説明

揮発性物質供給装置、加湿装置及び空気調和装置

【課題】 任意の空間への香気物質や防カビ剤等の揮発性物質の供給を容易に制御できる揮発性物質供給装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 揮発性物質を収容し、少なくとも一部が、温度によって前記揮発性物質の透過率が変化する感温性透過膜からなる揮発性物質放散体と、該揮発性物質放散体を加熱する熱源とを、揮発物質供給装置に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の空間に香気物質や防カビ剤等の揮発性物質を放散する機能を有する揮発性物質供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,室内等に水分を供給する加湿装置には、水分と共に芳香(アロマ)を室内に放散するタイプのものがあった。このようなタイプの加湿装置は、揮発性の香気物質を収容するための容器(アロマトレー)を備えており、その容器から放散された香気物質と共に水蒸気(スチーム)や霧状の水滴(ミスト)と共に加湿装置の外部に放出する構成を有している。
また、芳香をつけた空気を送出する送風装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さらに、香気物質を内部に設置した空気調和装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。この空気調和装置は、香気物質の収容部の蓋を開閉するなどして、香気物質の放散量を調節している。
【0004】
また、従来の空気調和装置は、特に冷房運転終了時などに室内機内の湿度が高くなり、送風機等にカビが生えやすい状態になっていた。そこで、カビの繁殖を抑制する化学物質(防カビ剤)を室内機内に設置することによりカビの繁殖を防ぐ空気調和装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−242737号公報
【特許文献2】特開平4−332322号公報
【特許文献3】特開2004−215942号公報(段落[0029]〜[0032]及び図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した香気物質の収容容器を備えた従来の加湿装置の場合、香気物質が直接空気に接しているために、すぐに揮発してしまい、香りが長持ちしなかった。
また、芳香をつけた空気を送出する送風装置は、芳香の供給量を調節するのが困難であった。
【0007】
また、香気物質を内部に設置した空気調和装置は、香気物質の放散量を機械的に調節するために、その調節のための機構にコストがかかった。
【0008】
また、防カビ剤を内部に設置した空気調和装置は、防カビ剤の供給量を積極的に調節することができず、防カビが不要のときにも防カビ剤が揮発することがあり、防カビ剤を無駄に使っていることがあった。特許文献3に記載の防カビ剤等の徐放部材は、湿度感受性膜を備えることにより、湿度に応じて防カビ剤等を徐放するものであるが、空気調和装置側で積極的に防カビ剤の放出を制御できるものではなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、任意の空間への香気物質や防カビ剤等の揮発性物質の供給を容易に制御できる揮発性物質供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる揮発性物質供給装置は、揮発性物質を収容し、少なくとも一部が、温度によって前記揮発性物質の透過率が変化する感温性透過膜からなる揮発性物質放散体と、該揮発性物質放散体を加熱する熱源とを備えた揮発性物質供給装置である。
この揮発性物質供給装置によれば、温度を調節することにより、容易に揮発物質の放散を制御することができる。
【0011】
前記感温性透過膜としては、ガラス転移温度が−30℃以上120℃以下のポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーを好適に用いることができる。
このような熱可塑性ウレタンエラストマーを用いた感温性透過膜は、ガラス転移温度を超える温度で揮発性物質の透過率が大きく上昇する。
【0012】
前記ポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーは、下記一般式1で表されるものが好ましい:
一般式1:
【化2】

(但し、R1・R2・R3はそれぞれ同一又は異なる2価の有機基を表し、
m、nは括弧内の繰り返し数を表す。
【0013】
前記揮発性物質は、香気物質とすることができる。
