説明

摩擦撹拌溶接による高強度および高靱性鋼構造体

溶接物の強度および溶接物の靱性を改善する有益なミクロ組織を有する摩擦撹拌溶接物によって接合される構造用鋼部品を含む、鋼構造体およびそのような構造体を製造する方法が提供される。本開示の一形態では、鋼構造体は、常套の溶融又は二次精錬を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品と、部品の接合面同士を接合した摩擦撹拌溶接物とを含み、出発構造用鋼の化学成分および粒径は、以下の基準:a)0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、b)0.7<Ti/N<3.5、c)0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、d)0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、e)少なくとも2ミクロンの平均粒径、の1つまたは複数を満たし、摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、摩擦撹拌溶接物の強度は、出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。鋼構造体は、石油およびガスの生産用ラインパイプに適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略的には鋼(又はスチール)の化学成分および構造体に関する。より具体的には、本開示は、鋼の化学成分と、摩擦撹拌溶接物を有する構造体に関する。さらにより具体的には、本開示は、鋼の化学成分と、有利な強度および靱性特性を示す摩擦撹拌溶接物を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
成形形材、鍛造品、鋳物、または板金などの金属部品を接合して、様々な産業用のいくつかの構造体または構成要素を組み立てるのは、主に融接で行われている。例えば、パイプおよび管を使用して、油井、ガス井、および地熱井用などのパイプラインを形成する組み立ては、従来からあるアーク溶接または融接によって主に行われている。パイプライン産業では、何十年にもわたり、パイプラインの組み立て用に、被覆金属アーク溶接(SMAW:shielded metal arc welding)、および機械化されたガス金属アーク溶接(GMAW:gas metal arc welding)などのいくつかの融接技術を幅広く使用してきた。溶接物の適切な特性(例えば、オーバマッチ(overmatch)、靱性など)をもたらす溶接消耗品および溶接施工方法を開発するために、かなりの努力がなされてきた。
【0003】
アーク溶接または融接では、接合部を形成するために、溶接される材料を溶融させることが必要である。そのようなプロセスでは、パイプ径が大きければ大きいほど、またはパイプの壁が厚ければ厚いほど、溶接接合部に、より大量の金属を溶融および溶着させなければならないので、溶接は遅くなる。沿岸のパイプラインの場合、特に遠隔領域では、パイプライン優先道路(ROW:right of way)への労働者および設備の配置に関係する費用が多額になるため、溶接は可能な限り経済的であることが重要である。海底パイプラインの場合、敷設船関連のコストが多額になるので、溶接は可能な限り経済的であることが重要である。海底パイプラインまたは沿岸パイプラインのいずれか用の引き込みパイプ内への溶接および配置に際して、様々な原因で発生するかなりの応力が存在し得る。例えば、敷設船の運転中に、敷設船から吊した、完成したパイプラインには、大きな曲げ応力が生じることがある。パイプラインは、内部圧力を封じ込めることに加えて、地盤移動を支持しなければならないことがある。さらに、従来の融接接合部は、接合部の機械的完全性を劣化させる熱的損傷を受けることがある。そのような特性の例には、引張り残留応力、水素割れ、融合不良欠陥、および低靱性がある。
【0004】
十分に確立された融接プロセスを使用するラインパイプ鋼の周溶接は通常、パイプの厚さに応じて3パス〜20パスの溶接ビードからなる。標準的な海底パイプラインの構築プロセス中に、接合は、溶接パス数とほぼ同数の溶接ステーションを有することで行われ、各ステーションは、1つまたは2つの特定の溶接パスを形成するように設計されており、これは、溶接速度を制限する。したがって、プロセス全体では、かなりの人員とその人員を収容する関連費用が必要とされ、特に、遠隔地では、さらに時間が必要とされ、これは、パイプラインの構築コストに影響を与える。
【0005】
約0.48〜1.00の範囲の炭素当量を有する、ケーシング鋼などの高い炭素含有率の鋼の場合、現行の溶接を実施するには、加工物を100℃〜400℃に予熱すること、および低水素の溶接部を形成することを実施する必要がある。そのような手法では、クラックを生じやすくする硬い熱影響部の形成と、溶接に関係する水素の吸収とを最小限にする必要がある。そのような溶接技術にまつわる困難さのために、高炭素鋼の加工物は、その代わりに様々なタイプの連結器を使用して、機械的に結合されることがよくある。
【0006】
従来の融接では、両方の溶接金属または熱影響部にクラックが出現することがあり、これらのクラックは溶接中か、またはある程度の期間使用後に形成される。溶接物の硬くて低靱性の領域、特に熱影響部は、特に、溶接した部品が、サワーサービス(sour service又は酸性環境)または他の侵略的プロセス環境で使用される場合に、使用中にクラックが発生することが多い。ガス、石油、および流体を輸送するために、何千マイルものパイプが毎年設置される石油化学工業の場合、修理の費用は膨大である。クラックが壊滅的に広がる恐れがある場合、危険な大きさまで成長する前に、これらのクラックを修復することは不可欠である。
【0007】
摩擦撹拌溶接(FSW:friction stir welding)は、アルミニウム合金などの低温溶融材料の溶接用として認識され、利用されてきた。FSWを鋼と他の高溶融温度材料との接合に適用することは、主に、1000℃〜1400℃の範囲の高温で機能できる適切な工具材料がないために制限されてきた。その結果、鋼接合分野におけるごく最近のFSW研究は、工具開発に集中している。構造用途に適した機械特性を得るために、鋼の摩擦撹拌溶接部のミクロ組織に対する理解を目的とした研究は非常に少ない。同様に、FSW接合特性、具体的には強度および靱性に及ぼす母材鋼の化学成分およびミクロ組織の影響を説明する研究は、どうしても確認されなかった。
【0008】
石油およびガス産業における、FSWに対する潜在的な用途には、パイプラインの組み立て、船舶、圧力容器、貯蔵タンク、および海底構造体が含まれる。FSWは、大量の溶接を必要とし、大入熱溶接施工、高速溶接プロセスを使用する、または溶接パス数を削減する状況にある任意の用途に潜在的に有用である。しかし、FSWが、十分に確立された融接プロセスとこの用途で競合するためには、いくつかの課題を解決しなければならない。パイプライン接合に対するFSWの技術的可能性を確立する上での主な課題の1つは、接合において必要とされる強度および靱性を達成することである。従来の融接では、接合の目標特性は、溶接金属の化学成分の構成と、溶接ワイヤ、シールドガス、および/または溶接用フラックスのような溶接消耗品を慎重に選択することを含む溶接施工方法とを通して得られる。FSWでは、溶接金属の独自の化学成分を選択する自由は基本的になく、特性は、母材金属の熱加工処理を通して得なければならない。この点について、FSWに適合する最適な構造用鋼を調製する方法が必要である。許容できる強度および靱性特性を得るために、FSWで使用される母材金属は、それらに限定するものではないが、電気アーク炉、真空炉、溶鉱炉、または酸素転炉を使用することを含む従来からの手法によって溶融させる、すなわち、二次精錬にかけることができるが、化学成分、処理、および粒径の適切な選択を必要とする。多くの構造用鋼は、粒径が20ミクロン〜75ミクロンである。処理の程度をさらに上げた鋼は、10ミクロン〜20ミクロンの範囲の粒度を有する。さらに先進の熱加工制御(TMCP:thermomechanical control processing)処理は、粒径が5ミクロン〜10ミクロンの母材金属を生成できる。さらにより強力なTMCP処理は、粒径が1ミクロン〜5ミクロンの範囲の母材金属を形成することができる。母材金属および摩擦撹拌溶接物の最終的な用途に応じて、所望の特性をもたらす適切なFSW手順に合わせて開始粒径を選択し、組み合わせることができる。
【0009】
したがって、鋼構造体を組み立てるための新たな効率的溶接技術が必要である。これには、摩擦撹拌溶接を使用して、溶接物の強度および靱性が改善された構造体を組み立てることが含まれる。鋼構造体を溶接する、特に、パイプライン構築費用を抑えてパイプラインを構築する、より迅速かつより簡単で、あまり資本集約的でない方法も必要である。摩擦撹拌溶接に適合した母材金属を調製および製造し、摩擦撹拌溶接される組立品の最終用途に応じて、特定の母材金属を選択する方法も必要である。
【0010】
定義
便宜上、本明細書および特許請求の範囲で使用される、様々な構造用鋼および溶接に関する用語を以下に定義する。
【0011】
「許容溶接物強度」:母材鋼の強度を常に上回る強度レベル。
【0012】
「許容溶接物靱性」:0℃以下において、亀裂先端開口変位(CTOD:crack-tip opening displacement)試験で測定して、0.05mmを超える靱性。
【0013】
「HAZ」:熱影響部。
【0014】
「熱影響部」:溶接線に隣接し、溶接の熱による影響を受ける母材金属。
【0015】
「靱性」:破壊に対する抵抗性。
【0016】
「疲労抵抗」:周期的に荷重がかかる状態での破壊(クラックの発生および広がり)に対する抵抗性。
【0017】
「降伏強さ」:永久変形のない荷重支持に対応する強度。
【0018】
「FS(friction stir)」:摩擦撹拌。
【0019】
「FSW(friction stir welding)」:摩擦撹拌溶接。
【0020】
「摩擦撹拌溶接」:加工物間の溶接された接合部を形成する固体接合プロセス。溶接接合部には、2つの加工物間に回転工具を押し込み、工具を接合面に沿って移動させることで、金属加工物を接合するための熱が発生する。
【0021】
「FSP(friction stir processing)」:摩擦撹拌処理。
【0022】
「摩擦撹拌処理」:ピンを構造体内に部分的に差し込んで、FSW工具を構造体の表面に押し付けることにより、その表面を処理および調整する方法。
【0023】
「粒径」:母材のミクロ組織単位の寸法の大きさ。各単位体は、隣接する単位体と比較して大きく異なる結晶配向および/または母材ミクロ組織を有する。本明細書で使用される粒径は、冶金関連の当業者に公知のいくつかの技術の1つにより測定することができる金属の平均粒径を指す。そのような技術の1つが、ASTM E1382に記載されている。
【0024】
「溶接接合部」:溶融した、または熱加工的に変化した金属と、溶融した金属の「ほぼ周辺」ではあるが、範囲外にある母材金属とを含む溶接された接合部。溶融した金属の「ほぼ周辺」の範囲内とみなせる母材金属の部分は、溶接工学関連の当業者に公知の因子に応じて変わる。
【0025】
「溶接物」:溶接によって接合された部品の組立品。
【0026】
「溶接性」:特定の金属または合金を溶接する実現可能性。化学成分、表面仕上げ、熱処理性、欠陥形成性向などを含む多数の要因が溶接性に影響を及ぼす。
【0027】
「炭素当量」:鋼の溶接性を特定するために使用され、すべての単位が重量%である式CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15によって表されるパラメータ。
【0028】
「水素割れ」:溶接した後に溶接部で発生し、吸収した水素、残留応力などの応力、およびマルテンサイトなどのクラックを生じやすいミクロ組織の存在により引き起こされるクラック。
【0029】
「TMAZ(thermo-mechanically affected zone)」:熱加工影響部。
【0030】
「熱加工影響部」:温度サイクルおよび塑性変形の両方を受けたFSW接合部の領域。
【0031】
TMAZ−HZ:TMAZ−硬質部、FSW溶接物の最も硬い領域。
【0032】
「デュプレックス」:2相、具体的にはオーステナイトおよびフェライトからなるステンレス鋼。
【0033】
「構造用鋼」:使用時にある種の機械的負荷がかかる鋼。
【0034】
