説明

撮影システム

【課題】移動しながら移動被写体を撮影し、簡単なシステム構成で移動被写体の移動速度を算出できるようにする。
【解決手段】撮影システムは、該撮影システムと移動被写体とが静止被写体に対して移動している状態において、撮影範囲内に設けられた複数の測距エリアのそれぞれにおいて被写体距離を測定する測距手段117,101と、該複数の測距エリアのうち移動被写体を含む第1の測距エリアを設定する第1の設定手段301,101と、複数の測距エリアのうち静止被写体を含む第2の測距エリアを設定する第2の設定手段302,101と、第1の時刻に第1および第2の測距エリアにて測定された被写体距離の差に対する第2の時刻に第1および第2の測距エリアにて測定された被写体距離の差の変化量に基づいて、移動被写体の移動速度を算出する算出手段101とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距機能を有する撮影システムに関し、特にマラソン中継に好適な撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マラソン中継においては、ランナーの走行速度の測定および表示が望まれている。特許文献1,2には、被写体距離を算出する測距機能を利用して移動被写体の移動速度を測定する撮影システムが開示されている。また、特許文献3には、撮影システムが自車両に搭載されて移動している状態で該自車両の走行速度の情報と互いに異なる時刻で取得された他車両の撮影画像とを用いて、該他車両の走行速度を測定する撮影システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−27321号公報
【特許文献2】特開2007−192730号公報
【特許文献3】特開2003−149256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、撮影システムが移動している状態で移動被写体の絶対速度(対地速度)を正確に求めるためには、撮影システムの絶対速度を検出する必要がある。しかも、撮影システムが有する測距情報から得られる撮影システムと移動被写体との相対速度から移動被写体の絶対速度を求める必要がある。特許文献1,2にて開示された撮影システムでは、相対速度を算出することができるだけであり、絶対速度を算出することはできない。
また、特許文献3にて開示された撮影システムでは、該撮影システムが搭載されている自車両の走行速度の情報を取り込む必要がある。例えば、マラソン中継においては撮影システムが搭載された中継車の走行速度の情報と撮影システムにより得られる測距情報(被写体距離情報)とを用いてランナーの絶対速度を演算することになる。しかし、これでは撮影システムが大型化する。
【0005】
本発明は、移動しながら移動被写体の撮影を行い、かつ簡単なシステム構成で移動被写体の移動速度を算出できるようにした撮影システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての撮影システムは、レンズ装置と該レンズ装置を用いて撮影を行うカメラとを含む。撮影システムは、該撮影システムおよび移動被写体が静止被写体に対して移動している状態において、該撮影システムの撮影範囲内に設けられた複数の測距エリアのそれぞれにおいて被写体距離を測定する測距手段と、該複数の測距エリアのうち移動被写体を含む第1の測距エリアを設定する第1の設定手段と、該複数の測距エリアのうち静止被写体を含む第2の測距エリアを設定する第2の設定手段と、第1の時刻に第1および第2の測距エリアにてそれぞれ測距手段により測定された被写体距離の差に対する第2の時刻に第1および第2の測距エリアにてそれぞれ測定された被写体距離の差の変化量に基づいて、移動被写体の移動速度を算出する算出手段とを有することを特徴とする。
【0007】
なお、上記測距手段と算出手段を含むレンズ装置も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移動しながら移動被写体の撮影を行う撮影システムにおいて、システムを複雑化したり大型化したりすることなく、移動被写体の移動速度(絶対速度)を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1である撮影システムの構成を示すブロック図。
