説明

摩擦材の研磨方法

【課題】金型の変更改造を必要とせず、製造工程途中の不確定な熱変形に影響されることなく確実に摩擦材の形状を設計可能であり、かつ汎用性の高い摩擦材の研磨方法を提供する。
【解決手段】裏板3に加熱加圧されて接着された摩擦材2の研磨方法であって、磁性材からなり平坦な状態の裏板3を、該裏板3の左右両側方位置に配置したシム5を介して電磁チャック6上に浮上した状態で載置し、電磁チャック6の電磁力によって裏板3を弾性変形させて、裏板3および摩擦材2の中央部が下方へ凹んだ状態で、摩擦材3を水平に研磨することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のディスクロータやドラムに接触させて用いるブレーキパッドやブレーキライニング、およびクラッチフェーシング等の摩擦材の研磨方法に関し、詳しくは、裏板に接着された摩擦材を確実に左右両側縁が面取りされた形状にできる摩擦材の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドやブレーキライニングを使用して自動車などを制動操作する場合、一般的にブレーキパッドやブレーキライニングの摩擦材を回転しているディスクやドラムに押し当て、その摩擦力によって制動している。このとき、摩擦材とディスク等が摺接することによって、いわゆる「鳴き」と称されるスキール音などが発生することがある。これは、摩擦材の中央部が凹んだ、換言すれば摩擦材の両側縁部が突出した湾曲形状の場合に特に発生し易いと言われている。
【0003】
ところで、この種のブレーキパッド等は、必要に応じて行なわれる摩擦材原料をある程度固めた予備成形体を成形する予備成形工程、熱プレスして摩擦材を成形しながら裏板に接着する成形工程、摩擦材を養成する熱処理工程、塗装工程、および摩擦材の表面を仕上げる研磨工程などを、これの順で経て製造される。場合によっては、初期フェード現象を防止するため摩擦材表面を焼入れするスコーチ処理工程を経ることもある。このとき、成形工程において摩擦材を平坦に成形しようとしても、その後の熱処理やスコーチ処理などによって摩擦材が変形するので、最終的に得られたブレーキパッド等の摩擦材の側縁部が突出した湾曲形状となることがある。これでは、鳴きが発生し易くなる。
【0004】
そこで、ブレーキパッドの裏板は平坦であるが、摩擦材を中央部が突出しその左右両側縁が凹んだ形状、すなわち左右両側縁が面取りされた形状にして、鳴きの発生の防止を図った技術として特許文献1がある。特許文献1のブレーキパッドの製造方法では、裏板と摩擦材とを熱プレスして成形接着する成形工程において、使用する金型のインサートに凹部を凹み形成してある。そして、当該凹部上に裏板を載置したうえでプレスすることで、裏板の中央部を下方へ凹ませながら摩擦材を上方から接着している。これによれば、成形直後には摩擦材の表面は平坦で裏板はその中央部が下方へ突出した反り形状となっており、この形状のままで摩擦材を研磨している。その後、摩擦材の内部応力などによって経時的にブレーキパッドが変形していき、最終的には裏板が平坦で摩擦材の表面は中央部が突出した、いわゆる面取り形状となる。研磨工程においては、磁力により反り状態の裏板をガタつくことなく保持し得るよう、研磨台にも凹部を凹み形成している。
【0005】
なお、ブレーキパッドの製造において、摩擦材と裏板とを接着する方法としては、大きく分けて2通りある。1つは、摩擦材を裏板の上方からプレスして接着する方法である(以下、この方法を「正転成形」と言うことがある)。一方、他の1つは、摩擦材を裏板の下方からプレスして接着する方法である(以下、この方法を「逆転成形」と言うことがある)。このような成形方法は、特許文献2に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−295555号公報
