搬送ラック及び金属リングの保持方法
【課題】金属リングに対して熱処理を施す際、該金属リングに歪みが発生する懸念を払拭するとともに、該金属リングから奪取される熱量を抑制する。
【解決手段】保持軸14a〜14jに、金属リングR1、R2に臨む載置用突起部30と、隣接する載置用突起部30、30同士の間に介在する堰止用突起部32とを設ける。この中、堰止用突起部32は、金属リングR1、R2を直径方向内方に押圧する。このため、金属リングR1、R2は、拡張力が生じた状態で堰止用突起部32に押圧保持される。一方、載置用突起部30は、金属リングR1、R2の下端面に当接し、これにより、該金属リングR1、R2が鉛直下方に落下することを防止する。
【解決手段】保持軸14a〜14jに、金属リングR1、R2に臨む載置用突起部30と、隣接する載置用突起部30、30同士の間に介在する堰止用突起部32とを設ける。この中、堰止用突起部32は、金属リングR1、R2を直径方向内方に押圧する。このため、金属リングR1、R2は、拡張力が生じた状態で堰止用突起部32に押圧保持される。一方、載置用突起部30は、金属リングR1、R2の下端面に当接し、これにより、該金属リングR1、R2が鉛直下方に落下することを防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好適には無段変速機(CVT)用ベルトとして用いられる金属リングを搬送するための搬送ラック及びそれを用いた金属リングの保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CVTにおいては、複数個の金属リングを積層した積層リングからなるベルトが動力伝達を担う。ここで、前記金属リングは、一般的には、マルエージング鋼からなる円筒状ドラムが所定幅に裁断されることによって形成された予備成形体に対し、さらに、溶体化処理や時効処理、窒化処理等の所定の熱処理が施されることによって作製される。
【0003】
このような熱処理を行うに際しては、金属リングは、複数個が同時に搬送ラックに保持されて熱処理炉内に搬送され、この状態で搬送ラックごと加熱されることが一般的である。この種の搬送ラックとしては、例えば、特許文献1に示されるものが知られている。
【0004】
この搬送ラックは、基盤に立設された複数本の保持軸を有し、該保持軸の各々には、算盤の駒形状をなすリング座が複数個取り付けられる。このような構成において、金属リングは、特許文献1の図4に示されるように、隣接するリング座同士の間に介装される。
【0005】
一方、特許文献2には、複数本の保持軸の各々に複数個の駒部材を設け、隣接する駒部材同士で、磁気ディスク用アルミニウム基板となる中間基板を挟持することについての記載がある。
【0006】
このように、円環形状又は円盤形状のワークを、複数本の保持軸に設けられた駒部材同士の間に挟持することで保持することは、各種の技術分野で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−191788号公報
【特許文献2】特開平10−251741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
算盤の駒形状は、局所的には、図17に示される三角柱形状の突起部1に近似し得る。なお、図17中の参照符号2は、図示しない基盤に設けられた保持軸を示す。この図17において、保持軸2は略直方体形状であり、突起部1は、保持軸2の軸線方向に沿って所定の間隔で離間するように、保持軸2の短辺側側面に設けられている。
【0009】
この突起部1に対して金属リング3が保持された状態を、図18A及び図18Bに示す。なお、図18Aは、視点を金属リング3の中心とした正面図であり、一方、図18Bは、突起部1の軸線方向に沿った側面図である。これら図18A及び図18Bに示すように、金属リング3は、互いに隣接する突起部1、1同士によって挟持される。
【0010】
突起部1の頂部は金属リング3の中心に指向しており、このため、下方の突起部1における上側傾斜面に金属リング3の下端面が載置される一方、上方の突起部1における下側傾斜面に金属リング3の上端面が当接する(図18B参照)。金属リング3の下端面及び上端面のいずれも、突起部1、1の各傾斜面に対して線接触した状態となる(特に図18A参照)。
【0011】
この状態から、熱処理を施すために搬送ラックごと金属リング3を昇温すると、突起部1、1と金属リング3の熱膨張率の差によっては、突起部1、1の各傾斜面に対して線接触した金属リング3が前記傾斜面によって堰止される(図18B参照)。このため、金属リング3の熱膨張が抑制されることが懸念される。このような事態が生じると、金属リング3に歪みが発生することも考えられる。
【0012】
また、熱膨張が抑制されない場合でも、金属リング3と突起部1、1との線接触は保たれたままである。すなわち、金属リング3と突起部1、1との接触箇所は比較的大面積である。このように大面積の金属リング3と突起部1、1との接触部位からは、例えば、窒化処理を施す際、金属リング3の熱が突起部1、1によって奪取されてしまう。このため、金属リング3が十分に昇温せず、このことに起因して窒化処理が十分に進行しない事態が発生する懸念がある。
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、金属リングに歪みが発生する懸念を払拭し得、しかも、金属リングから熱を奪取することが抑制された搬送ラック、及びそれを用いた金属リングの保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、弾性復元力を有する複数個の金属リングを保持して搬送するための搬送ラックであって、
基盤と、
前記基盤に立設されて互いに平行に延在するとともに、その側壁に、前記金属リングに指向して突出した載置用突起部が複数個設けられ、前記載置用突起部の上方に前記金属リングを載置することで該金属リングを保持する複数本の保持軸と、
前記保持軸に突出形成され、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在されて前記金属リングの側壁に当接することで該金属リングをその直径方向内方に押圧する堰止用突起部と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明においては、堰止用突起部が、金属リングに拡張力が生じた状態で押圧して保持する。従って、載置用突起部を、金属リングを保持するための主的な役割のものでなく、金属リングが落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができる。このため、金属リングと載置用突起部との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0016】
従って、金属リングに対して熱処理を施す際、該金属リングの熱が載置用突起部によって奪取されることが抑制される。換言すれば、載置用突起部によって奪取される熱量を最小限に抑制することができる。従って、金属リングを十分に昇温させることができる。加えて、金属リングの温度が全体にわたって略均等となる。
【0017】
また、金属リングと載置用突起部との接触面積が小さいので、窒化ガス等の各種ガスが金属リングの略全体に接触するようになる。このことと、金属リングの温度が全体にわたって略均等となることとが相俟って、金属リングの全体にわたって略均等に熱処理を施すことができる。すなわち、例えば、窒化処理等をムラなく施すことができる。
【0018】
しかも、載置用突起部と金属リングとの接触面積が極めて小さいため、金属リングに対する載置用突起部の拘束力が小さい。従って、金属リングに対して熱処理を施す場合、金属リングは、載置用突起部によって堰止されることなく保持軸側に接近するように熱膨張することが可能となる。換言すれば、金属リングの熱膨張が抑制されることが回避されるので、金属リングに歪みが発生する懸念が払拭される。
【0019】
本発明においては、載置用突起部を円柱形状体として形成するとともに、その直径を、該載置用突起部が金属リングに対して点接触する寸法に設定することが好ましい。点接触である場合、載置用突起部と金属リングとの接触面積が最小となる。従って、上記した効果が一層顕著となるからである。
【0020】
なお、1個の搬送ラックで2列以上の金属リングを保持するようにしてもよい。この場合、複数本の保持軸を、金属リングを2列以上縦列配置した状態で保持し得るように配置すればよい。
【0021】
また、基盤から離間して配置され、且つ全ての保持軸の端部が連結された連結盤をさらに設けることが好ましい。これにより、金属リングを保持した保持軸が傾斜することが防止される。従って、保持軸が傾斜することに起因して金属リングが脱落することも回避することができる。
【0022】
さらに、保持軸は、ニッケル又はニッケル基合金からなるものが好ましい。勿論、その表面にニッケル又はニッケル基合金の皮膜が形成されたものであってもよい。
【0023】
ニッケルは、窒化処理等の各種の熱処理が施される最中に、保持軸の構成元素が金属リングに拡散することに対する障壁として機能する。従って、外観が良好な(美観に優れる)金属リングを容易に得ることができる。
【0024】
さらにまた、複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位することが可能となるように、前記基盤に立設することが好ましい。この場合、前記内接円の直径が適宜変更されるように保持軸を変位させることにより、窒化処理等の各種の熱処理を施すべき金属リングの直径に対応することができる。すなわち、様々な直径の金属リングを保持することが可能である。
【0025】
この場合において、複数本の保持軸が金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置され、且つ前記基盤から離間して配置された前記連結盤が設けられているときには、隣接する2列の金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定し、一方、1列の金属リングのみを保持する保持軸を変位可能とするとともに、位置決め固定された保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である保持軸に比して大きく設定することが好ましい。
【0026】
搬送ラックは、熱処理時の帯熱によって基盤が撓むことがある。特に、連結盤が設けられている場合、基盤と連結盤が互いに接近する方向に撓む傾向がある。このような事態が生じると、撓んだ基盤と連結盤に保持軸が挟持されて変位し難くなることが懸念される。
【0027】
これに対し、上記の構成を採用した場合、基盤及び連結盤は、保持軸に連結されることに伴って互いに接近するように撓む。従って、熱処理が終了した後、1列の金属リングのみを保持する保持軸から基盤及び連結盤を離脱させると、基盤及び連結盤は、1列の金属リングのみを保持する保持軸から弾性によって離間する。
【0028】
これにより、1列の金属リングのみを保持する保持軸が、基盤及び連結盤による拘束から解放される。従って、この保持軸を容易に変位させることができる。
【0029】
しかも、この際には、2列の金属リングの双方を保持する保持軸を、基盤及び連結盤による拘束から解放する必要がない。従って、この分だけ作業時間を短縮することができるので、次の金属リングを保持するに至るまでの時間が短縮される。その結果、金属リングの処理効率が向上する。
【0030】
勿論、複数本の保持軸の全てを変位可能に設けるようにしてもよい。この構成によれば、例えば、1個の搬送ラックで2列以上の金属リングを保持する場合、ある列では小径の金属リングを保持する一方、別の列では大径の金属リングを保持することが可能となる。すなわち、直径が互いに相違する金属リングを同時に保持して上記のような熱処理を施すことが可能である。
【0031】
また、本発明は、弾性復元力を有する複数個の金属リングに対して熱処理を施すために、基盤に立設されて互いに平行に延在する複数本の保持軸を具備する搬送ラックで前記金属リングを保持する金属リングの保持方法であって、
前記保持軸の側壁に複数個設けられた載置用突起部の上方に前記金属リングを載置し、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在された堰止用突起部を前記金属リングの側壁に当接させることによって前記金属リングを保持することを特徴とする。
【0032】
このような保持を行うことにより、上記した理由から、熱処理時の金属リングの温度が全体にわたって略均等となるとともに、窒化ガス等の各種の熱処理用ガスが金属リングの略全体に接触するようになるので、熱処理をムラなく施すことができる。加えて、金属リングに歪みが発生する懸念を払拭することもできる。
【0033】
この保持方法においては、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位可能に設けることが好ましい。
【0034】
このように保持軸の少なくとも一部を基盤に変位可能に立設した場合、前記内接円の直径が適宜変更されるように保持軸を変位させることで、熱処理を施すべき金属リングの直径に対応することができる。すなわち、保持軸の位置を変更することにより、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。
【0035】
この場合、複数本の保持軸を、金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置し、且つ前記連結盤を設けるとき、隣接する2列の金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定し、その一方で、1列の金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とするとともに、位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定することが好ましい。そして、変位可能である前記保持軸のみを前記基盤に対する拘束から解放した後に変位させればよい。
【0036】
上記したように、このようにすることによって保持軸を容易に変位させることができるようになる。併せて、金属リングの処理効率を向上させることも可能である。
【0037】
勿論、上記した理由から、複数本の保持軸の全てを変位させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、堰止用突起部によって、拡張力が生じた状態の金属リングを押圧して保持するようにしている。すなわち、金属リングは、主に堰止用突起部によって保持される。このため、載置用突起部を、金属リングを保持するための主的な役割のものでなく、金属リングが落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができるので、金属リングと載置用突起部との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0039】
従って、熱処理時に金属リングが載置用突起部に拘束されることが回避され、容易に熱膨張することができるので、該金属リングに歪みが発生することが回避される。
【0040】
