説明

摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物

【課題】摩擦材の機械的特性を大きく損なうことなく、耐熱性、柔軟性、難燃性の向上したフェノール樹脂組成物および熱硬化性フェノール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】摩擦材用フェノール樹脂組成物、および摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物であって、樹脂軟化点が70〜130℃であるノボラック型フェノール樹脂(a)と、リン(b)と窒素(c)を含有し、かつリン(b)の含有量が0.5〜10重量%、窒素(c)の含有量が0.2〜10重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、優れた耐熱性及び無機充填材フィラーとの接着性を有し、ブレーキ等の摩擦材用バインダーとして広く使用されている。この用途においては、一般的にランダムノボラック型ノボラック型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンとを粉砕混合して得られた粉末状の熱硬化性フェノール樹脂組成物が広く使用されている。
ブレーキなどの摩擦材の製造プロセスとしては、前記熱硬化性フェノール樹脂組成物をバインダーとして用い、これに、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維などの繊維状無機充填材基材、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの粉末状無機充填材基材、及び、カシューダスト等を混合したものを熱圧プレス装置により加熱加圧成形して成形体を得る方法が挙げられる。
以前から摩擦材用樹脂に求められている特性は耐熱性、耐摩耗性、高摩擦係数、低鳴き、低吸湿、振動吸収性等が挙げられる。フェノール樹脂は耐熱性に優れる一方、硬くて脆いという問題点があり、このような要求特性を満足させるために様々な摩擦材用フェノール樹脂組成物に関する技術が公開されている。また、近年、金属繊維に変わり、アラミド繊維等を使用した摩擦材が主流となってきている。一方で、アラミド繊維等有機成分の増加のため、以前の金属繊維配合と比較し、耐熱性、特に難燃性に劣り、高負荷運転条件における摩擦材の発煙、燃焼といった新しい問題も発生してきており、これの改良が望まれている。
フェノール樹脂に柔軟性を付与する手法として、例えばゴム、エラストマー等で変性された変性ノボラック型フェノール樹脂がある(例えば特許文献1)。これら手法は柔軟性付与には高い効果がある一方で、耐熱性、難燃性に劣るという問題点がある。また、一般的な樹脂の難燃化の手法としては、リン含有物質や窒素含有物質を添加する方法などが挙げられる(例えば特許文献2、特許文献3)。しかし、これら難燃剤組成物は、摩擦材として用いたときには樹脂分子量が大きいため流動性が極めて低く、基材との濡れ性が不足し、十分な機械的強度が得られないという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平10-007815号公報
【特許文献2】特開2000−234091号公報
【特許文献3】WO2006/043460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、摩擦材の機械的特性を大きく損なうことなく、耐熱性、柔軟性、難燃性の向上したフェノール樹脂組成物および熱硬化性フェノール樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(4)により達成される。
(1)樹脂軟化点が70〜130℃であるノボラック型フェノール樹脂(a)と、リン(b)源と、窒素(c)源とを含有し、かつリン(b)の含有量が0.5〜10重量%、窒素(c)の含有量が0.2〜10重量%であることを特徴とする摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(2)前記リン(b)源が、融点が70℃以上のリン含有化合物からなり、前記リン含有化合物がリン酸化合物、ポリリン酸化合物のいずれか1種類以上を含むものである、(1)項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(3)前記窒素(c)源が、融点が70℃以上の窒素含有化合物からなり、前記窒素含有化合物がトリアジン化合物、アンモニウム化合物のいずれか1種類以上を含むものである、(1)項または(2)項に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(4)前記摩擦材用フェノール樹脂組成物に、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含んでなる、(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、摩擦材の機械的特性を大きく損なうことなく、耐熱性、柔軟性、難燃性の向上したフェノール樹脂組成物および熱硬化性フェノール樹脂組成物が得る事ができる。得られたフェノール樹脂組成物および熱硬化性フェノール樹脂組成物は、特に各種摩擦材に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物および摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物について説明する。本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂と、リン源と、窒素源とを含んでなり、ノボラック型フェノール樹脂の樹脂軟化点が70〜130℃であり、リンを0.5〜10重量%、窒素を0.2〜10重量%含有するものである。また、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含んでなる摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物である。
【0008】
まず本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物について説明する。本発明に用いるノボラック型フェノール樹脂(a)としては、樹脂軟化点が70〜130℃であり、好ましくは80〜125℃である。これにより、摩擦材用フェノール樹脂組成物として良好な機械的強度を得る事ができる。前記樹脂軟化点の下限値未満である場合には、摩擦材用フェノール樹脂組成物のブロッキングを誘発し、摩擦材に用いた時に樹脂の偏在を起こし、成形不良ないしは耐熱性、機械的強度が低下する事がある。また上限値よりも高い場合、摩擦材成形時に流動性が不足し、耐熱性、機械的強度の低下を起こす事がある。
【0009】
