説明

摩擦圧接方法

【課題】最適な加工条件を得るための制御の簡素化が図られる摩擦圧接方法を提供する。
【解決手段】固定側である第1のワークと圧入側である第2のワークとの接合面の軟化が進行するにつれて第2のワークの第1のワークに対する送り速度を増大させるようにした。第1のワークの軟化が不十分であるときは第2のワークの第1のワークに対する送り速度を維持するようにした。そして、前記接合面が軟化すると、前述のように第2のワークの送り速度を再び増大させるようにした。両ワークの当接面の軟化状態を考慮することにより、第2のワークが第1のワークに対して過度に押し付けられることがなく好適に圧入される。また、第2のワークの送り速度だけを管理すればよいので、例えば第2のワークの回転速度をも考慮するようにした場合に比べて、加工制御の簡素化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を接触加圧しながら相対運動させ、両部材間に発生する摩擦熱を利用して両部材を接合する摩擦圧接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの部材を接合する手法として例えば特許文献1に示されるような摩擦圧接方法が知られている。この摩擦圧接は、対向配置した一対の部材の一方を回転駆動しながら他方に圧接することにより両部材の接合部に摩擦熱を発生させ、当該摩擦熱により両部材の接合部を軟化させる。そして、両部材の接合部を所望の状態に軟化を進行させた後、部材の回転を停止させつつさらにアプセット圧力を加える。すると、接合部は一体化して溶着される。
【0003】
前述の摩擦圧接は摩擦圧接装置を使用して行われ、当該摩擦圧接装置は一対の部材の一方をクランプ固定し、他方を回転駆動手段に設けられたチャックに固定して、両部材を同軸上に配置するようになっている。チャックは圧接駆動手段により前記クランプ固定された部材に対して近接又は離間する方向へスライド移動可能となっている。即ち、チャックに固定された部材を回転させながら前記クランプ固定された部材に当接又は離間させることが可能となっている。
【0004】
前記回転駆動手段及び圧接駆動手段は、それぞれ例えばモータをその動力源としている。そして、摩擦圧接の過程において、両部材の当接面に塑性流動層が形成されるまで、両部材間の相対回転数及び押し付け速度をそれぞれ一定に保ち、その後、相対回転数を所定の減速率で停止させ、当該回転停止後に押し付けを停止する。
【0005】
ここで、両部材の当接面の軟化の進行に伴って、当該当接面に発生する摩擦力及び必要とされる押し付け圧力はおのずと変化する。このため、摩擦圧接の過程において、両部材の相対回転数及び押し付け速度をそれぞれ一定値に保つためには、回転トルク及び押付力をそれぞれ適宜増減させる必要がある。そして、それら回転トルク及び押付力の変化に基づいて、両部材の当接面における塑性流動層の形成の有無を判断し、その判断結果に基づいて摩擦圧接を進行するようにしている。これにより、両部材の当接面の軟化状態を考慮に入れた摩擦圧接が行われる。
【特許文献1】特許第3412463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記従来の摩擦圧接方法には次のような問題があった。即ち、前述したように前記相対回転数及び押付速度を維持するためには、回転トルク及び押付力を適宜増減させる必要がある。そのため、それら回転トルク及び押付力を監視することにより両部材の当接面の軟化の様子を把握する必要がある。そしてそれら回転トルク及び押付力の変化は、例えば回転駆動手段の回転用モータ及び圧接駆動手段の圧接用モータの負荷電流値の変化により把握するようにしていた。このように、従来の摩擦圧接方法では、両部材の当接面の軟化状態を考慮に入れた最適な加工条件を得るためには回転用モータ及び圧接用モータの負荷電流値の変化をそれぞれ検出する必要があり、それは加工制御の簡素化の阻害原因となっていた。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、最適な加工条件を得るための制御の簡素化が図られる摩擦圧接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、第1のワークに対して第2のワークを回転させながら圧接して両部材を接合する摩擦圧接方法であって、前記第2のワークは第1のワークに対して所定の深さまで圧入されるようにし、第2のワークの第1のワークに対する圧接方向への押し圧力の単位時間当たりの変化量である微分値を所定の制御周期毎に求めると共に今回の微分値と前回の微分値とを比較し、今回の微分値が前回の微分値以下のときには前記押し圧力を増大させる一方、今回の微分値が前回の微分値を超えるときには前記押し圧力を維持するようにしたことをその要旨とする。
