摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システム
【課題】大気中においても、摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現する摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システムを提供する。
【解決手段】相互に摺動する一対の基材11、12のうち、少なくとも一方11に硬質炭素被膜13が形成された摺動部材において、基材11と硬質炭素被膜13との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層14を設ける。
【解決手段】相互に摺動する一対の基材11、12のうち、少なくとも一方11に硬質炭素被膜13が形成された摺動部材において、基材11と硬質炭素被膜13との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層14を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中において良好な低摩擦を実現する摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動装置として、例えば、特許文献1に示されるものが知られている。特許文献1の摺動装置は、相対向して摺動する2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動部材の表面に窒化炭素膜が形成されており、摺動面が摺動し合う摺動部が実質的に窒素ガス雰囲気となるように構成されている。
【0003】
特許文献1の摺動装置においては、摺動時の雰囲気を窒素ガス雰囲気とすることで、窒化炭素膜の酸化を抑制し、摩擦係数が0.01以下となるような低摩擦を実現している。
【0004】
また、例えば、非特許文献1では、摺動部材の一方の表面に窒化炭素膜を形成して、雰囲気湿度に応じて摺動部を所定の温度で連続的に加熱することで、大気中であっても低摩擦が得られることが記載されている。非特許文献1では、摩擦係数が0.05以下となる低摩擦が得られる加熱温度として、相対湿度60〜70%大気中では約125℃以上、相対湿度20〜50%大気中では約100℃以上、相対湿度5%以下の大気中では75℃以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−339056号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉川雄也、野老山貴行、梅原徳治著 日本機械学会論文集(C編)74巻747号(2008−11) 「大気中におけるCNx膜の摩擦磨耗特性の基板温度による制御」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の摺動装置では、窒素ガス雰囲気を形成するための窒素容器や、窒素吹出しノズル等が必要となるため、摺動設備として構成が複雑となり、コスト高となる。
【0008】
また、上記非特許文献1では、大気中での低摩擦を実現すると言いながらも、摩擦係数は0.05以下のレベルであり、摩擦係数0.01以下となるような更なる低摩擦の実現には至っていない。
【0009】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、大気中においても、摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現する摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13)が形成された摺動部材において、
基材(11)と硬質炭素被膜(13)との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層(14)を設けたことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、明確なメカニズムは定かではないが、図3、図5にて後述するように、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができている。
【0013】
請求項2に記載の発明では、硬質炭素被膜(13)は、ラマンスペクトルにおける1580cm−1の強度IGと、1350cm−1の強度IDとの関係がIG/ID≧1となる非晶質炭素被膜であることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13)を、IG/ID≧1となる非晶質炭素被膜とすることで、グラファイト構造を強くすることができるため、低摩擦機能を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、中間層(14)は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜であることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、中間層(14)を、ISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜とすることで、低摩擦機能を向上させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、摺動システムにおいて、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
摺動部材(10)を加熱する加熱手段(20)と、
摺動部材(10)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、加熱手段(20)と制御手段(30)によって摺動部材(10)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10)における低摩擦を安定的に維持することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0020】
また、請求項6に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0021】
請求項7に記載の発明では、摺動システムにおいて、加熱用の熱源部に隣接して配設される請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
熱源部による摺動部材(10)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、熱源部の熱を活用して、摺動部材(10)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10)における低摩擦を安定的に維持することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0024】
また、請求項9に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0025】
請求項10に記載の発明では、摺動システムにおいて、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
摺動部材(10A)を加熱する加熱手段(20)と、
摺動部材(10A)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴としている。
【0026】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13A)によって低摩擦機能を持たすことができ、更に、加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することで摺動部材(10A)における低摩擦を安定的に維持することができる。よって、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができる。
【0027】
請求項11に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0028】
また、請求項12に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0029】
請求項13に記載の発明では、摺動システムにおいて、加熱用の熱源部に隣接して配設されると共に、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
