説明

撮像装置

【課題】位相変調素子を含む撮像装置の製造性を向上させる。
【解決手段】撮像装置1は、被写体からの光を像面に集光するレンズ系2と、レンズ系2を通過する光に対して、光軸に垂直な1の方向に位相変調を与える第1の位相変調マスク3aと、前記1の方向とは異なる方向に位相差を生じさせる第2の位相変調マスク3bとを含む一対の位相変調マスクと、一対の位相変調マスク3a、3bの間に設けられ、光の光量を調整する絞り4と、像面に集光された光を電気信号に変換して画像信号を取得する撮像部5と、撮像部5によって取得された画像信号に対して位相変調を復元する画像処理を行う画像処理部6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等を含む光学系によって、被写体を撮像素子上に結像する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光波面変調素子である位相板により光束を規則的に分散し、デジタル処理により復元させ、被写界深度の深い画像撮影を可能にする撮像装置が提案されている。(例えば、特許文献1―2、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−235794号公報
【特許文献2】特開2000−98303号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Edward. R. Dowski, Jr., and W. Thomas. Cathey, “Extended depth of field through wave-front coding”, Applied Optics, Vol. 34, No 11,pp. 1859-1866, 10 April, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術では、位相変調素子(光波面変調素子)として、例えば、光の位相にexp(iα(x3+y3))のずれを与えるキュービック位相素子が用いられる。ここで、iは虚数単位、αは定数、x,yは、位相変調素子の二次元座標である。このような位相変調素子を一体的に形成すると、3次元形状が複雑になるため、製造性がよくない。
【0006】
そのため、本発明は、位相変調素子を含む撮像装置の製造性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願開示の撮像装置は、被写体からの光を像面に集光するレンズ系と、前記レンズ系を通過する光に対して、前記レンズ系の光軸に垂直な1の方向に位相差を生じさせることで位相変調を与える第1の位相変調マスクと、前記光に対して前記1の方向とは異なる方向に位相差を生じさせる第2の位相変調マスクとを含む一対の位相変調マスクと、前記一対の位相変調マスクの間に設けられ、前記レンズ系を通過する光の光量を調整する絞りと、前記像面に集光された光を電気信号に変換して画像信号を取得する撮像部と、前記撮像部によって取得された画像信号に対して前記位相変調を復元する画像処理を行う画像処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本願明細書の開示によれば、位相変調素子を含む撮像装置の製造性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態における撮像装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、位相変調マスクおよび絞りの配置例を示す斜視図である。
【図3A】図3Aは、光学系の構成の一例を示すyz断面図である。
【図3B】図3Bは、位相変調マスクにおける位相面の一例を示す図である。
【図3C】図3Cは、光学系の構成一例を示すxz断面図である。
【図3D】図3Dは、位相変調マスクにおける位相面の一例を示す図である。
【図4】図4は、位相変調マスクを設けない光学系におけるMTFの計算例を示すグラフである。
【図5】図5は、図3A〜図3Dに示す位相変調マスクを設けた光学系のMTFの計算例を示すグラフである。
【図6】図6は、逆フィルタ特定の例を示す図である。
【図7】図7は、図6に示す逆フィルタ処理後のMTFの強度分布を示すグラフである。