「マルテンサイト−オーステナイト構成成分(MA)」:冷却中にマルテンサイトおよび残留オーステナイトの混合物に変態する、フェライト鋼または溶接部内のミクロ組織の残存領域。これらの領域は、多くの場合、冷却中に変態する最後の領域である。MA領域は、より高い温度ですでに変態した周囲領域からの排斥炭素のために安定化する。安定化により、オーステナイトのMAへの変態は、周囲領域よりも低い温度で起こる。MAの領域は通常、マルテンサイトが大部分を占め、一方、はるかに少量(10%未満)の残留オーステナイトが含まれるにすぎない。MAは、熱サイクルに2回かかった溶接部またはHAZの事前のオーステナイト粒界にしばしば見られる。MAはまた、変質上部ベイナイトおよび下部ベイナイトからなるラス状ミクロ組織内のラス境界でも見つけることができる。MAは通常、構造用鋼に存在するいくつものラス境界、パケット境界、または粒界上に認められる。
【0035】
「針状フェライト(AF:acicular ferrite)」:AFは、多くの場合、冷却中に鋼溶接部でオーステナイトから変態する最初の変質生成物であるが、初析フェライト(ポリゴン化フェライト)が最初にできることもときにはある。AFは小さい非金属介在物(含有物又は内包物)の核となり、次いで、ベイナイト型変態機構によって急激に成長する。AF結晶粒は通常、アスペクト比が、冷却速度および化学成分に応じて、約2:1〜20:1の範囲をとる針状形態を呈する。この変態には、剪断成分および拡散成分の両方がある。変態温度は、拡散成分と剪断成分との間の相互作用を制御し、したがって、AF形態を確定する。
【0036】
「粒状ベイナイト(GB:granular bainite)」:中心に配置された、マルテンサイト−オーステナイト(MA)の小さい「島」を囲む、3つ〜5つの相対等軸ベイニティックフェライト結晶粒からなる集合体を指す。通常の「結晶粒」径は、約1μm〜2μmである。
【0037】
「上部ベイナイト(UB:upper bainite)」:糸状またはフィルム状の、セメンタイトなどの炭化物相が散在した針状またはラス状ベイニティックフェライトの混合物を指す。炭素含有率が約0.15重量%を超える鋼に最もよく見られる。
【0038】
「変質上部ベイナイト(DUB:degenerate upper bainite)」:各コロニーが剪断応力によって一組(1パケット)の平行ラスに成長するベイナイト生成物。ラス成長時およびその直後に、一部の炭素がインタラスオーステナイト内に排斥される。炭素含有率が比較的低いために、封入オーステナイトの炭素濃縮は、板状セメンタイトの核生成を誘発するのに十分ではない。そのような核生成は、標準的な上部ベイナイト(UB)の形成をもたらす中炭素鋼およびそれ以上の高炭素鋼で起こる。DUB内のインタラスオーステナイトにおける低い炭素濃縮により、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト(MA)構成成分が形成されるか、あるいは、残留オーステナイト(RA)として保持されることがある。DUBは、標準上部ベイナイト(UB)と混同されることがある。何十年も前に中炭素鋼で最初に特定されたこの種のUBには、(1)パケット内で成長する平行ラスセット、(2)ラス境界でのフィルム状セメンタイトという2つの基本的な特徴がある。UBは、共に平行ラスからなるパケットを含む点でDUBと類似しているが、基本的な相違はインタラス材料にある。炭素含有率が約0.15〜0.4であると、セメンタイト(FeC)がラス間にできることがある。これらの「フィルム」は、DUB内の断続的なMAと比べて比較的連続的であり得る。低炭素鋼の場合、インタラスセメンタイトはできず、残りのオーステナイトが、MA、マルテンサイト、またはRAとなって終わる。
【0039】
「下部ベイナイト(LB:lower bainite)」:LBは、DUBと同様な平行ラスからなるパケットを有する。LBはまた、小さいイントララス炭化物析出物を含む。これらの板状粒子は、主ラス成長方向(ラスの長手方向)から約55°で配向された単結晶バリアント上に常に析出する。
【0040】
「ラスマルテンサイト(LM:lath martensite)」:LMは薄い平行ラスからなるパケットとして出現する。ラス幅は、通常約0.5μm未満である。焼戻しされていないマルテンサイトラスコロニーは炭化物がないことを特徴とし、それに対して、自己焼戻しLMは、イントララス炭化物の析出物を見せる。自己焼戻しLM内のイントララス炭化物は、マルテンサイトの(110)面などの2つ以上の結晶バリアント上にできる。多くの場合、セメンタイトは1方向に沿って整列せず、むしろ、多平面上に析出する。
【0041】
「焼戻しマルテンサイト(TM:tempered martensite)」:TMとは、鋼のマルテンサイトの熱処理された形態を指し、熱処理は炉内で行われるか、または加熱ラップを使用するなど、局部手段を用いて行われる。焼戻しのこの形態は、溶接組み立て後に行われる。セメンタイトの析出は可能であるが、オーステナイトの形成に対しては低すぎる温度範囲での逸脱時に、準安定組織のマルテンサイトにセメンタイトが析出すると、ミクロ組織および機械特性が変化する。
【0042】
「自己焼戻しラスマルテンサイト」:溶接などの工程からの冷却中に自己焼戻しを受けるマルテンサイト。冷却時に、通常の焼戻しに対して行われるような再加熱なしに、セメンタイトの析出が現場で起こる。
【0043】
「パーライト」:通常、フェライトおよびセメンタイト(FeC)の交互層で構成される、2相の層状混合物。低炭素構造用鋼では、パーライトは、共通の層配向を有する異なるパーライト領域の群化を意味するコロニーと呼ばれるものに出現することが多い。
【0044】
「結晶粒」:多結晶材料内の個々の結晶。
【0045】
「粒界」:1つの結晶配向から他への移行に対応する、したがって、1つの結晶粒を他と分離する金属内の狭い区域を指す。
【0046】
「結晶粒粗大化温度差」:A3温度と結晶粒の急激な成長が起こる温度との間の温度範囲。結晶粒の急激な成長が起こる温度は、鋼の化学成分およびミクロ組織と、高温での経過時間量とに依存する。
【0047】
「事前の(又は旧)オーステナイト粒径」:鋼部品が、AF、GB、DUB、LB、またはLMなどの低温変態生成物が生成される温度範囲まで冷える前に存在した平均オーステナイト粒径を指す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0048】
溶接物強度および溶接物靱性を改善させる有益なミクロ組織を有する摩擦撹拌溶接物によって接合される構造用鋼部品を含む鋼構造体が提供される。そのような鋼構造体を製造する方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0049】
本開示の1つの形態では、有益な鋼構造体は、常套(又は従来)の溶融又は二次精錬を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品と、部品の接合面同士を接合(又は結合)した摩擦撹拌溶接物を含み、
出発(又は開始)構造用鋼の化学成分(又は化学)および粒径は、以下の基準:
a)0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b)0.7<Ti/N<3.5、
c)0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d)0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e)少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たし、
摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前の(又は旧)オーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
摩擦撹拌溶接物の強度は出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。
【0050】
本開示の別の形態では、構造用鋼を溶接する有益な方法は、常套の溶融又は二次精錬を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品を用意して、出発構造用鋼の化学成分および粒径は、以下の基準:
a)0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b)0.7<Ti/N<3.5、
c)0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d)0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e)少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たすことと、
摩擦撹拌溶接物を形成するために十分な条件下で、溶接される構造用鋼部品の接合面に摩擦撹拌溶接を受けさせることを含む方法であり、
その摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
摩擦撹拌溶接物の強度は出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える方法である。
【0051】
開示する鋼構造体および本開示の構造用鋼を溶接する方法のこれらおよび他の形態、ならびにこれらの有益な用途および/または使用法が、特に、添付の図面と併せて読む場合に、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0052】
対象を製造および使用する際の当業者の助けとするために、添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】摩擦撹拌溶接によって2つの管状構造用鋼部品を接合する方法の概略図である。
【図2】摩擦撹拌溶接によって2つの管状構造用鋼部品を接合する際の金属シムの使用を示す図である。
【図3】摩擦撹拌溶接によって2つの管状構造用鋼部品を接合するための摩擦撹拌溶接工具部品(ピンおよびショルダ部)を示している。
【図4】摩擦溶接工具が構造用鋼上を右から左に移動するときの構造用鋼の冷却および加熱を上部に示し、それに対応させて、時間に応じた構造用鋼の温度および塑性歪みを底部に示している。
【図5】2つの商用ラインパイプ鋼板によって形成されたFSW接合部の撹拌領域におけるCTOD靱性のばらつきを示している。
【図6】NbおよびCの含有率に対応したNbCのソルバス温度を示している。
【図7】(a)鋼1内の微細(約10nm)Nb(C、N)析出物、および(b)鋼2内のより粗い(約200nm)Ti(C、N)析出物、を有する母材金属のミクロ組織を示す透過電子顕微鏡法による顕微鏡写真を示している。
【図8】(a)鋼3(本発明による鋼)、および(b)鋼2(比較用の鋼)、を有するX80鋼の母材金属ミクロ組織を示す走査電子顕微鏡法による顕微鏡写真を示している。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本明細書において、[発明を実施するための形態]および特許請求の範囲にあるすべての数値は、示した値を「おおよその」または「近似的な」ものとして修正され、当業者によって予測される実験誤差およびばらつきが考慮される。
【0055】
参照によりその全体を本明細書に援用される米国特許出願公開第20070175967号明細書は、溶接および金属部品のクラックの修復方法を開示し、その方法は、溶接物の意図された用途に基づいて、前もって選択された特性または特性群を有する溶接接合部またはクラック修復部を形成するのに十分な条件下で、溶接されるべき金属部品を摩擦撹拌溶接にかけ、修復されるべきクラックを摩擦撹拌処理にかけることによって提供される。
【0056】
参照によりその全体を本明細書に援用される米国特許出願公開第20070181647号明細書は、天然ガスの輸送および貯蔵、油井およびガス井の完成および生産、ならびに石油およびガスの精製装置および化学プラント用の用途において、金属構造体および部品を接合および修復する摩擦撹拌処理および摩擦撹拌溶接方法の使用を開示している。
【0057】
参照によりその全体を本明細書に援用される米国特許出願公開第20080032153号明細書は、石油およびガス、ならびに/または石油化学用途における摩擦撹拌およびレーザ衝撃処理の使用を開示している。
【0058】
