説明

揺動放電加工電極モデル生成方法および装置並びにプログラム

【課題】多角形状に揺動する揺動放電加工用の電極の設計において、複雑な加工形状に対応可能とし、かつ、生成された電極モデルでの余分な取残し部分の発生を防ぐ。
【解決手段】加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成し、これと同形状のモデルであるターゲットとツールを用意し、ツールをターゲットに重ねて揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写し、ターゲットと複写された複数のツールとの積を電極モデルとして取り出す。このとき、ツールの離散的な複写によって取残し部分を発生させる原因要素、すなわち、基礎電極モデルの領域と、当該モデルを揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分に相当する部分をターゲットから予め削除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動放電加工に用いる電極を製作するための電極モデルを生成する揺動放電加工電極モデル生成方法および装置並びにそのためのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放電加工には、主に、タングステンや真ちゅうなどのワイヤを電極にして、被加工物との放電現象により糸鋸のような切抜き加工を行うワイヤ放電加工と、加工したい形状を電極にして、被加工物との放電現象により被加工物に加工形状を彫り込んでゆく形彫り放電加工とがある。さらに、形彫り放電加工には、主に、電極および被加工物の少なくともいずれか一方のz軸送りだけで加工する放電加工と、電極および被加工物の少なくともいずれか一方を他方に対してxy平面で揺動しながら放電加工を行う揺動放電加工とがある。
【0003】
この形彫り放電加工に用いる電極は、一般に、CAD/CAMシステムを用いて設計および製作される。揺動放電加工に用いる電極の場合には、まずCADにより、加工したい形状を有する加工形状モデルを転写して得られた形状から電極と被加工物との間の加工間隙分(クリアランス)を減寸したものを基礎電極モデルとして生成し、この基礎電極モデルから揺動パターンによって定まる揺動しろ分をさらに減寸して、揺動放電加工用電極モデルを生成する。そして、CAMにより、この電極モデルに基づいて切削加工などの機械加工により製作される。しかし、加工形状が複雑である場合には、設計に必要な計算が複雑となり、また、計算上注意すべき事項が多数発生するなどして、設計者は大きな負担を強いられていた。そこで、このような揺動放電加工用電極モデルを容易にかつ正確に生成する方法が、種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、角揺動する電極の設計において、加工形状を構成する線分・円弧のうち、円弧についてはその半径を固定しつつその中心を移動し、線分については、その線分を揺動量分だけ移動することにより、電極形状を作成する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2においては、被加工物形状から放電加工代量オフセットした形状を、揺動パターンにしたがって各エッジポイントに揺動量分平行移動して複写し、複写された形状の集合演算によって電極形状を作成する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3においては、被加工物形状を転写して得られた電極基礎形状を、放電加工の揺動条件の揺動方向とその揺動量を考慮した適当な複数の位置に移動複写し、複写された複数の電極基礎形状の積集合形状を取り出し、電極形状を作成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平5−228741号公報
【特許文献2】特開平5−92348号公報
【特許文献3】特開2005−324259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3の方法によれば、複雑な加工形状、特に側面以外にも種々の角度の傾斜面からなる面を含むような形状には完全には対応することができず、また、特許文献3の方法によれば、揺動パターンが円揺動か角揺動かによって電極基礎形状の複写位置を別々に求める必要がある。
【0008】
そこで、複雑な加工形状にも対応でき、また、揺動パターンによって別種の処理を行う必要がない方法として、ブーリアン処理を利用した次のような方法が考えられる。すなわち、揺動放電加工における加工形状モデルを転写して得られた形状から電極と被加工物との間の加工間隙分を減寸したものを基礎電極モデルとして生成し、この基礎電極モデルと同形状のターゲットモデル(Target)とツールモデル(Tool)を用意し、ツールモデルをターゲットモデルに重ねてその揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動しながらその都度複写し、ターゲットモデルと複写された複数のツールモデルとの積である積形状モデルを取り出すことにより、電極のモデルを生成する方法である。なお、本文では、このようにツールモデルを所定のピッチで移動複写して、ターゲットモデルと複写された複数のツールモデルとの積を取ることを、ブーリアン近似処理と称することにする。
【0009】