【0009】
第1のワークに対して第2のワークを回転させながら圧接して両部材を接合する摩擦圧接方法であって、前記第2のワークの第1のワークに対する圧接方向への押し圧力の単位時間当たりの変化量である微分値を所定の制御周期毎に求めると共に今回の微分値と前回の微分値とを比較し、今回の微分値が前回の微分値以下のときには前記送り速度を増大させる一方、今回の微分値が前回の微分値を超えるときには前記押し圧力を維持するようにしたことをその要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の摩擦圧接方法において、今回の微分値が前回の微分値より小さいときには、前記押し圧力を予め設定された割合で増大させるようにしたことをその要旨とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の摩擦圧接方法において、前記押し圧力が予め設定された上限値に達したときには、当該押し圧力を予め設定された割合で減少させるようにしたことをその要旨とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の摩擦圧接方法において、前記第1のワークは第2のワークよりも融点が低く且つ熱膨張率が異なるものとしたことをその要旨とする。
【0013】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、第2のワークを第1のワークに対して所定の深さまで圧入するために、第2のワークの第1のワークに対する圧接方向への押し圧力の単位時間当たりの変化量である微分値について、今回の微分値が前回の微分値以下のときには前記押し圧力は増大される。一方、今回の微分値が前回の微分値を超えるときには前記押し圧力は維持される。即ち、両部材の接合面の軟化が進行するにつれて第2のワークの第1のワークに対する押し圧力が増大される。また、第1のワークの軟化が不十分であるときは第2のワークの第1のワークに対する押し圧力は維持される。そして、前記接合面が軟化すると、前述のように第2のワークの第1のワークに対する押し圧力が増大される。このため、両部材の当接面の軟化状態を考慮することにより、第2のワークが第1のワークに対して過度に押し付けられることがなく好適に圧入される。また、両部材の当接面の軟化状態を考慮に入れた最適な加工条件を得るために、第2のワークの押し圧力だけを管理すればよいので、例えば第2のワークの回転速度をも考慮するようにした場合に比べて、加工制御の簡素化が図られる。さらに、第2のワークは第1のワークに対して所定の深さまで圧入される。このため、摩擦接合完了後に冷却された際、第1のワークと第2のワークの接合面(対向面)においては固相接合による固相接合力が得られる。しかし例えば第2のワークを第1のワークを貫通するようにした場合には前記固相接合力が得られない。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、今回の微分値が前回の微分値より小さいときには、前記押し圧力は予め設定された割合で増大される。このように、両部材の接合面の軟化が進行したときには、第2のワークの押し圧力を所定の割合で増大させることにより、第2のワークの第1のワークに対する圧入開始から圧入完了までの時間の短縮化が図られる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、第2のワークの押し圧力が予め設定された上限値に達したときには、当該押し圧力は予め設定された割合で減少する。このため、第2のワークが第1のワークに対して過度に押し付けられることがより確実に抑制される。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、摩擦接合完了後に冷却されると、第2のワークには両部材の熱膨張率の差により第1のワークによる締め付け力が働く。また、第1のワークと第2のワークの接合面(対向面)においては摩擦圧接による固相接合による固相接合力が発生する。前記締め付け力と前記固相接合力との相乗効果により両部材は強固に接合される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、最適な加工条件を得るための制御の簡素化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の摩擦圧接方法を実現する摩擦圧接装置に具体化した一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
<全体構成>
図1に示すように、摩擦圧接装置11の支持台12にはコラム13が上方へ延びるように設けられている。支持台12の上面には図示しないクランプ手段により第1のワークW1を固定可能とされている。また、コラム13には圧接駆動ユニット14及び回転駆動ユニット15が設けられている。
