説明

撥水性物品の製造方法及び撥水性物品

【課題】撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、かつ耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品、その製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に撥水層を有する撥水性物品の製造方法において、該撥水層を、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液と、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液とを、この順に該基材上に塗布して形成する事を特徴とする撥水性物品の製造方法、及び撥水性物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性物品の製造方法及び撥水性物品に関し、さらに詳しくは、高耐久撥水膜の形成方法、撥水性物品の製造方法及び撥水性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラスは、その表面に水滴、汚れ等の視界を妨げるものが付着しないことが望まれる。例えば、自動車用窓ガラスの表面には、雨滴、埃、汚れ等が付着したり、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮したりすると、透明性、透視性が悪化し、自動車の走行運転に支障をきたすこととなる。そのため、自動車用の窓ガラス表面に付着した水滴は、ワイパーを用いる、手で拭き取る等の物理的手段で除去されている。しかし、水滴を物理的手段で除去する場合、水滴等に伴う異物粒子等の磨耗によって窓ガラスの表面に微細な傷を付けることがある。さらに、ガラス表面の水滴中にガラス成分が溶出し、表面が浸食される、いわゆる焼けを生じる。焼けが激しく生じたガラスや表面に微細な凹凸を生じたガラスは、本来の機能が低下し、その表面で光の散乱が生じる。従って、これらの建築用窓ガラス、自動車用窓ガラスに用いられるガラスには、優れた撥水性、滑水性(水滴滑落性)と共に、これらの特性が長期間にわたり持続する耐候性、耐摩耗性(ワイパー等の摺動に対する耐性)が要求されている。
【0003】
上記課題に対し、フッ素樹脂(耐候性・撥水性)にシリコーン(滑落性)を添加する技術(例えば、特許文献1参照)がある。しかしこの技術では、添加するシリコーンが表面上にブリードアウトしているだけであり、初期の性能はよいが、簡単な磨耗で拭き取られてしまい、耐摩耗性がない。
【0004】
これを改善するために、添加するシリコーンを予め重合し、フッ素樹脂と共重合した共重合体を用いる技術(例えば、特許文献2参照)があるが、シロキサンを使用しているために滑落性が悪く、耐磨耗性も要求されているレベルまでにはいかない。
【0005】
一方、耐磨耗性を向上するために、ゾルゲル法を用いて微細な凹凸構造を作製し、その上に撥水膜(FAS)を付与する技術(例えば、特許文献3参照)がある。現在、主流であるこの技術では確かに耐磨耗性は良好であるが、表面がフルオロアルキルシラン系であるので撥水・撥油性が非常に優れるが、滑落性が悪い。また、耐候性も耐磨耗性も十分とは言えず、改善が望まれていた。
【0006】
更に、材料を複合化して塗布する方法がある(例えば、特許文献4,5、6参照)が、構造制御(下側に低分子、表面側に高分子)が難しく、しかも両者を高密度に形成することができない。また、材料を複合化する為、材料間の相溶性を考慮する必要があり複合化材料が限定される、などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−139745号公報
【特許文献2】特開2001−151831号公報
【特許文献3】特開2005−281132号公報
【特許文献4】特許第3117498号公報
【特許文献5】特開平5−1197号公報
【特許文献6】特許第3512200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、かつ耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0010】
1.基材上に撥水層を有する撥水性物品の製造方法において、該撥水層を、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液と、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液とを、この順に該基材上に塗布して形成する事を特徴とする撥水性物品の製造方法。
【0011】
2.前記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液が塗布された後、塗膜表面を洗浄し、その後前記重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布して、撥水層を形成する事を特徴とする前記1記載の撥水性物品の製造方法。
【0012】
3.前記前記1又は2記載の撥水性物品の製造方法により得られた事を特徴とする撥水性物品。
【0013】
4.前記撥水層と基材との間に下地層を有する事を特徴とする前記3記載の撥水性物品。
【0014】
5.前記下地層が珪素酸化物を主成分とし、層内に炭素成分を含有する事を特徴とする前記4記載の撥水性物品。
【0015】
6.前記下地層が大気圧プラズマCVDにより形成される事を特徴とする前記5記載の撥水性物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、かつ耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品、その製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上にコーティング材料を有する層を設けた撥水性物品の製造方法において、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液と、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を、この順に該基材上に塗布して、前記コーティング材料を有する層を形成する撥水性物品の製造方法により、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、かつ耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品が得られることを見出し、本発明に至った。
【0019】
本発明者の検討の結果、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を基材上に設けた撥水性物品は、重量平均分子量が1000未満の撥水性化合物よりも耐候性に優れるが、耐候性が十分ではなかった。これは、分子量が大きい為、立体障害等により、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物と結合していない基材表面、つまり、撥水性化合物で被覆されていない表面が相当量存在するため、耐候性の劣化要因と考えられるラジカルなどの活性種が膜内部に侵入し易く、膜と基材との界面付近の比較的弱い結合を切断する為と思われる。本発明では、この重量平均分子量が1000以上の撥水性化合物と結合していない基材表面を、低分子量のため立体障害の少ない、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物で被覆することで、基材表面の撥水性を有する化合物(前記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物及び重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物)の被覆率が向上し、耐候性が向上するものと推定している。