【図8】図8は、絞りが一対の位相マスクの外側にある光学系の断面構成の一例および光路の例を示す図である。
【図9】図9は、絞りが一対の位相マスクの間にある光学系の断面構成の一例および光路の例を示す図である。
【図10】図8に示す光学系における3パターンの画角ごとのMTFの強度分布を示すグラフである。
【図11】図9に示す光学系における3パターンの画角ごとのMTFの強度分布を示すグラフである。
【図12】図12は、第2の実施形態における位相変調マスクの断面図とその位相面の一部の拡大図である。
【図13】図13は、第3の実施形態における位相変調マスクの構成を説明するための断面図である。
【図14】図14は、第4の実施形態における光学系の構成の一例を示すxy断面図である。
【図15】図15は、位相変調マスクおよび絞りの変形例を示す断面図である。
【図16】図16は、第5の実施形態にかかる撮像装置を含むシステム全体の構成例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における撮像装置の概略構成を示す機能ブロック図である。図1に示す撮像装置1は、レンズ2、一対の位相変調マスク3a、3b、絞り4、撮像部5及び画像処理部6を備える。レンズ2は、被写体からの光を像面に集光するレンズ系の一例である。一対の位相変調マスク3a、3bは、レンズ系を通過する光に対して、レンズ2の光軸に垂直な1の方向に位相差を生じさせる第1の位相変調マスク3aと、この光に対して前記1の方向とは異なる方向に位相差を生じさせる第2の位相変調マスクとを含む。絞りは、一対の位相変調マスク3a、3bの間に設けられ、レンズ系を通過する光の光量を調整する。撮像部5は、レンズ系により像面に集光された光を電気信号に変換して画像データを取得する。撮像部5は、例えば、CCD/CMOS等の二次元撮像素子を含み、レンズ2及び絞り4が、被写体の像を前記二次元撮像素子に結像する。二次元撮像素子は、被写体の像を電子信号(画像信号)に変換して画像処理部6へ入力する。画像処理部6は、撮像部5によって取得された画像に対して前記位相変調を復元する画像処理を行う。
【0011】
このように、撮像装置1は、被写体からの光を撮像部5の受光面へ結像させて画像データを取得する光学系7と、この画像データを処理する画像処理部6を含む。光学系7は、レンズ2、一対の位相変調マスク3a、3b、これら一対の位相変調マスク3a、3bの間に挿入された絞り4、および、光学系7を通過した被写体像を撮像する撮像部5を含む。画像処理部6は、例えば、光学系7の光学特性の逆フィルタで画像処理を行う。
【0012】
位相変調マスク3a、3bは、被写体と撮像部の間に置かれ、光学系の光学的伝達関数(0TF)を被写体の光軸方向位置によらず一定に変形させるものとすることができる。画像処理部6は、撮像部で撮像した画像を画像処理により、変形していない0TFに戻す処理を実行することができる。これにより、画像処理部6は、被写界深度の深い画像を出力することができる。
【0013】
具体的には、画像処理部6は、例えば、画像信号に対して、A/D変換器によるデジタル信号その他必要な変換を施して画像データを得ることができる。画像処理部6は、画像データに対して、位相変調マスク3a、3bによる位相変調を復元する画像処理を行う。画像処理部6は、例えば、画像データに対して、位相変調マスクによる光伝達関数変調効果を打ち消す逆フィルタ計算を実行することができる。このように、画像処理部6では、光学系7の伝達関数の逆関数(例えば、逆フィルタ)を用いて、撮像部5で得られた画像を畳み込む処理を実行する。この逆関数を表すデータは、予め画像処理部6が記録しておくことが好ましい。
【0014】
なお、画像処理部6は、画像処理専用のICチップ、または汎用的なCPUなどのようなプロセッサおよびメモリのようなコンピュータで構成することができる。あるいは、画像処理部6はアナログ回路で形成されてもよい。
【0015】
上記構成のように、異なる方向に位相差を生じさせる一対の位相変調マスク3a、3b(位相変調素子)を設けることにより、位相変調マスクの形状が簡易になり、製造性が向上する。また、絞り4が位相変調マスク3a、3bの間に設けられるので、画角による影響を抑えながらも、被写界深度を増大させることができる。
【0016】
