説明

摩擦材

【課題】朝方等の低温時や高湿度時に車両の運転を開始した運転初期に、ブレーキ操作時に発生するモーニングエフェクト現象に因る鳴きを解消し得る摩擦材を提供する。
【解決手段】基材中に複数種の有機材を含有する摩擦材において、前記有機材の1種として、カルナウバワックスを含有することを特徴とし、摩擦材の全重量に対して0.5〜3重量%となる量を配合することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキに用いられる摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキに用いられる摩擦材には、下記特許文献1に提案されているように、黒鉛を主成分とする摩擦材中に結合材等の有機材が配合されている。
【特許文献1】特開昭49−30731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1で提案されている摩擦材は、摩擦係数が高く、高速、高圧下の使用においても良好な潤滑性を有し、通常の走行車両に対するブレーキ操作には、特に鳴きは発生しない。
しかし、かかる摩擦材では、朝方等の低温時や高湿度時に車両の運転を開始した運転初期に、ブレーキ操作をすると、大きな鳴きが発生する。この鳴きは、複数回のブレーキ操作を実施することによって解消できる。
この現象は、摩擦材に付着した水分によって発生する、いわゆるモーニングエフェクト現象と称されるものである。特に、水分の蒸発し難いドラムブレーキでは、モーニングエフェクトが発生し易い。このモーニングエフェクト現象による鳴きは、複数回のブレーキ操作を実施して、摩擦材温度が昇温されたときに解消する。
しかしながら、かかるモーニングエフェクト現象に因る鳴きを運転開始の初期段階から解消したい。
【0004】
そこで、本発明の課題は、朝方等の低温時や高湿度時に車両の運転を開始した運転初期に、ブレーキ操作時に発生するモーニングエフェクト現象に因る鳴きを解消し得る摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を達成すべく検討を重ねたところ、摩擦材中にカルナウバワックスを配合することによって、モーニングエフェクト現象に因る鳴きを効果的に解消し得ることを知り、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、基材中に複数種の有機材を含有する摩擦材において、前記有機材の1種として、カルナウバワックスを含有することを特徴とする摩擦材にある。
かかる本発明において、カルナウバワックスの含有量を、摩擦材の全重量に対して0.5〜3重量%とすることが好ましい。
また、この摩擦材を、モーニングエフェクト現象に因る鳴きが発生し易いドラムブレーキに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る摩擦材によれば、配合したカルナウバワックスが撥水性を有するため、朝方等の低温時や高湿度時でも、水分は摩擦材から弾かれる。このため、朝方等の低温時や高湿度時に車両の運転を開始した運転初期に、ブレーキ操作をしても、モーニングエフェクト現象に因る鳴きが発生することを防止できる。
その結果、朝方等の低温時や高湿度時においても、運転開始の初期段階からモーニングエフェクト現象に因る鳴きの発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る摩擦材は、無機材と有機材とから形成されている。
無機材としては、黒鉛、無機繊維、金属粉、その他無機材が用いられている。具体的には、黒鉛としては、黒鉛粒、燐片状黒鉛、黒鉛粉等を挙げることができ、無機繊維としては、炭素繊維、ロックウール、セラミック繊維、ミネラルファイバー、ガラス繊維を挙げることができる。更に、金属粉としては、アルミニウム粉、銅粉等を挙げることができ、その他無機材には、充填材としての炭酸カルシウム、硫酸バリウム、pH調整材としての水酸化カルシウム、研削材としてのジルコニウム粉、アルミナ粉、炭化珪素粉等を用いることができる。
また、有機材としては、有機繊維、結合材が用いられている。具体的には、有機繊維として、アラミド繊維、セルロース繊維等を挙げることができ、結合材としては、ノボラック系フェノール樹脂、レゾール系フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を挙げることができる。
【0008】
本発明に係る摩擦材では、かかる有機材の1種として、カルナウバワックスが配合されている。
このカルナウバワックスは、ブラジルろうと言われている天然ワックスであり、カルナウバヤシの葉からの分泌物である。主成分は、CH(CH24COO(CH29CHであり、融点は82〜85.5℃である。
かかるカルナウバワックスは、摩擦材の全重量に対して0.5〜3重量%となる量を配合することが好ましい。