【0020】
このような基材表面の撥水性を有する化合物の被覆率を得るには、先ず重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を基材上に塗布して、次に、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布することが必要である。重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布した後に、未乾燥のまま続けて重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布してもよいが、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布し、乾燥した後、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布する方が、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物が基材と強固に結合できる為、好ましい。
【0021】
また、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布し、乾燥した後、加熱硬化処理を行って十分に基材との密着性を確保した後、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物の良溶媒で洗浄して未反応な撥水性化合物を除去してから、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布した方が、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物が基材に結合し易く、さらに好ましい。
【0022】
以上の理由により、この撥水性物品は、撥水性物品の表面が、日光や雨水に晒されたり、あるいは汚れ等を拭き取ったりする際に受ける機械的な磨耗に対しても強く、初期の性能を維持できる特徴を有する。撥水性物品、あるいはそれを適用した建築用窓ガラス、車両用窓ガラスは、耐候性、耐摩耗性に優れ、常に優れた撥水性、滑水性(水滴滑落性)を発揮できるものである。
【0023】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0024】
〔重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物〕
本発明に係る重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液の撥水性化合物は、重量平均分子量が1000以上であることが特徴である。重量平均分子量が1000以上の撥水性化合物を基材上に設けた撥水性物品は、重量平均分子量1000未満の撥水性化合物と比べ耐候性に優れる。重量平均分子量が1000以上の撥水性化合物の重量平均分子量は、1000〜200000が好ましく、1000〜20000がより好ましい。また、分子内に1〜50個の加水分解性反応基を有するものが好ましく、特に基材がガラス基材の場合は、加水分解性反応基は反応性シリル基がもっとも好ましい。重量平均分子量Mwは、例えば標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500〜1000000迄の13サンプルによる校正曲線を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0025】
重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物としては、反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー、環状型含フッ素ポリマー、パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物、ポリジメチルシロキサン骨格化合物等が挙げられる。
【0026】
本発明では、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、シラザン基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー及びパーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物、ポリジメチルシロキサン骨格化合物が好ましい。
【0027】
(反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー)
反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、例えば、ヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーにシラン変性剤を反応させて反応性シリル基を導入することによって得られる。ヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーは、フルオロオレフィンとヒドロキシアルキルビニルエーテルまたはアリルアルコール等のヒドロキシ基含有モノマーとをモノマー主成分として共重合させることによって得られるが、この場合、これらの成分に加えてアルキルビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、イソプロペニルエーテル等のその他のモノマー成分を配合したものを共重合させて得られたものであっても差支えない。
【0028】
フルオロオレフィンとしては、特に限定されることなく、フッ素樹脂用モノマーとして通常用いられるものが使用されるが、パーフルオロオレフィンが好適であり、中でもクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロプロピルビニルエーテル及びこれらの混合物が特に好ましい。
【0029】
また、ヒドロキシ基含有モノマーとしても特に制限はないが、炭素数2〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基を有するヒドロキシアルキルビニルエーテル、特にヒドロキシブチルビニルエーテルが好適である。
【0030】
さらに、その他のモノマー成分によりポリマーに可撓性を持たせることができる。この場合、その他のモノマー成分としては、シクロヘキシル基並びに炭素数1〜8の直鎖状及び分岐状のアルキル基から選ばれる1種または2種以上のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルが好適である。なお、このようなアルキルビニルエーテルを用いた共重合体においては、耐熱性、耐候性、耐薬品性を十分発揮させるために、フルオロオレフィンの含有量は40〜70モル%とすることが好ましい。
【0031】
上述したモノマー成分を共重合して得られる側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーの具体例としては、ルミフロンLF−100、200、300、400、600(いずれも旭硝子社製)が挙げられ、いずれも好適に使用されるが、ルミフロンLF−100、200または600を用いることが好ましい。
【0032】
前記反応性シリル基としては、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、シラザン基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基が好ましい。中でもアルコキシ基が好ましい。
【0033】
反応性シリル基としてアルコキシ基を有する含フッ素ポリマーを得るためのシラン変性剤としては、下記式(1)で示されるイソシアネート基を有するアルコキシシランが好適であり、これらの1種または2種以上が使用される。
