説明

摩擦攪拌溶接システム

【課題】 攪拌溶接システム(10)の提供。
【解決手段】 システム(10)は、裏当て板(14)と、該裏当て板に沿って配置されたタングステン基部材(12)とを含んでおり、タングステン基部材は溶接作業面(22)を画成するとともに、タングステン基部材を裏当て板に固定するための湾曲溝を含んでいる。本システムは駆動装置(16)も備える。本システムは、溶接作業面上に配置された1以上のワークピース(20)に沿って摩擦を生じるように駆動装置(16)によって移動可能なピンツール(18)も備えている。本システムは、液体流路(26)とガス流路(24)とを含む裏当て板(14)と、該裏当て板に沿って配置されたタングステン基部材(12)を備えていてもよく、タングステン基部材は溶接作業面を画成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相接合技術に関し、特に摩擦攪拌溶接に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのようなターボ機械の出力及び効率を向上させるには、特に、高温強度、耐クリープ性、耐疲労性、耐酸化性、耐食性と、構造安定性のバランスに優れた材料の最適化が必要とされる。多くの場合、これらの材料の合金組成の要件のため、材料偏析を防ぐための粉体加工法が必要とされていた。これらの材料、さらには多くの慣用鋳造材料の接合に当たっては、温度を融解温度未満に維持し、もって従来の溶融溶接法でよくみられる凝固割れ、ポロシティ、溶接部材料偏析、急速凝固鋳造ミクロ組織の形成のような問題の解決を図るのが有利であることが多い。
【0003】
これらの問題に対処するため様々な固相溶接/接合法が開発されている。よく用いられている技術の1つが摩擦攪拌溶接法であり、同種又は異種の金属及び合金、熱可塑性樹脂その他の材料の接合に用いることができる。この技術は本質的に固相であるので、従来の接合技術に伴う上述の問題に対処することができ、溶接が困難又は不可能と考えられていた材料の接合が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5460317号明細書
【特許文献2】米国特許第5611479号明細書
【特許文献3】米国特許第5460317号明細書
【特許文献4】米国特許第5769306号明細書
【特許文献5】米国特許第6732901号明細書
【特許文献6】米国特許第7032800号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0238599号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0006439号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/0249556号明細書
【特許文献10】国際公開第2002/100586号
【特許文献11】欧州特許出願公開第151020号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
典型的な摩擦攪拌溶接システムでは、堅固に固定されたワークピースの溶接すべき線状又は非線状接合部を含む位置に、消耗型又は非消耗型回転ピンツール(大抵は円筒形)を貫入させる。摩擦熱でワークピースを局所的に可塑化せしめ、回転ピンツール周囲での鍛造及び/又は押出作用によって接合界面を横断して材料が移行できるようにする。理想的には、溶接の作業期間全体を通して、ワークピース温度を材料の融解温度未満に維持する。多くの材料システムでは、現場での溶接金属の加熱及び冷却速度の正確な厚さ方向制御も、溶接部の品質に臨界的重要性をもつ。現場でのピンツール及びワークピース温度の制御を改善すると、ワークピースと裏板との付着、望ましくないワークピース材料組織、裏板部品の破損を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施形態では、システムは、裏当て板と、該裏当て板に沿って配置されたタングステン基部材とを含んでおり、タングステン基部材は溶接作業面を画成するとともに、タングステン基部材を裏当て板に固定するための湾曲溝を含んでいる。タングステン基部材に代えて、その他適当な高強度/高温材料を溶接作業面として置き換えてもよい。本システムは駆動装置も備える。本システムは、溶接作業面上に配置された1以上のワークピースに沿って摩擦を生じるように駆動装置によって移動可能なピンツールにして、摩擦熱及び機械的攪拌が、1以上のワークピースに沿って攪拌溶接を生じるように構成されたピンツールも備えている。本システムは、ある実施形態では、液体流路とガス流路とを含む裏当て板と、該裏当て板に沿って配置されたタングステン基部材を備えていてもよく、タングステン基部材は溶接作業面を画成する。タングステン基部材に代えて、その他適当な高強度/高温材料を溶接作業面として置き換えてもよい。