ここで、カルナウバワックスの配合量が、摩擦材の全重量に対して0.5重量%未満の場合は、摩擦材のモーニングエフェクト現象に因る鳴きを充分に解消し難くなる傾向にあり、摩擦材の全重量に対して3重量%を越える場合は、摩擦材のモーニングエフェクト現象に因る鳴き解消効果も飽和状態となる傾向にある。
【0009】
本発明の摩擦材の製造方法として、従来の摩擦材の製造方法が採用できる。
その製造方法の1つとしては、摩擦材の原材料となる有機材と無機材の各所定量を混合し、所定形状に仮成形する。仮成形した摩擦材を加圧・加熱処理して熱成形し、摩擦材が成形される。この摩擦材には、必要に応じて切断、研磨、テーパー加工等が施される。
得られた摩擦材、又は表面処理等を施して乾燥した金属製の基体に接着剤を塗布した後、両者を加圧、加熱処理して一体化する。
【0010】
他の製造方法として、摩擦材作成のための熱成形と、摩擦材の基体への結着とを同時に行うこともできる。
まず、摩擦材の原材料である有機材と無機材の各所定量を混合して、所定形状に仮成形した仮成形体、又は表面処理等を施して乾燥した金属製の基体に接着剤を塗布した後、両者を加熱・加圧処理して結着し、一体化する。その後、基体と摩擦材の結着強度をさらに向上するため、熱風炉で焼成する。
【0011】
本発明に係る摩擦材は、原材料として温度や湿度の影響を比較的受けやすい炭酸カルシウム、フェノール樹脂、アラミド繊維等が含まれていても、撥水性を有するカルナウバワックスを含むことにより、水分が弾かれるので、低気温、高湿度の環境下であっても、モーニングエフェクト現象が発生し難くなる。
さらに、摩擦材の摩擦係数(μ)が大きくなるほどモーニングエフェクト現象による鳴きが顕著になる傾向があるが、カルナウバワックスを含むことで鳴きの発生を小さく抑えることができる。
ここで、カルナウバワックスはワックスであるため、走行時での制動力に変動を与える虞があるようにも考えられるが、摩擦材においてカルナウバワックスは100℃以上で揮発する。そのため通常の走行時での制動においては、カルナウバワックスが制動力に変動を与えることがなく、本発明に係る摩擦材は、従来のカルナウバワックスの含有されていない摩擦材と同様の安定した制動力を発揮することができる。
そして、本発明に係る摩擦材は、比較的水分が蒸発し難くモーニングエフェクトの発生しやすいドラムブレーキに特に好適である。
【実施例1】
【0012】
図1に示される車両用ドラムブレーキに使用されるブレーキシュー10を、摩擦材作成のための熱成形と、摩擦材のシュー本体(基体)への結着とを同時に行う製造方法により作成した。
このブレーキシュー10は、シュー本体11と、シュー本体11に接合される摩擦材12とからなる。金属製のシュー本体11は、円弧状の外周面を備えたリム部13の内側に、弓形のウエブ部14が配設されて形成されており、両者合わせた断面は略T字状となっている。そして、摩擦材12は、断面円弧状で、内周面及び外周面を有した湾曲板状に成形されており、内周面がリム部13の外周面に接合され、外周面がドラムブレーキのドラム側に配設される。
摩擦材12の製造にあたっては、まず、表1に示される種類と配合量(重量%)の原材料を撹拌、混合し、湾曲板状に仮成形する。そして、リム部13の外周面に熱硬化性樹脂からなる接着剤を塗布したシュー本体11に対して、仮成形された摩擦材を熱成形型によって押しつけるように、加圧しながら加熱処理を施す。こうしてシュー本体11に摩擦材12が結着されたブレーキシュー10が作成される。
尚、カルナウバワックスとしてブラジル産のものを使用した。
【0013】
【表1】

【0014】
実施例1による摩擦材は、加湿下では、従来の摩擦材よりモーニングエフェクト現象による鳴きの発生が抑えられていた。
尚、本発明による摩擦材の配合は、実施例に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブレーキシューの構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0016】
10 ブレーキシュー
11 シュー本体
12 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材中に複数種の有機材を含有する摩擦材において、前記有機材の1種として、カルナウバワックスを含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
カルナウバワックスの含有量が、摩擦材の全重量に対して0.5〜3重量%である請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
摩擦材が、ドラムブレーキ用の摩擦材である請求項1または2記載の摩擦材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−125618(P2006−125618A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64871(P2005−64871)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】