【0034】
OCN(CHSiX(3−n) ・・・(1)
(ただし、式中Rは水素または炭素数1〜10の一価炭化水素基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜5のアルコキシ基、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。)
これらのうちでγ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランが好適に用いられる。
【0035】
本発明に用いられる反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、上述した側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーとシラン変性剤との反応によって得られるが、この反応に際してはスズ、チタン等の金属触媒、ジブチルチンラウレート等の有機金属触媒を使用することができる。これらのうちでは、スズ、チタン及びこれらの有機金属触媒が、上記反応を効率的に促進する他、反応により得られた反応性シリル基の加水分解及び加水分解により得られたシラノールによる縮合架橋や基材への化学結合による接着をも促進し得る点から好適に使用し得る。
【0036】
また、反応は溶媒中で行うことができる。溶媒としては、イソシアネート基と反応する活性水素を持たないもので、かつヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマー及びイソシアネート基を有するアルコキシシランを溶解するものが使用され、例えばトルエン、キシレン、フッ素系有機溶剤としてはシランフロリナート、ノベックHFE(以上、3M社製)、ガルデン(モンテフルオス社製)、トリフルオロメチルベンゼン、ハイドロフルオロカーボン等の溶媒を使用することができる。なお、反応は通常10〜70℃で1〜3時間行うが、この際窒素等の不活性雰囲気中で反応を行わせることが好ましい。また、シラン変性剤との反応において、後述の含フッ素界面活性剤の存在下で行っても良い。含フッ素界面活性剤としては、特に限定されるものではない。また、含フッ素界面活性剤はメガファック(大日本インキ化学)、エフトップ(トーケム・プロダクツ)、サーフロン(旭硝子)、フタージェント(ネオス)、ユニダイン(ダイキン工業)等の商品名で市販されている。中でも、油溶性のものが好ましく、サーフロンS−381、サーフロンS−382等が好適なものとして例示される。
【0037】
また、反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、フルオロオレフィンと反応性シリル基を有するエチレン性不飽和モノマー及び必要に応じてその他のモノマーを共重合することにより得ることもできる。ここで、フルオロオレフィン及びその他のモノマーは前述のものと同様のものが採用される。また、反応性シリル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランが好ましい。
【0038】
含フッ素ポリマーは、反応性シリル基を有することが好ましいが、反応性シリル基を有しないときは、含フッ素ポリマー中に後述する4官能基シランカップリング剤等のシランカップリング剤を含フッ素ポリマー含有塗布液に混合する、または、前記基材と前記コーティング材料を有する層との間にシランカップリング剤を有する下地層を形成しておくことで同様な効果が得られる。
【0039】
(環状型含フッ素ポリマー)
環状型含フッ素ポリマーとしては、サイトップ(旭硝子社)のような含フッ素ポリマーが挙げられる。サイトップのMグレードは反応性シリル基を有するが、Aグレードは反応性シリル基を有せず、別途シランカップリング剤と併用するか、基材と記コーティング材料を有する層との間にシランカップリング剤を有する下地層を形成しておくことで同様の効果が得られる。
【0040】
(パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物)
パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物としては、オプツール(ダイキン工業社)のような含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0041】
フッ素ポリマーの濃度は、通常0.1〜30質量%が好ましいが、これに限定されず、フッ素ポリマーの種類により適宜調整すればよい。
【0042】
(ポリジメチルシロキサン骨格化合物)
ポリジメチルシロキサン骨格化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0043】
【化1】

【0044】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは反応性有機基を表す。反応性有機基としては、エポキシ基、水酸基、ジオール基、カルボキシル基、メタクリル基、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基等を挙げることができる。nは12〜22の整数を表す。
【0045】
ポリジメチルシロキサン骨格化合物の濃度は、通常0.1〜30質量%が好ましいが、これに限定されず、ポリジメチルシロキサン骨格化合物の種類により適宜調整すればよい。
【0046】
〔重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物〕
本発明に係る反応性シリル基を有する撥水性化合物は、重量平均分子量が1000未満であることが特徴である(以下、低分子系撥水性化合物ともいう)。この低分子系撥水性化合物は、低分子量のため立体障害が少なく、前記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物が結合していない基材表面を被覆することができ、基材表面の撥水性を有する化合物(前記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物及び低分子系撥水性化合物)の被覆率が向上し、耐候性および撥水性が向上するものと推定している。
【0047】
反応性シリル基を有する低分子系撥水性化合物としては、含フッ素シランカップリング剤、反応性シリル基を有するシラン化合物、ポリジメチルシロキサン骨格化合物が挙げられる。
【0048】
(含フッ素シランカップリング剤)
含フッ素シランカップリング剤としては、ポリフルオロアルキル基及び反応性シリル基を有する化合物が好適に採用される。ポリフルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキルエチル基が好ましく、反応性シリル基としては、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基が好ましい。中でもアルコキシ基が好ましい。
【0049】
含フッ素シランカップリング剤の具体例としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリクロロシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSi(OCHが挙げられる。
【0050】