また、載置用突起部と金属リングとの接触面積が小さくなるので、載置用突起部と金属リングとの間の熱伝達が最小限となるとともに、各種ガスが金属リングの略全体に接触するようになる。換言すれば、全体にわたって略均等な温度となった金属リングに対し、各種ガスが略均等に接触する。従って、金属リングの全体に対して略均等に熱処理が施される。このため、例えば、窒化処理をムラなく施すことができる。
【0041】
そして、保持軸を変位可能に立設した場合、保持軸の位置を設定することによって、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。従って、直径が相違する金属リングの個数に応じて複数個の搬送ラックを用意する必要がない。このため、設備投資の低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態に係る搬送ラックの全体概略斜視図である。
【図2】図1の搬送ラックに金属リングを2列で保持した状態を示す全体概略斜視図である。
【図3】図1の搬送ラックの一部縦断面側面図である。
【図4】図1の搬送ラックの要部拡大縦断面図である。
【図5】図1の搬送ラックを構成する保持軸の要部概略斜視図である。
【図6】図6Aは、図5に示される突起部に金属リングの下端面が点接触した状態を金属リングの中心から示した要部正面図であり、図6Bは、載置用突起部及び堰止用突起部の軸線方向に沿った要部側面図である。
【図7】図1の搬送ラックの上方平面図である。
【図8】搬送ラックを熱処理炉内に導入した状態を示す縦断面正面図である。
【図9】搬送ラックを積層する際の分解斜視図である。
【図10】図9から搬送ラックを積層した状態を示す全体概略斜視図である。
【図11】第2実施形態に係る搬送ラックを、該搬送ラックを構成する基盤側から視認した平面断面図である。
【図12】図11の搬送ラックを構成する保持軸が後進端に位置する際の、該保持軸の一端部近傍の縦方向断面図である。
【図13】図12の保持軸を前進端に変位させた際の、該保持軸の一端部近傍の縦方向断面図である。
【図14】第2実施形態に係る搬送ラックにおいて、2列の金属リングの双方を保持する保持軸の軸線方向寸法を、2列の金属リングの中の1列のみを保持する保持軸に比して大きくした場合の正面図である。
【図15】図14から、2列の金属リングの中の1列のみを保持する保持軸に対する基盤及び連結盤の拘束を解いた状態を示す正面図である。
【図16】全ての保持軸を変位可能とした第2実施形態の変形例に係る搬送ラックを、該搬送ラックを構成する基盤側から視認した平面断面図である。
【図17】従来技術に係る搬送ラックを構成する保持軸の要部概略斜視図である。
【図18】図18Aは、図17に示される突起部に金属リングが挟持された状態を金属リングの中心から示した要部正面図であり、図18Bは、突起部の軸線方向に沿った要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る搬送ラックにつき、それを用いた金属リングの保持方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
図1は、第1実施形態に係る搬送ラック10の全体概略斜視図であり、図2は、該搬送ラック10に金属リングR1、R2を保持した状態を示す全体概略斜視図である。この搬送ラック10は、複数個の金属リングR1を第1列L1、複数個の金属リングR2を第2列L2として保持・搬送するためのものであり、基盤12と、該基盤12に立設された10本の保持軸14a〜14jと、前記10本の保持軸14a〜14jの全てに連結される連結盤16とを有する。
【0045】
なお、金属リングR1、R2には、説明の便宜上、別個の参照符号を付しているが、これら金属リングR1、R2の構成は同一である。また、保持軸14a〜14jにおいては、保持軸14a〜14d、14f〜14iが同一の構成であり、保持軸14e、14jが同一の構成である。
【0046】
基盤12は、平板の長辺から短辺にわたって直角二等辺三角形が切り欠かれたような形状をなし、これにより八角形形状に形成されている。また、この基盤12には、軽量化を図るための大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが貫通形成される。これら大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが形成されることにより連結盤16が軽量化され、結局、搬送ラック10の軽量化に寄与する。
【0047】
さらに、基盤12には、図3に示すように、保持軸挿入用凹部22、基盤12の下面から前記保持軸挿入用凹部22まで貫通したボルト挿入孔24、及び2個の連結ピン挿入孔26が形成される。保持軸14a〜14jは、各々の下端部が保持軸挿入用凹部22に挿入され、且つ前記ボルト挿入孔24に挿入されたボルト28によって基盤12に連結される。これにより、保持軸14a〜14jが基盤12に立設される。
【0048】
図4及び図5には、それぞれ、保持軸14eの要部縦断面図、要部概略斜視図が示されている。これら図4及び図5から諒解されるように、保持軸14eは四角柱体として形成され、且つ2個の短辺側側面に略円柱形状の載置用突起部30及び堰止用突起部32が複数個形成された中実体である。
【0049】
なお、上記の通り、保持軸14jは保持軸14eと同一構成である。また、残余の保持軸14a〜14d、14f〜14iは、2個の短辺側側面中の1個にのみ載置用突起部30及び堰止用突起部32が形成されていることを除き、保持軸14eに準拠して構成されている。
【0050】
保持軸14a〜14d、14f〜14iの載置用突起部30は、各頂面が金属リングR1、R2の中心に指向するようにして設けられている。一方、保持軸14e、14jの載置用突起部30は、その頂面が基盤12の長手方向に指向するように延在して金属リングR1、R2に臨む。
【0051】
各載置用突起部30の直径が過度に大きいと、載置用突起部30の周長が大きくなり、このために載置用突起部30が金属リングR1、R2に対して線接触を起こすようになる。これを回避するべく、第1実施形態においては、各載置用突起部30の直径は、金属リングR1、R2に対して点接触となる寸法に設定される。
【0052】
堰止用突起部32も円柱形状体として形成され、各堰止用突起部32は、互いに隣接する載置用突起部30、30同士の間に配置される。また、各堰止用突起部32の金属リングR1、R2に向かって延在する軸線方向(高さ方向寸法)は、載置用突起部30に比して小さく設定されている。
【0053】
図4に二点鎖線として示すように、金属リングR1、R2は、隣接する載置用突起部30、30同士の間に挿入されるが、各下端面が下方に位置する載置用突起部30に点接触状態で載置されるのみであり、上端面は上方に位置する載置用突起部30から離間する。すなわち、金属リングR1、R2は、上方に位置する載置用突起部30には当接しない。
【0054】
一方、各堰止用突起部32の頂面には、金属リングR1、R2の側壁が当接する。金属リングR1、R2は、その拡張力で堰止用突起部32を保持軸14a〜14j側に押圧する。換言すれば、金属リングR1、R2は、保持軸14a〜14jの各堰止用突起部32から押圧されることによって直径方向内方に若干収縮されており、元の直径に戻ろうとする弾性変形力(拡張力)が作用している状態で堰止用突起部32に堰止されている。
【0055】
このような形状の保持軸14a〜14jは、例えば、中実な四角柱体を外壁側から切削加工することによって載置用突起部30を形成することで作製することができる。又は、四角柱体と載置用突起部30とを別個の部材として作製し、前記四角柱体の短辺側側面に対し、例えば、ねじ穴を穿設する一方、載置用突起部30の底面にねじ部が形成された螺合用丸棒を設け、この螺合用丸棒を前記ねじ穴に螺合するようにしてもよい。
【0056】
勿論、図1に示されるように、保持軸14a〜14jは、載置用突起部30及び堰止用突起部32同士の位置が一致するようにして基盤12に立設される。従って、保持軸14a〜14e、14jの各載置用突起部30に金属リングR1の下端面が載置されるとともに、保持軸14e〜14jの各載置用突起部30に金属リングR2が載置される。すなわち、保持軸14a〜14jの中、保持軸14e、14jの2本は金属リングR1、R2(第1列L1、第2列L2)の双方を保持する。
【0057】
また、保持軸14a〜14jに設けられた堰止用突起部32が、金属リングR1、R2の側壁に当接する。堰止用突起部32の頂面同士を結ぶ仮想円の直径は金属リングR1、R2の直径に比して小さく、従って、金属リングR1、R2は、堰止用突起部32から押圧されて直径方向内方に若干収縮される。
【0058】
以上の構成において、保持軸14a〜14jの各側壁の表面には、例えば、ニッケルメッキが施されることによってニッケル皮膜が形成されている。なお、ニッケル皮膜を形成することに代替し、保持軸14a〜14jをニッケルで構成するようにしてもよい。
【0059】
連結盤16は、略H字形状をなす。このような形状の連結盤16は、平板形状のものに比して著しく軽量となる。すなわち、連結盤16を略H字形状とすることにより、該連結盤16、ひいては搬送ラック10の一層の軽量化を図ることができる。
【0060】
また、連結盤16の下面には、基盤12における保持軸挿入用凹部22に対応する位置に、保持軸挿入用凹部34が陥没形成され、一方、上面には、基盤12における連結ピン挿入孔26の位置に対応する位置に、連結ピン固定孔36が形成される。さらに、連結盤16の上端面からは、保持軸挿入用凹部34に至るまでボルト挿入孔38が貫通形成される。保持軸14a〜14jの各上端部は、保持軸挿入用凹部34に挿入され、且つ前記ボルト挿入孔38に挿入されたボルト40によって連結盤16に連結される。
【0061】
一方、連結ピン固定孔36の内壁にはネジ部が刻設されている。この連結ピン固定孔36に対し、側壁にネジ部が形成された連結ピン42が螺合される。後述するように、搬送ラック10同士を積層する場合、この連結ピン42が、上方の搬送ラック10を構成する基盤12の連結ピン挿入孔26に挿入される。
【0062】
第1実施形態に係る搬送ラック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、該搬送ラック10を用いて実施される金属リングR1、R2の熱処理方法との関係で説明する。
【0063】
はじめに、連結盤16が保持軸14a〜14jに連結されることに先んじて、金属リングR1、R2が第1列L1、第2列L2として保持軸14a〜14jに保持される。勿論、保持軸14a〜14jは、それぞれ、ボルト挿入孔24に挿入されたボルト28を介して基盤12に予め立設されている。
【0064】
ここで、金属リングR1、R2は、例えば、マルエージング鋼からなる円筒状ドラムが所定幅に裁断されることによって作製され、押圧力に対して弾性復元力を有する。すなわち、前記押圧力から解放されたときには、その弾性作用によって元の形状に戻る。
【0065】
このように構成された金属リングR1が複数個、外周壁側から図示しない把持装置に把持される。この際には前記把持装置を介して金属リングR1に把持力(押圧力)が付加され、これにより全ての金属リングR1が同時に、例えば、楕円形状に変形される。換言すれば、金属リングR1は、楕円形状等に変形された状態で前記把持装置に把持される。勿論、この変形は、金属リングR1の弾性域内で行われる。
【0066】
楕円形状等に変形された複数個の金属リングR1は、保持軸14a〜14e、14jの間に移送される。前記把持装置は、保持軸14a〜14e、14jの高さ方向に隣接する載置用突起部30同士の間に金属リングR1の各々が配置される位置で停止する。
【0067】
その後、全ての金属リングR1が前記把持装置による把持力から同時に解放され、これに伴い、金属リングR1が弾性復元力によって元の略真円形状に戻る。この際、各金属リングR1の下端面が、その下方に位置する載置用突起部30に載置される。同時に、金属リングR1の側壁が堰止用突起部32に当接する。
【0068】
上記したように、保持軸14a〜14e、14jに形成された各堰止用突起部32の頂面同士を結ぶ仮想円の直径は、金属リングR1の直径に比して小さい。このため、金属リングR1は、堰止用突起部32から押圧されて直径方向内方に若干収縮される。
【0069】
その結果、図2に示すように、複数個の金属リングR1が第1列L1として保持軸14a〜14e、14jに同時に保持される。
【0070】
次に、前記把持装置は、複数個の金属リングR2を同時に把持し、上記と同様に楕円形状等に変形して、この状態で、保持軸14e〜14jの間に金属リングR2を移送する。以降は上記と同様に、保持軸14e〜14jの載置用突起部30同士の間に金属リングR2の各々が配置される位置で前記把持装置が停止した後、全ての金属リングR2が前記把持装置による把持力から同時に解放される。この解放に伴って、全ての金属リングR2が略真円形状に復帰する。
【0071】
勿論、この際には、図6Aに示すように、各金属リングR2の下端面が、その下方に位置する載置用突起部30に載置されると同時に、図6Bに示すように、該金属リングR2の側壁が堰止用突起部32に当接し、該堰止用突起部32から押圧されることで直径方向内方に若干収縮される。以上により、金属リングR2が第2列L2として保持軸14e〜14jに保持される。
【0072】
なお、金属リングR1、R2は、互いが干渉することを回避するべく段違い状態で保持される。
【0073】
上記したように、第1実施形態では、載置用突起部30の直径が、金属リングR1、R2に対して点接触となる寸法に設定されている。従って、図6Aに示すように、金属リングR1(R2)の下端面は、載置用突起部30における湾曲した側壁に対し、記号×を付した箇所で点接触する。すなわち、金属リングR1(R2)と載置用突起部30は、互いに点接触状態となる。
【0074】
第1実施形態では、堰止用突起部32が、拡張力が生じた状態の金属リングR1、R2を押圧して保持する(図6B参照)。従って、載置用突起部30を、金属リングR1、R2を保持するための主的な役割のものでなく、金属リングR1、R2が鉛直下方に落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができる。このため、金属リングR1,R2と載置用突起部30との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0075】
以上のようにして金属リングR1、R2が保持されると、保持軸14a〜14jの各上端部が連結盤16の下面に形成された保持軸挿入用凹部34に挿入される。その後、ボルト挿入孔38に挿入されたボルト40を介し、図7に示すように、連結盤16に対して保持軸14a〜14jの各上端部が連結される(なお、図7は、基盤12、保持軸14a〜14j及び連結盤16の位置関係を示すべく、金属リングR1、R2の図示を省略している)。さらに、必要に応じ、連結ピン固定孔36に連結ピン42が螺合される。
【0076】
以上により、金属リングR1、R2と搬送ラック10が図2に示される状態となる。連結盤16が保持軸14a〜14jに連結されることにより、保持軸14a〜14jが傾斜したり、この傾斜によって金属リングR1、R2が保持軸14a〜14jから脱落したりすることが防止される。
【0077】
