説明

摩擦材

【課題】 摩擦係数が高く(高μ)かつ安定していて、耐摩耗性、耐フェード性にも優れているバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。
【解決手段】 繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該繊維基材として酸化チタンが4〜11質量%含まれた酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を含有し、さらに該充填材として常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmのカシューダストを含有する摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、大型トラック、鉄道車両、各種産業用機械等のディスクパッド、ブレーキライニング等に好適に使用される摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、大型トラック、鉄道車両、各種産業用機械等の制動のために用いられる摩擦材は、摩擦係数が高くかつ安定していること、耐摩耗性に優れている事、耐フェード性があることなど様々な性能が要求されている。これらの特性を満足させるため従来から繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材組成物からなる摩擦材が使用されている。
【0003】
特許文献1には、鱗片状無機物と平均粒径が100〜250μmのカシューダストを含有することにより相手材としてのローター表面に摩擦材の摩耗成分や分解物が付着して形成される被着膜に起因するスティックスリップの発生を抑える摩擦材が開示されている。カシューダストについては、その平均粒子径が小さいことから分解が早くなりローターへ摩擦材摩耗成分や分解物が付着して被膜状となることが抑制されるとの記載がある。しかしこれだけではローター表面に形成される被着膜を抑制するには不充分でありスティックスリップの問題が解決された訳ではないこと、また高温熱履歴後にローター表面に付着する被着膜が過度に厚くなることで摩擦係数の安定性及び耐フェード性に欠ける欠点がある。
特許文献2には、六チタン酸カリウム結晶とチタニア結晶(酸化チタン)からなる複合多結晶繊維(酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維)を含有することにより、単相層の六チタン酸カリウム繊維に比べ高い耐摩耗性を有する摩擦材が開示されている。
また特許文献3には灰化層強化剤として焼結性無機化合物粉末(好ましいものとして酸化チタン等)を含有することにより摩擦材の灰化を抑制防止し機能を安定維持するとの開示がある。しかしこれらの摩擦材では耐摩耗性が不充分である。
【0004】
【特許文献1】特許第2807125号公報
【特許文献2】特許第2990565号公報
【特許文献3】特開平7−26031公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、摩擦係数が高く(高μ)かつ安定していて、耐摩耗性、耐フェード性にも優れているバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成するためローターに形成される移着被膜につき検討したところ、高温の熱履歴後ローター表面に形成される移着被膜を抑制するのではなく、逆に適度な厚みの移着被膜を形成し、その移着被膜の厚み、成分等により安定した高μ、耐摩耗性、耐フェード性をバランス良く実現出来るのではとの発想を得たものである。そして移着被膜の粘着材として、常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmであるカシューダストを使用し、その移着被膜の厚みを安定させる強化材、研削材として酸化チタンが4〜11質量%含まれた酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を使用することが好適であることを見いだし本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は下記の摩擦材を提供する。
(1)繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該繊維基材として酸化チタンが4〜11質量%含まれた酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を含有し、さらに該充填材として常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmであるカシューダストを含有する摩擦材。
(2)該酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維は平均繊維径が5〜25μmかつ平均繊維長が30〜90μmである(1)記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0008】
(1)の発明は、適度な移着被膜が高温の熱履歴後に形成されるので低温、及び広い速度域でμが高く安定し、耐摩耗性、耐フェード性が良好となるものである。
(2)の発明は一定形状の酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を含有することで、移着被膜の強度を強化し、摩擦材の灰化による崩壊消失を抑制することで耐摩耗性をさらに高めたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材において、該繊維基材として酸化チタンが4〜11質量%含まれた酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を、該充填材として常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmであるカシューダストを含有するものである。
【0010】
繊維基材として用いる酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維は、6チタン酸カリウム結晶と酸化チタンからなるものである。酸化チタンの含有量は4〜11質量%が好ましく、5〜9質量%がより好ましい。これより少ないと灰化による崩壊消失を抑制する効果が低くなり、また多いと移着被膜の厚さの安定性が低くなる。なお酸化チタンの結晶構造にはアナターゼ相とルチル相があるが、本発明の酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維では耐摩耗性が重視されることよりルチル相の酸化チタンとなるように作製されたものを用いることが好ましい。
酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維形状としては平均繊維径が50μm以下、好ましくは5〜25μm、より好ましくは7〜20μmである。また平均繊維長は200μm以下、好ましくは30〜90μm、より好ましくは45〜85μmである。これより小さいと移着被膜の強度が低くなり、大きいと摩擦係数の安定性及び耐摩耗性に劣る。
またその摩擦材組成物全量に対する添加量は7〜20体積%、好ましくは10〜17体積%である。これより少ないと移着被膜の安定性が低くなり、また多くても性能に関して特に劣る点はないがコスト高となる。
【0011】
繊維基材として上記に加えて添加できるものとして、摩擦材に通常用いられる繊維基材が挙げられる。たとえばスチール、ステンレス、銅、真鍮、青銅、アルミニウム等の金属繊維;チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト等の無機繊維;アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維;等である。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。繊維基材全体の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは20〜60体積%、より好ましくは25〜50体積%である。これらは本発明の効果を維持できる範囲で、適宜添加することができる。