前記ノボラック型フェノール樹脂(a)の構造としては、特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型樹脂、レゾルシンノボラック型樹脂、キシレノールノボラック型樹脂、アルキルノボラック型フェノール樹脂、ナフトールノボラック型樹脂、ビスフェノールAノボラック型樹脂、フェノールアラルキルノボラック型樹脂、フェノールジフェニルアラルキルノボラック型樹脂、フェノールナフタレンノボラック型樹脂、フェノールジシクロペンタジエンノボラック型樹脂、及びカシューナッツ油、テルペン、トール油、ロジン、ゴム等による変性ノボラック型フェノール樹脂などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0010】
前記ノボラック型フェノール樹脂(a)の原料として用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、カルダノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類、フェノール系化合物を含有するカシューナッツ油等の油脂類が挙げられる。フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノールも使用する事ができるが、環境面よりハロゲンを含まないフェノール類を用いる事が好ましい。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0011】
また、用いるアルデヒド類としては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。
【0012】
前記フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.45〜0.90とすることが好ましい。特に好ましくは0.50〜0.87である。反応モル比を前記範囲にすることにより、反応中に樹脂がゲル化することなく、好適な分子量を有するノボラック型フェノール樹脂を合成することができる。反応モル比が前記下限値未満では、得られるノボラック型フェノール樹脂の樹脂軟化点が70〜130℃にならない事がある。
【0013】
この反応において用いられる酸性触媒としては、特に限定されないが、シュウ酸などの有機酸や塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを使用することができる。
【0014】
本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物は、リン(b)源と窒素(c)源とを含有し、かつリン(b)の含有量が0.5〜10重量%、窒素(c)の含有量が0.2〜10重量%であることを特徴とする。好ましくは、リン(b)の含有量が1〜8重量%、窒素(c)の含有量が0.5〜8重量%である。リンによる難燃化機構としては、一般的に燃焼時にリンが空気中や樹脂由来の酸素原子と反応し、最終的にポリリン酸を生成して、樹脂表面を被覆することにより樹脂への酸素供給遮断による消火、および炭素層の生成を促進し、樹脂表面の難燃化に寄与するといわれている。また、窒素による難燃化機構としては、窒素自身が炭素に比べ燃焼性が低い、窒素含有不活性ガスが発生し酸素の希釈、遮断効果による消火が起こると考えられている。それぞれ単独で用いても、難燃化効果を得る事ができるが、機構の異なる複数の難燃化剤を組み合わせることにより、単独で用いる場合よりも少量で、より大きな難燃化効果を得る事ができる。また、機構は定かではないが、リン含有物質はノボラック型フェノール樹脂に対して柔軟材として作用し、結果として摩擦材に使用した時の柔軟性向上に寄与する。前記リン含有量が下限値未満である場合には、耐熱性、柔軟性、および難燃性向上の効果が十分に得られない事がある。また上限値よりも高い場合、リンがノボラック型フェノール樹脂に対して可塑剤として作用し、また実質的なバインダー成分量が減少するため、摩擦材としたときに耐熱性、機械的強度が低下する事がある。前記窒素含有量が下限値未満である場合には、耐熱性、難燃性向上の効果が十分に得られない事がある。また前記窒素含有量が上限値よりも高い場合、実質的なバインダー成分量が減少するため、摩擦材としたときに耐熱性、機械的強度が低下する事がある。前記リン、窒素源として、それぞれ単独の物質を用いても良いし、リン、窒素の両方を同時に含有する物質を用いてもかまわない。
【0015】
前記リン(b)源としては融点が70℃以上のリン含有化合物が好ましく、さらに好ましくは融点が80℃以上である。融点が前記下限値未満である場合には、摩擦材用フェノール樹脂組成物のブロッキングを引き起こし、摩擦材に用いた時に樹脂の偏在を起こし、成形不良ないしは成形体の耐熱性、機械的強度が低下する事がある。前記リン含有化合物としては、リン酸化合物、ポリリン酸化合物が挙げられる。例えば、リン酸化合物としては、リン酸金属塩、リン酸尿素、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸メラミンシアヌレート、リン酸グアナミン、リン酸アジポグアナミン、リン酸ベンゾグアナミン、リン酸アセトグアナミン、リン酸サクシノグアナミン、リン酸メラム、リン酸メレム、リン酸メロン、またトリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、t-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(t-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(t-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェートなど、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシレニル)ホスフェートのリン酸エステル等が挙げられる。ポリリン酸化合物としては、前記リン酸化合物のリン酸部分をポリリン酸に置換したものなどが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
前記窒素(c)源としては融点が70℃以上の窒素含有化合物が好ましく、さらに好ましくは融点が80℃以上である。融点が前記下限値未満である場合には、摩擦材用フェノール樹脂組成物のブロッキングを引き起こし、摩擦材に用いた時に樹脂の偏在を起こし、成形不良ないしは成形体の耐熱性、機械的強度が低下する事がある。前記窒素含有化合物としては、トリアジン化合物、アンモニウム化合物が挙げられる。例えば、トリアジン化合物としては、メラミン、メラミンシアヌレート、グアナミン、アジポグアナミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、サクシノグアナミン、メラム、メレム、メロンやそれらの各種誘導体、塩、およびホルムアルデヒドとの重合体、シアネートエステル樹脂などが挙げられる。また、アンモニウム化合物としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸水素アンモニウム、スルホン酸アンモニウム、アンモニア有機酸塩などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0017】