このように、保持軸14a〜14jで金属リングR1、R2を保持した後に連結盤16を連結する場合、前記把持装置としては構成が簡素なものを使用することが可能である。なお、この把持装置に比して構成が若干複雑な把持装置を用い、且つ移送動作に係る制御を若干厳密に行う必要があるが、基盤12に立設された保持軸14a〜14jの各上端部に連結盤16を連結した後、金属リングR1、R2を保持軸14a〜14jで保持するようにしてもよい。この場合、保持軸14a〜14j中の隣接する2本の間から金属リングR1、R2を挿入すればよい。
【0078】
次に、金属リングR1、R2は、図示しないトランスファーの作用下に、図8に示される熱処理炉80の内部に搬送ラック10とともに搬送される。上記したように、搬送ラック10を構成する基盤12には大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが貫通形成されており、一方、連結盤16は、略H字形状である。従って、この搬送ラック10は、平板形状の基盤及び連結盤を具備する搬送ラックに比して軽量である。
【0079】
さらに、中央の2本の保持軸14e、14iが金属リングR1の第1列L1及び金属リングR2の第2列L2の双方を同時に保持するので、保持軸の本数が多くなることが回避される。このような構成を採用することにより、該保持軸14a〜14j、ひいては搬送ラック10の軽量化に大きく寄与する。
【0080】
このため、搬送ラック10を容易に搬送することができる。また、搬送に要する電力等を省力化することもできる。
【0081】
熱処理炉80は、搬送ラック10の搬送方向に沿って長尺に形成され、側壁82、84の内方にヒータ86、88が設置されるとともに、天井壁90に対流用ファン92が設置されて構成されている。載置用治具94を介して前記トランスファーに支持された搬送ラック10は、載置用治具94ごと熱処理炉80内に搬入される。
【0082】
熱処理として窒化処理を行う場合を例示して説明すると、図8に示される熱処理炉80内に、例えば、アンモニア等の窒化ガスが供給される。この窒化ガスは、ヒータ86、88の作用下に金属リングR1、R2を窒化することが可能な所定温度、例えば、約500℃に上昇される。
【0083】
この昇温に伴い、金属リングR1、R2が輻射熱を受け、保持軸14a〜14j側に接近するように熱膨張を起こす。
【0084】
ここで、上記したように、金属リングR1、R2の下端面は、載置用突起部30に対して点接触した状態で保持されている(図6参照)。従って、金属リングR1、R2に対する載置用突起部30の拘束力が小さい。このため、金属リングR1、R2は、載置用突起部30によって堰止されることなく熱膨張することが可能である。
【0085】
すなわち、第1実施形態によれば、金属リングR1、R2の熱膨張が抑制されることを回避することができる。従って、金属リングR1、R2に歪みが発生する懸念が払拭される。
【0086】
しかも、金属リングR1、R2が載置用突起部30に対して点接触しているので、互いの接触面積が小さい。このため、金属リングR1、R2が載置用突起部30から奪取される熱量が少ない。すなわち、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触を点接触とし、互いの接触面積を小さくしたことにより、金属リングR1、R2から載置用突起部30に熱が伝達されることを抑制することができる。
【0087】
従って、金属リングR1、R2が容易に昇温する。換言すれば、窒化が十分に進行する温度まで上昇させることが容易となる。
【0088】
温度が上昇した窒化ガスは、熱処理炉80(図8参照)の天井壁90に向かって上昇する。ここで、第1実施形態においては、対流用ファン92を付勢して撹拌翼96を回転させ、これにより熱処理炉80内で窒化ガスを対流させるようにしている。従って、窒化ガスは、側壁に沿って下降し、次に、載置用治具94、ひいては搬送ラック10の近傍で再度上昇しようとする。
【0089】
上記したように、金属リングR1、R2の下端面は、その下方に位置する載置用突起部30に対して点接触した状態にある。すなわち、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触面積が極めて小さい。このため、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触箇所近傍にも十分に窒化ガスが回り込む。
【0090】
換言すれば、第1実施形態の場合、金属リングR1、R2の略全体に対して窒化ガスが接触する。また、金属リングR1、R2と載置用突起部30との間の熱伝達も最小限に抑制されるので、金属リングR1、R2の温度が全体にわたって略均一となる。換言すれば、保持軸14a〜14jと金属リングR1、R2との接点の温度が、金属リングR1、R2におけるその他の部位の温度と略同等となる。
【0091】
このような理由から、金属リングR1、R2の全体にわたって窒化が略同等に進行する。すなわち、窒化の進行にバラツキが生じることが回避され、このため、窒化層の厚み、ひいては硬化の度合いにバラツキが生じることも回避される。
【0092】
このように、保持軸14a〜14jに設けられた載置用突起部30と金属リングR1、R2とを点接触状態とした第1実施形態によれば、金属リングR1、R2の温度を全体にわたって略同等とすることができ、且つ金属リングR1、R2の略全体に窒化ガスを接触させることができる。従って、金属リングR1、R2を全体にわたって略均等に窒化させ、これにより略均等に硬化させることができる。
【0093】
また、保持軸14a〜14jの側壁の表面にはニッケル皮膜が形成されているので、窒化処理の最中に保持軸14a〜14jの構成元素が金属リングR1、R2に拡散することが回避される。すなわち、ニッケル皮膜は、保持軸14a〜14jの構成元素が金属リングR1、R2に拡散することに対する障壁として機能する。勿論、保持軸14a〜14j自体がニッケルで構成されている場合においても同様である。
【0094】
このようにして金属リングR1、R2に窒化処理が施された後、搬送ラック10が熱処理炉80から導出される。その後、ナット48を緩め、連結盤16を保持軸14a〜14jから取り外して金属リングR1、R2を露呈させる。
【0095】
露呈した金属リングR1、R2は、前記把持装置によって把持され、楕円形状等に変形された状態で保持軸14a〜14jから取り外されて所定のステーションないし保管場所に搬送される。勿論、把持装置から解放された金属リングR1、R2は、自身の弾性作用下に略真円形状に戻る。
【0096】
以降、別の新たな金属リングR1、R2を保持する際には、上記のようにして作製された保持軸14a〜14jを含む搬送ラック10が繰り返し使用される。
【0097】
ここで、図8においては、搬送ラック10を積層することなく熱処理炉80内に搬入した場合を示しているが、容量が大きな熱処理炉を用いるときには、図9及び図10に示すように、連結ピン42を介して搬送ラック10、10同士を積層し、この状態で熱処理炉内に搬入するようにしてもよい。
【0098】
同様にして、搬送ラック10を3段以上積層するようにしてもよいことは勿論である。
【0099】
第1実施形態では、基盤12に形成された保持軸挿入用凹部22に保持軸14a〜14jの各々の下端部を挿入するとともに、保持軸14a〜14jの下端部に形成されたボルト穴110a、110bに、ボルト挿入孔24に通されたボルト28を螺合し、これにより保持軸14a〜14jを位置決め固定した状態で基盤12に立設するようにしている(図4参照)が、基盤12に対して保持軸を変位可能に立設するようにしてもよい。以下、この場合を第2実施形態として説明する。なお、以降において、図1〜図10に示される構成要素に付された参照符号と同一の参照符号が付された構成要素は、同一の構成要素であることを示す。従って、その詳細な説明は省略する。
【0100】
図11は、第2実施形態に係る搬送ラック100を、該搬送ラック100を構成する基盤102側から視認した平面断面図である。ここで、図11では、保持軸104a〜104jと、基盤102に貫通形成された長穴状ボルト挿通孔106a、106bとの位置関係を明確にするべく、基盤102を仮想線で示すとともに、長穴状ボルト挿通孔106a、106bを実線で示している。
【0101】
この搬送ラック100は、第1実施形態に係る搬送ラック10における保持軸14a〜14jと同様に配設された10本の保持軸104a〜104jを有する。そして、保持軸104a〜104e、104jの6本で第1列L3(複数個の金属リングR3)を保持するとともに、保持軸104e〜104jの6本で第2列L4(複数個の金属リングR4)を保持する。
【0102】
なお、保持軸104e、104jの2本は、第1実施形態における保持軸14e、14jの各々と同一構成であるが、説明の便宜上、第2実施形態では別の参照符号を付している。
【0103】
第1列L1及び第2列L4を同時に保持する2本の保持軸104e、104jは、第1実施形態における保持軸14e、14jがボルト28を介して基盤12に連結されるのと同様に、ボルト28を介して基盤102に連結される。すなわち、保持軸104e、104jは、図4に示される構成と同様の構成により、基盤102に対して連結されることで位置決め固定される。
【0104】
これに対し、残余の保持軸104a〜104d、104f〜104iは、各載置用突起部30の頂面が金属リングR3、R4の中心に対して接近又は離間する方向に変位可能となるように立設されている。
【0105】
具体的には、保持軸104aの一端部近傍の縦方向断面図である図12に示すように、基盤102における保持軸104aを立設する部位には、2個の長穴状ボルト挿通孔106a、106bと、該長穴状ボルト挿通孔106a、106bに連なり且つ若干幅広の着座用段差部108とが形成される。
【0106】
一方、保持軸104aには、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの各々に重なる位置に、有底のボルト穴110a、110bが形成される。
【0107】
長穴状ボルト挿通孔106a、106bは、挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bを通すことが可能であるものの、頭部116a、116bに比して幅狭に設定される。従って、着座用段差部108側から長穴状ボルト挿通孔106a、106bに挿入された挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bがボルト穴110a、110bに螺合されると、頭部116a、116bは、着座用段差部108に着座する。この着座により、挟持ボルト112a、112bのそれ以上の進行が抑制される。
【0108】
この状態から挟持ボルト112a、112bをさらに緊締することにより、挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bと保持軸104aによって基盤102が強固に挟持される。その結果、保持軸104aが位置決め固定される。
【0109】
なお、図12に示される位置は、図11の実線に示される位置に対応する。これら図11及び図12から諒解されるように、この場合、保持軸104aは、金属リングR3の中心から最大に離間した位置となる。換言すれば、保持軸104aは、後進端に位置する。
【0110】
勿論、保持軸104b〜104d、104f〜104iも同様にして基盤102に位置決め固定される。従って、図11から容易に諒解されるように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円、及び保持軸104e〜104jによって形成される内接円の各直径が最大となる。
【0111】
従って、この場合、金属リングR3、R4として、大径のものを保持することが可能である。
【0112】
金属リングR3、R4よりも小径の金属リングR5、R6を保持する場合、以下のようにすればよい。
【0113】
先ず、挟持ボルト112a、112bを弛緩し、該挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bを着座用段差部108から離間させる。これにより挟持ボルト112a、112bが基盤102を解放するので、保持軸104a〜104d、104f〜104iが変位可能となる。
【0114】
次に、図13に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iを、互いに接近する方向(前進端)に変位させる。その結果、図11に仮想線で示すように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円、及び保持軸104e〜104jによって形成される内接円の直径が小さくなる。すなわち、保持軸104a〜104d、104f〜104iは、前記内接円の直径が小さくなる方向に変位される。
【0115】
その後、挟持ボルト112a、112bを図13に示す位置、すなわち、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの終端部(前進端)で再緊締し、該挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bを着座用段差部108に着座させるとともに該頭部116a、116bと保持軸104a〜104jで基盤102を挟持する。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが前進端で位置決め固定される。
【0116】
以降は、第1実施形態にて説明したように、保持軸104a〜104e、104jによって第1列L5を保持するととともに、保持軸104e〜104jによって第2列L6を保持するようにすればよい。
【0117】
このように、保持軸104a〜104d、104f〜104iを基盤102に変位可能に立設する第2実施形態によれば、金属リングR3、R4と金属リングR5、R6のように、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。
【0118】
なお、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの長手方向寸法は、金属リングR3(R4)の直径、及び金属リングR5(R6)の直径に応じて設定することが好ましい。
【0119】
すなわち、上記したように、保持軸104a〜104d、104f〜104iが後進端となる位置で金属リングR3、R4を保持することが可能となる(図11の実線参照)とともに、前進端となる位置で金属リングR5、R6を保持することが可能となる(図11の仮想線参照)ように、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの長手方向寸法を設定すると好適である。この場合、保持軸104a〜104d、104f〜104iの変位距離の測定をその都度行うことなく、金属リングR3(R4)の直径、及び金属リングR5(R6)の直径に応じた適切な位置まで、保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させることが可能となるからである。
【0120】
なお、保持軸104a〜104d、104f〜104iを前進端位置と後進端位置の間に位置決め固定し、金属リングR3、R4に比して小径であり且つ金属リングR5、R6に比して大径である金属リングを保持するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0121】