この場合は、揮発性物質供給装置の使用時に、揮発性物質供給装置の外部の空間に芳香を放散させることが可能となる。
【0014】
また、前記揮発性物質は、防カビ剤とすることができる。
この場合は、揮発性物質供給装置の内部や周辺部がカビの発生しやすい環境にある場合に、任意に防カビ剤を放散させてカビの発生を抑制することができる。同様に、防虫剤や防腐剤といったものも可能である。
【0015】
また、前記揮発性物質は、人の肌に対して保湿効果、湿潤効果、皮膚保護効果、収斂効果、抗酸化効果、美白効果、殺菌効果、清涼効果、抗アレルギー効果、帯電防止効果等の効果のある物質、例えば化粧水、エモリエント剤、収斂剤、帯電防止剤、植物抽出物、発酵生成物等とすることができる。
この場合は、肌が乾燥しやすい環境下で使用した場合に、任意に化粧水成分を空気中に放散して肌水分量を保持・向上することができる。
【0016】
前記揮発性物質供給装置は、前記感温性透過膜を透過した揮発性物質をこの揮発性物質供給装置の外部に送出する空気流を発生する送風装置を備えていることが好ましい。
送風装置を設けることにより、より急速に揮発性物質を任意の空間に放散することができる。
【0017】
前記揮発性物質放散体は、前記熱源に対して前記空気流の下流側に設置することができる。
このような構成とすることにより、熱源により加熱された空気流を介して揮発物質放散体が加熱され、揮発性物質の放散を制御することができる。
【0018】
前記揮発性物質供給装置は、加湿装置に適用することができる。
特に、揮発性物質が香気物質である場合、前記揮発性物質供給装置を加湿装置に適用することにより、湿分が高い空気に匂いをつけることとなり、人間の鼻のにおいを感じる神経に香気物質が吸着しやすくなるため、匂いを感じやすくさせることができる。従って、個人用の小型加湿装置として適したものとなる。
【0019】
前記揮発性物質供給装置は、加湿装置に適用する場合、前記揮発性物質放散体に対して前記空気流の下流側に該空気流を加湿する加湿モジュールを設ける構成とすることができる。
【0020】
上記のように加湿装置を構成した場合、前記加湿モジュールとして、(遠心)噴霧式加湿モジュール、超音波式加湿モジュール、透湿式加湿モジュール又は気化式加湿モジュールを好適に用いることができる。
このような構成とすることにより、前記揮発性物質放散体を前記熱源により加熱する際に加熱された空気流の持つ熱は、前記透湿式加湿モジュール又は気化式加湿モジュールにおいて水を蒸発させるための気化熱として利用され、加湿装置から吹き出す空気流の温度は使用者に快適な温度まで下降する。
また、前記揮発性物質放散体を前記熱源により加熱する際に加熱された空気流のもつ熱は、前記噴霧式加湿モジュール、超音波式加湿モジュールにおいて作り出された霧状の水滴(ミスト)を蒸発させるための気化熱として利用され、加湿装置から吹き出す空気流の温度は使用者に快適な温度まで下降する。
【0021】
あるいは、前記揮発性物質放散体に対して空気流の上流側に該空気流を加湿する加湿モジュールを設けて、加湿装置を構成してもよい。
【0022】
このように加湿装置を構成した場合、前記加湿モジュールとして、前記熱源により水を加熱して生じた水蒸気を前記空気流に供給するスチーム式加湿モジュールを好適に用いることができる。
このような構成とすることにより、加熱された水蒸気を、揮発性物質放散体を加熱するための熱源として利用することができる。
【0023】
また、前記揮発性物質供給装置は、空気調和装置に適用することができる。この場合、前記熱源は熱交換器であり、該熱交換器に対して空気流の下流側にある吹き出し口の近傍に前記揮発性物質放散体を設置することができる。
このような構成としたばあい、熱交換器により加熱された空気流を介して揮発性物質放散体を加熱し、揮発性物質の放散を制御することができる。
【0024】
あるいは、前記熱交換器に対して空気流の上流側の近傍に前記揮発性物質放散体を設置して、空気調和装置を構成してもよい。
このように空気調和装置を構成した場合、熱交換器の輻射熱により揮発性物質放散体を加熱し、揮発性物質の放散を制御することができる。また、揮発性物質放散体が空気調和装置内の空気流の最上流側に位置するので、揮発性物質を空気調和装置内に放散して用いる場合(例えば、防カビ物質)に、好ましい構成である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複雑な機構を用いずに、任意の空間への香気物質や防カビ剤等の揮発性物質の供給を容易に制御できる揮発性物質供給装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の揮発性物質供給装置にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1及び図2を用いて説明する。
