説明

搬送装置、印刷装置、及び搬送方法

【課題】ロール状に格納されるシート状物の搬送装置であって、逆搬送時における正確な搬送とジャム状態の発生防止を図ることのできる搬送装置等を提供する。
【解決手段】ロール状に保持されたシート状媒体を搬送路に送出す上流側ローラーと、送出された媒体を処理位置に供給する下流側ローラーと、ロール状に保持された媒体を回転して媒体を巻取るロール回転部と、これらの駆動を制御して媒体を搬送する制御部と、を有する搬送装置において、制御部が、媒体を巻取る際に、上流側ローラーとロール状に保持された媒体との間に弛みが発生した状態で、上流側ローラーとロール回転部の駆動により、上流側へ搬送して媒体の先端を所定位置まで移動し、当該ロール回転部の駆動を停止する前に、下流側ローラーが媒体を押圧する状態として、上流側ローラーの駆動により、媒体を下流側へ所定量搬送する、駆動制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状に格納されるシート状物の搬送装置等に関し、特に、逆搬送時における正確な搬送とジャム状態の発生防止を図ることのできる搬送装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レシートのプリンターなど、ロール状に保持されたシート状の媒体(用紙など)に対して処理を行う装置には、当該媒体を処理位置まで搬送するための装置が備えられる。当該搬送装置には、通常、ロール状に保持された媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと送り出された媒体を処理位置へ供給する下流側ローラーが設けられ、これらローラーの駆動により媒体が搬送される。
【0003】
かかる搬送装置を備えるプリンター等の装置においては、ジョブ終了後に次のジョブに備える目的や装置のメンテナンスの目的などで媒体を逆方向に搬送させる必要があり、この場合には、ロール状に保持される媒体をそのロール軸を中心に回転させて媒体を所定位置まで巻き取る動作を実行する。そして、この逆搬送動作は、従来、上記上流側ローラーで媒体を押さえた状態で、すなわち、上流側ローラーとロール状の媒体との間にテンションがある状態で実行されていた。
【0004】
なお、これらと関連する技術として下記特許文献1には、プロッターに送り出したロール紙の紙ずれを補正する方法が提案されている。当該方法では、ロール紙をテンションを加えながら記録面上に送り出し、その後、送り出したロール紙を弛ませながらロール巻紙周囲に巻き取る。次いで、ロール巻紙周囲に巻き取る最終段階で、駆動ローラとロール巻紙の逆回転の停止に時間差をつけることによりロール紙の弛みを除く。そして、これら工程を複数回繰り返し行って紙ずれをなくす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−144664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の逆搬送動作では、上流側ローラーとロール状の媒体との間で媒体に張力が働いているため、ロール状の媒体側で媒体の方向や位置にずれが発生するとそのずれが下流側に位置する上流側ローラーやその下流側に伝播することになってしまう。特に、ロール径が大きい場合にはこのずれが発生し易い。下流側に伝播されるずれは伝播に従って助長されるので、ずれが大きい場合には、搬送路の構造体においてジャム状態を発生する虞がある。また、ずれた状態で当該動作が終了すれば、その後、正方向に搬送して媒体に処理を実行する段階で、処理がずれてしまうことになり、処理品質を低下させてしまうことになる。
【0007】
また、上記特許文献1では、搬送方向における停止位置は意識されておらず、また、駆動を停止した際のロール巻紙のイナーシャは考慮されていないので、停止位置の精度に課題があると考えられる。また、上述のように、所定動作を複数回実行させる方法では短時間で修正ができず、装置としての処理能力を落としてしまうという問題もある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ロール状に格納されるシート状物の搬送装置であって、逆搬送時における正確な搬送とジャム状態の発生防止を図ることのできる搬送装置、等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、ロール状に保持されたシート状の被処理媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと、当該送り出された被処理媒体を処理位置に供給する下流側ローラーと、前記ロール状に保持された被処理媒体を回転させて被処理媒体を巻き取るロール回転部と、前記上流側ローラー、前記下流側ローラー、及び前記ロール回転部の駆動を制御して前記被処理媒体を搬送する制御部と、を有する搬送装置において、前記制御部が、前記被処理媒体を巻き取ってその先端を所定位置まで移動する際に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とし、前記上流側ローラーと前記ロール状に保持された被処理媒体との間に前記被処理媒体の弛みが発生した状態で、前記上流側ローラーと前記ロール回転部の駆動により、前記被処理媒体を上流側へ搬送して前記被処理媒体の先端を前記所定位置まで移動し、当該ロール回転部の駆動を停止する前に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態として、前記上流側ローラーの駆動により、前記被処理媒体を下流側へ所定量搬送する、駆動制御を実行する、ことである。
【0010】
更に、上記発明において、好ましい態様は、前記制御部による駆動制御は、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とする第一工程と、前記第一工程の後に、前記上流側ローラーの駆動を開始して前記被処理媒体を第一の速度で上流側へ搬送し、前記被処理媒体の先端が前記所定位置まで移動する距離を搬送した時点で、前記上流側ローラーの駆動を停止する第二工程と、前記第二工程の後に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態とする第三工程と、前記第三工程の後に、前記上流側ローラーの駆動を開始して前記被処理媒体を下流側へ搬送し、前記所定量の搬送が完了した時点で前記上流側ローラーの駆動を停止する第四工程と、前記第二工程における上流側ローラーの駆動開始と同時に前記第一の速度よりも遅い巻き取り速度で、あるいは、前記第二工程における上流側ローラーの駆動開始から所定時間経過後に前記第一の速度以下の巻き取り速度で、前記ロール回転部を駆動し、前記上流側ローラーとロール状に保持された被処理媒体との間に発生した弛みがなくなった時点で、前記ロール回転部の駆動を停止する第五工程、とを含む、ことを特徴とする。
【0011】
更にまた、上記発明において、その好ましい態様は、更に、前記上流側ローラーと前記下流側ローラーの間に設けられ、前記被処理媒体の巾方向の位置を規定するガイド装置を有する、ことを特徴とする。
【0012】
更に、上記発明において、好ましい態様は、前記上流側ローラー及び前記ロール回転部の駆動制御は、前記上流側ローラー及び前記ロール回転部にそれぞれ設けられるエンコーダーの検出値に基づいて行われる、ことを特徴とする。
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、上記いずれかの搬送装置を備え、前記処理位置で前記被処理媒体に印刷を実行する印刷装置とすることである。
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の更に別の側面は、ロール状に保持されたシート状の被処理媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと、当該送り出された被処理媒体を処理位置に供給する下流側ローラーと、前記ロール状に保持された被処理媒体を回転させて被処理媒体を巻き取るロール回転部と、前記上流側ローラー、前記下流側ローラー、及び前記ロール回転部の駆動を制御して前記被処理媒体を搬送する制御部と、を有する搬送装置における搬送方法において、前記制御部が、前記被処理媒体を巻き取ってその先端を所定位置まで移動する際に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とし、前記上流側ローラーと前記ロール状に保持された被処理媒体との間に前記被処理媒体の弛みが発生した状態で、前記上流側ローラーと前記ロール回転部の駆動により、前記被処理媒体を上流側へ搬送して前記被処理媒体の先端を前記所定位置まで移動し、当該ロール回転部の駆動を停止する前に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態として、前記上流側ローラーの駆動により、前記被処理媒体を下流側へ所定量搬送する、駆動制御を実行する、ことである。
【0015】
本発明の更なる目的及び、特徴は、以下に説明する発明の実施の形態から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した搬送装置を備える印刷装置の実施の形態例に係る概略構成図である。
【図2】用紙ガイド35の概略斜視図である。
【図3】搬送制御部22が逆搬送動作時に実行する処理の手順を例示したフローチャートである。
【図4】逆搬送動作時の各ステップにおける状態を説明するための図である。
