説明

摺動部材

【課題】 新規な、積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材、特にはエアモータに使用されるベーン材として好適な摺動部材の提供。
【解決手段】 補強材がポリエステル繊維織布であり、マトリックス樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂硬化物およびポリフッ素化エチレン樹脂である、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材およびその製造方法、並びに該摺動部材を使用する摺動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な、積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材に関する。本発明は特にはエアモータに使用されるベーン材として好適な摺動部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在多種多様な摺動部材が使用されており、機械的な強度が必要とされる分野においては補強材を利用した摺動部材が使用されている。かかる補強材として各種の織布が使用される際には、織布の面と平行な面を摺動面として使用する場合がほとんどであり、たとえば織布にマトリックス樹脂を含浸させてシートないし板状材料を形成し、その表面部分を摺動面として使用していた。したがって、摺動部材の摩擦係数、表面平滑性などが摺動性能の大きな要因となっていた。
一方、肉厚の積層物を作成し、その厚さ方向における断面を摺動面として利用する場合もあった。この場合には積層された織布の厚さ方向の断面が摺動面に暴露される。したがって、マトリックス樹脂と織布の界面に直接摺動力が加わるため、摺動部材の機械的特性などに対して、織布の面と平行な面を摺動面として使用する場合とは異なる特性が求められる。
このような使用方法の代表的な例としては、ベーン式モータのベーンがあげられる。中でもベーン式エアモータは、10,000rpm以上の非常な高回転でモータのロータと接触すること、またドライエア環境下で使用されるという2つの要因のため使用環境は過酷であり、短期間での摺動部材(ベーン材)の交換が必要であった。
【0003】
本発明の説明を行う前に、以下においてベーン式エアモータの機構について簡単に説明する。
ベーン式エアモータは、円筒状内周面によって画定されるロータ室を有する筒状体及び該筒状体の両端を閉じるように設けられる端壁からなるロータハウジングと、ロータ室に対し偏心させて回転可能に取り付けられたベーン付きロータと、を有し、円筒状内周面に設けた空気供給開口から圧搾空気をロータ室内に供給し、該圧搾空気により該ベーン付きロータを回転駆動し、ロータの回転駆動を終えた圧搾空気を該円筒状内周面に開口する空気排出開口からロータ室外へ排出するようになっている(特許文献1)。
【0004】
ロータは、該ロータの回転軸線に沿って該ロータの端面から突出してモータハウジングの端壁によって回転自在に支持される出力軸部及び支持軸部を有する。出力軸は当該空気式グラインダなどの工具における研磨などの所要の工具機能を行う部材に駆動連結される。一方、支持軸部は、通常、ロータが所定以上の回転数で回転されるときに、ロータ室に連通する吸気孔に圧搾空気を供給する空気供給流路の流路制限をして当該ロータの回転数を抑制するガバナーと連結される。上記モータハウジング及びガバナーは、当該ベーン式エアモータが取り付けられている空気式グラインダなどの工具のケーシングによってその周囲を囲われ、ロータ室内に供給される圧搾空気は、該ケーシングによってガバナーの周囲に形成された圧搾空気供給室を通り、モータハウジングの端壁を通しロータ室に供給される。(特許文献2)
【0005】
ベーンは薄い板状に形成されたものであり、ロータの回転に伴って、ロータの半径方向で変位してロータ室の円筒壁面との摺動係合を維持しながら回転する。このために、ベーンは摩擦力や、変位に伴う衝撃力や、曲げ応力などを受けるために、長時間にわたって使用することが難しく、その耐久性を向上することが望まれている。しかし、これまでは、ベーンが密閉されたロータ室内で高速回転されるものであることもあり、該ベーンの耐久性を損なう原因を明確にすることが難しく、思うような耐久性向上は図れていなかった。本願発明者は、この問題に取り組み、耐久性を損なう以下のような原因を解明した。
【0006】
その第1の原因は、ロータ室の円筒状壁面と摺動するベーン先端縁が受ける摩耗である。本願発明者は、その摩耗は、視覚的には必ずしも明確に判定できる程度のものではなくとも、当該ベーンの耐久性に影響を与えることを究明した。すなわち、ベーン先端縁は、ロータ室の円筒状内周面と摺動するが、該内周面には空気供給開口及び空気排出開口が設けられているため、ベーン先端縁の、空気供給開口及び空気排出開口を通る部分は、それらの開口を通る距離だけ、他の部分と比べて、摩擦を受けないために、他の部分に比較して摩耗が少なくなる。これら開口は、ロータ室の軸線方向で相互に間隔をあけて設けられているために、ベーン先端縁のこれら開口を通る部分と通らない部分とに摩耗の差が生じ、該先端縁が不均一に摩耗してしまう。換言すれば、ベーン先端縁の開口を通る部分は、そうでない他の部分よりも微小ではあるが半径方向外側に突出した状態となる。ベーンは高速で回転されるために、その突出部分が上記開口の縁に当たり大きな衝撃を生じて、ロータの円滑な回転に支障をきたすようになるとともに、当該ベーンに対する衝撃を与えることになり、ベーンの破損の原因となるのである。本願発明者は、更に、このようなベーン先端縁の不均一な摩耗が、主に、空気排出開口に起因することを究明した。すなわち、空気供給開口のある周方向位置においては、圧搾空気が該開口を通して供給されるためにベーンは半径方向内側に押圧されるので、ベーン先端縁とロータ室の壁面との摩擦力は小さくなり、一方、空気排出開口のある周方向位置においては、該空気排出開口から圧搾空気が排出されるので、ベーン先端縁が、空気供給開口のある部分よりもロータ室の壁面との間にはるかに大きな摩擦力が生じ、従って、上述のような摩耗が生じるのである。
