説明

携帯端末

【課題】 増幅回路の自己発熱によって情報読取可能距離が変化しないように制御するときに送信電力効率が低下し難い携帯端末を実現する。
【解決手段】 パワーアンプ6の近傍に配置されたサーミスタ9の出力は、切替回路17を介して第2A/D変換回路13によって2値化され、その2値化電圧が閾値電圧以上になると、つまりサーミスタ9の温度Tが閾値温度Tth以上になると、ロジック処理回路10の動作点調整回路21への出力が変化し、パワーアンプ6の動作点が高くなり、パワーアンプ6の出力が上昇する。これにより、パワーアンプ6の急な温度上昇による出力電力低下が補正されるため、送信電力効率が低下し難くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波でRFIDタグと通信することにより、RFIDタグに記録されている情報を読取る機能を備えた携帯端末に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来のRFIDタグと通信を行う携帯端末の内部構造を一部省略して示す説明図である。従来の携帯端末50は、変調回路および復調回路などが搭載されたRFモジュール56と、このRFモジュール56と電気的に接続されたマイクロストリップアンテナ55とを備える。RFモジュール56には、変調回路から出力されたRF信号を増幅する増幅回路52が搭載されている。
【0003】
このような構造の携帯端末50では、連続使用時間が長くなると、増幅回路52が自己発熱して出力電力が低下し、RFIDタグの情報を読取ることが可能な距離(以下、情報読取可能距離という)が短くなるため、読取操作フィーリングが変わってしまうという問題があった。
そこで、増幅回路の出力をモニターして出力電力が一定になるように制御し、情報読取可能距離が変化しないようにすることにより、読取操作フィーリングが変わらないようにしようとする携帯端末が提案されている。
【0004】
図10は、その携帯端末の電気的構成を一部省略して示す説明図である。この携帯端末60は、送信出力を制御するRF制御回路61と、増幅回路52と、増幅回路52の出力を分配する分配器62と、増幅回路52から分配器62を通じて出力されたRF信号を電波として出力するアンテナ回路63とを備える。
【0005】
増幅回路52の出力は、分配器62によって分配され、RF制御回路61にフィードバックされる。そして、RF制御回路61は、フィードバックされた出力の振幅または電力を検出し、その検出結果に基いて、増幅回路52の出力が一定になるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−279201号公報(第14段落、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図10に示した従来の携帯端末60は、増幅回路52の出力を分配器62によって分配するため、その分配した分、増幅回路52からアンテナ回路63への出力が低下するので、送信電力効率が低下するという問題がある。
【0008】
そこでこの発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、増幅回路の自己発熱によって情報読取可能距離が変化しないように制御するときに送信電力効率が低下し難い携帯端末を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、この発明の第1の特徴は、変調回路(15)の出力を増幅する増幅回路(6)と、この増幅回路の出力を電波として送信するアンテナ(4)とを備え、前記電波でRFIDタグと通信することにより、RFIDタグに記録されている情報を読取る機能を備えた携帯端末において、前記増幅回路の温度に対応する信号を出力する温度検出素子(9)と、前記温度検出素子から出力された信号に基いて前記増幅回路の温度を測定する温度測定部(10a)と、前記温度測定部により測定された温度(T)が閾値(Tth)以上であるときに前記増幅回路の出力を上昇させる制御回路(21)と、を備えた携帯端末(1)としたことにある。
【0010】
この発明の第2の特徴は、前述した第1の特徴において、前記制御回路(21)は、前記増幅回路(6)の動作点を変えることにより、前記増幅回路の出力を上昇させる機能を少なくとも有することにある。
【0011】
