説明

擬ポリロタキサンおよびポリロタキサンの製造方法

【課題】 擬ポリロタキサンを固相で溶媒を使うことなく製造する新規な方法およびの擬ポリロタキサンからポリロタキサンを製造する方法の提供を目的とする。
【解決手段】 環状分子構造を有する化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む固相中で両化合物を加圧混合して前記擬ポリロタキサンを生成する工程(1)を含むことを特徴とする擬ポリロタキサンの製造方法およびその擬ポリロタキサンからポリロタキサンを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬ポリロタキサンおよびポリロタキサンの製造方法に関し、特に、溶媒を用いることなく固相で行うことができる擬ポリロタキサンおよびポリロタキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリロタキサンが、その分子構造の特異性と種々の特性を示すことから、注目を集めている。このポリロタキサンは、環状化合物(輪分子)の分子環の空孔に、鎖状化合物(軸分子)の分子鎖が貫通し、その鎖状化合物の分子鎖の両末端に嵩高い末端封鎖基を有する構造のものである。例えば、輪分子としてα−シクロデキストリン、軸分子としてポリエチレングリコールを用いて形成されるポリロタキサンは、コンタクトレンズ等のソフトマテリアル、分子スイッチや分子ゲートなどの分子デバイス、金属イオンなどに対するセンサー等への利用も期待されている。
【0003】
このポリロタキサンの製造方法として、従来、軸分子が輪分子を貫通した中間体である擬ポリロタキサンを製造し、次に、この擬ポリロタキサンの軸分子の両端に嵩高い置換基を付ける方法、嵩高い置換基を両末端に持つ軸分子の周りに輪分子を巻き付ける方法などの各種の方法が知られている。また、図5に示すように、水溶媒中で軸分子となるポリテトラヒドロフランと、輪分子となるα−シクロデキストリン(α−CD)とを、超音波を照射しながら混合し、沈殿する生成物として擬ポリロタキサンを得た後、その擬ポリロタキサンを、有機溶媒中、適当な末端封鎖剤で処理することで、ポリロタキサンを製造する方法が知られている。さらに、最近、ポリエチレングリコールとシクロデキストリンの混合物を、溶媒を用いることなく室温で放置すると、極めてゆっくりと反応が起こり、シクロデキストリンの分子環中をポリエチレングリコールが貫通した構造を持つ擬ポリロタキサンが生成することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、これらの方法は、擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンの収率が低い、あるいは反応速度が非常に遅い、などの問題がある。そのため、従来の方法は、擬ポリロタキサンおよびポリロタキサンの製造方法として、実験室的には利用できるが、商用化等によって現実に大量使用される擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンの製造方法としては実用的でない方法であった。
【0005】
ところで、一般に、化学反応、物質合成などの方法において、溶媒(溶剤)を用いないsolvent−freeな合成・製造法(または固相合成、固相製造)が、環境保護、グリーンケミストリーの観点から期待されている。そこで、ポリロタキサンの原料となる擬ポリロタキサンを固相で溶媒を用いることなく製造する方法は、この観点から有用である。
【非特許文献1】A.Harada,M.Okada,Y.Kawaguchi,Chem.Lett.,34,542(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、溶媒を用いることなく、固相状態で擬ポリロタキサンを製造することができる擬ポリロタキサンの製造方法、およびその擬ポリロタキサンからポリロタキサンを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、環状分子構造を有する化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む固相中で両化合物を加圧混合して前記擬ポリロタキサンを生成する工程(1)を含むことを特徴とする。
【0008】
この擬ポリロタキサンの製造方法では、化合物Aと、化合物Bとを含む固相中で両化合物を加圧混合することによって、溶媒を用いることなく、化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを得ることができる。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の擬ポリロタキサンの製造方法において、前記加圧混合は、前記化合物Aと前記化合物Bとを含む混合物を、2つの面の間に挟持して加圧混練する処理であることを特徴とする。
【0010】