この第1実施形態は、本発明の揮発性物質供給装置を透湿式加湿装置に用いた実施形態である。図1(a)及び図1(b)は、本実施形態の透湿式加湿装置(揮発性物質供給装置)1の縦断面両側の概略斜視図である。
【0028】
この透湿式加湿装置1は、装置外部からの空気を取り入れる吸い込み口2と加湿した空気を送出する吹き出し口3とを有する筐体4内に、空気流の上流から順に、空気加熱用のヒータ(熱源)10、送風ファン(送風装置)11、香気物質放散体(揮発性物質放散体)12、及び加湿モジュール13を収容し、さらにこの加湿モジュール13に水を供給するタンク15を収容して構成されている。
【0029】
本実施形態の加湿装置1においては、吸い込み口2の近傍にヒータ(熱源)10が設けられている。このヒータ(熱源)10は、送風ファン11によって吸い込み口2から加湿装置1に取り込まれた空気を加熱するものであればよく、ニクロム線等を電熱コイルに用いたコイルヒータ等を用いることができる。
【0030】
送風ファン(送風装置)11は、加湿装置1外部の空気を強制的に吸い込み口2から取り込み、加湿装置1内を流通させ、吹き出し口3から送出させるものである。本実施形態では、前記ヒータ10近傍の下流側に送風ファン11が設けられている。ヒータ10側から送風ファン11内に導入された空気流は、送風ファンの下方に送出されるように構成されている。この送風ファン11としては、シロッコファン等を好適に用いることができる。
なお、送風装置は上記の作用を有してさえいればその配置は特に限定されない。また、ヒータ11によって空気を加熱することにより生じる上昇気流を上記空気流として利用する場合は、送風装置を設けなくてもよい。
【0031】
送風ファン11の下流側には、香気物質放散体(揮発性物質放散体)12を配したトレイ18が設けられている。
トレイ18は引き出し状に形成され、筐体4の外側に容易に引き出すことができるようになっている。
【0032】
図2(a)及び図2(b)は、それぞれ香気物質放散体12の斜視図及び断面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、香気物質放散体12は、辺縁部で密着した2枚のシート状の感温性透過膜21からなる袋体に、香気物質(揮発性物質)を含有する芳香剤22を内包して構成されている。
【0033】
香気物質放散体(揮発性物質放散体)12の袋体を構成する感温性透過膜21は、そのガラス転移温度で揮発性物質の透過性が大きく変化し、ガラス転移温度より低い温度では揮発性物質を透過しにくく、高い温度では揮発性物質を透過しやすい性質を有している。このような感温性透過膜21としては、ポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーを用いることができる。ポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーとしては、下記一般式1で表されるものが好適に用いられる。
【0034】
一般式1:
【化3】

【0035】
(但し、R1・R2・R3はそれぞれ同一又は異なる2価の有機基を表し、
m、nは括弧内の繰り返し数を表す。
【0036】
熱可塑性ウレタンエラストマーは、そのポリオールの種類によって種々あり、ポリエステルポリオールを使用したアジペート系、ラクトン系、ポリカーボネート系、また、ポリエーテルポリオールを用いたポリエーテル系等の各種ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどがある。本発明の目的からすると、ガラス転移温度が−30〜80℃の範囲内にあるポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーが、耐溶剤性に優れ、香気物質の揮散性が良好であり、特に好ましい。
【0037】
本実施形態では、図2(a)及び図2(b)に示したように2枚の感温性透過膜21により袋体を形成しているが、上記感温性透過膜を袋体の一部のみに用いればよく、例えば、薄い厚さのゲル状の塊に形成された芳香剤22の外面の片側にポリエチレンテレフタレートなどの気体透過性の低い材料からなる膜を用いて、反対側に上記感温性透過膜21を用いれば、片面のみからの揮散を行うことができる。
また、香気物質の揮散性や袋体としての強度を付与するには、袋体を構成する上記の膜に対して、紙や他のポリマーを用いてラミネート加工をすればよい。また、袋体を構成する上記の膜のブロッキング性を高める場合には、膜の片面または両面にシボ加工を施して用いればよい。
