説明

摩擦装置

【課題】2つの摩擦材間の距離を十分に縮めることができる摩擦装置を提供する。
【解決手段】摩擦装置1は、ブレーキディスク2と、このブレーキディスク2に接触するブレーキパッド3とを備えている。また、摩擦装置1は、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との間に存在する気体を吸引する吸引ユニット4を備えている。吸引ユニット4は、ブレーキパッド3に形成され、ブレーキパッド3におけるブレーキディスク2と接触する面に開口する吸入路5と、この吸入路5と接続された吸引管6と、この吸引管6と繋がれた負圧室7とを有している。吸引管6には、開閉弁8が接続されている。さらに、摩擦装置1は、ブレーキペダルがONのときは、開閉弁8を開くように制御し、ブレーキペダルがOFFのときは、開閉弁8を閉じるように制御するECU9を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のブレーキ等に用いられる摩擦装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキ用摩擦装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、ブレーキシリンダに油圧を供給して、2つの摩擦材(摩擦結合部材及びブレーキ回転体)間のギャップを埋めるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−175924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のようなブレーキ用摩擦装置では、摩擦結合部材とブレーキ回転体との間に入った空気や、ブレーキ動作による発熱により摩擦結合部材の有機成分から発生したガスが、摩擦結合部材とブレーキ回転体との間に溜まることがある。従って、高く安定した摩擦力を得るためには、各摩擦材間の距離を一層縮めることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、2つの摩擦材間の距離を十分に縮めることができる摩擦装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1摩擦材と、第1摩擦材と接触する第2摩擦材とを備えた摩擦装置において、第1摩擦材及び第2摩擦材のいずれか一方に設けられた吸入路を有し、第1摩擦材と第2摩擦材との間に存在する気体を吸引する吸引手段を備えることを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の摩擦装置においては、吸引手段によって第1摩擦材と第2摩擦材との間に存在する空気やガスが強制的に吸入路を通って吸引されるので、第1摩擦材と第2摩擦材との間の距離が十分に近づくようになる。これにより、第1摩擦材と第2摩擦材との摩擦力を高く安定させることが可能となる。
【0008】
好ましくは、第1摩擦材または第2摩擦材の温度に応じて、吸引手段による吸引力を制御する制御手段を更に備える。この場合、例えば第1摩擦材または第2摩擦材の温度が低いときは、吸引手段による吸引力を高くするように制御することにより、第1摩擦材と第2摩擦材との摩擦力を最適にすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の摩擦装置によれば、2つの摩擦材間の距離を十分に縮めることができる。これにより、本発明の摩擦装置がブレーキ装置に適用された場合に、ブレーキの効き具合を安定して良くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる摩擦装置の一実施形態を示す一部断面を含む構成図である。
【図2】比較例として従来一般の摩擦装置を示す断面図である。
【図3】図1及び図2に示したブレーキディスクとブレーキパッドとの接触面Rの拡大断面図である。
【図4】本発明に係わる摩擦装置の他の実施形態を示す一部断面を含む構成図である。
【図5】図4に示したECUにより実行される弁制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係わる摩擦装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係わる摩擦装置の一実施形態を示す一部断面を含む構成図である。同図において、本実施形態の摩擦装置1は、車両のブレーキ装置に用いられるディスクブレーキ用摩擦装置である。摩擦装置1は、ブレーキディスク(第1摩擦材)2と、このブレーキディスク2に接触するブレーキパッド(第2摩擦材)3とを備えている。
