説明

携帯型の水分情報出力装置

【課題】栽培現場で非破壊で植物体の水分状態を示す情報を出力することができる携帯型の水分情報出力装置を提供する。
【解決手段】携帯型の水分情報出力装置100において、アクチュエータ32は、植物体の測定部位に対して圧接部材を移動して、植物体の測定部位を圧接する。応力取得部は、圧接部材により植物体の測定部位が圧縮されるときの植物体の測定部位の圧縮力を検出し、該圧縮力に応じた応力を取得する。制御部38は、アクチュエータ32を制御し、応力取得部により取得した応力と、測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの割合との比率にもとづいて植物体の水分状態を示す情報を導出する。出力部40は、植物体の水分状態を示す情報を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の水分状態を示す情報を出力する携帯型の水分情報出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹栽培および果菜栽培では高品質農産物の安定的な生産方法が望まれている。そのため、マルチ栽培または土壌水分管理をした根域制限栽培のような、植物体にかかる水ストレスを調整することで、果実の大きさ、糖度、酸度、および機能性成分のコントロールを可能にする栽培技術が普及しつつある。
【0003】
この植物体にかかる水ストレスを調整するために、栽培現場では、茎葉のしおれなどの外観的特徴の目視観察や、土壌に含まれる水分量から植物体の水分状態を推定し、この植物体の水分状態に応じた水の管理が行われている。この植物体の水分状態を表す指標として水ポテンシャルが用いられている。柑橘類であれば、この水ポテンシャルはプレッシャーチャンバー法により葉を加圧することで測定される。
【0004】
一方、水ポテンシャルは、植物体のヤング率との間に相関があることがわかってきている(たとえば、非特許文献1〜非特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】重松健太ら、 植物体の水分状態と力学的特性値の関係(第1報)、農業環境工学関連学会2007年合同大会講演要旨、 E-94、 2007.9
【非特許文献2】重松健太ら、 植物体の水分状態と力学的特性値の関係(第2報)、第67回農業機械学会年次大会講演要旨、 p.93〜94、 2008.3
【非特許文献3】法貴誠、 大豆の力学的特性に関する研究(第1報)、 農業機械学会誌、 Vol.50、No.6、 p.77〜82、 1988.11
【非特許文献4】村田敏ら、 農産物の弾性係数及びポアソン比の測定、 農業機械学会第50回大会講演要旨、 p.411〜412、 1991.4
【非特許文献5】村瀬治比古、 水ポテンシャルの異なるポテト塊茎の音響インピーダンスの測定、 農業機械学会第40回大会講演要旨、 p.168、 1981
【非特許文献6】H. Murase、 Water Potential Effect on Dynamic Moduli of Potato Tissue、 the1980 Summer Meeting ASAE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
目視観察や、土壌水分から植物体の水分状態を推定する方法によって水の管理を行うには、経験が必要であり、植物体の水分状態を直接測るものではないため正確な管理が難しい。また、プレッシャーチャンバー法による水ポテンシャルの測定は、加圧器に葉を入れる破壊検査であり、装置が大がかりであるため、現場での計測が難しい。また、枝葉などを切り取って水ポテンシャルを測定する場合、測定するまでに切り取った枝葉の水ポテンシャルが刻々と変化してしまう。さらに、その装置も非常に高価である。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、栽培現場で非破壊で植物体の水分状態を示す情報を出力することができる携帯型の水分情報出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の携帯型の水分情報出力装置は、植物体の測定部位に対して圧接部材を移動して、植物体の測定部位を圧接する駆動部と、圧接部材により植物体の測定部位が圧縮されるときの植物体の測定部位の圧縮力を検出し、該圧縮力に応じた応力を取得する応力取得部と、駆動部を制御し、応力取得部により取得した応力と、測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの割合との比率にもとづいて植物体の水分状態を示す情報を導出する制御部と、植物体の水分状態を示す情報を出力する出力部と、を備える。