参照によりその全体を本明細書に援用される国際公開第2008/045631号パンフレットは、鋼の組成およびその鋼から2相鋼を製造する方法を開示している。一形態では、2相鋼は、約0.05重量%〜約0.12重量%の量の炭素、約0.005重量%〜約0.03重量%の量のニオブ、約0.005重量%〜約0.02%の量のチタン、約0.001重量%〜約0.01重量%の量の窒素、約0.01重量%〜約0.5重量%の量のシリコン、約0.5重量%〜約2.0重量%の量のマンガン、ならびに総量が約0.15重量%未満のモリブデン、クロム、バナジウム、および銅を含む。鋼は、フェライトで構成される第1の相と、炭化物、パーライト、マルテンサイト、下部ベイナイト、粒状ベイナイト、上部ベイナイト、変質上部ベイナイトからなるグループから選択された1つまたは複数の構成成分を含む第2の相とを有する。
【0059】
参照によりその全体を本明細書に援用される特開2008−31494号公報は、600℃を超える温度で、フェライト領域を拡大し、2相(フェライト+オーステナイト)領域を混合するための、あるいはSi(0.4%〜4%)、Al(0.3%〜3%)、Ti(0.3%〜3%)および/またはそれらの組み合わせなどのフェライト安定化元素を加えることによって形成された平衡相図内のオーステナイト相領域を縮小するための、意図した化学成分を有する低合金構造用鋼を開示している。
【0060】
概要
本明細書において、鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法が提示され、その鋼構造体は、常套の溶融又は二次精錬の実施によって生成され、溶接物強度および溶接物靱性を改善させる有益なミクロ組織を備えた摩擦撹拌溶接物によって接合される構造用鋼部品を含む。本明細書に開示する鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、摩擦撹拌溶接物に「許容できる」強度および靱性を付与する。鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、構造用鋼の化学成分の範囲、粒径を含む初期構造用鋼のミクロ組織、ならびに許容できる溶接物強度および溶接物靱性のこの組み合わせを達成するために必要な摩擦撹拌プロセスパラメータを教示する。
【0061】
本明細書に開示する鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、炭素鋼および合金鋼、特に、石油およびガス産業のラインパイプに対して幅広い用途で実用される。他の用途には、パイプラインの組み立て、船舶、圧力容器、貯蔵タンク、および海底構造体が含まれる。本明細書に開示する鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法はまた、大量の溶接を必要とし、大入熱溶接施工、高速溶接プロセスを使用する、または溶接パス数を削減する状況にある用途に有用である。本明細書に開示する鋼構造体および摩擦撹拌溶接を利用してそのような鋼構造体を製造する方法の非限定的、例示的な利点には、融接と比較して削減された組み立てコスト、融接と比較して低減された溶接物の欠陥、必要なNDE(非破壊評価)の削減、修復コストの削減、および熟練工の必要性の低減が含まれる。
【0062】
摩擦撹拌溶接プロセス
摩擦撹拌溶接(FSW)は、融接が含むような溶融および固化を含まない固体接合技術である。摩擦撹拌溶接時に、摩擦による熱の発生と可塑化とにより、2つの異なる加工物同士を溶接するために回転工具を使用する。非消費性回転工具は、溶接される材料に押し込まれ、このとき、ショルダ部の前にある中心ピンまたはプローブが、接合される2つの部品と接触する。工具の回転により、加工物の材料が加熱され、加工物材料の融点に達することなく塑性状態に軟化する。工具が継ぎ目に沿って移動するときに、工具の前部からの材料は、この可塑化された環状部を通って後部に押し流されて境界がなくなる。可塑化領域に入った一部の材料は、溶接の後部近くから出る前に、回転工具のまわりに1回転を超えて進行することができ、次いで、室温まで冷える。
【0063】
図1を参照すると、加工物の接合面3、4が互いに接触するように配置された2つの管状加工物1、2が示されている。加工物1、2は、それらの接合面3、4に沿って互いに溶接される。図1に示すように、摩擦撹拌溶接(FSW)工具は、ショルダ部5および摩擦ピン6を備えた溶接ヘッドを含む。ショルダ部およびピンの相対的な寸法または形状は、特定の溶接要求に適するように変えることができ、様々な幾何形状がこの開示に適する。加工物1、2は、クランプするなど機械的手段によって共に保持されるので、接合面3、4は、開始前および溶接中に互いに物理的に接触している。摩擦撹拌溶接ヘッド5は、矢印7で示すように回転され、矢印8で示すように加工物1、2内に下方に押し込まれ、矢印9で示すように円周方向に進む。片面溶接の場合、工具押し込み深さは、基本的に、加工物、すなわち溶接される部品の厚さである。両面溶接の場合、そのような深さは、溶接される加工物の厚さの約半分とすることができる。結果として、円周溶接が形成される。FSW工具は、セラミック、金属、複合材、およびそれらの他の派生物を含む、高温接合可能な任意の工具材料で構成することができる。
【0064】
例えば、管状加工物の表面開口クラックを修復する場合、ピン6が加工物に最後まで押し込まれるのではなくて、表面的にだけ押し込まれ、進行する工具の方向がクラックの外形をたどることを除いて、図1に関連して説明したのと同様の手順を使用する。これは、摩擦撹拌溶接と区別するように、摩擦撹拌修復または摩擦撹拌処理と呼ばれる。修復および/または処理は、プロセシングとも呼ばれる。
【0065】
図2に示す例示的な実施形態では、加工物1、2は、接合面3、4の間に挟まれた金属シム11を有する。加工物は、接合面がシム11と接触するように配置されている。FSW工具は、加工物1、2の母材金属および金属シム11を含む溶接部を形成するように進む。これは、摩擦撹拌修復または摩擦撹拌処理と区別するように、摩擦撹拌溶接と呼ばれる。
【0066】
容易に分かるように、上記の実施形態で説明した(構造用鋼部品とも呼ばれる)加工物は、同じ母材金属(構造用鋼のタイプ)で形成されてもよいし、または異なる鋼タイプで構成されてもよい。同様に、金属シムは、接合するために加工物と同じ金属で形成されてもよいし、または溶接特性を改善するために特別な合金で構成されてもよい。このように、摩擦撹拌溶接用の構造用鋼部品および金属シムは、用途に応じて同じ鋼タイプか、または異なる金属で形成することができる。構造用鋼は、それらに限定するものではないが、真空炉、電気アーク炉、溶鉱炉、または酸素転炉内で溶融することを含む常套の溶融又は二次精錬の実施によって生成することができ、通常、2ミクロン〜100ミクロンの平均母材金属粒径を有する。非限定的、例示的な構造用鋼には、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレード、またはより高い強度の鋼がある。さらに別の態様では、構造用鋼として、それらに限定するものではないが、AISI 1010、1020、1040、1080、1095、A36、A516、A440、A633、A656、4063、4340、6150、および(高強度グレードを含む)他のAISIグレードを含む普通炭素鋼および合金鋼を挙げることができる。さらに別の態様では、構造用鋼として、ASTMグレードA285、A387、A515、A516、A517、および他のATMグレードの炭素低合金鋼を挙げることができる。
【0067】
図3により詳細に示すように、FSW工具100は、摩擦ピン110および工具ショルダ部120という2つの部分を含む。ショルダ部120は、FSW時に熱を発生させる主要手段であり、材料の排除を防止し、工具のまわりの材料の移動を助ける。摩擦ピン110の機能は、主に工具のまわりに材料を変形させることであり、一方、摩擦ピンの二次的機能は熱を発生させることである。アルミニウムのFSWで使用されるFSW工具は通常、工具材料および工具構造の選択を限定する、大きな押し込み圧力などのいくつかの細かい特徴がある円筒状のピンを有する。鋼の溶接の場合、W−ReまたはPCBNで構成されたピン径可変工具が有利である。様々なFSW工具形状が本開示に適合する。本開示は、摩擦撹拌溶接特性を改善するための母材金属精錬の選択に関する。本明細書で説明した工具は、本発明の母材金属が好ましい反応を示す必要な熱加工サイクルをもたらす。
【0068】
欠陥のないFSWは、的確な工具構造およびプロセスパラメータを使用することで実現することができる。これらのプロセスパラメータには、それらに限定するものではないが、摩擦撹拌溶接工具の溶接移動速度、摩擦撹拌溶接工具の回転速度、摩擦撹拌溶接工具にかかるねじり負荷、摩擦撹拌溶接工具に作用する下降力負荷または移動負荷、および溶接物の冷却速度のうちの1つまたは複数が含まれる。工具構造および上記のプロセスパラメータは、材料の流れに影響を及ぼし、この材料の流れは、処理時の高歪み速度および温度を補償するように制御することができる。
【0069】
FSWの利点は、次の特徴から主に得られる。(1)接合を行うのに必要とされる温度が融接に比べて低いこと。接合部の低い温度のために、接合部内および隣接する母材金属内の両方に有害な影響(例えば、粗い結晶粒)があまりもたらされない。(2)工具の回転によって生ずる塑性変形の程度が高いこと。その結果として、強度および靱性を改善する助けとなる微細な粒径が得られる。(3)融接と比較した溶接物内の水素脆化の回避。溶接は、アーク内の残留水分が分解するために、水素脆化をよく起こす傾向がある。
【0070】
構造用鋼を接合する際にFSW接合部の強度および靱性の両方を達成する困難さを図4の概略図によって示すことができる。図4は、FWSプロセス時にFSW工具が接合部の任意の地点を通過するときの温度および歪みの変移を示している。グラフの実線は温度変化を示し、グラフの点線は塑性歪みの変化を示している。水平な点線は、フェライトとオーステナイトとの間の変態を示している。工具が通り過ぎるときに、接合部の各地点は、3つの熱加工段階、すなわち、「加熱」、「加熱+変形」、および最終的な「冷却」を受ける。この説明では、温度および歪みの変化が観測される仮想の固定点に対する冶金的変化について説明する。「加熱」段階では、地点の温度は、前の領域の変形により発生した熱からの熱伝導のために、工具が到着する前に上昇する。温度の上昇により、フェライトからオーステナイトへの相変態が起こり、オーステナイト粒が成長する。第2の段階で、工具が地点に到着すると、結晶粒は塑性変形を受け、その結果、動的再結晶により結晶粒が微細化する。第3の段階で、動的に再結晶した結晶粒は、静的に回復し、再結晶し、その後結晶粒が成長する。再結晶した結晶粒は、冷却時に、鋼の化学成分、処理条件、粒径を含む開始ミクロ組織、および溶接冷却速度に応じて、ラスマルテンサイトか、自己焼戻しラスマルテンサイトか、あるいは粒状ベイナイトまたは変質上部ベイナイトまたは下部ベイナイトおよび/またはマルテンサイト−オーステナイト構成成分もしくは残留オーステナイトなどの様々なベイナイトのいずれかを含む、あり得るミクロ組織の1つまたは混合物に最終的に変態する。
【0071】
摩擦撹拌溶接物または接合部の強度および靱性は、接合部のミクロ組織に依存するので、FSWプロセスパラメータを使用して、目標とするミクロ組織を形成することができる。最終的なミクロ組織は、最終的な冷却に先行するすべての熱加工プロセスの結果であるので、接合部の目標特性の達成を確実にするように、FSW法のプロセスパラメータを制御することが必要である。本明細書に開示する摩擦撹拌溶接接合部のミクロ組織および機械特性は、化学成分、処理履歴、ミクロ組織、および母材(構造用鋼)の粒径、さらにはFSWプロセスパラメータ(摩擦撹拌溶接工具の溶接移動速度、摩擦撹拌溶接工具の回転速度、摩擦撹拌溶接工具にかかるねじり負荷、摩擦撹拌溶接工具に作用する下降力負荷または移動負荷、および溶接物の冷却速度)によって決まる。
【0072】
したがって、構造用鋼のFSW接合部では靱性を変えることができ、特定の許容CTODまたはシャルピーVノッチ目標値を満たすものもあるし、母材金属の化学成分およびミクロ組織、ならびにFSWプロセスパラメータに依存しないものもある。図5は、2つの商用ラインパイプ鋼に形成されたFSW接合部の撹拌領域におけるCTOD靱性のばらつきを示している。低溶接靱性の主な原因は、大きな粒径と、高炭素マルテンサイト−オーステナイト(MA)構成成分のある粗いベイナイトとを有する所望しないミクロ組織から生じる。したがって、結果として得られた接合部が、特定の許容値を常に満たす強度値および靱性値を有するように、摩擦撹拌溶接のプロセスパラメータおよび母材鋼(鋼の化学成分、粒径を含む初期ミクロ組織)を制御することが必要である。本明細書に開示する鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、溶接物の強度および靱性に対する許容ガイドラインを常に満たす、またはそれを超える鋼構造体を、摩擦撹拌溶接を用いて生み出すために、これらのパラメータの範囲を特定した。
【0073】
例示的な鋼構造体
本明細書に開示する鋼構造体の1つの形態は、常套の(又は従来の)溶融の実施によって生成された2つ以上の構造用鋼部品と、部品の接合面同士を接合した摩擦撹拌溶接物とを含み、出発構造用鋼の化学成分および粒径は、以下の基準:
a.0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b.0.7<Ti/N<3.5、
c.0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d.0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e.少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たし、
摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前の(又は旧)オーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
摩擦撹拌溶接物の強度は出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mmを超えるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。
【0074】
一形態では、摩擦撹拌溶接物は、60ミクロン以下、50ミクロン以下、または30ミクロン以下、または20ミクロン以下、または10ミクロン以下、または5ミクロン以下の事前のオーステナイト粒径を有することができる。別の形態では、摩擦撹拌溶接物は、2ミクロン以上、または5ミクロン以上、または7ミクロン以上、または10ミクロン以上、または15ミクロン以上、または20ミクロン以上の事前のオーステナイト粒径を有することができる。事前のオーステナイト粒径は、FSW時に、鋼の化学成分、粒径を含む初期母材金属ミクロ組織、FSWパラメータ、FSW撹拌動作直前の加熱速度、およびFSW撹拌動作の後の冷却速度などの因子によって制御することができる。いくつかの因子は、FSW接合部の最終的な室温での粒径を制御する事前のオーステナイト粒径を確定するのに影響を及ぼす。動的および静的な再結晶化事象は、特に影響を及ぼす因子である。溶接中に撹拌領域内で到達する最も高い温度の大きさ、およびこれらの温度にある時間長さも同様に特に影響を及ぼす因子である。FSW熱加工サイクルの最も高い温度部分前後の結晶粒の成長の広がりも因子であり、そのような期間中の結晶粒の成長は、温度、温度にある時間、および結晶粒の成長に対するミクロ組織の抵抗性によって制御される。
【0075】
動的再結晶化による結晶粒の微細化に関して、それらに限定するものではないが、変形温度、塑性歪み、および歪み速度を含むいくつかの因子が粒径を制御する。重要という点で、温度は粒径に顕著な影響を及ぼすことができ、続いて歪み速度、次いで歪みが影響を及ぼす。この序列では、塑性歪みが動的再結晶のための臨界歪みを超えると仮定している。塑性歪みが臨界歪みを超えると、歪みはそれ以上の影響を粒径に及ぼさず、一方、塑性歪みが臨界歪み未満の場合に、歪みは顕著な影響を及ぼす。前記の説明を踏まえて、FSW時の塑性歪みは臨界歪みを超えるので、歪みは主要因子とみなされず、一方、ミクロ組織はほぼピーク温度にあり、支配的FSWによる強制歪みを受ける。歪み速度は粒径に影響を及ぼし、歪み速度が速ければ速いほど、粒径は微細になる。しかし、歪み速度の影響は、温度と比べてあまり顕著でない。温度の10%〜20%の変化に相当する影響をもたらすのに、数桁の歪み速度変化を要することがある。温度および歪み速度は反対の影響を及ぼすので、温度が下がり、歪み速度が上がることで、より微細な粒径の(動的な)再結晶化が促進され、逆も同様である。
【0076】
FSW時に、材料が高い温度をかけられている場合、到達した温度および高温での経過時間量は、粒径に影響を及ぼす重要な因子である。他の研究者の過去の研究では、鋼のFSW時の温度は、約1000℃と推定された。鋼の摩擦撹拌溶接時の実際の温度は、溶接領域内の位置などの可変要素に応じて、1000℃、または1200℃程度の高さであり得るし、あるいは1300℃に及ぶことさえあり得ると分かった。これらの高温では、撹拌領域のミクロ組織を制御および最適化する新規の手法が必要である。温度が高くなるほど、高い温度にある時間が長くなるほど、粒径は大きくなる。図4によれば、結晶粒成長の対象となる温度は、水平の点線で概略的に示すように、フェライト/オーステナイトの変態温度か、またはそれより上の温度である。この図は、本来概略的なものであり、結晶粒成長にとって重要な温度または温度範囲は、単一の温度値だけで具体的に表すことはできない。フェライト鋼の場合、鋼冶金学関連の当業技術者に公知のように、温度が、いわゆる下側変態温度A1および上側変態温度A3の周辺にある場合に、フェライト、ベイナイト、およびマルテンサイトのような室温ミクロ組織と、オーステナイトといったより高温の組織との間の遷移が起こる。FSW時の結晶粒成長は、溶接される材料の温度がA3温度よりもはるかに高く(本明細書では結晶粒粗大化温度差とも呼ばれる)、それとともにこの温度での経過時間が十分に長いときに起こる。鋼のミクロ組織および化学成分に応じて、結晶粒粗大化温度差は変わることがある。
【0077】
ミクロ組織の粗さを最終的に制御するFSWパラメータおよび条件をどうやって選択するかをより深く理解するために、結晶粒粗大化温度を求めることは有益である。鋼冶金学関連の当業者、より詳細には、高温鋼処理関連の当業者には公知のように、Gleebleまたは他の熱サイクルシミュレータを使用する一連の実験を行って、特定の鋼に対する結晶粒粗大化温度を求めることができる。熱間ねじり、または熱間圧縮実験を行うことができ、それによって、一連のサンプルに、900℃〜1300℃、または1400℃程度の高さになることさえある様々なピーク温度をかけることができる。歪みサイクルを選択して、FSWなどの研究対象のプロセスをシミュレーションすることができる。所定のピーク温度に達した後、サンプルを特定の時間にわたってこの温度に保持し、次いで、サンプルを冷却する。冷却後、標準的な金属組織学的技術を使用して、事前のオーステナイト粒径を測定することができる。ピーク温度と、ピーク温度にある時間とを系統的に変える一連の実験を使用して、特定の鋼に対する結晶粒粗大化温度および温度差を特定することができる。実験的手法の代替案として、いくつかのモデル化手法の1つを使用して、鋼の結晶粒粗大化挙動を予測することができる。特定の鋼に対する前述の実験的技術ほど正確ではなくても、結晶粒粗大化挙動のモデル化予測は、最適な溶接条件を選択してミクロ組織の粗さを制御するために必要な情報を提供するのに十分正確であり得る。
【0078】
FSW時の結晶粒成長は、(図4に示すように)熱加工サイクルの高い歪み部分の直前か、このサイクルの直後か、またはFSWパラメータおよび移動速度に応じて起こることができ、ある種の結晶粒成長現象が、熱サイクルの最も高温の部分時に起こることも可能である。結晶粒成長が、溶接熱サイクルの早期、中期、または後期のいつ起こるかに関係なく、(撹拌領域の)溶接材料が到達した温度およびこれらの温度での経過時間量が、粒径を制御する支配的な因子である。これらの温度およびA3温度よりも高い温度での経過時間は、FSW溶接パラメータの選択と、FSWの周囲の温度の制御とによって制御することができる。FSW溶接パラメータとして、溶接移動速度、工具回転速度、およびFSW工具にかけられる力などの項目を挙げることができる。周囲温度を制御することには、母材を局部加熱または局部冷却することを含めることができる。
【0079】
FSW時に、撹拌領域の温度がA3温度よりも100℃以上、または200℃以上、または300℃以上、または400℃以上高く、数秒より長い間そのままである場合、結晶粒成長が起こって、粗い粒径と、大量のMAおよび他の所望しないミクロ組織上の特徴と、最終的に劣化する特性とをもたらすことがあると分かった。結晶粒粗大化温度差は、本明細書では、FSW時の撹拌領域の温度と溶接される鋼のA3温度との間の温度差として定義される。摩擦撹拌溶接を使用する用途に応じて、結晶粒粗大化温度差を制限することが望ましい。結晶粒粗大化温度差は、FSWによって製造される鋼構造体の用途、および溶接される鋼のタイプに応じて、100℃以下、または200℃以下、または300℃以下、または400℃以下の大きさに制御することができる。必要な強度および靱性に対する要求が厳しくない一部の一般用途の場合、結晶粒粗大化温度差は、400℃以下の大きさに制御することができる。必要な機械特性に対する要求がより厳しい他の用途の場合、結晶粒粗大化温度差は、300℃以下、または200℃以下、または100℃以下の大きさに制御することができる。したがって、結晶粒粗大化温度差の範囲は、用途に応じて、0℃〜400℃、または0℃〜300℃、または0℃〜200℃、または0℃〜100℃とすることができる。
【0080】
A3温度より上での経過時間に関しては、FSWによって製造される構造体の用途、および溶接される鋼に応じて、10秒以下に時間を制御することで十分である。さらに要求の厳しい構造用途では、A3温度より上での経過時間を8秒以下に制限することが必要なことがある。より高い靱性用途の場合、結晶粒粗大化温度より上での経過時間は、6秒以下、あるいは4秒以下に制御されることが必要なことがある。必要な靱性が特に厳しい構造用途の場合、結晶粒粗大化温度より上での経過時間は、2秒以下、あるいは1秒以下に制限されることがある。
【0081】
温度および時間(すなわち、溶接熱サイクル)は、FSW工具のタイプ、溶接パラメータ、および二次的温度制御(例えば、予熱または改善された冷却)などの可変要素を選択して制御することができる。FSW関連の当業者には公知のように、より高い摩擦係数を有する工具材料は、同じ溶接パラメータで稼働するが摩擦係数がより低い工具よりも高い温度をもたらす。FSW工具に加えられる回転速度が速ければ速いほど、温度が高くなる。溶接移動速度が遅ければ遅いほど、同様に溶接温度が高くなる。移動速度を遅くすることで、さらに、溶接材料がより長い時間にわたって、より高い温度のままになる。ショルダ部の面積をより広くするなどの工具形状効果も高い温度をもたらす。したがって、溶接熱サイクルを変えるために、様々なパラメータが溶接技術者に利用可能である。
【0082】
溶接移動速度および工具回転速度は、溶接熱サイクルの制御に影響を及ぼすFSWプロセスの変量である。粗い結晶粒、大量のMA、粗いミクロ組織、および低靱性のような劣化機械特性を回避するために、本明細書で開示した鋼構造体では、FSW溶接パラメータは、FSWによって組み立てられる鋼構造体の用途に適するように注意深く選択および制御されなければならない。遅すぎる溶接移動速度、または速すぎる工具回転速度、またはこれら2つの任意の組み合わせにより、ミクロ組織および機械特性が許容できないものになることがある。
【0083】
通常用途の場合、FSWプロセスを5インチ/分以下の移動速度で実施すれば十分であろう。それ以上に要求の厳しい用途の場合、移動速度を5インチ/分以上、または10インチ/分以上にすることが必要なことがある。高い靱性が望まれるさらにより要求の厳しい用途の場合、溶接移動速度を15インチ/分以上、または20インチ/分以上にすることが必要なことがある。したがって、FSW工具の移動速度の範囲は、用途に応じて、1インチ/分〜30インチ/分、または5インチ/分〜30インチ/分、または10インチ/分〜30インチ/分、または15インチ/分〜30インチ/分、または20インチ/分〜30インチ/分の範囲をとることができる。
【0084】
回転速度に関しては、通常用途の場合、必要なミクロ組織および特性を得るために、FSWプロセスを800rpm以下の速度で実施すれば十分であろう。より要求の厳しい用途の場合、工具速度を600rpm以下、または500rpm以下、または400rpm以下にすることが必要なことがある。高い靱性が望まれるさらにより要求の厳しい用途の場合、工具速度を300rpm以下、または200rpm以下にすることが必要なことがある。したがって、FSW工具の工具回転速度の範囲は、用途に応じて、100rpm〜800rpm、または100rpm〜600rpm、または100rpm〜500rpm、または100rpm〜400rpm、または100rpm〜300rpm、または100rpm〜200rpmの範囲をとることができる。高生産性を目的として、15インチ/分以上の高速の移動速度で移動することが望ましい一部の特有な用途の場合、1000rpmまたは2000rpmなどの高い工具回転数を使用することが必要なことがあるが、そのような動作中に発生する熱は、移動速度によって相殺することができる。この相殺により、撹拌領域のミクロ組織は、目標とするミクロ組織および特性を得るために、本明細書に開示した新規の手法を使用して、引き続き制御することができる。