【0007】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点については、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することによって理解を深めることができるであろう。図面を通して類似の部品には同じ符号を付した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】摩擦攪拌溶接システムの一実施形態のブロック図。
【図2】ピンツールがワークピースと係合した状態の摩擦攪拌溶接システムの一実施形態のブロック図。
【図3】図1及び図2に示す摩擦攪拌溶接システムの実施形態の部分上面図。
【図4】図1及び図2に示す摩擦攪拌溶接システムの実施形態の部分上面斜視図。なお、説明の便宜上、幾つかの部品については図示していない。
【図5】図1及び図2に示す摩擦攪拌溶接システムの一実施形態の部分端面図。
【図5A】図5に示すタングステン基部材の湾曲溝の詳細を示す図。
【図6】摩擦攪拌溶接システムの別の実施形態の部分上面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の1以上の特定の実施形態について説明する。これらの実施形態に関して簡潔に説明するため、本明細書では、実施に際してのすべての特徴について説明しきれないこともあろう。このような実施のための開発においては、工学又は設計プロジェクトにおけるように、開発者特有の目標(例えばシステム及びビジネス関連の制約の順守など、実施毎に異なる目標)を達成するために実施に特異的な数多くの決定をなす必要がある。さらに、このような開発努力は複雑で時間のかかるものではあるが、本明細書の開示内容に接した当業者が適宜なし得る設計、製作及び製造作業にすぎない。
【0010】
本発明の様々な実施形態の要素を紹介する際に、単数形で記載されたものはその要素が1つ以上存在することを意味する。「含む」、「備える」及び「有する」という用語は包括的ものであり、記載された要素以外の追加の要素が存在していてもよいことを意味する。また、動作パラメータ及び/又は環境条件の具体例は、開示した実施形態における他の動作パラメータ及び/又は環境条件を除外するものではない。
【0011】
以下で詳しく説明する通り、ワークピース、溶接ピンツール及び裏当て板の温度制御には、様々な構成の摩擦攪拌溶接システムを用いることができる。溶接すべきワークピースの一例はチタン合金、例えば航空宇宙用途で用いられるチタン合金である。かかるワークピースの温度は攪拌溶接プロセスに際して1800°Fを超えることがある。また、裏当て板及びワークピース面は、プロセスの際に10000〜20000ポンドの力に付されることがある。さらに、以下のシステムは、攪拌溶接に加えて断熱昇温を用いるワークピースの接合にも応用できる。以下で説明する通り、かかる力及び温度は、裏当て板の変形を引き起こしたり、ワークピースと裏当て板との付着を引き起こしかねない。ある実施形態では、裏当て板の周囲の材料よりも硬い材料でできた部材を、ワークピース温度の制御に利用することができる。具体的には、以下の実施形態では、溶接継手に沿って生じる高い熱的及び機械的負荷に耐えることができるように、裏当て板上に溶接軸に沿って配置されたタングステン基部材を用いてもよい。タングステン基部材は、裏当て板のキャビティに配置してもよく、裏当て板の作業面と略面一(同一平面にあること)としてもよい。タングステンその他適当な熱伝導性の材料からなるこの部材は、その下方に、ワークピースの温度を制御するためのガス及び/又は液体を流すための冷却ラインを有していてもよい。さらに、攪拌溶接システムは、裏当て板又は他の部分に、システム部品を冷却又は加熱するための流路を含んでいてもよく、もってピンツール及びワークピースの温度を調節して全体的に優れた溶接部が得られるようにしてもよい。流路では、システム及びワークピースの温度を制御するための液体及び/又はガスを利用し得る。
【0012】