この発明の第3の特徴は、前述した第1または第2の特徴において、前記変調回路(15)は、振幅変調回路であり、前記制御回路は、前記変調回路に入力される変調信号を制御することにより、前記変調回路の出力レベルを大きくする機能を少なくとも有することにある。
【0012】
この発明の第4の特徴は、前述した第1ないし第3の特徴のいずれか1つにおいて、前記制御回路は、前記増幅回路(6)の入力レベルを大きくすることにより、前記増幅回路の出力を上昇させる機能を少なくとも有することにある。
【0013】
この発明の第5の特徴は、前述した第1ないし第4の特徴のいずれか1つにおいて、前記温度測定部(10a)は、前記電波でRFIDタグと通信を開始する前に前記増幅回路(6)の温度を測定することにある。
【0014】
この発明の第6の特徴は、前述した第5の特徴において、前記温度測定部(10a)は、キャリアセンスを行う処理ルーチンにおいて前記増幅回路(6)の温度を測定することにある。ここで、キャリアセンスとは、当該携帯端末において使用すべき周波数チャネルが未使用であるか否かを確認する処理のことである。
【0015】
この発明の第7の特徴は、前述した第1ないし第6の特徴のいずれか1つにおいて、前記RFIDタグから受信した電波を復調する復調回路(19,20)と、前記復調回路の出力をA/D変換するA/D変換回路(12,13)と、を備えており、前記温度測定部(10a)は、前記温度検出素子(9)から出力された信号を前記A/D変換回路を用いてA/D変換し、その変換されたデジタル値に基づいて前記増幅回路(6)の温度を測定することにある。
【0016】
この発明の第8の特徴は、前述した第7の特徴において、前記復調回路(19,20)は、前記RFIDタグから受信した電波をI復調するためのI復調回路(19)と、前記RFIDタグから受信した電波をQ復調するためのQ復調回路(20)とを備えており、前記A/D変換回路(12,13)は、前記I復調回路の出力をA/D変換する第1のA/D変換回路(12)と、前記Q復調回路の出力をA/D変換する第2のA/D変換回路(13)と、を備えており、前記温度測定部(10a)は、前記温度検出素子(9)から出力された信号を前記第1および第2のA/D変換回路の一方を用いてA/D変換し、その変換されたデジタル値に基づいて前記増幅回路(6)の温度を測定することにある。
【0017】
この発明の第9の特徴は、前述した第1ないし第8の特徴のいずれか1つにおいて、前記アンテナ(4)はマイクロストリップアンテナであり、前記増幅回路(6)から発生した熱を前記マイクロストリップアンテナに伝える構造としたことにある。
【0018】
この発明の第10の特徴は、前述した第9の特徴において、前記マイクロストリップアンテナ(4)は、セラミックスにより形成された誘電体(4a)と、前記誘電体の表面に形成された導電パターン(4b)と、前記誘電体の裏面に一体に配置された回路基板(5)と、を備えており、前記増幅回路(6)が前記回路基板に配置されていることにある。
【0019】
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の第1の特徴によれば、温度検出素子が増幅回路の温度に対応する信号を出力すると、その信号に基いて温度測定回路が増幅回路の温度を測定し、その測定された温度が閾値以上であると、制御回路が増幅回路の出力を上昇させ、温度上昇による出力低下を補正することができる。
したがって、増幅回路の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。
【0021】
この発明の第2の特徴によれば、増幅回路の動作点を変えることにより、増幅回路の出力を上昇させ、温度上昇による出力低下を補正することができる。
したがって、増幅回路の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。
【0022】
この発明の第3の特徴によれば、変調回路に入力される変調信号を制御することにより、変調回路の出力レベルを大きくすることにより、増幅回路の出力を上昇させ、温度上昇による出力低下を補正することができる。
したがって、増幅回路の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。
【0023】
この発明の第4の特徴によれば、増幅回路の入力レベルを大きくすることにより、増幅回路の出力を上昇させ、温度上昇による出力低下を補正することができる。