【0019】
圧接駆動ユニット14は圧接用モータ21を備えており、当該圧接用モータ21の駆動により圧接駆動ユニット14はコラム13に沿って上下に移動可能とされている。また、圧接駆動ユニット14には主軸22が回転可能に且つ下方に延びるように設けられている。主軸22の先端(下端)にはチャック23が設けられており、当該チャック23により第2のワークW2が把持される。また、主軸22には従動プーリ24が固定されている。
【0020】
回転駆動ユニット15は回転用モータ31を備えており、当該回転用モータ31の出力軸32には駆動プーリ33が一体回転可能に固定されている。この駆動プーリ33と前記主軸22の従動プーリ24との間には無端状のタイミングベルト34が掛装されている。このため、回転用モータ31の回転力は駆動プーリ33、タイミングベルト34及び従動プーリ24を介して主軸22に伝達され、その結果、当該主軸22は回転する。
【0021】
第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が大きい材料により所定の厚みを有する板状に形成されている。第2のワークW2は第1の第1のワークW1よりも融点が高く且つ熱膨張率が小さい材料により円柱状(棒状)に形成されている。本実施形態では、第1のワークW1は銅により形成され、第2のワークW2はセラミックスにより形成されている。
【0022】
<電気的構成>
図2に示すように、摩擦圧接装置11は制御装置41、圧接用モータドライバ42、回転用モータドライバ43、圧接用モータ用の回転角センサ44、回転用モータ用の回転角センサ45、圧接用モータ用の電流検出センサ46及び回転用モータ用の電流検出センサ47を備えている。
【0023】
圧接用モータドライバ42及び回転用モータドライバ43は制御装置41からの電流指令値に基づいた所定の電流を圧接用モータ21及び回転用モータ31にそれぞれ供給する。
【0024】
両回転角センサ44,45は圧接用モータ21及び回転用モータ31の回転角度(正確には、回転角センサ44のロータの磁極位置を示す電気角)をそれぞれ検出し、それら検出信号を制御装置41に送る。
【0025】
両電流検出センサ46,47は圧接用モータドライバ42及び回転用モータドライバ43から圧接用モータ21及び回転用モータ31に供給される電流(モータ電流値)をそれぞれ検出し、それら検出信号を制御装置41に送る。
【0026】
制御装置は図示しないCPU(中央処理装置)、ROM(読み取り専用メモリ)、RAM(読み取り書き込み専用メモリ)等を備えている。ROMには摩擦圧接装置11の各部を統括的に制御するための各種データ及び各種制御プログラム等が予め格納されている。RAMはROMの制御プログラムを展開してCPUが各種処理を実行するためのデータ記憶領域、即ち作業領域である。
【0027】
制御装置41は回転角センサ44からの検出信号に基づいて主軸22の送り量を把握する。また、制御装置41は電流検出センサ46からの検出結果に基づいて圧接用モータ21への指令電流値を設定し、その指令電流値に基づいた電流が圧接用モータ21に供給されるように圧接用モータドライバ42を駆動制御する。さらに、制御装置41は圧接用モータ21へのモータ電流値について単位時間当たりの変化量を所定の制御周期毎に求めて前記RAMに格納する。ここで、圧接用モータ21へのモータ電流値は主軸22の送り速度に対応していることから、制御装置41は主軸22の送り速度の微分値を求めているとも言える。さらに、主軸22の送り速度は第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力に対応していることから、制御装置41は第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力の微分値を求めているとも言える。従って、本発明の押し圧力は圧接用モータ21へのモータ電流値、及び主軸22の送り速度をそれぞれ含むものとする。
【0028】
<実施形態の作用>
次に、前述のように構成した摩擦圧接装置の動作を図3(a)〜(d)、図4及び図5に従って説明する。ワーク第1及び第2のワークW1,W2を摩擦圧接装置11により接合する場合には、一方の第1のワークW1を支持台12の上面にクランプ固定すると共に、他方の第2のワークW2をチャック23に固定する。第2のワークW2の第1のワークW1に対する加工深さ(圧入深さ)及び圧接用モータ21へ供給されるモータ電流の上限値はそれぞれ予め設定されている。前記加工深さは、第1及び第2のワークW1,W2の寸法(例えば長さ及び厚み)、材料等に基づいて主軸22の最終的な送り量として設定される。また、第1のワークW1(正確には、回転用モータ31)の回転数も予め設定されている。本実施形態では、回転用モータ31の回転数は一定に保たれる。