ところで、熱処理炉80(図8参照)にて熱処理を施す際には、搬送ラック100が帯熱して高温となる。この帯熱により搬送ラック100が熱膨張を起こすが、この際には、保持軸104e、104j近傍が保持軸104a〜104d、104f〜104i近傍に比して大きく膨張する傾向がある。この理由は、保持軸104a〜104d、104f〜104iが第1列L3又は第2列L4のいずれか一方のみを保持するのに対し、保持軸104e、104jは第1列L3及び第2列L4の双方を保持しており、このため、保持軸104e、104jでは、金属リングR3、R4から伝達される熱量が保持軸104a〜104d、104f〜104iに比して大きくなるためであると推察される。
【0122】
その結果、保持軸104a〜104iを挟持する基盤102及び連結盤16が、保持軸104e、104jから離間する端部側になるにつれて互いに接近するように撓むことがある。基盤102及び連結盤16がこのように撓むことにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが、基盤102及び連結盤16によって強固に挟まれる。
【0123】
図11に示すように、例えば、金属リングR3、R4に対して熱処理を施した後、これらよりも小径な金属リングR5、R6に対して熱処理を施すときには、保持軸104a〜104d、104f〜104iを、互いが接近する方向に変位させる必要がある。しかしながら、上記したように、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iは、互いに接近するように撓んだ基盤102及び連結盤16によって挟持(拘束)されているため、変位させることが容易ではない。
【0124】
この場合、例えば、保持軸104a〜104jを連結盤16に連結するボルト40(図1参照)を全て弛緩することが想起される。これにより保持軸104a〜104jの全てが基盤102及び連結盤16の挟持から解放されるので、保持軸104a〜104d、104f〜104iを容易に変位させることができるようになるからである。そして、変位が終了した後にボルト40を再緊締する。
【0125】
しかしながら、この場合、全てのボルト40を弛緩・再緊締するので、金属リングR3、R4を解放してから金属リングR5、R6の熱処理を開始するに至るまでに長時間を要する。換言すれば、処理効率が低下する。また、連結盤16のボルト挿入孔38(図1参照)と、保持軸104a〜104jの先端面に形成されたボルト穴との位置合わせを行う必要があるが、この作業を行う分だけ時間の損失となる。
【0126】
そこで、正面図である図14に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iの高さ方向寸法(軸線方向寸法)を、保持軸104e、104jよりも小さくすることが好ましい。高さ方向寸法は、保持軸104e、104jから離間するものほど小さくするようにしてもよい。なお、図14は、理解を容易にするために金属リングR3、R4の図示を省略するとともに、高さ方向寸法の相違を誇張して示している。
【0127】
この場合、保持軸104a〜104jの全てに基盤102及び連結盤16が連結されると、基盤102及び連結盤16が互いに接近するように撓む(図14参照)。この状態で保持軸104a〜104jに保持された金属リングR3、R4に対して熱処理を施しても、基盤102及び連結盤16がそれ以上撓むことはほとんどない。
【0128】
そして、熱処理が施された金属リングR3、R4を保持軸104a〜104jから取り外した後、これらに換えて小径の金属リングR5、R6に対して熱処理を施す場合、図15に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iと基盤102を連結する挟持ボルト112a、112b(図12及び図13参照)を弛緩するとともに、保持軸104a〜104d、104f〜104iと連結盤16を連結する各ボルト40を弛緩する。この際、基盤102及び連結盤16は、弾性によって水平方向に延在する形状に戻ろうとする。
【0129】
すなわち、基盤102及び連結盤16が保持軸104a〜104d、104f〜104iが離間する方向に反る。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16の拘束から解放されるので、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iを容易に変位させることができる。
【0130】
なお、図15においては、ボルト40を保持軸104a〜104d、104f〜104iから離脱させた状態を示しているが、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16の拘束から解放される程度にボルト40を弛緩させれば十分であり、離脱させる必要は特にない。
【0131】
保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させた後、挟持ボルト112a、112b(図12及び図13参照)とボルト40を再緊締する。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16に再拘束されるに至る。
【0132】
一方、保持軸104e、104jにおいては、ボルト28(図4及び図11参照)、ボルト40(図1参照)が弛緩されることはない。必然的に、保持軸104e、104jに対してボルト28、40を再緊締する必要もない。このように、保持軸104e、104jに対する基盤102及び連結盤16の拘束を解かない分だけ、弛緩・再緊締の作業時間を短縮することができる。
【0133】
しかも、この場合、連結盤16のボルト挿入孔38(図1参照)の位置と、保持軸104a〜104d、104f〜104iの先端面に形成されたボルト穴の位置とが略合致したままである。上記したように、保持軸104e、104jを基盤102及び連結盤16に連結した状態を維持するので、ボルト挿入孔38と前記ボルト穴が位置ズレを起こすことが回避されるからである。従って、位置合わせに要する作業時間も併せて短縮することができる。
【0134】
このように、2列の金属リングR3、R4(R5、R6)の双方を保持する保持軸104e、104jの高さ方向寸法を、金属リングR3(R5)又は金属リングR4(R6)のいずれか一方のみを保持する保持軸104a〜104d、104f〜104iに比して大きく設定することにより、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させることが容易となるとともに、金属リングR3、R4を解放してから金属リングR5、R6を保持するに至るまでの時間を短縮することが可能となる。従って、金属リングR5、R6の処理効率を向上させることができる。
【0135】
さらに、図16に示すように、保持軸104e、104jも基盤102に対して変位可能に立設するようにしてもよい。第2実施形態に係る変形例であるこの場合、基盤102における保持軸104e、104jを立設する部位に、上記に準じて長穴状ボルト挿通孔106a、106b、着座用段差部108(図12及び図13参照)を形成すればよい。
【0136】
そして、保持軸104e、104jの下端部に形成されたボルト穴110a、110bに挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bを螺合するとともに、着座用段差部108に着座した頭部116a、116bと、保持軸104e、104jとで基盤102を挟持すればよい。これにより、保持軸104e、104jが位置決め固定される。
【0137】
保持軸104e、104jを変位させるときには、上記と同様に、挟持ボルト112a、112bを弛緩することで基盤102を解放すればよい。
【0138】
図16においては、保持軸104a〜104dを後進端位置とする一方、保持軸104g〜104iを前進端位置とし、さらに、保持軸104e、104jを保持軸104g〜104iに対して接近する方向に変位させた状態を例示している。この場合、図11に仮想線で示すように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円の直径が、保持軸104e〜104jによって形成される内接円の直径に比して大きくなる。
【0139】
このことから諒解されるように、この場合には、保持軸104a〜104e、104jに保持される金属リングR7(第1列L7)と、保持軸104e〜104jに保持される金属リングR8(第2列L8)として互いの直径が相違するものを選定することが可能となる。
【0140】
この場合も、必要に応じ、保持軸104a〜104jを前進端位置と後進端位置の間に位置決め固定するようにしてもよいことは勿論である。
【0141】
勿論、以上の第2実施形態においても、堰止用突起部32によって、拡張力が生じた状態の金属リングR3〜R8が押圧された状態で保持される。従って、この第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、熱処理の最中、金属リングR3〜R8に歪みが発生することを回避することができるという効果が得られる。
【0142】
なお、第1実施形態及び第2実施形態のいずれにおいても、連結盤16を用いることなく、基盤12と保持軸14a〜14jのみで搬送ラックを構成するようにしてもよい。
【0143】
また、第1及び第2実施形態では、10本の保持軸14a〜14j、104a〜104jで金属リングR1〜R8の中の2個を第1列L1、第2列L2の2列として保持するようにしているが、このように2列として保持する場合には、保持軸は、少なくとも4本あれば十分である。
【0144】
さらに、ワークとしてCVT用ベルトとなる金属リングR1〜R8を例示するとともに処理として窒化処理を例示したが、ワーク及び熱処理は特にこれらに限定されるものではない。例えば、浸炭処理が必要なリング部材をワークとする場合、上記の窒化ガスに代替して浸炭ガスを供給するようにすればよい。
【0145】
さらにまた、金属リングR1〜R8を、隣接する載置用突起部30、30同士で挟持するようにしてもよい。この場合においても、金属リングR1〜R8と載置用突起部30、30との接触を点接触とすることにより、金属リングR1〜R8から載置用突起部30への熱伝達量を最小限に抑制することができる。
【0146】
そして、保持軸14a〜14j、104a〜104jは、中空体であってもよい。この場合、搬送ラック10を一層軽量化し得る。
【符号の説明】
【0147】
10、100…搬送ラック 12、102…基盤
14a〜14j、104a〜104j…保持軸 16…連結盤
30…載置用突起部 32…堰止用突起部
42…連結ピン 80…熱処理炉
86、88…ヒータ 92…対流用ファン
96…撹拌翼
106a、106b…長穴状ボルト挿通孔 108…着座用段差部
112a、112b…挟持ボルト L1〜L8…列
R1〜R8…金属リング
【技術分野】
【0001】
本発明は、好適には無段変速機(CVT)用ベルトとして用いられる金属リングを搬送するための搬送ラック及びそれを用いた金属リングの保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CVTにおいては、複数個の金属リングを積層した積層リングからなるベルトが動力伝達を担う。ここで、前記金属リングは、一般的には、マルエージング鋼からなる円筒状ドラムが所定幅に裁断されることによって形成された予備成形体に対し、さらに、溶体化処理や時効処理、窒化処理等の所定の熱処理が施されることによって作製される。
【0003】
このような熱処理を行うに際しては、金属リングは、複数個が同時に搬送ラックに保持されて熱処理炉内に搬送され、この状態で搬送ラックごと加熱されることが一般的である。この種の搬送ラックとしては、例えば、特許文献1に示されるものが知られている。
【0004】
この搬送ラックは、基盤に立設された複数本の保持軸を有し、該保持軸の各々には、算盤の駒形状をなすリング座が複数個取り付けられる。このような構成において、金属リングは、特許文献1の図4に示されるように、隣接するリング座同士の間に介装される。
【0005】
一方、特許文献2には、複数本の保持軸の各々に複数個の駒部材を設け、隣接する駒部材同士で、磁気ディスク用アルミニウム基板となる中間基板を挟持することについての記載がある。
【0006】
このように、円環形状又は円盤形状のワークを、複数本の保持軸に設けられた駒部材同士の間に挟持することで保持することは、各種の技術分野で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−191788号公報
【特許文献2】特開平10−251741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
算盤の駒形状は、局所的には、図17に示される三角柱形状の突起部1に近似し得る。なお、図17中の参照符号2は、図示しない基盤に設けられた保持軸を示す。この図17において、保持軸2は略直方体形状であり、突起部1は、保持軸2の軸線方向に沿って所定の間隔で離間するように、保持軸2の短辺側側面に設けられている。
【0009】
この突起部1に対して金属リング3が保持された状態を、図18A及び図18Bに示す。なお、図18Aは、視点を金属リング3の中心とした正面図であり、一方、図18Bは、突起部1の軸線方向に沿った側面図である。これら図18A及び図18Bに示すように、金属リング3は、互いに隣接する突起部1、1同士によって挟持される。
【0010】
突起部1の頂部は金属リング3の中心に指向しており、このため、下方の突起部1における上側傾斜面に金属リング3の下端面が載置される一方、上方の突起部1における下側傾斜面に金属リング3の上端面が当接する(図18B参照)。金属リング3の下端面及び上端面のいずれも、突起部1、1の各傾斜面に対して線接触した状態となる(特に図18A参照)。
【0011】
この状態から、熱処理を施すために搬送ラックごと金属リング3を昇温すると、突起部1、1と金属リング3の熱膨張率の差によっては、突起部1、1の各傾斜面に対して線接触した金属リング3が前記傾斜面によって堰止される(図18B参照)。このため、金属リング3の熱膨張が抑制されることが懸念される。このような事態が生じると、金属リング3に歪みが発生することも考えられる。
【0012】
また、熱膨張が抑制されない場合でも、金属リング3と突起部1、1との線接触は保たれたままである。すなわち、金属リング3と突起部1、1との接触箇所は比較的大面積である。このように大面積の金属リング3と突起部1、1との接触部位からは、例えば、窒化処理を施す際、金属リング3の熱が突起部1、1によって奪取されてしまう。このため、金属リング3が十分に昇温せず、このことに起因して窒化処理が十分に進行しない事態が発生する懸念がある。
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、金属リングに歪みが発生する懸念を払拭し得、しかも、金属リングから熱を奪取することが抑制された搬送ラック、及びそれを用いた金属リングの保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、弾性復元力を有する複数個の金属リングを保持して搬送するための搬送ラックであって、