【0038】
本実施形態で使用する一般式1のポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーは、一般式2で表されるジイソシアネートと、一般式3で表される2価ポリオールと、鎖延長剤としての一般式4で表されるグリコールとの3成分系のブロックコポリマーである。
【0039】
一般式2:
【化4】

【0040】
一般式3:
【化5】

【0041】
一般式4
【化6】

【0042】
(但し、一般式2〜4において、R1、R2及びR3は上記一般式1について定義するものと同じである。)
【0043】
感温性透過膜21のガラス転移温度は、一般式2、一般式3及び一般式4で表される各成分の分子主鎖である、R1、R2、R3の剛直性、分子量、極性、m及びnの数等によって決まる。一般的に、ガラス転移温度は、R2、R3の分子量が大きくなるほど降下し、R1、R2、R3の剛直性が増すほど上昇するので、利用目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0044】
本実施形態に用いるポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーは、香気物質の揮散性を効果的に制御するために、ガラス転移温度は、−30〜120℃の範囲内にあることが好ましい。本実施形態の透湿式加湿装置1や気化式加湿装置の場合、常温付近で使用するため、ガラス転移温度は0〜50℃の範囲を目安とすることがより好ましい。
【0045】
感温性透過膜21の厚さは、薄くすれば香気物質を短期間で揮散できるし、厚くすれば長い期間持続揮散できる。しかし、20μm以下の場合には、取り扱いが難しく、破れ易く、300μm以上の場合には、かさばる、ヒートシール性が悪い、香気物質が浸透、拡散するのに時間を要するという問題がある。携帯性や省スペース性を考慮すると、感温性透過膜21の厚さは50〜200μmがより好ましい。また、200μm以下の感温性透過膜21を用いれば、香気物質の揮散に伴い香気物質を含有するゲル状の芳香剤22が徐々に硬化するのを、シート越しに指で触れるなどして確認でき、残存香気物質の量を知ることが出来る。
【0046】
上記香気物質放散体(揮発性物質放散体)12を配したトレイ18の上方には、加湿モジュール13が配置されている。加湿モジュール13は、略水平に配置された底部25上面から多数の管状の透湿チューブ26が略直立した構成となっている。各透湿チューブ26は下端から上端まで連通し、下端は底部25の下側(トレイ18側)で開口している。このため、トレイ18内を通過した空気流は透湿チューブ26の内側を通って加湿モジュール13の上方に抜けるようになっている。
【0047】
透湿チューブ26は、上記感温性透過膜21と同様の材料から形成することができ、そのガラス転移温度で水分子の透過性が大きく変化し、ガラス転移温度より低い温度では水分子を透過しにくく、高い温度では水分子を透過しやすい性質を有している。
【0048】
加湿モジュール13の透湿チューブ26外側には、透湿チューブ26の上端より低い位置まで、タンク15から水が供給・補充されるように構成されている。
【0049】
透湿チューブ26の上端と連通する加湿モジュール13上方の空間は、吹き出し口3を介して加湿装置1の外部と連絡している。
【0050】
本実施形態の加湿装置1は、以下のように作用する。
即ち、送風ファン11が稼動することにより加湿装置1内に空気流が生じ、加湿装置1の外部の空気(例えば、約15℃)は吸い込み口2より加湿装置1内部に取り込まれる。取り込まれた空気は、ヒータ10で加熱された後、送風ファン11を通ってトレイ18内に導かれる。
この時、トレイ18に導かれた空気は前記ヒータ10の加熱により香気物質放散体12の感温性透過膜21のガラス転移温度(例えば、約30℃)より高い温度(例えば、約45℃)となっている。このため、香気物質放散体12内部の芳香剤22に含まれる香気物質は徐々に揮発して感温性透過膜21を透過し、空気流と混合する。
【0051】
香気物質を含んだ空気流は、加湿モジュール13の底部25下側に開口した透湿チューブ26の下端より、透湿チューブ26の内部に導入される。この時、空気流は透湿チューブ26のガラス転移温度より高い温度を保っているので、透湿チューブ26の外側に蓄えられた水の分子が透湿チューブ26を透過し、空気流に水分が与えられる。さらにこの時、水の気化熱により、空気流の温度は使用者に快適な温度まで下降する(例えば、約20℃)。
こうして透湿チューブ26内を通過した空気流は、吹き出し口3から加湿装置1の外部に送出される。吹き出し口3から送出される空気は、香気物質により芳香を有し、適度に加湿され、快適な温度となっている。