図2は、位相変調マスク3a、3bおよび絞りの配置例を示す斜視図である。図2では、レンズ2の光軸をz軸とし、z軸に垂直で互いに直行する2つの軸をx軸、y軸としている。図2に示す一対の位相変調マスク3a、3bのうち一方の位相変調マスク3aは、x軸方向において連続的に厚みが変化する形状を有している。そのため、位相変調マスク3aでは、レンズ系の光軸に垂直な1の方向(例えば、x方向)において、通過する光に与える位相変調の度合いが変化する。一対の位相変調マスク3a、3bのうち他方の位相変調マスク3bは、y軸方向において連続的に厚みが変化する形状を有している。そのため、位相変調マスク3bでは、レンズ系の光軸に垂直でかつ前記1の方向(例えば、x方向)に対しても垂直な方向(例えば、y方向)においてのみ通過する光に与える位相変調の度合いが変化する。ここでは、位相変調マスク3aと位相変調マスク3bは同じ形状であり、向きが90°異なる位置関係に配置されている。
【0017】
一対の位相変調マスク3a、3bそれぞれには、通過する光の位相変調度合いを変化させるための曲面(位相面)が形成され、位相変調マスク3a、3bそれぞれの位相面が対向するように、一対の位相変調マスク3a、3bが配置される。
【0018】
絞り4は、これらの対向する位相面の間に設けられる。絞り4は、光軸に垂直な平面(例えば、xy平面)に平行に設けられる。図2に示す例では、絞り4は、円形の開口部を有している。なお、開口部は円形に限られず、例えば、正方形であってもよい。
【0019】
図2に示す例では、上記したように、位相変調マスク3aの1面に、一方向のみの位相差を生じさせるための第1の位相面を設け、位相面を光軸と直交する位置に配置し、前記一方向および光軸と直交する方向に位相差を生じさせる第2の位相面を持つ位相変調マスク3bをさらに配置している。これにより、位相変調マスクの形状をさらに簡易にすることができる。例えば、一枚の位相変調マスクで同様の位相変調を実現する場合に比べて、鋭角部もなく、1方向の高低差を半分にすることができる。その結果、製造性がさらに向上する。また、位相面が対向するように一対の位相変調マスク3a、3bを配置し、位相面に挟まれる位置に絞り4を設けることで、絞り4の位置を位相面に近づけることができる。絞り面と位相面が近いと、画角の影響がより少なくなる。すなわち、絞り面を一対の位相面の間におくことにより、画角の影響を少なくすることができ、画角による性能劣化を抑えることができる。
【0020】
図3A〜図3Dは、光学系7の構成のさらなる詳細な例を示す図である。図3Aは、光学系7の構成の一例を示すxz断面図である。図3Bは、位相変調マスク3aにおける位相面の一例を示す図である。図3Cは、光学系7の構成一例を示すyz断面図である。図3Dは、位相変調マスク3bにおける位相面の一例を示す図である。
【0021】
図3Aおよび図3Bに示す例では、位相変調マスク3aは、xy平面に平行な平面を有し、この面に対向する面(この面の裏面)が、z=kx3(ここでkは定数)で表される曲面となっている。そのため、位相変調マスク3aを通過した光は、exp(iα(x3)/2)の位相変調を受ける。すなわち、位相変調マスク3aの中心(x、y)=(0、0)を基準とすると、点(x、y)を通過する光の位相差はexp(iα(x3)/2)で表される。位相変調マスク3aを通過した光は、通過前の光の波動関数にexp(iα(x3)/2)を掛けたものとなる。ここで、α/2は、例えば、α/2=2π(n-1)k/λ(nは位相変調マスクの屈折率)で表すことができる。
【0022】
図3Cおよび図3Dに示す例では、位相変調マスク3bは、xy平面に平行な平面を有し、この面に対向する面が、z=ky3で表される曲面となっている。そのため、位相変調マスク3bを通過した光は、位相差exp(iα(y3)/2)の位相変調を受ける。位相変調マスク3bの中心(x、y)=(0、0)を基準とすると、点(x、y)を通過する光の位相差はexp(iα(y3)/2)で表される。位相変調マスク3bを通過した光は、通過前の光の波動関数にexp(iα(y3)/2)を掛けたものとなる。ここで、α/2は、例えば、α/2=2π(n-1)k/λで表すことができる。
【0023】