【図2】実施例1におけるAFセンサの配置例を示す図。
【図3】実施例1における動作を示すフローチャート。
【図4】実施例1の撮影システムのマラソン中継での使用例を示す図。
【図5】実施例1の撮影システムをマラソン中継で使用したときの表示部の表示例を示す図。
【図6】実施例1における静止枠操作部の構成を示す図。
【図7】本発明の実施例2である撮影システムの動作を示すフローチャート。
【図8】実施例2の撮影システムをマラソン中継で使用したときの表示部の表示例を示す図。
【図9】本発明の実施例3である撮影システムの動作を示すフローチャート。
【図10】実施例3の撮影システムをマラソン中継で使用したときの表示部の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1には、本発明の実施例1である撮像システムの構成を示している。図1において、1はレンズ装置、2はカメラである。3はユーザがレンズ装置の焦点調節操作を行うためのフォーカス操作装置としてのフォーカスデマンドである。4はユーザがレンズ装置のズーム操作を行うためのズーム操作装置としてのズームデマンドである。
レンズ装置1は、以下のように構成されている。101はレンズ装置1の制御を行うレンズ制御マイクロコンピュータ(以下、レンズ制御マイコンという)である。102はズームデマンド4からの操作信号が入力されるデマンドインターフェース(IF_A)である。103はフォーカスデマンド3からの操作信号が入力されるデマンドインターフェース(IF_B)である。
104はフォーカスレンズであり、105はフォーカスレンズ104を光軸方向に移動させるフォーカスモータである。106はフォーカスモータ105を駆動するFドライバである。107はフォーカスレンズ104の光軸方向の位置を検出するF位置検出部である。
108はズームレンズであり、109はズームレンズ108を光軸方向に移動させるズームモータである。110はズームレンズ108を駆動するZドライバである。111はズームレンズ108の光軸方向の位置を検出するZ位置検出部である。
112はアイリス(絞り)であり、113はアイリス112を動作させるアイリスモータである。114はアイリスモータ113を駆動するIドライバである。115はアイリス112の開閉方向の動作位置を検出するI位置検出部である。フォーカスレンズ104、ズームレンズ108およびアイリス112により、撮影光学系が構成される。
116はフォーカスレンズ104、ズームレンズ108およびアイリス112を通過した光束の一部を分岐させる分岐光学系である。117は分岐光学系116にて分岐した光束が入射する焦点検出ユニットである。該焦点検出ユニット117は、位相差検出方式により、撮影範囲内に設けられた複数の焦点検出エリア(以下、測距エリアという)のそれぞれに含まれる被写体に対する撮影光学系の焦点状態(デフォーカス量)に応じた位相差を示す信号を出力する。118は焦点情報演算部であり、焦点検出ユニット117から出力された信号により示される各測距エリアでの位相差に基づいて該測距エリアでの撮影光学系のデフォーカス量を演算し、レンズ制御マイコン101に出力する。
【0012】
カメラ2において、201はレンズ制御マイコン101と通信を行うとともに、カメラ2の制御を行うカメラ制御マイクロコンピュータ(以下、カメラ制御マイコンという)である。202はレンズ装置1内の分岐光学系116を透過した光束により形成された被写体像を光電変換するCCDセンサ又はCMOSセンサにより構成される撮像素子(以下、CCDという)である。
203はCCD202からの撮像信号に対して各種処理を行うことにより映像信号を生成する映像信号処理部である。204は映像信号処理部203にて生成された映像信号をカメラ2の外部に出力する映像信号出力部である。
205は枠情報重畳部であり、映像信号処理部203にて生成された映像信号に対して、レンズ装置1からカメラ制御マイコン201を介して入力される測距枠を重畳するとともに、該測距枠の位置情報を映像信号に付加する。測距枠は、焦点検出ユニット117にて設定された測距エリアの外周を囲む表示枠である。206は枠情報重畳部205にて測距枠が重畳された映像信号を表示するビューファインダ等の表示部である。以下の説明において、測距エリアおよびこれを囲む測距枠をまとめて測距枠という。
【0013】
