説明

摩擦ダンパー

【課題】摩擦ダンパーを建造物のブレース等に短時間で取り付けることができ、また、異音の発生を抑制できると共に、所定の摩擦力を発生させることができる摩擦ダンパーの提供を課題とする。
【解決手段】ベース部材11と、ベース部材11に固定された摩擦材12と、ベース部材11との間に摩擦材12を挟み、且つベース部材11に対してスライド自在に連結された摺動部材13とを備えている。ベース部材11、摩擦材12、摺動部材13は一体的に組み付けられてユニット化されている。この摩擦ダンパー1によれば、ベース部材11と摺動部材13を建造物のブレース等に取り付けるだけで、摩擦ダンパー1全体を簡単に取り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造の建造物において、制震デバイスとして摩擦材を利用した摩擦ダンパーが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この摩擦ダンパーは、構造物のブレースにおける中間部分において、一方のブレースにベース部材を取り付けると共に、他方のブレースに摺動部材をスライド自在に取り付け、ベース部材と摺動部材との間に摩擦材を挟む。そして、地震時のエネルギーによってブレースに発生する応力を、摩擦材と摺動部材との間の摩擦抵抗力を熱エネルギーに変換することにより、地震のエネルギーを吸収するように構成されている。
【0003】
従来の摩擦ダンパーは、建造物における一方のブレースにボルト等でベース部材を取り付けると共に、他方のブレースに摺動部材を取り付け、ベース部材と摺動部材の間に摩擦材を挟んで、ベース部材と摺動部材とを相対的にスライド自在に連結していた。
【特許文献1】特開2000−104338号公報
【特許文献2】特開2006−257674公報
【特許文献3】特開2005−121041公報
【特許文献4】特開平8−193635号公報
【特許文献5】特開2005−9608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の摩擦ダンパーは、ベース部材、摩擦材、摺動部材等の各部品を別々にした状態で、摩擦ダンパーの取り付け工事現場に持ち込み、建造物のブレースにベース部材、摩擦材、摺動部材等の各部材を取り付ける作業を行っていたため、施工時間が長くなるという問題があった。
【0005】
また、摩擦材と摺動部材との接触面における接触圧力を均一にするのが困難であり、摩擦材と摺動部材との摩擦によって異音が発生することがあった。更に、ベース部材と摺動部材とをボルトによって組み付ける際に、ボルトの軸力管理を確実に行うのが困難であり、所定の摩擦力を発生させることができないおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、摩擦ダンパーを建造物のブレース等に短時間で取り付けることができ、また、異音の発生を抑制できると共に、所定の摩擦力を発生させることができる摩擦ダンパーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明は、
ベース部材と、
前記ベース部材に固定された摩擦材と、
前記ベース部材との間に前記摩擦材を挟み、且つ前記ベース部材に対してスライド自在に設けられた摺動部材と、を備え、
前記ベース部材、前記摩擦材、前記摺動部材が一体的に組み付けられてユニット化されている。
【0008】
摩擦材は、熱硬化樹脂を結合材としてアラミド繊維、ガラス繊維等の基材黒鉛、金属等の摩擦調整材、硫酸バリウム等の充填材を、接着剤によってベース部材に接着した後、熱プレスによってベース部材に一体成型できる。
【0009】
本発明によれば、予めベース部材、摩擦材及び摺動部材が組み付けられてユニット化されているので、ベース部材及び摺動部材を建造物のブレースに取り付けるだけで施工が完了する。従って、施工時間を短縮できる。
【0010】
ここで、前記摩擦材における前記摺動部材に接触する面の端部に、面取りが設けられている構成にできる。この構成により、摩擦材と摺動部材間に異音が発生するのを抑制できる。
【0011】
また、前記摩擦材の前記摺動部材に接触する面は、前記ベース部材における前記摩擦材を固定する面に対して平行に形成されている構成にできる。また、前記摩擦材の前記摺動部材に接触する面は、研磨加工を施すのが好ましい。この構成により、摩擦材と摺動部材間の接触面における接触力を均一にできるので、所定の摩擦力を発生させることができる。
【0012】