【0052】
加湿装置1の運転を停止すると、ヒータ10による加熱も停止するため、香気物質放散体12の周囲の空気の温度は感温性透過膜21のガラス転移温度より低くなり、香気物質の空気中への放散も停止する。従って、加湿装置1の不使用時に無駄に香気物質が放散されることがない。
【0053】
香気物質が放出されて消耗したら、トレイ18を筐体4の外側に引き出して、香気物質放散体12を容易に新品に交換することができる。
【0054】
なお、香気物質の放散をより高度に制御するために、香気物質放散体12を設置している場所の空気温度を制御するようにしてもよい。
例えば、香気物質放散体12を設置している場所の空気温度をセンシングして、その温度に応じて空気の加熱量を調整することも可能である。空気の加熱量の調整は、例えばヒータ10への電気入力量を調整することにより行うことができる。
また、加湿装置1の吸い込み空気温度と空気加熱量から、香気物質放散体12を設置している場所の空気温度を算出することも可能なので、加湿装置1の吸い込み空気温度をセンシングして、その温度に応じて上記と同様に空気の加熱量を調整することも可能である。
また、ヒータ10への電気入力量を2段階以上設定可能とし、(1)加湿のみ、(2)加湿及び香気物質の放散、の2つの運転モードの切り替えを可能とすることもできる。この場合、これら2つの運転モードを実現できるように、香気物質放散体12の感温性透過膜21及び透湿チューブ26のそれぞれのガラス転移温度を適宜選択する。
【0055】
なお、本実施形態においては熱源としてヒータ10を加湿装置1内に設ける構成としているが、熱源は感温性透過膜21の揮発性物質透過率が所望の値となる温度より高い温度を与えることができるものであればよく、加湿装置1外部の空気が相対的に高い場合にはこれを熱源として利用することも可能である。また、モータ等の廃熱を熱源として利用することも可能である。
【0056】
又、本実施形態では、透湿膜式加湿を行うと加湿能力調整用のヒータと芳香制御用のヒータが兼用できる点、また、送風される空気と液体の水と接するところが他の加湿方式に比べて圧倒的に少ないので、液体の水ににおいが吸収されて、空気中のにおい成分が減ってしまうことがないという点から、透湿チューブ26を有する加湿モジュール13を備えた透湿式加湿装置を採用した。しかし、これに限られるものではなく、気化式の加湿モジュールを備えた気化式加湿装置、または(遠心)噴霧式加湿モジュール、超音波式加湿モジュールを備えた加湿装置などの水を直接加熱する以外の方式の加湿方法を有する加湿モジュールを備える加湿装置においても同様に本発明を適用することができる。
【0057】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、第1実施形態の透湿チューブ26を用いた加湿モジュール13に代えて、水を沸騰させることにより発生した水蒸気により空気中に水分を供給するスチーム式加湿モジュールを備えたスチーム式加湿装置である。
このスチーム式加湿装置においては、空気流を直接加熱する第1実施形態のヒータ10に相当する熱源は設けられていないが、前記スチーム式加湿モジュールにおいて水を加熱するための別の熱源が設けられている。また、第1実施形態で用いた物と同様の香気物質放散体がスチーム式加湿モジュールの下流側に設けられている。但し、後述するように本実施形態の加湿装置においては香気物質の揮散を制御するためにスチーム式加湿モジュールで発生する水の沸騰蒸気の温度を利用するため、本実施形態で用いる香気物質放散体の感温性透過膜のガラス転移温度は50℃〜80℃の範囲に設定されている。
即ち、第2実施形態のスチーム式加湿装置は、装置外部からの空気を取り入れる吸い込み口と加湿した空気を送出する吹き出し口とを有する筐体内に、空気流の上流から順に、送風ファン、水を加熱するヒータ(熱源)を有する加湿モジュール、及び香気物質放散体(揮発性物質放散体)を収容して構成されている。
【0058】
本実施形態のスチーム式加湿装置は、以下のように作用する。
即ち、送風ファンが稼動することにより加湿装置内に空気流が生じ、加湿装置の外部の空気は吸い込み口より加湿装置内部に取り込まれる。取り込まれた空気は、送風ファンを通ってからスチーム式加湿モジュールの水蒸気発生部分へ送られる。ここで、スチーム式加湿モジュールの後流の空気の温度は、加湿モジュールで発生した水の沸騰蒸気により100℃近くに達する。こうして加熱・加湿された空気流は香気物質放散体の周囲に送られる。香気物質放散体の周囲の温度は感温性透過膜のガラス転移温度より高い温度となっているため、香気物質放散体内部の芳香剤に含まれる香気物質は徐々に揮発して感温性透過膜を透過し、空気流と混合する。その後、空気流は吹き出し口から加湿装置の外部に送出される。吹き出し口から送出される空気は、香気物質により芳香を有し、適度に加湿されている。