【0029】
まず本実施形態の摩擦圧接工程の概略について説明する。即ち、図3(a)〜(d)に示すように、本実施形態の摩擦圧接工程は大きく準備工程、均し工程、圧入工程及びアプセット工程(圧接工程)を備えている。
【0030】
準備工程では、まず第2のワークW2をチャック23に固定した状態で支持台12の上面にクランプ固定された第1のワークW1の上面に当接させ、その当接した位置を加工深さ(圧入深さ)の基準点(ゼロ点)として設定する。その後、図3(a)に示されるように第1のワークW1と第2のワークW2とを一旦上方向に離間させる。そして、回転用モータ31を駆動し、当該回転用モータ31の回転数を安定させる。
【0031】
均し工程は、図3(b)に示されるように回転用モータ31の回転数が安定した状態で主軸22の送りが開始され、設定された均し深さに達するまで主軸22の送りを行い、微弱な圧接により生じる塑性流動層で第1のワークW1と第2のワークW2との接合面の均一性と予備的な軟化状態とを形成する工程である。
【0032】
圧入工程は、図3(c)に示されるように第1のワークW1の軟化に応じて不純物を取り除きながら所定の圧入深さまで第2のワークW2を回転させながら圧入する工程である。その際、圧接用モータ21のモータ電流値の変化量に基づいて第1のワークW1と第2のワークW2との接合面の軟化状態を把握し、その軟化状態に応じて主軸22の送り速度を増加させる。この主軸22の送り制御、即ち第2のワークW2の圧入制御については後に詳述する。
【0033】
アプセット工程は、図3(d)に示されるように第2のワークW2の回転を停止し、所定の圧力を加えることにより第2のワークW2の底面(下端面)と第1のワークW1との固相接合を行う工程である。また、第1及び第2のワークW1,W2の熱膨張率の差により、それらの冷却に伴って第2のワークW2には第1のワークW1による側方からの締め付け力が発生する。第1及び第2のワークW1,W2は前述の固相接合力と熱膨張力の差による締め付け力とにより強固に接合される。このようにして第1のワークW1と第2のワークW2との接合体(異種材料接合体)Wは製造される。
【0034】
<ワークの圧入制御>
次に、前述した摩擦圧接方法における圧入工程及びアップセット工程の詳細を図4に示すフローチャートに従って説明する。尚、本実施形態では制御装置41のステップを「S」と略記する。
【0035】
制御装置41は、第2のワークW2の回転数が所定の回転数となるように回転用モータ31を駆動制御する。そして、制御装置41は回転用モータ31の回転数が安定した後に第2のワークW2の送りを開始する。即ち、制御装置41は第2のワークW2が所定の均し深さだけ下降するように圧接用モータ21(正確には、圧接用モータドライバ42)を駆動制御する(S101)。
【0036】
次に、均し深さ到達後、制御装置41は第2のワークW2が第1のワークW1に対して予め設定された所定の圧入深さに達したか否かを判断する(S102)。
制御装置41は第2のワークW2が所定の圧入深さに達していないと判断した場合(S102でNO)、S103へ処理を移行する。
【0037】
S103において、制御装置41は圧接用モータ21の今回のモータ電流値の単位時間当たりの変化量である微分値(di1/dt)と前記RAMに格納された前回のモータ電流値の単位時間当たりの変化量である微分値(di2/dt)との大小を比較する。換言すると、制御装置41は、主軸22の今回の送り速度の微分値と、前記RAMに格納された前回の送り速度の微分値とを比較する。さらに言えば、制御装置41は、第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力の今回の微分値と、前記RAMに格納された前回の押し圧力の微分値とを比較する。
【0038】
制御装置41は、今回の微分値が前回の微分値以下の場合(S103でYES)、第2のワークW2の送り速度を所定の割合(例えば10%一定)で増加させる(S104)。即ち、制御装置41は、第1のワークW1と第2のワークW2との接合面の軟化を判断して、圧接用モータ21へ供給するモータ電流値が所定の割合で増加するように圧接用モータドライバ42を駆動制御する。その結果、第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力が増大する。
【0039】
一方、制御装置41は、今回の微分値が前回の微分値より大きい場合(S103でNO)、第1のワークW1と第2のワークW2との接合面の軟化が不十分であるとして、第1のワークW1の送り速度を維持する。その維持した状態で制御装置41は圧接用モータ21へのモータ電流値が予め設定された上限値に達したか否かを判断する(S105)。