【特許文献2】特開2002−98182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のブレーキパッドは、摩擦材を特別な形状に成形せずとも、最終的には摩擦材の左右両側縁が面取りされた形状となるので、制動操作の際の鳴きを発生し難くできている。しかし、特許文献1では成形時に使用する金型(インサート)に凹部を設け、この時点で裏板を変形させている。これでは、成形性が悪化すると共に、種々の形状・寸法のブレーキパッドのそれぞれに合わせた金型を多数用意する必要があり、しかも金型の改造には多大な費用を要するため現実的ではない。また、成形後の形状から求められる最終的な形状にまで変形するのに1ヶ月以上を要することから、裏板が反り状態のままでは保管や輸送効率が悪く、製造後直ぐに車両等に組み付けることもできない。また、成形工程にて摩擦材の形状を設計しているが、その後の熱処理などによってさらに摩擦材が膨張・収縮して変形し得るので、成形時に裏板の曲率を設計していても、最終的に得られる摩擦材の凹凸形状を確実に設計することは不可能である。さらに、成形工程において裏板を反り変形させているので、研磨工程において研磨台にもわざわざ凹部を設ける必要がある。
【0008】
特許文献1では、正転成形と呼ばれる摩擦材を裏板の上方から接着する方法によって成形工程を行っている。ところで、摩擦材は主に繊維基材と充填材とこれらを結着するバインダー樹脂とにより成形されている。摩擦材におけるバインダー樹脂は、一般的に熱硬化性樹脂が用いられ、成形工程における熱によって一旦溶融した後、熱硬化することで繊維基材や充填材などが結着されて摩擦材が所定の形状に形成される。このとき、溶融したバインダー樹脂はその自重によって下方に溜まり易い。したがって、摩擦材を裏板の下方から接着する逆転成形により成形すれば、摩擦材表面が樹脂リッチとなる傾向にある。このように逆転成形により摩擦材を成形してその表面が樹脂リッチとなれば、その後の熱処理などによって更に摩擦材の形状が変形し易い。したがって、成形工程において摩擦材の形状を設計している特許文献1のブレーキパッドの製造方法は、逆転成形による成形方法には適用し難い。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、金型の変更改造を必要とせず、製造工程途中の不確定な熱変形に影響されることなく確実に摩擦材の形状を設計可能であり、かつ汎用性の高い摩擦材の研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、裏板に加熱加圧されて接着された摩擦材の研磨方法であって、磁性材からなり平坦な状態の前記裏板を、該裏板の左右両側方位置に配置した支持体を介して電磁チャックからなる研磨台上に浮上した状態で載置し、前記電磁チャックの電磁力によって前記裏板を弾性変形させて、前記裏板および前記摩擦材の中央部が下方へ凹んだ状態で、前記摩擦材を水平に研磨することを特徴とする。
【0011】
裏板を、支持体を介して研磨台としての電磁チャック上に載置すれば、支持体の厚み分裏板と電磁チャックとの間に隙間ができる。電磁チャックとは、鉄心に巻着したコイルに電流を通すことで磁力を生じる電磁石を基台に複数個配設し、その電磁力によって基台上の対象物を吸着保持するものである。そして、電磁チャックの電磁力によって磁性材からなる裏板を吸着保持しようとすると、裏板の左右両側方は支持体により浮上した状態で支持されているが、その中央部には支持体が介在していないので、裏板は電磁力により弾性変形して中央部が電磁チャック側へ凹んだ形状となる。これに伴い、裏板に接着されている摩擦材も、その中央部が凹み、その左右両側縁部が上方へ突出した湾曲形状となる。この状態において、摩擦材を水平に研磨することになる。その後電磁チャックを解除すると、裏板は弾性力により平坦に戻る。これに伴い裏板に接着された摩擦材も変形して、その表面は中央部が最も凸となり両側縁が最も凹んだ形状、すなわち両側縁が面取りされた形状となる。なお、本発明における左右方向とは、車両のディスクロータやドラムの回転方向と平行な方向を意味する。すなわち、摩擦材および裏板の左右側縁とは、摩擦材をディスクロータ等に押圧した際に、ディスクロータ等の回転方向の上流側および下流側となる部位である。
【0012】
このとき、裏板と電磁チャックとの間に介在させる支持体としては、磁性材からなるシムを使用することが好ましい。磁性材とは、磁場中で磁化される物質である。シムの介在位置は、少なくとも裏板の中央部が凹むように弾性変形可能な程度の所定間隔を隔てた左右両側方であれば、裏板の左右両側端であってもよいし、中央寄りであっても構わない。
【0013】