【0085】
構造用鋼の初期ミクロ組織は、2ミクロン程度に小さい微細粒径を有することができるだけでなく、ミクロ組織内に細かく分散された粒子を有することもできる。これらの細かく分散された粒子として、それらに限定するものではないが、窒化物(例えば、TiN、BN)、炭化物(例えば、NbC)、炭窒化物(例えば、Nb(C、N)、Ti(C、N))、酸化物(例えば、TiO、TiO、MgO、TiO/MgO)、遷移元素のホウ化物(例えば、TiB、FeB、CrB)、およびそれらの組み合わせがあり得る。本明細書に開示した摩擦撹拌溶接用の構造用鋼の一形態では、TiN+NbC+TiO/MgOの組み合わせ重量%は、0.01重量%よりも大きく0.1重量%よりも小さいか、あるいは、0.03重量%よりも大きく0.07重量%よりも小さい範囲をとることができる。構造用鋼の開始(出発又は初期)ミクロ組織は最終的な粒径の進化に影響を及ぼし、再結晶化の核生成が粒界で優先的に行われるので、初期粒径が微細なほど再結晶化運動が速くなり、再結晶化された粒径が微細になる。本明細書に開示した新規のFSW技術による構造用鋼(本明細書では「出発構造用鋼」または「初期構造用鋼」とも呼ばれる)の母材金属の開始粒径は、2ミクロン程度にすることができる。より粗い粒径を有する鋼に対して、新規のFSW技術は、最終微細化を行い、特定の鋼の化学成分および溶接条件に応じた、60ミクロン以下の最終的な事前のオーステナイト粒径を見せるので、母材金属の粒径に上限を設ける必要はない。出発構造用鋼のミクロ組織に(FSW温度で安定している)微細分散粒子が存在することで、FSW時の熱加工サイクルのすべての段階で結晶粒成長が抑制される。通常、これらの粒子は、板金の製造に使用される熱加工制御(TMCP)時に結晶粒成長を抑制するので、これらの微細分散粒子の存在は、初期ミクロ組織のより微細な粒径にも関係する。したがって、出発構造用鋼のミクロ組織内での微細粒径と微細第2相分散粒子との組み合わせは、本明細書に開示した鋼構造体および鋼構造体を形成する方法にとって有益である。
【0086】
TiおよびMgなどの特定の合金元素を利用して、出発構造用鋼内に微細粒子を分散させることもできる。オーステナイト結晶粒内にあるそのような微細分散粒子は、結晶粒成長を抑制する、析出によるピン止めとしてだけでなく、粒界フェライト(IGF)または針状フェライト(AF)の核として機能することができる。IGFは、微細分散粒子のまわりに生じ、その結果として、オーステナイト結晶粒は、強度および靱性が向上した、より微細な結晶粒に分割される。そのような鋼では、このようにオーステナイト結晶粒の粗大化が抑制され、IGFがそれらの内部に生じ、結果として、ミクロ組織を大幅に微細化することができる。
【0087】
出発構造用鋼の初期ミクロ組織はまた、例えば、パーライトコロニーなどの炭素分離相をなくすこともできる。パーライトコロニーなどの粗大炭素分離相が存在すると、そのような相内では炭素濃度が高いために、FSW時に粗大なMA構成成分の形成が促進されることがあるので、FSW接合部の靱性が低くなることがある。MAは、TMAZまたはHAZなどの、撹拌領域またはその近くの領域に生じることがある。本明細書に開示した摩擦撹拌溶接用の構造用鋼の一形態では、25体積%未満、または20体積%未満、または15体積%未満、または10体積%未満のパーライトを含むことができる。
【0088】
微細粒径を制御する別の因子は、FSW熱サイクルの後の方の段階時の結晶粒成長である。微細結晶粒が動的再結晶化によって形成される場合でさえ、第2相粒子を用いて粒界をピン止めすることによってか、または溶質元素が作用するドラッグによってかのいずれかで結晶粒成長を回避することができる。粒径を微細化するのに、これらの手法の1つまたは両方が必要とされることがある。これらの手法は、母材鋼の化学成分および処理の変更を通じてでしか導入することができない。
【0089】
粒子ピン止めにより結晶粒成長を抑制する場合、第2相粒子として、それらに限定するものではないが、窒化物(例えば、TiN、BN)、炭化物(例えば、NbC)、炭窒化物(例えば、Nb(C、N)、Ti(C、N))、酸化物(例えば、TiO、TiO、MgO、TiO/MgO)、この場合、フォーマッティング(formatting)が一部変わる遷移元素のホウ化物(例えば、TiB、FeB、CrB)、およびそれらの組み合わせを含めることができる。これらの粒子は、摩擦撹拌溶接で生じるピーク温度が判明した上で選択される。これらの粒子は1000℃を超える温度で粒界ピン止めを行うことができる。例えば、これらの粒子は、1100℃、1200℃、1300℃、または1400℃になることさえあるピーク温度に有用である。媒質ドラッグにより結晶粒成長を抑制する場合、鉄と比較して異なる原子サイズを有する媒質元素が有益であり得る。非限定的、例示的な媒質元素には、タングステン、モリブデン、およびニオブがある。鉄と比較して原子サイズに大きな違いのない元素は、結晶粒成長に二次的な影響を及ぼすことがあり、これらの元素には、それらに限定するものではないが、クロム、銅、バナジウム、ニッケル、およびそれらの組み合わせがあり得る。
【0090】
結晶粒成長を抑制する粒子の設計に重要になり得る2つの因子が特定された。第1の因子は粒子間距離であり、大きい粒子間距離は、粒界がそばを通ってループを形成するのを可能にし、したがって、結晶粒成長をあまり阻止することができない。それに対して、小さい粒子間距離は、粒界のループ形成を防止することができ、したがって、結晶粒成長に対する抵抗性を高めることができる。粒子の粒子間距離は、100nm未満、または80nm未満、または60nm未満、または40nm未満、または20nm未満、または10nm未満とすることができる。第2相粒子サイズは、鋼製造時の化学成分および処理によって制御することができる。例えば、TiN粒子の粒子間間隔は、Ti/N比を小さくする、すなわち、窒化物の理論混合比(3.42)よりも小さくすることで短縮することができ、一方、比率をより大きくすると粒子はより粗くなり、粒子間間隔がより大きくなる。
【0091】
第2相粒子の設計において結晶粒成長の抑制を確定できる第2の因子は、FSW温度での粒子の安定性である。あまり安定的でない粒子は粗大化することがあり、それによって粒子間距離が拡大し、一方、安定的な方の粒子は粗大化しない。鋼での溶接用途に有用ないくつかの粒子の相対安定性に関する非限定的、例示的リストは以下の通りである。
BN>TiO>TiN>TiB>NbC>VC
【0092】
このリストはそれに尽きるものではないし、例えば、NbまたはVの多くの炭化物および炭窒化物を含むように拡張することができる。
【0093】
ピン止め元素の濃度はFSW温度での安定性に影響を及ぼすことができ、粒子が1000℃を超える温度で安定しているのは重要である。図6は、鋼内にあるNbCの、高い温度での計算溶解度を示している。プロットから分かるように、0.1重量%〜0.15重量%の範囲にあるニオブ濃度により、FSW温度で安定した粒子を得ることができる。
【0094】
成長はまた、鋼内に特定の媒質元素を導入することで抑制することができる。固溶体内の、例えば、Nb、Ti、V、Mo、およびWなどのミクロ合金元素は、鋼における大抵の拡散制御プロセスを抑制する。特定の原子の原子サイズがFe原子と比べて大きく異なっているほど、この抑制は強力になる。Nb、Mo、およびWは、この点で有利なミクロ合金元素であり得る。一方で、Nb、Mo、Wなどの元素はまた、高濃度において靱性を低めるMA構成成分の形成を促進することがある。したがって、これらの元素は、高濃度で添加することができない。MA構成成分を推進しない補助元素セットを添加して、粒界移動を適度に抑制することができる。これらの元素の例には、それらに限定するものではないが、Cu、Cr、Co、Ni、およびMnがある。
【0095】
媒質ドラッグ効果は、合金元素の組み合わせによって大幅に改善することができる。NbおよびBからなる複合添加物は、(Nb、B)複合体の形成により、高温において、媒質ドラッグに強力な相乗効果をもたらすことができる。オーステナイト粒界にそのような複合体が存在することで、Nb原子の媒質ドラッグ力を高めて、粒界移動速度を減ずることもできる。
【0096】
前述の説明に基づき、出発構造用鋼の化学成分を以下の範囲にすることで、媒質ドラッグおよび粒子ピン止めにより結晶粒成長を抑制することができる。
【0097】
【表1】

【0098】
さらに、以下の元素を出発構造用鋼に添加して、粒子ピン止めにより結晶粒成長を抑制することができる。
【0099】
【表2】

【0100】
これらの添加元素の中で、ホウ素は、構造用鋼の結晶粒成長を抑制する際に、0ppm〜500ppm、または5ppm〜250ppm、または5ppm〜100ppm、または5ppm〜50ppmの量で有益であり得る。
【0101】
出発構造用鋼用の化学成分の前述の範囲内で、溶接物に十分な強度および靱性の両方をもたらす摩擦溶接性能を得るために、以下のさらなる基準の1つまたは複数を満たさなければならない。
【0102】
【表3】

【0103】
ニオブは、粒子ピン止めおよび媒質ドラッグの両方を提供することができる。媒質ドラッグのメカニズムは、ニオブ炭窒化物が部分的に分解されて、ニオブが固溶体に存在する高い温度において引き起こされる。より低い温度において、ニオブは、Nb(C、N)によって粒子ピン止めを提供する。
【0104】
本明細書に開示した摩擦撹拌溶接物を有する鋼構造体はまた、許容できる強度および靱性を得るために、マルテンサイト−オーステナイト(MA)構成成分を50体積%未満、または40体積%未満、または30体積%未満、または25体積%未満、または20体積%未満、または15体積%未満、または10体積%未満だけ含む。開示した構造用鋼の化学成分および事前のオーステナイト粒径の範囲にわたって、この範囲内でのマルテンサイト−オーステナイト構成成分の形成が、特に、MAが形成される900℃〜200℃の温度範囲の間で、溶接部の化学成分および冷却速度によって影響を受けることがある。通常、冷却速度が遅いほど、より高い温度の変態生成物の形成を促進し、マルテンサイト−オーステナイト構成成分などの脆弱相を生成する高い炭素分配をもたらす。
【0105】
FSW溶接部のミクロ組織構成成分のバランスとして、マルテンサイト、下部ベイナイト、微細粒状ベイナイト、変質上部ベイナイト、マルテンサイト−オーステナイト構成成分、および針状フェライトを含む他のベイニティックフェライト相の組み合わせがあり得る。FSW溶接部のミクロ組織として、徐冷および/または低化学成分という条件下で、ポリゴン化フェライトまたは場合によってはパーライトがあり得る。MAの形成はまた、鋼の化学成分を調整することで制御することができる。したがって、FSW溶接部の、MAを含む様々な構成成分の量は、選択された鋼化学成分の組み合わせと溶接冷却速度の制御とを用いて制御することができる。
【0106】
本明細書に開示した鋼構造体の強度および靱性に影響を及ぼす他の因子は、摩擦撹拌溶接用の構造用鋼内にある低レベルの介在物(含有物又は内包物)および不純物元素の存在である。介在物は、鋼の製造作業の結果として鋼中に存在することがあるし、または工具の摩耗汚染物、もしくはFSWの前の接合面上の汚染物から生じることもある。工具技術は、工具からの汚染物が概ね最小限になる程度まで進んだが、溶接技術者は、それでもなお、適切な技術を通じて十分な工具の耐久性を保証しなければならない。溶接接合部の準備が不完全なことに起因する介在物は、溶接前の注意深い清浄作業によって回避することができる。本明細書に開示した鋼構造体のさらに別の態様は、調製した化学成分および良好な清浄性を有する構造用鋼により、高い靱性を得るための良好な粒界凝集力が保証され得ることである。粒界の脆化は、粒界破壊をもたらすことがある。この破壊の出現は、構造用鋼のリンおよび硫黄成分などの侵入型合金元素に関係することが多い。一形態では、出発構造用鋼は、100ppm未満の硫黄および150ppm未満のリンを含むことができる。別の形態では、出発構造用鋼は、75ppm未満の硫黄および125ppm未満のリンを含むことができる。さらに別の形態では、出発構造用鋼は、50ppm未満の硫黄および75ppm未満のリンを含むことができる。FSW時に起こる温度逸脱により、より大きい事前のオーステナイト粒径と、基本構造用鋼よりも脆化し易いミクロ組織とに起因する、粒界脆化に対する脆弱性が悪化することがある。