【図5】ロール回転部36の駆動停止を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、図において、同一又は類似のものには同一の参照番号又は参照記号を付して説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した搬送装置を備える印刷装置の実施の形態例に係る概略構成図である。図1に示すプリンター2が本実施の形態例に係る印刷装置であり、当該印刷装置は、ロール状に保持された用紙26を給紙ローラー29(上流側ローラー)及び搬送ローラー30(下流側ローラー)で印刷位置に搬送して印刷処理を実行するが、ジョブ間などに行われる逆搬送時において、すなわち、ロール回転部36の駆動により用紙26をロール紙25として所定位置まで巻き取る際に、給紙ローラー29とロール回転部36(ロール紙25)との間において用紙26に弛みを持たせた状態で、給紙ローラー29及びロール回転部36の駆動により用紙26を逆搬送し、その後、ロール回転部36の駆動が停止する前に、搬送ローラー30とその従動ローラー28Bで用紙26を押さえた状態で、給紙ローラー29を正方向に駆動することにより用紙26を所定距離だけ搬送する。これにより、巻取り中にロール紙25側で用紙26のずれが発生した場合にも上記弛みによりそのずれが下流側に伝播しずらくなり、また、上記正方向への搬送により給紙ローラー29と搬送ローラー30の間にも弛みが生成されるため、ロール回転部36が用紙26の巻取りを終了する時点でその制御時間や惰性により用紙26を巻き取り過ぎてしまう分をこの弛みで吸収することができる。従って、停止位置を正確に保つことができ、下流側の用紙26のずれも小さく抑えることができるので正確な逆搬送が可能である。
【0019】
本プリンター2は、図1に示すように、コンピューターなどのホスト装置1からの指示を受けて印刷処理を実行する装置であり、ここでは、一例として、ロール紙25を用紙26として使用し、用紙26を搬送しながら連続的に印刷を実行する印刷装置である。
【0020】
図1ではプリンター2の概略構成を模式的に示しているが、プリンター2は、印刷内容を制御し用紙26に印刷処理を実行する印刷系と用紙26の搬送を担う搬送系が備えられる。
【0021】
印刷系には、印刷制御部21が設けられ、当該印刷制御部21は、ホスト装置1からの印刷指示を受信し、当該指示に従ってヘッド部23に印刷命令を出すと共に搬送系の搬送制御部22に対して用紙26の搬送要求を出す。ヘッド部23では、当該印刷命令に従ってヘッド部23とプラテン24との間を所定速度で移動する用紙26に対して印刷処理を実行する。
【0022】
搬送系では、図1に示されるように、印刷媒体の格納(保持)場所にロール紙25として保持される用紙26を、搬送路33に沿って正方向(下流方向)に連続搬送し、印刷済みの部分をカッター34で切断して排紙ローラー32を介してプリンター2から排出する動作を実行する。また、当該搬送動作の後などに、用紙26の先端がヘッド部23よりも上流側の所定位置(頭出し位置)に来るように逆方向(上流方向)への逆搬送動作も実行する。
【0023】
当該搬送系には、それぞれ対応するモーター(27A及び27B)で駆動される給紙ローラー29(上流側ローラー)及び搬送ローラー30(下流側ローラー)が備えられる。当該両ローラーには、それぞれ、用紙26を挟んで対向する位置に従動ローラー(28A及び28B)が配置される。各従動ローラーは、用紙26の面に垂直方向に移動可能であり、上下二つの位置を取ることができる。用紙26と接する下の位置では、用紙26の面に垂直下向きの力が付勢され、各ローラー(29、30)と共に用紙26を挟んで、用紙26の面と垂直な方向の力で用紙26を押さえている。この状態を、ここではニップ状態と呼ぶこととする。また、用紙26から離間した上の位置では、この用紙26を押さえる力は作用せず、この状態をレリース状態と呼ぶこととする。
【0024】
給紙ローラー29は、ロール紙25として保持される用紙26を搬送路33に供給する機能を有し、減速機を介して伝えられるモーター27Aのトルクによって回転し、従動ローラー28Aと共に押圧する用紙26との間の摩擦力によって用紙26を移動させる。また、当該ローラーは用紙26を逆搬送する際にも用いられる。
【0025】
搬送ローラー30は、給紙ローラー29によって供給された用紙26を印刷位置へ、すなわち、ヘッド部23の位置へ搬送する機能を有し、減速機を介して伝えられるモーター27Bのトルクによって回転し、従動ローラー28Bと共に押圧する用紙26との間の摩擦力によって用紙26を移動させる。
【0026】