したがって、増幅回路の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。
【0024】
この発明の第5の特徴によれば、温度測定回路は、電波でRFIDタグと通信を開始する前に増幅回路の温度を測定するため、送信電力が補正された状態でRFIDタグと通信を開始することができる。
【0025】
たとえば、この発明の第6の特徴のように、キャリアセンスを行う処理ルーチンにおいて増幅回路の温度を測定するようにすれば、送信電力が補正された状態でRFIDタグと通信を開始することができる。
したがって、情報読取可能距離の変化を小さくすることができるため、読取操作フィーリングが変わり難い。
【0026】
特に、携帯端末を連続使用する場合でもキャリアセンスは一定時間毎に行うため、キャリアセンスを行う毎に増幅回路の温度を測定することができる。
したがって、携帯端末を連続使用する場合でも、増幅回路の急な温度上昇を緩和することができるため、送信電力効率が低下し難く、情報読取可能距離が短くなり難い。
【0027】
この発明の第7の特徴によれば、温度検出素子から出力された信号を、復調回路の出力をA/D変換するA/D変換回路を用いてA/D変換し、その変換されたデジタル値に基づいて増幅回路の温度を測定することができるため、温度測定用の専用のA/D変換回路を設ける必要がないので、温度測定に必要な製造コストを抑えることができる。
【0028】
たとえば、この発明の第8の特徴のように、I復調回路の出力をA/D変換する第1のA/D変換回路と、Q復調回路の出力をA/D変換する第2のA/D変換回路とを備える構成の場合に、第1および第2のA/D変換回路の一方を用いることができる。
特に、他の携帯端末から送信されているキャリア(搬送波)の振幅の大きさに基づいて、キャリアセンスを行う場合は、I復調回路およびQ復調回路の一方によって復調された信号の振幅の大きさを測定すれば良いため、キャリアセンスにおいて使用しない方のA/D変換回路を用いて増幅回路の温度を測定することができる。
【0029】
この発明の第9の特徴によれば、増幅回路から発生した熱をマイクロストリップアンテナに伝えることができるため、増幅回路の急な温度上昇を緩和することができる。
したがって、送信電力効率が低下し難く、情報読取可能距離が短くなり難いため、読取操作フィーリングが変わり難い。
【0030】
特に、この発明の第10の特徴によれば、増幅回路から発生した熱をセラミックスにより形成された誘電体に伝えることができるため、増幅回路から発生した熱を効率良く放熱することができるので、増幅回路の急な温度上昇を効果的に緩和することができる。
したがって、送信電力効率がより一層低下し難く、情報読取可能距離がより一層変化し難いため、読取操作フィーリングがより一層変わり難い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係る携帯端末の内部構造を一部省略して示す説明図である。
【図2】マイクロストリップアンテナ4の表面を斜め上方から見た拡大斜視図である。
【図3】図2の裏面図である。
【図4】携帯端末1の主な電気的構成のうち光学情報の読取りに関係する部分を省略して示す説明図である。
【図5】動作点調整回路21およびパワーアンプ6の回路図である。
【図6】ロジック処理回路10のCPUが実行するキャリア制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】他の実施形態に係る携帯端末の主な電気的構成を示す説明図である。
【図8】他の実施形態に係る携帯端末に備えられたマイクロストリップアンテナの説明図である。
【図9】従来の携帯端末の内部構造を一部省略して示す説明図である。
【図10】従来の携帯端末の電気的構成を一部省略して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明の一実施形態について図を参照して説明する。図1は、この実施形態に係る携帯端末の内部構造を一部省略して示す説明図である。
【0033】
[携帯端末の主要構成]
図1に示すように、携帯端末1は、ケース2を備える。そのケース2の表面2aには、キー操作部、読取結果などを表示する表示部など(図示省略)が備えられており、ケース2の裏面2bには、トリガースイッチ(図示省略)などが設けられている。ケース2の内部には、RFIDタグと通信を行うためのマイクロストリップアンテナ4が内蔵されている。マイクロストリップアンテナ4の裏面には、給電回路基板5が一体に設けられており、その給電回路基板5の裏面には、RF信号を増幅するパワーアンプ6と、このパワーアンプ6の温度を検出するためのサーミスタ9と、サーキュレータ8とが設けられている。