したがって、図3A〜図3Dに示す位相変調マスク3aと位相変調マスク3bを通った光は、exp(iα(x3)/2)・exp(iα(y3)/2)の位相変調を受けることになる。なお、図3A〜図3Dに示した位相変調マスクの位相面の形状は一例であり、これに限られない。例えば、位相変調マスク3aの位相面は、z=kx3が表す曲面の他、xの奇関数で表される曲面とすることができる。位相変調マスク3bが与える位相差を、exp(iφ(x))とすると、φ(x)は、xの3乗の関数にこだわらず、その他の奇関数であってもよい。位相変調マスク3bの位相面も同様に、位相差exp(iφ(y))のφ(y)は、他のyの奇関数であってもよい。
【0024】
ここで、例えば、1枚の位相変調マスクで形成する場合、その位相変調マスクの位相面は、z=k´(x3+y3)とすることができる。位相変調マスクは、通過する光にexp(iα(x3+y3)/2)の位相変調を与える。この場合、位相面の形状が複雑になり、製造性が悪くなる。また、位相面に1点の尖った鋭角部ができるので、壊れやすくなる。これに比べて、図3A〜図3Dに示した例では、位相差の方向を分離して一対の位相変調マスク3a、3bとすることで、形状が複雑でなく、また鋭角部もなく、1方向の高低差が半分で設定できる。その結果、製造性が向上する。さらに、位相差を分離したことにより、位置決めが一方向のみとなり、組み立て性が向上する。
【0025】
[被写界深度の拡大効果]
図4は、位相変調マスク3a、3bを設けない光学系におけるMTFの計算例を示すグラフである。図5は、図3A〜図3Dに示す位相変調マスク3a、3bを設けた光学系のMTFの計算例を示すグラフである。図4、図5において、横軸は空間周波数を示し、縦軸はMTFを示す。また、図4、図5において、R1およびW1は、被写体が焦点位置にあるときのMTFの強度分布、R2およびW2は、被写体が焦点位置からずれた場合のMTFの強度分布、R3およびW2は、被写体が焦点位置からさらにずれた場合のMTFの強度分布を示す。
【0026】
図4に示す例のように、位相変調マスクを持たない光学系では、被写体が焦点位置からずれて焦点がボケるとMTFが劣化する。これに対して、図5に示す例のように、位相変調マスク3a、3bを備える光学系7では、焦点がぼけてもMTFの変化は少ない。
【0027】
位相変調マスク3a、3bを備える光学系7で撮像された画像に対して、図6に示す特性の逆フィルタによる処理を行うことにより、図7に示すようなMTFの強度分布W1a、〜W3aが得られる。すなわち、図5のMTF強度分布W1、W2、W3は、図7に示す逆フィルタ処理後の強度分布W1a、W2a、W3aにそれぞれ対応している。図7に示すMTF強度分布はいずれも、被写体が焦点距離にある場合のMTF強度分布(例えば、図4のR1)に近い形を有している。このように、位相変調マスク3a、3bを有する光学系で得られた画像は、焦点がぼけた場合でも逆フィルタにより焦点ずれの少ない画像に補正することが可能になる。
【0028】
[絞り面による性能評価]
図8は、絞りが一対の位相マスクの外側にある光学系の断面構成の一例および光路の例を示す図である。図9は、絞りが一対の位相マスクの間にある光学系の断面構成の一例および光路の例を示す図である。図8および図9においては、画角が異なる3パターン(画角が大、中、小のパターン)の光路をそれぞれ、画角の大きい順に、太線、中太線、細線で示している。
【0029】
図8に示す例では、絞り4は、一対の位相マスク3a、3bの外側であって、撮像部6側に、が設けられている。図9に示す例では、絞り4は、一対の位相マスク3a、3bの間に設けられている。図9に示す例では、2つの位相面の間に絞り面が配置されているので、図8に示す例とは光路が異なっている。
【0030】
図10は、図8に示す光学系における3パターンの画角ごとのMTFの強度分布を示すグラフである。図11は、図9に示す光学系における3パターンの画角ごとのMTFの強度分布を示すグラフである。図10および図11において、画角が大の場合のMTFを太線、画角が中の場合のMTFを中太線、画角が小の場合のMTFを細線で表している。実線はY方向のMTF、一点鎖線はX方向のMTFを表している。点線は回折限界を示している。
【0031】
図10および図11を比較すると、絞り面が位相面の間に配置された光学系では、絞り面が位相面の間にない構成に比べて、MTFの画角によるばらつきが小さいことが分かる。このことから、例えば、図8に示すように絞り面が位相変調マスクの対の外にあると、画角の影響によりMTFのばらつきが大きく、性能が劣化するといえる。これに対して、絞り面を一対の位相変調マスクの間に置くことにより、MTFばらつきを抑えることができる。その結果、画角の影響を少なくすることができ、性能劣化を抑えることができる。