図3は、この方法の一実施例として、加工形状モデルを真円である2次元ソリッドK0とし円揺動にて放電加工を行う場合の電極モデルを生成する様子を示した図である。図3に示すように、加工形状モデルである真円の2次元ソリッドK0を転写して得られた形状から加工間隙分を減寸して基礎電極モデルB0を生成し、この基礎電極モデルB0と同形状のターゲットモデルTG0とツールモデルTL0を用意し、ツールモデルTL0をターゲットモデルTG0に重ねてその揺動軌跡である円に沿って所定のピッチ、例えば、揺動軌跡である円周を50分割して得られたピッチでブーリアン近似処理を行い、積形状モデルP0を取り出す。
【0010】
しかしながら、この方法は、ツールモデルの複写が揺動軌跡に沿って連続的(非離散的)に行われる理想的なブーリアン処理とは異なり、計算上の制約から有限な所定のピッチで平行移動して複写するというブーリアン近似処理を行うものであるため、生成された電極モデルにおいて、本来削除されるべき領域が取り残される場合がある。
【0011】
例えば、図3に示すように、加工形状モデルを真円形状である2次元ソリッドK0とし、円揺動にて放電加工を行う場合の電極モデルを生成する場合においては、生成された電極モデルP0において三日月状の取残し領域E0が発生する。また、図4に示すように、加工形状モデルを多角形状である2次元ソリッドK1とし、角揺動にて放電加工を行う場合の電極モデルを生成する場合においては、谷折エッジ部t1が揺動軌跡に沿って離散的に複写されるため、生成された電極モデルP1においてのこぎり刃状の取残し部分E1が発生する。さらに、図5に示すように、加工形状モデルを種々の傾斜面で構成された多面体形状である3次元ソリッドK2とし、角揺動にて放電加工を行う場合の電極モデルを生成する場合においては、谷折りエッジ部t2が揺動軌跡に沿って離散的に複写されるため、生成された電極モデルP2においてのこぎり刃状の取残し部分E21,E22が発生する。
【0012】
このような取残し領域を有する電極モデルに基づいて電極を製作すると、当然、製作された電極には取残し領域が発生することになり、後に煩雑な電極の修正加工が必要となったり、場合によっては修正が不可能になったりすることもある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複雑な加工形状に対応でき、電極モデルにおける余分な取残し領域の発生を防ぐことが可能な揺動放電加工電極モデル生成方法および装置並びにそのためのプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の揺動放電加工電極モデル生成方法は、電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成するステップと、該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するステップと、前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写するステップと、前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成するステップとを有する揺動放電加工電極モデル生成方法であって、前記ターゲットモデルを生成するステップが、前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の揺動放電加工電極モデル生成装置は、電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成する基礎電極モデル生成手段と、該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するターゲットモデル生成手段と、前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写する基礎電極モデル複写手段と、前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成する積形状モデル生成手段とを備えた揺動放電加工電極モデル生成装置であって、前記ターゲットモデル生成手段が、前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のプログラムは、コンピュータを、電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成する基礎電極モデル生成手段と、該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するターゲットモデル生成手段と、前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写する基礎電極モデル複写手段と、前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成する積形状モデル生成手段として機能させることにより、該コンピュータを揺動放電加工電極モデル生成装置として機能させるためのプログラムであって、前記ターゲットモデル生成手段が、前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とするものである。
【0017】
本発明において、前記所定の多角形としては、例えば、正方形を考えることができる。
【0018】
ここで、加工形状モデルとは、放電加工によって加工すべき形状を表す2次元ソリッドまたは3次元ソリッドを意味するものである。
【0019】