【0034】
このように、回路動作によって自己発熱するパワーアンプ6を給電回路基板5の裏面に設けることにより、パワーアンプ6から発生した熱を給電回路基板5からマイクロストリップアンテナ4に伝え、そのマイクロストリップアンテナ4から放熱することができる。これにより、パワーアンプ6の急な温度上昇を緩和することができるため、急な温度上昇によるパワーアンプ6の出力電力効率が低下し難くすることができる。
給電回路基板5の下方には、変調回路および復調回路などが搭載されたRFモジュール22が空間を置いて配置されている。また、ケース2の内部には、バーコードや2次元コードなどの光学的情報を読取るための光学情報読取モジュール30が内蔵されている。
【0035】
[マイクロストリップアンテナの主要構成]
図2は、マイクロストリップアンテナ4の表面を斜め上方から見た拡大斜視図であり、図3は、図2の裏面図である。
【0036】
図2に示すように、マイクロストリップアンテナ4は、誘電体4aと、この誘電体4aの表面に形成されたアンテナエレメント4bと、給電回路基板5の基板表面に形成されたアンテナグランド部4cとを備える。アンテナエレメント4bには、給電点7が形成されている。
【0037】
図3に示すように、給電回路基板5の裏面には、パワーアンプ6と、このパワーアンプ6から出力されたRF信号が受信回路側へ逆流しないように制御するサーキュレータ8とが設けられている。また、パワーアンプ6の近傍であって、パワーアンプ6から発生した熱が伝熱し易い領域(たとえば、パワーアンプ6の端部から10mm以内)には、サーミスタ9が設けられている。
【0038】
このように構成することにより、パワーアンプ6から発生した熱は、誘電体4aを介して周囲に放熱されるため、パワーアンプ6の急な温度上昇が緩和される。また、パワーアンプ6の温度上昇が緩やかであるため、パワーアンプ6から発生した熱は、サーミスタ9に伝熱し、サーミスタ9の抵抗値も緩やかに変化する。このため、サーミスタ9は、パワーアンプ6の温度上昇に対応した信号を出力するため、サーミスタ9の温度、つまり、パワーアンプ6の温度を略正確に測定できる。さらに、パワーアンプ6からサーキュレータ8を介して給電点7までの線路長を最短にすることができるため、パワーアンプ6の出力電力を最小の損失でアンテナエレメント4bに供給することができる。
【0039】
この実施形態では、マイクロストリップアンテナ4は、正方形に形成されており、直線偏波を送信する。また、誘電体4aは、セラミックスや合成樹脂(たとえば、エラストマーなど)などの誘電性材料により形成されている。アンテナエレメント4bおよびアンテナグランド部4cは、それぞれ銀、アルミニウム、銅などを主成分とする導電性材料により形成されている。
【0040】
[携帯端末の電気的構成]
図4は、携帯端末1の主な電気的構成のうち光学情報の読取りに関係する部分を省略して示す説明図である。同図に示すように、携帯端末1は、ロジック処理回路10と、D/A変換回路23と、バンドパスフィルタ回路(BPF)11と、発振回路14と、変調回路15と、パワーアンプ6と、動作点調整回路21と、サーキュレータ8と、サーミスタ9と、I復調回路19と、Q復調回路20と、可変バンドパスフィルタ回路16と、バンドパスフィルタ回路18と、第1A/D変換回路12と、第2A/D変換回路13と、切替回路17とを備える。
【0041】
ロジック処理回路10は、CPU、ROMおよびRAMなど(図示省略)から構成されており、操作部から与えられる操作信号に応じて携帯端末1の動作を制御する。また、ロジック処理回路10は、送信データを作成してD/A変換回路23へ出力する処理、第1および第2A/D変換回路12,13から入力したデータを復号化する処理、第2A/D変換回路13から入力したデータに基づいてサーミスタ9の温度を測温する処理、その測温結果に基いてパワーアンプ6の出力電力を調整する処理などを実行する。
【0042】