【0107】
最適なFSW適合性と最適な強度および靱性とを意図された、本明細書に開示した鋼の特徴によれば、硫化マンガン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、窒化チタン、ならびに鋼内に生じる他の様々なスピネルおよび他の酸化物などの非金属介在物を低レベルで含む鋼を選択することは有益である。これは、最終的な溶接ミクロ組織が、主にマルテンサイトおよび/またはベイナイトである場合に特に重要である。そのような溶接ミクロ組織は、耐脆性破壊性という観点から、非金属介在物の存在の影響を特に受けやすい。要求の厳しい必要靱性を満たすために、FSWの場合は母材金属によって決まる溶接部の介在物含有量を制限することが必要である。最適な摩擦撹拌溶接部を得るための出発構造用鋼の一形態では、鋼は、研磨した断面を観察することによって特定された介在物を1mm当たり100個未満含んでもよい。この必要条件は、0.5ミクロン以上の介在物に関するものであり、そのような介在物は、靱性に対して最も有害である。別の形態では、出発構造用鋼は、1mm当たり75個未満の介在物、または1mm当たり50個未満の介在物、または1mm当たり40個未満の介在物、または1mm当たり30個未満の介在物を含んでよい。高い靱性を必要とする最も要求の厳しい用途の場合、1mm当たりの介在物は、20個未満としなければならない。重ねて、これらの介在物必要条件は、0.5ミクロン以上の介在物に関するものである。
【0108】
FSW用の出発構造用鋼を最適に調製するために、合理的な範囲に限るが、用途および必要靱性に応じて、低いかまたは高い全酸素含有量を利用することができる。酸素系粒子が粒界ピン止めに使用される場合、鋼の全酸素含有量でバランスを取らなければならない。酸素が少なすぎると、粒子数が不十分になり、それに対して、酸素が多すぎると、粒子が多くなりすぎて靱性が低くなる。本明細書に開示した技術によれば、ほとんどの用途に対する酸素の上限は、200ppmである。これは、その用途がさらに厳しい必要靱性を要求された場合に、150ppmまたは100ppmまで減ぜられることがある。粒界ピン止め粒子が酸素系でない場合、従来の鋼溶融の実施により、通常5ppm以上の酸素含有量となる。したがって、最適な酸素含有量は、用途および必要な靱性に応じて、5ppm〜200ppmの範囲をとることができる。
【0109】
上記に基づき、FSW接合部の靱性および強度を強化するには、粒径の微細化、目標とするミクロ組織構成成分、および不純物に関する制限が有益であり得る。これらは、初期構造用鋼の化学成分、粒径を含む初期構造用鋼のミクロ組織、ならびにFSWの処理および冷却条件の相乗的な組み合わせで達成することができる。
【0110】
本明細書に開示した鋼構造体の別の形態では、摩擦撹拌溶接物は、40ミクロン未満のオーステナイト粒径と、25体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有することができる。本明細書に開示した鋼構造体のさらに別の形態では、摩擦撹拌溶接物は、30ミクロン未満のオーステナイト粒径と、15体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有することができる。本明細書に開示した鋼構造体のさらに別の形態では、摩擦撹拌溶接物は、20ミクロン未満のオーステナイト粒径と、10体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有することができる。
【0111】
摩擦撹拌溶接物を有する鋼構造体を形成するのに使用される2つ以上の構造用鋼部品は、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレード、またはより高い強度の鋼で構成することができる。パイプの肉厚は、3.2mm〜38.1mm、または6.4mm〜31.8mm、または12.7mm〜25.4mmの範囲をとることができる。別の形態では、パイプの肉厚は、25.4mm〜50mmの範囲をとることができる。
【0112】
上記の化学成分およびミクロ組織の範囲内の構造用鋼を使用して形成された摩擦撹拌溶接物は、許容できる強度および靱性の組み合わせをもたらす。一形態では、摩擦撹拌溶接物の強度は構造用鋼より高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mmを超えるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。この形態では、0℃以下での亀裂先端開口変位は、代替案として、0.1mm、または0.15mm、または0.2mm、または0.25mm、または0.3mmを超えることができる。この形態では、0℃以下において、シャルピーVノッチ衝撃試験によって測定された摩擦撹拌溶接物の靱性は、75J、または100J、または125J、または150J、または175J、または200Jを超えることができる。
【0113】
構造用鋼を溶接する例示的な方法
本明細書に開示する構造用鋼を溶接する方法の一形態は、従来の溶融を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品を用意し、出発構造用鋼の化学成分および粒径は、以下の基準:
a)0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b)0.7<Ti/N<3.5、
c)0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d)0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e)少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たすことと、摩擦撹拌溶接物を形成するのに十分な条件下で、溶接される構造用鋼部品の接合面を摩擦撹拌溶接にかけることを含み、
その摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
摩擦撹拌溶接物の強度は、出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。
【0114】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法の一形態では、形成された摩擦撹拌溶接物は、60ミクロン以下、または50ミクロン以下、または40ミクロン以下、または30ミクロン以下、または20ミクロン以下、または10ミクロン以下、または5ミクロン以下の事前のオーステナイト粒径を有することができる。本明細書に開示した方法の別の形態では、摩擦撹拌溶接物は、2ミクロン以上、または5ミクロン以上、または10ミクロン以上、または15ミクロン以上、または20ミクロン以上の事前のオーステナイト粒径を有することができる。前述したように、事前のオーステナイト粒径は、FSW時に、鋼の化学成分と、鋼の処理によって制御される粒径を含む初期母材金属ミクロ組織と、FSWプロセスパラメータと、FSW後の冷却速度とによって制御することができる。
【0115】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法では、微細粒径を有するだけでなく、ミクロ組織内に細かく分散された粒子も有するべきである。これらの微細分散粒子として、それらに限定するものではないが、窒化物(例えば、TiN、BN)、炭化物(例えば、NbC)、炭窒化物(例えば、Nb(C、N)、Ti(C、N))、酸化物(例えば、TiO、TiO、MgO、TiO/MgO)、遷移元素のホウ化物(例えば、TiB)、およびそれらの組み合わせがあり得る。本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法の一形態では、TiN+NbC+TiO/MgOの組み合わせ重量%は、0.01重量%より大きく0.1重量%より小さいか、あるいは、0.03重量%より大きく0.07重量%より小さい範囲をとることができる。
【0116】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法ではまた、例えば、パーライトコロニーなどの炭素分離相をなくすべきである。本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法の一形態では、25体積%未満、または20体積%未満、または15体積%未満、または10体積%未満のパーライトを含むことができる。
【0117】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法は、許容できる強度および靱性を得るために、マルテンサイト−オーステナイト(MA)構成成分を50体積%未満、または40体積%未満、または30体積%未満、または25体積%未満、または20体積%未満、または15体積%未満、または10体積%未満だけ含む摩擦溶接物を形成する。
【0118】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法は、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレード、またはより高い強度の鋼からなる構造用鋼を利用することができる。これらの構造用鋼は、前述したように、低レベルの介在物および不純物元素を有するべきである。一形態では、構造用鋼は、不純物元素として、100ppm未満の硫黄および150ppm未満のリンを含むべきである。別の形態では、構造用鋼は、不純物元素として、75ppm未満の硫黄および125ppm未満のリンを含むべきである。さらに別の形態では、構造用鋼は、不純物元素として、50ppm未満の硫黄および75ppm未満のリンを含むべきである。
【0119】
本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法は、摩擦撹拌溶接を上記の構造用鋼組成と組み合わせて利用する。適切な溶接物を形成するために制御すべきFSWプロセス条件には、それらに限定するものではないが、以下のもの、すなわち、摩擦撹拌溶接工具の溶接移動速度、摩擦撹拌溶接工具の回転速度、摩擦撹拌溶接工具にかかるねじり負荷、摩擦撹拌溶接工具に作用する下降力負荷または移動負荷、および溶接物の冷却速度のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0120】
摩擦撹拌溶接工具の溶接移動速度は、1インチ/分〜30インチ/分、または5インチ/分〜25インチ/分、または10インチ/分〜20インチ/分の範囲をとることができる。摩擦撹拌溶接工具の回転速度は、100rpm〜700rpm、または200rpm〜600rpm、または300rpm〜500rpmの範囲をとることができる。摩擦撹拌溶接工具にかかる下降力負荷、または移動負荷は、1000lb〜25,000lb、または5000lb〜20,000lb、または10000lb〜15,000lbとすることができる。溶接物が形成された後の溶接物の冷却速度は、10℃/秒〜400℃/秒、または50℃/秒〜300℃/秒、または100℃/秒〜200℃/秒の範囲をとることができる。
【0121】
上記の化学成分およびミクロ組織の範囲内の構造用鋼を使用する、本明細書に開示した構造用鋼を溶接する方法は、許容できる強度および靱性の組み合わせをもたらす。一形態では、摩擦撹拌溶接物の強度は構造用鋼より高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が0.05mmを超えるか、あるいは、0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える。この形態では、0℃以下での亀裂先端開口変位は、代替案として、0.1mm、または0.15mm、または0.2mm、または0.25mm、または0.3mmを超えることができる。この形態では、0℃以下において、シャルピーVノッチ衝撃試験によって測定された摩擦撹拌溶接物の靱性は、75J、または100J、または125J、または150J、または175J、または200Jを超えることができる。
【0122】
用途
一態様では、本明細書に開示した摩擦撹拌方法は、構造用途に使用する鋳鉄および炭素鋼部品を溶接および修復するのに有用である。別の態様では、本明細書に開示した摩擦撹拌溶接方法は、構造用鋼を溶接および修復するのに有用である。これらの構造用鋼は、それらに限定するものではないが、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレード、またはより高い強度の鋼を含む、石油およびガス産業で使用されるラインパイプ鋼とすることができる。パイプの肉厚は、3.2mm〜38.1mm、または6.4mm〜31.8mm、または12.7mm〜25.4mm、または25.5mm〜50mmの範囲をとることができる。