また、含フッ素シランカップリング剤としては、例えば、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)、信越化学工業(株)、ダイキン工業(株)(例えば、オプツールDSX)、また、Gelest Inc.、ソルベイ ソレクシス(株)等により上市されており、容易に入手することができる他、例えば、J.Fluorine Chem.,79(1).87(1996)、材料技術,16(5),209(1998)、Collect.Czech.Chem.Commun.,44巻,750〜755頁、J.Amer.Chem.Soc.1990年,112巻,2341〜2348頁、Inorg.Chem.,10巻,889〜892頁,1971年、米国特許第3,668,233号明細書等、また、特開昭58−122979号、特開平7−242675号、特開平9−61605号、同11−29585号、特開2000−64348号、同2000−144097号公報等に記載の合成方法、あるいはこれに準じた合成方法により製造することができる。
【0051】
これらの含フッ素シランカップリング剤は2種類以上混合して使用してもよい。
【0052】
含フッ素シランカップリング剤の分子量は1000未満であり、100〜700が好ましく、200〜600がより好ましい。
【0053】
上記含フッ素シランカップリング剤に用いられるフッ素系有機溶剤としては、ノベックHFE等が好ましく用いることができる。
【0054】
(反応性シリル基を有するシラン化合物)
反応性シリル基を有するシラン化合物としては、分子内に反応性シリル基を有し分子量が1000未満であれば、特に限定されない。反応性シリル基としては、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基が好ましい。中でもアルコキシ基が反応性、安全性、汎用性の観点からより好ましい。
【0055】
本発明に適用可能な反応性シリル基を有するシラン化合物の具体例としては、n−オクチルジメチルクロロシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルシラノール、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランが挙げられる。
【0056】
これらのシラン化合物は単独で使用しても、2種以上を併用しても構わない。
【0057】
(重量平均分子量が1000未満のポリジメチルシロキサンを形成するポリジメチルシロキサン骨格化合物)
ポリジメチルシロキサン骨格化合物としては、前記一般式(1)で表される化合物を挙げることができるが、重合度nは1〜11の整数を表す。
【0058】
重量平均分子量が1000未満の撥水性化合物の濃度は、通常0.1〜30質量%が好ましいが、これに限定されず、撥水性化合物の種類により適宜調整すればよい。
【0059】
〔4官能基シランカップリング剤〕
本発明に係る前記含フッ素ポリマー含有塗布液または撥水性化合物含有塗布液は、上記含フッ素ポリマー及び撥水性化合物の他に4官能型シランカップリング剤を含有することが好ましい。4官能基シランカップリング剤の添加により、耐摩耗性が向上する。
【0060】
4官能基シランカップリング剤とは、4個の反応性基を有するシランカップリング剤であり、反応性基としては、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が例示される。好ましくはアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基等の1価アルコールの水酸基の水素原子を除いた基である。特にアルコキシ基が好ましく、その炭素数は4個以下、特に1〜2個が好ましい。
【0061】
4官能基シランカップリング剤の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。
【0062】
これらの4官能基シランカップリング剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。またこれらのシランカップリング剤は、単量体であるが、1種または2種以上を部分縮合反応させて添加すると、アンカー効果により基材との接着性が向上する。ガラスとの接着性を強固にするためには、イソシアネート基を含有するシランカップリング剤が好ましい。また、アミノシランの部分縮合反応物もアンカー効果が高く好ましい。
【0063】
4官能基シランカップリング剤の配合量は、上記反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー成分100質量部に対して、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜100質量部、さらに好ましくは20〜50質量部である。
【0064】
さらに、本発明に係る前記含フッ素ポリマー含有塗布液または撥水性化合物含有塗布液には、本発明の目的を逸脱しない範囲で必要に応じて、他の樹脂、例えばフッ素樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等や、各種添加剤、例えば、界面活性剤、増量剤、着色顔料、防錆顔料、フッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、防錆剤、染料、ワックス等を添加してもよい。
【0065】
また、本発明に係る前記含フッ素ポリマー含有塗布液及び撥水性化合物含有塗布液を用いて、コーティング材料を有する層を基材上に形成する方法は特に制限されるものではなく、用途、使用方法によって適宜選択される。
【0066】
コーティング方法としては、公知の塗布方法を適用することができ、例えば、ディッピング法、スプレーコート法、スピンコート法、転写法、蒸着法を適宜選択して用いることができる。
【0067】
前記含フッ素ポリマー含有塗布液及び撥水性化合物含有塗布液の含フッ素ポリマー及び撥水性化合物の濃度は、通常0.1〜30質量%の組成物とすることが好ましい。乾燥条件も特に制限されないが、通常、室温〜200℃の範囲で1分間〜14日間程度の乾燥を行う。
【0068】
前記コーティング材料を有する層の膜厚は2〜100nmが好ましい。100nmを超えると、例えば水滴を物理的手段で除去する場合、水滴等に伴う異物粒子等の磨耗によって窓ガラスの表面に微細な傷を付けることがあり、この傷が目立ちやすい。
【0069】
〔下地層〕
本発明では、前記基材と前記コーティング材料を有する層との間に下地層を有することが好ましく、下地層は酸化珪素を含有することが好ましい。また下地層の酸化珪素中には炭素が含有されている事が好ましく、炭素含有により、後からコーティングされる撥水性化合物との結合を促進する効果があり、その結果撥水層が高密度で形成され、耐候性や耐摩耗性が向上する為と推察している。下地層の炭素含有率(炭素原子数濃度)は、濡れ性、撥水剤との反応性等を考慮し、1.0炭素原子数濃度%から20.0炭素数濃度%であることが好ましい。本発明で言う炭素含有率を示す炭素原子数濃度とは、下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義される。
【0070】
炭素原子数濃度%(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定した時、1.5eV〜1.7eVとなる様に設定した。
【0071】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0072】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを測定した。
【0073】
得られたスペクトルは、測定装置、或いは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、珪素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0074】
定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。このShirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることが出来る。
【0075】
また、下地層の膜厚は特に制限はないが、1〜500nmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜100nmである。