この擬ポリロタキサンの製造方法では、化合物Aと化合物Bとを含む混合物を、2つの面の間に挟持して加圧混練することによって、溶媒を用いることなく、化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを得ることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の擬ポリロタキサンの製造方法において、前記加圧混合は、前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む混合物を、乳鉢中で、乳棒を用いて加圧混練する処理であることを特徴とする。
【0012】
この擬ポリロタキサンの製造方法では、化合物Aと、化合物Bとを含む混合物を、乳鉢中で、乳棒を用いて加圧混練する処理によって、化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを、溶媒を用いることなく固相で製造することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法において、前記化合物Bが、ポリエチレングリコールまたはポリテトラヒドロフランであることを特徴とする。
【0014】
この擬ポリロタキサンの製造方法では、化合物Aの分子環内を、化合物Bであるポリエチレングリコールまたはポリテトラヒドロフランの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを、溶媒を用いることなく固相で製造することができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法において、前記化合物Aが、シクロデキストリンであることを特徴とする。
【0016】
この擬ポリロタキサンの製造方法では、シクロデキストリンの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを、溶媒を用いることなく固相状態で製造することができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法によって得られる擬ポリロタキサンと、前記化合物Aの分子環の空孔径より嵩高い置換基を有する末端封鎖剤とを反応させて前記擬ポリロタキサンの末端封鎖を行う工程を含むことを特徴とするポリロタキサンの製造方法である。
【0018】
このポリロタキサンの製造方法では、前記擬ポリロタキサンの製造方法によって得られる擬ポリロタキサンと、前記化合物Aの分子環の空孔径より嵩高い置換基を有する末端封鎖剤とを反応させて前記擬ポリロタキサンの末端封鎖を行うことによって、ポリロタキサンを製造することができる。
【0019】
本発明において、ポリロタキサンとは、環状化合物(輪分子)の分子環の空孔に、鎖状化合物(軸分子)の分子鎖が貫通し、その軸分子の分子鎖の両末端に嵩高い末端封鎖基を有する超分子構造の高分子を言い、擬ポリロタキサンとは、軸分子の両末端が末端封鎖基によって封鎖されていない高分子を言う。
【発明の効果】
【0020】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法によれば、溶媒を用いることなく、固相状態で擬ポリロタキサンを製造することができる。そのため、本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、各種の分野で利用が期待されているポリロタキサンの原料となる擬ポリロタキサンを、溶媒(溶剤)を用いないsolvent−freeな合成・製造法(または固相合成、固相製造)によって製造することが可能となり、環境保護、グリーンケミストリーの観点から有用である。しかも、軸分子を輪分子の分子環内を貫通させて擬ポリロタキサンを生成する反応を、加圧混合という物理的な方法によって、容易に、かつ飛躍的に高い速度で高収率で行うことができるため、実用上の価値が高い。
【0021】
また、本発明のポリロタキサンの製造方法によれば、前記方法によって得られた擬ポリロタキサンの軸分子末端を嵩高い末端封鎖基で末端封鎖することでポリロタキサンを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、環状分子構造を有する化合物Aと、鎖状分子構造を有する化合物Bとを反応させて、環状分子構造を有する化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを生成する工程(1)を含む方法である。
【0023】
化合物Aは、環状分子構造を有するものであり、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通する分子環を有するものである。この化合物Aとして、例えば、複数のα−グルコピラノース基がα−1,4−グリコシド結合によって環状につながって分子環を形成した構造を有するシクロデキストリン、あるいはなどを用いることができる。このシクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン(空孔径:4.5Å)、β−シクロデキストリン(空孔径:7.0Å)、γ−シクロデキストリン(空孔径:8.5Å)、などが挙げられる。これらのシクロデキストリンは、シクロデキストリンが有する官能基の一部または全部が置換されたもの、例えば、水酸基の一部または全部が置換基で置換されたものでもよい。置換基としては、特に制限されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。
