説明

搬送装置

【課題】予め決定された軌道に沿って移動する移動部を有する搬送装置において、残留振動を抑制し、移動に要する時間を最小化することのできる搬送装置を提供する。
【解決手段】移動部2を駆動するための駆動部31とワークを載置できる負荷部32、移動部の加速時、定速時および減速時の各軌道情報を生成する軌道情報生成部5と、軌道情報生成部により生成される軌道情報に基づいて駆動部を作動させるコントローラ4とを備える。軌道情報生成部は、駆動部のエネルギ変換効率に関する効率情報記憶手段、移動部の移動に関する特有情報記憶手段、移動部の移動条件情報記憶手段、移動部の運動特性情報記憶手段、前記運動特性に基づき移動部の残留振動を抑制し、移動部の移動に要する時間を算出する演算手段と、前記演算手段により算出された移動に要する時間をパラメータに含む評価関数の値が最小となる軌道情報を決定する軌道情報決定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動部を所望の範囲内で移動させるとき、残留振動を抑制し、かつ移動に要する時間を低減するように制御された搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動部を有する装置としてのロボットなどでは、軌道情報生成装置を用いて動作軌道を生成し、その動作軌道に基づいて移動部を移動させることが行われている(特許文献1参照)。振動を考慮した軌道情報生成法としては、移動装置の移動途中の振動を抑制することを目的とした軌道情報生成装置が提案されている(特許文献2参照)。特にクレーンを対象とした発明は多く存在し、トロリーが直線動作を行うクレーンの吊り荷の振動を考慮したもの(非特許文献1)、旋回クレーンの吊り荷の振動を考慮したもの(非特許文献2、3)、天井クレーンの振動を考慮したもの(非特許文献4)があった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−155328号公報
【特許文献2】特許第4419896号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】美多勉、金井隆、トロリーの最大速度に注目したクレーンの最適運転法、計測自動制御学会論文集、Vol. 15、 No. 6、 pp. 833-838、 1979
【非特許文献2】大音光博、安信誠二、熟練操縦者の制御戦略を考慮した旋回クレーンの制御、計測自動制御学会論文集、Vol. 33、 No. 9、 pp. 923-929、 1997
【非特許文献3】近藤良、島原聖、旋回クレーンの2モード切替振れ止め制御、計測自動制御学会論文集、Vol. 41、 No. 4、 pp. 307-313、 2005
【非特許文献4】Eric T. Wolbrecht, David J. Reinkensmeyer, James E. Bobrow,Nonlinear Coupling Control Laws for an UnderactuatedOverhead Crane System, IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, Vol. 8, No. 3,pp. 418-423, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に示した従来の技術は、移動部の軌道形状を予め与えることができないものであった。これは、サーボ系制御装置では、自在に駆動経路を選択できることから、移動部の移動範囲および移動方向が複雑となり、その軌道を限定することができないことによるものであった。
【0006】
他方、一般的な搬送装置のように軌道レールに沿って移動する移動部を備えた装置においては、軌道が限定されることから、予め軌道形状を与えることでき、移動時間と残留振動の双方を低減できる搬送装置が必要と望まれていた。
【0007】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、予め決定された軌道に沿って移動する移動部を有する搬送装置において、残留振動を抑制しつつ移動時間を最小化することのできる搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、請求項1に記載の発明は、ワークを搭載する移動部が所定軌道に沿って移動する搬送装置において、前記移動部を駆動するためのアクチュエータと、前記移動部の加速時、定速時および減速時の各軌道情報を生成する軌道情報生成部と、この軌道情報生成部により生成される軌道情報に基づいて前記アクチュエータを作動させるコントローラとを備えた搬送装置であって、前記軌道情報生成部は、前記アクチュエータにおける駆動エネルギを運動エネルギに変換するときのエネルギ変換効率に関する情報を記憶する効率情報記憶手段と、移動部が移動するときの特有の情報を記憶する特有情報