【0009】
この態様によると、測定部位の圧縮距離、測定部位の厚さおよび応力を検出することで、植物体の水分状態を示す情報を栽培現場で非破壊で出力することができる。測定部位の圧縮距離、測定部位の厚さおよび応力により算出された植物体の水分状態を示す情報は、その植物体の水ストレスを推定する指標とすることができる。また、プレッシャーチャンバー法より短い時間で出力することができる。
【0010】
本発明の別の態様もまた、携帯型の水分情報出力装置である。この装置は、植物体の測定部位に対して圧接部材を移動して、植物体の測定部位を圧接する駆動部と、圧接部材により植物体の測定部位が圧縮されるときの植物体の測定部位の圧縮力を検出する圧縮力検出部と、駆動部を制御し、植物体の測定部位の圧縮距離および測定部位の厚さを導出する制御部と、圧縮力検出部により検出した圧縮力から取得された応力と、測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの割合との比率にもとづいて導出された植物体の水分状態を示す情報を出力する出力部と、を備える。
【0011】
この態様によると、植物体の圧縮距離、測定部位の厚さおよび圧縮力を検出することで、植物体の水分状態を示す情報を栽培現場で非破壊で出力することができる。また、プレッシャーチャンバー法より短い時間で出力することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、栽培現場で非破壊で植物体の水分状態を示す情報を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るヤング率および水ポテンシャルの測定値を示す図である。
【図2】実施形態に係るヤング率と水ポテンシャルとの関係性を示す図である。
【図3】実施形態に係るヤング率および水ポテンシャルの測定値を示す図である。
【図4】実施形態に係るヤング率と水ポテンシャルとの関係性を示す図である。
【図5】実施形態に係る水分情報出力装置の機能構成を示す図である。
【図6】実施形態に係る水分情報出力装置の斜視図を示す図である。
【図7】実施形態に係る植物体のヤング率の算出方法を説明する図である。
【図8】植物体の葉の断面図である。
【図9】植物体の葉の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る水分情報出力装置を図面を参照して説明する。以下の説明および図名において、「植物体のヤング率」という表現を用いる。実施の形態において植物体のヤング率は、植物体の応力と測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとにもとづく比率である。植物体が線形の弾性を示さないため、植物体のヤング率は一般的なヤング率とは異なるが、応力と測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの関係性という点で一般的なヤング率と同じであるため、説明の便宜を図るために用語「ヤング率」を実施形態で使用する。
【0015】
図1は、実施形態に係るヤング率および水ポテンシャルの測定値を示す図である。図2は、実施形態に係るヤング率と水ポテンシャルとの関係性を示す図である。図1に示すヤング率14は、実施形態に係る水分情報出力装置を用いて、屋内にてミカン「青島温州」の8年生樹の葉を1時間間隔で各5回測定し、その日変化を示す。実線で示すヤング率14は、5回の測定値の平均値である。また図1に示す水ポテンシャル12は、プレッシャーチャンバーPMS Model 600を用いて、ヤング率14と同様の条件で測定したものである。図1の水ポテンシャルの負の数値は図面左に示し、ヤング率は図面右に示す。図2は、図1に示す測定結果にもとづくものであり、計測値の回帰直線を示す。
【0016】
