説明

摂食抑制剤

【課題】
摂食抑制組成物の開発。
【解決手段】
エコールを有効成分として含有する摂食抑制用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摂食抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飽食の時代である現代において、肥満やそれに伴う容姿の悪化、精神的ストレスの上昇、社会的評価や自己評価の低下等は、肥満者のQOLを低下させる原因となっている。また、疫学調査の結果によると、肥満者は本人のみならず、同行する人の魅力の他者による評価まで低下させるということが明らかとなっている。肥満の第一の原因はエネルギーの過剰摂取であり、特に肥満者においては摂食量を適切にコントロールすることが難しいことが潜在的な原因として挙げられる。
肥満やそれに伴う社会的、精神的な諸問題に対しては肥満の改善が必要であり、これには食事由来のエネルギー摂取を低下させる食事療法が第一に選択されるが、摂食量を適切にコントロールすることが難しく、いわゆるリバウンドが起こるなど効果は十分とはいえない。この現状を解決するために、摂食を抑制するような薬剤が開発されている。食欲抑制効果を持つ薬剤としては、覚醒剤として使用されるアンフェタミン、メタンフェタミンの作用が知られているが、興奮作用や依存性が発現するため臨床的な使用には適さない。また、同様の効果を持つものとして、向精神薬フェニルアルキルアミン誘導体に食欲抑制作用があることを見出した発明(特許文献1:特開2000-143506号公報)、N−ピペロニル−1,2,3,4−テトラヒドロベンゾ〔b〕チエノ〔2,3−C〕ピリジン−3−カルボアミドを有効成分とする食欲抑制剤(特許文献2:特開平7−145054号公報)、ヒラタケの史実体から分離される成分を活用した食欲抑制剤(特許文献3:特許2965284号公報)などがある。しかし、これらの効果はいまだ十分ではない。
【0003】
【特許文献1】特開2000-143506号公報
【特許文献2】特開平7−145054号公報
【特許文献3】特許2965284号公報
【特許文献4】特開2005−232074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、摂食抑制作用を有する薬剤を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、イソフラバンの一種エコールを経口摂取した場合に効果的に摂食量を低下させることを見出したことで本発明を完成させた。
【0006】
本発明の主な構成は次のとおりである。
(1)エコールを有効成分として含有することを特徴とする摂食抑制剤。
(2)エコールが(+)エコール及び/又は(−)エコールであることを特徴とする請求項1記載の摂食抑制剤。
(3)経口もしくは経腸で投与剤であることを特徴とする(1)又は(2)記載の摂食抑制剤。
(4)エコールを固形物重量あたり0.015重量%以上含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載された摂食抑制剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載された摂食抑制剤を添加した動物用飼料。
【発明の効果】
【0007】
エコールを投与することにより摂食量が低下することが確認できた。従って、本発明は、摂食抑制作用を有し、摂食抑制剤を提供できる。また、経口摂取の一形態として、ヒトおよび動物用医薬品、もしくは医薬部外品、食品添加剤、動物飼料添加剤として利用できる。また、経腸摂取の一形態として、経腸栄養剤として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
エコールは、イソフラバンの一種であり、化学式1に示される化合物である。このものは、イソフラボンの一種であるダイゼインをヒトが摂取した場合に、腸内細菌により産生され、ヒトに利用されることが知られている。しかしながら、ダイゼインまたはその配糖体等の誘導体を摂取した場合に血中にエコールが検出される、いわゆるエコール産生者は、日本人の約50%であり、エコール非産生者においてはダイゼインをまたはその誘導体を摂取してもエコールが産生されることはない。すなわち、外部からエコールを摂取することが唯一のエコール摂取手段となる。
従来、特定のエコール含量において骨粗鬆症の予防及び/又は治療剤として有効であることが知られている(特許文献4:特開2005−232074号公報)。しかしながら、エコールを経口摂取した場合に、摂食抑制効果を持つことは知られていなかった。
【0009】
【化1】


(化学式1)
【0010】
エコールは光学活性を有する化合物であるが、本発明では (+)エコール、(−)エコール、ラセミ体、およびこれらの混合物のいずれも使用することができる。