記憶手段と、移動部の移動条件に関する情報を記憶する移動条件情報記憶手段と、移動部の運動特性に関する情報を記憶する運動特性情報記憶手段と、前記運動特性に基づき移動部の移動に要する移動時間、移動に伴う振動特性を算出する演算手段と、前記演算手段により算出された移動時間をパラメータに含む評価関数の値が最小となる加速時、定速時および減速時の軌道情報を決定する軌道情報決定手段と備えたことを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、ワークを搭載した移動体は所定軌道に沿って移動することから、移動体が移動すべき角度や方向を制御する必要がなく、移動すべき所望距離に到達するまでの間の移動時間を最小化することによって、作業効率を向上し得ることとなるものである。また、軌道形状としては、上記のように加速・定速・減速によって定めることができる。そこで、搬送する移動体に搭載されたワークを搬送するために、予め入力されている効率情報および特性情報に加えて、さらに、ワークの移動に必要なワーク重量または移動距離等の移動条件情報が入力されることにより、これらの情報に基づいて運動特性が決定されることとなり、当該運動特性によって搬送に必要となる移動時間および振動特性が計算されることとなるのである。さらに、その際の移動時間をパラメータに含む評価関数の値を最小とするように軌道情報が決定されることから、その軌道情報に基づいて移動部が移動することより、残留振動と移動時間の小さい搬送が可能となるのである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記軌道情報生成部が、移動部が移動する際の軌道関数またはその導関数を情報として入力を許容し、前記軌道情報決定手段が、前記軌道関数または導関数を考慮しつつ前記評価関数の値が最小となる軌道情報を決定することを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、予め与えられるべき軌道形状について、軌道関数または導関数を使用することができ、この軌道関数または導関数における変数を、移動部の残留振動を抑制しつつ移動に必要な時間を最小化するように決定できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記軌道情報生成部が、前記移動部が移動するために制約される制約条件の入力を許容し、前記軌道情報決定手段が、前記制約条件を考慮しつつ、移動部の残留振動を抑制し評価関数の値が最小となる軌道情報を決定することを特徴とするものである。
【0013】
上記構成によれば、搬送装置の移動部が移動することができる条件として、例えば最大速度や最小速度などの制約条件を考慮した軌道情報を決定することができる。その結果、アクチュエータの性能や搬送すべきワークの重量等の諸条件に対応させることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記軌道情報が、加速時、定速時および減速時に要する時間の情報であることを特徴とするものである。
【0015】
上記構成によれば、移動部の加速時における時間を決定し、また、減速時に要する時間を加速時と同一とみなすことにより、加速時に要する時間が決定すれば、搬送に要する総時間から残りの時間が特定されることとなり、軌道情報の決定を容易にするものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、残留振動を抑制しつつ移動時間をパラメータに含む評価関数の値が最小となるように加速時、定速時および減速時の軌道情報を決定することができることから、このように決定された軌道情報に基づいてアクチュエータを駆動させ、移動部を移動させることにより、残留振動を抑制しつつ移動時間を低減することができる。特に、移動部が直線状に移動する搬送装置の場合、または、予め定められ位置を中心として回転移動する搬送装置の場合においては、軌道情報として加速時、定速時および減速時に要する時間によって定めることができることから、評価関数の値を時間についての最小値を求めることにより、残留振動を抑制しつつ最も小さい移動時間による搬送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる搬送装置の概略を示す説明図である。
【図2】軌道情報生成部を示す説明図である。
【図3】移動部が移動するときの軌道形状(速度波形)を示すグラフである。
【図4】搬送装置のモデル図である。
【図5】実施例として使用する搬送装置の写真である。
【図6】図5の実施例について実証実験した際の結果を示すグラフである。
【図7】図5の実施例について実証実験した際の結果(負荷部の加速度波形)を示すグラフである。
【図8】実施例として使用する振子を有する搬送装置の写真である。