【0040】
制御装置41は圧接用モータ21へのモータ電流値が予め設定された上限値に達していると判断した場合には(S105でYES)、第2のワークW2の送り速度を所定の割合で減少させる(S106)。即ち、制御装置41は圧接用モータ21へ供給するモータ電流値が所定の割合で減少するように圧接用モータドライバ42を駆動制御する。その結果、第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力が減少し、第2のワークW2が第1のワークW1に過度に押し付けられることが抑制される。
【0041】
S105において、制御装置41は圧接用モータ21へのモータ電流値が予め設定された上限値に達していないと判断した場合には(S105でNO)、S101へ処理を移行する。
【0042】
以後、第2のワークW2の第1のワークW1に対する圧入深さが所定の圧入深さに達するまで前述の処理(S101〜S106)を繰り返す。
そして、制御装置41は第2のワークW2が第1のワークW1に対する所定の圧入深さに達したと判断した場合(S102でYES)にアプセット工程に移行する(S107)。即ち、回転用モータ31を停止させ、第2のワークW2を第1のワークW1に対して所定の圧力で押し付ける。その結果、図3(d)に示されるような第1のワークW1と第2のワークW2との接合体(異種材料接合体)Wが形成される。
【0043】
このように、制御装置41は圧接用モータ21へのモータ電流値の単位時間当たりの変化量、即ち第2のワークW2の第1のワークW1に対する押し圧力の単位時間当たりの変化量に基づいて第1及び第2のワークW1,W2の当接面の軟化状態を判断し、最適な加工条件を得るようにしている。このため、圧接用モータ21及び回転用モータ31へのモータ電流値の変化をそれぞれ検出するようにした場合と異なり、最適な加工条件を得るための加工制御の簡素化が図られる。
【0044】
<モータ電流値の変動>
次に、前記均し工程、圧入工程及びアプセット工程における第2のワークW2の圧入制御に係る圧接用モータ21のモータ電流値の変動について説明する。
【0045】
図5に示されるように、制御装置41は、第2のワークW2と第1のワークW1とが当接を開始してから予め設定された均し深さに達するまで一定の送り速度で下降するように圧接用モータ21を駆動制御する。均し深さに達すれば均し工程は完了となる(ΔT1)。
【0046】
前述のように第1のワークW1と第2のワークW2との均し工程が完了すると、制御装置41は所定の圧入深さに達するまで圧接用モータ21への電流指令値を所定の割合で増加させる。図5に示す例では途中で圧接用モータ21のモータ電流値が一旦減少するが、これは前記接合面の軟化速度が主軸22の送り速度を上回ったことを示す。本実施形態では、モータ電流値の単位時間当たりの変化量が減少すると、送り速度を増加するように圧接用モータ21(正確には、圧接用モータドライバ42)が駆動制御されるので、圧接用モータ21のモータ電流値は再び増加する。そして、第2のワークW2の第1のワークW1に対する圧入深さが所定値に達すると、圧入工程は完了となる(ΔT2)。
【0047】
そして、制御装置41はアプセットを行うために回転用モータ31を停止させ、圧接用モータ21への電流指令値を所定時間だけ増加させる。回転用モータ31は停止状態に保たれているため第1及び第2のワークW1,W2の冷却が始まり、それに伴って圧接用モータ21のモータ電流値はさらに増大する(ΔT3)。
【0048】
前述したように、制御装置41は圧接用モータ21のモータ電流値の単位時間当たりの変化量に基づいて、接合面の軟化状態を判断し、その検出結果に基づいて圧接用モータ21への送り速度指令値(電流指令値)を設定する。このため、本実施形態の摩擦圧接工程は前記均し工程、圧入工程及びアプセット工程がそれぞれ連続して処理される。
【0049】
<接合体>
次に、前述のようにして製造された接合体(異種材料接合体)Wについて説明する。この接合体Wにおいて、第2のワークW2の先端部は第1のワークW1に所定の圧入深さで圧入されており、当該第2のワークW2の先端面は第2のワークW2に対して固相接合されている。また、前記アプセット工程の終了後、接合体Wの冷却に伴って第1及び第2のワークW1,W2はそれぞれ熱収縮する。このとき、第1及び第2のワークW1,W2の熱膨張率の差により第1のワークW1の収縮量は第2のワークW2の収縮量よりも大きくなる。このため、第2のワークW2において第1のワークW1に埋設された部位には、第1のワークW1により締め付け力が発生して締め付けられる。この締め付け力及び前述の固相接合力により第1のワークW1と第2のワークW2との接合強度が確保されている。
【0050】