【0024】
この置換基は、擬ポリロタキサンが形成された後、軸分子となる化合物Bが分子末端に有する末端反応基と反応せず、また用いる末端封鎖剤の末端封鎖基とも反応しない基であることが、得られる擬ポリロタキサンの収率、純度、性質などの観点から、有利である。例えば、化合物Bの末端反応基が、末端封鎖剤であるイソシアネートやハロゲン化アシルを用いて末端封鎖される場合、末端封鎖剤と反応しない基としては、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、シロキシ基、スルホニル基、ホスホニル基等が挙げられ、これらの中でもアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ベンジロキシ基、ジフェニルメトキシ基、トリチルオキシ基、4-メトキシベンジロキシ基、メトキシメトキシ基、1-エトキシエトキシ基、ベンジルオキシメトキシ基、2-トリメチルシリルエトキシ基、2-トリメチルシリルエトキシメトキシ基、フェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基等が挙げられ、これらの中でも、簡便に入手できることから、メトキシ基が特に好ましい。
【0025】
これらの化合物Aは、分子環の空孔径R1が、分子環を貫通する化合物Bの鎖状部分(分子鎖)の鎖長方向に対して直角の方向の大きさ、すなわち、分子軸径R2に対して、R1<R2となるように選択される。
【0026】
化合物Bは、鎖状分子構造を有するものであり、化合物Aの分子環を貫通する鎖状部分(分子鎖)Cを有するものである。この化合物Bの具体例として、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリトリオキサン、ポリ(1,3−ジオキソラン)、ポリ(1,3−ジオキセパン)、ポリシロキサン、末端水酸化ポリブタジエン等の直鎖状ポリマー、また、これらの直鎖状ポリマーの重合(オリゴマー化)物等が挙げられる。そして、化合物Bは、鎖状部分(分子鎖)Cが化合物Aの分子環を貫通して擬ポリロタキサンを形成するため、分子鎖の両末端に、化合物Aの分子環の空孔径R1よりも嵩高くない構造であることが好ましい。これらの中でも、輪分子としてシクロデキストリンを有する擬ポリロタキサンを製造する場合には、ポリテトラヒドロフラン(PTHF)およびポリエチレングリコールが、シクロデキストリンの分子環を貫通して擬ポリロタキサンを形成するために好適である。化合物Bは、数平均分子量(Mn)が、1000〜30000程度のものが、化合物Aの分子環の空孔を貫通した構造体が安定であることから、好適である。
【0027】
本発明の方法は、化合物Bの鎖状部分(分子鎖)Cが化合物Aの分子環を貫通した構造を有する擬ポリロタキサンを製造するために、化合物Aと化合物Bとを含む混合物を加圧混合する方法である。
加圧混合される混合物において、化合物Aと化合物Bの混合割合は、化合物A/化合物Bがモル比で3〜20の割合が好ましく、特に、5〜10の割合が好ましい。この混合割合を調整することによって、得られる擬ポリロタキサンにおける化合物B(軸分子)によって貫通された化合物A(輪分子)の個数n、および化合物Aによる化合物Bの被覆率θを調整することができる。
【0028】
この加圧混合は、図1に示すように、前記化合物Aと前記化合物Bとを含む混合物Mを、2つの面S1,S2の間に挟持して、片側または両側から加圧するとともに、混合物に混練作用を加えることによって行うことが好ましい。ここで、2つの面S1,S2の形状は、特に制限されず、一方が平面、他面が曲面(球状、ロール状、平面状の面)、あるいは両面が平面、両面が曲面などの、混合物に片側または両側から加圧するとともに、混合物に混練作用を加えることができるものであれば、いずれの形態であってもよい。
【0029】
この加圧混合の具体例として、前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む混合物を、瑪瑙、アルミナ等からなる乳鉢中で、乳棒を用いて加圧混練する方法、ボールミル、ニーダー、石臼、カレンダーロール等のローラー、スクリュー、すりつぶし機、ミキサー、混練機等を利用する方法などが挙げられる。
【0030】
加圧混合時の圧力は、特に限定されるものではないが、大気圧を超える圧力を混合物に付加することが好ましい。また、加圧混合中の反応温度としては、特に限定されるものではないが、室温以上が好ましく、加温することで、擬ポリロタキサンの収率および被覆率を向上させることが可能となる。
加圧混合の時間は、特に制限されないが、30分〜2時間程度で十分である。
【0031】