【図9】図8の実施例について実証実験した際の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の概略を示す図である。この図に示すように、本実施例の搬送装置Aは、ガイドレール1と、このガイドレール1に沿って移動する移動部2とを備えている。移動部2には、アクチュエータ(モータ)が搭載された駆動部31が設けられ、その駆動力が図示せぬ駆動軸のギアに伝達されるとともに、このギアがガイドレールに設けられる図示せぬラックに歯合することによって、走行可能になっている。また、移動部2の下端には負荷部32が設けられワークWを載置するものである。さらに、移動部2には、コントローラ4が搭載されており、処理装置に入力および記憶された情報に基づき演算処理された軌道情報が入力されると、当該軌道情報に基づく駆動エネルギ(電気エネルギ)がアクチュエータ(モータ)3に供給されるものである。
【0019】
この搬送装置の構成によれば、移動部がガイドレール1に沿って移動することとなるから、その軌道は予め決定されたものとなる。そして、ガイドレール1が水平に設けられる場合は、移動部も水平方向に移動するが、ガイドレール1が傾斜している場合は、移動部は水平移動および上下方向に移動することとなる。また、本実施形態では、移動部に駆動部31(アクチュエータ)と負荷部32およびコントローラ4が搭載されていることから、搬送すべきワークWの重量に加えてこれらの重量を移動させることとなる。
【0020】
ここで、軌道情報生成部について説明する。図2は、軌道情報生成部および関連部分を示す図である。この図に示すように、軌道情報生成部5は、記憶手段であるメモリ51と演算部52とを備え、メモリ51は、外部の入力手段6によって入力される諸情報を記憶し、演算部52は軌道情報を決定する。
【0021】
入力手段6によって入力され、メモリ51によって記憶される情報としては、エネルギ変換効率に関する情報(以下、効率情報という)、移動部が移動する際の特有の情報(以下、特有情報という)、移動部2が移動に際して付される条件に関する情報(以下、移動条件情報という)、移動部2の運動特性に関する情報(以下、運動特性情報という)および評価関数などがある。
【0022】
効率情報とは、駆動部31(アクチュエータ)による電気エネルギから運動エネルギへの変換効率の情報である。変換効率は、アクチュエータの性能に左右されることから、使用されるアクチュエータについて個別の情報が入力される。なお、アクチュエータが受ける負荷の大きさに対する効率の変化についても効率情報として記憶されるものである。このような効率特性の情報を使用することにより、ワークWを搬送するために必要となる駆動力に対応する変換効率が選択可能となるのである。
【0023】
また、特有情報とは、移動部2に駆動部31(アクチュエータ)、負荷部32またはコントローラ4が搭載されるか否か、これらが搭載される場合の総重量、および、移動部2が有する重量など、移動部2に関する特有の情報である。これらの情報は、搬送すべきワークWの重量に加えて移動すべき全体重量を特定するために必要となる情報である。
【0024】
移動条件情報とは、移動部2が直線的に移動する場合、または、回転移動する場合などの移動種別を特定するための情報を含むものである。また、移動方向が上り傾斜の状態であるか、下り傾斜の状態であるかの条件などについての情報も含まれる。これらの情報の内容により、軌道情報作成の際に使用される評価関数が異なることとなるのである。そのほかに、移動部2が移動すべき範囲(距離)、移動可能な最高速度、負荷部32の振動の有無、搬送時間の限界値などの情報である。これらの情報は、移動部2を現実に移動させる際、周囲の安全性および駆動系の破損等を回避するために重要な情報であり、軌道情報生成部5において生成された軌道情報が、前記移動条件情報の範囲内で決定されるように、予め諸条件を与えるのである。
【0025】
運動特性情報とは、移動部の軌道を限定する際に必要となる情報であり、具体的な軌道パターンに応じて、その運動特性を予め入力・記憶させることにより、当該軌道パターンに従った軌道形状の軌道情報を決定させるのである。また、この運動特性情報に基づいて移動部2の移動に必要となる移動時間と残留振動特性が算出されることとなり、この移動時間が評価関数のパラメータに含まれることとなるのである。
【0026】
評価関数は、移動部が移動するために必要な時間が最小となる変数(条件)を求めるものとしている。すなわち、移動部の残留振動を抑制しつつ移動時間を最小化することができるのである。
【0027】
上記変数(条件)としては、直線状に移動する移動部2の軌道形状は、加速、定速、減速の三種類によって定まることとなるから、加速されるべき時間、定速状態の時間および減速に要する時間が例えば考えられ、移動部の残留振動を抑制しつつ移動時間が最小となるべき時間を求める。
【0028】
移動時間を最小化する時間を求める評価関数の一般式としては、次の式を使用することができる。
【0029】
【数1】