【0007】
本願発明者は、ベーンの耐久性につき次の点にも着目した。すなわち、従来のベーン式エアモータにおいては、ロータ室の一方の端壁に設けられた吸気孔を通して供給される圧搾空気は、その一部が、該端壁に隣接した上記筒状壁の端部に設けられた空気供給開口から直にロータ室に供給され、残りが、筒状壁をその軸線方向で貫通して、同筒状壁の他端まで延びた吸気孔を通されて、同他端に設けられた他の空気供給開口からロータ室内に供給されるようにしたものがあるが、そのような形式のベーン式エアモータでは、ベーン先端縁の一方の端部に破損が生じやすい。本願発明者は、その原因が、以下のような点にあることを究明した。すなわち、このような構造のものにおいては、上記2つの空気供給開口からロータ室内に供給される圧搾空気の圧力に差が生じ、ベーンの両端は、これら開口から半径方向内向きに異なる圧力で吹き込まれる圧搾空気の作用を受けることになる。このため、ベーンは傾斜した状態でロータとともに回転させられ、ベーンの一方の端部が他方の端部に比べて強い力で円筒状壁面に押圧されることになり、この一方の端部に摩耗が生じやすくなるのである。特に、円筒状壁面に押圧されるベーンの一方の端部は、上述の空気供給開口を通るときに該開口の周縁に当たり大きな衝撃を受けるようになり、当該ベーンの一方の端部に破断が生じてしまうとともにベーン全体にもその衝撃の影響を与え、上記端部以外のところでの破断の原因にもなると考えられる。
【0008】
更に、本願発明者は、ベーンの先端縁の一方の端部に摩耗や破損が生じやすい原因が、次のような点にあることを究明した。ロータの出力軸部及び支持軸部は、ラジアルベアリングによって支持されるが、支持軸部を支持しているラジアルベアリングは、上述した圧搾空気供給室に隣接しているため、圧搾空気の圧力が、該ラジアルベアリングの一方の側(ロータ室から離れた方の側)に作用し、該ラジアルベアリングに供給されているグリースが、ロータ室の端部内に漏出してしまう。グリースは粘度が高いために、ロータ室内に入ったグリースが、回転するブレードの端部に付着するようになると、該ブレードのロータに対する半径方向での円滑な動きを阻害し、これによっても、ブレードの傾きが生じ、上述と同様の問題を生じる可能性があるのである。
【0009】
更に、本願発明者は、次の点に着目した。すなわち、ベーンは、ロータの軸線方向で長く、半径方向で短い幅を有する細長い板状に形成されるが、そのベーンに、幅方向の略中間位置で軸線方向に延びる破断が生じることがあることに着目し、その原因を次の点にあることを究明した。すなわち、ベーンは、ロータに設けられた半径方向に延びる溝に収納され、ロータの回転に伴って、該溝内を半径方向で出入りする。このため、当該ベーンの側面は、溝の側壁と摺動する。更に、ベーンの先端縁は、ロータ室の円筒状内周面と摺動するので該円筒状内周面から回転に対する抵抗力を受け、このために、ベーンは傾斜した状態で回転されながら溝内を出入りする。このために、ベーンの側面が、溝の側壁及び溝の縁との摩擦をうけ、該ベーンの側面が僅かではあるがえぐられたようになる。このようなえぐれが生じると、当該ベーンは高速で回転され、上述の如き大きな衝撃などを受けるために、そのえぐれが生じ弱くなった部分に亀裂が入り、最終的には破断が生じるのである。
【0010】
上記のように、特定の高速で回転されることと、ドライエア条件下で使用されることに加え、本願発明者により究明されたように複雑な挙動をして様々な方向から外力を受けるため、ベーンの耐久性を上げるために様々な要求性能を同時に満足することが求められていた。またベーンにおいては積層物の厚さ方向断面が摺動面として使用される上、積層物の表面にも斜め方向から繰り返し摺動力が加わるため、一般的な摺動部材に関する知見が直接的には適用できず、開発がより困難であった。
【0011】
かかるベーンとしては、従来、フェノール樹脂をマトリックス樹脂として使用し、補強材として綿布を使用して作られた積層物を加工して使用していたが、数十時間程度で摩耗ないし破損し、交換することが必要であった。
またビスフェノールAを使用したフェノール樹脂をマトリックス材として使用した組成物が提案された(特許文献3)。しかし、この組成物は摺動部材としての積層物の厚さ方向断面を摺動面として使用する際の要件については全く開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭56−34905号公報
【特許文献1】特開2001−9695号公報
【特許文献3】特開2008−285534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は新規な、積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材、特にはエアモータに使用されるベーン材として好適な摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、補強材がポリエステル繊維織布であり、マトリックス樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂硬化物およびポリフッ素化エチレン樹脂である、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする積層摺動部材を提供する。
好ましい態様において、本発明の摺動部材は該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素化エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で含む。
さらに好ましい態様において、本発明の摺動部材は該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂を上記の範囲内において100:20−100:45の重量比率で使用する。
すなわち最も好ましい態様においては、本発明の摺動部材は、補強材がポリエステル繊維織布であり、マトリックス樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂硬化物およびポリフッ素化エチレン樹脂であり、該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素化エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で含み、かつ該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂を100:20−100:45の重量比率で使用する。
好適には、前記レゾール型フェノール樹脂はフェノール類原料としてビスフェノールAを90−100モル%、最も好ましくはほぼ100モル%で含む。また好適には前記ポリフッ素化エチレン樹脂は四フッ化エチレン樹脂である。
少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材とは、積層物の厚さ方向の断面に加えて、積層物の表面、すなわち積層物中のポリエステル繊維織布の表面に沿った面においても摺動力が加えられる摺動部材を意味する。また摺動力が積層物の厚さ方向の断面および積層物の表面に対して垂直方向だけではなく、斜め方向から加えられる場合も包含される。
【0015】
本発明はさらには本発明の摺動部材の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、フェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂およびポリフッ素化エチレン樹脂の混合物を、ポリエステル繊維織布に含浸する工程、得られた含浸物を所定の枚数重ね合わせて加熱加圧条件下で硬化する工程、およびポリエステル繊維織布の積層厚さ方向が摺動面となるように切削する工程を含む、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材の製造方法を提供する。好ましい態様において、該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素化エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で使用する。さらに好ましい態様において、該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂を、上記の範囲内において100:20−100:45の重量比率で使用する。すなわち最も好ましい態様においては、フェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂およびポリフッ素化エチレン樹脂の混合物を、ポリエステル繊維織布に含浸する工程、得られた含浸物を所定の枚数重ね合わせて加熱加圧条件下で硬化する工程、およびポリエステル繊維織布の積層厚さ方向が摺動面となるように切削する工程を含む、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材の製造方法であって、該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素化エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で含み、かつ該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂を100:20−100:45の重量比率で使用する製造方法を提供する。
さらに好ましい態様においては、使用されるフェノール樹脂は、硬化される前の状態において、GPC測定による数平均分子量Mnが500から1000であり、かつ分散度Mw/Mnが2.5から15である。この範囲において摺動部材の機械的特性と製造時の作業性が最適となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の摺動部材は従来品と比較して非常に長時間使用することができる。特にエアモータ用ベーン材として使用される際には、従来品と比較して数倍もの期間にわたり使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる摺動部材およびその製造方法の実施形態を説明する。
本発明で使用されるポリエステル繊維織布は、ポリエステル繊維を常法により紡糸した織布が使用できる。ポリエステル繊維は一般にジカルボン酸成分とジオール成分を重縮合することにより得られる。ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2,6−ジカルボン酸などを使用することができる。またジオール成分としてはエチレングリコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビフェニルなどを使用することができる。また両成分をかねるものとしてはp−ヒドロキシ安息香酸、2−オキシ−6−ナフトエ酸などを使用することができる。代表的なポリエステルとしては、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエチレンテレフタレート(PET)があげられる。
【0018】