【0032】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、位相変調マスク3a、3bの位相面を曲面としたが、位相面は階段状にする形成することもできる。例えば、位相変調マスクの光軸方向(例えばz方向)の厚みが、ある1の方向(例えばx方向またはy方向)において段階的に変化するように位相面を形成することができる。すなわち、各位相変調マスク3a、3bの位相面は、光軸方向に垂直な面に平行な面を各ステップに持つ階段であって、前記1の方向にステップアップしていく階段の形状とすることができる。これにより、通過する光に対して、前記1の方向において位相差を生じさせることができる。すなわち、位相変調マスクにおいて、一方向の位相差を階段状とすることができる。このように、位相面を階段状とする構成の方が、位相面が曲面である構成に比べて作りやすい。
【0033】
上記第1の実施形態と同様に、位相変調マスク3a、3bそれぞれの位相面におけるステップアップする方向は、互いに直交することが好ましい。また、各段の前記1の方向における幅は、光の波長を超えないことが好ましい。一段の幅を波長以下とすることにより、階段状にすることによる影響が見えにくくなる。
【0034】
図12は、本実施形態における位相変調マスク3aの断面図とその位相面の一部の拡大図である。図12の拡大図は、位相変調マスク3aにおいて点線で示される領域Tの部分の拡大図である。図12に示す例では、位相変調マスク3aの位相面は、x方向にそってステップアップする階段で形成されている。階段の各段のx方向における幅Lは、光の波長を越えないよう形成される。位相変調マスク3bの位相面にも、同様に、y方向にステップアップする階段が形成される。このように位相面を階段状とすることにより、位相面を曲面にするよりも製造が容易になる。
【0035】
(第3の実施形態)
上記第1および第2の実施形態では、位相変調マスクは、光軸方向の厚みが、垂直な面内の1の方向において変化するよう形成される。厚みが変化すると光路長が変化するので、前記1の方向に位相差が生じる。本実施形態では、この位相差が生じる前記1の方向において、位相変調マスクを、例えば、光の波長とほぼ同じ幅を持つ複数の領域に分割し、それぞれの領域内で独立して厚みを変化させる。これにより、位相変調マスクの厚みを減らすことができる。
【0036】
図13Aは、第3の実施形態における位相変調マスク3a1の構成を説明するための断面図である。図13Aの上段に示す例では、位相変調マスク3a1を、x方向において、光の波長と同じ幅Hを持つ複数の領域に分割し、それぞれの領域ごとに独立して厚みを変化させる。すなわち、位相変調マスク3a1の厚みは、領域ごとにリセットされ、各領域で所定レベルを基準に変化する。そのため、位相変調マスク3a1の、xz断面は、少なくとも一部において、厚みが周期的に変化するノコギリ状となる。
【0037】
図13Aの上段に示す位相変調マスク3a1は、下段に示す位相変調マスク3aと同様の位相変調機能を有する。図13Aの下段に示す位相変調マスク3aは、第1または第2の実施形態における位相変調マスク3aと同様の構成である。上段に示す位相変調マスク3a1は、下段に示す位相変調マスク3aの厚みの変化が比較的急な領域、すなわち、両端から一定の領域において、x方向に幅Hごとに分割し、分割領域ごとに厚みを変化させた構成である。各分割領域では、所定のレベルを基準にして厚みが変化している。
【0038】
このように、フレネルレンズのごとく波長幅で分割し、分割した領域ごとに厚みを変化させてノコギリ状に形成することで、位相変調マスク3a1全体の厚みを小さく抑えることができる。
【0039】
なお、波長幅で分割された各領域においては、第1の実施形態のように位相面を曲面としてもよいし、第2の実施形態のように、段階的に厚みが変化する構成であってもよい。例えば、図13Aの上段に示す位相変調マスク3a1における領域Tは、図12の領域Tの拡大図と同様に階段状に構成することができる。
【0040】
図13Aでは、第1または第2の実施形態における位相変調マスク3aをx方向に複数の領域に分割する例を示したが、同様にして、位相変調マスク3bをy方向に複数の領域に分割し、各領域でy方向において厚みを変化させることができる。