【0030】
移動部の残留振動を抑制するために、移動に要する時間tにおいて、以下の関係が成り立つことを拘束条件として付加する。
【0031】
【数2】

【0032】
また、加速、定速および減速で特定される軌道パターンでは、図3に示すような軌道形状となることが一般的である。この図において、tは加速時間であり、tは定速時間であり、tは減速時間である。そして、減速時間tを加速時間tに等しくすることにより、略台形の軌道形状となる。このような略台形の軌道形状を基準として始点から終点までの軌道形状を決定することができるのである。すなわち、始点から終点までの移動範囲において、移動部が1回の加速・定速・減速による場合は一つの略台形の軌道波形とすることになるが、そのような場合に限らず、複数回の加速・定速・減速が繰り返されるように移動部を移動させる場合には、前記略台形の軌道形状が数回連続するような軌道形状となる。さらに、減速の途中において再度加速するような場合は、略台形の形状とは異なる軌道形状となることもあり得る。いずれの軌道形状による場合においても、前記の略台形の軌道形状を基準とすることにより、残留振動を抑制しつつ始点から終点までの移動に要する時間を最小化することができるのである。
【0033】
従って、上記評価関数(数1)により、加速時間tの値を求めることにより、t=tとなり、t=t−t−tにより求めることが可能となる。このようなtを求めるためには、前記各種の情報が使用されるのであり、演算処理されるのである。
【0034】
なお、変数αについては時間以外の変数を求めてもよい。例えば、移動部の速度について求めてもよい。そこで、これらの情報を記憶手段に記憶させておき、これを演算手段において参照しつつ上記評価関数により変数の最小値が求められるのである。
【0035】
次に、前記評価関数の計算方法について説明する。まず、移動装置の運動特性は、図4に基づき、一般につぎのように記述できる。
【0036】
【数3】

【0037】
移動装置の駆動部の位置xおよび速度、加速度などの位置の時間微分ならびに係数は、以下のように複数の変数α=1,・・・,mで表され、入力手段より入力され、メモリに記憶されるものである。
【0038】
ここで、αは駆動部の移動時間としてもよい。Dは定数あるいはαの関数であり、例えば搬送装置が重力の影響を受ける方向に移動する場合には、Dを適当に与えることにより、この影響を考慮できる。また、移動装置が複数の駆動軸から構成される場合には、式(1)(2)を各々の駆動軸に対して指定することにより応用できる。
【0039】
【数4】

【0040】
位置xおよび速度、加速度などの位置の時間微分は互いに時間tに関して微分あるいは積分が可能であり、予め入力手段により入力させることができるほか、入力された諸情報から演算部により演算することとしてもよい。
【0041】
式(3)を式(2)に代入し時間積分すれば、式(2)のαおよびこの時間微分の振る舞いを変数および時間tの関数として以下のように得ることができる。
【0042】
【数5】

【0043】
また、次式に示すように、位置または角度xおよびその微分値、ならびに、駆動力Fに関する下限値および上限値を指定することもできる。
【0044】
【数6】

【0045】
負荷部の残留振動を抑制するために、式(2)より、移動終了時間tにおいて、以下の関係が成り立つことを拘束条件として付加する。
【0046】
【数7】

【0047】
動作開始・終了・中間点の位置およびその微分値などに関する他の制約条件も以下のように等式制約、不等式制約として指定できる。
【0048】
【数8】

【0049】
本発明では以下のように移動に要する時間を最小化する軌道を求める。前述のとおり、評価関数の一般式は次式のとおりである。
【0050】
【数9】

【0051】
ここで、式(6)〜(12)の制約条件のもとにおいて、式(13)となるαを求めることにより、残留振動を抑制し、移動時間を最小化する軌道を生成できる。この最小化問題は一般的に遂次2次計画法により解くことができる。ここで、本最小化問題は微分方程式ではなく、αに関する代数式に関するものであるため、現実的な手法であることを付言する。
【0052】
さらに、上記のほかに、移動時間に加えて、変数αに関する任意の関数q(α,・・・,α)の値を考慮して次式のような評価関数を使用して、軌道情報を生成することもできる。
【0053】
【数10】