従って、固相接合力だけでは弱く安定した接合力が得にくい部材を接合する場合にも、前述の固相接合力と締め付け力により安定した接合状態が得られる。例えば本実施形態のように、 セラミックスと金属(例えば銅)に代表される接合困難な異種材接合に対して特に有効である。
【0051】
詳述すると、セラミックスと金属とを接合する際には、常温下における接触初期に発生し得る過度な押し圧力によるセラミックスの破壊、及び過剰な入熱によるセラミックスの熱応力破壊の問題がある。即ち、圧入工程における送り速度を増加させると初期にセラミックスの破壊が発生するおそれがあり、それを回避するために送り速度を減少させると今度は過剰入熱でセラミックスの破壊が発生するおそれがある。また、圧入進行させる中で金属部材の軟化が生じていないにもかかわらず過度な押し圧力を加える場合にもセラミックスの破壊が発生し得る。
【0052】
これに対して、本実施形態では第2のワークW2の第1のワークW1に対する接触初期の送り速度を微小速度で開始して、徐々に当該送り速度を上げて金属部材である第1のワークW1の表面に軟化を発生させながら圧入を進めるようにしている。そして、金属部材である第1のワークW1の軟化が発生しない時は一旦押し圧力、即ち送り速度を低下させて第1のワークW1の軟化の発生を待ってから送り速度を増加させるようにしている。このため、金属部材である第1のワークW1が軟化していないにもかかわらず第2のワークW2が過度に圧入されることはない。これにより、過度な押し圧力によるセラミックス(第2のワークW2)の破壊が回避される。
【0053】
また、本実施形態では、適切な送り速度(正確には、圧接用モータ21のモータ電流値;押し圧力)の上限値を設定し、その値に達するまでは初期速度から所定の割合(例えば10%一定)で順次送り速度を増加させ所定の圧入深さに達するまで圧入を進行させ続けるようにしている。このため、第2のワークW2が所定の圧入深さに達するまでの時間を極力短時間で行うことが可能となる。従って、圧入時間が短くなる分、第2のワークW2に対する入熱量も抑制され、ひいてはセラミックスである第2のワークW2の熱応力破壊も抑制される。また、第2のワークW2の前記送り速度(押し圧力)の上限値を設定するようにしたので、安全性も確保される。
【0054】
<ワークの組み合わせ>
本実施形態では、第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が大きい材料とし、第2のワークW2は第1の第1のワークW1よりも融点が高く且つ熱膨張率が小さい材料とした。そして、第1のワークW1として銅を採用し、第2のワークW2としてセラミックスを採用するようにしたが、例えば第1及び第2のワークW1,W2として次のような異種金属材料を採用しても両ワークを接合可能である。即ち第1及び第2のワークW1,W2として、例えば「アルミニウムとステンレス」、「銅とアルミナ」及び「銅とモリブデン」の組み合わせであれば両ワークを本実施形態の摩擦圧接方法により接合可能である。
【0055】
また、第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が小さい材料とし、第2のワークW2は第1の第1のワークW1よりも融点が高く且つ熱膨張率が大きい材料とした場合も両ワークを接合可能である。その場合、第1のワークW1及び第2のワークW2として、例えば「チタンと酸化ジルコニウム」、「インバーと炭化タングステン」及び「コバールとアルミナ(酸化アルミニウム)」の組み合わせであれば両ワークを本実施形態の摩擦圧接方法により接合可能である。
【0056】
従って、第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が異なる材料とすれば両ワークを接合可能である。このような異種金属材料を採用した場合も固相接合力と締め付け力により安定した接合状態が得られる。特に、異種金属材料部材を摩擦圧接により接合しようとする場合に過剰な入熱を与えると金属間化合物などによる接合阻害現象が生じ易くなる。これに対して、本実施形態では金属間化合物などによる接合阻害現象は回避される。
【0057】
<実施形態の効果>
従って、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第2のワークW2の第1のワークW1に対する圧接方向への送り速度(押し圧力)の単位時間当たりの変化量である微分値について、今回の微分値が前回の微分値以下のときには前記送り速度(押し圧力)は増大するようにした。一方、今回の微分値が前回の微分値を超えるときには前記送り速度(押し圧力)を維持するようにした。即ち、第1及び第2のワークW1,W2の接合面の軟化が進行するにつれて第2のワークW2の第1のワークW1に対する送り速度(押し圧力)が増大される。また、第1のワークW1の軟化が不十分であるときは第2のワークW2の第1のワークW1に対する送り速度(押し圧力)は維持される。そして、前記接合面が軟化すると、前述のように第2のワークW2の送り速度(押し圧力)が再び増大される。