本発明に係る摩擦材の研磨方法は、ダイの内部空間に摩擦材原料または予備成形体を充填し、ダイの上に裏板を載置したうえで、加熱しながら上下のパンチで加圧して、前記摩擦材が前記裏板の下方から成形接着されている場合にも好適に適用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一般的なブレーキパッド等の製造方法において最終製造工程である研磨工程において摩擦材の表面形状を設計しているので、従前から使用していた成形金型を改造変更する必要がなく、成形性が悪化することもない。また、研磨工程において摩擦材の表面形状を設計すれば、熱処理工程などにおける不確定な形状変化の影響を受けることがなく、確実に摩擦材の表面形状を設計制御できる。また、支持体の厚みや挟み込む位置を変更するだけで摩擦材の凹凸寸法を設計可能であり、かつどのような形状・寸法のブレーキパッド等にも容易的確に適用できるので、汎用性が高い。また、電磁チャックの電磁力を解除すれば、直ちに裏板および摩擦材が元の形状に戻るので、求められる最終的な形状になるまで待つ必要がない。
【0015】
裏板と電磁チャックとの間に介在させる支持体を磁性材としていれば、当該支持体が電磁チャックの電磁力を受けて確りと固定されるので、とくに支持体や電磁チャックを位置ズレ防止形状とする必要がなく、汎用性が高くかつ配置位置の調整も容易である。また、支持体として従来から一般的に厚み調整部材として汎用されているシムを使用していれば、厚みの調整が容易であると共に、研磨台を変更改造したり支持体として専用の部材を製作したりする必要もない。
【0016】
摩擦材は、その表面が樹脂リッチとなっている場合、樹脂プアーな場合よりも変形し易い。そのため、ブレーキパッド等を製造するにあたって、摩擦材を裏板の下方から成形接着する場合は、熱処理工程やスコーチ処理工程の前に摩擦材の形状を設計制御しても、その後の変形により求める形状からかけ離れた形状となり易い。これに対し、本発明では一般的なブレーキパッド等の製造方法において最終製造工程である、研磨工程において摩擦材の表面形状を設計していることから、熱処理工程などにおける不確定な形状変化の影響を受けることがないので、摩擦材を裏板の下方から成形接着した場合でも、確実に摩擦材の表面形状を設計制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。まず、摩擦材2を裏板3に接着した、例えばブレーキパッド1の製造過程について説明する。図1は、本発明の研磨方法で研磨された摩擦材2の最終形状を示しており、この摩擦材2を有するブレーキパッド1の正面図である。図1における図面左右側が、本発明における左右側方となる。摩擦材2は、主に繊維基材と、充填材と、繊維基材と充填材とを結着するバインダー樹脂とから成り、図1に示すごとくこれが金属性の裏板3に接着されることで、ブレーキパッド1が構成されている。摩擦材2は、成形工程において所定形状に成形されながら裏板3に接着されることになるが、この成形方法としては、摩擦材2を裏板3の上方からプレスして接着する方法(正転成形)と、摩擦材2を裏板3の下方からプレスして接着する方法(逆転成形)とがある。
【0018】
図2に、正転成形の工程図を示す。図2においてブレーキパッド1は、不動状に保持された平坦なインサート10と、中央に中空空間(キャビティ)を有する昇降可能なダイ11と、ダイ11を挟んでインサート10と対向し、ダイ11のキャビティ内にまで昇降可能なパンチ12とからなる金型によって成形される。インサート10上には、裏板3を位置決め保持するスペーサ13が載置されている。まず、図2(a)に示すごとくダイ11を上昇させた状態において、スペーサ13で位置決めを行いながら、上面に接着剤を塗布した裏板3をインサート10上にセットする。次いで、図2(b)に示すごとくダイ11を下降させてスペーサ13上に載せ、裏板3の上方からダイ11のキャビティ内に摩擦材原料2aを充填する。このとき、予め予備成形工程を行っておき、摩擦材原料をある程度固めた予備成形体をダイ11のキャビティ内へ充填してもよい。最後に、図2(c)に示すごとく摩擦材原料2aを加熱しながらパンチ12を下降させて加圧すると、摩擦材原料2a中のバインダー樹脂が一旦溶融した後硬化することで、摩擦材2が所定形状に成形されると共に裏板3に接着されて、ブレーキパッド1が成形される。このときの成形温度は概ね130〜200℃程度である。これによって成形された摩擦材2の表面側は、図2(c)に示されるように比較的樹脂プアーとなっている。
【0019】