基盤と、
前記基盤に立設されて互いに平行に延在するとともに、その側壁に、前記金属リングに指向して突出した載置用突起部が複数個設けられ、前記載置用突起部の上方に前記金属リングを載置することで該金属リングを保持する複数本の保持軸と、
前記保持軸に突出形成され、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在されて前記金属リングの側壁に当接することで該金属リングをその直径方向内方に押圧する堰止用突起部と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明においては、堰止用突起部が、金属リングに拡張力が生じた状態で押圧して保持する。従って、載置用突起部を、金属リングを保持するための主的な役割のものでなく、金属リングが落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができる。このため、金属リングと載置用突起部との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0016】
従って、金属リングに対して熱処理を施す際、該金属リングの熱が載置用突起部によって奪取されることが抑制される。換言すれば、載置用突起部によって奪取される熱量を最小限に抑制することができる。従って、金属リングを十分に昇温させることができる。加えて、金属リングの温度が全体にわたって略均等となる。
【0017】
また、金属リングと載置用突起部との接触面積が小さいので、窒化ガス等の各種ガスが金属リングの略全体に接触するようになる。このことと、金属リングの温度が全体にわたって略均等となることとが相俟って、金属リングの全体にわたって略均等に熱処理を施すことができる。すなわち、例えば、窒化処理等をムラなく施すことができる。
【0018】
しかも、載置用突起部と金属リングとの接触面積が極めて小さいため、金属リングに対する載置用突起部の拘束力が小さい。従って、金属リングに対して熱処理を施す場合、金属リングは、載置用突起部によって堰止されることなく保持軸側に接近するように熱膨張することが可能となる。換言すれば、金属リングの熱膨張が抑制されることが回避されるので、金属リングに歪みが発生する懸念が払拭される。
【0019】
本発明においては、載置用突起部を円柱形状体として形成するとともに、その直径を、該載置用突起部が金属リングに対して点接触する寸法に設定することが好ましい。点接触である場合、載置用突起部と金属リングとの接触面積が最小となる。従って、上記した効果が一層顕著となるからである。
【0020】
なお、1個の搬送ラックで2列以上の金属リングを保持するようにしてもよい。この場合、複数本の保持軸を、金属リングを2列以上縦列配置した状態で保持し得るように配置すればよい。
【0021】
また、基盤から離間して配置され、且つ全ての保持軸の端部が連結された連結盤をさらに設けることが好ましい。これにより、金属リングを保持した保持軸が傾斜することが防止される。従って、保持軸が傾斜することに起因して金属リングが脱落することも回避することができる。
【0022】
さらに、保持軸は、ニッケル又はニッケル基合金からなるものが好ましい。勿論、その表面にニッケル又はニッケル基合金の皮膜が形成されたものであってもよい。
【0023】
ニッケルは、窒化処理等の各種の熱処理が施される最中に、保持軸の構成元素が金属リングに拡散することに対する障壁として機能する。従って、外観が良好な(美観に優れる)金属リングを容易に得ることができる。
【0024】
さらにまた、複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位することが可能となるように、前記基盤に立設することが好ましい。この場合、前記内接円の直径が適宜変更されるように保持軸を変位させることにより、窒化処理等の各種の熱処理を施すべき金属リングの直径に対応することができる。すなわち、様々な直径の金属リングを保持することが可能である。
【0025】
この場合において、複数本の保持軸が金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置され、且つ前記基盤から離間して配置された前記連結盤が設けられているときには、隣接する2列の金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定し、一方、1列の金属リングのみを保持する保持軸を変位可能とするとともに、位置決め固定された保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である保持軸に比して大きく設定することが好ましい。
【0026】
搬送ラックは、熱処理時の帯熱によって基盤が撓むことがある。特に、連結盤が設けられている場合、基盤と連結盤が互いに接近する方向に撓む傾向がある。このような事態が生じると、撓んだ基盤と連結盤に保持軸が挟持されて変位し難くなることが懸念される。
【0027】
これに対し、上記の構成を採用した場合、基盤及び連結盤は、保持軸に連結されることに伴って互いに接近するように撓む。従って、熱処理が終了した後、1列の金属リングのみを保持する保持軸から基盤及び連結盤を離脱させると、基盤及び連結盤は、1列の金属リングのみを保持する保持軸から弾性によって離間する。
【0028】
これにより、1列の金属リングのみを保持する保持軸が、基盤及び連結盤による拘束から解放される。従って、この保持軸を容易に変位させることができる。
【0029】
しかも、この際には、2列の金属リングの双方を保持する保持軸を、基盤及び連結盤による拘束から解放する必要がない。従って、この分だけ作業時間を短縮することができるので、次の金属リングを保持するに至るまでの時間が短縮される。その結果、金属リングの処理効率が向上する。
【0030】
勿論、複数本の保持軸の全てを変位可能に設けるようにしてもよい。この構成によれば、例えば、1個の搬送ラックで2列以上の金属リングを保持する場合、ある列では小径の金属リングを保持する一方、別の列では大径の金属リングを保持することが可能となる。すなわち、直径が互いに相違する金属リングを同時に保持して上記のような熱処理を施すことが可能である。
【0031】
また、本発明は、弾性復元力を有する複数個の金属リングに対して熱処理を施すために、基盤に立設されて互いに平行に延在する複数本の保持軸を具備する搬送ラックで前記金属リングを保持する金属リングの保持方法であって、
前記保持軸の側壁に複数個設けられた載置用突起部の上方に前記金属リングを載置し、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在された堰止用突起部を前記金属リングの側壁に当接させることによって前記金属リングを保持することを特徴とする。
【0032】
このような保持を行うことにより、上記した理由から、熱処理時の金属リングの温度が全体にわたって略均等となるとともに、窒化ガス等の各種の熱処理用ガスが金属リングの略全体に接触するようになるので、熱処理をムラなく施すことができる。加えて、金属リングに歪みが発生する懸念を払拭することもできる。
【0033】
この保持方法においては、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位可能に設けることが好ましい。
【0034】
このように保持軸の少なくとも一部を基盤に変位可能に立設した場合、前記内接円の直径が適宜変更されるように保持軸を変位させることで、熱処理を施すべき金属リングの直径に対応することができる。すなわち、保持軸の位置を変更することにより、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。
【0035】
この場合、複数本の保持軸を、金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置し、且つ前記連結盤を設けるとき、隣接する2列の金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定し、その一方で、1列の金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とするとともに、位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定することが好ましい。そして、変位可能である前記保持軸のみを前記基盤に対する拘束から解放した後に変位させればよい。
【0036】
上記したように、このようにすることによって保持軸を容易に変位させることができるようになる。併せて、金属リングの処理効率を向上させることも可能である。
【0037】
勿論、上記した理由から、複数本の保持軸の全てを変位させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、堰止用突起部によって、拡張力が生じた状態の金属リングを押圧して保持するようにしている。すなわち、金属リングは、主に堰止用突起部によって保持される。このため、載置用突起部を、金属リングを保持するための主的な役割のものでなく、金属リングが落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができるので、金属リングと載置用突起部との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0039】
従って、熱処理時に金属リングが載置用突起部に拘束されることが回避され、容易に熱膨張することができるので、該金属リングに歪みが発生することが回避される。
【0040】
また、載置用突起部と金属リングとの接触面積が小さくなるので、載置用突起部と金属リングとの間の熱伝達が最小限となるとともに、各種ガスが金属リングの略全体に接触するようになる。換言すれば、全体にわたって略均等な温度となった金属リングに対し、各種ガスが略均等に接触する。従って、金属リングの全体に対して略均等に熱処理が施される。このため、例えば、窒化処理をムラなく施すことができる。
【0041】
そして、保持軸を変位可能に立設した場合、保持軸の位置を設定することによって、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。従って、直径が相違する金属リングの個数に応じて複数個の搬送ラックを用意する必要がない。このため、設備投資の低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態に係る搬送ラックの全体概略斜視図である。
【図2】図1の搬送ラックに金属リングを2列で保持した状態を示す全体概略斜視図である。
【図3】図1の搬送ラックの一部縦断面側面図である。
【図4】図1の搬送ラックの要部拡大縦断面図である。
【図5】図1の搬送ラックを構成する保持軸の要部概略斜視図である。
【図6】図6Aは、図5に示される突起部に金属リングの下端面が点接触した状態を金属リングの中心から示した要部正面図であり、図6Bは、載置用突起部及び堰止用突起部の軸線方向に沿った要部側面図である。
【図7】図1の搬送ラックの上方平面図である。
【図8】搬送ラックを熱処理炉内に導入した状態を示す縦断面正面図である。
【図9】搬送ラックを積層する際の分解斜視図である。
【図10】図9から搬送ラックを積層した状態を示す全体概略斜視図である。
【図11】第2実施形態に係る搬送ラックを、該搬送ラックを構成する基盤側から視認した平面断面図である。
【図12】図11の搬送ラックを構成する保持軸が後進端に位置する際の、該保持軸の一端部近傍の縦方向断面図である。
【図13】図12の保持軸を前進端に変位させた際の、該保持軸の一端部近傍の縦方向断面図である。
【図14】第2実施形態に係る搬送ラックにおいて、2列の金属リングの双方を保持する保持軸の軸線方向寸法を、2列の金属リングの中の1列のみを保持する保持軸に比して大きくした場合の正面図である。
【図15】図14から、2列の金属リングの中の1列のみを保持する保持軸に対する基盤及び連結盤の拘束を解いた状態を示す正面図である。
【図16】全ての保持軸を変位可能とした第2実施形態の変形例に係る搬送ラックを、該搬送ラックを構成する基盤側から視認した平面断面図である。
【図17】従来技術に係る搬送ラックを構成する保持軸の要部概略斜視図である。
【図18】図18Aは、図17に示される突起部に金属リングが挟持された状態を金属リングの中心から示した要部正面図であり、図18Bは、突起部の軸線方向に沿った要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る搬送ラックにつき、それを用いた金属リングの保持方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
図1は、第1実施形態に係る搬送ラック10の全体概略斜視図であり、図2は、該搬送ラック10に金属リングR1、R2を保持した状態を示す全体概略斜視図である。この搬送ラック10は、複数個の金属リングR1を第1列L1、複数個の金属リングR2を第2列L2として保持・搬送するためのものであり、基盤12と、該基盤12に立設された10本の保持軸14a〜14jと、前記10本の保持軸14a〜14jの全てに連結される連結盤16とを有する。
【0045】
なお、金属リングR1、R2には、説明の便宜上、別個の参照符号を付しているが、これら金属リングR1、R2の構成は同一である。また、保持軸14a〜14jにおいては、保持軸14a〜14d、14f〜14iが同一の構成であり、保持軸14e、14jが同一の構成である。
【0046】
基盤12は、平板の長辺から短辺にわたって直角二等辺三角形が切り欠かれたような形状をなし、これにより八角形形状に形成されている。また、この基盤12には、軽量化を図るための大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが貫通形成される。これら大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが形成されることにより連結盤16が軽量化され、結局、搬送ラック10の軽量化に寄与する。
【0047】
さらに、基盤12には、図3に示すように、保持軸挿入用凹部22、基盤12の下面から前記保持軸挿入用凹部22まで貫通したボルト挿入孔24、及び2個の連結ピン挿入孔26が形成される。保持軸14a〜14jは、各々の下端部が保持軸挿入用凹部22に挿入され、且つ前記ボルト挿入孔24に挿入されたボルト28によって基盤12に連結される。これにより、保持軸14a〜14jが基盤12に立設される。
【0048】
図4及び図5には、それぞれ、保持軸14eの要部縦断面図、要部概略斜視図が示されている。これら図4及び図5から諒解されるように、保持軸14eは四角柱体として形成され、且つ2個の短辺側側面に略円柱形状の載置用突起部30及び堰止用突起部32が複数個形成された中実体である。
【0049】
なお、上記の通り、保持軸14jは保持軸14eと同一構成である。また、残余の保持軸14a〜14d、14f〜14iは、2個の短辺側側面中の1個にのみ載置用突起部30及び堰止用突起部32が形成されていることを除き、保持軸14eに準拠して構成されている。
【0050】