本発明の方法において、化合物Aと化合物Bの混合物を加圧混合する反応について、化合物Aとしてα−CD、化合物BとしてPTHFを用いて擬ポリロタキサンを得る反応の具体例を下記式に示す。
【化1】

【0032】
本発明において、化合物Aと化合物Bの混合物を加圧混合することによって得られる擬ポリロタキサンは、加圧混合後の反応混合物を精製することによって得ることができる。精製は、特に制限されず、カラムクロマトグラフィ、HPLC、再結晶、溶媒洗浄、水洗浄、再沈殿等の方法を適宜採用して行うことができる。
【0033】
また、本発明の方法において、加圧混合の条件(化合物Aと化合物Bの混合割合、加圧混合時の圧力、温度、加圧の方法、時間、装置等)によって、擬ポリロタキサンの1分子において、化合物B(軸分子)によって貫通された化合物A(輪分子)の個数n、および化合物B(軸分子)の分子鎖において、化合物A(輪分子)によって覆われた部分の長さの割合である被覆率θが異なる各種の構造を有する擬ポリロタキサンを得ることができる。例えば、分子量1000〜2000程度の軸分子に対し、10倍当量の輪分子を加えて80℃で30分〜2時間加圧混合すると、軸分子を輪分子が完全に覆った擬ポリロタキサン(θ=107%:軸の末端を超えて輪が入るため、100%以上となる)を得ることができる。
【0034】
また、本発明において、前記の方法によって得られた擬ポリロタキサンの軸分子(化合物B)と、輪分子(化合物A)の分子環の空孔径R1より嵩高い置換基を有する末端封鎖剤とを反応させて前記擬ポリロタキサンの末端封鎖を行うことによって、ポリロタキサンを得ることができる。
【0035】
擬ポリロタキサンの末端封鎖は、擬ポリロタキサンの軸分子(化合物B)の両末端の官能基と末端封鎖剤とを反応させて末端封鎖できる方法であれば、いずれの方法によって行ってもよい。例えば、溶媒中で、擬ポリロタキサンの軸分子の両末端を末端封鎖剤と反応させて末端封鎖する方法、擬ポリロタキサンと末端封鎖剤の固相反応によって末端封鎖する方法等のいずれの方法によって行ってもよい。
【0036】
前記の擬ポリロタキサンと末端封鎖剤とを固相反応させる方法は、擬ポリロタキサンと末端封鎖剤との混合物を加圧混合するのが好ましい。混合手段としては、乳鉢中ですりつぶしながらの混合の他、ボールミル、ニーダー、石臼、ローラー、スクリュー、すりつぶし機、ミキサー、混練機等を利用することができる。圧力としては、特に限定されるものではないが、大気圧を超える圧力を擬ポリロタキサンと末端封鎖剤との混合物に付加することが好ましい。
加圧混合中の反応温度としては、特に限定されるものではないが、室温以上が好ましく、加温することで、ポリロタキサンの収率及びポリマーに対する置換シクロデキストリンの被覆率を向上させることができる。
【0037】
末端封鎖剤としては、軸分子(化合物B)の末端と選択的に反応し、輪分子(化合物A)の空孔径R1よりも嵩高い(R1<R2)基を有する化合物を用いることができる。例えば、イソシアネート、ハロゲン化アシル、酸無水物等が挙げられる。嵩高い基としては、3,5−ジ−t−ブチルフェニルメチル基、3,5−ジメチルフェニルメチル基、3,5−ジニトロフェニルメチル基、4−t−ブチルフェニルメチル基、トリチルメチル基、4−トリチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基等が挙げられる。
【0038】
末端封鎖剤として用いられるイソシアネートの具体例として、4−トリチルフェニルイソシアネート、3,5−ジメチルフェニルイソシアネート、4−フェロセニルフェニルイソシアナート、3,5−ジ−tert−ブチルフェニルイソシアナート等が挙げられ、これらの中でも、4−トリチルフェニルイソシアネートが特に好ましい。また、ハロゲン化アシルとしては、3,5−ジメチル安息香酸クロライド、トリフェニル酢酸クロリド、ジフェニル酢酸クロリド、4−トリチル安息香酸クロリド、3,5−ジ−tert−ブチル安息香酸クロリド、フェロセンカルボニルクロリド等が挙げられる。また、酸無水物としては、前記ハロゲン化アシルとして例示した化合物に対応する酸無水物が挙げられ、具体的には、3,5−ジメチル安息香酸無水物、トリフェニル酢酸無水物、ジフェニル酢酸無水物、4−トリチル安息香酸無水物、3,5−ジ−tert−ブチル安息香酸無水物、フェロセンカルボン酸無水物等が挙げられる。末端封鎖剤の使用量は、軸分子(化合物B)の末端基に対して5〜30当量の範囲が好ましい。
【0039】
末端封鎖剤としてイソシアネートを用いる場合、イソシアネートと前記擬ポリロタキサンとを触媒の存在下で付加反応させることが好ましい。用いる触媒としては、n−ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)、テトラブチル錫、水素化トリブチル錫、トリブチル錫クロリド、トリフェニル錫クロリド、ビス(トリブチル錫)オキシド、トリブチル錫アルコキシド、マレイン酸ジブチル錫、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジクロリド、イミダゾール、シアナミド、トリエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらの触媒は、一種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの触媒の中でも、n−ジブチルスズジラウレートが好ましい。触媒の使用量は、擬ポリロタキサン1molに対して、0.01〜0.1molの割合で使用することが好ましい。