D/A変換回路23は、ロジック処理回路10から出力された送信データをアナログの変調信号に変換し、その変調信号をバンドパスフィルタ回路11へ出力する。発振回路14は発振信号を搬送波(キャリア)信号として変調回路15へ供給する。変調回路15は、バンドパスフィルタ回路11から出力された変調信号により、発振回路14から供給された搬送波信号をASK(Amplitude Shift Keying)変調する。変調回路15から出力されたRF信号は、パワーアンプ6によって所定の増幅率で増幅され、サーキュレータ8を通過し、無線信号としてマイクロストリップアンテナ4から送信される。サーキュレータ8は、パワーアンプ6から出力されたRF信号が受信側へ逆流するのを阻止する。
【0043】
また、マイクロストリップアンテナ4によって受信された受信信号は、I復調回路19およびQ復調回路20において、位相が互いに90度異なる搬送波信号を用いて復調される。つまり、RFIDタグへ送信した信号の搬送波信号と、RFIDタグから受信した信号の搬送波信号との位相差により、RFIDタグから受信した信号を検出できなくなるのを回避するため、搬送波信号とその位相を90°ずらした信号とを用いて受信信号をIQ検波する。
【0044】
I復調回路19から出力されたI信号は、可変バンドパスフィルタ回路16を通って第1A/D変換回路12において2値化される。また、Q復調回路20から出力されたQ信号は、バンドパスフィルタ回路18を通って第2A/D変換回路13において2値化される。第1A/D変換回路12において2値化された受信データIおよび第2A/D変換回路13において2値化された受信データQは、ロジック処理回路10に入力され、ロジック処理回路10は、受信データI,Qの内、正しく復元された方のデータを採用する。
【0045】
サーミスタ9は、パワーアンプ6の温度に対応して自身の抵抗値を変化させる。つまり、サーミスタ9は、パワーアンプ6の温度に対応する信号を出力する。この実施形態では、サーミスタ9は、温度が上昇すると抵抗値が小さくなるNTC(negative temperature coefficient) サーミスタである。
【0046】
サーミスタ9と電気的に接続された切替回路17は、ロジック処理回路10からの指令により、入力をバンドパスフィルタ回路18からサーミスタ9に切替える。つまり、切替回路17は、サーミスタ9の出力が第2A/D変換回路13に入力されるように制御する。そして、第2A/D変換回路13は、サーミスタ9の出力電圧を2値化し、それをロジック処理回路10へ出力する。ロジック処理回路10に搭載される温度測定部10aは、入力した2値化電圧を予めROMなどに記憶されている閾値電圧と比較し、その比較結果に基いて、サーミスタ9の温度が閾値温度以上になったか否かを判定する。
【0047】
また、キャリアセンスを行うときは、I復調された受信信号の振幅、つまり、第1A/D変換回路12から出力される受信データIの大きさに基づいてキャリアの有無を判定する。また、後で詳述するが、このキャリアセンスを行うときに、第2A/D変換回路13を用いてサーミスタ9の出力を2値化し、その2値化データに基づいてサーミスタ9の温度を測温する。
このように、受信信号の復調に用いるA/D変換回路を兼用することにより、サーミスタ9の出力電圧をA/D変換するための専用のA/D変換回路が不要となるため、サーミスタ9の温度を測温するために必要な製造コストを抑えることができる。
【0048】
ロジック処理回路10は、前記の2値化電圧が閾値電圧以上、つまり、サーミスタ9の温度が閾値温度以上であると判定すると、動作点調整回路21を動作させる。動作点調整回路21は、パワーアンプ6の出力電力が上昇するようにパワーアンプ6の動作点を調整する。つまり、パワーアンプ6の温度が閾値温度以上になると、サーミスタ9の出力電圧が閾値電圧に達し、動作点調整回路21がパワーアンプ6の動作点を調整し、パワーアンプ6の出力電力が上昇する。これにより、パワーアンプ6の急な温度上昇による出力電力低下が補正され、RFIDタグの情報読取可能距離が短くならないようにすることができる。また、従来のようにパワーアンプの出力を分配してモニターする必要がないため、送信電力効率が低下し難い。
【0049】
(動作点調整回路)
図5は、動作点調整回路21およびパワーアンプ6の回路図である。パワーアンプ6は、増幅素子としてFETトランジスタTr2を備えており、トランジスタTr2のゲートには、変調回路15から入力端子6bを介して出力されるRF信号が与えられる。動作点調整回路21は、エミッタ接地のNPN型バイポーラトランジスタTr1と、このトランジスタTr1のコレクタ電圧を分圧する抵抗R1〜R3とを備える。抵抗R1は、トランジスタTr1のコレクタに直列接続されており、抵抗R2,R3は、電源およびグランド間に直列接続されており、抵抗R1は、抵抗R2,R3の接続点と接続されている。