フォーカスデマンド3において、301はAF枠設定部であり、ユーザの操作に応じて、複数の測距枠のうちオートフォーカス(AF)動作を行う合焦目標測距枠としてのAF枠(第1の測距エリア)を設定する。302は静止枠設定部であり、複数の測距枠のうち静止被写体を含む測距枠(第2の測距エリア:以下、静止枠という)をユーザの操作に応じて設定(指定)する。AF枠設定部301および静止枠設定部302からは、ユーザの操作に応じたAF枠の設定情報および静止枠の設定情報がそれぞれ出力される。
303はAF枠設定部301からのAF枠の設定情報および静止枠設定部302からの静止枠の設定情報を所定の伝送フォーマットに加工してレンズ装置1に出力するデマンドIF部である。レンズ制御マイコン101は、撮影画面のうち、AF枠の設定情報および静止枠の設定情報のそれぞれに応じた位置にAF枠および静止枠を設定する。AF枠設定部301とレンズ制御マイコン101により第1の設定手段が構成される。また、静止枠設定部302およびレンズ制御マイコン101により第2の設定手段が構成される。
なお、フォーカスデマンド3には、ユーザがピントを手動で調節するための不図示のマニュアルフォーカス操作部も設けられている。
被写体からレンズ装置1の撮影光学系に入射して分岐光学系116に到達した光束は、該分岐光学系116を透過する光束と該分岐光学系116で反射する光束とに分割される。分岐光学系116を透過した光束は、CCD202上に被写体像を形成する。分岐光学系116で反射された光束は、レンズ装置1内においてCCD202と共役な位置に設けられた焦点検出ユニット117に入射する。
焦点検出ユニット117は、複数の測距エリアに対応して設けられた不図示の複数対の二次結像レンズと、図2に示す位相差センサ120とを含む。位相差センサ120上には、複数の測距枠に対応した複数対のラインセンサ(光電変換素子列)121が設けられている。
分岐光学系116で反射した光束のうち各測距枠の光束は、その測距枠に対して設けられた一対の二次結像レンズによってさらに2つに分割される。該分割された2つの光束は、当該測距枠に対して設けられた一対のラインセンサ121上に2つ被写体像(以下、2像という)を形成する。該一対のラインセンサ121は、これら2像を光電変換して2つの像信号を出力する。該2つの像信号は、当該測距枠に含まれる被写体に対する撮影光学系の焦点状態に応じた位相差を有する。
撮影光学系が合焦状態にある場合は、2像間の間隔に相当する位相差は特定値を示し、いわゆる前ピンの場合は位相差は該特定値よりも小さくなる。また、いわゆる後ピンの場合は位相差が特定値よりも大きくなる。このように、焦点検出ユニット117(AFセンサ120)は、レンズ装置1に入射した光束により形成された2像間の位相差を検出する機能を有する。
各対のラインセンサ121からの2つの像信号は、焦点検出演算部118に入力される。焦点検出演算部118は、2つの像信号に対する相関演算を行い、像信号間の位相差を算出し、さらに位相差に基づいて撮影光学系のデフォーカス量を算出する。このようにして、AFセンサ120に設けられた複数対のラインセンサ121に対応する複数のデフォーカス量が算出される。算出された複数のデフォーカス量は、レンズ制御マイコン101に入力される。
レンズ制御マイコン101は、AF枠において算出されたデフォーカス量に基づいて、該AF枠に含まれる被写体に対して撮影光学系の合焦状態を得るためのフォーカスレンズ104の移動量(移動方向を含む)を算出する。そして、該移動量だけフォーカスレンズ104を移動させる(すなわち、フォーカス制御を行う)ことで、AF枠に含まれる被写体に対する合焦状態を得ることができる。レンズ制御マイコン101は、フォーカス制御手段に相当する。
また、レンズ制御マイコン101は、各測距枠に対して得られたデフォーカス量とフォーカスレンズ104の位置とズームレンズ108の位置とに基づいて、各測距点に含まれる被写体までの距離(被写体距離)を算出する。焦点検出ユニット117、焦点検出演算部118およびレンズ制御マイコン101により測距手段が構成される。
さらに、レンズ制御マイコン101は、算出手段としても機能し、AF枠での被写体距離と静止枠での被写体距離との差を互い異なる2時刻において算出し、該2時刻間での被写体距離の差の変化量に基づいてAF枠に含まれる移動被写体の移動速度を算出する。すなわち、第1の時刻において測定されたAF枠での被写体距離と静止枠での被写体距離との差に対する第2の時刻において測定されたAF枠での被写体距離と静止枠での被写体距離との差の変化量に基づいて移動被写体の移動速度を算出する。