【0054】
本発明の実施形態は、上記に示したとおりであることから、残留振動を抑制し、移動時間をパラメータに含む評価関数を使用し、その値が最小となるように、軌道情報が生成されることとなる。そして、そのように生成された軌道情報に基づいてアクチュエータを作動させることにより、残留振動を抑制し、移動時間を低減することが可能となるのである。
【0055】
なお、前記のように、各移動条件に応じて使用する評価関数は、予め入力手段により入力され、メモリに記憶されることによって、移動部を移動するための諸条件が入力されるとき、適宜妥当する評価関数が使用されることとなる。また、前記各式は、数種類の変数を含む内容となっているが、各種の条件が入力・記憶されることにより、適宜特定され得ることとなり、所定の変数が特定されることにより、評価関数の値を最小化する時間または速度等が特定され、軌道情報が生成されることとなるのである。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例について説明する。この実施例は、図5に示すような搬送装置について、具体的な軌道情報を生成したものである。
【0057】
この図に示されているように、移動部は、ガイドレールに沿って直線的に移動するものであり、移動部は、鉛直方向に垂下するアームを備え、その下端にワークを搭載できる負荷部が設けられた構成となっている。また、移動部の上端付近は、ガイドレールよりも上方に位置し、ガイドレールよりも上部には、モータとコントローラが設けられている。
【0058】
本実施例は上記のような構成であるから、移動部の負荷部の運動特性は、式(1)に対応して、次式のように表される。
【0059】
【数11】

【0060】
なお、上式において、mおよびKは、式(2)の係数に相当するものであり、この場合は定数である。
【0061】
また、この搬送装置の移動軌道は、図4に示す略台形の速度波形(軌道形状)に限定されるものと判断される。この図4に示されるt、t、t、vは、それぞれ駆動部の加速時間、定速時間、減速時間、最大速度を示し、前記格式における変数αに相当するものである。そこで、加速時間、低速時間および減速時間の各速度関数(これが軌道関数である)は、それぞれ以下のように表される。
【0062】
【数12】

【0063】
上記の速度波形関数を時間積分すると以下のように位置関数が得られる。
【0064】
【数13】

【0065】
また、式(16)−(18)の関係を時間微分すると以下のように加速度関数が得られる。
【0066】
【数14】

【0067】
減速時の負荷部の位置と速度は以下のように得られる。
【0068】
【数15】

【0069】
残留振動を抑制するために式(25)、(26)に終端時間

を代入した値は、以下の条件を満たさなければならない。
【0070】
【数16】

【0071】
また、式(22)と(24)より、駆動部分の加速度の大きさはt=t/2およびt=t+t+t/2において最大となるため、加速度の大きさの最大値aを用いて、以下の加速度制約を与える。



【0072】
【数17】

【0073】
さらに駆動部分の定速区間の速度vについては、移動に要する時間を短縮するため許容最大速度vを用いるとし、
【0074】
【数18】

という制約条件を付加した。
【0075】
ここでは、加速時間と減速時間が等しいものとし、t=tとした。
【0076】
式(27)−(31)の制約条件のもとで、以下のように移動に要する時間を最小値とする軌道を逐次2次計画法により求めた。
【0077】
【数19】