図1に示すように水ポテンシャル12およびヤング率14は、時間変化に応じて同じような変化をしており、その変化に同じような傾向がある。つまり、図1および図2に示すようにヤング率と水ポテンシャルには負の相関があることがわかる。この水ポテンシャルは、水ストレスを推定する指標として用いられる。また、図1の測定とは別の条件で、同様にヤング率と水ポテンシャルとの相関が得られるかどうか測定した。
【0017】
図3は、実施形態に係るヤング率および水ポテンシャルの測定値を示す図である。図4は、実施形態に係るヤング率と水ポテンシャルとの関係性を示す図である。図3に示すヤング率18は、実施形態に係る水分情報出力装置を用いて、屋外にてミカン「宮川早生」の50年生樹の葉を1時間間隔で各5回測定した平均値を示す。図3に示す水ポテンシャル16は、プレッシャーチャンバーPMS Model 600を用いて、ヤング率18と同様の条件で測定したものである。図3の水ポテンシャルの負の数値は図面左に示し、ヤング率は図面右に示す。図4は図3の測定結果にもとづくものであり、葉別の計測値の回帰直線20と、その計測値の平均値の回帰直線22を示す。
【0018】
図3に示すように水ポテンシャル16およびヤング率18は、時間変化に同じような傾向があり、負の相関がある。このように異なる品種および異なる樹齢の樹体に対して測定しても、水ポテンシャルとヤング率との相関が得られた。このように本発明者は水分情報出力装置により測定したヤング率をもとに植物体の水ストレスを推定できることの知見を得た。次に具体的な装置の機能構成について説明する。
【0019】
図5は、実施形態に係る水分情報出力装置100の機能構成を示す。また、図6は、実施形態に係る水分情報出力装置100の斜視図を示す。植物体の水分保持力値を出力する水分情報出力装置100は、ロードセル30、アクチュエータ32、駆動回路34、動ひずみ計36、制御部38および出力部40を備える。
【0020】
図6(a)は、ロードセル30を除いた水分情報出力装置100の斜視図を示す。図6(b)では、実際の使用態様を示しており、図6(b)に示すように、水分情報出力装置100は片手で挟持可能な携帯型である。実施形態では植物体の測定部位は葉である。水分情報出力装置100には開口部29が設けられており、開口部29に葉が挿入される。この葉が基台28に載せられて、圧接部材31により圧接されることでヤング率が測定される。
【0021】
たとえばロードセル30は、ひずみゲージ式のロードセルであり、ひずみを検出するセンサを有する。また、図6(b)に示すように、ロードセル30は、アクチュエータ32の動作により変位する圧接部材31を有する。この圧接部材31は棒状部材として形成され、葉と接触する接触面は平面に形成される。
【0022】
ロードセル30は、アクチュエータ32の駆動により葉に圧接し、葉から反力を受けて、その反力に応じたひずみ量を検出する。このひずみは、ロードセル30に加わった外力を示し、この外力を予め定められた圧接部材31の接触面の面積で除算すれば応力が求まる。
【0023】
ロードセル30は、植物体との圧接によりゲージに生じたひずみを示す電気信号を動ひずみ計36に送出する。動ひずみ計36は、その電気信号の出力を増幅するアンプとして機能する。動ひずみ計36は、増幅したひずみを示す電気信号を制御部38に送出する。このようにロードセル30および動ひずみ計36は、圧接部材31により植物体の測定部位が圧縮されたときの植物体の測定部位の圧縮力を検出する圧縮力検出部として機能する。
【0024】
アクチュエータ32は、葉に対して圧接部材31を移動して、葉を圧接する。すなわち、アクチュエータ32の駆動によりロードセル30が葉に向かって変位し、圧接部材31が葉に当接することで、葉を押圧することになる。アクチュエータ32は、葉からの応力に関わらず、所定の速度で一定に圧接部材31を変位させてよい。アクチュエータ32は、駆動に応じた電気信号を制御部38に送出する。アクチュエータ32は、駆動回路34から供給された駆動電流に応じてロードセル30を変位させる。また、バネの弾性力によって圧接部材31が変位されてよい。このようなバネやアクチュエータ32は、圧接部材31を移動する駆動部として機能する。
【0025】
制御部38は、圧縮距離導出部80、応力導出部82、ヤング率算出部84および水分保持力値導出部86を備え、検出した情報をもとに水分保持力値を算出する。また、制御部38は、アクチュエータ32を制御する。