【0014】
次に、レンズ制御マイコン101で行われる処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。この処理は、レンズ制御マイコン101内に格納されたコンピュータプログラムに従って行われる。また、ここでは、撮影システムが車両に搭載される等して移動している状態で撮影画面内には撮影システムとともに移動する移動被写体と静止被写体とが存在し、移動被写体に対してAFによりピントを合わせながら撮影を行う場合について説明する。
ステップS301にてレンズ装置1の電源が投入されることにより、レンズ制御マイコン101は処理を開始し、ステップS304に進む。レンズ制御マイコン101は、電源が遮断(OFF)されるまで処理を繰り返し行う(S302,S303)。
ステップS304では、レンズ制御マイコン101は、フォーカスデマンド3に設けられたAF枠設定部301からのAF枠の設定情報に応じてAF枠を設定する。
ステップS305では、レンズ制御マイコン101は、設定したAF枠の位置情報をカメラ制御マイコン201に送信する。カメラ制御マイコン201は、AF枠の位置情報に応じて枠情報重畳部205にてAF枠を映像信号処理部203で生成された映像信号に重畳する。これにより、AF枠を含む映像信号が表示部206にて表示される。
【0015】
次にステップS306では、レンズ制御マイコン101は、焦点情報演算部118で得られた各測距枠でのデフォーカス量の情報(デフォーカス情報)を取り込む。さらに、ステップS307およびS308では、レンズ制御マイコン101は、F位置検出部107およびZ位置検出部111から得られるフォーカスレンズ104およびズームレンズ108の位置の情報(フォーカス位置情報およびズーム位置情報)を取り込む。
そして、ステップS309では、レンズ制御マイコン101は、これらデフォーカス情報、フォーカス位置情報およびズーム位置情報に基づいて、各測距枠での被写体距離を算出する。
さらに、ステップS310では、レンズ制御マイコン101は、AF枠での被写体距離に基づいて、合焦状態を得るためのフォーカスレンズ104の目標駆動量を算出し、Fドライバ106を介してフォーカスレンズ104を目標駆動量だけ移動させる。
【0016】
次に、ステップS311では、レンズ制御マイコン101は、フォーカスデマンド3に設けられた静止枠設定部302を通じて静止枠の設定情報が入力されたか否かを判断する。静止枠の設定情報が入力されていない場合にはステップS302に戻る。静止枠の設定情報が入力された場合にはステップS312に進む。
ステップS312では、レンズ制御マイコン101は、静止枠の設定情報に応じて静止枠を設定する。そして、ステップS313では、レンズ制御マイコン101は、設定した静止枠の位置情報をカメラ制御マイコン201に送信する。カメラ制御マイコン201は、静止枠の位置情報に応じて枠情報重畳部205にて静止枠を映像信号処理部203で生成された映像信号に重畳する。これにより、静止枠を含む映像信号が表示部206にて表示される。
【0017】
次にステップS314では、レンズ制御マイコン101は、静止枠での被写体距離とAF枠での被写体距離との差を演算し、静止枠に含まれる静止被写体とAF枠に含まれる移動被写体との間の相対距離を算出する。
そしてステップS315では、レンズ制御マイコン101は、ステップS314で算出された相対距離の時間経過に伴う変化(以下、相対距離の時間変化という)を求める。言い替えれば、互いに異なる2時刻で算出された相対距離の差を算出する。これにより、AF枠に含まれる移動被写体の移動速度としての絶対速度(対地速度)を求めることができる。
ステップS316では、レンズ制御マイコン101は、ステップS315で求めた絶対速度の情報をレンズ装置1の外部に出力する。該絶対速度の情報は、カメラ2にて映像信号に重畳されて表示部206に表示されたり、不図示の外部装置に伝達されたりする。その後、レンズ制御マイコン101は、ステップS302に戻って処理を繰り返す。