熱源部による摺動部材(10A)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴としている。
【0030】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13A)によって低摩擦機能を持たすことができ、更に、熱源部の熱を活用して、摺動部材(10A)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10A)における低摩擦を安定的に維持することができる。よって、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができる。
【0031】
請求項14に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0032】
また、請求項15に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0033】
請求項16に記載の発明のように、硬質炭素被膜(13A)としては、窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜のいずれか1つを用いて好適である。
【0034】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態の基材表面を示す拡大断面図である。
【図2】摺動部材の成形方法を示す概略図である。
【図3】摺動部材の摩擦係数を示すグラフである。
【図4】非晶質炭素被膜におけるラマン散乱強度を示すグラフである。
【図5】ラマンIG/IDに対する摩擦係数を示すグラフである。
【図6】中間層における吸収強度を示すグラフである。
【図7】非晶質炭素被膜の膜厚サンプルの水準を示す表である。
【図8】摩擦係数を確認するための要領を示す概略図である。
【図9】膜厚100nmにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図10】膜厚1000nmにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図11】第2実施形態における摺動システムを示す概略図である。
【図12】加熱温度を変化させたときの摩擦係数を示すグラフである。
【図13】摩擦係数が0.01以下となる温度範囲を示すグラフである。
【図14】第3実施形態におけるエンジンシステムを示す概略図である。
【図15】インジェクタを示す概略図である。
【図16】第4実施形態におけるエンジンシステムを示す概略図である。
【図17】EGRバルブを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0037】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態における摺動部材10について、図1〜図6を用いて説明する。図1は基材11(12)の表面11a(12a)を示す拡大断面図、図2は摺動部材10の成形方法を示す概略図、図3は摺動部材10の摩擦係数μを示すグラフ、図4は非晶質炭素被膜13におけるラマン散乱強度を示すグラフ、図5はラマンIG/IDに対する摩擦係数を示すグラフ、図6は中間層14における吸収強度を示すグラフである。
【0038】
摺動部材10は、図2に示すように、互いに摺動する一対の基材11、12を有している。図1に示すように、各基材11、12の少なくとも一方の表面11a(表面11aあるいは/および表面12a)には硬質炭素被膜13が形成されている。そして、表面11aと硬質炭素被膜13との間には、中間層14が形成されている。硬質炭素被膜13は、1〜500nmの膜厚を有するものであり、本実施形態では20〜30nm程度に形成されている。また、中間層14は、1〜1000nmの膜厚を有するものであり、本実施形態では50〜60nm程度に形成されている。
【0039】
上記の摺動部材10は、図2に示す要領にて形成することができる。即ち、基材11として、例えば窒化珪素(Si3N4)から成るボールを準備する。また基材12として、同様に窒化珪素(Si3N4)から成る円板状のディスクを準備する。基材11、12の互いに対向する表面11a、12aにはそれぞれ高硬度の耐摩耗薄膜としての窒化炭素被膜(CNx)を形成しておく。そして、基材11を図示しない測定子に固定すると共に、基材12の上側(表面12a側)に配設する。基材11は、測定子に固定されることにより非回転状態となっている。そして、基材11の上側から所定の荷重(例えば400mN)を付加する。次に、基材11の非回転の状態を維持して、基材12を外部モータによって所定の回転数(例えば250rpm)で回転させ、基材11と基材12とを互いに摺動させる。両基材11、12の摺動は、例えばアルゴンガス、窒素ガス、あるいはヘリウムガス等の不活性ガス100%(空気、あるいは酸素0%)の雰囲気中において実施する。
【0040】
上記のような条件下において、基材11、12を互いに摺動させることにより、両表面11a、12aのうち、少なくとも一方には図1で説明した硬質炭素被膜13と中間層14との2層構造の被膜が形成され、本実施形態の摺動部材10を得ることができる。図3に示すように、この2層構造の被膜が形成されると低摩擦を維持することができる。基材12の1回転を1サイクルとしたときのサイクル数に対する摺動部における摩擦係数μ(動摩擦係数)を見ると、初期状態にて摩擦係数μは0.1程度を示すものの、徐々に低下していき、およそ2000サイクル以降では、摩擦係数μ=0.01となる低摩擦状態が維持されている。
【0041】
2層構造の被膜における硬質炭素被膜13は、原子間秩序において短距離秩序の成立する非晶質炭素被膜(アモルファスC)13として形成されている。非晶質炭素被膜13は、初期段階において基材11、12の表面に設けられた窒化炭素膜(CNx)中の炭素から形成されている。この非晶質炭素皮膜13は、ラマンスペクトルにおいて、波数1580cm−1のラマン散乱強度IGと、波数1350cm−1のラマン散乱強度IDとの関係が、IG/ID≧1となっている。
【0042】
図4は、基材11と、基材12とが互いに摺動し合う摺動部における複数の箇所(例えば8箇所)でラマンスペクトル分析を行った結果である。複数の箇所におけるIG/IDの値の平均値は、1.078として得られている。IG/IDの値が1以上となるということは、非晶質炭素皮膜13においてグラファイト構造(IG)が多く形成されていることを意味している。
【0043】
図5に示すように、本実施形態の摺動部材10は、IG/ID≧1(IG/ID=1.078)であり、摩擦係数μ=0.01を実現している。尚、図5中における他のプロット結果は、摺動部材10を形成する際の雰囲気ガス条件を不活性ガス+酸素(酸素濃度1〜100%等)としたものである。他のプロット結果において、IG/ID≧1であっても摩擦係数μが0.01を超えているものは、非晶質炭素被膜13のみが形成されて、中間層14が形成されていないもの等である。
【0044】
2層構造の被膜における中間層14は、硬質炭素被膜13と同様に原子間秩序において短距離秩序の成立する非晶質酸化珪素被膜(アモルファスSiO)14として形成されている。非晶質酸化珪素被膜14は、珪素と酸素とを含む化合物によって形成されている。非晶質酸化珪素被膜14は、基材11、12(窒化珪素(Si3N4))中の珪素に酸素が結合して形成されている。図6に示すように、非晶質酸化珪素被膜14は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となっている。
【0045】
図6に示すように、本実施形態の摺動部材10は、ISiO/ISiO2≧1(ISiO/ISiO2=1.70)であり、摩擦係数μ=0.01を実現している。尚、図6中の比較例は、摺動部材10を形成する際の雰囲気ガス条件を大気中としたものであり、2層構造の被膜のうち、酸化珪素被膜のみが形成されたものである(摩擦係数μ=0.2)。
【0046】
以上のように本実施形態においては、明確なメカニズムは定かではないが、上記のように(図3、図5)、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができている。
【0047】
尚、本実施形態では、摺動部材10において、非晶質炭素被膜(硬質炭素被膜)13の膜厚は、20〜30nmのものにおいて、摩擦係数μ=0.01を得たが、以下に、非晶質炭素被膜13の膜厚についての考察結果を示す。
【0048】