【0040】
末端封鎖剤としてハロゲン化アシルを用いる場合、ハロゲン化アシルと擬ポリロタキサンとを触媒の存在下で反応させることが好ましい。用いる触媒としては、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリブチルアミン、イミダゾール、ピリジン、ピコリン、ルチジン等が挙げられる。これらの触媒の中でも、4−ジメチルアミノピリジンとトリエチルアミンとを併用するのが好ましい。触媒の使用量は、擬ポリロタキサンに対して、3〜15当量の割合で使用することが好ましく、5〜10当量の割合で使用することが更に好ましい。
【0041】
本発明の方法において、擬ポリロタキサンの末端封鎖によってポリロタキサンを得る反応の具体例を下記式に示す。
【化2】

【0042】
以上のようにして得られるポリロタキサンは、その特異な構造に起因する特性を利用して、コンタクトレンズ等のソフトマテリアル、分子スイッチや分子ゲートなどの分子デバイス、金属イオンなどに対するセンサー、バイオセンサー、軟骨組織等の生体組織の代替組織用材料、ドラッグデリバリーシステム、多官能架橋剤、等の広範囲の分野における利用が期待される。
【0043】
なお、本発明は、擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンの製造にとどまらず、さまざまな物質の合成に応用できる可能性がある。例えば、通常の化学反応であるアルコールとイソシアナートの付加反応によるウレタン合成、Diels-Alder反応、さらにはエポキシの開環重合等に適用して、溶媒を用いることなく様々な物質を簡便に得る手法として期待される。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
PM−α−CD490mg(0.360mmol)と、PTHF(Mn=1400)42.0mg(0.0300mmol)とを、メノウ乳鉢に入れ、室温で2時間、乳棒で反応混合物を押し潰すようにして加圧混練した(工程A)。
【0046】
その後、反応混合物に、4−トリチルフェニルイソシアナート217mg(0.600mmol)と、ジ−n−ブチル錫ジラウレート18.0mL(0.0300mmol)とを加え、さらに、1時間、加圧混練した(工程B)。
【0047】
次に、反応混合物を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって精製して、固体状の反応生成物107mgが得られた(収率:43.9%(PTHF基準)。
【0048】
得られた反応生成物のH NMRによる同定結果を下記に示す。この結果から、ポリロタキサンが得られたことが分かった。
【0049】
H NMR(400MHz,CDCl):δ=7.26(m,38H,末端基のArH),4.98(s,6H×4.9,TM−α−CDのC(1)H),4.22(t,4H,−NHCOOCHCHCHCH−),3.86〜3.12(m,TM−α−CDのC(2〜6)HおよびO(2,3,6)CH,PTHFの−CHCHCHCHO−),1.56(s,−CHCHCHCHO−)ppm
【0050】
実施例2〜7
下記表1に示す数平均分子量を有するPTHFを用い、表1に示すPM−α−CD/PTHFの混合割合とした以外は、実施例1と同様にして、メノウ乳鉢中での加圧混練によって、反応を行った。
得られた反応生成物について、反応生成物の収率、PTHF1分子によって貫通されたPM−α−CDの個数n(平均輪導入数)、および軸分子PTHFが輪分子PM−α−CDによって覆われた部分の長さの割合である被覆率θを求めた。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例8
実施例1で得られた擬ポリロタキサン1.57g(0.10mmol)、4−トリチルフェニルイソシアネート1.09g(3.0mmol)およびジブチル錫ジラウレート3.0μL(5.1×10−3mmol)を、乳鉢中、室温で90分間加圧混合した。次に、混合物をクロロホルムに溶解させ、難溶分を濾別後、エーテル中で1回、メタノール中で1回再沈澱させて白色固体状生成物242mg(収率:22%)を得た。生成物の同定結果と以下に示す。また、反応スキームを図2に示す。
1H NMR(270MHz, CDCl3, VT60℃):δ=7.28-7.04(m, 38H, 末端基のArH), 4.91(s, 7.2×6H, PMα-CDのC(1)H), 3.92-3.05(m, PMα-CDのC(2〜6)H及びO(2,3,6)CH3, PTHFの-CH2CH2CH2CH2O-), 1.53(s, 77H, PTHFの-CH2CH2CH2CH2O-)ppm.