【0076】
本発明に係る酸化珪素を含有する下地層は、後述する原材料をスプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、プラズマCVD法、後述する大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成することができる。
【0077】
しかしながら、スプレー法やスピンコート法等の湿式法では、分子レベル(nmレベル)の平滑性を得ることが難しい。そこで、本発明においては、大気圧プラズマ法を適用することが、減圧チャンバー等が不要で、高速製膜ができ生産性の高い製膜方法である点から好ましい。なお、大気圧プラズマ法の層形成条件の詳細については、後述する。
【0078】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素や水素などの反応性ガスを用いることにより、珪素酸化物を得ることができる。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0079】
このような無機物の原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。また、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサン等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。なお、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響はほとんど無視することができる。
【0080】
このような酸化珪素膜である下地層を形成する珪素化合物としては、例えば、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0081】
また、これらの珪素原子を含む原料ガスを分解して酸化珪素膜を得るための分解ガスとしては、例えば、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガス等が挙げられる。
【0082】
珪素元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の珪素炭化物、珪素窒化物、珪素酸化物、珪素ハロゲン化物、珪素硫化物を得ることができる。
【0083】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。このような放電ガスとしては、窒素ガス及び/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも特に、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。
【0084】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0085】
(大気圧プラズマ処理法)
次いで、大気圧プラズマ法(大気圧プラズマCVD法)について、さらに詳細に説明する。
【0086】
従来より知られているプラズマCVD法は、プラズマ助成式化学的気相成長法、PECVD法とも称され、各種の無機物を、立体的な形状でも被覆性、密着性がよく、かつ基材温度をあまり高くすることなしに製膜することができる手法である。
【0087】
通常のCVD法(化学的気相成長法)では、揮発・昇華した有機金属化合物が高温の基材表面に付着し、熱により分解反応が起き、熱的に安定な無機物の薄膜が生成されるというものである。このような通常のCVD法(熱CVD法とも称する)では、通常500℃以上の基板温度が必要であるため、樹脂基材への製膜には使用することができない。
【0088】
一方、プラズマCVD法は、基材近傍の空間に電界を印加し、プラズマ状態となった気体が存在する空間(プラズマ空間)を発生させ、揮発・昇華した有機金属化合物がこのプラズマ空間に導入されて分解反応が起きた後に基材上に吹きつけられることにより、無機物の薄膜を形成するというものである。プラズマ空間内では、数%の高い割合の気体がイオンと電子に電離しており、ガス温度は低く保たれるものの、電子温度は非常な高温のため、この高温の電子、あるいは低温ではあるがイオン・ラジカル等の励起状態のガスと接するために無機膜の原料である有機金属化合物は低温でも分解することができる。従って、無機物を製膜する基材についても低温化することができ、プラスチック基材上へも十分製膜することが可能な製膜方法である。
【0089】
しかしながら、プラズマCVD法においては、ガスに電界を印加して電離させ、プラズマ状態とする必要があるため、通常は、0.1〜10kPa程度の減圧空間で製膜するため、大面積のフィルムを製膜する際には設備が大きく操作が複雑であり、生産性の課題を抱えている方法である。
【0090】
これに対し、本発明に好適に用いることができる大気圧近傍でのプラズマCVD法(以下、大気圧プラズマCVD法あるいは大気圧プラズマ法という)は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために製膜速度が速く、さらにはCVD法の通常の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて平坦な膜が得られ、そのような平坦な膜は、光学特性が良好である。以上のことから、本発明においては、大気圧プラズマCVD法を適用することが、真空下のプラズマCVD法よりも好ましい。
【0091】
以下、大気圧あるいは大気圧近傍での大気圧プラズマCVD法を用いた下地層を形成する装置について詳述する。
【0092】
本発明の撥水性物品の製造方法において、下地層の形成に使用されるプラズマ製膜装置の一例について、図1〜図2に基づいて説明する。図中、符号Fは基材の一例としての長尺フィルムである。
【0093】
図1は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0094】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図1では図示してない(後述の図2に図示してある)ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0095】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V>V)を印加でき、また第1電源21の第1の周波数ωは第2電源22の第2の周波数ωより低い周波数を印加できる。
【0096】
第1電極11と第1電源21との間には、第1フィルター23が設置されており、第1電源21から第1電極11への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0097】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2フィルター24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0098】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図2に図示してあるようなガス供給手段からガスGを導入し、第1電極11と第2電極12から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、後述の図2に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラができるだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0099】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることができるので、何回も処理され高速で処理することもできる。また各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層、例えば、防汚層の積層薄膜を形成することもできる。