テストサンプルとして、図7に示すように、実施例と比較例とを準備した。即ち、実施例および比較例の非晶質酸化珪素被膜14については、膜厚が1000nmとなるように熱酸化法により形成した。また、実施例の非晶質炭素被膜13については、膜厚が100nmとなるように、また比較例の非晶質炭素被膜13については膜厚が1000nmとなるようにプラズマCVD(chemical vapor deposition)法により形成した。
【0049】
摩擦係数μの測定にあたっては、図8に示すように、窒素雰囲気中において、基材11に400mNの荷重を付加し、基材12を250rpmで回転させて、サイクル(回転数)毎の摩擦係数μを測定子により測定した。
【0050】
図9に示すように、非晶質炭素被膜13の膜厚100nmにおける実施例では、摩擦係数μとしては、0.04が得られた。また、図10に示すように、非晶質炭素被膜13の膜厚1000nmにおける比較例では、摩擦係数μとしては、0.1が得られた。尚、非晶質炭素被膜13の膜厚20〜30nmにおける上記第1実施形態では、摩擦係数μとしては、0.01が得られている。
【0051】
このことから、非晶質炭素被膜13の膜厚が厚いほど、摩擦係数μは大きくなる傾向にあり、非晶質炭素被膜13の膜厚は、所定の膜厚よりも薄く設定することで、低摩擦状態が得られるものと推察できる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態の摺動システム100を図11に示す。摺動システム100は、摺動部材10Aに、ヒータ20、および制御部30を設けたものである。
【0053】
摺動部材10Aは、互いに摺動する一対の基材11、12を有している。基材11は、窒化珪素(Si3N4)から成るボールであり、基材12は、同様に窒化珪素(Si3N4)から成る円板状のディスクである。基材11、12の互いに対向する表面11a、12aにはそれぞれ硬質炭素被膜13Aが形成されている。ここでは、硬質炭素被膜13Aは、高硬度の耐摩耗薄膜としての窒化炭素被膜(CNx)が採用されている。
【0054】
そして、基材11は図示しない測定子に固定されると共に、基材12の上側(表面12a)に配設されている。基材11は、測定子に固定されることにより非回転状態となっている。そして、基材11の上側から所定の荷重(例えば400mN)が付加されている。また、基材12は外部モータによって所定の回転数(例えば250rpm)で回転されるようになっている。外部モータによる基材12の回転によって、基材11の非回転状態が維持されつつ、基材11と基材12は、互いに摺動されるようになっている。基材12の1回転は、摺動における1サイクルとしている。
【0055】
ヒータ20は、摺動部材10Aを加熱する加熱手段である。ヒータ20は、摺動部材10Aに近接する外部に配設されて、摺動部材10Aにおいて互いに摺動する部位を集中的に加熱するようになっている。ヒータ20は、例えば電気ヒータであり、電源がオンされることで摺動部材10Aを加熱可能としている。尚、ヒータ20は、摺動部材10Aの外部に配設されるものに限らず、基材11、あるいは基材12の内部に埋め込まれたものとしても良い。
【0056】
制御部30は、ヒータ20の作動を制御する制御手段であり、ヒータ20の電源をオンオフ制御することで、ヒータ20による摺動部の加熱温度を変化させる制御を行うようになっている。制御部30は、摺動部材10Aの摺動が起動される起動時、あるいは摺動が行われている通常動作時に、少なくとも1回、ヒータ20による摺動部の加熱温度を変化させるようになっている。ここでは、制御部30は、上記の加熱温度の変化を、摺動の起動時に実施するようになっている。
【0057】
ここで、摺動の起動時とは、摺動が開始されたと同時のタイミング、あるいは直後のタイミングを意味する。通常動作時とは、上記起動時から所定時間経過した後に定常的に摺動が行われている時を意味する。また、加熱温度を変化させるという意味は、摺動部の温度を上昇および下降させるものであって、例えば常温から第1温度まで上昇させ、更に第1温度から常温に下降させるものである。更に、制御部30は、このような温度変化をさせた後に、最終的に摺動部の加熱温度を所定温度の範囲内に維持するようにヒータ20を制御する。
【0058】
摺動システム100は、大気中において、外部モータの作動により基材12が回転され、基材11は測定子によって非回転の状態が維持されて、基材11と基材12とが互いに摺動される。そして、図12に示すように、摺動の起動時に制御部30によって、複数回のヒータ20のオンオフが実行され、摺動部に対する加熱温度の変化が与えられる。ここでは、2回のヒータ20のオンオフが実行され、更に3回目のヒータ20のオン状態がそのまま維持されるようになっている。尚、ヒータ20のオン時は、摺動部の温度が80℃まで上昇するようにし、また、ヒータ20のオフ時は、摺動部の温度が40℃程度まで下降するようになっている。このようなヒータ20のオンオフの実施、およびオン状態の維持の後において、摺動部材10Aにおいて、摩擦係数μ=0.01となる低摩擦状態が得られた。
【0059】
ここで、摺動部材10Aの通常動作時において、ヒータ20の加熱温度を変化させたときの摩擦係数μは、図13に示すように、加熱温度が60℃〜110℃に上昇するときに、0.01以下となっており、ヒータ20によって摺動部を加熱維持する加熱温度範囲としては、60℃〜110℃が好適ある。この加熱温度範囲(60℃〜110℃)は、本発明の所定の温度範囲に対応する。
【0060】
以上のように、本実施形態では、基材11、12の表面11a、12aに硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)13Aを設けた摺動部材10Aにおいて、ヒータ20および制御部30によって、加熱温度の変化を与えることで、大気中であっても摺動部材10Aにおける低摩擦(摩擦係数μが0.01以下)を安定的に維持することができる。
【0061】
尚、摺動部の加熱温度の変化は、起動時に限らず、通常動作時に付加するようにしても良い。また、基材11、12の表面11a、12aに形成する硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)13Aは、これに限定されるものでは無く、その他にも非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜等としても良い。
【0062】
更には、基材11、12の表面11a、12aに形成される被膜としては、上記硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜に代えて、上記第1実施形態で説明した、非晶質炭素被膜13と非晶質酸化窒素被膜14とから成る2層構造の被膜としても良い。第1実施形態の2層構造の被膜では、それだけで、摩擦係数μ=0.01を実現するものであるが、上記のような加熱温度の変化を与えることにより、更に安定した低摩擦が維持できる。
【0063】
(第3実施形態)
第3実施形態の摺動システムを図14、図15に示す。第3実施形態は、エンジンシステム200を形成する部品に本摺動部材10、10Aを適用したものとしている。
【0064】
図14に示すように、エンジンシステム200は、エンジン210、インジェクタ220、過給機230、インタークーラ240、吸気スロットル250、EGRクーラ260、およびEGRバルブ270等を備えている。
【0065】
エンジン210は、例えばディーゼル用エンジンであり、吸気ポート213から吸入される吸気とインジェクタ220から噴射される燃料とを混合、圧縮、爆発させて、シリンダ212内におけるピストン211を往復動させて、回転駆動力を発生させる。爆発後の排気は、排気ポート214から排出される。
【0066】
吸気は、排気ポート214から排出される排気のエネルギーによって回転駆動される過給機230によって加圧され、インタークーラ240によって冷却され、更に吸気スロットル250によって流量調節されて吸気ポート213に吸入されるようになっている。また、排気の一部は、EGRクーラ260によって冷却されて、EGRバルブ270によって流量調節されて、再び吸気ポート213に吸入されるようになっている。
【0067】
上記のような構成を備えるエンジンシステム200において、第1、第2実施形態で説明した摺動部材10、10Aは、例えば、エンジン210におけるピストン211と、シリンダ212との摺動部に適用することができる。
【0068】