基礎電極モデルは、加工形状モデルを転写して得られた形状であるが、この形状からさらに電極と被加工物との間の加工間隙分を減寸したものとすることが好ましい。
【0020】
揺動方向とは、電極および被加工物の少なくともいずれか一方を他方に対して所定の多角形状に揺動する場合に、この所定の多角形を構成する各辺の方向のことを意味するものである。
【0021】
所定のピッチとしては、例えば、1サイクルの揺動軌跡を50分割して得られるもの等が考えられるが、もちろん、これより多い数または少ない数に分割して得られるものであってもよい。なお、ピッチは常に一定である必要はなく、途中変動するものであってもよい。また、基礎電極モデルが、揺動軌跡のうち揺動方向が変化する位置に複写されるように、ピッチを調整することが望ましい。
【0022】
「谷折りエッジ点」とは、凹状の曲線または折れ線上の極小点を意味するものである。すなわち、「基礎電極モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点」とは、基礎電極モデルを揺動方向を含む面で切断したときの当該モデルの断面図における、当該モデルの輪郭を表す凹状の曲線または折れ線上の極小点を意味するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の揺動放電加工電極モデル生成方法および装置並びにそのためのプログラムによれば、電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成し、この基礎電極モデルと同形状のターゲットモデルとツールモデルを用意し、ターゲットモデルにツールモデルを重ねて所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写し、ターゲットモデルと複写された複数のツールモデルとの積である積形状モデルを取り出すことにより、その電極のモデルを生成する処理において、基礎電極モデルの離散的な複写によって取残し部分を発生させる原因要素、すなわち、基礎電極モデルの領域と、当該モデルを所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分に相当する部分を、ターゲットモデルから予め削除するようにしているので、ツールモデルを離散的に複写してもツールモデルを連続して複写したときと同等の結果が得られ、生成された電極モデルにおいて取残し領域の発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施形態である揺動放電加工電極モデル生成システム1(以下、単に電極モデル生成システムという)の構成を示す概略ブロック図である。この電極モデル生成システム1は、電極および被加工物の少なくともいずれか一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の電極のモデルを生成するシステムであり、図1に示すように、ツールモデル生成手段(基礎電極モデル生成手段)10、ターゲットモデル生成手段20、ツールモデル複写手段(基礎電極モデル複写手段)30、積形状モデル生成手段40から構成されている。
【0026】
ツールモデル生成手段10は、揺動放電加工によって加工すべき加工形状を表す2次元または3次元ソリッドの加工形状モデルKを転写して得られた形状から電極と被加工物との間の加工間隙分を減寸して基礎電極モデルBを生成し、これと同形状のツールモデルTLを生成するものである。
【0027】
ターゲットモデル生成手段20は、基礎電極モデルBから、当該モデルの領域と、当該モデルを上記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、ターゲットモデルTGを生成するものである。
【0028】
ツールモデル複写手段30は、ツールモデルTLを、ターゲットモデルTGに重ねて上記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写するものである。所定のピッチは、例えば、1サイクルの揺動軌跡をN分割して得られるピッチとする。
【0029】
積形状モデル生成手段40は、ターゲットモデルTGと複写された複数のツールモデルTL_i(i=1,2,・・・,N)との積すなわち重複部分である積形状モデルPを、電極のモデルとして生成するものである。
【0030】
次に、電極モデル生成システム1における処理の流れについて説明する。
【0031】
図2は電極モデル生成システム1における概略的な処理の流れを示したフローチャートである。なお、所定の多角形状で表される揺動パターンと、放電加工により加工すべき加工形状を表す加工形状モデルKとは、予め設定されているものとする。
【0032】
まず、ツールモデル生成手段10は、加工形状モデルKを転写して得られた形状から電極と被加工物との間の加工間隙分を減寸して基礎電極モデルBを生成し(ステップS1)、これと同形状のツールモデルTLを用意する(ステップS2)。
【0033】
ツールモデル生成手段10によりツールモデルTLが用意されると、ターゲットモデル生成手段20が、基礎電極モデルBを上記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点、すなわち、基礎電極モデルを揺動方向を含む面で切断したときの当該モデルの断面図における、当該モデルの輪郭を表す凹状の曲線または折れ線上の極小点を、公知の数学的技術に基づく演算により求めて特定し(ステップS3)、さらに、基礎電極モデルBの領域と、特定された谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分を特定する(ステップS4)。そして、基礎電極モデルBから特定された重複部分をすべて削除することにより、ターゲットモデルTGを生成する(ステップS5)。