【0100】
図2は、本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0101】
本発明に有用な大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有している装置である。
【0102】
図2は、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。図2においては、1対の角筒型固定電極群(第2電極)36とロール回転電極(第1電極)35とで、1つの電界を形成し、この1ユニットで、例えば、低炭素原子数濃度層の形成を行う。図2においては、このような構成からなるユニットを、計5カ所備えた構成例を示してあり、それぞれのユニットで、供給する原材料の種類、出力電圧等を任意に独立して制御することにより、本発明で規定する炭素原子数濃度構成からなる積層型の透明ガスバリア層を連続して形成することができる。
【0103】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界を、また角筒型固定電極群(第2電極)36にはそれぞれに対応する各第2電源42から周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0104】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1フィルター43が設置されており、第1フィルター43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、それぞれ第2フィルター44が設置されており、第2フィルター44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0105】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。いずれにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V>V)を印加することが好ましい。また、周波数はω<ωとなる能力を有している。
【0106】
また、電流はI<Iとなることが好ましい。第1の高周波電界の電流Iは、好ましくは0.3〜20mA/cm、さらに好ましくは1.0〜20mA/cmである。また、第2の高周波電界の電流Iは、好ましくは10〜100mA/cm、さらに好ましくは20〜100mA/cmである。
【0107】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させたガスGは、流量を制御して給気口よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。
【0108】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されてくるか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。
【0109】
基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。なお、放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0110】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)35及び角筒型固定電極群(第2電極)36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0111】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることができ、何れも使用することができる。
【0112】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることができ、何れも好ましく使用できる。
【0113】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことができる電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0114】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。なお、放電面積(cm)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0115】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成でき、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立できる。好ましくは5W/cm以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cmである。
【0116】
ここで、高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0117】
また、本発明で膜質をコントロールする際には、第1電源側あるいは第2電源側の電力を制御することによっても達成できる。
【0118】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0119】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10−6/℃以下、さらに好ましくは5×10−6/℃以下、特に好ましくは2×10−6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0120】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックス及び鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックス及び鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックス及びアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックス及びアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項及び5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0121】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からは、チタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることができる。
【0122】
本発明に適用できる大気圧プラズマ放電処理装置としては、上記説明した以外に、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際公開第02/48428号パンフレット等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることができる。
【0123】
〔基材〕
本発明の撥水性物品に適用可能な基材としては、透明性に優れた基材であることが好ましく、透明ガラス基材等の無機質の透明基材やプラスチック基材等の有機質の透明樹脂基材が挙げられる。
【0124】
透明樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、あるいはこれらの樹脂とシリカ等との有機無機ハイブリッド樹脂等が挙げられる。