別の実施形態では、複数のタングステン基部材を溶接軸に沿って端と端が接するように配置する。ピンツールがワークピースに貫入する接合部の下に、犠牲タングステン基部材を配置してもよい。この初期接触タングステン基部材は、溶接軸の残りの部分に比べて、極めて高い温度及び応力に暴露され、そのため溶接軸の残りの部分に位置するタングステン基部材よりも頻繁に交換される。本明細書でいう溶接軸とは、2つのワークピース間の接合部に沿った線である。また、攪拌溶接継手を延ばすことができるように、第1の「主要部」タングステン基部材の端に追加のタングステン基部材を配置してもよい。これらの実施形態を実施することによって、ワークピース加熱速度、現場でのワークピース温度分布及び高い溶接後ワークピース冷却速度を制御して、全般的溶接用途設計への実用性の向上した溶接継手を得ることができる。さらに、本技術は、ワークピースと裏板との付着、望ましくないワークピース材料組織及び裏板部品の破損を低減又は解消できる。
【0013】
図1は、摩擦攪拌溶接システム10の実施形態を示すブロック図である。この実施形態では、タングステン基部材12は裏当て板14と結合している。図に示すように、駆動装置16はピンツール18の運動を駆動する。ある実施形態では、ピンツール18は、攪拌溶接プロセス中に約50rpm〜約2000rpmの速度で回転して、ワークピース20間に攪拌溶接継手を生じる。以下で詳しく説明する通り、所望の溶接継手位置の真下にタングステン基部材12を装着して、摩擦攪拌溶接に付随する熱、磨耗及び応力に対する耐性を高めてもよい。タングステン基部材12は、ドープタングステン又は非ドープタングステンを含んでいてもよく、別の元素と合金化したものであってもなくてもよい。ドープ剤は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化セリウム又は酸化トリウムの1種以上の材料を含んでいてもよい。例えば、部材12は、ドープ剤及び/又は合金化又は非合金化タングステンを含むドープ型又は非ドープ型の合金又は非合金タングステンを含む。このようなタングステン基部材の例は、2006年4月24日出願の米国特許第7337940号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。さらに、米国特許出願第11/554751号の開示内容も援用によって本明細書の内容の一部をなす。別の実施形態では、タングステン基部材12に代えて、別の高温/高強度材料を適宜用いてもよい。タングステン材料の代わりに使用できる材料の具体例としては、Mar−M247、IN100、ALLVAC718PLUS、さらに低温用途に工具鋼及びステンレス鋼が挙げられる。
【0014】
さらに、高強度材料は、部材12の周囲の材料よりも約10%〜50%高い強度のものでよい。
【0015】
図に示すように、回転ピンツール18は、溶接すべき接合部を含む位置で固定ワークピース20に貫入させることができる。ワークピース20は、溶接に際して、鋼製裏当て板14上の適切な位置に固定される。回転ピンツール18を溶接すべき接合部に沿って移動させてもよいし、ワークピース20をツール18に対して供給しながらツール18を定位置に保持してもよいし、これらを組み合せてもよい。溶接が進行すると、接合部近傍のワークピース材料は、可塑化した(非液体)金属、合金その他の材料となる。ツール18を接合部に作用させると、接合部のワークピース材料が接合界面を横断して移行して混じり合って、局所的な固相鍛造及び/又は押出作用を通して、ワークピース部品間に強い凝集結合を生じる。
【0016】
この実施形態では、ワークピース面22は、タングステン基部材12とワークピース20との間で最適な表面が確保されるように概ね平坦である。平坦なワークピース面22は、攪拌溶接システム10の様々な部品とワークピース20との間の温度分布が最適化されるように構成される。ワークピース20の温度は、裏当て板14内部のガス流路24によってある程度制御できる。ガス流路24は、ワークピース20、タングステン基部材12及び/又は裏当て板14の冷却及び/又は加熱に資するためアルゴンのような不活性その他のガスを循環させるために用いることができる。自明であろうが、ガス流路24は、攪拌溶接プロセスにおいて、特に限定されないがワークピースの下側に、不活性ガスシールドをもたらして、溶接継手の酸化及び劣化を実質的に軽減することもできる。この実施形態では、裏当て板14は液体流路26を含んでいてもよく、裏当て板14、タングステン基部材12及び/又はワークピース20の冷却及び/又は加熱に利用し得る。