【0058】
このため、第1及び第2のワークW1,W2の当接面の軟化状態を考慮することにより、第2のワークW2が第1のワークW1に対して過度に押し付けられることがなく好適に圧入される。また、第1及び第2のワークW1,W2の当接面の軟化状態を考慮に入れた最適な加工条件を得るために、第2のワークW2の送り速度、即ち圧接用モータ21のモータ電流値だけを管理すればよいので、例えば第2のワークW2の回転速度、即ち主軸22のモータ電流値をも考慮するようにした場合に比べて、加工制御の簡素化が図られる。
【0059】
(2)今回の微分値が前回の微分値より小さいときには、第2のワークW2の送り速度(押し圧力)は予め設定された割合で増大させるようにした。即ち、第1及び第2のワークW1,W2の接合面の軟化が進行したときには、第2のワークW2の送り速度(押し圧力)を所定の割合で増大させる。これにより、第2のワークW2の第1のワークW1に対する圧入開始から圧入完了までの時間を短縮することができる。
【0060】
(3)第2のワークW2の送り速度(押し圧力)が予め設定された上限値に達したときには、当該送り速度は予め設定された割合で減少させるようにした。このため、第2のワークW2が第1のワークW1に対して過度に押し付けられることをより確実に抑制することができる。
【0061】
(4)第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が高いものとした。換言すれば、第2のワークW2は第1のワークW1よりも融点が高く且つ熱膨張率が低いものとした。このようにすれば、摩擦接合完了後に冷却されたとき、第2のワークW2には両ワークの熱膨張率の差により第1のワークW1による締め付け力が働く。また、第1のワークW1と第2のワークW2の接合面(対向面)においては摩擦圧接による固相接合による固相接合力が発生するので、この固相接合力と前述の締め付け力との相乗効果により第1のワークW1と第2のワークW2とは互いに強固に接合される。また、第1のワークW1は第2のワークW2よりも融点が低く且つ熱膨張率が小さい材料とし、第2のワークW2は第1の第1のワークW1よりも融点が高く且つ熱膨張率が大きい材料とした場合も同様に強固に接合される。
【0062】
(5)その場合、第2のワークW2は第1のワークW1に対して予め設定された圧入深さまで圧入することが望ましい。即ち予め設定された圧入深さとは、固相接合力と締め付け力により安定した接合状態が得られる圧入深さのことであり、第1のワークW1及び第2のワークW2に採用する材料によって圧入深さは異なる。望ましくは、第2のワークW2の先端が第1のワークW1の板厚内に存在する深さまで圧入すればよい。従って、例えば第2のワークW2を第1のワークW1を貫通するようにした場合には、前記固相接合力が得られず、前記締め付け力のみによる接合であるため良好な接合状態が得られない。
【0063】
(6)第2のワークW2を円柱状(棒状)に形成するようにした。このため、第2のワークW2の断面形状とその回転軌跡は共に円形となり、第2のワークW2の回転中において、第1のワークW1における第2のワークW2との接合面に空気と接触する部位が形成されることはない。例えば第2のワークW2を角柱状(角棒状)に形成するようにした場合、当該第2のワークW2の断面形状(四角形)とその回転軌跡(円形)との違いにより、第2のワークW2の回転に伴って第1のワークW1における第2のワークW2との接合面に空気と触れる部位が発生する。そしてその空気に触れた部位には金属酸化膜(金属化合物)が形成され、接合強度が低下する。本実施形態のように、第2のワークW2を断面円形状にすることにより、第1のワークW1との良好な接合状態が得られる。
【0064】
<別の実施形態>
尚、前記各実施形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本実施形態では、制御装置41から電流指令値(即ち、送り速度指令値)が出力された際の圧接用モータ21へのモータ電流値(送り速度)を押し圧力とし、そのモータ電流値について単位時間当たりの変化量を求め、その変化量に基づいて圧接用モータ21を制御するようにしたが次のようにしてもよい。即ち、主軸22に第2のワークW2の第1のワークW1に対する実際の押し圧力を検出する装置(例えば圧力センサ)を設け、第1及び第2のワークW1,W2の材質に応じて予め設定した押し圧力が一定圧力となるよう圧接用モータ21へのモータ電流値を変化させて圧接用モータ21を制御するようにしてもよい。このようにしても本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