本実施例の撮影システムの使用例を図4および図5を用いて説明する。図4には、撮影システムをマラソン中継にて使用する例を示している。中継車がランナー群の前方を、該ランナー群と同じ方向に概ね同じ速度で走行しながらランナー群を撮影している。このときの撮影画面を図5に示す。ある時刻t1での撮影画面を(A)に示し、その後の時刻t2での撮影画面を(B)に示す。
【0018】
ユーザ(撮影者)は、フォーカスデマンド3のAF枠設定部301を通じてAF枠を選択する。図5の例では撮影画面の中央のランナーを含むAF枠が選択されている。その後、ユーザは、静止枠設定部302を必要に応じて操作する。
静止枠設定部302の構成例を図6に示す。ユーザは、まず表示・消去入力部304を操作して、カメラ2の表示部206に静止枠を表示させる。次に、枠移動操作部305を操作して静止被写体を含むように静止枠を移動させた後、設定確定操作部306にて静止枠の確定操作を行う。この一連の操作を行った状態が図5(A)に示されている。
レンズ制御マイコン101は、互いに異なる時刻t1(第1の時刻),t2(第2の時刻)のそれぞれにおいて静止枠での被写体距離とAF枠での被写体距離との差(相対速度)を演算する。そして、時刻t1,t2での相対速度間の差(相対距離の時間変化量)を算出することで、AF枠に含まれる移動被写体の絶対速度を算出する。この絶対速度演算処理は、設定確定操作部306の操作によって静止枠が確定した状態から非確定状態に変更されるまで繰り返される。
なお、絶対速度演算処理は、表示・消去入力部304の操作によって静止枠が消去された時点で解除されてもよいし、枠移動操作部305またはAF枠設定部301の操作によって静止枠またはAF枠が移動した時点で解除されてもよい。
【0019】
また、ズーム操作によって撮影画角が変化すると、各測距枠に含まれる被写体も変化する。このため、設定されていた静止枠での測距対象被写体も変化する。この場合は、絶対速度演算処理を中止して、静止枠の表示を強制的に消去してもよいし、ズーム操作がワイド側に行われた場合であれば画角変化量を用いて静止枠を移動させるべき量の演算を行い、静止枠を該演算結果に従って自動的に移動させるようにしてもよい。
【0020】
さらに、設定された静止枠にて算出される被写体距離の時間変化量が所定値よりも大きい場合に、絶対速度演算処理を中止して、静止枠の表示を強制的に消去してもよい。
【0021】
以上説明したように、本実施例によれば、撮影システム自体が移動している場合でもAF対象である移動被写体を撮影しながらその絶対速度を算出し、表示することができる。しかも、絶対速度を算出するために中継車の速度情報を取り込む必要がないので、システムの複雑化や大型化を回避することができる。
【0022】
なお、本実施例では、フォーカスデマンド3に静止枠設定部302を設けた場合について説明したが、レンズ装置およびカメラとは離れた位置からこれらを遠隔操作する場合には遠隔操作部に静止枠設定部を設けてもよい。また、ユーザが肩に担いで撮影を行う、いわゆるハンディタイプの撮影システムでは、ドライブユニットやカメラに静止枠設定部を設けてもよい。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、各測距枠での被写体距離を算出することにより決定された静止枠の候補を表示部206に表示させ、この表示をもとにユーザが静止枠を選択(設定)する。
【0024】
本実施例におけるレンズ制御マイコン101で行われる処理を図7のフローチャートを用いて説明する。なお、本実施例の撮影システムの構成は、実施例1と同じであり、共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。また、実施例1の図3に示したフローチャートのうち図7のフローチャートと同じ処理を行うステップS301〜S310については説明を省略する。
図7において、ステップS310でのAF処理を終えた後、S402では、レンズ制御マイコン101は、ステップS309で得られた全測距枠の被写体距離について、本ルーチンよりも前のルーチンで取得した被写体距離との差を算出する。すなわち、互いに異なる時刻で取得した被写体距離の差である被写体距離の時間変化量を算出する。
そして、ステップS403では、レンズ制御マイコン101は、次のステップS404にて行われるグルーピング処理が全測距枠について完了したか否かを判断し、まだ完了していない場合はステップS404に進む。完了していれば、ステップS405に進む。