保持軸14a〜14d、14f〜14iの載置用突起部30は、各頂面が金属リングR1、R2の中心に指向するようにして設けられている。一方、保持軸14e、14jの載置用突起部30は、その頂面が基盤12の長手方向に指向するように延在して金属リングR1、R2に臨む。
【0051】
各載置用突起部30の直径が過度に大きいと、載置用突起部30の周長が大きくなり、このために載置用突起部30が金属リングR1、R2に対して線接触を起こすようになる。これを回避するべく、第1実施形態においては、各載置用突起部30の直径は、金属リングR1、R2に対して点接触となる寸法に設定される。
【0052】
堰止用突起部32も円柱形状体として形成され、各堰止用突起部32は、互いに隣接する載置用突起部30、30同士の間に配置される。また、各堰止用突起部32の金属リングR1、R2に向かって延在する軸線方向(高さ方向寸法)は、載置用突起部30に比して小さく設定されている。
【0053】
図4に二点鎖線として示すように、金属リングR1、R2は、隣接する載置用突起部30、30同士の間に挿入されるが、各下端面が下方に位置する載置用突起部30に点接触状態で載置されるのみであり、上端面は上方に位置する載置用突起部30から離間する。すなわち、金属リングR1、R2は、上方に位置する載置用突起部30には当接しない。
【0054】
一方、各堰止用突起部32の頂面には、金属リングR1、R2の側壁が当接する。金属リングR1、R2は、その拡張力で堰止用突起部32を保持軸14a〜14j側に押圧する。換言すれば、金属リングR1、R2は、保持軸14a〜14jの各堰止用突起部32から押圧されることによって直径方向内方に若干収縮されており、元の直径に戻ろうとする弾性変形力(拡張力)が作用している状態で堰止用突起部32に堰止されている。
【0055】
このような形状の保持軸14a〜14jは、例えば、中実な四角柱体を外壁側から切削加工することによって載置用突起部30を形成することで作製することができる。又は、四角柱体と載置用突起部30とを別個の部材として作製し、前記四角柱体の短辺側側面に対し、例えば、ねじ穴を穿設する一方、載置用突起部30の底面にねじ部が形成された螺合用丸棒を設け、この螺合用丸棒を前記ねじ穴に螺合するようにしてもよい。
【0056】
勿論、図1に示されるように、保持軸14a〜14jは、載置用突起部30及び堰止用突起部32同士の位置が一致するようにして基盤12に立設される。従って、保持軸14a〜14e、14jの各載置用突起部30に金属リングR1の下端面が載置されるとともに、保持軸14e〜14jの各載置用突起部30に金属リングR2が載置される。すなわち、保持軸14a〜14jの中、保持軸14e、14jの2本は金属リングR1、R2(第1列L1、第2列L2)の双方を保持する。
【0057】
また、保持軸14a〜14jに設けられた堰止用突起部32が、金属リングR1、R2の側壁に当接する。堰止用突起部32の頂面同士を結ぶ仮想円の直径は金属リングR1、R2の直径に比して小さく、従って、金属リングR1、R2は、堰止用突起部32から押圧されて直径方向内方に若干収縮される。
【0058】
以上の構成において、保持軸14a〜14jの各側壁の表面には、例えば、ニッケルメッキが施されることによってニッケル皮膜が形成されている。なお、ニッケル皮膜を形成することに代替し、保持軸14a〜14jをニッケルで構成するようにしてもよい。
【0059】
連結盤16は、略H字形状をなす。このような形状の連結盤16は、平板形状のものに比して著しく軽量となる。すなわち、連結盤16を略H字形状とすることにより、該連結盤16、ひいては搬送ラック10の一層の軽量化を図ることができる。
【0060】
また、連結盤16の下面には、基盤12における保持軸挿入用凹部22に対応する位置に、保持軸挿入用凹部34が陥没形成され、一方、上面には、基盤12における連結ピン挿入孔26の位置に対応する位置に、連結ピン固定孔36が形成される。さらに、連結盤16の上端面からは、保持軸挿入用凹部34に至るまでボルト挿入孔38が貫通形成される。保持軸14a〜14jの各上端部は、保持軸挿入用凹部34に挿入され、且つ前記ボルト挿入孔38に挿入されたボルト40によって連結盤16に連結される。
【0061】
一方、連結ピン固定孔36の内壁にはネジ部が刻設されている。この連結ピン固定孔36に対し、側壁にネジ部が形成された連結ピン42が螺合される。後述するように、搬送ラック10同士を積層する場合、この連結ピン42が、上方の搬送ラック10を構成する基盤12の連結ピン挿入孔26に挿入される。
【0062】
第1実施形態に係る搬送ラック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、該搬送ラック10を用いて実施される金属リングR1、R2の熱処理方法との関係で説明する。
【0063】
はじめに、連結盤16が保持軸14a〜14jに連結されることに先んじて、金属リングR1、R2が第1列L1、第2列L2として保持軸14a〜14jに保持される。勿論、保持軸14a〜14jは、それぞれ、ボルト挿入孔24に挿入されたボルト28を介して基盤12に予め立設されている。
【0064】
ここで、金属リングR1、R2は、例えば、マルエージング鋼からなる円筒状ドラムが所定幅に裁断されることによって作製され、押圧力に対して弾性復元力を有する。すなわち、前記押圧力から解放されたときには、その弾性作用によって元の形状に戻る。
【0065】
このように構成された金属リングR1が複数個、外周壁側から図示しない把持装置に把持される。この際には前記把持装置を介して金属リングR1に把持力(押圧力)が付加され、これにより全ての金属リングR1が同時に、例えば、楕円形状に変形される。換言すれば、金属リングR1は、楕円形状等に変形された状態で前記把持装置に把持される。勿論、この変形は、金属リングR1の弾性域内で行われる。
【0066】
楕円形状等に変形された複数個の金属リングR1は、保持軸14a〜14e、14jの間に移送される。前記把持装置は、保持軸14a〜14e、14jの高さ方向に隣接する載置用突起部30同士の間に金属リングR1の各々が配置される位置で停止する。
【0067】
その後、全ての金属リングR1が前記把持装置による把持力から同時に解放され、これに伴い、金属リングR1が弾性復元力によって元の略真円形状に戻る。この際、各金属リングR1の下端面が、その下方に位置する載置用突起部30に載置される。同時に、金属リングR1の側壁が堰止用突起部32に当接する。
【0068】
上記したように、保持軸14a〜14e、14jに形成された各堰止用突起部32の頂面同士を結ぶ仮想円の直径は、金属リングR1の直径に比して小さい。このため、金属リングR1は、堰止用突起部32から押圧されて直径方向内方に若干収縮される。
【0069】
その結果、図2に示すように、複数個の金属リングR1が第1列L1として保持軸14a〜14e、14jに同時に保持される。
【0070】
次に、前記把持装置は、複数個の金属リングR2を同時に把持し、上記と同様に楕円形状等に変形して、この状態で、保持軸14e〜14jの間に金属リングR2を移送する。以降は上記と同様に、保持軸14e〜14jの載置用突起部30同士の間に金属リングR2の各々が配置される位置で前記把持装置が停止した後、全ての金属リングR2が前記把持装置による把持力から同時に解放される。この解放に伴って、全ての金属リングR2が略真円形状に復帰する。
【0071】
勿論、この際には、図6Aに示すように、各金属リングR2の下端面が、その下方に位置する載置用突起部30に載置されると同時に、図6Bに示すように、該金属リングR2の側壁が堰止用突起部32に当接し、該堰止用突起部32から押圧されることで直径方向内方に若干収縮される。以上により、金属リングR2が第2列L2として保持軸14e〜14jに保持される。
【0072】
なお、金属リングR1、R2は、互いが干渉することを回避するべく段違い状態で保持される。
【0073】
上記したように、第1実施形態では、載置用突起部30の直径が、金属リングR1、R2に対して点接触となる寸法に設定されている。従って、図6Aに示すように、金属リングR1(R2)の下端面は、載置用突起部30における湾曲した側壁に対し、記号×を付した箇所で点接触する。すなわち、金属リングR1(R2)と載置用突起部30は、互いに点接触状態となる。
【0074】
第1実施形態では、堰止用突起部32が、拡張力が生じた状態の金属リングR1、R2を押圧して保持する(図6B参照)。従って、載置用突起部30を、金属リングR1、R2を保持するための主的な役割のものでなく、金属リングR1、R2が鉛直下方に落下することを防止するための補助的な役割のものとすることができる。このため、金属リングR1,R2と載置用突起部30との接触面積を可及的に小さくすることができる。
【0075】
以上のようにして金属リングR1、R2が保持されると、保持軸14a〜14jの各上端部が連結盤16の下面に形成された保持軸挿入用凹部34に挿入される。その後、ボルト挿入孔38に挿入されたボルト40を介し、図7に示すように、連結盤16に対して保持軸14a〜14jの各上端部が連結される(なお、図7は、基盤12、保持軸14a〜14j及び連結盤16の位置関係を示すべく、金属リングR1、R2の図示を省略している)。さらに、必要に応じ、連結ピン固定孔36に連結ピン42が螺合される。
【0076】
以上により、金属リングR1、R2と搬送ラック10が図2に示される状態となる。連結盤16が保持軸14a〜14jに連結されることにより、保持軸14a〜14jが傾斜したり、この傾斜によって金属リングR1、R2が保持軸14a〜14jから脱落したりすることが防止される。
【0077】
このように、保持軸14a〜14jで金属リングR1、R2を保持した後に連結盤16を連結する場合、前記把持装置としては構成が簡素なものを使用することが可能である。なお、この把持装置に比して構成が若干複雑な把持装置を用い、且つ移送動作に係る制御を若干厳密に行う必要があるが、基盤12に立設された保持軸14a〜14jの各上端部に連結盤16を連結した後、金属リングR1、R2を保持軸14a〜14jで保持するようにしてもよい。この場合、保持軸14a〜14j中の隣接する2本の間から金属リングR1、R2を挿入すればよい。
【0078】
次に、金属リングR1、R2は、図示しないトランスファーの作用下に、図8に示される熱処理炉80の内部に搬送ラック10とともに搬送される。上記したように、搬送ラック10を構成する基盤12には大円形状開口18a、18b及び小円形状開口20a、20bが貫通形成されており、一方、連結盤16は、略H字形状である。従って、この搬送ラック10は、平板形状の基盤及び連結盤を具備する搬送ラックに比して軽量である。
【0079】
さらに、中央の2本の保持軸14e、14iが金属リングR1の第1列L1及び金属リングR2の第2列L2の双方を同時に保持するので、保持軸の本数が多くなることが回避される。このような構成を採用することにより、該保持軸14a〜14j、ひいては搬送ラック10の軽量化に大きく寄与する。
【0080】
このため、搬送ラック10を容易に搬送することができる。また、搬送に要する電力等を省力化することもできる。
【0081】
熱処理炉80は、搬送ラック10の搬送方向に沿って長尺に形成され、側壁82、84の内方にヒータ86、88が設置されるとともに、天井壁90に対流用ファン92が設置されて構成されている。載置用治具94を介して前記トランスファーに支持された搬送ラック10は、載置用治具94ごと熱処理炉80内に搬入される。
【0082】
熱処理として窒化処理を行う場合を例示して説明すると、図8に示される熱処理炉80内に、例えば、アンモニア等の窒化ガスが供給される。この窒化ガスは、ヒータ86、88の作用下に金属リングR1、R2を窒化することが可能な所定温度、例えば、約500℃に上昇される。
【0083】
この昇温に伴い、金属リングR1、R2が輻射熱を受け、保持軸14a〜14j側に接近するように熱膨張を起こす。
【0084】
ここで、上記したように、金属リングR1、R2の下端面は、載置用突起部30に対して点接触した状態で保持されている(図6参照)。従って、金属リングR1、R2に対する載置用突起部30の拘束力が小さい。このため、金属リングR1、R2は、載置用突起部30によって堰止されることなく熱膨張することが可能である。
【0085】
すなわち、第1実施形態によれば、金属リングR1、R2の熱膨張が抑制されることを回避することができる。従って、金属リングR1、R2に歪みが発生する懸念が払拭される。
【0086】
しかも、金属リングR1、R2が載置用突起部30に対して点接触しているので、互いの接触面積が小さい。このため、金属リングR1、R2が載置用突起部30から奪取される熱量が少ない。すなわち、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触を点接触とし、互いの接触面積を小さくしたことにより、金属リングR1、R2から載置用突起部30に熱が伝達されることを抑制することができる。
【0087】
従って、金属リングR1、R2が容易に昇温する。換言すれば、窒化が十分に進行する温度まで上昇させることが容易となる。
【0088】
温度が上昇した窒化ガスは、熱処理炉80(図8参照)の天井壁90に向かって上昇する。ここで、第1実施形態においては、対流用ファン92を付勢して撹拌翼96を回転させ、これにより熱処理炉80内で窒化ガスを対流させるようにしている。従って、窒化ガスは、側壁に沿って下降し、次に、載置用治具94、ひいては搬送ラック10の近傍で再度上昇しようとする。
【0089】
上記したように、金属リングR1、R2の下端面は、その下方に位置する載置用突起部30に対して点接触した状態にある。すなわち、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触面積が極めて小さい。このため、金属リングR1、R2と載置用突起部30との接触箇所近傍にも十分に窒化ガスが回り込む。
【0090】
換言すれば、第1実施形態の場合、金属リングR1、R2の略全体に対して窒化ガスが接触する。また、金属リングR1、R2と載置用突起部30との間の熱伝達も最小限に抑制されるので、金属リングR1、R2の温度が全体にわたって略均一となる。換言すれば、保持軸14a〜14jと金属リングR1、R2との接点の温度が、金属リングR1、R2におけるその他の部位の温度と略同等となる。
【0091】
このような理由から、金属リングR1、R2の全体にわたって窒化が略同等に進行する。すなわち、窒化の進行にバラツキが生じることが回避され、このため、窒化層の厚み、ひいては硬化の度合いにバラツキが生じることも回避される。
【0092】
このように、保持軸14a〜14jに設けられた載置用突起部30と金属リングR1、R2とを点接触状態とした第1実施形態によれば、金属リングR1、R2の温度を全体にわたって略同等とすることができ、且つ金属リングR1、R2の略全体に窒化ガスを接触させることができる。従って、金属リングR1、R2を全体にわたって略均等に窒化させ、これにより略均等に硬化させることができる。
【0093】
また、保持軸14a〜14jの側壁の表面にはニッケル皮膜が形成されているので、窒化処理の最中に保持軸14a〜14jの構成元素が金属リングR1、R2に拡散することが回避される。すなわち、ニッケル皮膜は、保持軸14a〜14jの構成元素が金属リングR1、R2に拡散することに対する障壁として機能する。勿論、保持軸14a〜14j自体がニッケルで構成されている場合においても同様である。
【0094】