ガス流路24はガスライン28を介してガス循環システム30に接続しており、ガス循環システム30は、裏当て板14内部を循環するガスの流量及び温度の制御に使用し得る。液体流路26はライン32を介して液体熱交換システム34に接続しており、液体熱交換システム34は、液体の流量並びに裏当て板14、タングステン基部材12及び/又はワークピース20の温度の調整に使用し得る。別の実施形態では、攪拌溶接システム10の温度の管理に、液体流路26又はガス流路24のいずれかを単独で用いてもよい。さらに、熱性能の最適化、製造の単純化又はその他の用途条件を満足するため、液体流路26及び/又はガス流路24の構成、寸法、形状及び位置を変更してもよい。
【0017】
この実施形態では、ツール温度制御システム36は、ピンツール18の温度を監視及び調節するため、ピンツール駆動装置16と接続している。温度制御システム36では、ガス、液体その他の適当な熱交換/伝達要素を用いて、ピンツール18で攪拌溶接継手を生じさせる際のツール温度を制御することができる。溶接制御システム38を用いて、ピンツール18の運動及び速度、ツール温度制御システム36、ガス循環システム30及び液体熱交換システム34を監視することができる。溶接制御システム38は、摩擦攪拌溶接システム10及びその部品の動作及び温度を調整及び制御するアルゴリズムその他のソフトウェアプログラムを実行するための1以上のコンピュータを備えていてもよい。さらに、監視システム40を制御システム38に接続して、摩擦攪拌溶接システム10の各種部品の温度モニタリングができるようにしてもよい。図に示す監視システム40は、ピンツール駆動装置16及びタングステン基部材12に配置されたセンサ(熱電対など)を有する。
【0018】
特定の実施形態では、液体流路26及びガス流路24を用いて、溶接影響部の予熱、加熱及び/又は溶接後加熱を行ってもよい。熱を利用してワークピース20の応力の低減及び/又は溶接影響部での溶接後冷却速度の制御を図り、もって所望のミクロ組織を得たり、ツール性能の向上及び溶接特性の最適化のような他の有益な効果を得ることができる。別の実施形態では、複数の抵抗加熱器によって加熱してもよい。その他の加熱法としては、例えば、温度制御媒体として流体を流すこと、マイクロ波加熱、レーザ加熱、超音波加熱及び誘導加熱が挙げられる。溶接影響部の制御にガス又は液体のような流体を用いると、手間のかからない効果的な温度制御法が得られる。例えば、望ましい熱力学的性質をもつ液体を外部タンクに貯蔵・冷却し、この液体を循環させて摩擦攪拌溶接システム10内部の部品の温度を制御すればよい。別の実施形態では、液体流路26及びガス流路24を用いて溶接影響部を冷却して、溶接部から熱を抽出してもよい。水その他の適当な冷却流体又はガスを、裏当て板16の液体流路26及びガス流路24に流せばよい。
【0019】
図1に示すように、ワークピース20を平らなワークピース面22上に配置してから、攪拌溶接プロセスのために位置決めされる。この実施形態では、ワークピース20は、Ti基、Ni基及びFe基合金のような同種又は異種の適当な高強度材料、その他タービンエンジンの部品に使用し得るもののような高性能材料組成物からなるものでよい。上述の通り、高強度材料の攪拌溶接は、材料の幾つかの特性の劣化を招くことがあるが、これは、本明細書に開示した実施形態を用いてワークピース20及び摩擦攪拌溶接システム10の部品の温度を制御することによって回避又は低減できる。従って、不活性ガス、液体及び/又は他の適当な加熱又は冷却技術、コンピュータその他の適当な装置による制御など、摩擦攪拌溶接システム10の多種多様な構成が可能である。
【0020】
図2は、攪拌溶接を実施するための位置にワークピース20及びピンツール18を配置した摩擦攪拌溶接システム10の実施形態の線図である。この実施形態では、ワークピース20は一緒に、ピンツール18の真下の、タングステン基部材12の中央付近に配置される。図に示すように、オペレータは、駆動装置16及びピンツール18が下方に移動し、ピンツール18が所望の速度で回転しているときにピンツール18が溶接継手40に貫入するように、制御システム38を設定してもよい。自明であろうが、ピンツール18をワークピース20に押し付けながら回転させると、多大な摩擦及び熱が発生して、2つのワークピース20間に溶接継手40として示す固相接合部を生じさせることができる。この実施形態では、ワークピース20、ピンツール18、タングステン基部材12及び他の部品の温度を監視及び調節して、ワークピース20の構造的な不規則製及び劣化を最小限に抑制する。特に、タングステン基部材12の組成と、溶接軸に沿って溶接継手40の下方にタングステン基部材12を配置することは、攪拌溶接の全体的品質の向上に役立つ。ある実施形態では、ピンツール18及びタングステン基部材12に同じ材料を選択してもよく、攪拌溶接プロセスに際してワークピース20の温度を維持及び制御するのに特に有用である。