【0123】
さらに別の態様では、本明細書に開示した溶接撹拌方法は、普通炭素鋼および合金鋼を溶接および修復するのに特に有用である。例示的であるが、限定するものではない普通炭素鋼および合金鋼として、AISI 1010、1020、1040、1080、1095、A36、A516、A440、A633、A656、4063、4340、6150、および高強度グレードを含む他のAISIグレードが挙げられる。他の例示的な炭素低合金鋼には、ASTMグレードA285、A387、A515、A516、A517、および他のASTMグレードの炭素低合金鋼が含まれる。
【0124】
本明細書に開示した摩擦撹拌方法を使用して、溶接領域を修復するだけでなく、例えば、スポット溶接、突き合わせ溶接、およびT継ぎ手などの溶接を形成することができる。より詳細には、FSW方法を使用して、石油およびガス産業に関連する構造体および構造用鋼部品を、それぞれ接合および修復/処理することができる。FSWによる接合は、部品が製造される製鋼所などの製造施設か、または(パイプラインなどの)部品が組み立てられる組み立て現場のいずれかで行うことができる。FSPによる修復および処理は、一般的には現場で行われる。結果として得られた構造体は優れた強度および靱性を呈し、多くの場合、低コストで接合および修復/処理することができる。
【0125】
本明細書に開示した鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、石油およびガスの探査、生産、精製用途において、構造体を形成および修復/処理するのに適している。FSWは、これらのタイプの用途において、管状の構造用鋼部品のスポット溶接および突き合わせ溶接を形成するのに特に有利である。
【0126】
本明細書に開示した、FSWによる製造方法が適用される、石油およびガスの探査、生産、精製産業での、例示的であるが非限定的な鋼構造体とは、パイプライン溶接領域、鋼架線ライザ(SCR)および上部懸垂ライザ(TTR)溶接領域、ねじ付き部品、石油掘削装置溶接領域(すなわち、深海石油ドリルストリングの2つの部分)、液化天然ガス(LNG)および加圧LNG(PLNG)用コンテナ溶接領域、ライザ/ケーシング接合部、および坑口装置である。
【0127】
石油およびガスの上流の用途では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、天然ガスを輸送および貯蔵するタイプの用途で使用される構造体および部品を接合および修復するのに適する。特に、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、パイプライン、圧縮天然ガス(CNG)、加圧液化天然ガス(PLNG)、液化天然ガス(LNG)、および他の貯蔵/輸送技術から広がるガス輸送技術を実現するために利用することができる。天然ガスを輸送および貯蔵するタイプの用途の一形態では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、パイプライン、流動ライン、集合ライン、伸縮ループ、および他の輸送ラインの接合/処理に使用することができる。天然ガスを輸送および貯蔵するタイプの用途の別の形態では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、炭素鋼および構造用鋼からなる材料の接合/処理に使用することができる。天然ガスを輸送および貯蔵するタイプの用途のさらに別の形態では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、LNG、CNG、およびPLNGの貯蔵用構造体および/または輸送用構造体の接合/処理に使用することができる。これには、モジュール化されたLNG構造体、輸送船、移送部品およびパイプライン、ならびに関連技術が含まれる。
【0128】
石油およびガスの探査ならびに生産用途では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法を利用して、油井およびガス井の完成、ならびに生産のために使用される様々な構造体を接合および修復することができる。これらの構造体には、それらに限定するものではないが、海底および沿岸の生産構造体、石油パイプライン、石油貯蔵タンク、ケーシング/管、完成および生産部品、流動ライン連結部の鋳物構造体、海中部品、掘削穴用管状製品(例えば、OCTG(油井管))、トップサイドおよび関連する構造体、アンビリカル、重頭船および補給船、ならびにフレアタワーがある。より詳細には、例示的な海底生産構造体には、ジャケット型プラットフォーム、可動海底掘削ユニット、ならびにケーシング、緊張材、ライザ、および海底施設などの関連する生産部品がある。可動海底掘削ユニットには、それらに限定するものではないが、半潜水艇およびジャックアップ式掘削装置、張力脚プラットフォーム(TLP)、深喫水ケーソン船(DDCV)、コンプライアントタワー、浮体式生産・貯蔵・積み出し(FPSO)船、浮体式貯蔵および積み出し(FSO)船、船舶、タンカーなどがある。例示的な海中部品には、それらに限定するものではないが、マニホルドシステム、ツリー、およびBOP(防噴装置)がある。例示的なトップサイドおよび関連する構造体には、デッキ上部構造、掘削装置、居住区、ヘリコプタ発着デッキ、および関連する構造体がある。当然のことながら、FSWを使用して、かかる構造体および部品を含む溶接部を形成することができ、また、FSPを使用して、かかる構造体を含む溶接部または接合部を修復および処理することができる。
【0129】
下流の用途では、本明細書に開示した鋼構造体を製造する方法は、精製および化学プラントで使用される構造体および部品を接合および修復するのに適する。本明細書に開示した鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法は、特に、部品/構造体の修復、異種金属接合、鋼構造体の接合、および鋳鉄などの溶接が困難な材料の接合を通して、精製および化学プラント用途に利益をもたらす。これらの用途には、それらに限定するものではないが、鋳鉄、熱交換器管、ならびに低温および高温プロセスおよび圧力容器がある。例示的な低温および高温プロセスおよび圧力容器には、水蒸気分解機管、水蒸気改質管、ならびに精製装置構造体および部品がある。開示したFSW技術に適した例示的な材料には、13%クロム鋼グレード、2相ステンレス鋼、および超2相ステンレス鋼などの耐食性材料がある。
【0130】
以下は本開示の実施例であり、本発明の範囲、または請求項の範囲に関する限定と解釈すべきでない。
【実施例】
【0131】
以下の実施例は、本明細書に開示した鋼構造体およびそのような鋼構造体を製造する方法の有益な性能をさらに示す。すべての実施例において、試験用板金を圧延方向に沿って半分に分割し、突き合わせ接合部用として用意した。サンドグラインドにより酸化物スケールを除去した後、メタノールで脱脂した。溶接サイクル中の酸化を防止し、工具寿命を延ばすために、アルゴンガス雰囲気を使用したが、アルゴンシールドは、本明細書に開示した新規のFSW技術では重要な因子ではない。
【0132】
W−Re工具を使用して、溶接速度3.5インチ/分、工具回転数170rpmでFSWを行った。ASTM E1820および/またはBS 7448 1、2、4巻に準拠してCTOD靱性測定を行った。試料形状は、標準規格B×2B(a/W=0.5)、単一縁部ノッチ曲げ(SENB)構成とした。摩擦撹拌溶接に当たり、撹拌領域および熱加工影響部(TMAZ)内の様々な位置に疲労予亀裂を配置した。予亀裂は、板厚(L−T)方向に向けた。試験温度は、周囲温度から−60℃までの範囲とした。
【0133】
標準的な金属組織学的手法を使用して、光学的走査電子顕微鏡法(SEM)、光学的透過電子顕微鏡法(TEM)、およびミクロ硬度検査用の金属組織学的サンプルを溶接物から採取し、続いて2%ナイタル溶液を用いてエッチングを行った。
【0134】
実施例1
FSWの検討において、厚さ約1/2インチのAPI X80グレードラインパイプ鋼を使用した。鋼の化学組成(重量%)を第一表に示す。以下の実施例では、示したCTOD値は得られた下限値である。
【0135】
【表4】

【0136】
破壊靱性に及ぼす影響を実証するために、Nb+Ti含有率が異なる鋼1および鋼2を選択した。Nb+Ti含有率が高い方の鋼1が鋼2よりも優れた靱性を有する。鋼2は、鋼1よりもはるかに大きい(40μm〜60μm)事前のオーステナイト結晶粒も見せた。
【0137】
図7は、鋼1の高密度微細(約10nm)NbCおよび/またはNb(C、N)析出物の存在を示す透過電子顕微鏡写真を示している。対照的に、鋼2には、主にTi(C、N)析出物からなる低密度粗大(約200nm)析出物が存在した。
【0138】
実施例2
FSWの検討において、厚さ約1/2インチの高強度ラインパイプ鋼を使用した。鋼の化学組成(重量%)を第二表に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
FSW接合部の機械特性に及ぼす、鋼板の初期粒径およびミクロ組織の影響を検討するために、(本発明による)鋼3および(比較としての)鋼2を調べた。前述したように、最終的な鋼板粒径は、TMCPプロセスの結果として、第2相粒子の影響を反映する。
【0141】
図8は、(本発明による)鋼3と(比較としての)鋼2との間でミクロ組織を比較した、母材金属の走査電子顕微鏡写真を示している。鋼2では、母材金属ミクロ組織に関して、主に、約5μm〜約25μmの範囲の粒径を有するフェライトが支配的であった。ほんのわずかながら第2相もミクロ組織に存在し、これらの領域は、マルテンサイト、ベイナイト、およびパーライトコロニーの混合物を含んでいた。他方で、鋼3は、微細な初期粒径を有する母材金属ミクロ組織を見せている。母材金属は、主に、約5μm〜約15μmの範囲の粒径を有するフェライト相で構成されていた。鋼3の第2相は、主として、粒状ベイナイト(GB)およびマルテンサイトであり、一方、パーライトコロニーはなかった。
【0142】
出願人は、合理的に予測され得る、開示した対象のすべての形態および用途を開示することを試みた。しかし、等価物として残る、予測できない、実質のない修正形態があり得る。本開示が、その特定の例示的実施形態とともに説明されたが、前述の説明を考慮すれば、本開示の趣旨または範囲から逸脱することのない多くの変更、修正、および変形が当業者に明らかになるのは明白である。したがって、本開示は、上記の[発明を実施するための形態]に対するかかる変更、修正、および変形をすべて包含することを意図されている。
【0143】
特許、試験手順書、および優先権書類を含む本明細書に記載した他の文献はすべて、参照により、かかる開示が本発明と矛盾しない範囲で完全に援用され、また、そのような援用が許されるすべての管轄権に対して完全に援用される。
【0144】
数字で表した下限および数字で表した上限が本明細書に記載されている場合、任意の下限から任意の上限までの範囲が企図される。本明細書における[発明を実施するための形態]および特許請求の範囲の中のすべての数値はまた、「おおよその」ものとして修正して解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常套の溶融又は二次精錬を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品と、前記部品の接合面同士を接合する摩擦撹拌溶接物を含む鋼構造体であって、
出発構造用鋼の化学成分および粒径が、以下の基準:
a)0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b)0.7<Ti/N<3.5、
c)0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d)0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e)少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たし、
前記摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
前記摩擦撹拌溶接物の強度は、前記出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性が、0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性が40Jを超える、鋼構造体。