ステップS404では、レンズ制御マイコン101は、ステップS403で算出した被写体距離の時間変化量が互いに近い、つまりは該時間変化量が近似範囲内(所定範囲内)に含まれる2以上の測距枠を同一グループ化するグルーピング処理(分類処理)を行う。そして、ステップS403に戻る。
ステップS405では、レンズ制御マイコン101は、カメラ制御マイコン201に対してグループ表示信号を送信する。カメラ制御マイコン201は、該グループ表示信号に応じて、表示部206に、ステップS404にて求められたグループごとに、同一グループであることを示すためのグループ表示を行う。
例えば、図8(A)、(B)にはそれぞれ、時刻t1と時刻t2での撮影画面と各測距枠での被写体距離とを示している。図8(C)には、時刻t1と時刻t2での各測距枠での被写体距離の差(被写体距離の時間変化量)を示しており、被写体距離の時間変化量が「0」のグループと「5」のグループとが生成されている。この例では、上記近似範囲を「1」としている。
「0」のグループは、撮影システムとともに移動する移動被写体を含む測距枠のグループである。一方、「5」のグループは、静止被写体を含む測距枠のグループである。
そして、表示部206には、これら2つのグループを示すためのグループ表示がなされる。図8(C)では、「0」のグループに一重枠を表示し、「5」のグループに二重枠を表示している。なお、AF枠については、他の測距枠との違いを識別できるように該他の測距枠とは異なる枠表示を行う。なお、グループ表示は、上述したように枠の数や太さを異ならせて行ってもよいし、色を異ならせて行ってもよい。
「5」のグループに含まれる8つの測距枠は、図6に示した枠移動操作部305の操作(選択操作)を通じて静止枠として選択可能な静止枠の候補枠である。ユーザは、枠移動操作部305を操作して候補枠の中から1つの静止枠を選択し、設定確定操作部306を操作して静止枠を確定する。
次にステップS406では、レンズ制御マイコン101は、上述した静止枠の設定操作が行われたか否かを判断し、行われた場合はステップS407に進み、行われていない場合はステップS302に戻る。
ステップS407では、レンズ制御マイコン101は、図3のステップS314およびステップS315にて説明した処理によってAF枠に含まれる移動被写体の絶対速度を算出する。
そして、ステップS408では、レンズ制御マイコン101は、ステップS407で求めた絶対速度の情報をレンズ装置1の外部に出力する。該絶対速度の情報は、カメラ2にて映像信号に重畳されて表示部206に表示されたり、不図示の外部装置に伝達されたりする。その後、レンズ制御マイコン101は、ステップS302に戻って処理を繰り返す。
本実施例によれば、静止枠の選択候補がグルーピングされて表示されるので、ユーザによる静止枠の選択操作を容易に行わせることができる。
なお、本実施例では、測距枠を常に表示し続け、絶対速度演算処理も繰り返し行い続ける場合について説明したが、例えば図6に示した表示・消去入力部304の「表示」の選択操作が行われた場合にのみ絶対速度演算処理を行うようにしてもよい。すなわち、表示・消去入力部304にて「表示」が選択されていれば、図7のステップS401〜S409の処理を行い、「消去」が選択されていればこの処理を行わないようにしてもよい。
また、本実施例では、最終的な静止枠の選択をユーザが行う場合について説明したが、レンズ制御マイコン101が被写体距離の時間変化量に基づいて自動的に静止枠を設定し、表示部206に該静止枠のグループを表示してもよい。例えば、被写体距離の時間変化量(互いに異なる2時刻で測定された被写体距離の差)が所定値(例えば、「2」)より大きい測距枠を、自動的に静止枠として設定してもよい。
また、図8には、被写体距離の時間変化量が「0」のグループと「5」のグループのみを示し、「5」のグループを静止枠グループとした場合について説明した。しかし、実際の撮影では、被写体距離の時間変化量が「5」のグループだけでなく、「10」や「3」や「−8」等のグループを含む複数の静止枠候補グループが混在することが多い。このような場合は、静止枠候補グループのうち最も多くの数の測距枠を静止枠グループとして設定するようにしてもよい。この場合において、AF枠が含まれるグループは移動被写体とほぼ同じ速度で移動しているので、静止枠候補グループから除外してもよい。さらに、図4や図5に示す撮影では静止被写体は後方に流れていくので、被写体距離の時間変化量が正であるグループの中で静止枠グループを判定してもよい。