・本実施形態では、第1のワークW1を板状に、また第2のワークW2を円柱状に形成するようにしたが、第1のワークW1を円柱状に形成して第2のワークW2と突合せ状態で接合することも可能である。その場合、圧入側である第2のワークW2の径は固定側である第1のワークW1の径と同じ又は若干小径とする。そのようにすれば、第2のワークW2は第1のワークW1に食い込みやすくなる。ひいては第1のワークW1による締め付け力も得られやすくなる。
【0066】
・本実施形態では、第1のワークW1を固定側とし、第2のワークW2を圧入側としたが、逆にしてもよい。即ち、第1のワークW1を圧入側とし、第2のワークW2を固定側とする。このようにしても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
<別の技術的思想>
次に、前記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の摩擦圧接方法において、前記第1のワークは第2のワークよりも融点が低く且つ熱膨張率が高いものとした摩擦圧接方法。この構成によれば、摩擦接合完了後に冷却されると、第2のワークには両部材の熱膨張率の差により第1のワークによる締め付け力が働く。また、第1のワークと第2のワークの接合面(対向面)においては摩擦圧接による固相接合による固相接合力が発生する。前記締め付け力と前記固相接合力との相乗効果により両部材は強固に接合される。
(ロ)請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の摩擦圧接方法において前記第1のワークは第2のワークよりも融点が低く且つ熱膨張率が低いものとした摩擦圧接方法。この構成によれば、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、第1のワークと第2のワークの接合面(対向面)においては摩擦圧接による固相接合による固相接合力が発生し、摩擦接合完了後のワークを高温下で使用するとき、第2のワークには両部材の熱膨張率の差により第1のワークによる締め付け力が働き、前記締め付け力と前記固相接合力との相乗効果により強固な接合力が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態における摩擦圧接装置の概略構成図。
【図2】同じく摩擦圧接装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】(a)〜(d)は、同じく摩擦圧接工程における第1及び第2のワークの圧入状態を示す正面図。
【図4】同じく摩擦圧接装置による摩擦圧接の手順を示すフローチャート。
【図5】同じく摩擦圧接工程における圧接用モータの電流値変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0068】
11…摩擦圧接装置、W1…第1のワーク、W2…第2のワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のワークに対して第2のワークを回転させながら圧接して両部材を接合する摩擦圧接方法であって、
前記第2のワークは第1のワークに対して所定の深さまで圧入されるようにし、第2のワークの第1のワークに対する圧接方向への押し圧力の単位時間当たりの変化量である微分値を所定の制御周期毎に求めると共に今回の微分値と前回の微分値とを比較し、今回の微分値が前回の微分値以下のときには前記押し圧力を増大させる一方、今回の微分値が前回の微分値を超えるときには前記押し圧力を維持するようにした摩擦圧接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦圧接方法において、
今回の微分値が前回の微分値より小さいときには、前記押し圧力を予め設定された割合で増大させるようにした摩擦圧接方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の摩擦圧接方法において、
前記押し圧力が予め設定された上限値に達したときには、当該押し圧力を予め設定された割合で減少させるようにした摩擦圧接方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の摩擦圧接方法において、
前記第1のワークは第2のワークよりも融点が低く且つ熱膨張率が異なるものとした
摩擦圧接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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