【0026】
圧縮距離導出部80は、アクチュエータ32の駆動に応じた電気信号にもとづいて圧接部材31の変位量を導出する。たとえば、圧縮距離は応力導出部82が応力を検出し始めたときからの圧接部材31の変位量である。また、圧縮距離導出部80は、応力導出部82が応力を検出し始めたときを基点として測定対象物の厚さを導出する。たとえば、圧接部材31を基台28と最大に離した最大離間距離が既知である場合、最大離間距離から、圧接部材31が応力を検出するまでの移動距離を減算することで、測定対象物の厚さが求まる。すなわち、圧接部材31と基台28との距離がわかる基準位置を定めることで、その基準位置からの変位量をもとに測定対象物の厚さを求めることができる。圧縮距離導出部80が算出した測定対象物の厚さおよび圧縮距離からひずみ(測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの割合)が算出できる。
【0027】
応力導出部82は、動ひずみ計36から受け取ったひずみ情報にもとづいてロードセル30に加わった圧縮力を算出し、この圧縮力を予め定められた圧接部材31の接触面の面積で除算することで応力を導出する。なお、ロードセル30、動ひずみ計36および応力導出部82が、応力を取得する応力取得部として機能してよい。
【0028】
ヤング率算出部84は、圧縮距離導出部80および応力導出部82から測定対象物の厚さ、圧縮距離および応力の情報を受け取り、植物体の応力と、測定部位の圧縮距離と測定部位の厚さとの割合との比率(以下、「ヤング率」という)を算出する。
【0029】
水分保持力値導出部86は、ヤング率にもとづいて水分保持力値を算出する。この水分保持力値は、ヤング率を水ポテンシャルに換算した数値であってもよく、ヤング率を水分保持力の指標を示す1〜10の階級に換算したものであってもよい。ヤング率を水ポテンシャルに換算するための情報が2次元マップや計算式として保持される。ヤング率を水ポテンシャルに換算するための情報は、図2および図4に示したように、実験にもとづくヤング率と水ポテンシャルとの相関によって決定されてよい。なお、ヤング率を水ポテンシャルに換算するための情報は植物体の種類に応じて保持されてよい。これにより、測定する植物体の種類に応じて適切な換算情報を用いることができ、汎用性が向上する。
【0030】
制御部38は、測定した植物体の水分保持力値にもとづいて水やりの必要性の有無を推定してもよい。制御部38は、この水やりの必要性の有無を水分保持力値に関する情報として、出力部40に送出してもよい。
【0031】
制御部38は、測定する植物体を個々に登録して、登録した植物体の過去の測定値を参照できる機能を有してよい。たとえば制御部38は、過去に測定した水分保持力値を識別番号を付して時刻情報とともに保持し、使用者がその識別番号を入力すれば、識別番号に応じた植物体の過去の測定値を出力する。また、制御部38は、植物体を測定したときに、過去の測定値と今回の測定値とを識別番号に応じて同時に出力部40に送出してよく、測定値の変化の過程を水分保持力値に関する情報として送出してもよい。これにより、使用者が植物体の状態の変化を参照することができる。これらの水分保持力値および水分保持力値に関する情報が、植物体の水分状態を示す情報に含まれる。
【0032】
制御部38は、使用者の測定開始の合図に応じて駆動回路34にアクチュエータ32への駆動電流を供給するよう指令信号を出力する。そして制御部38は、アクチュエータ32の駆動を制御し、圧接部材31を葉に押しつけ、応力検出部により応力を検出する。所望の応力が検出されると、制御部38は葉に向かう圧接部材31の移動を停止する指令信号を駆動回路34に出力する。そして制御部38は、ヤング率を算出し、ヤング率にもとづいて水分保持力値を導出する。
【0033】
また、制御部38は、応力検出部により検出された応力を微分し、応力の微分値の最初の極大値を基点にヤング率を算出する。これによりヤング率の測定精度を向上できる。具体的な方法は後述する。なお、ヤング率を水ポテンシャルに換算するための情報は、応力の微分値の最初の極大値を基点に算出したヤング率と水ポテンシャルとの相関を示すものであってよい。図1〜図4の実験結果に示すヤング率は、応力の微分値の最初の極大値を基点に算出したものである。