13C NMR(CDCl3):δ=130.7, 127.3, 127.1, 100.2, 82.5, 82.2, 81.3, 71.2, 71.0, 61.7, 58.9, 57.7, 26.7, 26.4ppm.
IR(KBr):1736, 1596, 1527cm-1.
GPC(ポリスチレン基準, 溶離液:クロロホルム,UV):Mw/Mn=1.3,Mn=10100(理論値10935)
DSC:Tg=20.9℃,Td=238℃
【0053】
生成物の1H NMRスペクトル中にPTHFおよびPMα-CD由来のピークが存在し、13C NMRスペクトル中に4-トリチルフェニルイソシアネート由来の芳香族炭素のピークが観測され、IRスペクトル中にウレタン結合由来の吸収が観測された。また、GPCで測定したMnが理論値とほぼ一致することから、ポリロタキサンが生成したことが確認された。なお、1H NMRの積分比から、n=7.2、θ=70%であった。
【0054】
実施例9
図3に示すとおり、軸分子の両末端にメチルスルホニル基を有するポリテトラヒドロフラン(MeSOPTHF)と、α−CDとを、実施例1と同様にして、加圧混練して固相反応させて擬ロタキサンを製造した。
【0055】
この固相反応の前後におけるH NMRスペクトルを測定し、固相反応後の擬ポリロタキサンのH NMRスペクトルを図3(a)に、固相反応前のMeSOPTHFのH NMRスペクトルを図3(b)に示す。
【0056】
実施例10
図4に示すとおり、軸分子の両末端にトルエンスルホニル基を有するポリテトラヒドロフラン(Ts−PTHF)と、α−CDとを、実施例1と同様にして、加圧混練して固相反応させて擬ロタキサンを製造した。
【0057】
この固相反応の前後におけるH NMRスペクトルを測定し、固相反応後の擬ポリロタキサンのH NMRスペクトルを図4(a)に、固相反応前のTs−PTHFのH NMRスペクトルを図4(b)に示す。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の方法における加圧混合による擬ポリロタキサンの製造工程を説明する概念図である。
【図2】実施例8におけるポリロタキサンの製造工程の反応スキームを示す図である。
【図3】実施例9における擬ポリロタキサンの製造工程および反応の前後のH NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例10における擬ポリロタキサンの製造工程および反応の前後のH NMRスペクトルを示す図である。
【図5】擬ポリロタキサンの従来の製造方法を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子構造を有する化合物Aの分子環内を、鎖状分子構造を有する化合物Bの鎖状部分が貫通した構造を有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、
前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む固相中で両化合物を加圧混合して前記擬ポリロタキサンを生成する工程(1)を含むことを特徴とする擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項2】
前記加圧混合は、前記化合物Aと前記化合物Bとを含む混合物を、2つの面の間に挟持して加圧混練する処理であることを特徴とする請求項1に記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項3】
前記加圧混合は、前記化合物Aと、前記化合物Bとを含む混合物を、乳鉢中で、乳棒を用いて加圧混練する処理であることを特徴とする請求項2に記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項4】
前記化合物Bが、ポリエチレングリコールまたはポリテトラヒドロフランであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項5】
前記化合物Aが、シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の擬ポリロタキサンの製造方法によって得られる擬ポリロタキサンと、前記化合物Aの分子環の空孔径より嵩高い置換基を有する末端封鎖剤とを反応させて前記擬ポリロタキサンの末端封鎖を行う工程を含むことを特徴とするポリロタキサンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70553(P2007−70553A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261530(P2005−261530)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成17年3月11日に社団法人日本化学会が発行した日本化学会第85春季年会講演予稿集IIにて発表 (2)平成17年3月28日に社団法人日本化学会が開催した日本化学会第85春季年会にて発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】