このようにして金属リングR1、R2に窒化処理が施された後、搬送ラック10が熱処理炉80から導出される。その後、ナット48を緩め、連結盤16を保持軸14a〜14jから取り外して金属リングR1、R2を露呈させる。
【0095】
露呈した金属リングR1、R2は、前記把持装置によって把持され、楕円形状等に変形された状態で保持軸14a〜14jから取り外されて所定のステーションないし保管場所に搬送される。勿論、把持装置から解放された金属リングR1、R2は、自身の弾性作用下に略真円形状に戻る。
【0096】
以降、別の新たな金属リングR1、R2を保持する際には、上記のようにして作製された保持軸14a〜14jを含む搬送ラック10が繰り返し使用される。
【0097】
ここで、図8においては、搬送ラック10を積層することなく熱処理炉80内に搬入した場合を示しているが、容量が大きな熱処理炉を用いるときには、図9及び図10に示すように、連結ピン42を介して搬送ラック10、10同士を積層し、この状態で熱処理炉内に搬入するようにしてもよい。
【0098】
同様にして、搬送ラック10を3段以上積層するようにしてもよいことは勿論である。
【0099】
第1実施形態では、基盤12に形成された保持軸挿入用凹部22に保持軸14a〜14jの各々の下端部を挿入するとともに、保持軸14a〜14jの下端部に形成されたボルト穴110a、110bに、ボルト挿入孔24に通されたボルト28を螺合し、これにより保持軸14a〜14jを位置決め固定した状態で基盤12に立設するようにしている(図4参照)が、基盤12に対して保持軸を変位可能に立設するようにしてもよい。以下、この場合を第2実施形態として説明する。なお、以降において、図1〜図10に示される構成要素に付された参照符号と同一の参照符号が付された構成要素は、同一の構成要素であることを示す。従って、その詳細な説明は省略する。
【0100】
図11は、第2実施形態に係る搬送ラック100を、該搬送ラック100を構成する基盤102側から視認した平面断面図である。ここで、図11では、保持軸104a〜104jと、基盤102に貫通形成された長穴状ボルト挿通孔106a、106bとの位置関係を明確にするべく、基盤102を仮想線で示すとともに、長穴状ボルト挿通孔106a、106bを実線で示している。
【0101】
この搬送ラック100は、第1実施形態に係る搬送ラック10における保持軸14a〜14jと同様に配設された10本の保持軸104a〜104jを有する。そして、保持軸104a〜104e、104jの6本で第1列L3(複数個の金属リングR3)を保持するとともに、保持軸104e〜104jの6本で第2列L4(複数個の金属リングR4)を保持する。
【0102】
なお、保持軸104e、104jの2本は、第1実施形態における保持軸14e、14jの各々と同一構成であるが、説明の便宜上、第2実施形態では別の参照符号を付している。
【0103】
第1列L1及び第2列L4を同時に保持する2本の保持軸104e、104jは、第1実施形態における保持軸14e、14jがボルト28を介して基盤12に連結されるのと同様に、ボルト28を介して基盤102に連結される。すなわち、保持軸104e、104jは、図4に示される構成と同様の構成により、基盤102に対して連結されることで位置決め固定される。
【0104】
これに対し、残余の保持軸104a〜104d、104f〜104iは、各載置用突起部30の頂面が金属リングR3、R4の中心に対して接近又は離間する方向に変位可能となるように立設されている。
【0105】
具体的には、保持軸104aの一端部近傍の縦方向断面図である図12に示すように、基盤102における保持軸104aを立設する部位には、2個の長穴状ボルト挿通孔106a、106bと、該長穴状ボルト挿通孔106a、106bに連なり且つ若干幅広の着座用段差部108とが形成される。
【0106】
一方、保持軸104aには、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの各々に重なる位置に、有底のボルト穴110a、110bが形成される。
【0107】
長穴状ボルト挿通孔106a、106bは、挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bを通すことが可能であるものの、頭部116a、116bに比して幅狭に設定される。従って、着座用段差部108側から長穴状ボルト挿通孔106a、106bに挿入された挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bがボルト穴110a、110bに螺合されると、頭部116a、116bは、着座用段差部108に着座する。この着座により、挟持ボルト112a、112bのそれ以上の進行が抑制される。
【0108】
この状態から挟持ボルト112a、112bをさらに緊締することにより、挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bと保持軸104aによって基盤102が強固に挟持される。その結果、保持軸104aが位置決め固定される。
【0109】
なお、図12に示される位置は、図11の実線に示される位置に対応する。これら図11及び図12から諒解されるように、この場合、保持軸104aは、金属リングR3の中心から最大に離間した位置となる。換言すれば、保持軸104aは、後進端に位置する。
【0110】
勿論、保持軸104b〜104d、104f〜104iも同様にして基盤102に位置決め固定される。従って、図11から容易に諒解されるように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円、及び保持軸104e〜104jによって形成される内接円の各直径が最大となる。
【0111】
従って、この場合、金属リングR3、R4として、大径のものを保持することが可能である。
【0112】
金属リングR3、R4よりも小径の金属リングR5、R6を保持する場合、以下のようにすればよい。
【0113】
先ず、挟持ボルト112a、112bを弛緩し、該挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bを着座用段差部108から離間させる。これにより挟持ボルト112a、112bが基盤102を解放するので、保持軸104a〜104d、104f〜104iが変位可能となる。
【0114】
次に、図13に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iを、互いに接近する方向(前進端)に変位させる。その結果、図11に仮想線で示すように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円、及び保持軸104e〜104jによって形成される内接円の直径が小さくなる。すなわち、保持軸104a〜104d、104f〜104iは、前記内接円の直径が小さくなる方向に変位される。
【0115】
その後、挟持ボルト112a、112bを図13に示す位置、すなわち、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの終端部(前進端)で再緊締し、該挟持ボルト112a、112bの頭部116a、116bを着座用段差部108に着座させるとともに該頭部116a、116bと保持軸104a〜104jで基盤102を挟持する。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが前進端で位置決め固定される。
【0116】
以降は、第1実施形態にて説明したように、保持軸104a〜104e、104jによって第1列L5を保持するととともに、保持軸104e〜104jによって第2列L6を保持するようにすればよい。
【0117】
このように、保持軸104a〜104d、104f〜104iを基盤102に変位可能に立設する第2実施形態によれば、金属リングR3、R4と金属リングR5、R6のように、様々な直径の金属リングを保持することが可能となる。
【0118】
なお、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの長手方向寸法は、金属リングR3(R4)の直径、及び金属リングR5(R6)の直径に応じて設定することが好ましい。
【0119】
すなわち、上記したように、保持軸104a〜104d、104f〜104iが後進端となる位置で金属リングR3、R4を保持することが可能となる(図11の実線参照)とともに、前進端となる位置で金属リングR5、R6を保持することが可能となる(図11の仮想線参照)ように、長穴状ボルト挿通孔106a、106bの長手方向寸法を設定すると好適である。この場合、保持軸104a〜104d、104f〜104iの変位距離の測定をその都度行うことなく、金属リングR3(R4)の直径、及び金属リングR5(R6)の直径に応じた適切な位置まで、保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させることが可能となるからである。
【0120】
なお、保持軸104a〜104d、104f〜104iを前進端位置と後進端位置の間に位置決め固定し、金属リングR3、R4に比して小径であり且つ金属リングR5、R6に比して大径である金属リングを保持するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0121】
ところで、熱処理炉80(図8参照)にて熱処理を施す際には、搬送ラック100が帯熱して高温となる。この帯熱により搬送ラック100が熱膨張を起こすが、この際には、保持軸104e、104j近傍が保持軸104a〜104d、104f〜104i近傍に比して大きく膨張する傾向がある。この理由は、保持軸104a〜104d、104f〜104iが第1列L3又は第2列L4のいずれか一方のみを保持するのに対し、保持軸104e、104jは第1列L3及び第2列L4の双方を保持しており、このため、保持軸104e、104jでは、金属リングR3、R4から伝達される熱量が保持軸104a〜104d、104f〜104iに比して大きくなるためであると推察される。
【0122】
その結果、保持軸104a〜104iを挟持する基盤102及び連結盤16が、保持軸104e、104jから離間する端部側になるにつれて互いに接近するように撓むことがある。基盤102及び連結盤16がこのように撓むことにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが、基盤102及び連結盤16によって強固に挟まれる。
【0123】
図11に示すように、例えば、金属リングR3、R4に対して熱処理を施した後、これらよりも小径な金属リングR5、R6に対して熱処理を施すときには、保持軸104a〜104d、104f〜104iを、互いが接近する方向に変位させる必要がある。しかしながら、上記したように、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iは、互いに接近するように撓んだ基盤102及び連結盤16によって挟持(拘束)されているため、変位させることが容易ではない。
【0124】
この場合、例えば、保持軸104a〜104jを連結盤16に連結するボルト40(図1参照)を全て弛緩することが想起される。これにより保持軸104a〜104jの全てが基盤102及び連結盤16の挟持から解放されるので、保持軸104a〜104d、104f〜104iを容易に変位させることができるようになるからである。そして、変位が終了した後にボルト40を再緊締する。
【0125】
しかしながら、この場合、全てのボルト40を弛緩・再緊締するので、金属リングR3、R4を解放してから金属リングR5、R6の熱処理を開始するに至るまでに長時間を要する。換言すれば、処理効率が低下する。また、連結盤16のボルト挿入孔38(図1参照)と、保持軸104a〜104jの先端面に形成されたボルト穴との位置合わせを行う必要があるが、この作業を行う分だけ時間の損失となる。
【0126】
そこで、正面図である図14に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iの高さ方向寸法(軸線方向寸法)を、保持軸104e、104jよりも小さくすることが好ましい。高さ方向寸法は、保持軸104e、104jから離間するものほど小さくするようにしてもよい。なお、図14は、理解を容易にするために金属リングR3、R4の図示を省略するとともに、高さ方向寸法の相違を誇張して示している。
【0127】
この場合、保持軸104a〜104jの全てに基盤102及び連結盤16が連結されると、基盤102及び連結盤16が互いに接近するように撓む(図14参照)。この状態で保持軸104a〜104jに保持された金属リングR3、R4に対して熱処理を施しても、基盤102及び連結盤16がそれ以上撓むことはほとんどない。
【0128】
そして、熱処理が施された金属リングR3、R4を保持軸104a〜104jから取り外した後、これらに換えて小径の金属リングR5、R6に対して熱処理を施す場合、図15に示すように、保持軸104a〜104d、104f〜104iと基盤102を連結する挟持ボルト112a、112b(図12及び図13参照)を弛緩するとともに、保持軸104a〜104d、104f〜104iと連結盤16を連結する各ボルト40を弛緩する。この際、基盤102及び連結盤16は、弾性によって水平方向に延在する形状に戻ろうとする。
【0129】
すなわち、基盤102及び連結盤16が保持軸104a〜104d、104f〜104iが離間する方向に反る。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16の拘束から解放されるので、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iを容易に変位させることができる。
【0130】
なお、図15においては、ボルト40を保持軸104a〜104d、104f〜104iから離脱させた状態を示しているが、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16の拘束から解放される程度にボルト40を弛緩させれば十分であり、離脱させる必要は特にない。
【0131】
保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させた後、挟持ボルト112a、112b(図12及び図13参照)とボルト40を再緊締する。これにより、保持軸104a〜104d、104f〜104iが基盤102及び連結盤16に再拘束されるに至る。
【0132】
一方、保持軸104e、104jにおいては、ボルト28(図4及び図11参照)、ボルト40(図1参照)が弛緩されることはない。必然的に、保持軸104e、104jに対してボルト28、40を再緊締する必要もない。このように、保持軸104e、104jに対する基盤102及び連結盤16の拘束を解かない分だけ、弛緩・再緊締の作業時間を短縮することができる。
【0133】
しかも、この場合、連結盤16のボルト挿入孔38(図1参照)の位置と、保持軸104a〜104d、104f〜104iの先端面に形成されたボルト穴の位置とが略合致したままである。上記したように、保持軸104e、104jを基盤102及び連結盤16に連結した状態を維持するので、ボルト挿入孔38と前記ボルト穴が位置ズレを起こすことが回避されるからである。従って、位置合わせに要する作業時間も併せて短縮することができる。