【0125】
本発明においては、本発明の撥水性、滑水性や耐久性等の優れた特性を付与できる観点から、基材が透明ガラス基材である事が好ましく、かつ最終的な撥水性物品として、可視光領域における平均透過率が、85%以上であることが、建築用窓ガラスあるいは車両用窓ガラスに適用した際に、優れた透明性を得ることができる観点から好ましい。
【0126】
本発明でいう可視光領域における平均透過率とは、400〜700nmまでの可視光領域の透過率を、少なくとも5nm毎に測定して求めた可視光域の各透過率を積算し、その平均値として求めたものと定義する。各測定波長における透過率は、従来公知の測定機器を用いることができ、例えば、島津製作所社製の分光光度計UVIDFC−610、日立製作所社製の330型自記分光光度計、U−3210型自記分光光度計、U−3410型自記分光光度計、U−4000型自記分光光度計等を用いて測定することにより、求めることができる。
【0127】
本発明に適用可能なガラス基材としては、表面に官能基(水酸基、アミノ基、チオール基等)を有する無機ガラスや有機ガラス、ソーダライムシリケートガラス基材等のアルカリ含有ガラス基材や、ホウケイ酸ガラス基材等の無アルカリガラス基材等を挙げることができる。また、ガラス基材は、合わせガラス、強化ガラス等であってもよい。
【0128】
〔撥水性物品の作製方法〕
本発明の撥水性物品を作製する方法の一例を以下に示すが、本発明においては、ここで例示する作製方法に限定されるものではない。
【0129】
本発明の撥水性物品は、以下の作製工程に従って作製することができる。
【0130】
工程1:基材の洗浄工程
基材、特にガラス基材表面に付着した異物、塵等を取り除くため、コーティング材料を有する層を設ける前に、基材表面をプラズマ洗浄法、湿式洗浄法等により洗浄処理を施す。
【0131】
工程2:基材の親水化処理
基材に対するコーティング材料を有する層の形成安定性を高める目的で、基材表面にコロナ放電、火焔処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、プラズマ処理、レーザー処理、オゾン酸化処理等の表面処理や、シランカップリング剤等の塗布を行う。この工程2は、工程1と兼ねて行われる場合や、工程1だけで工程2は省略することができる。
【0132】
工程3:下地層の形成
基材上に、コーティング材料を有する層を設ける前にセラミック膜である下地層を、ウェット塗布方式、大気圧プラズマ法により形成する。この工程3は、必要に応じて行われる。
【0133】
工程4:コーティング材料を有する層の形成1(重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液塗布)
基材上に、あるいは下地層上に、本発明に係る重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布し、コーティング材料を有する層の一部を形成する。
【0134】
工程5:コーティング材料を有する層の洗浄工程
重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物が基材に固定化された後、基材に固定化されていない余分な重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物を、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物の良溶媒等でリンス(洗浄)し、その後、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布することがさらに好ましい。これは、余分な重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物が重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物の基材固定化への阻害を排除するためである。この工程5は、必要に応じて行われる。
【0135】
工程6:コーティング材料を有する層の形成2(重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液塗布)
上記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布した上に、さらに、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布し、コーティング材料を有する層を形成する。
【0136】
工程7:後処理
コーティング材料を有する層を形成した後、後処理として、熱焼成、プラズマ溶着、フレーム溶着、紫外線照射、電子線照射等を施して、コーティング材料を有する層を構成する材料間の接着強度を高める。この工程7は、必要に応じて行われる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0138】
(高分子撥水剤−1の調製)
側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーとしてのルミフロンLF−200(旭硝子社製)100gをキシレン400gで希釈し、シラン変成剤としてのKBE−9007(γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業社製)15gとジブチルチンジラウレート0.017gを加えて室温・窒素雰囲気下で2時間撹拌してトリエトキシシラン(反応性シリル基)を有する含フッ素ポリマー(重量平均分子量7000、溶液)を得た。得られた含フッ素ポリマーの固形分濃度が1%となるようにキシレンで希釈し、高分子撥水剤−1とした。
【0139】
(高分子撥水剤−2の調製)
オプツールAES−6(ダイキン工業社製)(重量平均分子量6000、溶液)の1gをノベックHFE7100 100gで希釈して固形分濃度を0.2%に調整し、高分子撥水剤−2とした。
【0140】
(高分子撥水剤−3の調製)
ポリジメチルシロキサン骨格化合物X−24−9011(信越化学工業社製)を、固形分濃度が1%となるように酢酸エチルで希釈し、高分子撥水剤−3(重量平均分子量1500、溶液)とした。
【0141】
(低分子撥水剤−1の調製)
含フッ素シランカップリング剤(CF(CFCHCHSi(OCH、分子量568)を、固形分濃度が0.2%となるようにIPAで希釈して低分子撥水剤−1とした。
【0142】
(低分子撥水剤−2の調製)
アルキルシランカップリング剤(CH(CHSi(OCH、分子量262)を、固形分濃度が0.2%となるようにキシレンで希釈し、低分子撥水剤−2とした。
【0143】
〔撥水性物品1の作製〕
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭した。その上に、高分子撥水剤−1を、ディップ塗布法で塗布、乾燥し、150℃で30分間硬化処理を行って乾燥膜厚が20nmのコーティング材料層を有する撥水性物品1を作製した。
【0144】
〔撥水性物品2〜5の作製〕
撥水性物品1の作製において、高分子撥水剤−1を表1に示す撥水剤に変えた以外は同様にしてそれぞれ撥水性物品2〜5を作製した。
【0145】
〔撥水性物品6の作製〕
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭した。その上に、高分子撥水剤−1を、ディップ塗布法で塗布、乾燥した。その上に高分子撥水剤−3をディップ塗布法で塗布、乾燥して、150℃で30分間硬化処理を行って乾燥膜厚が40nmのコーティング材料層を有する撥水性物品6を作製した。
【0146】
〔撥水性物品7〜11の作製〕
撥水性物品6の作製において、塗布1回目の撥水剤と塗布2回目の撥水剤を表1記載の化合物に代えて、他は同様にしてそれぞれ撥水性物品7〜11を作製した。
【0147】
〔撥水性物品12の作製〕