また、本発明で使用するエコールの由来は特に限定するものではなく、一般的に使用される化学合成法、酵素合成法、微生物合成法、天然物等よりの抽出等によるものをすべて使用できる。化学合成を用いた方法としては、例えば次のような方法で製造することが可能である。4-ヒドロキシフェニル乳酸と2,4-ヒドロキシベンズアルデヒドとのアルドール縮合体を還元し、得られたジオールのベンジル位のみを位置選択的に加水分解を行い、これを分子内閉環反応することで(±)エコールを合成する。また、4-ヒドロキシフェニル乳酸に対してエヴァンスの不斉誘導因子を導入した不斉アルドール反応を行うことで(+)エコールと(−)エコールを合成する。また、微生物合成法を用いた方法としては、特表2006-504409に示される方法がある。すなわち、(−)エコールに変換可能なイソフラボンを含む第一の組成物を(−)エコールに変換できる微生物で十分な時間に培養し、微生物を選択的に不活性化することで(−)エコールを製造することができる。
【0011】
本発明は、エコールを有効成分とする摂食抑制剤である。また、エコールは、(+)エコール、(−)エコールが特に有効である。エコールは、固形物重量あたり0.015重量%以上を有効成分として含有することが好ましい。
本発明の摂食抑制剤は、ヒト、および動物用医薬品、医薬部外品、食品添加剤とすることができる。あるいは、動物用飼料用添加剤とすることができる。
医薬品として利用する場合は、例えば、ヒト又はペット、家畜動物用の経口摂取を目的とした医薬品、もしくは経腸栄養剤など、腸管を中心とした消化管より吸収可能な形態であれば制限はない。例えば、本発明の投与経路としては、錠剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、経腸栄養剤に含有させる等の形態に加工して投与することが考えられるが、この投与方法に限定されるものではない。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
その使用量は症状、年令、体重、剤形によって異なるが、通常は、成人に対して、経口投与の場合に1日当たり30-50mgを投与するのが望ましい。また、有効成分の含有量は、特に限定されないが、エコールを固形物重量あたり0.015重量%以上有効成分として含有することが好ましい。
【実施例1】
【0012】
以下の試験によりその作用効果を確認したものであり、実施例を示す。実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
日本エスエルシー株式会社より入手した24匹の6週齢メスSDラットを室温23±1℃、12時間の明暗サイクル(明期3:00-15:00)の環境で、ステンレス製ゲージ内で個別飼育した。
実験動物搬入後、2日間市販の固形飼料を与えて飼育し、飼育環境に馴化させた後、ネンブタール麻酔(Pentobarbital Sodium Salt; Abbot Laboratories, North Chicago, USA)下において卵巣摘出手術(OVX)を施し、術後は市販の固形飼料を5日間与えた。充分に回復したのを確認後、6匹ずつコントロール飼料(C群)、(+)エコール飼料(E+群)、(−)エコール(E−群)飼料を与える3群に分けた。飼料および飲料水は自由摂取させ、4週間飼育した。解剖は飼育28日目に行った。飼育期間中摂食量と体重を毎日測定した。
表1に飼料組成を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
各飼料を摂取したOVXラットの摂食量を図1に示す。
図1に示すように、(+)エコール、および(−)エコールの摂取は効果的に摂食量を低下させた。
【0015】
各飼料を摂取したOVXラットの体重増加量を図2に示す。
図2に示すように、(+)エコール、および(−)エコールの摂取は効果的に体重増加を抑制した。
【実施例2】
【0016】
日本エスエルシー株式会社より入手した24匹の6週齢メスSDラットを室温23±1℃、12時間の明暗サイクル(明期3:00-15:00)の環境で、ステンレス製ゲージ内で個別飼育した。実験動物搬入後、7日間市販の固形飼料を与えて飼育し、飼育環境に馴化させた後、6匹ずつコントロール飼料(C群)、(+)エコール飼料(E+群)、(−)エコール(E−群)飼料を与える4群に分けた。飼料および飲料水は自由摂取させ、4週間飼育した。解剖は飼育28日目に行った。飼育期間中摂食量と体重を毎日測定した。
表1に飼料組成を示す。
【0017】
各飼料を摂取した正常ラットの摂食量を図3に示す。
図3に示すように、(+)エコール、および(−)エコールの摂取は効果的に摂食量を低下させた。
【0018】
各飼料を摂取した正常ラットの体重増加量を図4に示す。
図4に示すように、(+)エコール、および(−)エコールの摂取は効果的に体重増加を抑制した。