また、前記摩擦材の周囲に防水手段が設けられている構成にできる。この構成により、摩擦材と摺動部材との間に水分が侵入するのを抑制でき、摩擦材と摺動部材が固着してしまうのを抑制できる。また、各部材に錆が発生するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベース部材、研磨材及び摺動部材が一体的に組み付けられてユニット化されているので、取り付け施工時間を短縮できる。また、異音の発生を抑制できると共に、所定の摩擦力を発生できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)に係る摩擦ダンパーについて説明する。なお、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0015】
図1は、本発明に係る摩擦ダンパー1を示す。この摩擦ダンパー1は、ベース部材11と、このベース部材11に固定された摩擦材12と、ベース部材11との間に摩擦材12を挟み、且つベース部材11に対してスライド自在に連結された摺動部材13と、を備えている。これらのベース部材11、摩擦材12、摺動部材13は、一体的に組み付けられてユニット化されている。なお、図1中の符号14はボルト、15はナット、16は座金である。
【0016】
次に、上記各構成要素について説明する。ベース部材11は、板部材によって略長方形に形成されている。このベース部材11の一端部には、建造物30のブレース31(図7(a)参照)に取り付けるためのボルト孔17が複数設けられ、中間部にも摺動部材13を連結するためのボルト孔18が複数設けられている。
【0017】
摺動部材13は、図3に示すように、ベース部材11と同様に板部材で略長方形に形成されている。また、摺動部材13には、ブレース31に取り付けるためのボルト孔17が複数設けられている。更に、摺動部材13には、摩擦材12を設ける範囲の両側に、長孔19が設けられている。この長孔19には、ベース部材11と摺動部材13とを連結するボルト14が移動自在に挿通されている。
【0018】
摩擦材12は、ベース部材11に固定されると共に、摺動部材13に対して摺動自在に
組み付けられている。この摩擦材12は、熱硬化樹脂を結合材としてアラミド繊維、ガラス繊維等の基材黒鉛、金属等の摩擦調整材、硫化バリウム等の充填材が、接着剤でベース部材11に接着された後、図4に示すように、熱プレス装置20によってベース部材11に一体形成される。なお、図4中の符号20a,20bは上下プレス部である。
【0019】
ベース部材11に摩擦材12が一体成型された後、図5に示すように、摩擦材12の表面12aが研磨刃物21によって研磨され、摩擦材12の表面12aがベース部材11の摩擦材固定面11aに対して略平行になるように加工される。また、摩擦材12の表面12は、所定の平面度に形成される。
【0020】
次に、ベース部材11における摩擦材12の研磨した表面12a側に、ボルト14及びナット15によって摺動部材13がスライド自在に取り付けられる。このときには、ボルト14の締め付け力が予め定められている値になるように、ボルト14の締め付け力(軸力)を管理する。次に、図6に示すように、摩擦力測定試験器22等によって、摩擦材12と摺動部材13間に所定の摩擦力が発生するか否かを計測する。この計測によって、所定の摩擦力が得られない場合、或いは過大な摩擦力が発生する場合は、ボルト14の締め付け力を調整してボルト14の軸力管理を行う。
【0021】
なお、図6中の符号23は反力壁、24は取り付け部材、25はロードセル、26は載荷試験装置である。摩擦ダンパー1を摩擦力測定試験器22に取り付ける場合は、摩擦ダンパー1のベース部材11を取り付け部材24に取り付け、摺動部材13をロードセル26に取り付ける。
【0022】
この摩擦ダンパー1は、図7(a),(b)に示すように、建造物30のブレース31に簡単に取り付けることができる。この場合は、ブレース31を第1ブレース32と第2ブレースに分け、第1ブレース32と第2ブレース33の間に摩擦ダンパー1を配置する。そして、摩擦ダンパー1のベース部材11又は摺動部材13の一方を、ボルト34によって第1ブレース32に取り付け、他方を第2ブレース33に取り付ける、これにより、摩擦ダンパー1の取り付け作業が終了する。なお、図7中の符号35は建造物30の梁部材、36は柱部材である。
【0023】
本発明によれば、摩擦ダンパー1のベース部材11,摩擦材12,及び摺動部材13が一体的に組み付けられてユニット化されているので、建造物30のブレース31に摩擦ダンパー1を取り付ける際には、摩擦ダンパー1のベース部材11をブレース31の第1ブレース32にボルト34によって取り付けると共に、摺動部材13を第2ブレース33にボルト34で取り付けるだけで、ユニット化されている摩擦ダンパー1を簡単に取り付けることができる。従って、摩擦ダンパー1の取り付け作業の施工時間を短縮できる。