【0012】
充填材としては常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmであるカシューダストを用いる。
常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%のカシューダストは、高温の熱履歴を受けた時の熱分解によって粘着性のあるタール分が発生し、ローター表面に移着被膜を生成するが、カシューダストのタール分が7質量%未満だと適度な被膜が形成できず、9質量%を超えると被膜が厚くなりすぎる。
カシューダストの平均粒径は好ましくは20〜90μm、より好ましくは30〜80μmである。これより小さいと適度な厚さの移着被膜が形成できず、製造時に飛散しやすく取り扱い困難となり、また大きいと移着被膜が過度に厚くなり耐フェード性に劣りスティックスリップが発生する。またその摩擦材組成物全量に対する添加量は好ましくは5〜25体積%、より好ましくは7〜20体積%である。これより少ないと適度な移着被膜が形成できなくなり、また多いと移着被膜が厚くなり過ぎ耐フェード性に劣りスティックスリップが発生する。
なおここで言う常温アセトン抽出法は具体的には次のように求めたものである。すなわち、粉末試料2gを精秤し(W0)、これを円筒ロ紙に入れソックスレーアセトン抽出試験装置の抽出管にセットし、アセトン100ml中で2時間還流下で抽出を行う。抽出後、ソックスレーフラスコに抽出されたタール分を105℃で1時間乾燥処置を行い、その重量(W1)を精秤する。アセトン抽出率Rは次式により計算される。
R(%)=(W1 / W0)×100
【0013】
充填材として上記に加えて添加できるものとして、有機充填材と無機充填材が挙げられる。有機充填材として、たとえば加硫済みの天然・合成ゴム粉末、タイヤリク、アクリルゴムダスト等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、消石灰、人造黒鉛、硫化錫、マイカ、コークス等の他、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム等の金属粉が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの充填材の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは20〜60体積%、より好ましくは30〜50体積%である。
【0014】
結合材としては、通常摩擦材に用いられる公知のものを使用することができる。たとえば、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、アクリルゴム(未加硫品)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。この結合材の添加量は本発明では通常より少なく、摩擦材組成物全量に対して好ましくは10〜25体積%、より好ましくは12〜20体積%である。
【0015】
本発明の摩擦材の製造方法は、上記成分をレディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合して成形金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度130〜180℃、成形圧力15〜49MPaで、3〜10分成形するものである。
次に、得られた成形品を150〜250℃の温度で2〜10時間熱処理(後硬化)した後、必要に応じて塗装、焼き付け、研磨処理を施して完成品が得られる。
なお自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄またはアルミ製プレート上に予備成形物を載せこの状態で成形用金型で成形、熱処理、塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【0016】
本発明の摩擦材は、自動車用として好適なものであるが、大型トラック、鉄道車両、各種産業機械等の制動用ブレーキにも用いることが出来る。
【実施例】
【0017】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0018】
実施例、比較例において使用するカシューダスト、及び酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維、6チタン酸カリウム繊維について下記に記載する。なお繊維成分(A)(B)(D)(E)の酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維における酸化チタンはルチル相を持つように作製されたものである。また平均粒径等はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いている。
【0019】
カシューダスト(A);平均粒径40μm、タール分8質量%
カシューダスト(B);平均粒径60μm、タール分8質量%
カシューダスト(C);平均粒径80μm、タール分8質量%
カシューダスト(D);平均粒径120μm、タール分8質量%
カシューダスト(E);平均粒径60μm、タール分5質量%
カシューダスト(F);平均粒径60μm、タール分11質量%
なお原料は全てパーマー社製を使用した。
【0020】
繊維成分(A);φ13×65μm(平均繊維径×平均繊維長)、酸化チタン含有量7質量%
繊維成分(B);φ30×150μm、酸化チタン含有量7質量%
繊維成分(C);φ30×150μm
繊維成分(D);φ13×65μm、酸化チタン含有量3質量%
繊維成分(E);φ13×65μm、酸化チタン含有量12質量%
なお繊維成分(A)(B)(D)(E)は酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維であり、繊維成分(C)は6チタン酸カリウム繊維である。また原料は全てクボタ社製を使用した。
【0021】
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、加圧型内で10MPaにて20秒加圧して予備成形をした。この予備成形品を成形温度150℃、成形圧力40MPaの条件下で6分間成形した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行ない、摩擦材を作成した。
得られた摩擦材について、摩擦係数の安定性、耐摩耗性、耐フェード性を評価した。結果を表1に、評価基準を表2に示す。
【0022】
表1


【0023】
表2



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該繊維基材として酸化チタンが4〜11質量%含まれた酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維を含有し、さらに該充填材として常温アセトン抽出法においてタール分が7〜9質量%かつ平均粒径が20〜90μmであるカシューダストを含有する摩擦材。
【請求項2】
該酸化チタン含有複合多結晶チタン酸カリウム繊維は平均繊維径が5〜25μmかつ平均繊維長が30〜90μmである請求項1記載の摩擦材。

【公開番号】特開2006−199753(P2006−199753A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10604(P2005−10604)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】