【請求項2】
前記出発構造用鋼は、100ppm未満の硫黄および150ppm未満のリンを含む、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項3】
前記出発構造用鋼は、50ppm未満の硫黄および75ppm未満のリンを含む、請求項2に記載の鋼構造体。
【請求項4】
前記出発構造用鋼は、25体積%未満のパーライトを含む、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項5】
前記出発構造用鋼は、15体積%未満のパーライトを含む、請求項4に記載の鋼構造体。
【請求項6】
前記摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜40ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、25体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有する、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項7】
前記摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜20ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、10体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有する、請求項6に記載の鋼構造体。
【請求項8】
前記2つ以上の構造用鋼部品は、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレードである、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項9】
前記2つ以上の構造用鋼部品は、AISIグレード1010、1020、1040、1080、1095、A36、A516、A440、A633、A656、4063、4340、6150、およびASTMグレードA285、A387、A515、A516、A517から選択される普通炭素鋼および合金鋼である、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項10】
0℃以下において、前記亀裂先端開口変位試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、0.1mm以上である、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項11】
0℃以下において、前記亀裂先端開口変位試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、0.2mm以上である、請求項10に記載の鋼構造体。
【請求項12】
0℃以下において、前記シャルピーVノッチ衝撃試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、75Jを超える、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項13】
0℃以下において、前記シャルピーVノッチ衝撃試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、150Jを超える、請求項12に記載の鋼構造体。
【請求項14】
前記出発構造用鋼は、5ppm〜50ppmのホウ素をさらに含む、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項15】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり100個未満含む、請求項1に記載の鋼構造体。
【請求項16】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり50個未満含む、請求項15に記載の鋼構造体。
【請求項17】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり20個未満含む、請求項16に記載の鋼構造体。
【請求項18】
常套の溶融又は二次精錬を実施して製造された2つ以上の構造用鋼部品を用意し、前記出発構造用鋼の化学成分および粒径が、以下の基準:
a.0.02重量%<Ti+Nb<0.12重量%、
b.0.7<Ti/N<3.5、
c.0.5重量%<Mo+W+Cr+Cu+Co+Ni<1.75重量%、
d.0.01重量%<TiN+NbC+TiO/MgO<0.1重量%、
e.少なくとも2ミクロンの平均粒径、
の1つまたは複数を満たすことと、
摩擦撹拌溶接物を形成するために十分な条件下で、溶接される前記構造用鋼部品の接合面に摩擦撹拌溶接を受けさせることを含む、構造用鋼を溶接する方法であって、
前記摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜60ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、50体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有し、
前記摩擦撹拌溶接物の強度は、出発構造用鋼よりも高く、0℃以下において亀裂先端開口変位試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性が、0.05mm以上であるか、または0℃以下においてシャルピーVノッチ衝撃試験により測定された前記摩擦撹拌溶接部の靱性が40Jを超える、方法。
【請求項19】
前記出発構造用鋼は、100ppm未満の硫黄および150ppm未満のリンを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記出発構造用鋼は、50ppm未満の硫黄および75ppm未満のリンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記出発構造用鋼は、25体積%未満のパーライトを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記出発構造用鋼は、15体積%未満のパーライトを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
摩擦撹拌溶接物を形成するために十分な条件は、溶接時の撹拌領域の温度、溶接時に前記撹拌領域の前記温度での経過時間、摩擦撹拌溶接工具の溶接移動速度、前記摩擦撹拌溶接工具の回転速度、前記摩擦撹拌溶接工具にかかるねじり負荷、前記摩擦撹拌溶接工具に作用する下降力負荷または移動負荷、および前記溶接物の冷却速度のうちの少なくとも1つから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記溶接移動速度は、1インチ/分〜30インチ/分の範囲をとる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記溶接移動速度は、10インチ/分〜30インチ/分の範囲をとる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記溶接移動速度は、15インチ/分〜30インチ/分の範囲をとる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記回転速度は、100rpm〜800rpmの範囲をとる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記回転速度は、100rpm〜500rpmの範囲をとる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記摩擦撹拌溶接工具の前記回転速度は、100rpm〜200rpmの範囲をとる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記摩擦撹拌溶接工具にかかる前記下降力負荷、または前記移動負荷は、1000lb〜25,000lbである、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記溶接物の前記冷却速度は、10℃/秒〜400℃/秒の範囲をとる、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記摩擦撹拌溶接物は、5ミクロン〜20ミクロンの事前のオーステナイト粒径と、10体積%未満のマルテンサイト−オーステナイト構成成分とを有する、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
前記2つ以上の構造用鋼部品は、X50、X52、X60、X65、X70、X80、X90、X100、およびX120から選択されるAPI(アメリカ石油協会)パイプ仕様5Lパイプグレードである、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
前記2つ以上の構造用鋼部品は、AISIグレード1010、1020、1040、1080、1095、A36、A516、A440、A633、A656、4063、4340、6150、およびASTMグレードA285、A387、A515、A516、A517から選択される普通炭素鋼および合金鋼である、請求項18に記載の方法。
【請求項35】
0℃以下において、前記亀裂先端開口変位試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、0.2mm以上である、請求項18に記載の方法。
【請求項36】
0℃以下において、前記シャルピーVノッチ衝撃試験により測定された前記摩擦撹拌溶接物の靱性は、150Jを超える、請求項18に記載の方法。
【請求項37】
前記出発構造用鋼は、5ppm〜50ppmのホウ素をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項38】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり100個未満含む、請求項18に記載の方法。
【請求項39】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり50個未満含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記出発構造用鋼は、平均径0.5ミクロン以上の非金属介在物を1mm当たり20個未満含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
結晶粒粗大化温度差は400℃以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項42】
前記結晶粒粗大化温度差は300℃以下である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記結晶粒粗大化温度差は200℃以下である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記結晶粒粗大化温度差は100℃以下である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記結晶粒粗大化温度差である時間は10秒以下である、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記結晶粒粗大化温度差である時間は8秒以下である、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記結晶粒粗大化温度差である時間は6秒以下である、請求項43に記載の方法。
【請求項48】
前記結晶粒粗大化温度差である時間は2秒以下である、請求項44に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−509178(P2012−509178A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536340(P2011−536340)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/006165
【国際公開番号】WO2010/059201
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】