紡糸の形態は、長繊維をよりあわせたフィラメント糸(フィラメント・ヤーン)であっても、短繊維をよりあわせた紡績糸(スパン・ヤーン)であってもよい。織布の織物組織も特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化平織、変化綾織、変化朱子織などの変化組織、三原組織と変化組織との混合組織などを使用することができる。
【0019】
使用されるポリエステル繊維織布の量は好適には25−35重量%である。使用量が少ないと補強効果が小さくなり、また多くなると製造が困難となる傾向がある。
【0020】
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類原料とホルムアルデヒド類原料とをアミン類触媒の存在化に反応させて得ることができる。
本発明で使用されるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類原料の一部としてビスフェノールAを使用したものである。フェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂とは、原料フェノール類の50−100モル%の量でビスフェノールAを使用して製造したレゾール型フェノール樹脂である。好ましい態様では、フェノール類原料としてビスフェノールAを80−100モル%、より好ましくは90−100モル%、最も好ましくは100モル%で含む。ビスフェノールAの量が少ないとポリエステル繊維織布との親和性が不足し、得られる摺動部材の特性、特には機械的特性が低下する。
【0021】
ビスフェノールAの使用量が100モル%では無い場合に併用することのできるフェノール類原料としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール、フェニルフェノールなどがあげられる。特にはフェノールが好ましく使用される。これらのフェノール類原料は、各々単独で使用しても良く、また二種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
ホルムアルデヒド類原料として、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチリアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒドなどが使用できる。特にはホルマリンおよびパラホルムアルデヒドが好ましく使用される。これらのホルムアルデヒド類原料は、各々単独で使用しても良く、また二種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
触媒として使用されるアミン類としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、アンモニア水などをあげることができる。好ましくはトリエチルアミンおよびアンモニア水が使用される。
【0024】
本発明で使用されるポリフッ素化エチレン樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(以下場合により「PTFE」と呼ぶ)、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの各種フッ素化モノマーの重合体の他、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ素含有共重合体を使用することもできる。好ましくは四フッ化エチレン樹脂が使用される。
これらのポリフッ素化エチレン樹脂は単独または二種以上を混合して使用することができる。また混合使用する場合の割合は、得られる製品の評価を行うことにより当業者により実験的に容易に決定することができる。
【0025】
本発明で使用される四フッ化エチレン樹脂としては、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と呼ぶ)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させたPTFE(以下「低分子量PTFE」と呼ぶ)のいずれも使用できる。高分子量PTFEの分子量はたとえば約70万−1000万またはそれ以上であり、低分子量PTFEの分子量はたとえば約1万−50万程度である。低分子量PTFEは主に添加材料として使用され、粉砕しやすく分散性がよい。
【0026】
高分子量PTFEの例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7−J」、「テフロン(登録商標)7A−J」、「テフロン(登録商標)70−J」等、ダイキン工業製の「ポリフロンM−12(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(商品名)」、「フルオンG190(商品名)」等が挙げられる。
【0027】
また低分子量PTFEの例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP−10F(商品名)」等、ダイキン工業製の「ルブロンL−5(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(商品名)」、「フルオンL169J(商品名)」等、喜多村社製の「KTL−8N(商品名)」が挙げられる。
【0028】
本発明においては、高分子量PTFEおよび低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、レゾール型フェノール樹脂と混合するに当たって、均一に分散しボイドを生成しがたくするためには、低分子量PTFEの粉末が好ましい。またPTFE粉末の平均粒径は、均一に分散しボイドの生成を防ぐという観点から、1−50ミクロン、好ましくは1−30ミクロンである。