【0050】
トランジスタTr1の出力は、抵抗R1〜R3を介してバイアス端子6aに印加される。トランジスタTr2の動作点であるゲート電圧は、バイアス端子6aに印加される電圧に依存する。
パワーアンプ6の温度が閾値温度以上になり、サーミスタ9の出力電圧が閾値電圧に達すると、ロジック処理回路10が動作点調整回路21に出力している制御信号をハイレベルからローレベルに変化させる。
【0051】
これにより、動作点調整回路21のトランジスタTr1がOFFし、バイアス端子6aの印加電圧が上昇し、パワーアンプ6の出力端子6dの出力電力が上昇する。これにより、パワーアンプ6の自己発熱による出力電力低下が補正されるため、情報読取可能距離が短くなり難い。
また、パワーアンプ6の温度が閾値温度未満であるときは、ロジック処理回路10から出力される制御信号は、ハイレベルとなるため、動作点調整回路21のトランジスタTr1はON状態を維持するので、トランジスタTr2のゲート電圧が低くなり、パワーアンプ6の出力電力が低下前の状態を維持する。
【0052】
なお、トランジスタTr1がONしたときのバイアス端子6aの設定電圧は、パワーアンプ6の出力歪が許容できる範囲で、かつ、出力電力に対してトランジスタTr2の増幅効率が良くなるレベルに設定する。
【0053】
[キャリア制御処理]
ロジック処理回路10のCPUは、キャリアセンスを行うときに、パワーアンプ6の温度測定を行い、その測定結果に応じてパワーアンプ6の出力を制御する。以下、その制御の流れについて、それを示す図6の示すフローチャートを参照して説明する。
【0054】
携帯端末1のトリガスイッチがONすると、ロジック処理回路10のCPUは、キャリアセンスを開始する(ステップ(以下、Sと略す)1)。続いて、CPUは、受信信号のキャリアレベルを計測するとともにサーミスタ9の温度Tを測温する(S2)。続いて、先のS2において検出したキャリアレベルが閾値レベル以上であるか否かに基づいて、他の携帯端末が使用しているキャリアを検出したか否かを判定する(S3)。
【0055】
ここで、他の携帯端末が使用しているキャリアを検出したと判定した場合は(S3:Yes)、周波数チャネル(ch)を変更し(S4)、再度、S2,S3を実行する。つまり、空きチャネルが見つかるまでS2,S3を実行する。そして、他の携帯端末が使用しているキャリアが検出されないと判定すると(S3:No)、先のS2において測温したサーミスタ9の温度Tが閾値温度Tth以上か否かを判定する(S5)。
【0056】
ここで、サーミスタ9の温度Tが閾値温度Tth以上であると判定すると(S5:Yes)、前述したように動作点調整回路21へ出力している制御信号をハイレベルからローレベルに変化させ、パワーアンプ6の出力電力を大きくなるように調整する(S6)。続いて、キャリアをONしている時間(たとえば、4秒)を計測するためのタイマtaをスタートさせ(S7)、キャリアをON、つまりマイクロストリップアンテナ4から送信信号を送信する(S8)。
【0057】
続いて、トリガスイッチがONのままであるか否かを判定し(S9)、ONのままであると判定した場合は(S9:Yes)、タイマtaの計測時間taが閾値時間tath以上であるか否かを判定する(S10)。ここで、計測時間taが閾値時間tath以上であると判定した場合は(S10:Yes)、キャリアをOFFし(S11)、再度、キャリアセンスを開始する(S1)。また、S9において、トリガスイッチがONのままではないと判定した場合は(S9:No)、キャリアをOFFする(S12)。
【0058】
上述したように、キャリアセンスを実行する毎にサーミスタ9の温度Tを測温し、測温した温度Tが閾値温度Tth以上である場合にパワーアンプ6の出力電力を大きくなるように補正制御するため、携帯端末1を長時間使用してもパワーアンプ6の急な温度上昇による出力電力低下を抑制することができる。
したがって、操作者(オペレータ)の期待する情報読取可能距離を維持することができる。
【0059】
[実施形態の効果]
(1)以上説明したように、上述した実施形態の携帯端末1を用いれば、サーミスタ9によってパワーアンプ6の温度を測温し、その測温した温度が閾値温度以上になったときにパワーアンプ6の動作点を変えることにより、パワーアンプ6の出力を上昇させ、温度上昇による出力低下を補正することができる。