摺動部材10を適用した場合では、ピストン211とシリンダ212との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜を形成することで、大気中であってもピストン211とシリンダ212との摩擦負荷を低減することができる。また、ピストン211、およびシリンダ212は、エンジン210の燃焼部(熱源部)に隣接して配設され、燃焼時の高温雰囲気に置かれることから、摺動部は燃焼部による加熱効果を受けることができるので、更に良好な低摩擦状態を維持することができる。
【0069】
また、摺動部材10Aを適用した場合では、ピストン211とシリンダ212との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aによる被膜を形成することができ、摺動部は燃焼部による加熱効果を受けることができるので、良好な低摩擦状態を実現することができる。
【0070】
あるいは、摺動部材10、10Aは、例えば、図15に示すように、インジェクタ220に適用することができる。インジェクタ220は、ソレノイド221の磁力(吸引力)と、スプリング222の付勢力とによって、ニードル弁223がホルダ部224内を摺動するようになっている。摺動部材10、10Aとしては、ニードル弁223とホルダ部224との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜、あるいは、硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aを形成することで、上記ピストン211とシリンダ212の場合と同様に、大気中であってもニードル弁223とホルダ部224との摩擦負荷を低減することができる。
【0071】
(第4実施形態)
第4実施形態を図16、図17に示す。第4実施形態は、エンジンシステム200における熱源部による摺動部の加熱温度を調節しながら、低摩擦状態を実現するようにしたものである。
【0072】
摺動部材10、10Aは、図16、図17に示すEGRバルブ270に適用されている。EGRバルブ270は、円板状のバルブ271に回動軸272が設けられており、回動軸272が軸受け273に支持されている。バルブ271は排気流通部274内に配設され、回動軸272が図示しないモータによって回動されるようになっている。バルブ271の回動位置に応じて排気流通部274を流通する排気の流量が調節されるようになっている。
【0073】
摺動部材10、10Aは、回動軸272と軸受け273との摺動部に適用されている。摺動部材10、10Aは、回転軸272と軸受け273との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜、あるいは、硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aを形成している。
【0074】
エンジンシステム200におけるEGRクーラ260には、排気の温度を調節する温度調節部261が設けられている。温度調節部261は、例えばEGRクーラ260を流通する排気の流量を変化させる、あるいは、EGRクーラ260の有効冷却部の大きさを変化させる(排気が流れるチューブの本数を都度調節する)等により排気の温度調節を可能としている。EGRクーラ260によって冷却された後の排気温度は、例えば60℃〜100℃の範囲で調節されるようになっている。
【0075】
第4実施形態においては、EGRバルブ270の起動時、あるいは通常動作時において、少なくとも1回以上、上記第2実施形態において加熱温度を変化させる場合と同様に、排気温度が調節される。これにより、回動軸272と軸受け273とに摺動部材10が適用されるものにおいては、大気中であっても2層構造の被膜による低摩擦効果による低摩擦状態の実現と、加熱効果による低摩擦状態の安定的な維持が可能となる。また、回動軸272と軸受け273とに摺動部材10Aが適用されるものにおいては、大気中であっても硬質炭素被膜13Aに対する加熱温度変化の効果による低摩擦状態を実現できる。
【0076】
(その他の実施形態)
上記第3、第4実施形態における摺動部10、10Aを加熱する熱源部として、エンジンシステム200における排気の熱を活用するものとして説明したが、これに限らず、エンジン冷却時に放出される廃熱(冷却水、ラジエータからの廃熱)、あるいは、空調用の廃熱(コンデンサからの廃熱)等を活用したものとしても良い。
【符号の説明】
【0077】
10、10A 摺動部材
11 基材
12 基材
13 硬質炭素被膜(非晶質炭素被膜)
13A 硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)
14 中間層
20 ヒータ(加熱手段)
30 制御部(制御手段)
100 摺動システム
200 エンジンシステム
261 温度調節部
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中において良好な低摩擦を実現する摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動装置として、例えば、特許文献1に示されるものが知られている。特許文献1の摺動装置は、相対向して摺動する2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動部材の表面に窒化炭素膜が形成されており、摺動面が摺動し合う摺動部が実質的に窒素ガス雰囲気となるように構成されている。
【0003】
特許文献1の摺動装置においては、摺動時の雰囲気を窒素ガス雰囲気とすることで、窒化炭素膜の酸化を抑制し、摩擦係数が0.01以下となるような低摩擦を実現している。
【0004】
また、例えば、非特許文献1では、摺動部材の一方の表面に窒化炭素膜を形成して、雰囲気湿度に応じて摺動部を所定の温度で連続的に加熱することで、大気中であっても低摩擦が得られることが記載されている。非特許文献1では、摩擦係数が0.05以下となる低摩擦が得られる加熱温度として、相対湿度60〜70%大気中では約125℃以上、相対湿度20〜50%大気中では約100℃以上、相対湿度5%以下の大気中では75℃以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−339056号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉川雄也、野老山貴行、梅原徳治著 日本機械学会論文集(C編)74巻747号(2008−11) 「大気中におけるCNx膜の摩擦磨耗特性の基板温度による制御」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の摺動装置では、窒素ガス雰囲気を形成するための窒素容器や、窒素吹出しノズル等が必要となるため、摺動設備として構成が複雑となり、コスト高となる。
【0008】
また、上記非特許文献1では、大気中での低摩擦を実現すると言いながらも、摩擦係数は0.05以下のレベルであり、摩擦係数0.01以下となるような更なる低摩擦の実現には至っていない。
【0009】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、大気中においても、摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現する摺動部材およびこの摺動部材を用いた摺動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13)が形成された摺動部材において、
基材(11)と硬質炭素被膜(13)との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層(14)を設けたことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、明確なメカニズムは定かではないが、図3、図5にて後述するように、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができている。
【0013】
請求項2に記載の発明では、硬質炭素被膜(13)は、ラマンスペクトルにおける1580cm−1の強度IGと、1350cm−1の強度IDとの関係がIG/ID≧1となる非晶質炭素被膜であることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13)を、IG/ID≧1となる非晶質炭素被膜とすることで、グラファイト構造を強くすることができるため、低摩擦機能を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、中間層(14)は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜であることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、中間層(14)を、ISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜とすることで、低摩擦機能を向上させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、摺動システムにおいて、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