また、給紙ローラー29及び搬送ローラー30には、それぞれ、エンコーダー31A及び31Bが設けられ、それらによって検知される両ローラーの回転が搬送制御部22へ通知される。更に、給紙ローラー29の従動ローラー28Aにも、エンコーダー31Dが設けられ、これにより、同様に従動ローラー28Aの回転が検知されて搬送制御部22へ通知される。当該エンコーダー31Dは逆搬送時に用いられる。
【0027】
また、給紙ローラー29と搬送ローラー30の間には、用紙ガイド35が設けられる。図2は、用紙ガイド35の概略斜視図である。図2に示されるように、用紙ガイド35は、用紙26の巾方向両側に配置される板状の部材で構成され、用紙26と所定のギャップをもって用紙を挟むように設けられる。これにより、用紙26の巾方向の位置が規定され、用紙26が巾方向に所定量以上ずれないようにされる。
【0028】
次に、搬送系には、ロール回転部36が備えられる。ロール回転部36は、ロール紙25として保持される用紙26を回転させ、送り出した用紙26を巻き取る動作を実行する。当該ロール回転部36は、モーター27Cによって駆動され、モーター27Cのトルクを伝達する減速機(駆動輪列)、減速機を介して伝えられる前記トルクによって回転する、ロール紙25の芯内を貫通する軸棒などで構成される。
【0029】
また、ロール回転部36にもエンコーダー31Cが設けられ、それらによって検知されるロール紙25の回転が搬送制御部22へ通知される。
【0030】
次に、図1に示す搬送制御部22は、搬送系を制御する部分であり、印刷制御部21からの指示に基づいて用紙26の上記搬送動作を制御する。特に、給紙ローラー29、搬送ローラー30及びロール回転部36の駆動・停止を制御して正方向及び逆方向への用紙26の良好な搬送を実行させる。このうち逆方向の搬送制御に本プリンター2の特徴があり、その具体的内容については後述する。
【0031】
搬送制御部22は、図示していないが、CPU、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性メモリ)等で構成されており、搬送制御部22が実行する上記処理は、主にROMに格納されるプログラムに従ってCPUが動作することによって実行される。
【0032】
上記RAMには、処理に必要な各データが一時的に保持され、給紙ローラー29、搬送ローラー30及びロール回転部36等の駆動・停止制御に必要な上記各エンコーダー31の検出値等が記憶される。
【0033】
なお、給紙ローラー29、搬送ローラー30、ロール回転部36及び搬送制御部22を含む当該搬送系が本発明の搬送装置に相当する。
【0034】
以上説明したような構成を有する本プリンター2では、用紙26の搬送制御に特徴があり、以下、その具体的な内容について説明する。
【0035】
前述のとおり、本プリンター2では、所定の速度で搬送される用紙26に対して印刷処理を実行するので、印刷処理時には、搬送系は、正方向への搬送動作を実行する。この時、搬送制御部22は、印刷処理が開始されると、給紙ローラー29及び搬送ローラー30の搬送速度が上記所定速度に素早くなるように制御し、印刷処理が終了するまでその搬送速度を維持し、印刷処理が終了すると両ローラーを停止させる。
【0036】
また、カッター34による用紙26の切断処理後や印刷系のメンテナンス(ヘッド部23に備えられるノズルのフラッシング等)の際に、用紙26の先端を所定の印刷待機位置(頭出し位置)まで戻す動作が必要であり、このような場合、搬送系は、逆方向への搬送動作(巻き取り動作)を実行する。以下、この逆搬送動作について具体的に説明する。
【0037】
図3は、搬送制御部22が逆搬送動作時に実行する処理の手順を例示したフローチャートである。まず、搬送制御部22は、印刷制御部21から用紙の逆搬送開始指示を受信すると(ステップS1)、搬送ローラー30の従動ローラー28Bを前述した上の位置にし、すなわち、レリースし、用紙26対する押圧力を解放する(ステップS2)。
【0038】
図4は、逆搬送動作時の各ステップにおける状態を説明するための図である。図4の(A)は、搬送ローラー30のレリース後の状態を示している。この状態は、例えば、正方向への搬送直後であり、用紙26は弛みなく搬送路上にあり、その先端は、ヘッド部23(印刷位置)よりも下流側に位置する。
【0039】
次に、搬送制御部22は、逆搬送をする際の給紙ローラー29及びロール回転部36の速度と搬送量を決定する(ステップS3)。搬送量は、当該動作前の用紙26の先端位置に基づいて決定される。前述した切断後の動作の場合には、カッター34から上記印刷待機位置までの距離が搬送量となる。また、給紙ローラー29による搬送速度は逆搬送について予め定められた値(Vk)とし、ロール回転部36による搬送速度は、その時点におけるロール紙25の直径の値等から、給紙ローラー29による搬送速度以下の速度(Vr≦Vk)が決定される。
【0040】