したがって、パワーアンプ6の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。
【0060】
(2)しかも、キャリアセンスを行う処理ルーチンにおいてパワーアンプ6の温度を測定するため、送信電力効率が補正された状態でRFIDタグと通信を開始することができる。
したがって、情報読取可能距離の変化を小さくすることができるため、読取操作フィーリングが変わり難い。
【0061】
特に、トリガスイッチをONしたまま携帯端末1を連続使用する場合でも、キャリアセンスを行う毎にパワーアンプ6の温度を測定することができる。
したがって、携帯端末1を連続使用する場合でも、パワーアンプ6の急な温度上昇を緩和することができるため、送信電力効率が低下し難く、情報読取可能距離が短くなり難い。
【0062】
(3)また、受信信号の復調に用いる第1および第2のA/D変換回路12,13のうち、キャリアセンスのときに使用しない方の第2のA/D変換回路13を用いてサーミスタ9の出力をA/D変換することができるため、パワーアンプ6の温度測定に必要な製造コストを抑えることができる。
【0063】
(4)さらに、パワーアンプ6から発生した熱をマイクロストリップアンテナ4に伝えることができるため、パワーアンプ6の急な温度上昇を緩和することができる。
特に、マイクロストリップアンテナ4を構成する誘電体4aがセラミックスにより形成されているため、パワーアンプ6から発生した熱を効率良く放熱することができるので、パワーアンプ6の急な温度上昇を効果的に緩和することができる。
したがって、送信電力効率が低下し難く、情報読取可能距離が短くなり難いため、読取操作フィーリングが変わり難い。
【0064】
〈他の実施形態〉
(1)図7は、他の実施形態に係る携帯端末の主な電気的構成を示す説明図である。変調回路15の出力側と、パワーアンプ6の入力側との間に可変減衰器24が電気的に接続されている。また、可変減衰器24は、ロジック処理回路10と電気的に接続されている。サミースタ9の温度Tが閾値温度Tth以上になると、ロジック処理回路10が可変減衰器24へ制御信号を出力し、可変減衰器24が変調回路15の出力を上昇させ、パワーアンプ6の入力レベルが大きくなり、パワーアンプ6の出力電力が上昇する。
この構成を用いた場合も、パワーアンプ6の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。なお、この構成を用いた携帯端末が請求項4に係る発明に対応する。
【0065】
(2)動作点調整回路21を設ける代わりに、バンドパスフィルタ回路11が変調回路15へ出力する変調信号のレベルを大きくすることにより、変調回路15の出力電力レベルを大きくし、パワーアンプ6の出力電力を上昇させることもできる。
この構成を用いた場合も、パワーアンプ6の出力を分配しないため、送信電力効率が低下し難い。なお、この構成を用いた携帯端末が請求項3に係る発明に対応する。
【0066】
たとえば、D/A変換回路23へ出力する送信データのレベルとして複数のレベルをロジック処理回路10が選択可能に記憶し、サーミスタ9の温度Tが閾値温度Tth以上になったときに高いレベルを選択することにより、送信データのレベルを高くする。
【0067】
あるいは、ロジック処理回路10からの指令により、D/A変換の出力レベルが高くなるようにD/A変換回路23を構成する。たとえば、D/A変換回路の出力段に切替可能な複数の負荷(たとえば、抵抗素子など)を選択可能に接続し、サーミスタ9の温度Tが閾値温度Tth以上になったときに、D/A変換回路の出力が高くなるような負荷を選択するように構成する。
【0068】
(3)図8は、他の実施形態に係る携帯端末に備えられたマイクロストリップアンテナの説明図である。給電回路基板5の裏面に設けられたパワーアンプ6と、サーキュレータ8と、給電点7とが、シールドケース40によって覆われている。シールドケース40の外部の近傍には、サーミスタ9が設けられている。シールドケース40は、電磁シールド性能および伝熱性能を兼ね備えた材料(たとえば、銅、アルミニウムなどの金属)により形成されており、、電磁シールドの作用と、パワーアンプ6から発生した熱をサーミスタ9に伝熱させる作用とがある。この構成を用いれば、サーミスタ9を必ずしもパワーアンプ6の近傍に配置する必要がなくなるため、サーミスタ9の配置の自由度を大きくすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1・・携帯端末、4・・マイクロストリップアンテナ、5・・給電回路基板、