図3に、逆転成形の工程図を示す。図3においてブレーキパッド1は、中央に中空空間(キャビティ)を有するダイ11と、ダイ11の上方において昇降可能な上パンチ15と、ダイ11を挟んで上パンチ15と対向し、ダイ11のキャビティ内にまで昇降可能な下パンチ16とからなる金型によって成形される。ここでは、裏板3を位置決め保持するスペーサ13がダイ11の上に載置されている。まず、図3(a)に示すごとく上パンチ15をダイ11から上昇離間させた状態において、ダイ11のキャビティ内に摩擦材原料2aもしくは予備成形体を充填する。次いで、図3(b)に示すごとくスペーサ13で位置決めを行いながら、ダイ11のキャビティを覆うように、摩擦材原料2aの上方から下面に接着剤を塗布した裏板3をダイ11に載置する。最後に、図3(c)に示すごとく摩擦材原料2aを加熱しながら上下のパンチ15・16を昇降させて摩擦材原料2aと裏板3とを加圧挟持すると、摩擦材原料2a中のバインダー樹脂が一旦溶融した後硬化することで、摩擦材2が所定形状に成形されると共に裏板3に接着されて、ブレーキパッド1が成形される。このときの成形温度も、先の正転成形と同様である。これによって得られた摩擦材2の表面側は、図3(c)に示されるように比較的樹脂リッチとなっている。
【0020】
上記正転または逆転成形による成形工程において成形されたブレーキパッド1は、その後摩擦材を養成する熱処理工程、塗装工程を経て、最終的に研磨工程で摩擦材表面を研磨して完成する。ここで、熱処理工程はバインダー樹脂を確実に硬化させるための工程であって、140〜400℃程度の温度で2〜48時間程度処理される。また、制動時のフェード現象を防止するために摩擦材の表面から熱を焼入れすることで、表層部分から予めガス発生成分である有機物を除去しておくスコーチ処理工程を経ることも好ましい。そのスコーチ処理方法としては、一般的に熱板法と、ガスバーナ法とが採用されている。熱板法は、加熱した鉄板に摩擦材を押しつけてその表面を焼く方法である。一方、ガスバーナ法は、ガスバーナの炎で摩擦材の表面を焼く方法である。なお、スコーチ処理は、研磨工程の前に行われることもあるし、研磨工程の後に行われることもある。
【0021】
このように摩擦材は、成形工程や熱処理工程、および場合によってはスコーチ処理工程での熱によって熱膨張もしくは熱収縮し、また、成形工程での発生ガスや内部応力などの影響も受けて、成形工程において設計した摩擦材の形状とは異なる形状となることが多い。このような変形は、構成材料によっても異なり種々の要素が複雑に絡み合って生じるので、最終的にどのような形状となるかの予測が困難であり、成形工程のみによって摩擦材の形状を設計することには限界がある。そして、図5に示すように、摩擦材2がこれの中央部が凹み、左右両側縁が突出したような湾曲形状となる傾向が強く、これではブレーキ制動時に鳴きが発生し易くなる問題が生じる。
【0022】
そこで、本発明では一般的にブレーキパッド1の製造過程における最終工程となる研磨工程において、摩擦材2の形状を設計している。図4に、摩擦材2の研磨方法を示す。成形工程にて得られたブレーキパッド1の裏板3は、平坦となっている。そして、この平坦な状態の裏板3を、該裏板3の左右両側方の所定位置に配置した2つのシム5を介して研磨台6上に浮上した状態で載置する。これにより、裏板3はその左右両側方でシム5によって2点支持された状態となり、シム5の厚み分裏板3と研磨台6との間に隙間ができている。このシム5が、本発明の支持体に相当する。
【0023】
裏板3は磁性材からなる。また、シム5も磁性材からなっており、所定の厚みを有する平板長方形部材である。一方、研磨台6は電磁チャック(具体的構成は図示せず)となっており、これに通電することで電磁力が発生し、この電磁力によって裏板3およびシム5を吸着できるようになっている。電磁チャック6は電磁力によって裏板3およびシム5を吸着できるものであれば、その具体的構成は特に限定されることはなく、例えば複数の電磁石を絶縁セパレ−タを介してS極とN極が絶縁分離状に交互に並設された角テ−ブル型チャック、箱体内に磁極用鋼材にコイルを巻いた複数の電磁石を並設し、U字状の絶縁セパレ−タで絶縁分離状に配された複数の磁極材を有する上蓋で箱体の上面開口を塞ぎ、上蓋の各磁極材を箱体内の電磁石のS極、N極にそれぞれ接続して各磁極を形成する構造の電磁チャック、および箱体内に磁極用鋼材にコイルを巻いた縦向きの電磁石を複数個並設し、この箱体の上面開口を磁性材からなる上蓋で覆った構造のもの等、周知のものを使用できる。