次に上記試験結果が、ラットの嗜好性(不味)による影響によるものかどうかを検証するために、下記試験を実施した。
【実施例3】
【0019】
日本エスエルシー株式会社より入手した24匹の6週齢メスWistarラットを室温23±1℃、12時間の明暗サイクル(明期3:00-15:00)の環境で、ステンレス製ゲージ内で個別飼育した。実験動物搬入後、コントロール飼料を与えて飼育し、飼育環境に馴化させた後、9匹ずつコントロール飼料(C群)、(±)エコール飼料(E群)を与える2群に分けた。飼料および飲料水は自由摂取させ、3日間飼育してそれぞれの飼料の味に慣れさせた。その後、各群に対して、コントロール飼料、エコール飼料を同時に与えて自由に摂取させ、3日間、各餌の摂取量を測定した。なお、(±)エコールと(+)エコール、(−)エコールの味覚への影響は等しいと考えられる。
【0020】
表2に飼料組成を示す。
【表2】

【0021】
ラットをコントロール、エコール各飼料に慣れさせた後の3日間の各餌の摂取量を図5に示す。
ラットをコントロール飼料に慣れさせた場合(黒丸と白丸との比較)においては、3日後のエコール飼料の摂取量がコントロール飼料とほぼ同等になった。
ラットをエコール飼料に慣れさせた場合(黒三角と白三角との比較)においても、3日後のエコール飼料の摂取量がコントロール飼料を上回った。
このことより、エコールによる摂食抑制は、エコールの不味さによるものではないといえることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】各飼料を摂取したOVXラットの各週の摂食量の平均値を表す。ひし形はコントロール、黒三角は(+)エコール、白三角は(−)エコールを示す。また、グラフ内のアルファベットは、同一記号を持たない群間にチューキーの多重比較法による有意差があることを示す。
【図2】各飼料を摂取したOVXラットの体重増加量を表す。Cはコントロール、E(+)は(+)エコール、E(-)は(−)エコールを示す。また、グラフ内のアルファベットは、同一記号を持たない群間にチューキーの多重比較法による有意差があることを示す。
【図3】各飼料を摂取した正常ラットの各週の摂食量の平均値を表す。ひし形はコントロール、黒三角は(+)エコール、白三角は(−)エコールを示す。また、グラフ内のアルファベットは、同一記号を持たない群間にチューキーの多重比較法による有意差があることを示す。
【図4】各飼料を摂取した正常ラットの体重増加量を表す。Cはコントロール、E(+)は(+)エコール、E(-)は(−)エコールを示す。また、グラフ内のアルファベットは、同一記号を持たない群間にチューキーの多重比較法による有意差があることを示す。
【図5】ラットをコントロール、エコール各飼料に慣れさせた後の3日間の各餌の摂取量を表す。(a)黒丸はコントロール飼料順化後のコントロール飼料の摂取量、(b)白丸はコントロール飼料順化後のエコール飼料摂取量、(c)黒三角はエコール飼料順化後のコントロール飼料摂取量、(d)白三角はエコール飼料順化後のエコール飼料摂取量を示す。また、「*」印は、コントロール飼料順化後のコントロール飼料摂取量(黒丸)に対して、チューキー多重比較法による有意差があることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エコールを有効成分として含有することを特徴とする摂食抑制剤。
【請求項2】
エコールが(+)エコール及び/又は(−)エコールであることを特徴とする請求項1記載の摂食抑制剤。
【請求項3】
経口もしくは経腸で投与剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の摂食抑制剤。
【請求項4】
エコールを固形物重量あたり0.015重量%以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された摂食抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された摂食抑制剤を添加した動物用飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−308428(P2007−308428A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140137(P2006−140137)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「第60回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」日本栄養・食糧学会大会 平成18年4月1日 発行
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】