摺動部材(10)を加熱する加熱手段(20)と、
摺動部材(10)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、加熱手段(20)と制御手段(30)によって摺動部材(10)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10)における低摩擦を安定的に維持することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0020】
また、請求項6に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0021】
請求項7に記載の発明では、摺動システムにおいて、加熱用の熱源部に隣接して配設される請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
熱源部による摺動部材(10)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、熱源部の熱を活用して、摺動部材(10)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10)における低摩擦を安定的に維持することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0024】
また、請求項9に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0025】
請求項10に記載の発明では、摺動システムにおいて、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
摺動部材(10A)を加熱する加熱手段(20)と、
摺動部材(10A)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴としている。
【0026】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13A)によって低摩擦機能を持たすことができ、更に、加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することで摺動部材(10A)における低摩擦を安定的に維持することができる。よって、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができる。
【0027】
請求項11に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0028】
また、請求項12に記載の発明のように、制御手段(30)は、摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0029】
請求項13に記載の発明では、摺動システムにおいて、加熱用の熱源部に隣接して配設されると共に、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
熱源部による摺動部材(10A)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴としている。
【0030】
この発明によれば、硬質炭素被膜(13A)によって低摩擦機能を持たすことができ、更に、熱源部の熱を活用して、摺動部材(10A)への加熱温度を変化させた後に、所定温度範囲に維持して加熱することによって、摺動部材(10A)における低摩擦を安定的に維持することができる。よって、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができる。
【0031】
請求項14に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにすると良い。
【0032】
また、請求項15に記載の発明のように、温度調節部(261)は、摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、加熱温度を変化させるようにしても良い。
【0033】
請求項16に記載の発明のように、硬質炭素被膜(13A)としては、窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜のいずれか1つを用いて好適である。
【0034】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態の基材表面を示す拡大断面図である。
【図2】摺動部材の成形方法を示す概略図である。
【図3】摺動部材の摩擦係数を示すグラフである。
【図4】非晶質炭素被膜におけるラマン散乱強度を示すグラフである。
【図5】ラマンIG/IDに対する摩擦係数を示すグラフである。
【図6】中間層における吸収強度を示すグラフである。
【図7】非晶質炭素被膜の膜厚サンプルの水準を示す表である。
【図8】摩擦係数を確認するための要領を示す概略図である。
【図9】膜厚100nmにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図10】膜厚1000nmにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図11】第2実施形態における摺動システムを示す概略図である。
【図12】加熱温度を変化させたときの摩擦係数を示すグラフである。
【図13】摩擦係数が0.01以下となる温度範囲を示すグラフである。
【図14】第3実施形態におけるエンジンシステムを示す概略図である。
【図15】インジェクタを示す概略図である。
【図16】第4実施形態におけるエンジンシステムを示す概略図である。
【図17】EGRバルブを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0037】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態における摺動部材10について、図1〜図6を用いて説明する。図1は基材11(12)の表面11a(12a)を示す拡大断面図、図2は摺動部材10の成形方法を示す概略図、図3は摺動部材10の摩擦係数μを示すグラフ、図4は非晶質炭素被膜13におけるラマン散乱強度を示すグラフ、図5はラマンIG/IDに対する摩擦係数を示すグラフ、図6は中間層14における吸収強度を示すグラフである。
【0038】
摺動部材10は、図2に示すように、互いに摺動する一対の基材11、12を有している。図1に示すように、各基材11、12の少なくとも一方の表面11a(表面11aあるいは/および表面12a)には硬質炭素被膜13が形成されている。そして、表面11aと硬質炭素被膜13との間には、中間層14が形成されている。硬質炭素被膜13は、1〜500nmの膜厚を有するものであり、本実施形態では20〜30nm程度に形成されている。また、中間層14は、1〜1000nmの膜厚を有するものであり、本実施形態では50〜60nm程度に形成されている。
【0039】
上記の摺動部材10は、図2に示す要領にて形成することができる。即ち、基材11として、例えば窒化珪素(Si3N4)から成るボールを準備する。また基材12として、同様に窒化珪素(Si3N4)から成る円板状のディスクを準備する。基材11、12の互いに対向する表面11a、12aにはそれぞれ高硬度の耐摩耗薄膜としての窒化炭素被膜(CNx)を形成しておく。そして、基材11を図示しない測定子に固定すると共に、基材12の上側(表面12a側)に配設する。基材11は、測定子に固定されることにより非回転状態となっている。そして、基材11の上側から所定の荷重(例えば400mN)を付加する。次に、基材11の非回転の状態を維持して、基材12を外部モータによって所定の回転数(例えば250rpm)で回転させ、基材11と基材12とを互いに摺動させる。両基材11、12の摺動は、例えばアルゴンガス、窒素ガス、あるいはヘリウムガス等の不活性ガス100%(空気、あるいは酸素0%)の雰囲気中において実施する。