【0013】
ブレーキディスク2の表面全体には硬質材が設けられている。ブレーキパッド3の表面側には弾性体が設けられ、この弾性体の表面には硬質粒子3aが存在している(図3参照)。つまり、ブレーキディスク2及びブレーキパッド3の表面には、硬さの差の小さい硬質材が設けられている。このため、ブレーキディスク2及びブレーキパッド3の摩耗が少なくなる。
【0014】
また、摩擦装置1は、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との間に存在する気体を吸引する吸引ユニット4を備えている。吸引ユニット4は、ブレーキパッド3に形成され、ブレーキパッド3におけるブレーキディスク2と接触する面に開口する吸入路5と、この吸入路5と接続された吸引管6と、この吸引管6と繋がれた負圧室7とを有している。なお、吸入路5は、ブレーキパッド3に複数形成されていても良い。また、吸引管6には、開閉弁8が接続されている。
【0015】
ここで、吸引ユニット4による吸引効率を上げるために、ブレーキパッド3の周りには密閉部位が設けられている。密閉部位の素材としては、例えば樹脂が望ましい。この場合には、通常個体で制動時にブレーキディスク2と接する表面のみが制動熱で液化すると、密閉部位の密閉性が上がるようになる。
【0016】
さらに、摩擦装置1は、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成されたECU9を備えている。ECU9は、上記の開閉弁8及びブレーキセンサ10と接続されている。ブレーキセンサ10は、ブレーキペダルのON/OFFや、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)を検出する。
【0017】
ECU9は、ブレーキペダルがONのときは、開閉弁8を開くように制御し、ブレーキペダルがOFFのときは、開閉弁8を閉じるように制御する。開閉弁8が開状態になると、例えばバキュームポンプ等(図示せず)によってブレーキディスク2とブレーキパッド3との間に存在する気体が吸入路5及び吸引管6を介して負圧室7に吸引される。
【0018】
以上において、吸引ユニット4は、第1摩擦材2及び第2摩擦材3のいずれか一方に設けられた吸入路5を有し、第1摩擦材2と第2摩擦材3との間に存在する気体を吸引する吸引手段を構成している。
【0019】
ここで、比較例として従来一般のブレーキ用摩擦装置を図2に示す。同図に示すブレーキ用摩擦装置は、上記の吸引ユニット4を備えておらず、単にブレーキシリンダのピストンの押力によりブレーキパッド3をブレーキディスク2に押し付ける。
【0020】
このようなブレーキ用摩擦装置では、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との間に入った空気や、制動中の発熱によりブレーキパッド3の有機成分から発生したガスによって、図3(a)に示すように、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との接触面に空気/ガスの層が形成され、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との距離が遠ざかる。その結果、ブレーキディスク2及びブレーキパッド3の摩耗が少ないものの、両者の摩擦力(摩擦係数)は高くならない。
【0021】
これに対し本実施形態では、ブレーキペダルのON時には、開閉弁8が開状態になることで、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との間に存在する空気やガスが吸引ユニット4により強制的に吸引・排除される。従って、図3(b)に示すように、ブレーキディスク2とブレーキパッド3とが負圧効果によって近づくため、両者の高く安定した摩擦力を得ることができる。その結果、ブレーキの効き具合を安定して良くすることが可能となる。
【0022】
なお、本実施形態では、ECU9により開閉弁8の開閉を制御するようにしたが、特にその構成には限られず、ブレーキ油圧を用いた機械式手法を用いて開閉弁8の開閉を行っても良い。
【0023】
図4は、本発明に係わる摩擦装置の他の実施形態を示す一部断面を含む構成図である。図中、上述した実施形態と同一または同等の要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