【0034】
制御部38は、応力検出部により検出された応力の微分値が極大値となったことを判定すると、植物体の測定部位に向かう圧接部材31の移動を停止する。すなわち、制御部38は、応力検出部により検出された応力を微分し、その応力の微分値が極大値となったと判断すると、駆動回路34にアクチュエータ32の停止指令を出力し、葉に向かって移動する圧接部材31の移動を停止し、圧接部材31を葉から離れる方向に移動させる。これにより非破壊または低侵襲で測定できる。なお、制御部38は、応力を微分する代わりに、動ひずみ計36から受け取った圧縮力を微分した微分値の極大値を基点として用いてよい。
【0035】
また、制御部38は、応力検出部により検出された応力が所定の閾値以上となった場合に、植物体の測定部位に向かう圧接部材31の移動を停止し、所定の閾値を基点としてヤング率を算出し、ヤング率にもとづいて植物体の水分保持力値を導出してもよい。これにより算出方法をシンプルにできる。なお、この閾値は、植物体の種類によって変更されてよく、植物体の種類に応じた閾値が保持されていてよい。この閾値は植物体の測定部位の厚さおよび硬さにもとづいて設定されてよい。これにより、測定精度および汎用性が向上する。
【0036】
制御部38は、測定した植物体の水分状態を示す情報を出力部40に送出し、出力部40は表示パネル(不図示)にその水分状態を示す情報を表示してよく、音声として水分状態を示す情報を出力してもよい。なお、出力部40は、測定した水分状態を示す情報を同時に表示パネルに表示してもよい。
【0037】
図7は、実施形態に係る植物体のヤング率の算出方法を説明する図である。図7(a)は、応力検出部が検出した応力と圧接部材31の移動距離との関係を示す。図7(a)の縦軸は応力検出部が検出した応力を示し、横軸は圧接部材31の移動距離を示す。図7(b)は、応力検出部が検出した応力の傾き(微分値)と圧接部材31の移動距離との関係を示す。図7(b)の縦軸は応力検出部が検出した応力の傾きを示し、横軸は圧接部材31の移動距離を示す。
【0038】
図7に示す例は、葉の応力を計測したもので、その葉の厚さは0.3mm〜0.4mm程度である。圧接部材31は一定速度で移動しているため、図7に示す移動距離は時間に比例する。図7(a)の非線形の線42が計測された応力を示す。圧接部材31の移動距離はアクチュエータ32の駆動量に対応する。
【0039】
図7(a)に示す応力が発生し始めた移動距離47が、圧接部材31が変位して葉に当接したところであり、この点をもとに測定対象物の厚さがわかる。たとえば、制御部38が圧接部材31の接触面と基台28との距離を予め保持することで、測定対象物の厚さを算出する。また、圧接部材31に電流が供給されている状態においては、圧接部材31が葉に当接したときに電気抵抗が変化する。この電気抵抗が変化したところを圧縮開始の始点として検出してよく、これにより圧接部材31が葉に当接し始めたときを検出することができる。
【0040】
ヤング率は、以下の式1により算出される。式1および式2は一般的なヤング率と同様の算出方法である。
ヤング率=応力/ひずみ ・・・ 式1
ひずみ=圧縮距離/測定対象物の厚さ ・・・ 式2
圧縮距離は、圧接部材31が葉に当接してから、葉を押し込んだ距離をいう。
【0041】
ところで、金属類であれば、ヤング率を測定する際に線形の応力が得られるため、ヤング率の算出は容易である。しかしながら図7(a)に示すように、検出された応力は金属類と異なり非線形である。そのため検出した応力のうち、算出に用いる測定値の始点と終点とをどのように定めるかによってヤング率が大きく変化しうる。そこで実施形態において、制御部38は、応力検出部により検出された応力を微分し、その微分値の極大値を基点にヤング率を算出する。図7(a)で示す応力を微分すると、図7(b)に示す傾きが算出される。
【0042】
図7(b)では、点50に傾きがゼロとなる最初の極大値がある。図7(a)に示す応力46が傾きの極大値に対応し、応力の傾きが極大となったときを終点として移動距離49が求まる。この極大値を通る応力46の接線44を引いたときの応力がゼロとなる点を始点として移動距離48とする。そしてヤング率は以下の式3により算出される。つまり、応力46の接線44をもとに植物体のヤング率を算出する。