【0059】
加湿装置の運転を停止すると、加湿モジュールによる沸騰蒸気の供給も停止するため、香気物質放散体の周囲の空気の温度は感温性透過膜のガラス転移温度より低くなり、香気物質の空気中への放散も停止する。従って、加湿装置の不使用時に無駄に香気物質が放散されることがない。
【0060】
また、加湿装置の吹き出し口またはその近傍を開閉可能としておくことにより、香気物質が放出されて消耗したら、この開閉部から香気物質放散体を容易に新品に交換することができる。
【0061】
本実施形態の加湿装置は、香気物質放散体の感温性透過膜のガラス転移温度を、室温より十分高く設定できるので、室温での香気物質の放散をほとんど完全に抑えることができる。従って、夏場の気温が高いときであっても香気物質放散体の室温保管が可能となる。
【0062】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について、図3を用いて説明する。
この第3実施形態は、本発明の揮発性物質供給装置を空気調和装置の室内機に用いた実施形態である。図3は、本実施形態の空気調和装置室内機30の概略断面図である。
【0063】
この室内機30は、従来の空気調和装置の室内機と同様に、室内空気を室内機30内に取り入れるために室内機30の前面部及び上部に設けられた吸い込みグリル31と、温度調節を行った後の空気を送出するために室内機30の下部前方に設けられた吹き出し口32とを有する筐体33内に、空気流の上流から順に、図示しない室外機と室内機30との間を循環する冷媒と室内機に導入された空気との間で熱交換を行う熱交換器(熱源)35と、送風ファン(送風装置)36と、室内に吹き出す空気の風向を左右方向に調節するための縦ルーバ37とが収容されている。吹き出し口32の前部には、吹き出す空気の風向を上下方向に調節するための上下風向調節フラップ38が設けられている。
さらに本実施形態の室内機30には、上述の従来の空気調和装置の室内機の構成に加え、縦ルーバ37の下流側に、第1実施形態で用いたものと同様の香気物質放散体(揮発性物質放散体)12が備えられている。
【0064】
本実施形態の空気調和装置の室内機30は、以下のように作用する。
即ち、この空気調和装置の暖房運転を行う際に、送風ファン36が稼動することにより室内機30内に空気流が生じ、室内機30の外部の空気は吸い込みグリル31より室内機30内部に取り込まれる。取り込まれた空気は、熱交換器35で加熱された後に、送風ファン36によって縦ルーバ37に送られ、さらに香気物質放散体12の周囲に達する。香気物質放散体12の周囲の温度は感温性透過膜21のガラス転移温度より高い温度となっているため、香気物質放散体12内部の芳香剤22に含まれる香気物質は徐々に揮発して感温性透過膜21を透過し、空気流と混合する。その後、空気流は吹き出し口32から室外機30の外部に送出される。吹き出し口32から送出される空気は、香気物質により芳香を有している。
【0065】
空気調和装置の暖房運転を停止すると、熱交換器35による空気の加熱も停止するため、香気物質放散体12の周囲の空気の温度は感温性透過膜21のガラス転移温度より低くなり、香気物質の空気中への放散も停止する。従って、空気調和装置の不使用時に無駄に香気物質が放散されることがない。
【0066】
また、吸い込みグリル31と吹き出し口32を閉止し、送風ファン36を停止した状態で暖房運転を行うことにより、室内機30内部の空気を自然対流によって加熱して香気物質放散体12から室内機30内部に予め香気物質を放散させておき、次いで吸い込みグリル31と吹き出し口32を開放して通常の冷房運転又は送風運転を行うことにより、空気調和装置の冷房運転時又は送風運転時でも香気物質を室内に放散させることができる。
【0067】
香気物質が放出されて消耗したら、吹き出し口32の上下風向調節フラップ38を開放することにより、香気物質放散体12を容易に新品に交換することができる。
【0068】
(第4実施形態)
以下、本発明の第4実施形態について、図4を用いて説明する。
この第1実施形態は、本発明の揮発性物質供給装置を空気調和装置の室内機に用いた実施形態である。図4は、本実施形態の空気調和装置室内機40の概略断面図である。
本実施形態において、上記第3実施形態と同様の構成要素には同じ参照符号を付し、その説明は省略する。
【0069】
本実施形態の空気調和装置の室内機においては、第3実施形態の香気物質放散体12に代えて、防カビ物質放散体(揮発性物質放散体)41が熱交換器35近傍の吸い込みグリル31側に備えられている。