【0029】
本発明の摺動部材において、レゾール型フェノール樹脂とポリフッ素化エチレン樹脂とはその重量比率が好ましくは100:20−100:45、より好ましくは100:25−100:45、最も好ましくは100:30−100:40の範囲で使用される。ポリフッ素化エチレン樹脂の量が少なすぎると摩擦係数が高くなり、所望の摩擦係数(所望のベーン材回転数)を有する摺動部材を得ることができない。またポリフッ素化エチレン樹脂の量が多すぎると、摺動部材の耐摩耗性が低下する。いずれの場合も摺動部材の寿命が短くなる危険があるので、ポリフッ素化エチレン樹脂の量は用途および具体的な使用環境に応じて注意深く決定されなければならない。
【0030】
本明細書において述べられるポリフッ素化エチレン樹脂の量は、ポリフッ素化エチレン樹脂として四フッ化エチレン樹脂を使用した場合のものである。ポリフッ素化エチレン樹脂の最適量は使用するポリフッ素化エチレン樹脂の種類により若干変動するが、一般的には上記の範囲内で使用することができる。
【0031】
本発明の摺動部材においては、積層物の厚さ方向断面が摺動面として使用されるので、摺動部材の機械的特性、特には強度が高く及び破断までの歪量が大きいことが求められる。また意図された物性の発現のためには十分に硬化が行われていることが必要である。一般的には本発明の摺動部材の曲げ強度は約87MPa、引張強度は約84MPa、引張歪は約7.3%(代表値)である。
【0032】
レゾール型フェノール樹脂及びポリフッ素化エチレン樹脂の混合物を含浸させたポリエステル繊維織布は製品寸法に合わせて所定の枚数が積層される。また得られる摺動部材の厚さは一般的には5mm以上の厚さを有する。
【0033】
本発明の摺動部材は積層物の厚さ方向断面を摺動面として使用される。すなわち本発明は、本発明にかかる摺動部材の、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面として使用する摺動方法も提供する。
【0034】
本発明の摺動部材は多くの用途に使用することができるが、特にはベーン用摺動部材として、より好適にはエアモータ用ベーン用摺動部材として使用される。このような過酷な条件下において使用されるときに本発明の摺動部材の効果がより顕著に発揮される。
【0035】
次に本発明にかかる摺動部材の製造方法について説明する。
本発明で使用されるレゾール型フェノール樹脂とポリフッ素化エチレン樹脂との混合は、一般に揮発性溶剤に溶解されたレゾール型フェノール樹脂と、ポリフッ素化エチレン樹脂を公知の方法で混合することにより行うことができる。なお、揮発性溶剤に溶解されたレゾール型フェノール樹脂の固形分は一般に約30−65重量%であり、溶液の粘度は約800−8000cP、好ましくは1000−4000cPにされる。ポリエステル繊維織布に含浸する方法は公知の任意の方法が使用できる。たとえば樹脂溶液を保持する容器にポリエステル繊維織布を浸漬し、その後不要な樹脂溶液をロールなどにより除去し、その後必要に応じて溶剤を除去してプリプレグを作成し、ついで所定の枚数のプリプレグを加熱加圧下に保持して樹脂を硬化する方法によることもできる。硬化条件は一般的には120−180℃、4−9MPaである。硬化後の積層物はポリエステル繊維織布の積層厚さ方向が摺動面となるように切削され、本発明にかかる積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材が形成される。
【0036】
好ましい態様において、本発明で使用されるレゾール型フェノール樹脂は、硬化前においてゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500−1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比率としての分散度Mw/Mnが2.5−15である。かかる条件を満たす樹脂は疎水性であるポリエステル繊維との親和性に優れており、ポリエステル繊維織布に対し十分に含浸し強固に接着することができる。そのため従来必要であったポリエステル繊維またはその織布に対する表面処理が不要となり、表面処理時の毒性の問題を解決すると共にコストの低減を図ることができる。また接着強度の増加により、得られる積層品の物性、たとえば機械的強度が向上する。レゾール型フェノール樹脂の分子量が低すぎると得られる積層品の機械的強度が低下する傾向が生じ、また分子量が大きすぎると粘度が高くなりポリエステル繊維織布へ含浸しにくくなる。また分散度Mw/Mnが小さすぎるとポリエステル繊維織布との接着力が低下し、また大きすぎるとポリエステル繊維織布へ含浸しにくくなる。
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
実施例1
試料の作成
補強基材としては、縦糸および横糸として綿番手20の紡績糸を使用し、縦糸の打ち込み本数を43本/インチ、横糸の打ち込み本数を42本/インチとし平織にて作成したポリエステル繊維織布を使用した。
攪拌機、温度計および冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300gと37%ホルムアルデヒド水溶液192gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液9gを投入した後、常圧下で昇温し90℃の温度に到達後、2.5時間縮合反応をさせた。その後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分を除去した。
ついで、メタノール64gを添加して常圧下で85℃の温度まで昇温し、4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60重量%になるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂の固形分60重量%のワニスを作成した。