【0024】
電磁チャック6上にブレーキパッド1を載置できたら、電磁チャック6に通電して裏板3およびシム5を吸着固定する。このとき、裏板3の中央部はシム5が配されていないので裏板3は電磁力により弾性変形して、図4によく示されるように、中央部が下方(電磁チャック6側)へ凹んだ湾曲形状となる。これに伴い、裏板3に接着された摩擦材2もその中央部が凹み、その左右両側縁部が上方へ突出した湾曲形状となる。この状態となったところで、研磨機の砥石7によって摩擦材2を水平(図4の破線で示す形状)に研磨する。なお、シム5は電磁チャック6上に載置しているだけであるが、電磁力によって強固に吸着固定されているので、研磨中に位置ズレすることはない。摩擦材2の表面を水平に研磨できたところで電磁チャック6の通電を解除すると、裏板3は弾性力により平坦に戻る。これに伴い裏板3に接着された摩擦材2も変形して、図1に示すごとく摩擦材2の表面は中央部が最も凸となり左右両側縁が最も凹んだ形状、すなわち左右両側縁が面取りされた形状となる。
【0025】
摩擦材2がこのような形状となっていることで、ブレーキパッド1を車両のディスクロータに押圧して制動操作する際に、鳴きの発生を低減させることができる。また、成形工程や熱処理工程、およびスコーチ処理工程などの熱によって変形した後に、最終製造工程である研磨工程において摩擦材2の表面形状を設計しているので、その後摩擦材2が変形することもなく確実に摩擦材2の表面形状を設計制御できる。仮に研磨工程の後にスコーチ処理を施す場合でも、研磨工程において的確に摩擦材2の形状が設計制御されているので、その後の加熱処理の影響を最小限に抑えることができる。したがって、本発明による研磨方法によれば、正転成形した摩擦材であろうと逆転成形した摩擦材であろうとその違いによる影響が少ないことから、逆転成形した摩擦材に対しても大きな効果を奏する。
【0026】
電磁チャック6の電磁力は、少なくとも裏板3を確実に湾曲させられるだけ強さとし、裏板3の形状・寸法、素材(剛性)、シム5同士の間隔寸法などにより適宜設定すればよい。例えば、長寸や薄肉の裏板3であれば比較的弱い電磁力でも裏板3を湾曲させられるが、短寸や厚肉の裏板3であれば強い電磁力を要する。また、裏板3の剛性が高かったりシム5同士の間隔が小さければ電磁力を強くし、逆に裏板3の剛性が低かったりシム5同士の間隔が大きければ電磁力は比較的弱くてもよい。
【0027】
シム5の厚みや配置位置(配置間隔)も、裏板3の形状や寸法によって適宜設定でき特に限定されることはないが、少なくとも摩擦材2と裏板3との中央部を確実に下方へを湾曲させられるだけの厚みや配置間隔とする必要がある。例えば、シム5を裏板3の左右両側端に配す場合は、シム5同士の間隔が広く裏板3の曲率半径が大きくなるので、比較的厚みの大きいシム5を使用する。一方、シム5を裏板3の中央寄り左右側方に配す場合は、シム5同士の間隔が狭く裏板3の曲率半径が小さくなるので、比較的厚みの小さいシム5を使用できる。もちろん、同じシム5の配置位置において、裏板3の曲率半径を大きくしたい(左右両側縁の上方突出量を大きくしたい)場合は、シム5の厚みを大きくし、裏板3の曲率半径を小さくしたい(左右両側縁の上方突出量を小さくしたい)場合は、シム5の厚みを小さくすればよい。但し、シム5の厚みが大きすぎると、裏板3と電磁チャック6との隙間が大きくなって電磁力による吸着力が低下し、裏板3を確実に湾曲させることができなくなる。したがって、シム5の厚みは概ね3mm以下とすることが好ましく、この範囲において裏板3の形状や寸法、求める曲率半径などにより適宜設定すればよい。なお、裏板3が電磁チャック6により湾曲状に吸着固定されているとき、裏板3と電磁チャック6とが接触していることが好ましいが、必ずしも両者3・6が接触していなくてもよい。電磁力は非接触の物体同士の間にも作用し、隙間が存在していても裏板3は電磁チャック6に吸引されるからである。
【0028】
このように、本実施形態ではシム5を電磁チャック6に載置するだけで摩擦材2の形状を設計できるので、どのような形状・寸法のブレーキパッド1に対しても、容易確実に対応できる。そして、実際の現場では、研磨工程に入る前に1つのブレーキパッド1をサンプリングして、摩擦材2や裏板3の材質や形状に応じた適切なシム5の厚みと配置位置を設定しておくことで、所望の形状・平面度に制御されたブレーキパッドを量産することができる。