【0040】
上記のような条件下において、基材11、12を互いに摺動させることにより、両表面11a、12aのうち、少なくとも一方には図1で説明した硬質炭素被膜13と中間層14との2層構造の被膜が形成され、本実施形態の摺動部材10を得ることができる。図3に示すように、この2層構造の被膜が形成されると低摩擦を維持することができる。基材12の1回転を1サイクルとしたときのサイクル数に対する摺動部における摩擦係数μ(動摩擦係数)を見ると、初期状態にて摩擦係数μは0.1程度を示すものの、徐々に低下していき、およそ2000サイクル以降では、摩擦係数μ=0.01となる低摩擦状態が維持されている。
【0041】
2層構造の被膜における硬質炭素被膜13は、原子間秩序において短距離秩序の成立する非晶質炭素被膜(アモルファスC)13として形成されている。非晶質炭素被膜13は、初期段階において基材11、12の表面に設けられた窒化炭素膜(CNx)中の炭素から形成されている。この非晶質炭素皮膜13は、ラマンスペクトルにおいて、波数1580cm−1のラマン散乱強度IGと、波数1350cm−1のラマン散乱強度IDとの関係が、IG/ID≧1となっている。
【0042】
図4は、基材11と、基材12とが互いに摺動し合う摺動部における複数の箇所(例えば8箇所)でラマンスペクトル分析を行った結果である。複数の箇所におけるIG/IDの値の平均値は、1.078として得られている。IG/IDの値が1以上となるということは、非晶質炭素皮膜13においてグラファイト構造(IG)が多く形成されていることを意味している。
【0043】
図5に示すように、本実施形態の摺動部材10は、IG/ID≧1(IG/ID=1.078)であり、摩擦係数μ=0.01を実現している。尚、図5中における他のプロット結果は、摺動部材10を形成する際の雰囲気ガス条件を不活性ガス+酸素(酸素濃度1〜100%等)としたものである。他のプロット結果において、IG/ID≧1であっても摩擦係数μが0.01を超えているものは、非晶質炭素被膜13のみが形成されて、中間層14が形成されていないもの等である。
【0044】
2層構造の被膜における中間層14は、硬質炭素被膜13と同様に原子間秩序において短距離秩序の成立する非晶質酸化珪素被膜(アモルファスSiO)14として形成されている。非晶質酸化珪素被膜14は、珪素と酸素とを含む化合物によって形成されている。非晶質酸化珪素被膜14は、基材11、12(窒化珪素(Si3N4))中の珪素に酸素が結合して形成されている。図6に示すように、非晶質酸化珪素被膜14は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となっている。
【0045】
図6に示すように、本実施形態の摺動部材10は、ISiO/ISiO2≧1(ISiO/ISiO2=1.70)であり、摩擦係数μ=0.01を実現している。尚、図6中の比較例は、摺動部材10を形成する際の雰囲気ガス条件を大気中としたものであり、2層構造の被膜のうち、酸化珪素被膜のみが形成されたものである(摩擦係数μ=0.2)。
【0046】
以上のように本実施形態においては、明確なメカニズムは定かではないが、上記のように(図3、図5)、大気中においても摩擦係数0.01以下となる低摩擦を実現することができている。
【0047】
尚、本実施形態では、摺動部材10において、非晶質炭素被膜(硬質炭素被膜)13の膜厚は、20〜30nmのものにおいて、摩擦係数μ=0.01を得たが、以下に、非晶質炭素被膜13の膜厚についての考察結果を示す。
【0048】
テストサンプルとして、図7に示すように、実施例と比較例とを準備した。即ち、実施例および比較例の非晶質酸化珪素被膜14については、膜厚が1000nmとなるように熱酸化法により形成した。また、実施例の非晶質炭素被膜13については、膜厚が100nmとなるように、また比較例の非晶質炭素被膜13については膜厚が1000nmとなるようにプラズマCVD(chemical vapor deposition)法により形成した。
【0049】
摩擦係数μの測定にあたっては、図8に示すように、窒素雰囲気中において、基材11に400mNの荷重を付加し、基材12を250rpmで回転させて、サイクル(回転数)毎の摩擦係数μを測定子により測定した。
【0050】
図9に示すように、非晶質炭素被膜13の膜厚100nmにおける実施例では、摩擦係数μとしては、0.04が得られた。また、図10に示すように、非晶質炭素被膜13の膜厚1000nmにおける比較例では、摩擦係数μとしては、0.1が得られた。尚、非晶質炭素被膜13の膜厚20〜30nmにおける上記第1実施形態では、摩擦係数μとしては、0.01が得られている。
【0051】
このことから、非晶質炭素被膜13の膜厚が厚いほど、摩擦係数μは大きくなる傾向にあり、非晶質炭素被膜13の膜厚は、所定の膜厚よりも薄く設定することで、低摩擦状態が得られるものと推察できる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態の摺動システム100を図11に示す。摺動システム100は、摺動部材10Aに、ヒータ20、および制御部30を設けたものである。
【0053】
摺動部材10Aは、互いに摺動する一対の基材11、12を有している。基材11は、窒化珪素(Si3N4)から成るボールであり、基材12は、同様に窒化珪素(Si3N4)から成る円板状のディスクである。基材11、12の互いに対向する表面11a、12aにはそれぞれ硬質炭素被膜13Aが形成されている。ここでは、硬質炭素被膜13Aは、高硬度の耐摩耗薄膜としての窒化炭素被膜(CNx)が採用されている。
【0054】
そして、基材11は図示しない測定子に固定されると共に、基材12の上側(表面12a)に配設されている。基材11は、測定子に固定されることにより非回転状態となっている。そして、基材11の上側から所定の荷重(例えば400mN)が付加されている。また、基材12は外部モータによって所定の回転数(例えば250rpm)で回転されるようになっている。外部モータによる基材12の回転によって、基材11の非回転状態が維持されつつ、基材11と基材12は、互いに摺動されるようになっている。基材12の1回転は、摺動における1サイクルとしている。
【0055】
ヒータ20は、摺動部材10Aを加熱する加熱手段である。ヒータ20は、摺動部材10Aに近接する外部に配設されて、摺動部材10Aにおいて互いに摺動する部位を集中的に加熱するようになっている。ヒータ20は、例えば電気ヒータであり、電源がオンされることで摺動部材10Aを加熱可能としている。尚、ヒータ20は、摺動部材10Aの外部に配設されるものに限らず、基材11、あるいは基材12の内部に埋め込まれたものとしても良い。
【0056】
制御部30は、ヒータ20の作動を制御する制御手段であり、ヒータ20の電源をオンオフ制御することで、ヒータ20による摺動部の加熱温度を変化させる制御を行うようになっている。制御部30は、摺動部材10Aの摺動が起動される起動時、あるいは摺動が行われている通常動作時に、少なくとも1回、ヒータ20による摺動部の加熱温度を変化させるようになっている。ここでは、制御部30は、上記の加熱温度の変化を、摺動の起動時に実施するようになっている。
【0057】
ここで、摺動の起動時とは、摺動が開始されたと同時のタイミング、あるいは直後のタイミングを意味する。通常動作時とは、上記起動時から所定時間経過した後に定常的に摺動が行われている時を意味する。また、加熱温度を変化させるという意味は、摺動部の温度を上昇および下降させるものであって、例えば常温から第1温度まで上昇させ、更に第1温度から常温に下降させるものである。更に、制御部30は、このような温度変化をさせた後に、最終的に摺動部の加熱温度を所定温度の範囲内に維持するようにヒータ20を制御する。
【0058】
摺動システム100は、大気中において、外部モータの作動により基材12が回転され、基材11は測定子によって非回転の状態が維持されて、基材11と基材12とが互いに摺動される。そして、図12に示すように、摺動の起動時に制御部30によって、複数回のヒータ20のオンオフが実行され、摺動部に対する加熱温度の変化が与えられる。ここでは、2回のヒータ20のオンオフが実行され、更に3回目のヒータ20のオン状態がそのまま維持されるようになっている。尚、ヒータ20のオン時は、摺動部の温度が80℃まで上昇するようにし、また、ヒータ20のオフ時は、摺動部の温度が40℃程度まで下降するようになっている。このようなヒータ20のオンオフの実施、およびオン状態の維持の後において、摺動部材10Aにおいて、摩擦係数μ=0.01となる低摩擦状態が得られた。