【0041】
図13Bは、変形例の位相変調マスク3a2の構成を説明するための断面図である。図13Bの上段に示す例は、図13Bの下段に示す位相変調マスク3aを、厚みが一定(L)のフレネルレンズのようになるように分割した構成である。この場合、x方向の分割幅は、一定とならず、外側にいくほど狭くなる。
【0042】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態における光学系7の構成の一例を示すxy断面図である。図14に示す例では、位相変調マスク3bの位相面に対向する面に偏光素子8が設けられている。言い換えると、偏光素子8の裏面が、位相変調マスク3bになっている。
【0043】
このように、位相変調マスク3bは、光軸と直交する方向に別の機能を有する光学素子を1面持ち、その裏面が一方向の位相差を生じさせる位相面となる構成にすることができる。もしくは、位相変調マスク3bは、位相面を有する素子と、他の機能を有する光学素子とを張り合わせた構成にすることができる。上記光学素子としては、例えば、偏光フィルタ(偏光素子)等や平凸レンズが含まれるが、特定のものに限定されない。
【0044】
位相変調マスクと他の機能を持つ光学素子とを組み合わせることにより、構造の簡略化が図れ、低コスト化が可能となる。
【0045】
図14に示す例では、一対の位相変調マスク3a、3bそれぞれの位相面が対向するように、一対の位相変調マスク3a、3bが配置され、位相面の裏側、すなわち、一対の位相変調マスク3a、3bの外側に他の光学素子が形成される。対向する位相面の間に絞り4が設けられる。このように、位相面を絞り面側に設けることにより、画角の影響を少なくしつつも、他の光学素子との結合が可能になる。
【0046】
図15は、位相変調マスク3a、3bおよび絞り4の変形例を示す断面図である。図15に示す例では、位相変調マスク3a、3bは、それぞれ、位相面とその位相面の裏側に位置する平面を有しており、位相変調マスク3a、3bの前記平面どうしが対向し、位相面が外側に位置するように一対の位相変調マスク3a、3bが配置される。対向する平面面の間に絞り4が設けられる。また、一方の位相変調マスク3aの位相面の裏側の平面には、位相変調以外の機能を有する光学素子8が形成される。この場合、絞り4は、位相変調マスク3a、3bと別体でなくてもよい。例えば、位相変調マスク3a、3bに蒸着により絞り4を直接形成することもできる。
【0047】
(第5の実施形態)
図16は、第5の実施形態にかかる撮像装置1を含むシステム全体の構成例を示す機能ブロック図である。図16において、図1と同じ機能ブロックには、同じ番号を付している。図16に示す構成例では、位相変調マスク3a、3bの間に可変絞り4aが設けられる。また、図16に示すシステムは、制御部9、記録部11、表示部12、操作部13をさらに備える。
【0048】
制御部9は、可変絞り4aの絞り度(開口度)を制御する。また、ユーザからの操作部13を介した操作入力に応じて、撮像装置1の動作を決定し、制御することもできる。制御部9は、画像処理部6と同様に、画像処理専用のICチップ、または汎用的なCPUなどのようなプロセッサおよびメモリのようなコンピュータで構成することができる。
【0049】
記録部11は、画像処理部6が出力した画像データを格納する。表示部12は、記録部11に格納された画像データを表示する。表示部12は、例えば、液晶表示パネル等で形成することができる。操作部13は、例えば、ボタン、ダイヤル、キーボード、その他入力デバイスを含み、ユーザの操作入力を可能にするインターフェースとして機能する。
【0050】
上記構成において、可変絞り4aにより絞りを絞って撮影を行う場合、絞りによって位相変調マスクが覆われて通過する光の位相が変化する。そのため、制御部9は、開口度等の絞り情報を画像処理部6へ通知することが好ましい。これにより、画像処理部6は、絞り情報に基づいて、位相変調マスク3a、3bによる位相変調に応じた適切な画像を復元することができる。例えば、画像処理部6は、複数段階の絞り度合いを示す値と、それぞれの段階に対応する逆フィルタに関するデータとを予め記録しておき、制御部9から受け取った絞りの度合いに対応する逆フィルタの処理を画像に施すことができる。
【0051】