【0029】
本実施の形態では、前後40mm、左右90mm、厚み12mmの摩擦材2と、前後42mm、左右110mm、厚み5.5mmの鋼製裏板3に対し、厚み1.2mmのシム5を裏板3の左右両側端に配置して研磨した。これにより得られた摩擦材2の表面は、良好にその中央部が凸となり左右両側縁が凹となっていた。
【0030】
以上、摩擦材2と電磁チャック6との間に介在させる支持体として磁性材からなる平板状のシム5を使用する形態について説明したが、非磁性材からなる支持体を使用することもできる。この場合、図6に示すように、支持体8は裏板3と電磁チャック6との間に介在する支持部8aと、当該支持部8aの下方に一体的に設けられたピン部8bとからなるピン部材として形成されている。また、電磁チャック6の所定位置にも、支持体8の位置決め固定用の位置決め孔6aが凹み形成されている。支持体8の支持部8aは、先のシム5と同様に長細長方形状の平板状を呈しており、好ましくは裏板3の前後長さ寸法と同等の前後長さ寸法としておく。これによれば、支持体8が非磁性体であって電磁力により吸着固定されなくても、ピン部8bが位置決め孔6aで確り固定されているので、摩擦材2の研磨中に位置ズレすることはない。
【0031】
また、非磁性材からなる支持体を使用する場合は、図7に示すごとく、位置決め孔6aを電磁チャック6の上面全体に亘って複数個規則的に配設してもよい。これによれば、種々の形状・寸法のブレーキパッドやブレーキライニングに合わせて支持体の配設位置を適宜容易に変更できる。また、このとき裏板3と電磁チャック6との間に介在させる支持体9は、その支持部9aを短寸(例えば正方形や円形)として複数個配置することもできる。これによれば、種々の形状・寸法のブレーキパッドやブレーキライニングに対して摩擦材2の形状をより的確に設計できる。ここでの支持体9にもピン部9bが一体形成されている。なお、ピン部材状の支持体が磁性材であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ブレーキパッドの正面図である。
【図2】正転成形の工程図である。
【図3】逆転成形の工程図である。
【図4】摩擦材を研磨する研磨工程図である。
【図5】従来のブレーキパッドの正面図である。
【図6】電磁チャックと支持体の変形例を示す研磨工程図である。
【図7】電磁チャックと支持体の別の変形例を示す研磨工程図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ブレーキパッド
2 摩擦材
3 裏板
5 シム(支持体)
6 電磁チャック(研磨台)
7 砥石
8・9 支持体
10 インサート
11 ダイ
12 パンチ
13 スペーサ
15 上パンチ
16 下パンチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏板(3)に加熱加圧されて接着された摩擦材(2)の研磨方法であって、
磁性材からなり平坦な状態の前記裏板(3)を、該裏板(3)の左右両側方位置に配置した支持体(5)を介して電磁チャックからなる研磨台(6)上に浮上した状態で載置し、前記電磁チャック(6)の電磁力によって前記裏板(3)を弾性変形させて、前記裏板(3)および前記摩擦材(2)の中央部が下方へ凹んだ状態で、前記摩擦材(2)を水平に研磨することを特徴とする摩擦材の研磨方法。
【請求項2】
前記支持体(5)が、磁性材からなるシムであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材の研磨方法。
【請求項3】
前記摩擦材(2)は、ダイ(11)の内部空間に摩擦材原料(2a)または予備成形体を充填し、ダイ(11)の上に裏板(3)を載置したうえで、加熱しながら上下のパンチ(15)・(16)で加圧して、前記裏板(3)の下方から成形接着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩擦材の研磨方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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