【0059】
ここで、摺動部材10Aの通常動作時において、ヒータ20の加熱温度を変化させたときの摩擦係数μは、図13に示すように、加熱温度が60℃〜110℃に上昇するときに、0.01以下となっており、ヒータ20によって摺動部を加熱維持する加熱温度範囲としては、60℃〜110℃が好適ある。この加熱温度範囲(60℃〜110℃)は、本発明の所定の温度範囲に対応する。
【0060】
以上のように、本実施形態では、基材11、12の表面11a、12aに硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)13Aを設けた摺動部材10Aにおいて、ヒータ20および制御部30によって、加熱温度の変化を与えることで、大気中であっても摺動部材10Aにおける低摩擦(摩擦係数μが0.01以下)を安定的に維持することができる。
【0061】
尚、摺動部の加熱温度の変化は、起動時に限らず、通常動作時に付加するようにしても良い。また、基材11、12の表面11a、12aに形成する硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)13Aは、これに限定されるものでは無く、その他にも非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜等としても良い。
【0062】
更には、基材11、12の表面11a、12aに形成される被膜としては、上記硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜に代えて、上記第1実施形態で説明した、非晶質炭素被膜13と非晶質酸化窒素被膜14とから成る2層構造の被膜としても良い。第1実施形態の2層構造の被膜では、それだけで、摩擦係数μ=0.01を実現するものであるが、上記のような加熱温度の変化を与えることにより、更に安定した低摩擦が維持できる。
【0063】
(第3実施形態)
第3実施形態の摺動システムを図14、図15に示す。第3実施形態は、エンジンシステム200を形成する部品に本摺動部材10、10Aを適用したものとしている。
【0064】
図14に示すように、エンジンシステム200は、エンジン210、インジェクタ220、過給機230、インタークーラ240、吸気スロットル250、EGRクーラ260、およびEGRバルブ270等を備えている。
【0065】
エンジン210は、例えばディーゼル用エンジンであり、吸気ポート213から吸入される吸気とインジェクタ220から噴射される燃料とを混合、圧縮、爆発させて、シリンダ212内におけるピストン211を往復動させて、回転駆動力を発生させる。爆発後の排気は、排気ポート214から排出される。
【0066】
吸気は、排気ポート214から排出される排気のエネルギーによって回転駆動される過給機230によって加圧され、インタークーラ240によって冷却され、更に吸気スロットル250によって流量調節されて吸気ポート213に吸入されるようになっている。また、排気の一部は、EGRクーラ260によって冷却されて、EGRバルブ270によって流量調節されて、再び吸気ポート213に吸入されるようになっている。
【0067】
上記のような構成を備えるエンジンシステム200において、第1、第2実施形態で説明した摺動部材10、10Aは、例えば、エンジン210におけるピストン211と、シリンダ212との摺動部に適用することができる。
【0068】
摺動部材10を適用した場合では、ピストン211とシリンダ212との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜を形成することで、大気中であってもピストン211とシリンダ212との摩擦負荷を低減することができる。また、ピストン211、およびシリンダ212は、エンジン210の燃焼部(熱源部)に隣接して配設され、燃焼時の高温雰囲気に置かれることから、摺動部は燃焼部による加熱効果を受けることができるので、更に良好な低摩擦状態を維持することができる。
【0069】
また、摺動部材10Aを適用した場合では、ピストン211とシリンダ212との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aによる被膜を形成することができ、摺動部は燃焼部による加熱効果を受けることができるので、良好な低摩擦状態を実現することができる。
【0070】
あるいは、摺動部材10、10Aは、例えば、図15に示すように、インジェクタ220に適用することができる。インジェクタ220は、ソレノイド221の磁力(吸引力)と、スプリング222の付勢力とによって、ニードル弁223がホルダ部224内を摺動するようになっている。摺動部材10、10Aとしては、ニードル弁223とホルダ部224との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜、あるいは、硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aを形成することで、上記ピストン211とシリンダ212の場合と同様に、大気中であってもニードル弁223とホルダ部224との摩擦負荷を低減することができる。
【0071】
(第4実施形態)
第4実施形態を図16、図17に示す。第4実施形態は、エンジンシステム200における熱源部による摺動部の加熱温度を調節しながら、低摩擦状態を実現するようにしたものである。
【0072】
摺動部材10、10Aは、図16、図17に示すEGRバルブ270に適用されている。EGRバルブ270は、円板状のバルブ271に回動軸272が設けられており、回動軸272が軸受け273に支持されている。バルブ271は排気流通部274内に配設され、回動軸272が図示しないモータによって回動されるようになっている。バルブ271の回動位置に応じて排気流通部274を流通する排気の流量が調節されるようになっている。
【0073】
摺動部材10、10Aは、回動軸272と軸受け273との摺動部に適用されている。摺動部材10、10Aは、回転軸272と軸受け273との少なくとも一方の表面に硬質炭素被膜13と中間層14とによる2層構造の被膜、あるいは、硬質炭素被膜(窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、ダイヤモンド被膜)13Aを形成している。
【0074】
エンジンシステム200におけるEGRクーラ260には、排気の温度を調節する温度調節部261が設けられている。温度調節部261は、例えばEGRクーラ260を流通する排気の流量を変化させる、あるいは、EGRクーラ260の有効冷却部の大きさを変化させる(排気が流れるチューブの本数を都度調節する)等により排気の温度調節を可能としている。EGRクーラ260によって冷却された後の排気温度は、例えば60℃〜100℃の範囲で調節されるようになっている。
【0075】
第4実施形態においては、EGRバルブ270の起動時、あるいは通常動作時において、少なくとも1回以上、上記第2実施形態において加熱温度を変化させる場合と同様に、排気温度が調節される。これにより、回動軸272と軸受け273とに摺動部材10が適用されるものにおいては、大気中であっても2層構造の被膜による低摩擦効果による低摩擦状態の実現と、加熱効果による低摩擦状態の安定的な維持が可能となる。また、回動軸272と軸受け273とに摺動部材10Aが適用されるものにおいては、大気中であっても硬質炭素被膜13Aに対する加熱温度変化の効果による低摩擦状態を実現できる。
【0076】
(その他の実施形態)
上記第3、第4実施形態における摺動部10、10Aを加熱する熱源部として、エンジンシステム200における排気の熱を活用するものとして説明したが、これに限らず、エンジン冷却時に放出される廃熱(冷却水、ラジエータからの廃熱)、あるいは、空調用の廃熱(コンデンサからの廃熱)等を活用したものとしても良い。
【符号の説明】
【0077】
10、10A 摺動部材
11 基材
12 基材
13 硬質炭素被膜(非晶質炭素被膜)
13A 硬質炭素被膜(窒化炭素被膜)
14 中間層
20 ヒータ(加熱手段)
30 制御部(制御手段)
100 摺動システム
200 エンジンシステム
261 温度調節部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13)が形成された摺動部材において、
