサ駆動型ペーシングレートを計算するステップであって、前記換気量センサ出力観測値のベースラインからの偏差に調整済み換気量センサレート応答係数を適用することを含むステップと、
を備える方法。
【請求項12】
前記換気量センサレート応答を調整するステップが、患者母集団から得られた情報を用いるステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者について決定される安静時分時換気量計測値、運動時等価分時換気量、安静時心拍数、及び年齢から予測される最大心拍数を用いて前記換気量レート応答係数を調整するステップをさらに有する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
スケーリング係数を用いて最大随意換気量をスケーリングするステップをさらに有し、前記スケーリング係数が患者の身体的健康状態に基づき選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
換気回数依存調整値を用いて前記一回換気量計測値を調整し、それにより調整済み一回換気量計測値を生成するステップ、
を有する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記一回換気量を計測するステップが、複数の安静時一回換気量を受け取るステップと、複数の一回換気量計測値の中心傾向を計算するステップとを含む、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記一回換気量を計測するステップ及び複数の前記調整済み一回換気量計測値の中心傾向を計算するステップが、植込み型医療機器を使用して実行される、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記一回換気量計測値から決定される情報を用いて前記換気量センサレート応答係数を調整するステップが、前記一回換気量計測値を使用して、一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係を用いて正規化係数を決定するステップを含む、請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記一回換気量と正規化係数との間の母集団により決定される関係が、前記一回換気量の関数としての前記正規化係数について実質的に負の線形関係である、請求項11〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記一回換気量が最大随意換気期間の間に計測される、請求項11〜19のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−527960(P2012−527960A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513139(P2012−513139)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/035608
【国際公開番号】WO2010/138388
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】