【0134】
このように、2列の金属リングR3、R4(R5、R6)の双方を保持する保持軸104e、104jの高さ方向寸法を、金属リングR3(R5)又は金属リングR4(R6)のいずれか一方のみを保持する保持軸104a〜104d、104f〜104iに比して大きく設定することにより、これら保持軸104a〜104d、104f〜104iを変位させることが容易となるとともに、金属リングR3、R4を解放してから金属リングR5、R6を保持するに至るまでの時間を短縮することが可能となる。従って、金属リングR5、R6の処理効率を向上させることができる。
【0135】
さらに、図16に示すように、保持軸104e、104jも基盤102に対して変位可能に立設するようにしてもよい。第2実施形態に係る変形例であるこの場合、基盤102における保持軸104e、104jを立設する部位に、上記に準じて長穴状ボルト挿通孔106a、106b、着座用段差部108(図12及び図13参照)を形成すればよい。
【0136】
そして、保持軸104e、104jの下端部に形成されたボルト穴110a、110bに挟持ボルト112a、112bのねじ部114a、114bを螺合するとともに、着座用段差部108に着座した頭部116a、116bと、保持軸104e、104jとで基盤102を挟持すればよい。これにより、保持軸104e、104jが位置決め固定される。
【0137】
保持軸104e、104jを変位させるときには、上記と同様に、挟持ボルト112a、112bを弛緩することで基盤102を解放すればよい。
【0138】
図16においては、保持軸104a〜104dを後進端位置とする一方、保持軸104g〜104iを前進端位置とし、さらに、保持軸104e、104jを保持軸104g〜104iに対して接近する方向に変位させた状態を例示している。この場合、図11に仮想線で示すように、保持軸104a〜104e、104jによって形成される内接円の直径が、保持軸104e〜104jによって形成される内接円の直径に比して大きくなる。
【0139】
このことから諒解されるように、この場合には、保持軸104a〜104e、104jに保持される金属リングR7(第1列L7)と、保持軸104e〜104jに保持される金属リングR8(第2列L8)として互いの直径が相違するものを選定することが可能となる。
【0140】
この場合も、必要に応じ、保持軸104a〜104jを前進端位置と後進端位置の間に位置決め固定するようにしてもよいことは勿論である。
【0141】
勿論、以上の第2実施形態においても、堰止用突起部32によって、拡張力が生じた状態の金属リングR3〜R8が押圧された状態で保持される。従って、この第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、熱処理の最中、金属リングR3〜R8に歪みが発生することを回避することができるという効果が得られる。
【0142】
なお、第1実施形態及び第2実施形態のいずれにおいても、連結盤16を用いることなく、基盤12と保持軸14a〜14jのみで搬送ラックを構成するようにしてもよい。
【0143】
また、第1及び第2実施形態では、10本の保持軸14a〜14j、104a〜104jで金属リングR1〜R8の中の2個を第1列L1、第2列L2の2列として保持するようにしているが、このように2列として保持する場合には、保持軸は、少なくとも4本あれば十分である。
【0144】
さらに、ワークとしてCVT用ベルトとなる金属リングR1〜R8を例示するとともに処理として窒化処理を例示したが、ワーク及び熱処理は特にこれらに限定されるものではない。例えば、浸炭処理が必要なリング部材をワークとする場合、上記の窒化ガスに代替して浸炭ガスを供給するようにすればよい。
【0145】
さらにまた、金属リングR1〜R8を、隣接する載置用突起部30、30同士で挟持するようにしてもよい。この場合においても、金属リングR1〜R8と載置用突起部30、30との接触を点接触とすることにより、金属リングR1〜R8から載置用突起部30への熱伝達量を最小限に抑制することができる。
【0146】
そして、保持軸14a〜14j、104a〜104jは、中空体であってもよい。この場合、搬送ラック10を一層軽量化し得る。
【符号の説明】
【0147】
10、100…搬送ラック 12、102…基盤
14a〜14j、104a〜104j…保持軸 16…連結盤
30…載置用突起部 32…堰止用突起部
42…連結ピン 80…熱処理炉
86、88…ヒータ 92…対流用ファン
96…撹拌翼
106a、106b…長穴状ボルト挿通孔 108…着座用段差部
112a、112b…挟持ボルト L1〜L8…列
R1〜R8…金属リング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性復元力を有する複数個の金属リングを保持して搬送するための搬送ラックであって、
基盤と、
前記基盤に立設されて互いに平行に延在するとともに、その側壁に、前記金属リングに指向して突出した載置用突起部が複数個設けられ、前記載置用突起部の上方に前記金属リングを載置することで該金属リングを保持する複数本の保持軸と、
前記保持軸に突出形成され、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在されて前記金属リングの側壁に当接することで該金属リングをその直径方向内方に押圧する堰止用突起部と、
を有することを特徴とする搬送ラック。
【請求項2】
請求項1記載の搬送ラックにおいて、前記載置用突起部が円柱形状体として形成され、且つその直径が、前記金属リングに対して点接触する寸法に設定されることを特徴とする搬送ラック。
【請求項3】
請求項1又は2記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸が、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置されていることを特徴とする搬送ラック。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記基盤から離間して配置され、且つ全ての前記保持軸の端部が連結された連結盤をさらに有することを特徴とする搬送ラック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記保持軸がニッケル又はニッケル基合金からなるものであるか、又は、その表面にニッケル又はニッケル基合金の皮膜が形成されたものであることを特徴とする搬送ラック。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部が、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位可能に前記基盤に立設されていることを特徴とする搬送ラック。
【請求項7】
請求項6記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸が、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置され、且つ前記基盤から離間して配置されて前記複数本の保持軸の端部が連結された連結盤をさらに有するとともに、隣接する2列の前記金属リングの双方を保持する保持軸が位置決め固定される一方、1列の前記金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とされ、且つ位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法が、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定されることを特徴とする搬送ラック。
【請求項8】
請求項6記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸の全てが変位可能であることを特徴とする搬送ラック。
【請求項9】
弾性復元力を有する複数個の金属リングに対して熱処理を施すために、基盤に立設されて互いに平行に延在する複数本の保持軸を具備する搬送ラックで前記金属リングを保持する金属リングの保持方法であって、
前記保持軸の側壁に複数個設けられた載置用突起部の上方に前記金属リングを載置し、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在された堰止用突起部を前記金属リングの側壁に当接させることによって前記金属リングを保持することを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項10】
請求項9記載の保持方法において、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項11】
請求項10記載の保持方法において、前記複数本の保持軸を、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置し、且つ前記基盤から離間して配置されて前記複数本の保持軸の端部が連結された連結盤を設けるとき、隣接する2列の前記金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定する一方、1列の前記金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とし、且つ位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定し、
変位可能である前記保持軸のみを前記基盤に対する拘束から解放した後に変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項12】
請求項10記載の保持方法において、前記複数本の保持軸の全てを変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項1】
弾性復元力を有する複数個の金属リングを保持して搬送するための搬送ラックであって、
基盤と、
前記基盤に立設されて互いに平行に延在するとともに、その側壁に、前記金属リングに指向して突出した載置用突起部が複数個設けられ、前記載置用突起部の上方に前記金属リングを載置することで該金属リングを保持する複数本の保持軸と、
前記保持軸に突出形成され、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在されて前記金属リングの側壁に当接することで該金属リングをその直径方向内方に押圧する堰止用突起部と、
を有することを特徴とする搬送ラック。
【請求項2】
請求項1記載の搬送ラックにおいて、前記載置用突起部が円柱形状体として形成され、且つその直径が、前記金属リングに対して点接触する寸法に設定されることを特徴とする搬送ラック。
【請求項3】
請求項1又は2記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸が、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置されていることを特徴とする搬送ラック。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記基盤から離間して配置され、且つ全ての前記保持軸の端部が連結された連結盤をさらに有することを特徴とする搬送ラック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記保持軸がニッケル又はニッケル基合金からなるものであるか、又は、その表面にニッケル又はニッケル基合金の皮膜が形成されたものであることを特徴とする搬送ラック。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部が、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位可能に前記基盤に立設されていることを特徴とする搬送ラック。
【請求項7】
請求項6記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸が、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置され、且つ前記基盤から離間して配置されて前記複数本の保持軸の端部が連結された連結盤をさらに有するとともに、隣接する2列の前記金属リングの双方を保持する保持軸が位置決め固定される一方、1列の前記金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とされ、且つ位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法が、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定されることを特徴とする搬送ラック。
【請求項8】
請求項6記載の搬送ラックにおいて、前記複数本の保持軸の全てが変位可能であることを特徴とする搬送ラック。
【請求項9】
弾性復元力を有する複数個の金属リングに対して熱処理を施すために、基盤に立設されて互いに平行に延在する複数本の保持軸を具備する搬送ラックで前記金属リングを保持する金属リングの保持方法であって、
前記保持軸の側壁に複数個設けられた載置用突起部の上方に前記金属リングを載置し、且つ隣接する前記載置用突起部同士の間に介在された堰止用突起部を前記金属リングの側壁に当接させることによって前記金属リングを保持することを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項10】
請求項9記載の保持方法において、前記複数本の保持軸の中の少なくとも一部を、該保持軸同士によって形成される内接円の直径が大きくなる方向又は小さくなる方向に変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項11】
請求項10記載の保持方法において、前記複数本の保持軸を、前記金属リングを2列以上に縦列配置した状態で保持可能に配置し、且つ前記基盤から離間して配置されて前記複数本の保持軸の端部が連結された連結盤を設けるとき、隣接する2列の前記金属リングの双方を保持する保持軸を位置決め固定する一方、1列の前記金属リングのみを保持する保持軸が変位可能とし、且つ位置決め固定された前記保持軸の軸線方向寸法を、変位可能である前記保持軸に比して大きく設定し、
変位可能である前記保持軸のみを前記基盤に対する拘束から解放した後に変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【請求項12】
請求項10記載の保持方法において、前記複数本の保持軸の全てを変位させることを特徴とする金属リングの保持方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−225962(P2011−225962A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104881(P2010−104881)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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