【0078】
図5の装置への応用を想定し、式(15)においてK/m=4,027[rad/s]、式(29)(30)の最大加速度をa=3.2[m/s]、式(31)の最大速度をv=1.72[m/s]、搬送装置の移動距離を2[m]として、式(32)の計算を行った結果、t=0.31[s]、t=0.88[s]という動作パターンが得られた。
【0079】
上記動作パターンの有効性を検証するために、図5の装置に対して、上記動作パターンと移動時間と移動距離が等しくなる動作パターンを、加速度時間がt=0.25[s]からt=0.35[s]まで0.01[s]づつ変化させることで与え、各々のtの値に対し、搬送装置の移動実験を行い、負荷部の残留振動に相当する加速度を計測した。加速度は図5(b)のように負荷部に加速度計を設置して計測した。負荷部の加速度の大きさが1[m/s]以下になるまでの時間(残留振動時間)をまとめたものを図6に示す。t=0.31[s]付近において残留振動時間が最小となるが、本発明装置による計算結果と整合していることが確認された。図7(a)(b)にt=0.25[s]とt=0.31[s]のときの負荷部の加速度をそれぞれ示す。t=0.31[s]では、残留振動時間が大きく低減できていることを確認できる。また、このときの搬送装置の動作開始から負荷部の加速度が1[m/s]以下になるまでに要した時間は、現在実際に用いている軌道に対して、約14%低減された。これより、本実施例における計算結果と検証実験の結果が整合していることが確認された。
【0080】
次に図8の搬送装置(クレーン模型装置)に対して同様の実験を行った。図8の装置では、コントローラからの指令に基づき駆動部の対応するモータを駆動する。モータには駆動側プーリが取り付けられ、駆動側プーリおよび従動側プーリにより張力が与えられたベルトがモータの回転により駆動する。これによりベルトに取り付けられた負荷部に相当する振子が振動しつつ水平方向に移動する。モータに取り付けられたロータリーエンコーダによりモータの回転角を計測でき、この値を換算することにより振子の支点の水平位置を計測できる。
【0081】
図8の装置への応用を想定し、式(15)においてK/m=38.7[rad/s]、式(29)の最大加速度をa=2.5[m/s]、式(31)の最大速度をv=1[m/s]、搬送装置の移動距離を0.8[m]として、式(32)の計算を行った結果、t=0.56[s]、t=0.44[s]という動作パターンが得られた。
【0082】
上記の動作パターンの有効性を検証するために、図8の装置に対して、上記動作パターンと移動時間と移動距離が等しくなる動作パターンを、加速度時間がt=0.50[s]からt=0.60[s]まで0.01[s]づつ変化させることで与え、各々のtの値に対し、搬送装置の移動実験を行い、負荷部(振子)の残留振動を計測した。この結果のまとめを図9(a)に示す。t=0.56[s]付近において残留振動の振幅が最小となるが、本発明装置による計算結果と整合していることが確認された。図9(b)(c)にt=0.50[s]とt=0.56[s]のときの振子の振動振幅をそれぞれ示す。t=0.56[s]では、残留振動振幅が大きく低減できていることを確認できる。
【0083】
上記2つの実験装置における最適動作パターンが、本発明装置により生成された動作パターンと整合しており、有効性が示された。
【符号の説明】
【0084】
1 ガイドレール
2 移動部
31 駆動部(アクチュエータ)
32 負荷部
4 コントローラ
5 軌道情報生成部
6 入力手段
51 メモリ(記憶手段)
52 演算部(演算手段、軌道情報決定手段)
A 搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを搭載する移動部が所定軌道に沿って移動する搬送装置において、前記移動部を駆動するためのアクチュエータと、前記移動部の加速時、定速時および減速時の各軌道情報を生成する軌道情報生成部と、この軌道情報生成部により生成される軌道情報に基づいて前記アクチュエータを作動させるコントローラとを備えた搬送装置であって、
前記軌道情報生成部は、前記アクチュエータにおける駆動エネルギを運動エネルギに変換するときのエネルギ変換効率に関する情報を記憶する効率情報記憶手段と、移動部が移動するときの特有の情報を記憶する特有情報記憶手段と、移動部の移動条件に関する情報を記憶する移動条件情報記憶手段と、移動部の運動特性に関する情報を記憶する運動特性情報記憶手段と、前記運動特性に基づき移動部の移動に要する移動時間、移動に伴う振動特性を算出する演算手段と、前記演算手段により算出された移動時間をパラメータに含む評価関数の値が最小となる加速時、定速時および減速時の軌道情報を決定する軌道情報決定手段と備えたことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記軌道情報生成部は、移動部が移動する際の軌道関数またはその導関数を情報として入力を許容し、前記軌道情報決定手段は、前記軌道関数または導関数を考慮しつつ前記評価関数の値が最小となる軌道情報を決定することを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記軌道情報生成部は、前記移動部が移動するために制約される制約条件の入力を許容し、前記軌道情報決定手段は、前記制約条件を考慮しつつ評価関数の値が最小となる軌道情報を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記軌道情報は、加速時、定速時および減速時に要する時間の情報であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の搬送装置。



























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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