【0070】
この防カビ物質放散体41は、第1実施形態で用いた香気物質放散体12と同様の構成を有しているが、芳香剤22の代わりに、カビの繁殖を防ぐ作用のある揮発性の防カビ物質を含有するゲル状の防カビ剤42が感温性透過膜21からなる袋体に内包されている。この防カビ物質放散体41の感温性透過膜のガラス転移温度は、30℃〜70℃の範囲に設定されている。
【0071】
本実施形態の空気調和装置の室内機は、防カビ運転の際に以下のように作用する。
まず室内機40から吹き出す空気流の風向が直接吸い込みグリル31に向かうように、上下風向調節フラップ38の向きを調節する。次いでこの状態で空気調和装置の暖房運転を行う。この際に、送風ファン36が稼動することにより室内機40内に空気流が生じ、室内機40の外部の空気は吸い込みグリル31より室内機40内部に取り込まれる。一方、防カビ物質放散体41は、吹出し口から直接吸い込んだ暖気と、熱交換器35の輻射熱により加熱され、感温性透過膜21の温度はそのガラス転移温度より高い温度となり、防カビ物質放散体41内部の防カビ剤42に含まれる防カビ物質は徐々に揮発して感温性透過膜21を透過し、室内機40内部に取り込まれた空気流と混合する。この混合空気流は、熱交換器35を通過した後、送風ファン36によって縦ルーバ37に送られ、吹き出し口32から室内機40の外部に送出される。ここで、前述のとおり上下風向調節フラップ38の向きが調節されているので、吹き出す空気流の大部分はショートカットして再び吸い込みグリル31から室内機30に吸い込まれ、循環する。従って、防カビ物質をほとんど室内に放散せずに防カビ運転を行うことができる。
【0072】
空気調和装置の暖房運転(防カビ運転)を停止すると、暖気の吸い込みによる、また熱交換器35の輻射熱による防カビ物質放散体の41の加熱も停止するため、防カビ物質放散体41の感温性透過膜21の温度はそのガラス転移温度より低くなり、防カビ物質の空気流中への放散も停止する。従って、空気調和装置の不使用時に無駄に防カビ物質が放散されることがない。
【0073】
防カビ物質が放出されて消耗したら、筐体33の吸い込みグリル31の部分を開放することにより、防カビ物質放散体41を容易に新品に交換することができる。
【0074】
また、上記の構成に代えて、上記第3実施形態で香気物質放散体12を配置した位置同じく、縦ルーバ37の下流側に、防カビ物質放散体41を配置してもよい。この場合、吸い込みグリル31と吹き出し口32を閉止し、送風ファン36を停止した状態で暖房運転を行うことにより、室内機30内部の空気を自然対流によって加熱して防カビ物質放散体41から室内機30内部に防カビ物質を放散させることにより、防カビ運転を行うことができる。
この構成においては、第3実施形態と同様に、防カビ物質が放出されて消耗したら、吹き出し口32の上下風向調節フラップ38を開放することにより、防カビ物質放散体41を容易に新品に交換することができる。
【0075】
以上、揮発性物質放散体として香気物質放散体又は防カビ物質放散体を用いた揮発物質供給装置の実施形態について説明したが、これらの揮発物質放散体は相互に置換可能であり、またこれら以外にもリラックス効果、消臭効果、ダイエット効果等を有する揮発性物質や、肌水分量を保持・向上する効果を有する化粧水等を内包する揮発性物質放散体を用いてもよい。
また、2種以上の揮発性物質の混合物を揮発性物質放散体に内包させて用いてもよい。
【0076】
また、揮発性物質供給装置内に複数の風路を設け、揮発性物質放散体を配置する風路と配置しない風路としたり、あるいは異なる揮発性物質を内包する2以上の揮発性物質放散体をそれぞれの風路に配置して、風路を切り替えることにより、揮発性物質の放散の有無や放散する揮発性物質の種類を制御することも可能である。
【0077】
さらに、本発明の揮発性物質供給装置は加湿装置及び空気調和装置に限定されず、例えば掃除機の排気口に設置するなど、揮発性物質を加熱できる熱源を有する装置であれば適用可能である。
常温以下の環境下での使用には、常温付近または、それ以下のガラス転移温度の材料を用い、それよりも高い温度環境下での使用には、その温度付近または、その使用温度より高いガラス転移温度の材料を用いることが好ましい。使用する環境条件によって、用いる材料の好ましいガラス転移温度範囲は多少異なるが、具体的には、冷蔵庫、冷房装置などの低温下で用いる場合には、ガラス転移温度が−30〜10℃の範囲を目安とし、室内芳香剤や暖房装置、加湿器などの場合には10〜50℃の範囲を目安とすることが好ましく、使用目的に応じて材料のガラス転移温度を適宜選択すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第1実施形態の透湿式加湿装置を示す図であり、(a)および(b)はそれぞれ透湿式加湿装置の縦断面両側の概略斜視図である。