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭した。その上に、高分子撥水剤−2を、ディップ塗布法で塗布、乾燥し、150℃で30分間硬化処理を行った後、表面を含フッ素ポリマー1の良溶媒であるキシレンでリンス(洗浄)し、その上に低分子撥水剤−1をディップ塗布法で塗布、乾燥して、乾燥膜厚が40nmのコーティング材料層を有する撥水性物品12を作製した。
【0148】
〔撥水性物品13の作製〕
〈下地層の形成〉
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭した後、図1記載の大気圧プラズマ放電処理装置を用い、下記放電条件で厚さ45nmの下地層を形成した。
【0149】
下記の条件で、プラズマ放電を行った。
【0150】
〈ガス条件〉
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
薄膜形成性ガス:テトラエトキシシラン(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
添加ガス:水素ガス 5.0体積%
〈電源条件〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm
第2電極側 電源種類 パール工業社製高周波電源
周波数 13.56MHz
出力密度 8W/cm
上記形成した第1層の炭素原子数濃度は、VGサイエンティフィックス社製のESCALAB−200Rを用いたXPS法で測定した結果、12原子数%であった。
【0151】
〔撥水性物品14の作製〕
撥水性物品13の作製において、添加ガスの条件を水素ガスから酸素ガスに変更して行った事以外は同様にして下地層を形成した。その際の下地層の炭素原子数濃度は、検出限界未満(0.1%未満)であった。
【0152】
〈コーティング材料層の形成〉
上記下地層の上に、撥水性物品12の作製と同様にして、高分子撥水剤−2及び低分子撥水剤−1を含むコーティング材料層を形成して、撥水性物品13および14を作製した。
【0153】
以上により得られた各撥水性物品の製造方法を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
《撥水性物品の評価》
〔評価1:作製直後の撥水性物品の評価〕
(撥水性の評価:静的接触角の測定)
上記作製した各撥水性物品について、検液として水を用いた静的接触角を、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)により、3μlの質量の水滴による静的接触角を測定し、下記の基準に従って撥水性の評価を行った。この静的接触角の値が大きいほど、静的な撥水性が優れていることを表している。
【0156】
◎:静的接触角が100°以上
○:静的接触角が90°以上、100°未満
△:静的接触角が85°以上、90°未満
×:静的接触角が85°未満
(滑水性の評価:臨界滑落角の測定)
上記作製した各撥水性物品について、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)を用いて、50μlの水滴を滴下した後、撥水性物品を保持しているステージの角度0°(水平)から90°(直角)方向に徐々に傾斜させ、水滴が撥水性物品表面を滑りはじめる角度を求め、これを臨界滑落角とし、下記の基準に従って滑水性(水滴滑落性)の評価を行った。臨界滑落角が小さい程、動的な撥水性が優れており、例えば、走行中の自動車のフロントガラス窓に付着した雨滴が飛散しやすくなって、運転者の視界が妨げられないことを表している。
【0157】
◎:臨界滑落角が10°未満
○:臨界滑落角が10°以上、20°未満
△:臨界滑落角が20°以上、30°未満
×:臨界滑落角が30°以上
〔評価2:耐候性の評価〕
(耐候性試験)
耐候性試験として、耐紫外線試験機(アイスーパーUVテスター W−13、岩崎電気製)を用いて、各撥水性物品の撥水性層を有する面側に、波長340nm、強度0.6W/cmの紫外線を、ブラックパネル温度48±2℃の条件で、照射20時間、暗黒4時間のサイクルで、1時間毎に30秒間イオン交換水シャワーリングをする条件で、合計400時間の紫外線照射を行った。上記紫外線照射後の水滴による静的接触角を測定し、耐候性評価とした。
【0158】
◎:静的接触角が90°以上
○:静的接触角が80°以上、90°未満
△:静的接触角が70°以上、80°未満
×:静的接触角が70°未満
(各特性値の測定)
上記耐候性試験を行った各撥水性物品について、評価1と同様の方法で、撥水性(静的接触角)の測定を行った。
【0159】
〔評価3:耐摩耗性の評価〕
(耐摩耗試験)
耐摩耗性試験として、往復摩耗試験機(HEIDON−14DR)にネル布を取り付けて、荷重1kg/cmの条件で各撥水性物品の撥水性層表面を100mm/secで10000回往復摺動させた。
【0160】
(耐摩耗性の測定)
上記耐摩耗試験を行った各撥水性物品について、評価1と同様の方法で、撥水性(静的接触角)の測定を行い、耐摩耗性の目安とした。
【0161】
以上により得られた各評価結果を表2に示す。
【0162】
【表2】

【0163】
表2に記載の結果より明らかなように、本発明で規定するコーティング材料を本発明で規定する塗布順で作製した本発明の撥水性物品は、比較例に対し、作製直後における撥水性(静的接触角)及び滑水性(臨界滑落角)に優れ、かつ長期間にわたり紫外線の照射を受けたり、あるいは表面が摩耗されたりした後でも、その優れた特性が持続されていることが分かる。本発明の中でも、特に、大気圧プラズマ法で下地層を作製した撥水性物品13が優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0164】
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
21 第1電源
22 第2電源
30 プラズマ放電処理室
35 ロール回転電極(第1電極)
36 角筒型固定電極群(第2電極)
41、42 電源
51 ガス供給装置
F 元巻き基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に撥水層を有する撥水性物品の製造方法において、該撥水層を、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液と、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液とを、この順に該基材上に塗布して形成する事を特徴とする撥水性物品の製造方法。
【請求項2】
前記重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液が塗布された後、塗膜表面を洗浄し、その後前記重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物含有塗布液を塗布して、撥水層を形成する事を特徴とする請求項1記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の撥水性物品の製造方法により得られた事を特徴とする撥水性物品。
【請求項4】
前記撥水層と基材との間に下地層を有する事を特徴とする請求項3記載の撥水性物品。
【請求項5】
前記下地層が珪素酸化物を主成分とし、層内に炭素成分を含有する事を特徴とする請求項4記載の撥水性物品。
【請求項6】
前記下地層が大気圧プラズマCVDにより形成される事を特徴とする請求項5記載の撥水性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−260193(P2010−260193A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110716(P2009−110716)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】