6・・パワーアンプ、7・・給電点、8・・サーキュレータ、9・・サーミスタ、
10a・・温度測定部、21・・動作点調整回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調回路の出力を増幅する増幅回路と、この増幅回路の出力を電波として送信するアンテナとを備え、前記電波でRFIDタグと通信することにより、RFIDタグに記録されている情報を読取る機能を備えた携帯端末において、
前記増幅回路の温度に対応する信号を出力する温度検出素子と、
前記温度検出素子から出力された信号に基いて前記増幅回路の温度を測定する温度測定部と、
前記温度測定部により測定された温度が閾値以上であるときに前記増幅回路の出力を上昇させる制御回路と、
を備えたことを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記制御回路は、
前記増幅回路の動作点を変えることにより、前記増幅回路の出力を上昇させる機能を少なくとも有することを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記変調回路は、振幅変調回路であり、
前記制御回路は、
前記変調回路に入力される変調信号を制御することにより、前記変調回路の出力レベルを大きくする機能を少なくとも有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記制御回路は、
前記増幅回路の入力レベルを大きくすることにより、前記増幅回路の出力を上昇させる機能を少なくとも有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の携帯端末。
【請求項5】
前記温度測定部は、
前記電波でRFIDタグと通信を開始する前に前記増幅回路の温度を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の携帯端末。
【請求項6】
前記温度測定部は、
キャリアセンスを行う処理ルーチンにおいて前記増幅回路の温度を測定することを特徴とする請求項5に記載の携帯端末。
【請求項7】
前記RFIDタグから受信した電波を復調する復調回路と、
前記復調回路の出力をA/D変換するA/D変換回路と、を備えており、
前記温度測定部は、
前記温度検出素子から出力された信号を前記A/D変換回路を用いてA/D変換し、その変換されたデジタル値に基づいて前記増幅回路の温度を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の携帯端末。
【請求項8】
前記復調回路は、
前記RFIDタグから受信した電波をI復調するためのI復調回路と、前記RFIDタグから受信した電波をQ復調するためのQ復調回路とを備えており、
前記A/D変換回路は、
前記I復調回路の出力をA/D変換する第1のA/D変換回路と、
前記Q復調回路の出力をA/D変換する第2のA/D変換回路と、を備えており、
前記温度測定部は、
前記温度検出素子から出力された信号を前記第1および第2のA/D変換回路の一方を用いてA/D変換し、その変換されたデジタル値に基づいて前記増幅回路の温度を測定することを特徴とする請求項7に記載の携帯端末。
【請求項9】
前記アンテナはマイクロストリップアンテナであり、
前記増幅回路から発生した熱を前記マイクロストリップアンテナに伝える構造としたことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の携帯端末。
【請求項10】
前記マイクロストリップアンテナは、
セラミックスにより形成された誘電体と、
前記誘電体の表面に形成された導電パターンと、
前記誘電体の裏面に一体に配置された回路基板と、を備えており、
前記増幅回路が前記回路基板に配置されていることを特徴とする請求項9に記載の携帯端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−101086(P2011−101086A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252716(P2009−252716)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】