【0021】
図3は、ガス流路24と液体流路26を設けた摩擦攪拌溶接システム10の実施形態の上面図である。この実施形態では、ガス流路24は、ガスライン28でガス循環システム30に接続している。ガス流路24は、不活性その他のガスを、裏当て板14を通して循環させ、ストリップ44の上面に配置し得るガス出口穴42を通して加熱又は冷却されたガスを放出する。この実施形態では、ガス出口穴42は、部品及びワークピースの温度を制御するため攪拌溶接システム10全体に分布させてもよい。ガス出口穴42から放出されるガスを利用して、溶接プロセス中に溶接継手をシールドしてもよく、継手を不純物及び/又は酸化から保護できる。この実施形態では、ストリップ44は、攪拌溶接プロセス中に生じる力によってタングステン基部材12が動いてしまわないように、タングステン基部材12を適所に固定するために用いられる。ストリップ44は、所望の重量及び熱的特性を有しつつ、タングステン基部材12を押さえつけることができる合金鋼その他の適当な材料から作ることができる。
【0022】
この実施形態では、ガス流路24は、ストリップ44及び裏当て板14の下方に配置される。ガス出口穴42は、攪拌溶接システム10で利用し得る所望の熱制御及びシールドを達成するため、攪拌溶接システム10の適当な位置に配置すればよい。図に示すように、液体熱交換システム34がライン32を介して液体流路26に接続しており、液体流路26は、裏当て板14又は摩擦攪拌溶接システム10のその他の部品の適当な位置に配置し得る。液体流路26は、ワークピースに対する液体温度制御の効果を最大限にするため、タングステン基部材12の下に配設される。
【0023】
図に示すように、初期接触部46が裏当て板14の一端に配置される。初期接触部46は、ピンツール駆動装置16をワークピース接合部に最初に押し付けるワークピース部分の下に位置し得る。次いでピンツール18を溶接軸に沿って接合部を移動し、主要部47に位置するタングステン基部材及び他の部品に対する圧力と力は低下している。ある実施形態では、ピンツールをワークピースに貫入する過程で、ワークピースとの初期接触点に位置する部品に多大な力と摩滅を生じることがある。初期接触部46に含まれる部品は、極めて高い力と摩滅に付されことがあり、主要部47に位置する部品よりも、頻繁な保守及び/又は交換を要することがある。初期接触部46には、タングステン基部材48、ストリップ50及び裏当て板52も含まれる。図に示すように、ストリップ44及び50はネジ54で押さえつければよく、ワークピースの最適平坦面を確保するためストリップ44の座ぐり穴にネジ54をねじ込めばよい。
【0024】
初期接触部46の部品は、主要部47の部品と同様の材料で構成してもよいし、初期接触部46の交換頻度が高くなりかねないので、安価な代替材料で構成してもよい。例えば、攪拌溶接プロセスを5〜10回実施すると、タングステン基部材48及びストリップ50が変形したり、それらの作業面が主要部47の部品の作業面ほど滑らかではなくなることがある。また、初期接触部46が変形すると、ワークピース20及び溶接継手40の材料の劣化を招きかねない。そのため、初期接触部46又はその部品は、高品質の攪拌溶接を確保するため、5〜10回使用した後に交換するのが望ましい。さらに、主要部47の部品は、初期接触部46に加わるような極端な力は受けないので、主要部47の部品の健全性が保たれる。例えば、主要部47では、保守又は交換を行わずに300〜500回以上の攪拌溶接作業にわたって同じ部品を使用できる。
【0025】