同図において、本実施形態の摩擦装置11は、上述した実施形態における開閉弁8及びECU9に代えて、リニア開閉弁12及びECU13を備えている。また、摩擦装置11は、ブレーキの温度(ブレーキディスク2またはブレーキパッド3の温度)を検出する温度センサ14と、エンジンの始動を行うためのイグニッションスイッチ15とを備えている。リニア開閉弁12、温度センサ14及びイグニッションスイッチ15は、ECU13と接続されている。
【0025】
ECU13は、ブレーキセンサ10及び温度センサ14の検出信号、イグニッションスイッチ15の操作信号を入力し、所定の処理を行い、リニア開閉弁12を制御する。ECU13による弁制御処理の手順の詳細を図5に示す。
【0026】
同図において、まずブレーキセンサ10の検出信号に基づいて、ブレーキペダルがONかどうかを判断し(手順S21)、ブレーキペダルがOFFのときは、リニア開閉弁12を閉じるように制御する(手順S22)。
【0027】
ブレーキペダルがONのときは、温度センサ14の検出信号に基づいて、ブレーキの温度が所定温度(A℃)未満であるかどうかを判断する(手順S23)。A℃は、例えば外気温+10℃程度である。
【0028】
ブレーキの温度が所定温度未満であるときは、更にイグニッションスイッチ15の操作信号に基づいて、エンジン始動後に所定時間(B分)を経過していないかどうかを判断する(手順S24)。B分は、例えば10分程度である。
【0029】
エンジン始動後に所定時間を経過していないときは、更にブレーキセンサ10の検出信号に基づいて、ブレーキの操作量が所定量(CN)以上であるかどうかを判断する(手順S25)。
【0030】
ブレーキの操作量が所定量以上であるときは、リニア開閉弁12の弁開度を所定開度よりも大きくするように制御する(手順S26)。これにより、吸引ユニット4による吸引力が高くなる。
【0031】
一方、ブレーキの温度が所定温度未満でないとき、エンジン始動後に所定時間を経過しているとき、ブレーキの操作量が所定量以上でないときは、リニア開閉弁12の弁開度を所定開度よりも小さくするように制御する(手順S27)。これにより、吸引ユニット4による吸引力が低くなる。
【0032】
以上において、ECU13及び温度センサ14は、第1摩擦材2または第2摩擦材3の温度に応じて、吸引手段4による吸引力を制御する制御手段を構成している。
【0033】
図2に示すような従来一般のブレーキ用摩擦装置では、エンジン始動直後などにエンジン負圧が下がり、必要なブレーキ液圧が得られずにブレーキ効き不良になることがある。また、例えば低踏力時はコントロール性重視とし、高踏力時は効き性重視とするなどのチューニングを加圧系(マスター/ブースター等)で施しているが、加圧系部品の制約により狙い通りの操作×制動力関係にチューニングしきれない場合がある。
【0034】
これに対し本実施形態では、ブレーキの温度、エンジン始動開始直後か否か、ブレーキの操作量に応じて、吸引ユニット4による気体の吸引力を積極的に制御するようにしたので、ブレーキディスク2とブレーキパッド3との摩擦力を最適に制御することができる。これにより、ブレーキの効き具合の制御性を向上させることが可能となる。
【0035】
なお、本実施形態では、ブレーキの温度を温度センサ14で直接計測したが、車両の走行履歴やGPS情報からブレーキの温度を予測しても良い。また、ブレーキの温度、エンジン始動開始直後か否か、ブレーキの操作量の他に、車速等に応じて気体の吸引力を制御しても良い。
【0036】
また、上記実施形態の摩擦装置は、ディスクブレーキに適用したものであるが、本発明は、ドラムブレーキ等に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…摩擦装置、2…ブレーキディスク(第1摩擦材)、3…ブレーキパッド(第2摩擦材)、4…吸引ユニット(吸引手段)、5…吸入路、9…ECU、11…摩擦装置、13…ECU(制御手段)、14…温度センサ(制御手段)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1摩擦材と、前記第1摩擦材と接触する第2摩擦材とを備えた摩擦装置において、
前記第1摩擦材及び前記第2摩擦材のいずれか一方に設けられた吸入路を有し、前記第1摩擦材と前記第2摩擦材との間に存在する気体を吸引する吸引手段を備えることを特徴とする摩擦装置。
【請求項2】
前記第1摩擦材または前記第2摩擦材の温度に応じて、前記吸引手段による吸引力を制御する制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の摩擦装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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