【0034】
ターゲットモデル生成部20によりターゲットモデルTGが生成されると、ツールモデル複写手段30がツールモデルTLを、ターゲットモデルTGに重ねて上記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動してその都度複写する(ステップS6)。
【0035】
そして、積形状モデル生成手段40が、ターゲットモデルTGと複写された複数のツールモデルTL_iとの積である積形状モデルPを生成して取り出し、当該モデルを電極のモデルとする(ステップS7)。
【0036】
ここで、第1の実施例として、図6に示すように、加工形状モデルを多角形状である2次元ソリッドK1とし、正方形状の角揺動にて放電加工を行うときの電極モデルP1′を生成する場合について説明する。
【0037】
ツールモデル生成手段10は、多角形状の2次元ソリッドK1を転写して得られた形状から加工間隙分減寸して基礎電極モデルB1を生成し、これと同形状であるツールモデルTL1を生成する。ここで、基礎電極モデルB1において、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点は、谷折りエッジ点t1である。そこで、ターゲットモデル生成手段20は、基礎電極モデルB1から、当該モデルB1の領域と、谷折りエッジ点t1の揺動範囲の領域R1との重複部分BR1を削除して、ターゲットモデルTG1′を生成する。ツールモデル複写手段30がツールモデルTL1をターゲットモデルTG1′に重ねて正方形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写し、積形状モデル生成手段40がターゲットモデルTG1と複写された複数のツールモデルTL1_iとの積である積形状モデルP1′を生成する。本実施例では、ターゲットモデルTG1′の生成において、ツールモデルTL1の離散的な複写によって取残し部分を発生させる原因要素となる特定部分、すなわち、基礎電極モデルB1の領域と、谷折りエッジ点t1の揺動範囲の領域R1との重複部分BR1を、ターゲットモデルから予め削除しているので、ツールモデルTL1を連続して複写したときと同等の結果が得られ、生成された電極モデルP1′において取残し領域の発生を防ぐことができる。
【0038】
また、第2の実施例として、図7に示すように、加工形状モデルを種々の傾斜面からなる多面体である3次元ソリッドK2とし、正方形状の角揺動にて放電加工を行うときの電極モデルP2′を生成する場合について説明する。
【0039】
ツールモデル生成手段10は、種々の傾斜面からなる多面体である3次元ソリッドK2を転写して得られた形状から加工間隙分減寸して基礎電極モデルB2を生成し、これと同形状であるツールモデルTL2を生成する。ここで、基礎電極モデルB2において、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点は、谷折りエッジ部(谷折りエッジ点の集合)t2である。そこで、ターゲットモデル生成手段20は、基礎電極モデルB2から、当該モデルB2の領域と、谷折りエッジ部t2の揺動範囲の領域R2との重複部分BR2を削除して、ターゲットモデルTG2′を生成する。ツールモデル複写手段30がツールモデルTL2をターゲットモデルTG2′に重ねて正方形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写し、積形状モデル生成手段40がターゲットモデルTG2′と複写された複数のツールモデルTL2_iとの積である積形状モデルP2′を生成する。本実施例では、ターゲットモデルTG2′の生成において、ツールモデルTL2の離散的な複写によって取残し部分を発生させる原因要素となる特定部分、すなわち、基礎電極モデルB2の領域と、谷折りエッジ部t2の揺動範囲の領域R2との重複部分BR2に相当する部分を、ターゲットモデルから予め削除しているので、ツールモデルTL2を連続して複写したときと同等の結果が得られ、生成された電極モデルP2′において取残し領域の発生を防ぐことができる。
【0040】
このように、本実施形態による電極モデル生成システム1によれば、電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成し、これと同形状であるターゲットモデルとツールモデルを用意し、ターゲットモデルにツールモデルを重ねて所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写し、ターゲットモデルと複写された複数のツールモデルとの積である積形状モデルを取り出すことにより、その電極のモデルを生成する処理において、ツールモデルの離散的な複写によって取残し部分を発生させる原因要素、すなわち、基礎電極モデルの領域と、当該モデルを所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して当該モデル内方に曲折する当該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分に相当する部分を、ターゲットモデルから予め削除するようにしているので、ツールモデルを離散的に複写してもツールモデルを連続して複写したときと同等の結果が得られ、生成された電極モデルにおいて取残し領域の発生を防ぐことができる。