前記基材(11)と前記硬質炭素被膜(13)との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層(14)を設けたことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記硬質炭素被膜(13)は、ラマンスペクトルにおける1580cm−1の強度IGと、1350cm−1の強度IDとの関係がIG/ID≧1となる非晶質炭素被膜であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記中間層(14)は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
前記摺動部材(10)を加熱する加熱手段(20)と、
前記摺動部材(10)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように前記加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項5】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項4に記載の摺動システム。
【請求項6】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項4に記載の摺動システム。
【請求項7】
加熱用の熱源部に隣接して配設される請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
前記熱源部による前記摺動部材(10)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項8】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項7に記載の摺動システム。
【請求項9】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項7に記載の摺動システム。
【請求項10】
相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
前記摺動部材(10A)を加熱する加熱手段(20)と、
前記摺動部材(10A)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように前記加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項11】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項10に記載の摺動システム。
【請求項12】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項10に記載の摺動システム。
【請求項13】
加熱用の熱源部に隣接して配設されると共に、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
前記熱源部による前記摺動部材(10A)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項14】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項13に記載の摺動システム。
【請求項15】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項13に記載の摺動システム。
【請求項16】
前記硬質炭素被膜(13A)は、窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜のいずれか1つであることを特徴とする請求項10〜請求項15のいずれか1つに記載の摺動システム。
【請求項1】
相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13)が形成された摺動部材において、
前記基材(11)と前記硬質炭素被膜(13)との間に、珪素と酸素とを含む化合物によって形成される中間層(14)を設けたことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記硬質炭素被膜(13)は、ラマンスペクトルにおける1580cm−1の強度IGと、1350cm−1の強度IDとの関係がIG/ID≧1となる非晶質炭素被膜であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記中間層(14)は、珪素のエルネススペクトルにおいて、エネルギーロスが108eVの強度ISiO2と、111eVの強度ISiOとの関係がISiO/ISiO2≧1となる非晶質酸化珪素被膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
前記摺動部材(10)を加熱する加熱手段(20)と、
前記摺動部材(10)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように前記加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項5】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項4に記載の摺動システム。
【請求項6】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項4に記載の摺動システム。
【請求項7】
加熱用の熱源部に隣接して配設される請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の摺動部材(10)と、
前記熱源部による前記摺動部材(10)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項8】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項7に記載の摺動システム。
【請求項9】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項7に記載の摺動システム。
【請求項10】
相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
前記摺動部材(10A)を加熱する加熱手段(20)と、
前記摺動部材(10A)における加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させるように前記加熱手段(20)を制御する制御手段(30)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項11】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項10に記載の摺動システム。
【請求項12】
前記制御手段(30)は、前記摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項10に記載の摺動システム。
【請求項13】
加熱用の熱源部に隣接して配設されると共に、相互に摺動する一対の基材(11、12)のうち、少なくとも一方(11)に硬質炭素被膜(13A)が形成された摺動部材(10A)と、
前記熱源部による前記摺動部材(10A)の加熱温度を上昇および下降変化させた後に、所定温度範囲に維持させる温度調節部(261)とを備えることを特徴とする摺動システム。
【請求項14】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10A)の摺動が起動される起動時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項13に記載の摺動システム。
【請求項15】
前記温度調節部(261)は、前記摺動部材(10A)の摺動が行われている通常動作時に少なくとも1回、前記加熱温度を変化させることを特徴とする請求項13に記載の摺動システム。
【請求項16】
前記硬質炭素被膜(13A)は、窒化炭素被膜、非晶質炭素被膜、あるいはダイヤモンド被膜のいずれか1つであることを特徴とする請求項10〜請求項15のいずれか1つに記載の摺動システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−246545(P2012−246545A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120506(P2011−120506)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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