図4は、摩擦攪拌溶接システム10の一実施形態の斜視図である。図に示すように、初期接触部46は、摩擦攪拌溶接システム10の一端に主要部47に隣接して配置される。初期接触部46にはタングステン基部材48が配設され、タングステン基部材12の端に当接している。この実施形態では、ガス出口穴42は、タングステン基部材12の両側に配置されたストリップ44に沿って軸方向に配置される。さらに、裏当て板14を基板56のような他の部材上に載置してもよく、基板は合金鋼のような適当な材料で構成し得る。一実施形態では、基板56は、冷却及び加熱材料を裏当て板14の作業面に送るための液体及び/又はガス流路を含んでいてもよい。図に示すように、裏当て板14はガス導入口58と液体導入口60とを備えており、これらは裏当て板14の側部に配置し得る。初期接触部46の部品及び主要部47の部品は、端部62によって適所に保持される。端部62は、ネジ64で裏当て板52及び裏当て板14に連結できる。この実施形態では、タングステン基部材48を調節ネジ66で適所に保持してもよい。上述の通り、タングステン基部材12及び48のような幾つかの材料と温度制御用ガス及び液体流路を使用すると、ワークピース20の温度を制御することができ、攪拌溶接に最適なワークピース面が得られる。
【0026】
図5に、摩擦攪拌溶接システム10の実施形態の端面図を示す。この実施形態は、ピンツール駆動装置16、ピンツール18、ワークピース20及び攪拌溶接システムの他の部品を備えている。この実施形態では、ワークピース20は、攪拌溶接プロセス中の熱伝達及び力分布に最適な面を提供する略平坦なワークピース面22上に配置される。図には、タングステン基部材12及びストリップ44の断面を示す。タングステン基部材12は、裏当て板14のキャビティに埋設され、ストリップ44と裏当て板14の間に保持される。換言すると、タングステン基部材12を凹部内の所定の位置に固定するためストリップ44が用いられる。この例示的な実施形態では、タングステン基部材12は、平坦な上面22と、湾曲した底面67(例えば半円筒形)と、平坦な上面22の両側に沿って陥設された一対の溝68を有する。湾曲した底面67によって、センタリング(調心)が向上し、力の分布が改善され、摩擦攪拌溶接に伴う応力が低減する。また、図示した溝68も、攪拌溶接プロセスの際の力の分布を最適化するため、湾曲した形状を有していてもよい。例えば、攪拌溶接プロセスの際のタングステン基部材12の構造劣化又は移動の可能性を低減するため、タングステン基部材12の溝68と接するストリップ44の角を丸めてもよい。一実施形態に係るタングステン基部材12は、図に示すように湾曲した又は丸い隅部をもつ湾曲溝を含んでおり、ストリップ44で、タングステン基部材を裏当て板14に対して固定する。このようなストリップ44とタングステン基部材12の配置によって、概ね平坦なワークピース面22が得られ、攪拌溶接プロセスの際の熱分布及び制御性が向上する。図5Aは、図5に示すタングステン基部材12の湾曲溝68の細部を示す図である。
【0027】
図6は、初期接触部46、主要部47及びモジュラー部70を備えた別の実施形態に係る摩擦攪拌溶接システム10の図である。この実施形態では、上記の実施形態よりも攪拌溶接継手を長くすることができるように、モジュラー部70を主要部47の端に配置してもよい。図に示すように、モジュラー部70は、裏当て板72、タングステン基部材74及びストリップ76を含む。この実施形態では、モジュラー部70の部品は、主要部47と同じ材料で作製してもよいし、主要部47の部品と同一部品(つまり複製)であってもよい。例えば、タングステン基部材74は、タングステン基部材12及び48と同じ材料からなるものでもよい。同様に、ストリップ50、44及び70を合金鋼で作製してもよい。攪拌溶接作業に際しては、ピンツール18をタングステン基部材48の上に配置して、ワークピース20に貫入させればよい。ワークピース20に完全に貫入した後で、ピンツール18を溶接軸に沿ってタングステン基部材12を横断して移動させ、続いて本実施形態のモジュラー部70のタングステン基部材74上で移動させる。図示した構成によって、他の実施形態の攪拌溶接システム10よりも攪拌溶接部を長くすることができる。ある実施形態では、攪拌溶接システム10は、システム部品及びワークピースの温度を制御するため、液体及び/又はガス温度制御流路を初期接触部46、主要部47及びモジュラー部70に配設してもよい。別の実施形態では、複数のモジュラー部70を用いると、溶接部の長さを無限に延長することができる。
【0028】
以上説明してきた温度管理技術、使用材料及びシステム構成は、構成の種々異なる摩擦攪拌溶接システムにも適用し得る。例えば、タングステン基部材は、T継手攪拌溶接システムの裏当て板の内側角部に位置する「ショルダ」として用いてもよい。さらに、かかるシステムでは、ワークピース及びシステム部品の温度を制御するためガス及び/又は液体を用いてもよい。さらに別の例では、非直線状及び/又は輪郭継手に適合させるため、ワークピース面22は曲線状であってもよい。
【0029】