ノボラック型フェノール樹脂(a)にリン源、窒素源を混合する方法としては特に限定されないが、例えば、粉砕混合、加圧ニーダー、二軸押出機、単軸押出機、ロールによる混練混合、樹脂を熱、あるいは溶剤等で一旦液状化し、溶融混合する方法などが挙げられる。
【0018】
次に本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物より摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物を得る方法を説明する。本発明の摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物は、前記方法により得られた摩擦材用フェノール樹脂組成物に、ヘキサメチレンテトラミンのような硬化剤や、必要に応じて硬化促進剤を添加混合することにより得ることができる。前記ノボラック型フェノール樹脂材料は、例えば、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを溶融混合する方法、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを溶融混合した後に粉砕する方法、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを各々粉砕したものを乾式混合する方法、あるいは、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを同時に粉砕して混合する方法、などにより調製することができる。
【0019】
ヘキサメチレンテトラミンの配合量としては特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、5〜20重量部であることが好ましい。さらに好ましくは6〜17重量部である。ヘキサメチレンテトラミンの配合量が前記下限値未満では、硬化が不充分になり、寸法精度がばらつくことがある。また、前記上限値を超えると、ヘキサメチレンテトラミンの分解により発生するガスが、摩擦材成形品に膨れ、亀裂などを発生させることがある。
【0020】
本発明の摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物にはこのほか、ノボラック型フェノール樹脂の硬化促進の目的で、必要に応じて有機酸を使用することができる。有機酸の使用量については特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂(a)100重量部に対して、0.2〜4重量部添加することができる。
【0021】
本発明の組成物は、摩擦材の製造に好適に用いることができるものである。本発明の組成物を、例えばブレーキの原料として用いる場合は、本発明の組成物に金属繊維や化学繊維、カシューダスト等と混合したものをプレス成形して、ブレーキを製造することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の摩擦材用フェノール樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)、摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物(以下、単に「熱硬化性樹脂組成物」ということがある)について実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。また、実施例、比較例で示される「部」および「%」は全て「重量部」および「重量%」である。
【0023】
(樹脂合成例1)
フェノール1000部、37%ホルマリン570部、蓚酸10部の混合物を、100℃で3時間反応後、反応混合物の温度が140℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が220℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型フェノール樹脂A905部を得た。ノボラック型フェノール樹脂Aの軟化点は88℃であった。
【0024】
(樹脂合成例2)
フェノール1000部、37%ホルマリン790部、蓚酸10部の混合物を、100℃で3時間反応後、ブタノールを200部添加し、反応混合物の温度が140℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が230℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型フェノール樹脂B1012部を得た。ノボラック型フェノール樹脂Bの軟化点は135℃であった。
【0025】
(樹脂合成例3)
フェノール2000部、37%ホルマリン900部、蓚酸30部の混合物を、100℃で3時間反応後、反応混合物の温度が130℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が200℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型フェノール樹脂C1003部を得た。ノボラック型フェノール樹脂Cの軟化点は67℃であった。
【0026】
表1に実施例、比較例に用いた原料の配合量を示す。数字は全て重量部である。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例1)
ノボラック型フェノール樹脂A、リン酸二水素アンモニウム(融点無し)を表1に示す割合で配合し、小型粉砕機で粉砕混合を行ない、樹脂組成物Aを得た。樹脂組成物A100部に対して、ヘキサメチレンテトラミンを12部配合し、小型粉砕機で粉砕混合を行ない、熱硬化性樹脂組成物Aを得た。
【0029】
(実施例2)
ノボラック型フェノール樹脂A、ポリリン酸メラミン(三和ケミカル製「MPP−B」、融点無し)を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Bおよび熱硬化性樹脂組成物Bを得た。
【0030】
(実施例3)
ノボラック型フェノール樹脂A、リン酸エステル(三光製「HCA」、融点118℃)、メラミン(融点250℃)を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Cおよび熱硬化性樹脂組成物Cを得た。
【0031】
(比較例1)