【0041】
なお、上記の実施例では、揺動パターンを正方形状としているが、もちろん、これに限定されず、各種の多角形状とすることが可能である。
【0042】
以上、本発明の実施形態である電極モデル生成システムについて説明したが、このシステムを構成する各手段における処理をコンピュータに実行させるためのプログラムも、本発明の実施形態の1つである。また、そのようなプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体も、本発明の実施形態の1つである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】揺動放電加工電極モデル生成システム1の構成を示すブロック図
【図2】揺動放電加工電極モデル生成システム1における処理の流れを示すフロー図
【図3】加工形状を真円の2次元ソリッドとしたときの、本発明適用前の電極モデル生成の工程を示す図
【図4】加工形状を多角形の2次元ソリッドとしたときの、本発明適用前の電極モデル生成の工程を示す図
【図5】加工形状を種々の傾斜面からなる多面体の3次元ソリッドとしたときの、本発明適用前の電極モデル生成の工程を示す図
【図6】加工形状を多角形の2次元ソリッドとしたときの、本発明適用後の電極モデル生成の工程を示す図
【図7】加工形状を種々の傾斜面からなる多面体の3次元ソリッドとしたときの、本発明適用後の電極モデル生成の工程を示す図
【符号の説明】
【0044】
1 揺動放電加工電極モデル生成システム
10 ツールモデル生成手段(基礎電極モデル生成手段)
20 ターゲットモデル生成手段
30 ツールモデル複写手段(基礎電極モデル複写手段)
40 積形状モデル生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成するステップと、
該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するステップと、
前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写するステップと、
前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成するステップとを有する揺動放電加工電極モデル生成方法であって、
前記ターゲットモデルを生成するステップが、
前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とする揺動放電加工電極モデル生成方法。
【請求項2】
前記所定の多角形が正方形であることを特徴とする請求項1記載の揺動放電加工電極モデル生成方法。
【請求項3】
電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成する基礎電極モデル生成手段と、
該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するターゲットモデル生成手段と、
前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写する基礎電極モデル複写手段と、
前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成する積形状モデル生成手段とを備えた揺動放電加工電極モデル生成装置であって、
前記ターゲットモデル生成手段が、
前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とする揺動放電加工電極モデル生成装置。
【請求項4】
前記所定の多角形が正方形であることを特徴とする請求項3記載の揺動放電加工電極モデル生成装置。
【請求項5】
コンピュータを、
電極および被加工物の少なくとも一方を他方に対して所定の多角形状に揺動して放電加工を行う揺動放電加工の加工形状モデルを転写して基礎電極モデルを生成する基礎電極モデル生成手段と、
該基礎電極モデルと略同じ形状を有するターゲットモデルを生成するターゲットモデル生成手段と、
前記基礎電極モデルを、前記ターゲットモデルに重ねて前記所定の多角形状の揺動軌跡に沿って所定のピッチで平行移動して複写する基礎電極モデル複写手段と、
前記ターゲットモデルと複写された複数の前記基礎電極モデルとの積である積形状モデルを、前記電極のモデルとして生成する積形状モデル生成手段として機能させることにより、該コンピュータを揺動放電加工電極モデル生成装置として機能させるためのプログラムであって、
前記ターゲットモデル生成手段が、
前記基礎電極モデルから、該モデルの領域と、該モデルを前記所定の多角形状に揺動したときの、揺動方向のいずれかに対して該モデル内方に曲折する該モデル表面上の谷折りエッジ点の揺動範囲の領域との重複部分をすべて削除することにより、前記ターゲットモデルを生成するものであることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
前記所定の多角形が正方形であることを特徴とする請求項5記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−167964(P2007−167964A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364564(P2005−364564)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】