【実施例3】
【0025】
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例では、ユーザが設定した静止枠で互いに異なる2時刻で得られる被写体距離の差に不連続な変化が生じた場合、すなわち静止被写体が測距対象でなくなった場合に、他の測距枠で得られる被写体距離の差を用いて移動被写体の絶対速度を算出する。
本実施例におけるレンズ制御マイコン101で行われる処理を図9のフローチャートを用いて説明する。なお、本実施例の撮影システムの構成は、実施例1と同じであり、共通する構成要素には実施例1と同符号を付す。また、実施例1の図3に示したフローチャートのうち図9のフローチャートと同じ処理を行うステップS301〜S313については説明を省略する。図10には、本実施例の撮影システムの使用例を示している。
ステップS313にて静止枠の設定および表示を完了すると、ステップS502において、レンズ制御マイコン101は、ステップS309で得られた全測距枠の被写体距離について、本ルーチンよりも前のルーチンで取得した被写体距離との差を算出する。すなわち、互いに異なる時刻で取得した被写体距離の差である被写体距離の時間変化量を算出する。
そして、ステップS503では、レンズ制御マイコン101は、静止枠における被写体距離の時間変化量と等しい値又はこれと近似する値とみなせる被写体距離の時間変化量が得られた測距枠(以下、近似測距枠という)を検索し、該近似測距枠を記憶する。なお、「等しい値又はこれと近似する値とみなせる」とは、「所定範囲内にある」と言い替えることが可能である。
さらに、ステップS504では、レンズ制御マイコン101は、該近似測距枠を表示部206に表示させる。この状態を、図10(A)に示す。図10(A)では、ユーザによって左中央の測距枠が静止枠に設定された後、該静止枠と等しい又は近似する被写体距離の時間変化量が得られた測距枠(右側の3つの測距枠)を候補枠として表示部206に表示する。なお、候補枠は、AF枠および静止枠とは別の測距枠であることを明示できるように表示するとよい。
そして、ステップS505では、レンズ制御マイコン101は、静止枠で得られた被写体距離の時間変化量に不連続が生じたか否かを判定する。不連続が生じていない場合にはステップS509に進み、不連続が生じた場合にはステップS506に進む。
ステップS509では、レンズ制御マイコン101は、図3のステップS314およびステップS315にて説明した処理によってAF枠に含まれる移動被写体の絶対速度を算出する。
そして、ステップS510では、レンズ制御マイコン101は、ステップS509で求めた絶対速度の情報をレンズ装置1の外部に出力する。該絶対速度の情報は、カメラ2にて映像信号に重畳されて表示部206に表示されたり、不図示の外部装置に伝達されたりする。その後、レンズ制御マイコン101は、ステップS302に戻って処理を繰り返す。
一方、ステップS506では、レンズ制御マイコン101は、ステップS503で記憶された近似測距枠があるか否かを判断し、近似測距枠があればステップS508に進み、近似測距枠がなければステップS507に進む。
ステップS508では、レンズ制御マイコン101は、近似測距枠を静止枠として設定し直すように変更および表示処理を行う。そして、ステップS509では、レンズ制御マイコン101は、先に説明したようにAF枠に含まれる移動被写体の絶対速度を算出し、ステップS510にて絶対速度を表示部206に出力する。この状態を、図10(B)に示す。図10(B)の例では、ユーザが設定した静止枠での被写体距離の時間変化量が時刻t1では「5」であったものが、時刻t2では「∞」となり、被写体距離の時間変化量に不連続な変化が発生している。レンズ制御マイコン101は、この時点で近似測距枠として記憶されている右側の3つの測距枠のうち中央の測距枠を新たな静止枠として設定(再設定)する。
なお、記憶された近似測距枠が複数ある場合は、最も長い期間にわたって近似測距枠として記憶されていた測距枠を新たな静止枠として設定することが好ましい。
ステップS511では、レンズ制御マイコン101は、ユーザが設定した静止枠を強制解除し、ステップS302に戻る。