ヤング率=応力46・測定対象物の厚さ/(移動距離49−移動距離48)・・・式3
このように応力の微分値の極大値を基点としてヤング率を算出する。
【0043】
別の算出方法としては、以下の式4に示す方法であってよい。この方法でも、応力の微分値の極大値を基点としてヤング率を算出できる。この場合では、応力が発生し始めた移動距離47が始点として定められる。
ヤング率=応力46・測定対象物の厚さ/(移動距離49−移動距離47)・・・式4
【0044】
この極大値を基点とした応力46を用いて水分保持力値を算出することで、どの植物体に対しても同じ基点をもとに算出できるため、計測したヤング率のばらつきが小さくなり、計測精度が大きく向上する。また、この極大値で葉に向かう押し込みを停止することで、非破壊または低侵襲で計測できる。本発明者の知見によると、この極大値は以下に示す理由によって発生すると考えられる。
【0045】
図8は、植物体の葉の断面図である。本図に示す葉はミカンの葉の一例であって、表皮組織52、柵状組織54、および海綿状組織56を有する。柵状組織54は、1層には限られず、2層の場合もある。海綿状組織56は、細胞の隙間58を多く含む柔組織である。海綿状組織56の隙間58には、空気や水分が含まれており、気孔を通じて外界とつながっている。
【0046】
本発明者は、葉を圧接部材31により押圧し、加えられた圧縮力が徐々に大きくなると、海綿状組織56の隙間58がなくなり、応力の傾きの極大値として表れると認識する。そして、図1〜図4に示した実験においても、応力を微分するとその微分値の極大値が得られた。また、この葉に圧縮力が加わっても、よほど大きな力が加わらない限り、細胞自体が破壊される可能性は少ない。なお、図1〜図4に示した実験において葉の水分情報出力装置100により計測された箇所が、計測後に枯れるなどの症状は見られなかった。
【0047】
図9は、植物体の葉の上面図である。本図を用いて、葉と接触する圧接部材31の大きさについて説明する。葉は、葉脈を有し、その葉脈のうち比較的大きなものとして主脈61および側脈60を有することがある。この主脈61および側脈60の上から圧縮力を加えてヤング率を計測すると、計測値にばらつきが生じうる。そこで、比較的大きな葉脈は避けて計測することが好ましい。なお、葉全体に圧縮力を加えて計測する方法は、大きな駆動源が必要となり、コストがかかる。
【0048】
たとえば、ミカンの葉であれば、側脈60と側脈60の距離62は、5mm〜10mm程度である。なお、圧接部材31は、使用者により葉の測定部位にねらいを定められる。
【0049】
ここで、圧接部材31の接触面の大きさが小さすぎると貫通力などが増し、葉を破壊することがあるため、圧接部材31の接触面の面積は1平方mm以上であることが好ましい。また、圧接部材31の接触面の面積が大きすぎると、主脈61および側脈60を避けることが難しくなるため、圧接部材31の接触面の面積は80平方mm以下であることが好ましい。ミカンの葉であれば、図9の測定部位64に示すように、圧接部材31の接触面の大きさは、3mm〜4mm程度の直径に設定することが好ましく、圧接部材31の接触面の面積は7平方mm〜20平方mmであるとよい。
【0050】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0051】
図6では1ユニットの水分情報出力装置100を示したが、たとえば植物体の水分状態を示す情報を導出する制御部は、ロードセル、アクチュエータおよび駆動回路などの計測ユニットと別体に設けられた制御ユニットであってよい。たとえば計測ユニットは、駆動をつかさどる制御部により制御されることで、ロードセルの検出値(圧縮力を示す情報)およびアクチュエータの駆動量(測定部位の圧縮距離および厚さを示す情報)を電気信号として別体の制御ユニットに送信する。そして、制御ユニットは、計測ユニットから送られた送信データを水分保持力値に換算するための情報を保持し、計測ユニットの送信データをもとにヤング率を算出し、ヤング率をもとに水分保持力値などの植物体の水分状態を示す情報を導出する。そして、制御ユニットは植物体の水分状態を示す情報を計測ユニットに送信し、計測ユニットは植物体の水分状態を示す情報を出力する。これにより計測ユニットをより小型にすることができ、携帯性が向上し、測定時の利便性が向上する。この場合、計測ユニットおよび制御ユニットは送受信部をそれぞれ備え、その送受信は有線であっても無線であってもよい。また、計測ユニットは使用者に測定結果を出力する出力部を備える。制御ユニットは、遠隔地にあるサーバであってよく、このサーバによって測定情報が管理されてよい。