得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であった。なお、GPCの測定条件は後述の通りである。
PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製KTL−8N(商品名))粉末を分散させて混合溶液を作った。得られた混合溶液でポリエステル繊維織布を含浸させた後、乾燥炉内で溶剤を飛ばすと同時に樹脂の反応を進め、プリプレグを得た。
得られたプリプレグを金型内において10枚重ねて積層した。その後温度160℃、圧力7MPaで加圧成形して積層成形物を得た。得られた積層物は所定形状に切削された後、各試験に供された。
【0038】
本実施例における成分組成を表1に示す。なおビスフェノールAとフェノールの比率はモル%で、他の成分組成の数値はすべて重量%である。
GPC測定方法:
装置:東ソー社製HLC−8120
カラム:東ソー社製TSKgel G3000HXL[排除限界分子量(ポリスチレン換算)1000]1本に続けて、TSKgel G2000HXL[排除限界分子量(ポリスチレン換算)10000]2本使用。
検出器:東ソー社製のUV−8020
分子量の数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出した。
曲げ強度、引張強度、引張歪の測定:JIS K6911の規定に準拠して求めた。
実機耐久試験:
積層成形物から所定のブレード材の形状に切り出し、エアモータに取り付け、ドライエアを使用して実機による耐久試験を行った。試験開始からブレード材の破断または摩耗等により使用不可となるまでの時間を耐久時間とし、また、試験時のブレード材の平均回転数を回転数として表1に示す。尚、本実機耐久試験においては、積層成形物の厚さ方向断面が摺動面となるようにブレード材を作成し、試験を実施した。
実験の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】


*1、*2:実施例2は性能低下のため100時間で、実施例3は200時間で耐久試験を中止し、ブレードの破断までは試験を行わなかった。ブレードの状態を目視により観察した結果は、実施例3は実施例4よりも摩耗特性が良かった。また実施例2は実施例3よりも摩耗特性が劣っていた。推定される耐久時間は実施例2については約200時間、実施例3については700時間以上である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強材がポリエステル繊維織布であり、マトリックス樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂硬化物およびポリフッ素化エチレン樹脂である、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材。
【請求項2】
該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素化エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で含む、請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂とはその重量の比率が100:20−100:45の範囲で使用される、請求項2記載の摺動部材。
【請求項4】
該レゾール型フェノール樹脂がフェノール類原料としてビスフェノールAを90−100モル%含むものである、請求項1から3のいずれか1項記載の摺動部材。
【請求項5】
該ポリフッ素化エチレン樹脂が四フッ化エチレン樹脂である、請求項1から4のいずれか1項記載の摺動部材。
【請求項6】
ベーン用摺動部材である、請求項1から5のいずれか1項記載の摺動部材。
【請求項7】
エアモータ用ベーン用摺動部材である、請求項1から6のいずれか1項記載の摺動部材。
【請求項8】
フェノール類原料としてビスフェノールAを50−100モル%で含むレゾール型フェノール樹脂およびポリフッ素エチレン樹脂の混合物を、ポリエステル繊維織布に含浸する工程、得られた含浸物を加熱加圧条件下で硬化する工程、およびポリエステル繊維織布の積層厚さ方向が摺動面となるように切削する工程を含む、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面とする摺動部材の製造方法。
【請求項9】
該ポリエステル繊維織布を25−35重量%、該レゾール型フェノール樹脂を40−60重量%、該ポリフッ素エチレン樹脂を10−30重量%の範囲で使用する、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
該レゾール型フェノール樹脂と該ポリフッ素化エチレン樹脂とはその重量比率が100:20−100:45の範囲で使用される、請求項8または9記載の製造方法。
【請求項11】
該ポリフッ素化エチレン樹脂がポリ四フッ化エチレン樹脂である、請求項8から10のいずれか1項記載の摺動部材の製造方法。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか1項に記載される摺動部材の、少なくとも積層物の厚さ方向断面を摺動面として使用する摺動方法。


【公開番号】特開2010−241928(P2010−241928A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91174(P2009−91174)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【出願人】(000227386)日東工器株式会社 (158)
【Fターム(参考)】