本実施例によれば、ユーザが設定した静止枠に含まれる被写体が変化した場合でも、他の静止枠候補である近似測距枠に静止枠を設定し直すことが可能である。このため、静止枠での被写体距離とAF枠での被写体距離とを用いた移動被写体の絶対速度の算出の機会を増やすことができる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
例えば上記各実施例では、測距手段、設定手段および算出手段に相当する焦点検出ユニット117およびレンズ制御マイコン101をレンズ装置1に設けた場合について説明した。しかし、測距手段、設定手段および算出手段はそれぞれ、撮影システムを構成するレンズ装置、カメラおよびデマンドのうちいずれに設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
移動しながら移動被写体の撮影を行い、かつ簡単なシステム構成で移動被写体の移動速度を算出する撮影システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 レンズ装置
2 カメラ
3 フォーカスデマンド
101 レンズ制御マイコン
117 焦点検出ユニット
206 表示部
302 静止枠設定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ装置と該レンズ装置を用いて撮影を行うカメラとを含む撮影システムであって、
該撮影システムおよび移動被写体が静止被写体に対して移動している状態において、該撮影システムの撮影範囲内に設けられた複数の測距エリアのそれぞれにおいて被写体距離を測定する測距手段と、
前記複数の測距エリアのうち前記移動被写体を含む第1の測距エリアを設定する第1の設定手段と、
前記複数の測距エリアのうち前記静止被写体を含む第2の測距エリアを設定する第2の設定手段と、
第1の時刻に前記第1および第2の測距エリアにてそれぞれ前記測距手段により測定された前記被写体距離の差に対する第2の時刻に前記第1および第2の測距エリアにてそれぞれ測定された前記被写体距離の差の変化量に基づいて、前記移動被写体の移動速度を算出する算出手段とを有することを特徴とする撮影システム。
【請求項2】
前記第2の設定手段は、ユーザによる選択操作に応じて前記第2の測距エリアを設定することを特徴とする請求項1に記載の撮影システム。
【請求項3】
前記第2の設定手段は、前記複数の測距エリアのうち、互いに異なる時刻に前記測距手段により測定された前記被写体距離の差が所定値よりも大きい測距エリアを、前記選択操作によって前記第2の測距エリアとして選択可能な測距エリアであることを表示することを特徴とする請求項2に記載の撮影システム。
【請求項4】
前記第2の設定手段は、前記複数の測距エリアのうち、互いに異なる時刻に前記測距手段により測定された前記被写体距離の差が所定値よりも大きい測距エリアを、前記第2の測距エリアとして自動的に設定することを特徴とする請求項1に記載の撮影システム。
【請求項5】
前記算出手段は、前記第2の測距エリアにて互いに異なる時刻に前記測距手段より測定された前記被写体距離の差に不連続な変化が生じた場合は、前記複数の測距エリアのうち他の測距エリアにて前記互いに異なる時刻に前記測距手段により測定され、前記第2の測距エリアにて測定された前記被写体距離の差に対して所定範囲内にある被写体距離の差を用いて前記移動被写体の移動速度を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の撮影システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の撮影システムに含まれるレンズ装置であって、
前記測距手段および前記算出手段を有することを特徴とするレンズ装置。
【請求項7】
前記第1の測距エリアに含まれる前記移動被写体に対してフォーカス制御を行うフォーカス制御手段を有することを特徴とする請求項6に記載のレンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−44970(P2011−44970A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192707(P2009−192707)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】