その後、搬送制御部22は、給紙ローラー29の駆動を開始する(ステップS4)。ロール回転部36の駆動については、この時に同時に開始してもよいし、所定の時間が経過した後に開始してもよい。前者の場合には、ロール回転部36による搬送速度(Vr)が給紙ローラー29による搬送速度(Vk)よりもかなり小さな値として決定されている必要があり、この開始タイミングは上記速度との兼合いで適宜設定されされ得るが、逆搬送中に給紙ローラー29とロール紙25の間で用紙26の弛みができるように、また、その弛み量が所定の範囲内に入るように設定される。
【0041】
このようにして、給紙ローラー29及びロール回転部36の駆動が開始されると、それ以降、搬送制御部22は、上記決定した各搬送速度になるように、前述したエンコーダー31A、31Cの検出値に基づいてPID制御を行う。
【0042】
図4の(B)は、この逆搬送中の状態を示している。上述のとおり、給紙ローラー29とロール回転部36では搬送速度、駆動開始タイミングで差があるため、給紙ローラー29の搬送が先行し、図に示すように、給紙ローラー29とロール紙25の間で用紙26の弛みが発生する。また、用紙26の先端位置は上記印刷待機位置へ近づいている。
【0043】
その後、逆方向への搬送が進み、給紙ローラー29による搬送量が上記決定した搬送量に達した時点で、搬送制御部22は、給紙ローラー29を停止する(ステップS5)。そして直ちに、搬送制御部22は、搬送ローラー30をニップする(ステップS6)。すなわち、従動ローラー28Bを下の位置に移動させ、用紙26を押圧するニップ状態とする。
【0044】
図4の(C)は、当該ニップ後の状態を示している。この時点で給紙ローラー29による逆搬送は完了しているので、用紙26の先端は上記印刷待機位置に達しており、給紙ローラー29は停止している。また、ロール回転部36による搬送(巻き取り)は、上述のとおり、給紙ローラー29よりも遅れているので、この時点ではロール回転部36は駆動を続けており、上述した弛みは、給紙ローラー29が停止した時点で最大となっている。
【0045】
上記ニップが終了すると直ちに、搬送制御部22は、給紙ローラー29を正方向に駆動し、用紙26を正方向に予め定められた距離だけ搬送する(ステップS7)。図4の(D)は、その状態を示している。ここでは、上述のとおり、搬送ローラー30がニップされた状態で、すなわち、用紙26が押さえられた状態で、給紙ローラー29から正方向に用紙26が搬送されるため、用紙26の先端は動かず、給紙ローラー29と搬送ローラー30の間で用紙26に弛みができる状態になる。なお、この正方向への搬送中には、ロール回転部36による上記巻き取りは未だ完了しないが、給紙ローラー29とロール紙25の間の弛みは減少し続けている。
【0046】
上記所定量の正方向の搬送が完了すると、搬送制御部22は、給紙ローラー29を停止する。
【0047】
その後、搬送制御部22は、給紙ローラー29の従動ローラー28Aに設けられるエンコーダー31Dが回転を検出するのを監視する。上記ステップS7の終了時点で、給紙ローラー29及び搬送ローラー30の駆動は停止しており、給紙ローラー29部分での用紙26の移動はなくなっているので、この時点でのエンコーダー31Dによる回転の検出は、用紙26がロール回転部36の巻き取り駆動によって引っ張られて上流側へ移動したことを意味している。すなわち、給紙ローラー29とロール紙25の間の弛みなくなったことを意味している。
【0048】
搬送制御部22は、この用紙26の移動を確認すると(ステップS8)、ロール回転部36による巻き取りが完了しているので、直ちに、ロール回転部36の駆動を停止する(ステップS9)。具体的には、モーター27Cのデューティ値(Duty値、電流供給値)を直ちにゼロにする。より具体的には、例えば、上記エンコーダー31Dによる回転の検出後、1エンコーダーパルス(EP)後にデューティ値をゼロにする。なお、上記エンコーダー31Dによる回転の検出は、確実にロール紙25側から用紙26が引っ張られて移動したことを検出するため、所定の複数回、回転が検出されたことを持って回転の検出とすることが好ましい。
【0049】
図5は、上記ロール回転部36の駆動停止を説明するための図である。図5は、ロール回転部36による搬送速度(V)を経時的(T)に例示したグラフであり、時刻Tsで上記エンコーダー31Dによる回転の検出がなされた場合を示している。曲線Aは従来一般的に行われている速度曲線であり、この場合には、この曲線に示される刻々の速度になるように上述したPID制御が適宜なされて、最終的に速度がゼロとなる。
【0050】
一方、曲線Bは、上述した直ちにモーター27Cのデューティ値をゼロにする場合であり、明らかに、こちらの方が短時間かつ短移動距離でロール回転部36の回転を停止することができる。また、上記従来の制御では、ロール紙25のイナーシャ等の環境変動により実際の速度が曲線Aから上下に振れることがあり、その場合には更に時間及び搬送距離が長くなってしまう。