【0024】
また、摩擦材12の表面12aが研磨加工され、この表面12aとベース部材11の摩擦材固定面11aとがほぼ平行に形成されているので、摩擦材12と摺動部材13との間の摩擦力を均一にでき、所定の摩擦力を発生させることができる。
【0025】
なお、図8に示すように、摩擦材12における表面12aの端部に面取り12bを設けることができる。この構成によれば、摩擦材12と摺動部材13間に異音が発生するのを抑制できる。
【0026】
また、図9に示すように、摩擦材12及びボルト14の周囲を密封する防水手段、例えば蛇腹状のゴムブーツ40を設けることができる。ゴムブーツ40内にはグリース等を封入しても良い。この構成によれば、摩擦材12と摺動部材13との間に水や埃等が侵入するのを抑制できるので、摩擦材12に含まれる金属成分や摺動部材13自体に錆が発生し
て、摩擦部材12と摺動部材13とが固着するのを抑制でき、所定の摩擦力を得ることができる。また、ベース部材11と摺動部材13とをスライド自在に連結するボルト14等に錆が発生し、この錆が原因でボルト14等が折損するのを抑制できるので、耐久性及び信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態の摩擦ダンパーを示す側面図である。
【図2】実施形態の摩擦ダンパーを示す上面図であり、図1のA矢視図である。
【図3】実施形態の摩擦ダンパーを示す底面図であり、図1のB矢視図である。
【図4】実施形態の摩擦ダンパーにおける摩擦材をベース部材に熱プレスによって固着する方法を示す図である。
【図5】実施形態の摩擦材をベース部材に固着した状態で研磨する方法を示す図である。
【図6】実施形態の摩擦ダンパーにおける摩擦力を測定する方法を示す図である。
【図7】図7(a)は実施形態の摩擦ダンパーを建造物のブレースに取り付けた状態を示す図であり、図7(b)は図7(a)のC矢視図である。
【図8】実施形態の摩擦材における端部に設けた面取りを示す図である。
【図9】実施形態の摩擦ダンパーに設けた防水手段を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 摩擦ダンパー
11 ベース部材
11a 摩擦材固定面
12 摩擦材
12a 摩擦材の表面
13 摺動部材
14 ボルト
15 ナット
17,18 ボルト孔
19 長孔
20 熱プレス装置
20a,20b 上下ブレス部
21 研磨刃物
22 摩擦力測定試験器
23 反力壁
24 取り付け部材
25 ロードセル
26 載荷装置
30 建造物
31 ブレース
32 第1ブレース
33 第2ブレース
34 ボルト
35 梁部材
36 柱部材
40 ゴムブーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材と、
前記ベース部材に固定された摩擦材と、
前記ベース部材との間に前記摩擦材を挟み、且つ前記ベース部材に対してスライド自在に連結された摺動部材と、を備え、
前記ベース部材、前記摩擦材、前記摺動部材が一体的に組み付けられてユニット化されている摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記摩擦材における前記摺動部材に接触する面の端部に、面取りが設けられている請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記摩擦材の前記摺動部材に接触する面は、前記ベース部材における前記摩擦材を固定する面に対して平行に形成されている請求項1または2に記載の摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記摩擦材の前記摺動部材に接触する面は、前記ベース部材に固定された後、研磨加工されている請求項3に記載の摩擦ダンパー。
【請求項5】
前記摩擦材の周囲が防水手段によって包囲されている請求項1から4の何れか1項に記載の摩擦ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−210048(P2009−210048A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54667(P2008−54667)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】