(その他の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記第1〜第5の実施形態に限定されない。
【0052】
上記実施形態では、位相変調マスク3a、3bとして、厚みが変化する光学素子位相板を用いた場合について説明したが、位相変調マスク3a、3bはこれに限定されず、その他の、波面を変形させる波面変調素子を用いることができる。例えば、屈折率分布型波面変調レンズのように屈折率が場所によって変化する光学素子や、波面変調ハイブリッドレンズのように、レンズ表面へのコーディング等により厚み、屈折率が変化する光学素子を用いることができる。さらに、液晶空間位相変調素子光のような、位相分布を変調可能な液晶素子等を位相変調マスクとして用いることができる。
【0053】
また、撮像装置の用途は特に限定されない。上記撮像装置は、例えば、デジタルスチルカメラ、携帯電話搭載カメラ、携帯情報端末搭載カメラ、画像検査装置、自動制御用産業カメラ、情報コード読取装置等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの光を像面に集光するレンズ系と、
前記レンズ系を通過する光に対して、前記レンズ系の光軸に垂直な1の方向に位相差を生じさせることで位相変調を与える第1の位相変調マスクと、前記光に対して前記1の方向とは異なる方向に位相差を生じさせる第2の位相変調マスクとを含む一対の位相変調マスクと、
前記一対の位相変調マスクの間に設けられ、前記レンズ系を通過する光の光量を調整する絞りと、
前記像面に集光された光を電気信号に変換して画像を取得する撮像部と、
前記撮像部によって取得された画像に対して前記位相変調を復元する処理を行う画像処理部と、
を備えた撮像装置。
【請求項2】
前記一対の位相変調マスクは、前記レンズ系の光軸に垂直な1の方向においてのみ通過する光に与える位相変調の度合いが変化する第1の位相変調マスクと、前記レンズ系の光軸に垂直でかつ前記1の方向に対しても垂直な方向においてのみ通過する光に与える位相変調の度合いが変化する第2の位相変調マスクとを含む、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記第1の位相変調マスクは、通過する光に対してexp(iαx3)(ここで、iは虚数単位、αは定数、xは、光軸に垂直な平面にをxy平面としたときのx座標)の位相変調を与え、
前記第2の位相変調マスクは、通過する光に対してexp(iαy3)(ここで、iは虚数単位、αは定数、yは、光軸に垂直な平面にをxy平面としたときのy座標)の位相変調を与える、請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記第1の位相変調マスクは、前記1の方向においてのみ階段状に厚みが変化する形状を有し、前記1の方向における前記階段の各段の幅は、通過する光の波長を越えておらず、
前記第2の位相変調マスクは、前記1の方向に垂直な方向においてのみ階段状に厚みが変化する形状を有し、前記1の方向に垂直な方向における前記階段の各段の幅は、通過する光の波長を越えていない、請求項2または3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記一対の位相変調マスクの少なくとも1の位相変調マスクは、位相変調機能を実現するための位相面と、前記位相面の裏側の面に設けられ、位相変調機能とは異なる他の機能を有する光学素子とを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記一対の位相変調マスクそれぞれには、通過する光の位相変調度合いを変化させるための曲面または階段状の位相面が形成され、
前記一対の位相変調マスクそれぞれの曲面または階段状が形成された位相面が対向するように、前記一対の位相変調マスクが配置され、
前記絞りは、対向する前記位相面の間に設けられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−13789(P2012−13789A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147997(P2010−147997)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】