【0051】
図4の(E)は、ロール回転部36が停止した時点の状態、すなわち、当該逆搬送動作が終了した時点の状態を示している。ここでは、前述のとおり、ロール回転部36による巻き取りが終了しているので、給紙ローラー29とロール紙25間の弛みはなくなり、正方向への搬送が可能な状態となっている。また、上述の通り、この弛みがなくなって以降ロール回転部36が実際に停止するまでに、制御時間及びロール紙25のイナーシャによって用紙26が上流側へ移動するが、その移動は、上記発生させた給紙ローラー29と搬送ローラー30間の弛みによって吸収される。従って、当該弛み量が減少する。しかし、当該弛みがなくならないように弛みを発生させているので、用紙26の先端が引っ張られることはなく、その位置は印刷待機位置に維持される。
【0052】
このようにして、当該指示を受けた逆搬送動作は終了するが、搬送制御部22は、ステップS7終了時点以降の用紙26の逆方向への搬送量を上記RAM又は上記NVRAMに記憶する(ステップS10)。すなわち、ステップS7で生成した給紙ローラー29と搬送ローラー30間の弛みがどれだけ減少しているかを、言い換えれば、給紙ローラー29と搬送ローラー30間にどれだけの弛みがあるかを記憶しておく。この値は、次回の正方向への搬送処理に用いられる。例えば、次回の搬送時において給紙ローラー29と搬送ローラー30間に必要な弛み量が不足する場合には、その不足分を補うように給紙ローラー29と搬送ローラー30の起動タイミングがずらされる。
【0053】
以上のようにして一連の逆搬送制御が終了する。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態例に係るプリンター2の搬送系では、用紙26をロール紙25側へ巻き取る逆搬送動作において、給紙ローラー29とロール紙25間に弛みを発生させた状態で用紙26を巻き取るため、ロール紙25側で用紙26の巾方向の位置や方向にずれが生じた場合にも、そのずれが上流側に伝播しずらく、給紙ローラー29から下流側の用紙26を大きくずらしてしまう虞がない。従って、用紙ガイド35等の搬送路33の構造物に強く接してジャム状態となってしまうことを避けることができると共に、ずれの少ない良好な状態で用紙26を印刷位置に供給できるので印刷品質を向上させることができる。
【0055】
また、給紙ローラー29による逆搬送の後に、給紙ローラー29と搬送ローラー30間に用紙26の弛みを発生させておくので、ロール回転部36の停止すべきタイミングから実際に停止するまでに移動してしまう距離を、この弛みで吸収することができ、用紙26の先端を正しい位置に保持することができ、短時間で正確な逆搬送を行なうことができる。
【0056】
また、上述の通り、ロール回転部36を即座に停止できるようにしたので、上記実際に停止するまでに移動してしまう距離を短くでき、それにより、上記発生させておく給紙ローラー29と搬送ローラー30間の弛みを小さく設定できる。これにより、弛みによって搬送路33の構造体を大型化する必要がなく、また、逆搬送動作の所要時間を短く抑えることができるのでプリンター2のスループットの向上を図ることができる。
【0057】
また、用紙ガイド35により、用紙26の巾方向の位置を規定できるので、更に、正確な搬送が可能になる。
【0058】
また、ロール回転部36の停止タイミングをエンコーダーによる比較的容易な構成で検知することができる。
【0059】
なお、本実施の形態例では、印刷媒体が紙であったがシート状の媒体であればこれに限定されることはない。
【0060】
また、本実施の形態例では、搬送装置がプリンターに設けられたが、本発明を適用した搬送装置は、シート状物に機械加工、レーザー加工、液体噴射加工などの各種処理を施す装置に設けて利用することができる。
【0061】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【符号の説明】
【0062】
1 ホスト装置、 2 プリンター、 21 印刷制御部、 22 搬送制御部、 23 ヘッド部、 24 プラテン、 25 ロール紙、 26 用紙、 27A、B、C モーター、 28A、B 従動ローラー、 29 給紙ローラー、 30 搬送ローラー、 31A、B、C、D エンコーダー、 32 排紙ローラー、 33 搬送路、 34 カッター、 35 用紙ガイド、 36 ロール回転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に保持されたシート状の被処理媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと、当該送り出された被処理媒体を処理位置に供給する下流側ローラーと、前記ロール状に保持された被処理媒体を回転させて被処理媒体を巻き取るロール回転部と、前記上流側ローラー、前記下流側ローラー、及び前記ロール回転部の駆動を制御して前記被処理媒体を搬送する制御部と、を有する搬送装置であって、