【0052】
また、図6ではロードセル30の圧接部材31がアクチュエータ32によって葉に向かって移動し、葉を押圧する態様を示したが、別の態様では、ひずみゲージが基台に固定され、圧接部材とひずみゲージとが葉を挟んで対向配置されてもよい。つまり、アクチュエータの駆動により圧接部材を葉に向かって移動させて葉を押圧することで、葉をひずみゲージに押圧する。基台に固定されたひずみゲージが葉から加えられた外力を検出することで、応力を検出できる。
【0053】
ロードセル30の圧接部材31は取り外し可能であってもよい。植物体の形状に応じて圧接部材31を取り替えることで、水分情報出力装置100の汎用性が向上する。
【符号の説明】
【0054】
30 ロードセル、 31 圧接部材、 32 アクチュエータ、 34 駆動回路、 36 動ひずみ計、 38 制御部、 40 出力部、 52 表皮組織、 54 柵状組織、 56 海綿状組織、 58 隙間、 80 圧縮距離導出部、 82 応力導出部、 84 ヤング率算出部、 86 水分保持力値導出部、 100 水分情報出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体の測定部位に対して圧接部材を移動して、前記植物体の測定部位を圧接する駆動部と、
前記圧接部材により前記植物体の測定部位が圧縮されるときの前記植物体の測定部位の圧縮力を検出し、該圧縮力に応じた応力を取得する応力取得部と、
前記駆動部を制御し、前記応力取得部により取得した応力と、前記測定部位の圧縮距離と前記測定部位の厚さとの割合との比率にもとづいて前記植物体の水分状態を示す情報を導出する制御部と、
前記植物体の水分状態を示す情報を出力する出力部と、を備えることを特徴とする携帯型の水分情報出力装置。
【請求項2】
植物体の測定部位に対して圧接部材を移動して、前記植物体の測定部位を圧接する駆動部と、
前記圧接部材により前記植物体の測定部位が圧縮されるときの前記植物体の測定部位の圧縮力を検出する圧縮力検出部と、
前記駆動部を制御し、前記植物体の測定部位の圧縮距離および測定部位の厚さを導出する制御部と、
前記圧縮力検出部により検出した圧縮力から取得された応力と、前記測定部位の圧縮距離と前記測定部位の厚さとの割合との比率にもとづいて導出された前記植物体の水分状態を示す情報を出力する出力部と、を備えることを特徴とする携帯型の水分情報出力装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記応力または前記圧縮力の微分値の極大値を基点に前記比率を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の携帯型の水分情報出力装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記応力または前記圧縮力の微分値が極大値となったことを判定すると、前記植物体の測定部位に向かう前記圧接部材の移動を停止することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の携帯型の水分情報出力装置。
【請求項5】
前記圧接部材は、植物と接触する接触面を有し、前記接触面の面積は1平方mm〜80平方mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の携帯型の水分情報出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−191132(P2011−191132A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56307(P2010−56307)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 農業環境工学関連学会2009年合同大会講演要旨集
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】