ノボラック型フェノール樹脂B、リン酸二水素アンモニウムを表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Eおよび熱硬化性樹脂組成物Eを得た。
【0032】
(比較例2)
ノボラック型フェノール樹脂C、リン酸二水素アンモニウムを表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Fおよび熱硬化性樹脂組成物Fを得た。
【0033】
(比較例3)
ノボラック型フェノール樹脂A、トリフェニルホスフェート(融点49℃)を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Gおよび熱硬化性樹脂組成物Gを得た。
【0034】
(比較例4)
ノボラック型フェノール樹脂A、リン酸エステル(三光製「HCA」、融点118℃)を表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Hおよび熱硬化性樹脂組成物Hを得た。
【0035】
(比較例5)
ノボラック型フェノール樹脂A、メラミンを表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Iおよび熱硬化性樹脂組成物Iを得た。
【0036】
(比較例6)
ノボラック型フェノール樹脂A、リン酸二水素アンモニウムを表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Jおよび熱硬化性樹脂組成物Jを得た。
【0037】
(比較例7)
ノボラック型フェノール樹脂A、リン酸二水素アンモニウムを表1に示す割合で配合し、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物Kおよび熱硬化性樹脂組成物Kを得た。
【0038】
(比較例8)
ノボラック型フェノール樹脂Aにヘキサメチレンテトラミンを表1に示す割合で配合し熱硬化性樹脂組成物Lを得た。
【0039】
(評価)
前記実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の評価を下記の要領で行った。樹脂組成物より得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、ブレーキ材を作成し、評価を行なった。硫酸バリウム400重量部、炭酸カルシウム400重量部、カシューダスト50重量部、アラミド繊維50重量部と、各実施例及び比較例で得られた粉末状の熱硬化性樹脂組成物100重量部とを乾式で混合して配合物を得た。得られた配合物を温度150℃、圧力400kg/cm2で5分間成形し、100mm×100mmの成形品を得た。得られた成形品をさらに200℃で5時間焼成してブレーキ材を作製した。
【0040】
(評価方法)
(1)曲げ強度
得られた成形品をJIS K 7203「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して測定した。常温で常態強度、また350℃で4時間加熱処理を行なったサンプルについて、熱処理後強度を測定した。
(2)硬度
得られた成形品をJIS K 7202「プラスチックのロックウェル硬さ試験方法」に準拠して測定した。
(3)難燃性
得られた成形品を10mmの立方体にダイアモンドカッターで切り出し、得られた試験片をあらかじめ580℃に加熱した乾燥炉中に投入し、投入後から発火に至るまでの時間を測定した。
【0041】
表2に評価結果を示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、本発明によって得られた実施例1〜3の樹脂組成物およびそれらより得られる熱硬化性樹脂組成物は、いずれも難燃剤を添加しない比較例8に比べ、成形体の強度に大きな差は無いにもかかわらず、硬度が低く、柔軟性に優れる事がわかる。また、実施例1〜3は比較例8に比べ、熱処理後の強度が高く、難燃性評価では発火に至るまでの時間が長くなり耐熱性と難燃性が向上している事がわかる。
一方で軟化点の高いフェノール樹脂を使用した比較例1では、樹脂の流動性不足のため、成形体強度の低下が見られた。また、軟化点の低いフェノール樹脂を使用した比較例2、およびリン含有物質の融点の低い比較例3では、樹脂組成物および熱硬化性樹脂組成物がブロッキングを起こし、成形体を得る事ができなかった。
また、窒素を含まない比較例4では、難燃効果はあまり向上しなかった。一方でリンを含まない比較例5では、硬度は高くて硬い成形体であり、難燃効果はあまり向上しなかった。また、リン、窒素の含有量が前記範囲よりも少ない比較例6では耐熱性向上、難燃性向上はほとんど見られず、逆にリン、窒素の含有量が前記範囲よりも多い比較例7では、難燃性は向上するものの、常態強度が大きく低下した。
これらの結果より、本発明によって得られる樹脂組成物および熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、成形体の強度を維持したまま柔軟性と耐熱性、難燃性を向上し、摩擦材用フェノール樹脂組成物、および摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物として優れた物である事がわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂軟化点が70〜130℃であるノボラック型フェノール樹脂(a)と、リン(b)源と、窒素(c)源とを含有し、かつリン(b)の含有量が0.5〜10重量%、窒素(c)の含有量が0.2〜10重量%であることを特徴とする摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン(b)源が、融点が70℃以上のリン含有化合物からなり、前記リン含有化合物がリン酸化合物、ポリリン酸化合物のいずれか1種類以上を含むものである、請求項1に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記窒素(c)源が、融点が70℃以上の窒素含有化合物からなり、前記窒素含有化合物がトリアジン化合物、アンモニウム化合物のいずれか1種類以上を含むものである、請求項1又は2に記載の摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記摩擦材用フェノール樹脂組成物に、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材用熱硬化性フェノール樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−13609(P2010−13609A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177185(P2008−177185)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】