【図2】香気物質放散体(揮発性物質放散体)を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図3】第3実施形態の空気調和装置室内機の概略断面図である。
【図4】第4実施形態の空気調和装置室内機の概略断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 加湿装置(揮発性物質供給装置)
10 ヒータ(熱源)
11 送風ファン(送風装置)
12 香気物質放散体(揮発性物質放散体)
13 加湿モジュール
21 感温性透過膜
22 芳香剤
30 室内機
35 熱交換器(熱源)
36 送風ファン(送風装置)
41 防カビ物質放散体(揮発性物質放散体)
42 防カビ剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性物質を収容し、少なくとも一部が、温度によって前記揮発性物質の透過率が変化する感温性透過膜からなる揮発性物質放散体と、
該揮発性物質放散体を加熱する熱源とを備えた揮発性物質供給装置。
【請求項2】
前記感温性透過膜が、ガラス転移温度が−30℃以上120℃以下のポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーを有する請求項1記載の揮発性物質供給装置。
【請求項3】
前記ポリエーテル系の熱可塑性ウレタンエラストマーが下記一般式1で表される請求項2記載の揮発性物質供給装置:
一般式1:
【化1】

(但し、R1、R2、R3はそれぞれ同一又は異なる2価の有機基を表し、
m、nは括弧内の繰り返し数を表す。
【請求項4】
前記揮発性物質が香気物質である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の揮発性物質供給装置。
【請求項5】
前記揮発性物質が防虫・防腐・防カビ・抗菌効果のうち少なくとも一つを含む物質である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の揮発性物質供給装置。
【請求項6】
前記揮発性物質が人の肌に対して効果のある物質である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の揮発性物質供給装置。
【請求項7】
前記感温性透過膜を透過した揮発性物質を前記揮発性物質供給装置の外部に送出する空気流を発生する送風装置を備えた請求項1ないし6のいずれか一項に記載の揮発性物質供給装置。
【請求項8】
前記熱源に対して前記空気流の下流側に前記揮発性物質放散体を設置した請求項7に記載の揮発性物質供給装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の揮発性物質供給装置を備えた加湿装置であって、前記揮発性物質放散体に対して前記空気流の下流側に該空気流を加湿する加湿モジュールを設けた加湿装置。
【請求項10】
前記加湿モジュールが、噴霧式加湿モジュール、超音波式加湿モジュール、透湿式加湿モジュール、又は気化式加湿モジュールのいずれかである請求項9に記載の加湿装置。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の揮発性物質供給装置を備えた加湿装置であって、前記揮発性物質放散体に対して前記空気流の上流側に該空気流を加湿する加湿モジュールを設けた加湿装置。
【請求項12】
前記加湿モジュールが、前記熱源により水を加熱して生じた水蒸気を前記空気流に供給する加湿モジュールである請求項11に記載の加湿装置。
【請求項13】
請求項7又は8に記載の揮発性物質供給装置を備えた空気調和装置であって、前記熱源が熱交換器であり、該熱交換器に対して空気流の下流側にある吹き出し口の近傍に前記揮発性物質放散体を設置した空気調和装置。
【請求項14】
請求項7又は8に記載の揮発性物質供給装置を備えた空気調和装置であって、前記熱源が熱交換器であり、該熱交換器に対して空気流の上流側の近傍に前記揮発性物質放散体を設置した空気調和装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−223353(P2006−223353A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37710(P2005−37710)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】