温度制御によってワークピースのミクロ組織及び特性を制御するためのシステムの上述の様々な実施形態は、特に限定されないが、摩擦溶接部及び周辺部の降伏強さ、引張強さ、延性、衝撃靭性、破壊靭性、疲労亀裂伝播抵抗、低サイクル疲労抵抗、高サイクル疲労抵抗及び超塑性成形性を始めとする材料特性の向上又は保持のための方法を例証する。
【0030】
以上、本発明の幾つかの特徴について例示し、説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更は自明であろう。特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲に属するこれらの修正及び変更をすべて包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌溶接システムであって、
裏当て板(14)と、
裏当て板(14)に沿って配置されたタングステン基部材(12)にして、溶接作業面を画成するとともに、タングステン基部材(12)を裏当て板(14)に固定するための湾曲溝(68)を含むタングステン基部材(12)と、
駆動装置(16)と、
溶接作業面上に配置された1以上のワークピース(20)に沿って摩擦を生じるように駆動装置(16)によって移動可能なピンツール(18)にして、摩擦熱及び機械的攪拌が、1以上のワークピース(20)に沿って攪拌溶接を生じるように構成されたピンツール(18)と
を備える攪拌溶接システム(10)。
【請求項2】
タングステン基部材(12)が溶接作業面の反対側に湾曲面(67)を含んでいて、溶接作業面が略平面であり、湾曲溝(68)が溶接作業面に埋設されている、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項3】
湾曲溝(68)に嵌合し、タングステン基部材(12)を裏当て板(14)に固定するように構成されているストリップ(44)を含み、ストリップ(44)が溶接作業面と略面一をなす、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項4】
裏当て板(14)が、タングステン基部材(12)及び1以上のワークピース(20)を冷却又は加熱するように構成された液体流路(26)を含む、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項5】
裏当て板(14)が、タングステン基部材(12)及び1以上のワークピース(20)を冷却又は加熱するように構成されたガス流路(24)を含む、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項6】
ガス流路(24)がシールドガスを流すように構成されている、請求項5記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項7】
タングステン基部材(12)が、攪拌溶接方向に順次配置された複数の部分(46,47,70)を含む、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項8】
複数の部分(46,47,70)が、初期ピンツール接触部(46)と攪拌溶接部(47、70)を含む、請求項7記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項9】
裏当て板(14)が、タングステン基部材(12)を収容して、裏当て板(14)とタングステン基部材(12)とを含む略面一の溶接作業面を画成するように構成されたキャビティを含む、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。
【請求項10】
タングステン基部材(12)が、ドープ剤及び/又は合金化又は非合金化タングステンを含むドープ又は非ドープの合金化又は非合金化タングステンを含み、ドープ剤が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化トリウム又はこれらの組合せを含む、請求項1記載の攪拌溶接システム(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−162603(P2010−162603A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−6413(P2010−6413)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】