前記制御部は、前記被処理媒体を巻き取ってその先端を所定位置まで移動する際に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とし、前記上流側ローラーと前記ロール状に保持された被処理媒体との間に前記被処理媒体の弛みが発生した状態で、前記上流側ローラーと前記ロール回転部の駆動により、前記被処理媒体を上流側へ搬送して前記被処理媒体の先端を前記所定位置まで移動し、当該ロール回転部の駆動を停止する前に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態として、前記上流側ローラーの駆動により、前記被処理媒体を下流側へ所定量搬送する、駆動制御を実行する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部による駆動制御は、
前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とする第一工程と、
前記第一工程の後に、前記上流側ローラーの駆動を開始して前記被処理媒体を第一の速度で上流側へ搬送し、前記被処理媒体の先端が前記所定位置まで移動する距離を搬送した時点で、前記上流側ローラーの駆動を停止する第二工程と、
前記第二工程の後に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態とする第三工程と、
前記第三工程の後に、前記上流側ローラーの駆動を開始して前記被処理媒体を下流側へ搬送し、前記所定量の搬送が完了した時点で前記上流側ローラーの駆動を停止する第四工程と、
前記第二工程における上流側ローラーの駆動開始と同時に前記第一の速度よりも遅い巻き取り速度で、あるいは、前記第二工程における上流側ローラーの駆動開始から所定時間経過後に前記第一の速度以下の巻き取り速度で、前記ロール回転部を駆動し、前記上流側ローラーとロール状に保持された被処理媒体との間に発生した弛みがなくなった時点で、前記ロール回転部の駆動を停止する第五工程、とを含む
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項1あるいは2において、更に、
前記上流側ローラーと前記下流側ローラーの間に設けられ、前記被処理媒体の巾方向の位置を規定するガイド装置を有する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記上流側ローラー及び前記ロール回転部の駆動制御は、前記上流側ローラー及び前記ロール回転部にそれぞれ設けられるエンコーダーの検出値に基づいて行われる
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の搬送装置を備え、前記処理位置で前記被処理媒体に印刷を実行する印刷装置。
【請求項6】
ロール状に保持されたシート状の被処理媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと、当該送り出された被処理媒体を処理位置に供給する下流側ローラーと、前記ロール状に保持された被処理媒体を回転させて被処理媒体を巻き取るロール回転部と、前記上流側ローラー、前記下流側ローラー、及び前記ロール回転部の駆動を制御して前記被処理媒体を搬送する制御部と、を有する搬送装置における搬送方法であって、
前記制御部が、前記被処理媒体を巻き取ってその先端を所定位置まで移動する際に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧しない状態とし、前記上流側ローラーと前記ロール状に保持された被処理媒体との間に前記被処理媒体の弛みが発生した状態で、前記上流側ローラーと前記ロール回転部の駆動により、前記被処理媒体を上流側へ搬送して前記被処理媒体の先端を前記所定位置まで移動し、当該ロール回転部の駆動を停止する前に、前記下流側ローラーが前記被処理媒体を押圧する状態として、前記上流側ローラーの駆動により、前記被処理媒体を下流側へ所定量搬送する、駆動制御を実行する
ことを特徴とする搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18602(P2013−18602A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152870(P2011−152870)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】